オープニング

 その日、エルフのような世界司書、グラウゼ・シオンはある人物を探していた。そして、その姿を見つけると彼は人ごみをかき分けて走ってくる。
「あれ? おれになの?」
 オレンジの鬣を揺らし、ユーウォンが不思議そうに首を傾げる。彼はチャイ=ブレでの調査任務に当たっていた一人で、今まさに帰ってきた所だった。グラウゼは『導きの書』に手を起きながら、真面目な顔で言った。
「大変な任務から戻ってきたばかりで恐縮だが、君に知らせたい事がある。今から司書室に来てもらえないか?」
「わかったよ。どんな事かわくわくするね」
 ユーウォンはそういい、グラウゼについてふわふわと飛んでいった。

 司書室に入ると、グラウゼは『導きの書』を開き、ユーウォンの青い瞳を見てこう言った。
「君が気にかけていた件の竜刻だが、カルートゥス博士の息子、ウェズン博士が暴走しそうな竜刻を安全にする儀式を見つけ出したそうだ」
「えっ……?!」
 唐突ながら、ユーウォンはその知らせを嬉しく思った。
 ユーウォンは先日、暴走が予見された竜刻の回収に赴いていた。しかしそれは、カルートゥスにとって大切な愛妻の形見。それ故に、彼はなんとかして竜刻安全にし、いつまでも老博士がそれを持ち続けられるようにしたかった。
 当時は《暴走しそうな竜刻を安全にする方法》が見つからなかった為、封印タグを貼ったままで回収の延期という手段を取らざるをえなかった。カルートゥスが『星の海』から帰ればその竜刻を回収なくてはならない。しかし、その儀式を行えば……。
「それじゃあ……!!」
「話はまだ残っている。失敗すれば、竜刻は小規模ながら暴走してしまうし、君やウェズン博士も危ない」
 グラウゼは真剣な目でユーウォンを見つめる。そうしながら『導きの書』を捲り、言葉を続けた。

この儀式の方法は、とても単純だった。魔法陣の中央に竜刻を置き、その周りで祈りを捧げる事で溜まりすぎた竜刻の力をゆっくりとヴォロスへ戻す、という物なのだから。しかし、グラウゼはそこまで説明し、より真剣な表情になった。
「竜刻から力が漏れ出る事になるが、それは大体ヴォロスの大気や大地に戻る。だがそれだけではなく、確実に術者へも影響を及ぼす」
「それは、どういう事なんだい?」
 乾いた指が、『導きの書』に置かれる。グラウゼはユーウォンの問いかけに対し、静かにこう答えた。
「ヴォロスへの繋がりが、強くなる。ロストナンバーの場合は、ヴォロスの真理数がちらつき始める可能性もあるって事だな。もし、君がヴォロスを心から気に入っていて、尚且つその世界にふさわしい存在ならば……君の頭上にヴォロスの真理数がちらつき始めるかもしれない」
 そこまで言うとグラウゼは小さくため息を吐き、さらにこう続けた。
「儀式に参加する人数が多ければ多いほど、術者に流れていく力の量は分散されるし、成功率も上がる」
「つまり、おれが仲間を集めて儀式に挑んでいいって事かな?」
 ユーウォンの言葉に、グラウゼは真剣な顔で頷いた。

ご案内

ユーウォン(cxtf9831)さんが気にかけておられたカルートゥス博士の竜刻について、暴走を防ぐ手段があることがわかりました。

このパーソナルイベントはフリーシナリオとして行われます。

このOPはユーウォン(cxtf9831)さんにのみ、おしらせしていますが、このパーソナルイベントには、ユーウォンさんからこのパーソナルイベントのことを教えられた方も参加することができます。

プレイングでは儀式参加にあたっての思いなどをお書き下さい。

!注意!
こちらは下記のみなさんが遭遇したパーソナルイベントです。

●パーソナルイベントとは?
シナリオやイベント掲示板内で、「特定の条件にかなった場合」、そのキャラクターおよび周辺に発生することがある特別な状況です。パーソナルイベント下での行動が、新たな展開のきっかけになるかもしれません。もちろん、誰にも知られることなく、ひっそりと日常や他の冒険に埋もれてゆくことも……。
※このパーソナルイベントの参加者
・ユーウォン(cxtf9831)
・上記参加者からこのパーソナルイベントのことを教えられた人
※このパーソナルイベントの発生条件
『竜刻はスピカに願う』シリーズのシナリオでのプレイングによる

