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[18] 無限のコロッセオ
アリッサ・ベイフルック(cczt6339) 2012-11-25(日) 13:04
 人狼公リオードルが立ち寄ったのは『無限のコロッセオ』。

 管理人のリュカオスがしくみを説明するのを聞きながら、リオードルは観戦席に腰を下ろす。

「世界図書館の訓練場というわけだな。おまえたちの戦いぶりは見事だった。ここでは、とびきり面白いものが見られそうだな」

 リオードルは闘技場を見下ろす。おりしも、ロストナンバーたちの戦いが始まっているようだ。


●ルール
このスレッドは、リオードルが『無限のコロッセオ』を訪れた一幕を扱います。
ともにこの場を訪れた、あるいはたまたま居合わせたものとして、ご参加下さい。

無限のコロッセオについてはソロシナリオ『無限のコロッセオ』などを参考にして下さい。

ご参加の方は、ちょうどコロッセオを利用していたか、卿に披露するために闘技場に降りたかして、フロアでの戦いを見せることができます。今回はすべて、闘技場の機能を利用した「クローンとの一対一の戦い」になります(ロストナンバー同士の対戦は行いません)。

標題を【戦う】として書き込まれた内容は、リオードルが観戦した戦いです。どんな敵と、どのようにして戦ったのか、描写してみましょう。時系列は気にせずに。ただし、原則、1発言に収めて下さい。

11/29いっぱいまで行われた【戦い】のなかで、卿は特に見事な戦いを演じたと感じた1人にはリオードルから挑戦の申し込みがあるかもしれません。(その場合、11/30にプレイングのお願いをしますのであらかじめご承知下さい)

【雑談】として、関係なく、会話していただいてもOKですが、リオードルはここでは戦いを観戦したいようです。

※この掲示板の各スレッドは、リオードルが順番に巡っていったターミナル各所の名所での出来事を扱います。時系列やその矛盾は気にせず、ご参加下さい。
[33] 【戦い】

マフ・タークス(ccmh5939) 2012-11-26(月) 23:01
「さァて」
 愛用のトラベルギア――己の背の二倍はある大鎌をパスホルダーから取り出し、それを軽々と担いでみせる。
 肩慣らしに大鎌を一振り、二振り。 風を斬る、と言うより叩くような鈍い音だけが響く。
 状態や感覚、共に良好。 それだけ確認できれば問題ないとして、にやけ面を上げてみる。

 金色の瞳の先には、その色に似た毛皮を靡かせる狼族の獣人剣士が無言で佇んでいた。
 0世界にいる息子とは違い、右手に握る剣とは対を成さない丸盾を左手に握っている。
 別に《人狼公》が観戦しているから、彼を意識してこの相手を指定したわけではない。
 元いた世界の知人が、その世界では『英雄』とも『暁の獣王』とも呼ばれた男がそんな姿をしていただけの話。

 そして、その英雄の強さは何よりも俺自身がよく知っている。
 記憶に深く残る彼は、たとえコロッセオが生み出したクローンだとしても油断のならない相手だろう。

 試合開始の合図が鳴る。
 先に動いたのは狼族の剣士だ、開けた距離を埋める為に地を蹴り前へと駆け出す。
 それに対し挨拶代わりと鎌から黒の刃を放つが、狼剣士は剣一振りで弾きやがる。
「まァ、お前ならそう来るよな」
 相手が応じないと知っていてもつい口に出る。 全く、クローンだと言うのに技術は中々だ。

 勢いを全く殺さないまま向かってくる狼剣士を迎え撃つため、大鎌を下段に構え直す。
 単純な速度と力はあちらが上、真っ向から向き合えばこちらが盾の強打で潰されるだろう。
 とは言え逃げるのはツマラナイ、牙を剥き出して笑んだ俺は目前の剣士と同じように地を蹴っていた。

 下段に構えた鎌の刃を上に向け、盾防御のスキを突くよう振り上げる。
 しかし相手は英雄と謳われた剣士だ、死角からの一撃に合わせて盾をずらし、大鎌の刃先を受け流す。
 金属同士がぶつかり合い火花散る最中、盾の陰に潜ませた剣が真っ直ぐに俺の眉間へと迫る。
 かつて多くの強敵とされた相手はこの一撃で沈んだが、俺は身を右に倒し捻ることでそれを回避。
 耳の下辺りの毛が散ったが構わない、鎌の刃を横に寝かせ、持ち上げた尾を迫る相手目掛けて振り抜いた。


「ありゃ」


 思わず意味も何もない言葉を漏らしたのは、胴を斬られて倒れている狼剣士を見下ろしてからだ。
 回避様に振った尾が見事なカウンターになっていたらしい、体を「く」の字にさせたヤツは、真横に向きを変えていた鎌の刃に触れて深手を負っていた。
 ご丁寧に血の香まで再現してくれるクローンに対し顔を顰めた後、予想よりも早い幕切れにため息を一つ。

「所詮、複製は複製ってコトか。 ま、勝負ってなァ一瞬でケリが着くこともあるしなァ」

 実際に戦っていた相手が複製などではなく本人ならば、尾の一撃や鎌の刃もかわしてたんだろうなと思いつつ。
 観客席に英雄の子がいないことを確認した後、倒れたクローンの胸部を目掛けて刃の切っ先を落とした。

「そういや、旅団のエライさんが見に来てたんだったか?」

 まぁ今の試合内容じゃ見向きもせんだろうとも思い直し、そのまま戦いの場を後にする。
[37] 【戦い】
隻眼
飛天 鴉刃(cyfa4789) 2012-11-26(月) 23:43
その日、飛天 鴉刃はコロッセオに来ていた。
己の技を鈍らせぬよう、そして右目を失った環境に早く慣れるために、竜星の戦いから帰還してから日に1回、コロッセオの戦闘訓練をこなしていた。
無論、日によってはコロッセオの予約が埋まっていた場合もあるし、ナラゴニア襲撃の折にコロッセオが破壊されてから復旧されるつい最近までは訓練はできなかったが。
そして実に数週間ぶりとなる戦闘訓練をこなす為、彼女はそこへ来ていた。そこへ来るのに祭りなどは関係なかった。

そして今、黒い龍人が片目で見据える先には黒く、大きい異形が佇んでいた。
かつて闇黒のバトル・アリーナにて対峙した〝玉響の戦慄〟に似た姿のそれは、しかしあの時ほどの恐怖は与えてこない。
所詮紛い物ということか。それとも一度、実際に対峙したことがありそれを乗り越えたからなのかは分からない。
だがしかし、それでも長く見つめているとジワリジワリと身を浸食して行く恐怖を振り払うように、鴉刃は残っている左目も閉じた。
それを合図に異形が吠える。衝撃波となり物理的な圧力を生じさせるそれに髪を、尾を、そして髭を震わせられながら龍は地を蹴った。直後、異形から伸びた腕が地面を穿ち罅をつくる。
両目蓋は閉じられたまま鴉刃は宙を走る。舞台は街並みではなくコロッセオそのもののむき出しの土と外壁に囲まれたステージだ。隠れる場所はない。
鴉刃の跡を追うように黒い腕が次々と鴉刃の後ろの壁を穿っていく。自らの動きによる風にたなびいていた鴉刃の髭がピクリと動いた。一直線に動いていたその身体が弧を描いて上に、行く手を遮らんと目の前に穿たれた腕を飛び越える。
飛び越えつつ反転した鴉刃の左目が薄く開かれる。伸ばされた龍の両腕が引き戻される直前の腕を掴み、爪が食いこみ、次の瞬間腕と共に高速で異形の元へと引き寄せられる。
急な動きの変化に身体をたわませつつ、横目で異形の方を確認。引き戻す腕に取り付く虫を払いのけるかのように新たな腕が伸びてきていた。爪を引き抜きつつ腕の力で跳ね、さらに回転する鴉刃の束ねた後ろ髪の先端を腕が刈り取り取っていく。舞い散る灰色の毛。
それを気にせず、目を閉じながら慣性に従い放物線を描いて異形のもとへ辿りついた龍は爪を閃かせた。放物線を描く軌跡が異形へ向けて落ちる直線に変化、伸ばされた腕の根元に爪が食い込み、次の瞬間爆散。腕と共に異形の上から降り立ち再び地を蹴り横に跳ぶ。
悲鳴か怒号か、咆哮を上げつつ突進した異形を紙一重で避けつつ、地面に置いた手を中心に回転した勢いそのままにその遠ざかる側面をもう片方の手と、足の爪で切り裂いた。陽炎のように付近の景色が揺らめく程に爪から溢れだす魔力が牙を剥き、図体に対しては余りに小さな爪からとは思えぬような大きな裂傷を刻む。
目を開けた鴉刃の目の前、異形の後姿から見えるその血とは異なる赤い裂傷は、しかし瞬く間に周りの黒に塗りつぶされる。
当たり前ではあるが決定打にはなりえない。判断する鴉刃は傷口があった付近に漂っていた細かな黒い靄に気が付いた。異形がこちらに向き直る間に見る見るうちに、蟲へと形作ったそれが一斉に、蝋色の身体を異形と同じ黒に染め上げんと飛翔してくる。
失ったはずの右目が疼いた。一瞬だけ渋面を作りながらも直ぐに行動を開始する。
気配と空気の流れを鋭く読むには距離感を掴めぬ片目だけの視界は逆に邪魔になる。だからこそ、隻眼であっても戦えるよう、可能な限り目を瞑りその感覚に慣れようとしていた。
しかしこれだけ細かく数多い気配があると鋭い感覚は逆に脳を迷わせる。ここに来て鴉刃は目を開いたまま動き、そして位置を把握するために蟲の群れを、黒い異形を見た。
異形の目がどこにあるかは分からぬが、視線が合った気がした。鴉刃の背筋を悪寒が駆け抜ける。
「(久しぶり故に、鍛え直す為にもなるべく苦手な奴を、とは頼んだものの―――)」
壁際まで後退し、伸ばされる腕をギリギリまで引きつけて回避。横合いから飛んでくる蟲を逆に壁と腕に挟んで潰す。
それでも腕に潰されずに済んだ蟲が、風圧に煽られ加速しながら鴉刃へ急襲した。咄嗟に腕で、ギアを振い斬り飛ばすもののそれでは全てを捌き切れない。振り切り、一瞬止まった腕に噛みつき、龍の血を流す。
「(―――ここまで嫌な組み合わせにせずとも良いであろう!)」
飛んでくる腕の気配。腕に潜りこもうとする蟲の一匹を掴みつつ地面を転がり壁を穿つ腕をやり過ごし、その終点で引き抜いた蟲を踏みつぶしつつ飛び上がる。
と、鴉刃の視界に飛び込んでくる闇黒。軌道を読まれていたか絶妙なタイミングで伸ばされるその腕は避けきれない。
宙に撥ね飛ばされる龍人の身体。潰された蟲が隣を舞い、霧散して消える。
その目はまだ死んでいない。続けざまに飛んでくる腕を見るや、撥ね飛ばされた勢いの回転で逆さまに向いたその頭上、地面へ向けて空を駆けた。
衝撃の瞬間、少しでも身体を後ろへとずらし、さらに蟲が食いつく腕にて身体を庇う事で致命傷になることを防いでいたのだ。蟲の排除はそのおまけでしかない。
だが、その尾を腕が掴む。
飛ぶよりも早く地面へ叩きつける腕が再び上へと跳ねあがり―――千切れ飛んだ黒い拳が鴉刃を解放しつつ宙を舞う。
魔力を込めた爪にて拘束する腕を切り裂いた龍は口から血を吐き出しながら両手両足で着地する。同時に全身をバネに異形へ向けて飛び出した。
突如腕を切られた事に動揺してか異形は言葉に言い表せられない咆哮を、辺りの大気を震わせ上げていた。
初めと同じような物理的な圧力の中を、辺りの空気の振動を髭だけでなく全身で感じ取りながら突き進む鴉刃。
異形から伸びる腕が2本、2本、さらに2本。地面へ潰さんと前方頭上から襲いかかるがそれよりも速く駆ける。
赤い点線が続く後方の地面を穿ち、穿ち、穿つ。両眼を閉じ、口の端から赤い筋を流している龍の両爪が陽炎を纏う。
目の前に立ちはだかる黒い壁を10条の線が穿った。こじ開けるように中へと突き進む。
10条、10条、さらに10条。5条ずつ左右対称の線が内側から刻まれ、そして黒龍は黒い壁を突き抜けた。
油断せず素早く反転しながら距離を取った鴉刃の目の前で、黒い異形の身体中に刻まれた幾筋もの赤い裂傷がみるみるうちに広がっていき。
そして全身を赤く染め上げた瞬間、その巨体が崩れ落ちるように溶けて消滅した。

