:import 導きの書→ 「朱い月に見守られて」の遺跡にワームが侵入する予定です:order_4_lostnumbers→ ワームの侵入を�27譌・ – 荳願ィ倥・蝓九a霎シ縺ソ繧ウ繝シ繝峨r繧ウ繝斐・縺励※雋シ繧贋サ倥¢縺ヲ縺上□縺輔>縲� 莠コ豌励お繝ウ繝医Μ繝シ 縲主ウカ譌・ココ繝サ闊ケ譛ィ譁・ョ�縺ョ髮「蟲カ諠・ア繝サ譯亥・・「蟲カ驕翫・蟲カ證ョ繧峨@・」縲上・莠コ スクリーンには意味不明な文字列が映し出され、卓上の茶缶は沈黙している。「あれー、宇治喜撰ハングしちゃったみたいだね。再起動ボタンとか無いのかしら」 脇でにやにやしていたエミリエが茶缶を段ボールに放り込んだ。そのうち誰かが回収してくれるだろう。 そして、ロストナンバー達に振り返ると、えっへんと咳払いをした。「ええっとね。今のはナシで~~。『朱い月に見守られて』の遺跡にワームが侵入するんだって、みんなで倒してちょうだい」……「えっ、戦えって予言じゃ無いって!? エミリエ難しいことわからな~い」 遺跡というのは、『朱い月に見守られて』のフォンブラウン市の地下深くにある遺跡だ。長いトンネルがあるので、ロストレイル号の発着駅として利用されてきたという経緯がある。 しかし、その一方で旅団が関心を示しているという情報もあり。調査が検討されていた状況であった。 † ぼくの名前はさつき、岐阜さつき、明階二級の資格を持つ神学者だ。……神官はやめてしまったけど、神学者は神学者だよ。誇り高い茶柴一門の出身で自由交易都市フォン・ブラウンで研究を続けている。 うん、核爆発に巻き込まれたり、クーデターに巻き込まれたり、色々あったけど、いまもここでロストナンバー達の案内役をやっているんだ。―― 私のことも紹介してくれませんか? ええっと、こちらの口うるさい猫は、考古学者のシュリニヴァーサ、普通の猫は神とか歴史に興味ないんだけどね。彼は変わり者なんだ。―― ありがとうございます。 それでね。この『遺跡』なんだけど。 そうそう、ロストトレイル号の駅は『遺跡』の一部なんだよ。 この『遺跡』は巨大な斜坑で、古代の機械で壁が埋め尽くされている。ここが何のために作られたのかを解明するのがぼくらの研究課題だ。ぼくは神様が作ったんだと思うんだけど、シュリニヴァーサは犬族と猫族が共同で作ったのだと考えている。ちょっと信じられないけどね。ぼく達にはこんな技術は無いよ。―― あなたは神を信じることを辞めたんじゃ無かったんですか。 それは違うよ。ぼく達が神と呼んでいたのはロストナンバー達のような普通の人間 ……そう人間だったんだよ。 奇跡を起こすような力は無かったみたいだけど、それでもこの『遺跡』を作ることくらいはできたんじゃ無いのかな。今はどこで何をしているのかわからないけど。―― 遺跡の説明はいいのですか? 見ての通り、『遺跡』は機械できていて、ロストレイルが到着するときはいつもこんな感じで動いているんだ。 こう、ゴゴゴって音が響いているでしょ。プラットホームにあわせてビームが光っているし。それから、信号灯が点滅していたり、ぼくは思うんだよね。ここの構造ってリニアに似ている気がする。 そうそう『遺跡』は斜めのトンネルだって言ったよね。 上にはここからしばらく続いているんだけど。途中で行き止まりなんだ。だから、地上に出ることはできないんだ。―― 先日入手出来た犬たちの聖典の偽典外典によると地上まで建設する計画はあったようですね。 えー! そうだったの!? 知らなかったよ。じゃ、この『遺跡』は未完成って事? なんに使うつもりの施設だったんだろうね。 それからトンネルをね、下の方に進むとずーっとまっすぐに伸びていて、最後には円環状の回廊につながっているんだ。 ̄ ̄ ̄○こんな感じ。―― 円環状の機械というと粒子加速器を彷彿しますね。 なんなんだろうね。―― ちょっとさつきさん。K中間子の反応が低下しません。 ん、どうしたの?―― ロストレイル号が来るときは色々な粒子が観測されるのですが、いつもすぐにおさまるんですね。それが、ずっと出続けているようです。先日の地震以来『遺跡』の活動レベルが高いのでこれからなにかが起こるのかもしれません。