■参加方法
(プレイング受付は終了しました)

ノベル


 ――ヴォロス・デイドリム近郊の砂漠

「こんなに集まってくださったのですか……?」
 ユーウォンが連れてきたロストナンバー達を見、ウェズンは驚きと喜びを隠せない様子だった。ユーウォンもまた青い瞳を細めて笑う。
「急いで心当たりを回って見たんだ。そしたら集まってくれたんだよ」
じーちゃん、人気者だねぇ! と喜ぶ。その傍らにはかつての依頼でカルートゥスに会った事のある沖常 花やヴァージニア・劉、ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ、マスカダイン・F・ 羽空、メルヒオールが顔を揃えていた。
「それにしても、君も頑張ったのだな」
流転機関捜索任務でのボロボロになった翼を隠したアマリリス・リーゼンブルグがウェズンに語りかける。彼女は、かつての依頼で一緒になったシーアールシーゼロやゼシカ・ホーエンハイムと共にウェズンに挨拶した。アマリリスの言葉に若き学者は少しだけ照れ笑いを浮かべるも、すぐに表情を引き締めた。
「今回の儀式は、失敗できません。……どうか力を貸してください。お願いします、皆さん!」
 ウェズンは集まったロストナンバー達に一礼すると、ユーウォンに促され引き締まった表情で説明をはじめた。

(このまま、ヴォロスで生きるのもいいかもしれない)
 説明を聞きながら、東野 楽園は金色の瞳を細めた。ユーウォンから儀式についてはかるく聞いてはいる。そして、結果的にヴォロスとの繋がりが強くなり、真理数が浮かぶ可能性がある、という事も認識していた。
 もし、ここに帰属できたらメイムの夢守になろう。そして、眠る人に付き添い、穏やかな眠りを見守りながら子守唄を……両親が教えてくれた、マザーグースをそっと歌おう。楽園は静かに瞳を細め、小さく頷いて覚悟を決めた。
 彼女と同じように、ヴォロスへの帰属を考えたのはネモ伯爵である。彼は一件愛らしい子供に見えるが、長い年月を生き延びてきた吸血鬼である。彼はどこか遠い目で故郷での出来事を思い出していた。
(子も孫も立派に成人し 独り立ちして世界に散った。愛する妻はとうに亡く……ここに骨を埋めてもいいかもしれんな。同胞も、この世界には多い事じゃろう。彼らを訪ね歩くのも、悪くはない)
 胸の奥が僅かに痛みながらも、ネモは揃ったメンバーに1つ頷き、口を開く。
「亡き妻との約束を果たす為死に赴かんとする勇者がいると聞けば捨て置けんな。この儂も、力を貸すとしよう」
 愛らしいボーイソプラノに似合わぬ、深みのある言葉にウェズンはきょとん、とする。そして、彼が自分より年上である、と理解した。
「ありがとうございます、ネモさん。よろしくお願いしますね」
 と、目上の人として丁寧に接した為、よく子供扱いされるネモとしては少し拍子抜けする。
(僕は彼やカルートゥスと直接的な面識はない。けれど……)
 イルファーンはすっ、とウェズンに顔を向け、静かな声で
「愛妻の形見を手放したくないと願う気持ちは、僕にも痛い程わかる。最愛の妻がいるから。彼女と引き離されるほど、辛い事はない」
 脳裏に浮かんだ妻は、人間であった。いずれ二人は時に引き裂かれ、死に別れるだろう。それでも、彼は自分自身という存在が消えるその瞬間まで、彼女の形見を持ち続けていたかった。だから、カルートゥスの気持ちがわかるのだ。
(ミスタカルートゥスはとっても愛妻家。死んじゃった奥さんとの約束を果たしに行ったのね)
 とってもロマンチック、と天を仰ぎ、メアリベルはくすくす笑う。彼女は、儀式なんてどうでもよかった。彼女は、そんな事より、ただ歌って踊れればそれでよかった。