「……まだまだ気配を読むだけで戦うのは慣れぬな」
口元を腕で拭いつつ呟き、大きくため息をつく。
そして鴉刃は、観客席を一顧だにすることなくコロッセオを後にした。
彼女はここに戦闘訓練に来ただけだ。祭りも何も関係ない。
[42] 【戦う】
ベットorドロップ?
ファルファレロ・ロッソ(cntx1799) 2012-11-27(火) 10:21
階段状の座席が十重二十重に円を描く中心に石造の無骨な舞台が鎮座している。
擂鉢状に落ち込んだ景観は蟻地獄をも髣髴とさせ、そこから見上げる空は高く円く遠い。
あたかも地獄の底から仰ぐように……

「だりィな」

この日闘技場を踏んだのは、黒スーツを自堕落に着崩した若い男。
癖のない黒髪、鋭利な双眸に知的さを加味する銀縁メガネ。寛げた襟元に緩く引っ掛けたネクタイは背広と同色、おまけに革靴も黒と全身黒ずくめだ。
見た目は眼鏡がよく似合う細身の優男だが、背広に包まれた体躯は鍛え抜かれた柔靭さを感じさせ、装填された銃のごとく剣呑な雰囲気が漂っている。
あるいはそれは暴発の危険を常に内に秘めながら、己の欠陥すらギャンブルとして愉しむ銃の気配か。

男の名はファルファレロ・ロッソ。
唯我独尊、暴虐無人なただのマフィアである。

本来彼はここにいるべき人間ではない。
何故ならー

「お偉いサンの接待なんざかったりィ。そんなの上に任せときゃいいだろうが。俺がいなくても幸子とヘルが上手くやるさ、話に困ったら脚見せとけ」

幸せの魔女と共同経営しているゲームセンターに旅団の有力者が視察に訪れると聞き、厄介事に巻き込まれてはたまらないと逃げてきたのだ。
しかし悪ぶるその口調には揶揄だけでなく店を任せた人間への信用も垣間見え、彼自身すら自覚せぬ変化を物語る。

店の経営はパートナーと娘に任せ、今日も今日とて退屈しのぎに無限のコロッセオを訪れた彼は、芝居がかった動作で背広の懐に手を潜らせる。

左手、漆黒の拳銃がメフィスト
右手、白銀の拳銃がファウスト。

「やっぱこっちのが性に合ってる」

精緻な装飾が施された白銀の銃がトラベルギアのファウストで、メフィストの方は十年以上愛用してる自前の銃だ。
両手にしっくりおさまる銃の重みと感触に我知らず犬歯を剥いて笑い、斜に構えた立ち姿で敵を待ち受ける。
やがて眼前の空間が茫と歪み、魔法的なクローン技術で精製された敵を生み出す。

陽炎の如く歪む空間から産み落とされた存在が、産声と喩えるにはあまりに禍々しく荒々しい、この世へ生まれ落ちた呪いじみた咆哮をあげる。
絶望と呪詛が凝縮されたような瘴気吹きすさぶ咆哮を正面から浴びて、対峙する男は顔を顰める。

筋肉が隆起した全身に密生した黒褐色の剛毛。
爛々と光る眼は血の色を透かせるように赤く禍々しく、完全に本能に支配されている事実を表す。
肉食動物の特徴たる鋭い牙が並び、耳まで裂けた口腔からは生臭い吐息と共に大量の涎が垂れ流される。

人狼。
そうとしか形容できない獣。
彼の記憶から精製されたというなら【これ】は過去にターミナルを騒がせた人狼のクローンという事か。

「おもしれえ」

よりにもよって人狼公が来る日にコイツとヤるはめになるとは。
皮肉なめぐりあわせに喉の奥で含み笑い、左手は銃の引き金に指をかけ、右手で挑発的に手招きをする。

「来いよワーウルフ、調教してやる」

獰猛な咆哮が試合開始を告げる。

にやつきつつ手招きする男のもとへ太い筋肉を捩り合わせた下肢を撓め跳躍、肉薄、長く伸びた爪で鼻先を薙ぎ払うも仰け反られ空振り、顔面を抉り貫かんと風切る唸りを上げて迫る剛腕を間一髪躱せば風圧で浮いた前髪が数束ちぎれとぶ。

人狼の足元を弾丸が抉り石片が散る。ファルファレロの銃撃だ。
右手のファウストと左手のメフィスト、肉体の躍動にあわせ黒白の銃が火を噴く。
発砲の都度跳ねあがる銃の反動を肩で御し、死闘の熱狂に身を任せ、噎せ返るように充ちゆく硝煙の匂いに酔いながらクレイジーな哄笑を爆ぜさせる。

「stronzo!」

人狼の足元を弾丸で削りとり牽制しつつ、左右の銃を交互に、または同時に撃つ。
耳を劈く銃声や不規則な跳弾もなんのその、追い詰められればられるほど、死地に嵌まりこめばこむほど興がのる。
身体的な絶頂感をも伴う銃撃の切れ味が戦いのスリルの中で研ぎ澄まされ、火照り狂う血の巡りと競うようにしてスピードが加速する。

早撃ち曲撃ちは彼が最も得意とするところ。
交互の手に投げ渡し投げ上げて、旋回しながら頭上を越したそれを肉眼で見もせず勘だけで後転してキャッチ、流れる動作で片膝撃ちへ移行する。
音速の弾丸が人狼の足を穿ち血がしぶく。
死角と時差を補い合うトリッキーな銃撃に翻弄され消耗し、全身を鎧う筋肉とそれを覆う毛を憤激で膨らませ醜悪な異形が雄叫ぶ。
喉で増幅された音の波動が物理的な圧力と化し舞台を駆け巡る。
滾る怒りと逆流し渦巻く血潮に駆り立てられた人狼が、目一杯腕を引き、巨大な拳を地面に打ち込む。
砲弾の直撃に摩する破壊力が分厚い石畳を割り砕き、耳を聾する轟音に次いで地面が陥没、放射線状にささくれ亀裂が走る。

