イラスト/キャラクター:久保川

オープニング

「久しぶりに訪ねておいて不躾なのは承知の上で、あんたに頼みがある」
 開口一番、一二 千志はそう告げた。

 ナラゴニア、《人狼公》リオードルの城。
 千志はそこに当人を訪ねたのだ。
 先般の「0世界大祭」で、人狼公の名のもとに格闘トーナメントが行われたことは記憶に新しい。
 そのまた前年の大祭でリオードルその人と戦った千志は、今年の大会にも出場したのだが……予選で敗れてしまったのだった。
 正確には、自ら負けを認めた。「素手での戦い」と定められていたのに、とっさに能力を使ってしまったため、自身でそう断じたのだ。

「鍛え直してくれねぇか。これは、揺るぎないあんたの強さを見込んでのことだ」

 そして千志はリオードルにそう申し込んだ。
 0世界は平和だ。だが自分はその平穏に浸かっているわけにはいかない。己の意志を貫くため、いつか元の世界へ帰るまで、強くあり続けなければならないのだと――

「だが断る」
「っ!」
 にべもなく、リオードルは応えた。
「正確には、今は無理だ。忙しい。大事な仕事を間近に控えていてな」
 通された部屋で、人狼公は足元に狼犬のひときわ大きな1頭をねそべらせながら、黒光りする銃を丹念に磨いているところだった。
「……おい」
 立ち尽くしている千志を見て、リオードルは息をつく。
「友達の家に遊びに来たら留守だったみたいな顔をするな。俺もおまえを叩きのめしてやれないのは残念だ」
「なんだって」
「おまえは確かに昨年、俺に勝ったな。だが、だからこそ二度目はない。素手だろうと何だろうと、一度戦ったおまえに俺が負けることはない」
「だったら試してみればいい」
「だから今はだめだと言っているのだ。それに、俺は《人狼公》だぞ? 誇り高き狼王の末裔にして、いずれこのナラゴニアの支配者となる男だ。俺からなにかを得ようというのなら、おまえは何を支払う」
「必要なら代償は支払うさ。『喰われる』のと『飼われる』のはごめんだが、それ以外のことなら――」
「大した男だ。おまえが持っているものの何で俺の時間を買えると思う。……だからそういう顔をするなと言うに。ええい、面倒なやつだな」
 リオードルは嘆息まじりに笑った。
「あの花を見ろ。美しかろう」
 部屋に置かれた花瓶を指す。
「……たしかに」
「うむ。あの花が美しいのは、俺やおまえが『この花は美しい』と言っても言わなくても変わりはしない。それはわかるな? そして花は、誰かに美しいと言われることを待ちはしないぞ。言葉にされなくとも本質は変わらないからだ。……見ろ」
 狼犬がむくりと立ち上がると、千志の傍らに歩みより、濡れた鼻ですんすんと嗅ぎはじめた。
「こいつもおまえが気に入っている。第一、俺が認めていない人間がそもそもこの城の門をくぐれると思うか? ……よし、そんなに鍛えてほしくば、俺の仕事を手伝え」
「仕事?」
「張り切り甲斐のある冒険だぞ。ちょうどロックの代わりを探していたところだ。ま、気が乗らなければ無理にとは言わんよ。手合せを先延ばしにするのだから俺なりの埋め合わせだ」
 にやり、とリオードルは笑った。口の端に、牙がのぞく。
「……考えておこう」
 千志のその返答に、リオードルは大声で笑った。
「本当に大物だな、おまえは!」


「失礼します」
 ロックだった。黒翼の武人が、そっと傍らに立つ。
「アリッサ・ベイフルック様がおみえになりました」
「よし。通せ。粗相のないようにな」
「かしこまりました」

  * * *

 そして、後日。
 世界樹調査隊についての布告が出され、人狼公からは、千志もそれに加わるようにと沙汰が届いた。
「俺の傍にいろ」
 リオードルからは、そのように言われている。

ご案内

人狼公を訪ねた千志さんは、「世界樹調査隊」の一員にされてしまいました。

このパーソナルイベントはフリーシナリオ「世界樹調査隊」の一部として行われます。

千志さんは「リオードルの傍にいる」という形で「世界樹調査隊」に加わります(本イベントで選択肢【4】を選んだのと同じですが、同イベントの判定上の人数には数えません)。その前提で、行動方針などをプレイングにお書き下さい。

リオードルに認めてもらえるよう調査隊としての成果が上がるような行動をとってもいいですし、隙を突いてリオードルの背後をとり、屈服させるということも可能かもしれません。

■参考情報


!注意!
こちらは下記のみなさんが遭遇したパーソナルイベントです。

●パーソナルイベントとは?
シナリオやイベント掲示板内で、「特定の条件にかなった場合」、そのキャラクターおよび周辺に発生することがある特別な状況です。パーソナルイベント下での行動が、新たな展開のきっかけになるかもしれません。もちろん、誰にも知られることなく、ひっそりと日常や他の冒険に埋もれてゆくことも……。
※このパーソナルイベントの参加者
・一二 千志(chtc5161)
※このパーソナルイベントの発生条件
企画シナリオのオファーによる

■参加方法
(プレイング受付は終了しました)

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螺旋特急ロストレイル

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