「あのじーさん、無理通して夢を叶えちまったんだな。……すげぇな」
「うんうん! 本当に凄いよね!」
 カルートゥスの事をそれとなく気にかけていた劉や花は頷き合いながら魔法陣を描く。そうしながら、花は主から「人の役に立つ人間になりなさい」とよく言われていた事を思い出していた。
(役に立ちたい人は、主様ぐらいだった。けれども今は、おじーちゃんの役にも立ちたい。こういうの、『袖振り合うも他生の縁』っていうんでしょ?)
 気合十分に魔法陣を書く花の姿に、メルヒオールは「頼もしいな」と僅かに笑いながらも書かれた分の魔法陣にミスがないかチェックし、見つかり次第傍らのゼロやジュリエッタに修正してもらっていた。
「竜刻を回収せずとも博士に返せるならば、試さない手はない。それに……何が起こるのか興味もある。ただ、やるからには成功させないとな」
 彼の言葉を聞いていた全ての者は、力強く頷いて同意した。
少し離れた所では「じいちゃん達の為に、帰りの道しるべを用意するんだ」と意気込んでいたユーウォンが少し疲れ気味だったウェズンを気遣い、ゼシカも参加者たちの話に相槌を打ちながら魔法陣を描いていた。彼女もカルートゥスとウェズンの役に立ちたくて、一生懸命手伝っていった。

 ロストナンバー達が手伝う事で準備は早く完了し、参加者たちによって書き込まれた魔法陣の中央に竜刻となったリボンを置く。
(これで、準備完了か? ……拍子抜けだな)
 内心で劉は呟くものの、気を引き締める。司書の話によれば、失敗した場合小規模であろうと竜刻の暴走も有り得るらしいからだ。
(暴走したらゼロがポケットに入れてしまえばいいのです)
 傷つけることも傷つく事もない存在であるゼロはリボンを見つめて小さく微笑む。ふと、劉と目があった彼女は大丈夫です、というようにもう一度微笑んで頷いた。
準備が整った所でメルヒオールは左手に持った紙を見つめた。非常事態に備え、参加者の身を守る為の呪文を用意していたのだ。それは前もってウェズンとも打ち合わせをしている事だった。
 そして、儀式を始める前に成功を祈り、イルファーンが故郷に伝わる言祝ぎの唄を披露した。彼の澄んだ歌声が砂漠に広がり、魔術を操る者達にはそこに住まう精霊や妖精たちが喜んでいる事を感じ取ることができた。
 その厳かな空気に、緊張したゼシカは手を繋ぎたい、と右隣にいる楽園と左隣にいるウェズンへと願う。すると、2人は快く応じてくれた。それで思いついたのか、はたまた最初からそのつもりだったのか、メアリベルがくすくす、と笑いながら提案する。
「うふふ、どうせだったら皆で円になって、歌って踊りましょう?」
 ダンスは得意なのよ、と愛らしい笑い声をこぼす少女の言葉にウェズンは少し考えて口を開く。
「それは面白い試みです。けれど、魔法陣を消す危険性がありますので、歌だけにしましょう」
 ウェズンの言葉に、全員が従う。そして、遂に儀式は始まった。