鋭く舌打ち、足元に広がったひび割れから跳躍して逃れるもー

「!」

戦慄。

濛々と舞い上がる粉塵を突き破り急接近する異形の影。闘技場を対角線上に疾駆するや、自重を乗せ剛腕振り抜き、ファルファレロの鳩尾に拳を叩き込む。
背中へと突き抜ける凄まじい衝撃、骨身が軋む鈍い音。
「かはッ、」
たまらず背中を丸めて喘ぐ。
彼の行動を見越し驚異的な脚力で宙に跳んだ人狼が、骨肉を圧搾するようにミシミシと拳を抉り込み、そこから伝わる獲物の悶絶に裂けた口をさらに釣り上げる。
宙で交差した一刹那が、苦痛の体感によって無限に引き延ばされる。
勝利を確信した捕食者の笑みが、苦痛で赤く焼き切れそうな視界を占める。

人狼と人間では膂力を代表とする身体能力に圧倒的な差がある。
トラベルギアで補正されていても、生身で戦いを挑むのは無謀な賭けにすぎたのだ。
鳩尾にめりこんだ拳が嬲るようにゆっくりと離れていき、至近距離で視線が絡む。
狂気に染まった眼光が苛烈に燃え上がり、闘技場を震撼させる咆哮と共に両腕を振り上げー

今だ。

『“La fine”』

終止符。

重力に身を委ね落下、と見せかけ、固い地面に墜落する寸前鞭の如きしなやかさで身を捻り、伏せった姿勢から右手に隠し持った白銀の銃を撃ち放つ。

虚空に自動展開した五芒星の魔法陣、その中心を突き抜け閃光纏った弾丸が今しも彼を挽き肉に変えんとした腕を爆ぜ散らす。
それだけでは到底致命傷たりえない。
人狼の再生能力は凄まじく、伝説に語り継がれるそれは殆ど不死身に近しい存在だ。
ただ一つの例外を除いて。

「この弾丸は銀だ」

青く青く光り輝く魔法陣をすり抜けた聖銀の弾丸が、運命のように一直線の弾道を描き、引きちぎれた腕を遡るようにして人狼の眉間へ吸い込まれていく。

咆哮は慟哭にも似て。

弾丸が貫通し、額に穿たれた穴から血と脳漿をぶち撒け、人狼が倒れる。
骸は残らない。所詮はクローン、敗者は光の粒子と化して霧散するのみだ。

両手の銃から一対、牙のごとく硝煙が立ち上る。
粉塵と硝煙がたなびきつつ晴れたのち、そこに立つのは埃塗れのファルファレロただ一人。
血痰まじりの唾を吐き捨て、手の甲で無造作に顎を拭い、苛立たしげに呟く。

「くそっ、スーツが汚れちまったじゃねえか」

立てた中指でブリッジを押し上げたのは彼流の敵へのたむけ。
ズレた眼鏡の位置を不機嫌な表情で調整し、彼は去っていくのだった……。
[73] 【戦う】
「…………」
雀(chhw8947) 2012-11-29(木) 17:19
 コロッセオの風景が揺らぎ、瞬く間に木々の立ち並ぶ“森”へと変化した。
 森に装飾以上の意味はないのだろう、鬱蒼と暗い色の葉を茂らせた樹木に見下されながら中央部は大きく円形に開け、固い土の地面を晒している。
 そこに進み出たのは小柄な男だった。腰元に太刀を佩き、被り笠に藍染の装束を纏った小柄な男が、するりと影から日向へと踏み出す。
 男――雀は中心近くにまで歩いて立ち止まると、己に注がれる観客の視線など気にも留めぬ素振りで、被り笠の陰から刃と同色の眼差しを炯々と一点に据えた。

 敵は雀を待たせなかった。刃の如き視線に応じて木々の陰から異相の敵が姿を現す。
 だらしなく揺れる蓬髪が、山伏の装束の面影を残した襤褸が、背から伸びる鴉の黒羽根が、暗い樹木の影からずるりと抜け出る。どろりと濁る一つ目が、蓬髪の隙間から雀を見据えた。
 ぢゃん、と右の腕で縋りつく錫杖の石突きが地面を叩く。
 ぢん、と左の手にぶら下げた剥き身の刀の先が地面に触れる。
 雀の倍はあろう身の丈が重たげに傾ぐ。
 冴え冴えと煌めく銀眼と、どこか狂気を孕んだ隻眼とが、何よりも先に切り結ぶ。

 其処に声は無く。

 先に仕掛けたのは山伏だった。ぐ、と深く頭を垂れるようにして身を縮め黒羽根の先が上がる。翼が鋭く大気を叩き、重たげな所作が嘘のように瞬発した。瞬く間に距離を詰め、ぐるりと身を回して錫杖を横薙ぎに振り抜く。
 迎え撃つ雀は視線を閉じぬまま身を沈めた。錫杖の起こす暴風が上から笠を抑え込むより先に、横へと飛び退って距離を開ける。
 山伏は勢いを殺さずに後を追った。跳ねるように方向を変え、黒羽根で己が動きを整え、左手に握る刀の先を突き出す。
 刃の先は僅かに雀の身を掠めて虚空へ抜け、次いで刃と挟むように振り下ろされた錫杖が雀の頭上を襲う。
 一瞬早く錫杖の外側へまろび出た雀を、間断無く錫杖と刃の二双の連撃が追った。
 斬り払い、突き、叩きつけ、押し、薙ぎ払う。
 ひとすじの焦りも見せず奔放な打撃と斬撃の連撃全てを寸前で回避してみせながら、しかし雀に攻撃の気配はなく、手甲に覆われた掌をただ己が愛刀の収まる墨色の鞘に当てている。
 感情を持たぬ筈の山伏の面が不可解に揺らいだ。
 不意に錫杖を地面に叩き付け、複数の円環を打ち鳴らして飛び上がる。
 重く跳ねる動きは黒羽根の鋭い羽ばたきを得て再度加速し、斜めから地上の雀へと突貫した。
 すれ違うように下へと飛び込んで回避した雀を追い、刃が跳ねる。黒羽根が踊り、唸りをあげて錫杖が追う。回転の高さを低めた錫杖が、二度三度と飛び退る雀に掠める位置を横に薙いでいく。
 苛烈さを増す追撃を辛うじて躱す雀は尚も刃を鞘に収めたままだ。今度こそ攻めあぐねているようにも見えた。
 もし錫杖だけを避けて山伏へ向けて踏み込んだならば、重たく迅い旋回に色を添える刃と黒羽根に打ち据えられるに違いない。
 嵐の如き追撃は唐突に変化した。その名の示す小鳥と同じく寸前で逃れ続ける雀に山伏こそが焦れたのか。錫杖を握る指の力を緩めずるりと柄を滑らせこれまで以上の伸びで雀に錫杖を叩き付ける。
 瞬間退き続けた雀の挙動がはじめて変化した。身を揺らして強引に飛び退らず留まり、大気を押し裂いて迫り来る錫杖の柄をタイミングを合わせて手甲で上に弾く。
 じゃん、と高々と異音が鳴る。
 間合いを広げるために短く持った柄では制し難く、速度を得ていた錫杖は雀を飛び越すように一気に跳ね上がり、引かれて大きく山伏の脇が開く。
 フ、と口を覆う布の隙間から鋭く呼気が洩れる。
 はじめて指先が愛刀【紅蔓】の柄に掛かる。
 山伏も即座の反応を見せた。回転の勢いのまま左手に握る刀の先が斜め下から雀へ走る。
 先端はようやく雀へ届く。刃の先は鋭く円弧を描き、上体を一瞬ズラした雀の笠を斬り飛ばす。
 雀茶の髪が風に舞う。
 何れの時の、どの刃に比しても劣らぬ程鋭く、たった一つの意思に絞り込まれた炯々と煌めく灰鋼の瞳を覗きこんで、山伏装束の男は口元を大きく歪ませた。

 強く、迅く、愛しい刃が鞘走る。
 ――抜刀一閃。

 毀れた刃は胸から首へと鮮烈な弧を描き、過たず山伏の男を斬り裂いた。

「…………」
 舞台に鞘へ刃を収める涼しげな音が立つ。幼げな面立ちを陽に晒し、雀はふと頭上を仰いで目を細めた。
 眩さを振り払うように一度頭を振り、笠を拾い上げて被り直すと、真っ直ぐコロッセオの昇降口へと足を向ける。
 伏した敵は顧みず。
 かつて刃を交えた男の虚影はほどけて消えた。
[75] 【戦う】
「……気にしないで欲しいな」
しだり(cryn4240) 2012-11-29(木) 19:19
「止めれば良かったかな」
喧噪に包まれるコロッセオの熱気の中、しだりはぽつりと呟いた。一つの考えをもって臨んだコロッセオだったが、静謐を好むしだりとは相性が悪い。
しかし、それでもしだりが決めたことと無意識に帽子の位置を直しながら足を進めた。
そして、しだりが中央にたどり着くと、遮るものがない平地の舞台に四本の黒い柱が突き上がった。
ちょうどしだりを中心に前後左右を囲うように配置されたそれらはコロッセオの舞台端と中央のしだりの真ん中辺りに出現していた。
しだりが静かに様子を見守っていると、しだりの前方に位置する柱の中からある人物が抜け出てきた。
「…優。………違う、紛い物か」
しだりが微かに目を見張った後、すぐにその額には僅かながら皺が寄った。親しい気の良い青年と瓜二つの姿をした紛い物にしだりは知らず嫌悪感を現した。
その偽物は手に持っていた剣を降り上げてしだりへと襲い掛かる。しだりは構えもせずにただ静かに走り寄る相手を眺めた。
そして、風を切るように振り下ろされた鋭い剣を受け止めたのはたおやかな椿の小枝だ。そのまま何度も打ち出す剣をしだりはギアである椿の小枝で無表情に受け止め続ける。
偽優のフェイントを織り交ぜた攻撃も、しだりはことごとくをいなした。
しかし、しだりには何の武術の心得もない。ただ相手の攻撃を見てから防ぐという後出し、龍神ゆえの反射速度の成せる技だ。
「……もう解った」
何度目かの偽物の剣を受け止めた時、しだりの首から下げた勾玉が青く輝いた。
しだりの撃ち出した巨大な水の塊が偽優を打ち据える。気持ちの悪い音を立てて偽物はひしゃげて吹き飛んだ。
「…」
しかし、その時先ほど偽優が抜け出てきた黒い柱が振動を始めた。すると、ひしゃげて倒れた偽物の体が、見えない糸で操られる人形のようにぎこちない動きで立ち上がった。
ごきごきごきと異音を鳴らしながら偽優はひしゃげた体を無理矢理に治して近くに落ちた剣を拾い上げた。
「…そう」
相手に剣を構える余裕を与えないように、しだりが偽物へと飛び出した。無造作に振るったしだりのギアを偽優の剣が受け止める。
その動きが止まった瞬間、しだりは水を生み出す。自分の身の丈を越える圧倒的な水流に、偽物も成す術もなく押し流される。
そして、流された偽優が叩きつられて止まった場所は、抜け出た黒柱だ。
柱から滑り落ちる体の向きを変えようとしていた偽物の首を小さな手が押えつけた。それは容赦なく偽優を柱へと再び叩きつける、後を追って水流を泳いだしだりの仕業だった。
苦しげに顔を歪める偽者の顔を眺めながら、しだりは無言で能力を解放した。
轟音を響かせて撃ち出された水の塊は、偽優とその背後にあった柱ごと叩き潰した。その水飛沫はコロッセオ端の壁面にまで飛び散った。
「……」
しだりは静かに己の手を見下ろした。
しかし、すぐに異変が起きた。残る3本の柱が振動を始めた。すると、壊したはずの目の前の柱がするすると復元を始めた。
そして、今度はしだりの右側にある柱から偽物が抜け出てきた。
「…」
じくんと失ったはずの角が疼いた気がしたしだりは無意識に額に手を伸ばした。
偽優が再びしだりへと攻め込んでくる。同じように振り上げた偽物の剣を、同じようにしだりはギアで受け止める。
先ほどの焼き直しのような状況に、しだりは違和感を覚えた。
(強くなってる?)
しだりには、偽優の攻撃が最初よりも速く鋭くなっているように思えた。
確かめるためとしだりが力を使おうとした時、輝く勾玉に反応したのか偽優が剣を構えながら大きく後ろへと下がった。
しかし、今度のしだりが撃ち出した水塊は、身構えた偽物の体を優しく包み込んでいた。
「凍れ」
次にしだりがその水へギアを触れさせれば、一瞬で白く凍りついた。そして、無造作に叩きつけたギアの衝撃で氷塊は粉々に砕け散った。
しだりは、ただ静かにその様を眺めていた。
また再び柱が振動すると、その柱より偽優が抜け出てきた。
駆け寄る偽物へとしだりも走りより打ち合った。
(成長してる)
打ち合わせる一撃一撃が、まだしだりの反射速度であしらえるが、先ほどよりも鋭く重い。
(たぶん偽物は本体ではない。四本の柱のどこかに核のようなものがあるはず。それを見極められるまで、紛い物を繰り返し壊せば良い)
激しく打ち合う中、しだりは冷静に考えた。
(でも、何故だろう。何か腑に落ちない。それが何か解らないことが、もっと腑に落ちない。このもやもやとした言いようのないものは何だろう)
じくりとまた額が疼いた気がした。
(コロッセオに来た目的を果たすには、相手を倒さなければならない。そして、相手を倒す方法を見極めるには、紛い物を壊すことが必要。だから壊すだけ。それだけなのに)
しだりの額にはっきりと皺が寄った。
(嫌だ)
偽優の剣をしだりは力任せにギアで弾き飛ばした。
「そうか。嫌なんだ」
しだりは被っていた帽子を投げ捨て叫んだ。
「これ以上、その姿を壊させるな!」
噴き出すという生易しいものではない、まさに爆発だった。
飲み込む全てを潰して押し流す激流、津波がコロッセオを瞬く間に水中へと沈める。
「うたかたの如く、溶けて消えよ」
水を渡りしだりの声が響くと、四本の黒柱が一斉に泡となって溶け崩れていく。そして、親しい友人の姿をした偽物も泡となって静かに溶けていき、その全てが消えた。
「ごめん。何度も壊して」
しだりの勾玉が青く輝くとゆっくりと水が引いていく。
しだりは額をさすりながら落胆していた。そもそもしだりがコロッセオに来た目的は示威行為だった。
旅団の幹部に、図書館側の戦力を示すことができれば抑制力になると判断しての参戦だ。
(なのに示したのは癇癪か。恥ずかしい、穴があったら入りたい)
コロッセオの後始末をしたら、管理人に一言詫びて帰ろう。しだりは黙々と水を引き戻していた。
[76] 【戦う】
「…………」
コタロ・ムラタナ(cxvf2951) 2012-11-29(木) 19:37
 一条の光線が開戦の狼煙となったのは、嘗ての邂逅と同様であった。

 或いは人狼公がそこへ意識を向けた時には既に戦いは幕を開けていた。けれど視線を向けた公を出迎えたのは、目を灼く光の奔流と、それを迎え撃つ何某かの激しい爆発であった事だろう。
 夥しい噴煙の奥、蒼白い光が妖しく揺らめく。天をつく巨影が揺れ、劈く咆哮が視界を遮る粉塵を吹き飛ばす。そうして土煙の内より姿を現したのは、嘗てヴォロスにてその存在を確認された異貌、竜刻の巨人。
 その圧倒的な威圧感へ息を呑む間もなく土煙の中で再度の爆発。同時、爆発の中から一つの影が飛び出した。
 軍人は嘗てその巨躯と二度相対した過去を持っていた。故に彼は巨人の手札の多くを知り、有効な戦法もまた承知していた。爆発反応装甲の理屈を用いた初撃の相殺、爆風を推進力に変える技法、どちらも嘗ての交戦にて用いた手段に他ならない。
 有用性は明白。跳ぶというよりも叩きつけられるような勢いで一気に距離を詰める事に成功した男は空中にて懐剣を抜き放ち、衝突の衝撃を利用し巨人の腹部へと勢いよく刃を突き立てる。開戦の光条からこの近接に至るまでに要した時間は、秒で数えられる刹那の出来事であった。

 竜刻の巨人の最たる特性は何よりもその巨躯に見合わぬ俊敏性にある。ただ太刀を振るうだけで衝撃波を齎す様からもそれは明白であり、故に通常の巨大種相手には有用とされる遠距離戦はことこの巨人戦に於いては困難と判断されていた。よってこの場、軍人に選択可能な最良手は、懐へと入っての撹乱戦唯一つ。

 胴に纏わりつく鼠に巨人は思わず身を捩るが、鎧を砕き深々と突き刺さった刃は鼠の身体を一時縫い止めるには充分だった。巨人の抵抗にその身を宙に踊らせながらも、軍人は懐剣の柄を握る腕とは反対の手で鎧の凹凸をしかと掴み己の身を支える。その背後へ不埒な鼠を払い落とそうと巨人の掌が迫った。
 けれどそれも読み筋の上!
 柄と鎧を握る二本の腕を支点に身を持ち上げ、巨人の腹へ素早く両の脚をつく。短い気合と共に巨人の腹を力の限り踏み抜けば、反動のままに軍人の身は再度宙へ踊った。限界を迎えた懐剣がつられて抜ける。その傷口が塞がるよりも早く、巨人は自らの手で自らの腹を殴るという愚を晒すに至った。
 巨人の咆哮が響く。
 跳ねた軍人はどこへ消えたか。彼の姿は巨人の腕の上に在った。腕が迫る僅かなその一瞬を狙い跳び移った、僅かでも拍子を図り損ねれば彼の身体は今頃巨人の掌に埋まっていた事だろう。
 急勾配極まりない巨人の二の腕を鎧の凹凸を足掛けに一気に駆けあがる。巨人が己の愚行に気付いた時には既に彼は巨人の肩の上へと身を移していた。軍人は己の足元へ符と放ち、一足飛びにその場から跳ねあがる。爆風が背を撫ぜ推進力となり彼の身を運ぶ。経験による先読みで軍人は二手三手先を取る。目的の場へと至る為。
 彼は戦いの当初よりそこを目指していた。初撃の光条をその場にて防いだ事も、腹部への特攻とも言える移動も、全てはそこへ至る為の布石でしかなかった。
 軍人の手にした懐剣が再び振るわれ、刃が再び巨人の肉に沈み軍人の身を宙へ留める。
 そこは巨人の後頭部。
 巨人の核となる竜刻の、真上である。

 超常的な能力を持つ竜刻の巨人と、旅人所以の特殊技能を幾つか所持しているだけの軍人の間には、本来圧倒的な力の差が存在する。火力、俊敏性、防御力、単純な能力どれをとっても軍人は巨人に劣った。その彼が唯一持ち得るただ一つの利は、己が経験というその一点のみであった。
 故に彼は読みを重ね、躊躇なき即断に身を委ね、そこに若干の無謀を付加しながら巨人と相対しただ一点の突破を狙う。
 巨人を構成する核となる竜刻の破壊。
 それこそがこの戦いの最終目的にして戦闘開始時よりの目標であった。