 メアリベルと楽園の唇から、マザーグースが溢れていく。ロストナンバー達とウェズンはそれに合わせて歌い、輪になって魔法陣を取り囲んだ。アマリリスを初めとする魔術の心得を持つ者達は、歌に合わせて竜刻から徐々に『力』が抜け出ていくのを感じ取っていた。
(今まで、ずっと長い、長い夢を見ていたみたい。でも、両親の事もあの人の事も本当にあった事なのよ)
 歌いながら楽園は穏やかな気持ちで過去を振り返る。そして『0世界では時間が動かない』という現実に目を向ける。
(何時までたっても愚かな女の子のままじゃだめ。大人にならなくちゃ)
 もう一度生き直したい。その願いを持って楽園は歌う。傍らのメアリベルはそんな事など知らない、というように楽しげに歌う。
「ほら、ミスもミスタもご一緒に♪」
 彼女の歌が、厳かな空気を変える。無邪気なメロディーが、魔力を回す。いつしか魔力の粒がちらほらと見え始め、それを確認したメルヒオールはより一層真剣に周囲を観察する。
(これを使わないで済めばいい。……その為に俺達はいる)
 左手を劉と繋ぎつつ、包んだメモの事をふと考え、小さく頷いて魔法陣を見つめる。そこに置かれたリボンは。僅かな光に包まれていた。
(俺にはじーさんのように……そういう情熱ねえから、ちょっと眩しくて羨ましいよ)
 劉は僅かながら羨望を滲ませた瞳で魔法陣を見、呟く。
「乗りかかった船だ。爺さんの為に一肌脱いでやるさ……」
 その傍らでカルートゥスやウェズン達の想いを感じ取りながらアマリリスも祈る。『星の海』へ向かった仲間たちの無事、そして、老博士が妻の形見とずっと寄り添っていけるように、と。
「帰りを待っている人がいる。この地に帰りたい人がいる。だからこそ、成功させねば」
「ああ、カルートゥスが愛する人の想いを大切にできるようにも……」
 イルファーンも深く頷き、花もまた笑顔で2人の言葉に同意した。
(ボクはあまりおじいちゃんを手伝えなかったね。でも、おじいちゃんの夢が叶う事はとても嬉しい。だから役に立ちたいんだ!)
 その素直な願いのまま、花はリボンを見つめる。僅かな輝きに包まれたリボンは、魔法陣の上で眠っているように見えた。

 歌を歌いながら、ネモはあたりを見渡した。徐々に強くなる周囲の魔力はとても優しいものでとても温かい。今も竜刻からどんどん溢れており、宛ら湧水のようであった。
(今の所、おかしな事は起こってないようじゃな)
 この儀式は、失敗すると小規模ながらも竜刻の暴走を招く。その事を考えると自然と気が引き締まった。傍らではゼロがいつもの柔らかい笑顔で歌っている。
(大切な形見だからこそ、カルートゥスさんに返したいのです)
 ユーウォンの思いに共感した彼女は、ふわり、と小さく笑った。それは儀式の成功を予感したものだろうか?
その隣で、マスカダインは深く心で念じる。彼は老博士が無事に地上へ戻ってきたら皆が驚き、喜び、諦めない思いを思い出したり、取り戻したりする人がいるのではないか、と考えた。

誰かの思いをずっと大切に愛して生きている人の願いは、絶対世界を素敵にするよ。
だからね、夢を叶えたいんだ。

 その切実な願いを込めて天を見れば、いつしか夜になっていた。瞬く星たちは、魔法陣の周りを回る彼らを温かく見守っているようで、ゼシカには今は亡き両親の眼差しをイメージさせた。
(博士さんの奥さんもお空の上にいるのよね。会えるといいな……)
 天国の両親の事を考えながら、ゼシカはふと、『星の海』へ向かったカルートゥスに思いを馳せる。
 ユーウォンは荘厳な空気の中、改めてウェズンを見、素直に凄いと思った。父親のために探し出した解決方法が、実を結ぶかもしれない。そう思うと、胸が熱くなる。
(それにしても、すごいことだよね。この儀式で竜刻の暴走を防げるなんて!)
 もしかしたら、ヴォロスの歴史が変わる瞬間に自分たちは携わっているのかもしれない。そう思うとより気合が入っていく。
(ウェズンさんは、必死になって術を調べた。その結果が、この儀式だ。……だからこそ、絶対に成功させるんだ)
 思いを無駄にしたくない。それは、向かいにいたジュリエッタも同じ思いだった。地上で祈るウェズンと、『星の海』を旅するカルートゥス。この親子の為に、彼女も祈る。
(祈りを成就させたいのじゃ。だから、今は……!)
 最初のうち、ウェズンは2、3人でも手伝ってくれれば、と微かな期待を抱いていた。けれども、現実には13人もの旅人達が手伝ってくれている。中には面識がなかった者さえいるが、彼らは快く手伝ってくれた。
(ああ、なんと有難い事なんだろう! これも、スピカ様のお導きなのだろうか……)
 僅かに熱くなった瞼をきつく閉ざし、ウェズンは涙を堪える。途端に、左目だけが更に熱くなっていた。同時に浮かんだのは、星の海に漂う船。そして……笑顔で亡き母と語らう、父親の姿だった。
(お父さんは、お母さんと会えたんだ……!)
 それは、可能性なのか、予知なのか……。それとも新たな力なのか。そんな事はどうでもよく、今はただ、喜びを更なる祈りの糧にしていた。