 なれど想像力が人のみの特性であると断ずるは傲慢である。
 目標が明確であればあるほど、目的を推し量る事も容易になるのが世の道理。まして狙うは対象の急所、相手がそれに対し何の警戒も見せぬ筈もない。
 読み筋の上、それは相手もまた然り。
 苦心の末に辿りついた弱点、けれど即座に彼の身体は巨人の掌に掴まれ、激しい力でその場から引きはがされる。視界が急速に回転し天地が逆転する。虚しくも突き立てられたまま残された懐剣が一瞬だけ目に映る。
 刹那、地に打ちつけられる激しい衝撃が彼の身を襲った。

 地へと叩きつけられるその一瞬、咄嗟に受け身を取れたのは一重に日頃の鍛錬の賜物と賞賛されるべき反射であった。だが巨人の圧倒的膂力の前にそれは余りにも些細な抵抗に過ぎないこともまた事実。立ち上る粉塵の中で身を起こそうと両手をつき必死に息を引き攣らせる軍人の様は、傍から見ても明らかな満身創痍。
 心無き巨人の追撃は冷徹。巨人はそれまで背に収めたままであった己の太刀へと手を伸ばし、身の丈ほどもある刃をすらりと引き抜いた。先程まで身の上を駆けまわっていた鼠は最早地に蹲るばかり。その無様を嗤うでもなく、巨人はただ無情に太刀を振り下ろす。鼠の最後の抵抗たる爆発が微かに響いたが、白刃はそのささやかな抵抗を剛力を以て押し潰した。
 幾度目かの噴煙。
 地を揺るがす轟音が鎮まった後、巨人は変わらず無情に太刀を収めようと腕を上げ、

 次の瞬間、崩れ落ちた。


 或いは人狼公の目は粉塵の中の出来事を正確に捉えたかもしれない。
太刀が地面を抉る寸前、軍人はその身を転がす事でその太刀筋から逃れ、また己の持てる限りの陣符の爆発を用いて襲い来る衝撃波を防いだ。満身創痍の男の悪あがきにしか映らなかったそれは、けれど斬撃に付加された衝撃波の威力を弱める事に辛うじて成功する。
 そうして撥ね飛ばされたその身を叱咤し、粉塵に紛れながら巨人の振り下ろした刃の切っ先へとその身を転がす。白刃の腹へと両脚を着く。五指が血を流すのも厭わずその刃を確りと掴む。
 そして巨人は刃を収める。切っ先に乗せた鼠に気付かずに。

 最後の力を両の脚に込め軍人は跳んだ。太刀の遠心力を最大に利用した跳躍は巨人の巨躯の更に高きを越え、弧を描きながら落下する。天地を逆転させ、頭上に大地を頂きながら、落ち行く先は巨人の背面。
 首巻に隠された口が常人には聞き取れぬ小声で呪を紡ぐ。あらん限りの魔力を込められた矢尻が青白い燐光を放つ。
 蒼い瞳に映り込むのは、先に残した己の懐剣。
 そして軍人は、引金を引いた。



 終了を告げるリュカオスの声に、荒れたコロッセオが元の姿を取り戻していく。巨人の亡骸は消え、受けた傷もまた消えていく。
 軍人は離れた場に落ちた懐剣を回収すると、小さく息を吐いた。そうして暫しの逡巡の後、意を決したように離れた場に立つ管理人へと向き直る。
「時間は」
「2分11秒。前回よりも20秒のロス、途中の失敗が響いたか」
「……相談、が」
「聞こう」
「数を、増やせるか。……三体は、同時に相手取れるよう、なりたい」
「ふむ、このペースなら近々行けそうだな。では後日正式に申請してくれ」
「……了、解…」
 管理人との事務的な会話を酷く時間をかけて切り上げると、彼は深く深く、陰鬱極まりない息を吐いた。
 近い先に訪れるだろう複数の巨人との訓練よりもそれを依頼する為の今後の手続きの方が、軍人ことコタロ・ムラタナにとっては困難なのだろうと知れる。……そんな、無様な溜息であった。
[77] 【戦う】
セクタン(cnct9169) 2012-11-29(木) 19:59
セクタンが目を開くと眼前に宿敵のクローンがいた。
ターミナルの三番区角最強の名を欲しいままにする猛獣の容姿が形成され、顕現する。
クローンとは言え、その眼光の鋭さにセクタンの全身を冷や汗らしき何かが伝った。

猛獣の咆哮にビリビリと全身の筋肉(?)が震える。
一歩後ずさったのは恐怖から。しかしそれでもセクタンは徒手空拳で猛獣へと突き進む。
人間には為せぬ野生の動体視力はセクタンの動作を捉え、瞬発力は軽々とゼリー状のボディに右足をぶつけた。

宿敵、その名をたま吉という。黒い毛並みの野良猫(2歳時に覚醒)だ。
市場街の残飯漁りで邂逅を果たして以来、何度も煮え湯を飲まされてきた強敵、いや天敵である。
その無双の百獣の王(※ただし三番区角に限る)にしてみれば、セクタンなど取るに足らぬ雑魚という自覚もあった。
そんな30cm近い尻尾を誇り、体重は3.5kgに到達しようかという恵まれたボディの持ち主に、だからこそ打ち勝ちたい。
この闘技場に挑んだのはそれがためである。

体制を立て直す暇もなく、たま吉の左足が再度、セクタンの頭部(?)を揺さぶる。
とっさに両腕で頭頂部をかばってしゃがみこんだのがアダとなったのか、たま吉の足がセクタンの上に置かれ、ごろごろと転がされる。
「にゃあ」
たま吉が勝ち誇ったように雄たけびをあげた。
セクタンの肉体を捕食しようと開かれた口、その口中にあった舌をセクタンの両手が思いきり握りしめる。
壱番世界の生物にとって舌は共通の弱点である。
セクタンの狙いはここにあった。この舌に攻撃を与えればいかに獰猛な獣でもひとたまりもないはずだ。
ぬるっとした感触で、握りしめた舌がセクタンの手から滑っていく。
腕に野獣の獣が食い込んだ。

「!!!!!」

声にならない叫び声をあげ、セクタンは闘技場の床に倒れでのけぞる。
視界の端にたま吉。
追撃をおそれ、痛みをこらえて立ちあがったセクタンだったが、
無慈悲なたま吉はそのセクタンをボールのように追いかけ、踏ん張る両足を軽々と持ちあげ鼻先で転がした。
「にぁー、なぁー。にゃー」
たま吉のヤスリのような舌がセクタンのブルー・ボディを這いまわり、
ざりざりとした感触がセクタンの薄い皮膚(?)を削る。

(……ここは一撃必殺にかけるしかない!)


転がされた勢いを利用し、首(?)をはねさせて背筋(?)で起き上がり、
セクタンは腰(?)を落として、正拳(?)の構えを取った。

(一発で……。逆転してみせる!)

優越感からか、あるいは慢心か。
たま吉はのっそりと歩を進める。
一歩、セクタンの足が引いた。
その瞬間、たま吉がセクタンへむかって突進する。

(勢いにあわせ眉間に拳(?)を叩き込む! タイミングを合わせるんだ。3、2、……)
静かに目を閉じる。
目を閉じたのでたま吉が見えなくなった。
なんか思ったより足音が近すぎる気がする。
心眼っぽくポーズきめておいて、今、目をあけたら格好悪いかな?

そんな事を考えている間にセクタンのボディにたま吉のおでこがつっこんで、
ブルーの体は空高くはねあがり、ぼとっと地面に落ちると、セクタンはぐるぐると目を回していた。

「にゃあ」

たま吉は咆哮をあげて闘技場の一部を揺らすと、
見物人の子供に見つかって尻尾をつねられたので、どこへともなく逃げて行った。
[78] 【戦う】
なんだよ?
一二 千志(chtc5161) 2012-11-29(木) 21:14
 一二千志は、自分と寸分違わぬ容姿をしたクローンを嫌悪ばかりが満ちた瞳に静かに映しこんでいた。 

 黒いパンツとジャケット、一束だけ銀のメッシュが入った黒い髪、両腕を覆う黒い装具、右眼の辺りを這う黒い刺青。見飽きる程に見慣れた姿で、見るに耐えぬ程に憎々しい姿だった。 
 しかし千志はそれから視線を外すことはなく、真直ぐに、視界の中央に捉えている。相手の呼吸一つ見逃さぬ意思の篭った眼光が、もう一人の千志を射抜いていた。 
 ほんの僅か、相手の脚が揺れる。二人の千志はほぼ同時に強く地面を蹴った。 
 
 最初の衝突音は重い拳同士のそれではなく、刃の触れ合う鋭く甲高い音だった。互いの影から精製された漆黒の刃が、空中でぶつかり合っては幻のように消えていく。その音は一度ではなく続け様に幾つも千志の周りで重なって響き、鼓膜を振るわせる。 
 しかし千志はそれでも、『自分』から視線は動かさない。二人の距離は既に充分狭まっている。拳を強く握り、腕を引く。鍛えられた身体が大きくしなり、踏み込んだ左脚が軸を作った。そうして振りぬかれた拳が、二人の位置のちょうど中央でぶつかり合う。痺れを感じるほど、重い衝撃。しかしニ撃目までに間は置かず、拳が離れてすぐ脇腹を狙い打つ。相手の視線が下に動いた。脚が後方にさがり、姿勢が変わる。視線が正面に戻ってくる。 
 二音が同時に響いた。相手の影槍が、千志の放った拳と、もう一つ。後ろから背中を狙っていた影刀を防いだのだった。相手の拳をこちらも影槍で受け、体勢を立て直す。 
 攻撃の意図がくまなく読みきられている。そのことは、この攻防だけで千志が理解するには充分な事柄だった。千志自身、相手の動作の一つ一つ、呼吸、目の動き、それだけで敵の意図がはっきりと読み取れているのだから。 
「相手も、自分だからか」 
 忌々しげに吐き捨てた。そこには間違いなく憎悪の感情が含まれている。綺麗事で自身の渇望を飾り立ててきた自分が、醜く見えて仕方なかった。正義を振りかざし、数多の犠牲を正当化してきた自分が、憎くて仕方なかった。 
 殺意を研ぎ澄まし、再び拳を握る。だが先に動いたのは相手のほうだった。繰り出された拳を両腕で受け、相手の喉元目掛けて影槍を突きこむ。身を捩り回避されたところを追撃しようと、さらに身を乗り出す。だが刹那、千志は咄嗟に左へ跳んだ。千志がいた位置に幾本もの黒い剣が突き出し、獲物を逃したと分かると一瞬で霧散した。   
 ここまで、実力も能力も完全に拮抗している。となれば、雑念の混ざらないクローンの方が多少優位だろうか。今のところは互いに一撃も許さぬ状態が続いているが、消耗戦となれば集中力が途切れやすいのはこちらの方。 
(……負けるつもりはねぇ。俺は、いつまでも自分ばかりに構ってるわけにはいかねぇんだ……!) 
 自己への嫌悪と失望で、立ち止まりかけていた。しかし、ほんの僅かでもやっと道が見えたのだ。「誰かを救いたい」と願った以上、このままいつまでも同じところで立ちすくんではいられない。ここで終わっては、誰を救うことだってできはしない。それどころか何処までも深く沈んで、戻れなくなるだけ。だから此処で、きっちり自分なりのケジメをつけると決めたのだ。 
 自分をこの手で殺す。それは依然としてこれまで自分が成してきたような自己満足に過ぎないだろう。それでも、これで前に進めるのなら構わない。そう思えるようになったのは、どこぞのお人よしの影響なのか。 
「俺にはまだできることがある。それを、信じたい」 
 千志の足元に伸びる影が、俄にざわついた。こちらの意図を読み取った相手が素早く後退する。それを許さぬとばかりに、千志の影からガラスの破片にも似た細かな刃達が蝙蝠の群のように羽ばたき出た。雪崩の如く襲い掛かるそれを、相手もまた刃の群を操り相殺にかかる。 
 しかし、相手が召還した影の群は突如目標を見失った。千志の放った刃が全て消失したのだ。相手が刃を操る隙に、千志自身も後退していた。標的を失った相手の蝙蝠の群がそのまま大きく空振りする。千志は真直ぐにもう一人の自分を見据えたまま、ジャケットから取り出した閃光弾を宙に放り投げた。


 ほんの数秒、コロッセオを眩い光が覆う。


 閃光に照らされた二人の千志の影が濃く大きく拡がった。同時に、双方の影から夥しい数の槍、刀、剣、針、鎌、斧、刃片、ありとあらゆる刃が召喚される。それらはそれぞれ黒い放物線を描き、互いを屠らんと宙を奔る。刃同士が嵐のように激しくぶつかりあっては弾けるように消失し、目も眩む空間の中で甲高い衝突音が何重にも折り重なってコロッセオの空気を揺さぶった。
 防ぎきれなかった幾本もの刃が、千志の身体を引き裂く。麻痺する視界の中で、千志はそれでも『自分』がいるはずの正面を睨む。
(前に進む。俺は、――)
 飛び交う刃の一つを強引に掴み、既に幾本もの赤い筋が滲む右脚が前へ動く。そのまま地面を蹴り抜き、ただ真直ぐ、真直ぐに突っ込んだ。刃を持つ腕から血が流れる。胴や顔にも次々刃は襲いかかる。肩を槍の一本が貫いた。それでも、前へ。脚は止めず、突き進む。


 光がおさまる。それはほんの数秒のことだった。


 コロッセオを飛び交う夥しい刃が一斉に消える。閃光に視覚を封じられたのは、互いに同じ。しかし、千志は前へ。もう一人の『千志』はその場に留まったままだった。千志の手にした一本だけの刃が、防御の遅れた『千志』の脇腹を穿つ。
 悲鳴にも似た呻き。体勢を大きく崩した相手の背に、千志の影刀がさらに追い打ちをかける。相手の影槍も未だそれを防ぎきらんと動いた。衝突する影。硬質な音。
 そして。千志の拳がついに『千志』の鳩尾を捉えた。もう一人の自分は血を吐いて崩れ落ちる。その首を、漆黒の刀が斬り落とした。

 乱れた呼吸を整えながら、千志は傷だらけの自分の身体に視線を落とす。浮かぶ表情は、彼には珍しい穏やかさの含まれた苦笑だった。
「まだまだ、駄目だな。こんなんじゃ全然なってねぇ」
 それから、視線に気づいたように観戦席の方へ顔を向ける。
(……ナラゴニアの会談で見たやつだったか)
 先の戦争で抱いた怒りの感情の残滓はまだ残っていた。ナラゴニアの連中にまったく不信感がないといえば嘘になる。それでも図書館とナラゴニアが互いに歩みよろうというのなら、個人が感情だけで口を挟むべきではないだろう。
 千志はいつもの仏頂面で人狼公に会釈だけすると、その場を立ち去っていくのだった。
[80] 【戦う】

雪・ウーヴェイル・サツキガハラ(cfyy9814) 2012-11-29(木) 22:22
 リュカオス・アルガトロスの告げる始まりの合図とともに、闘技場は漆黒の闇に沈んだ。
 雪・ウーヴェイル・サツキガハラは、一寸先すら見えない暗闇の中、特に不便を感じる様子もなく佇んでいる。――現世にあって幽世を感じ、姿なきモノたちを見、その声を聴き続けるヨリシロなればこそ、だ。
 現に、今の雪には、闘技場内部の様子が手に取るように判る。視覚ではない別の感覚が、彼に世界を把握させるのだ。
 その感覚によって、雪は、ゆっくりと姿を現す『敵』を捉えている。
「やはり……いる、な。そうそう容易く消えるものでもないか」
 ずるずると這いずりながらかたちをなしてゆくそれ、触手めいた無数の繊毛が蠢くとびきりおぞましい芋虫のような、そのくせまぶしいほどの純白をした巨大なモノを、雪はむしろ懐かしげに見上げた。
 それは、醜悪で禍々しくありながら、自らの白によって淡く輝き、周囲を照らしてもいるのだった。
「皮肉だ。――だが、だからこそ、なのかもしれない」

 悪意。
 邪気。
 憤怒。
 怨嗟。
 ――そして、絶望。

 負の想念がかたちをなしたもの、雪はそう理解している。
 コロッセオを利用するとき、雪が必要とするのは、常に自分との戦いだ。
 ゆえに、彼の前に姿を現すモノといえば、己が内にある、醜く獰悪な感情が実体を持った存在となる。
 十メートル近いサイズにまで膨れ上がったそれが、硝子を引っ掻くような音を立てて吼えた。心にさざ波を立てる、不快な音にも、雪の表情が変わることはない。
 自分の醜さ、弱さ、至らなさと向き合うこと。
 それが、雪にとっての第一の鍛錬なのだから。
「雪・ウーヴェイル・サツキガハラ、推して参る!」
 名乗りとともに地面を蹴る。
 前後左右どころか上下すらままならぬ暗闇の中、雪の足取りに迷いはない。
 呪いのごとき咆哮を上げた芋虫が、ぶよぶよと蠢きながら上体をもたげた。 全面に生えた繊毛が絡まり合い、強度を増して極太の針状になる。あれで貫かれれば、人体など勢いのあまり寸断されてしまうだろう。
 針は、同時に柔軟さも持ち合わせていて、芋虫の動きに合わせて大きくしなり、一斉に雪へと叩きつけられる。
 雨と降り注ぐ針の群れを、雪は眼ではなく意識で読み取り、躱し、時に黒太刀ミコトゴウエで切り飛ばす。速すぎて避けきれぬと判断したものは、わずかに身をひねり致命傷を回避するにとどめた。
 頬を、腕を、脇腹を、大腿を、刃と化した繊毛が撫で、斬り裂いて、肉をこそげ取っていく。
 しかし、雪の表情は変わらない。
 芋虫が発する仄かな光には、苦痛の向こう側を見据え、どこまでも透徹しようとする強い意志が浮かび上がる。
「……ッ」
 低い呼気とともにミコトゴウエが揮われれば、針は繊毛へとばらけて斬り飛ばされ、地面に散らばって消えた。
 返す刃で本体へ斬りつける。見かけによらぬ怪力を持つ雪の一閃に、刃は深く芋虫へと埋まった。切っ先を跳ね上げると、不気味なほどに明るい緑の体液がほとばしり、芋虫は上体を仰け反らせて咆哮する。黒い刀身から、戦いへの歓びが伝わってくる。
 芋虫がぎしぎしと軋んだ。
 あっ、と思う間もなく、瞬時に生成され打ち出された針に貫かれ吹っ飛んでいる。
 咄嗟に身をひねることでどうにか致命傷は避けたが、脇腹に一本、太腿に一本、子どもの腕ほどもある針に貫かれた。引き抜くと、目もくらむような熱を伴って痛みと血が弾ける。
「出し惜しみするなということか。――そうだな」
 焦るでもなくかすかに笑い、雪は黒太刀を構えた。
 ゆるやかに足踏みをし、切っ先で宙に陣を描く。
 左手は空をかき混ぜるように、何かを招くように、ゆるゆると天へ掲げられている。
 すぐに空気が変わった。
 雪を、眼に見えない、しかし壮烈で神々しい何かが包み込む。『場』に集うエネルギーを招き、我が身へオロし、力とする、雪の特殊能力、『カミオロシ』である。
 とたんに噴き出す血が止まり、傷口はふさがり、また、消えた。
 ゆらり、陽炎のように神秘的なオーラが立ち上る。
 次の瞬間、雪の姿は掻き消えていた。
 ――否、目視も出来ないような速度で跳躍していたのだ。
 一、二、三。
 その踏み込みで高々と跳び、眼にもとまらぬ速さで黒太刀を振りかぶる。
 重力に合わせた落下に任せ、裂帛の気合いとともに振り下ろせば、刃はずぶずぶと芋虫を貫き、斬り裂き、真っ二つに断ち割った。
 ごぼごぼとあふれ迸る緑の体液を避け、太刀から同じ色のそれを払う。
 力を失った巨体が地面へ崩れ落ち、消えていくのを確認してから、ひとつ、息を吐いた。
 内にある醜い利己が、容易く消えるとは思っていない。
 しかし、その利己と向き合おうと努めるからこそ、ヒトの魂は輝くのだ。
 醜悪な芋虫の姿をした、負の想念が、自らは白く輝いて雪を照らしてくれたように。
「精進あるのみ、か」
 低くつぶやくと、観客席に悠然と腰かける人狼公を見上げ、まっすぐに見つめたのち、優雅ですらある動作でミコトゴウエを腰に戻す。それから、儀礼に則った一礼をすると、雪は、戦いのダメージどころか疲労さえ伺わせぬ足取りで闘技場をあとにするのだった。
[83] 【戦う】
キリッ
ガン・ミー(cpta5727) 2012-11-29(木) 22:26
「むー」
 保護主から聞いていたコロッセオ。機能が回復し、再開したと聞いてやって来たのはいいが。設定する相手のことをすっかり忘れており、今の今まで考えていたのだ。
 そうして、やっと思いついて挑戦できるようになった。
「うむ、準備万端なのだー!」
 両手で軽々と、トラベルギアであるつまようじを振り回し、気合い充分。
 ――変わった色の東洋龍、登録名を、ガン・ミーという。