 14人の祈りは徐々に竜刻から過剰な力を発散させていった。青白い光の粒が次々に魔法陣をなぞり、虚空へと立ち上っていく。そして、ふわりふわりと漂って14人の周りをぐるりと取り囲んだ。
 どこか涼しげな音を立てて回り始める光の粒。その冷たい輝きが時に軌道を離れ、儀式に参加する者達へと降り注ぐ。
 強力な力は、確かに少しずつロストナンバー達とヴォロスとの繋がりを強めていく。けれども劉やゼシカ、ゼロは待っている居候や友達、夢を強く思い、他の仲間たちも儀式に集中していた事で『何か』の変化を無意識に止めていた。
 ただ、ヴォロスへの帰属を視野に入れていたネモと楽園の中で、確かに何かが変わり始めていく。言葉では言い表せない『何か』は次第に胸の中で靄となり、徐々に落ち着き始める。
(あれは……?)
 ふと、目をやった花は、2人の頭上にうっすらと数字っぽいモノが浮かび、ちらつき始めた瞬間を見ていた。

(頃合じゃろうか)
 眩い光に包まれた中で、ジュリエッタが頷く。そして、メロディーが落ち着いた所で彼女はそっと手を離し、トラベルギアである脇差へと手を伸ばした。そして、リボンを見つめながらそれを天に掲げ、高らかに唱える。
「竜刻よ! どうかその力を大地に還してほしいのじゃ! 我が竜達が道しるべの一つとなりそなたの力を導こうぞ……!」
 瞬間、バリバリと音を立てて電撃が天に走る。どうやら竜刻の力に反応したらしい。同時に竜の形をした光が辺りを巡り……純白の光が辺りを染める。

――ヴォロスの神様、この世界の大きな力。彼に……どうか祝福の風をください!

 眩い世界の中で、マスカダインが叫ぶ。と、同時にロストナンバー達の脳裏に、このような光景が映し出された。
 天に聳える、一本の木。そして、それに絡みつく幾つもの蔦。けれどもその木は不思議な形をしていて、回りを竜の幻影のような物が取り囲んでいた。
 青白い光の粒が、線となって木へと向かっていく。やがて、ぐるぐると木を取り囲んで回ったかと思えば、木に飛び込み……やがててっぺんから噴水のように吹き出しては大地に、川に、空に、海に、と溶け込んでいった。

 ロストナンバー達はその奇妙な木が、ヴォロスの世界計なのだと、直感で理解した。

 我に返った時、彼らは砂漠に横たわっていた。魔法陣は消え失せ、リボンだけが柔らかい光に包まれている。ウェズンはすぐに駆け寄り、手に取ると……穏やかな声でユーウォン達にこう言った。
「儀式は成功です」
その言葉に、周囲は歓声に包まれる。喜びから、ユーウォンはくるり、と宙返りしてアマリリスが彼を受け止めて笑い合い、マスカダインは思わず傍にいた楽園と手をつないで小躍りをする。ゼロとイルファーン、ネモが顔を見合わせて笑顔で頷き合い、劉とメルヒオールは拳を軽くぶつけて微笑む。ジュリエッタはメアリベルとハイタッチで喜び合い、ゼシカと花はハグし合った。
そっと傍で見守っていたデフォタンのはと丸=ロートグリッドも飛び跳ね、ドックタンのアシュレーもしっぽを振り、オウルタンの毒姫とマルゲリータも祝福するようにみんなの周りを飛び回った。
 次の瞬間、リボンの光は強力になり、天へと伸びていく。その先を追えば、かすかに船が見えた。カルートゥス達が乗っているだろう空駆船【スピカ】だろうか?
「あとは、着陸の準備だな」
 その呟きに皆は頷き、疲れを物ともせずに行動を開始した。

(彼らにすべてを話すとしようか)
 アマリリスは天を仰ぎ、少し近づいた船へと微笑んだ。

(終)

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螺旋特急ロストレイル

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