 ステージは、等間隔に木が生えている場所。なっている実は、まっこと見事な蜜柑。どうも、ガンの故郷を再現したらしい。
 相手は、壱番世界の人間と変わらない。その背には、簡素な道具があるのだが。
 ユゼン。ガンは、彼をそう呼んだ。
「……そっくりな別物と知っても、なつかしいのだ」
 それでも、ガンが知る人の中で、鍛錬の相手として充分な人間。
「でも、やることはやるのだー!」
 観客にリオードルがいることを気にせず、空回り気味のやる気をもつガンは、蜜柑の香りを漂いさせつつ相対する。
 ユゼンは、ガンを見据え、背から道具を取り出す。手のひらに収まる濃い藍のボールとナイフ。
「むう、さすがなのだー」
 つまようじを右手に持ち、じっとユゼンを見据える。
 先に動いたのは、予想通りというか、ガンの方だった。
「いくのだー!」
 不規則な軌道を描き、ユゼンに向かっていく。ガンの飛行速度は速い。とてもだが、目で追えるものではない。
 つまようじで斬り(?)かかるガン。
 だが、それは軽々とナイフで受け止められる。
「さ、さすがなのだー!」
 その声に焦りの色があるのが、よくわかる。
「でも、それでこそユゼンのコピー、む、クローン? あー、もういいのだ!」
 喋ってる暇があるなら、離れろ。そう告げるが如く、つまようじをはじき、ナイフで斬りつけるユゼン。
「い……っ!」
 痛みで顔をしかめるが、二撃目の藍色のボールを持った左手が動くのを見て、慌てて距離を取り、木の影に隠れる。
 あの藍色のボールは厄介な物だと、ガンは知っていた。何せ、捕獲網が仕込まれているのだ。捕まれば、自分の負け。
「む、むむ……」
 攪乱しようにも、先ほど負った傷のせいで難しい。みかんどらごん族特有の、柑橘の匂いが強くなっているのだ。
「ど、どうすればいいのだー……」
 半ば混乱しつつ、作戦を考えて首を振って破棄をする、という行為を繰り返した。ゆらゆら、良い色になった蜜柑が、揺れていた。

 蜜柑のなる木に隠れたガンを追うのは得策ではない、というかの如く、ユゼンはナイフを構えたまま立っている。見る者が見れば、戦闘態勢を崩していないことがわかるだろう。
「え、ええい。作戦を考えるなど、我の性分ではないのだー!」
 木の上部から聞こえた声。同時に、葉をかき分け、橙色の物体が飛び出してくる。柑橘の匂いが強いそれは、真っ直ぐに飛んでくる。
 無謀な。そう告げるかのようにナイフを振るうユゼン。だが、
「ひっかかったのだー!」
 ナイフが割いたのは、このステージになっている蜜柑、だった。よく見れば、皮に傷がついている。
「空蝉の術、なのだー!」
 いやそれ違うから、変わり身の術だから。そばに保護主がいれば、即座に突っ込まれたであろう。だが、ここにはいない。
 微妙に勘違いしつつ、ガンはまた、高速で飛び回る。そのガンは、あと数個、蜜柑を持っているのだが、速度が落ちていない。
 その手にした蜜柑を投げ、ユゼンを攪乱する。いつの間にか、そこら中に柑橘の匂いが充満している。
「(狙い通りなのだー)」
 声を出してしまいそうになるのを、この場で発揮した根性で押さえつけ、ガンは笑う。
 これで、ユゼンは匂いでガンの位置を知ることができない。
 そして、
「決めるのだー!」
 結局声を出してしまったガン。勢いのままに、ユゼンへと向かう。右手のつまようじで再び斬りかかる。
 ユゼンは、右手のナイフで止めようとする。が、ガンが、急に横にずれた。そのガンの左手には、大ぶりの蜜柑。
 ガンは横にずれる直前に、蜜柑を前へと突き出していた。ちょうど、ナイフに刺さってしまったが、これこそ、ガンの狙い。
 驚いたのであろうユゼンの隙を逃さず、つまようじでユゼンの左手を刺し、ボールを落とさせる。そして、
「これで終わりなのだー」
 すかさず首元までのぼり、つまようじを勢いよく刺す。
 ユゼンの姿をしたクローンは、瞬く間に崩れ去った。

「ある物を利用しろ。ユゼンの教えなのだー」
 刺した感触が嫌だったのだろう、ガンはつまようじを振ってから、パスホルダーの中にしまった。
 そして、ステージに背を向けて、
「今年の蜜柑は、酸っぱそうなのだー」
 そう一言、戦いに関係のないことを呟き、去っていったのだった。
[87] 【戦う】
コネチワ!壱番世界!
イテュセイ(cbhd9793) 2012-11-30(金) 00:00
開始の合図が鳴っても2人は動かなかった。

(…あの構えは風雪…)

前へ出る。相手は動かない。そのまま突っ込む。
「ぱーんち!」イテュセイの最強の一撃が敵のスーパー武人Xの懐へ叩き込まれる!
しかしそれは当たらなかった。武人は構えから鮮やかな動きを見せ見事に攻撃をかわし、イテュセイの目に人差し指を突っ込むのだった…

(これじゃだめだなあ!)
相手の構えから先の動きを予測したイテュセイはすぐさま別の手を考える。
(じゃあ横からの一撃を…)
構えを変える。と、武人もこちらの次の動きを予測したかのように構えを変える。
(うむむ…風穴(ふうけつ)か)

横からの攻撃に対応し後へ身をかわし反撃する。イテュセイの構えからではこの構えに対応できない。
(めんどくさい!)
いっそのことこちらも受けに回れば相手も動かざるのではないか。構えを「虎穴」に変え、じりじりと相手との間合いをつめようとする。

(っな…!点心?)
武人がおまんじゅうのような構えを取る。先ほどとは打って変わって攻撃的な、虎穴をも一気に貫かんとする構えである。

すぐさまこちらも点心の構えを取る!武人の動きが止まる。
危ないところだった。あと一瞬遅れていたらやられていた…

(なかなかやりおる…)
汗がほほを伝うのがわかる。虎穴の唯一の弱点といっていい構えを知っているとは。
しかし双方点心の構えならば互いに相打ちの危険性がある。そう簡単には攻め込めない。
だがすぐに方策を考える必要はある。

(ならば上から!)
「竜滅」。敵の動揺が見て取れる。武人はすぐさま「暗深」の構えを取るがその定石を知っているイテュセイはその前に「地斬」の構えになっている。
だが、武人もそこは知ったるもの、イテュセイが攻勢に出る前に「竜滅」の構えを取る。

そこが分かれ目だった。イテュセイはその武人のミスを見逃さずとどめの「崩落」の構えを取る。

武人は自分のミスの気づき、己の敗北を悟る。
膝を付き、頭をたれるのだった…

めっこ、WIN!
[93] 【無限のコロッセオ】人狼公の挑戦!
アリッサ・ベイフルック(cczt6339) 2012-11-30(金) 14:19
<オープニング>

 コロッセオで次々に演じられる戦いを、人狼公リオードルはいずれも興味深く、感じ入ったように眺めている。

 ファルファレロ・ロッソが銃でワーウルフを仕留めるさまには、片頬をゆるめた。誰に訊かれたわけでもないが、
「俺の身体にも、何発か銀の弾丸が埋まっているのだ」
 と、つぶやいた。

 セクタンとたま吉の勝負には大笑いをして手を叩いた。

 雪・ウーヴェイル・サツキガハラがカミオロシを見せたときは、なにかを感じたようにぶるりと身震いをする。

「実に達者だ。なるほど、旅団の戦士たちと渡り合い、ついに下しただけのことはある」
 満足げにうなずき、そして、
「この闘技場ではロストナンバー同士の戦いも行われると聞く」
 と、言った。
「ならば、俺が挑戦しても差し支えあるまいな?」

 まさか、と戸惑うリュカオスに、人狼公は今見た戦いの数々を思いめぐらせ、そして、告げるのだった。

  *

「俺が? あいつと……?」
 戦いを終えて、去りかけたところ、リュカオスに引き止められて胡乱な表情を見せたのは――、一二 千志であった。
「済まないが、人狼公のご指名なんだ。もう一戦、つきあってやってくれないか」
「……」
 しかたなく、闘技場へ引き返す。

 すでにそこにはリオードルが待っていた。

「影を操る技も面白いが、同じ技をふるう相手にとっさの機転で勝機を呼び込んだのは見事であった。俺はナラゴニアの人狼公、リオードル。手合せを願えるか、ターミナルの戦士よ」

 無造作にフロックコートを、そして、シャツまでも脱ぎ捨てる。
 リオードルは千志と同程度の身長で、闘士型の体格も似ている。筋肉の付き方や体重の運びは、どことなくボクサーを連想させた。
 
「武器はなんでもいいのだな?」
 リュカオスに確かめるや、傍らの空間が出現したのは、リオードルの身長ほどもの砲身をもつ黒鉄のガトリングガンだ。
「遠慮なくくるがいい」
 リオードルは言った。


<ご案内>
コロッセオを観戦した人狼公リオードルは、一二 千志(chtc5161)さんに対戦を申し込みました!
お手数ですが、千志さんは、下記要領でプレイングをお送り下さい。

宛先:リュカオス・アルガトロス(chrh6951)宛のキャラクターメール
https://tsukumogami.net/rasen/player/mex?pcid=chrh6951

文字数:400字以内

締切:12月1日13:00まで

※便宜上、メールシステムを利用しているだけですので、プレイングのみ、お書きいただくので構いません。
※締切までに送られたもののうち、いちばん最後のものだけを採用します。
※非公開設定欄などは参照しません。ステイタスの記録は行われません。

●ルール
いただいたプレイングをもとにミニノベルを作成します。
今回は、ノベル公開後一定期間だけ、特別に「プレイングを公開します」ので、あらかじめご了承ください。
あわせて、担当ライターによる「判定の根拠」も公開します。

それでは、ご健闘を祈ります。

(以下、このスレッドは【雑談】にご利用いただいて構いません。
 また、【戦い】にご参加いただいたすべての方に深く感謝します。ありがとうございました!)
[102] 【無限のコロッセオ】人狼公の挑戦!
アリッサ・ベイフルック(cczt6339) 2012-12-02(日) 00:51
<ノベル>

 戦いの舞台は何も用意されない。素のままの石舞台だ。なんの小細工も入り込む余地のない勝負であった。
 人狼公のガトリングガンが火を噴く。石の床が穿たれてゆくなか、千志は弾幕を避けて跳び、駆け、転じた。

「どうした。逃げてばかりだぞ!」
 リオードルがからかうように咆えたが、千志は答えのかわりに、影の刃で弾丸を弾いた。足元から上方へ、さかしまの黒い雨のように沸き立つ細かな影の刃が、ガトリングガンの掃射から千志を護った。
「思ったよりも堅牢だな――」
 リオードルの狙いは正確無比だ。千志に射程のある武器がなければすでに詰みだったかもしれない。蜂の巣にされずに彼に近づくことができそうもないからだ。
 だが、千志の駆る影刃の群れが、黄昏に飛び立つ蝙蝠のように旋回し、リオードルへ襲い掛かった。
 刃の狙いは顔だ。リオードルは片手で顔をかばった。その間も信じがたい膂力でガトリングガンを片手で支えたままだ。だから視界を瞬間、奪ったところで弾幕を途切れさせることはできなかった……のだが。

「!」
 軋むような音とともに、掃射が止まった。
 影の刃が、銃口に突き刺さっていたのだ。千志が狙ったのはリオードルだけではなかった。
 そのときにはもう、千志が一息に間合いを詰めてきている。漆黒のガントレットに覆われた拳が風を裂く。リオードルは沈黙したガトリングガンを防御に使った。黒鉄が激しくぶつかりあう音。
 間髪入れず、千志の足元の影から、まっすぐに槍上の影が突き出し、砲身を貫いた!
「やるな!」
 これで銃は封じた。
 しかし千志は油断しなかった。むしろいっそうの集中とともに身を引き締める。アドレナリンが、千志のカンが、激しい警鐘を打ち鳴らしているのだ。人狼公リオードルの本当の得物は銃などではない、と。その肉体と、動きを見ればあきらかだ。
 その推測の正しさを裏付ける、鋭いパンチ。
「……っ」
 寡黙に戦っていた千志にも、低い呻きをあげさせずにはおかない、重いボディブローだ。

(速い)
 戦いが接近戦に移行することでさらに高められた集中力は、痛みが脳に到達するよりも速く、リオードルの次の動きを予測している。だがわかったことは、次の一撃もまた避けられない、ということだった。
 したたかに、顎を打たれ、衝撃が頭蓋を震わせる。
 そして肋骨へ三発目。
 四発目は鎖骨へ。
 五発目にしてようやく追いついた腕が止めた。
 射抜くような眼力に闘志を込めて見返す。二秒前に足元から全方位に発射されていた十二の影刃が、それぞれ別々の軌道を描き、リオードルに襲いかかろうとしていた。影刃に場を譲るようにバックステップで半歩後退。跳びながら、口の中に溜まった血を吐いた。
 リオードルの両の拳が電撃的なすばやさで三つの影刃を叩き落し、膝で一つを弾いた。同時に身体を捻って三つをかわす。千志の視覚には、飛び散る汗の玉の中をぎりぎり皮膚をかすめて飛んだ刃の軌跡がスローモーションで視える。
 まだ五つの刃が健在だ。
 二つが肩と腕をかすめて切り裂く。一つを、リオードルはなんと噛みついて砕いた。だが一つは下腹に突き刺さる。これは効いたと見えて、最後の一つも避け損ね、二の腕に刺さった。
 それでも人狼公は怯まず向かってきた。千志もファイティングポーズで迎え撃つ。真っ向からのカウンター……というのは見せ掛けで、フェイント。さきほどリオードルが避けた三つの刃が旋回して戻り、防御に回ってリオードルの拳を受け止めた。
 だがリオードルの拳の勢いは、影刃を叩き壊してなお余りあった。とはいえ、抵抗がわずかにスピードを遅らせたその隙に、千志は体勢を低くして突っ込んで行ったのである。

 このまま殴り合っていては必ず圧し負ける――それが千志の下した判断だった。
 一気に片をつけるよりないのだ。
 リオードルの身体に組み付いた。ボクシングで言えばクリンチだ。
 ボディを拳の雨が打ったが、千志は離れない。レフェリーがいたら引き離しにかかったかもしれないが、このリングにはいなかった。
 そのとき、空気を震わすおそろしい咆哮が響いた。
 リオードルに抱きついている千志は、幸いにもその恐るべき変身の過程を直接見ることはなかった。そのかわり、腕の下にとらえている相手の肉体が、不気味にうごめいて、変化していく感触をまざまざと感じた。
 次の瞬間――、焼けた鉄串を何本も突き立てられたような痛みが千志を貫く。それが異形に変じたリオードルの、狼の牙と爪の仕業だった。石舞台に血がしたたる。見る見るうちに血溜まりになる。その血が、ふいに沸き立ったように見えたのは錯覚か……いや、違う、動いたのは千志の影だ!

 咆哮とも、絶叫ともつかぬ声。
 よろり、と自由になった千志の身体が傾いで、しかし、踏ん張った。
 対するリオードルは……影の剣に貫かれていた。抱きついた状態では千志の影は二人の真下にできる。そこから撃ちだされた影の剣が、人狼公を串刺しにしたのだ。そのときはじめて、千志はリオードルの変身した姿を見た。
 どう、と仰向けに倒れる。
 骨格が組み変わる不気味な音を立てて、リオードルがもとの姿に戻ってゆくのを、千志は血まみれの肩で息をしながら見ていた。
「くそ」
 リオードルも、仰向けになったまま、厚い胸を大きく上下させていた。
 影の剣が消えると、傷は急速に癒えていく。
「やられた」
「……」
 千志は、手を差し伸べた。
 リオードルはゆっくりと半身を起こし、その手を握る。ぐい、と引き起こされ、立ち上がると、いっそうの力を込めて握り返した。
「よく鍛えているな、ターミナルの戦士」
「一二 千志だ」
「今日から『人狼公を串刺しにした男』と名乗ってもいいぞ」
 リオードルは笑った。
 屈託のない笑みだ、と千志は思う。この男は獰猛で残忍だが、実直ではあるのだろう。
「今さらだが」
 千志は言った。
「ターミナルへようこそ」
 表情は、しかし、仏頂面のままだった。

(了)
[103] 【無限のコロッセオ】人狼公の挑戦!
アリッサ・ベイフルック(cczt6339) 2012-12-02(日) 00:52
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