―― やつ ら ……どこ ……から 螺旋特急はプラットホームに滑り込み、一行はロストレイルを降りた。 駅は遺跡を利用して作られている。 この世界に降りたったばかりの犬猫が建造したという遺跡、その目的は既に歴史の彼方に失われてしまっている。そのために、かねてより調査の必要性が主張されていたが、立て続けの事件により後回しとなっていたのだ。 そこでワームの予言が現れたのが幸いと調査をすることとなった。 経緯はともかく、図書館は旅団に先んじて調査に取りかかることができたと言える。 「予言があるから後手にまわらないで済んでいる ……か」 小依来歌が嘆息する。 担ぎなおした対戦車ライフルは微弱な重力の元で軽い。しかし、それでも質量は元のままだ。小柄な彼女は小銃が安定させられない可能性を危惧していた。 柴犬のさつきが案内を買って出る。 「この斜坑の目的はまだ解明されていません」 壁一面に機械でうめられている斜坑は地底深く続いている。 ジャック・ハート以外の三人はこの世界には初めてだ。最初に来た頃はロストレイル号が到着したときだけ遺跡は息を吹き返し、不思議な活動をしていた。しかし、今回はロストレイルから降りてずいぶん経つのに収まる気配がしない。 学者猫のシュリニヴァーサによるとここ最近はずっと稼働しっぱなしだという。 ―― ……超対称宇宙 ……橋頭堡 正確には、ロストナンバーの活躍によってこの世界に大気が発生した時からだ。戦場となったこのフォンブラウン市は旅団の魔女っ娘大隊との激突もあり、なにが直接の原因なのかは判然としない。今も集まってくるデータを分析中だ。 「旅団のヤツラにゃワームは十八番だからナ。で、死んだパールは遺跡調査を希望してたッてェ話だ」 そして、今回のワームの予言である。ジャックは大仰な身振り手振りで機械坑を下る。部族戦士はワームが下から現れると信じているようだ。 「つまり……この世界を侵攻すべく魔法少女大隊とやらが行動を開始したッてことだろ」 ステップを踏むと、軽い重力に牽かれて緩やかに降下。 それを追いかけるドラゴンはトラックの荷台に乗っている。柴犬と残りの二人のロストナンバーもだ。 五十嵐心はきょろきょろと機械群を観察していた。 「それにしても朱い月に見守られて、か。初めて来る世界だといつも思うけど、不思議な世界だね。周りを見渡しても機械だらけ」 「機械だらけはここだけです。市街地の方はもっと活気があります。ここは特別なんですよ。あっプラントとかは別ですね」 猫のシュリニヴァーサが応えると、心は失礼になら無い程度にそっと視線を外した。遺跡を観察していると思えばおかしくは無いだろう。 「予言のワームはどっから入ってくるんだろね? 旅団でも、遠隔操作で地面の下にいきなりワームを送り込むなんて、むりだよね?」 こうドラゴンが指摘すると、サイキック女子高生が来た上の方を見上げた。斜坑は上に登っても途中で行き止まりである。それなのにロストレイル号はディラックの空から直接このトンネルに現れる。それも下の方からだ。 「ロストレイルと一緒なら、この辺りに現れて駅の場所で止まる? 私達にできて旅団にできないとは考えない方が良いと思うわ」 それに小依が同調する。 「ジャックもテレポートできる ……どこから来るかわからないわ」 ―― そんな計画は人道的に許されない! それはさておき、遺跡自体の調査は深く潜らないとできないのも確かである。現地人が遺跡に近寄らないように言い含めて、一行は進むことにした。 「機械遺跡かぁ…わくわくするね! これはもう、徹底的に調査しなきゃ!」 「ええ、ユーウォンさん。ぼくもです。きっとすごい秘密が隠されているに違いません」 ドラゴンのユーウォンはさっそくさつきと打ち解けたようだ。さつきはみみの付け根をさわさわされて気持ちよさそうだ。 シュリニヴァーサのトラックには計測機器が積み上げられている。二人は荷台でそれらをいじっている。 高速中性子のようなありふれた放射線に始まり、各種中間子と自然界では存在しないエネルギーも観測されている。自然な状態とは考えがたい。 「これらを遺跡から観測したときにロストレイル号が来たのです」 ユーウォンを中心として盛り上がる中、小依来歌は慎重に周囲を伺っていた。調査中といえども、いつワームが現れるかわからない。 そして、いつしか五十嵐心はトラックから降り一行から少し離れていた。 ……猫、かぁ 彼女は幼少のころに、撫でようとした猫に手をひっかかれたことがあるのでついつい警戒してしまっていた。 ……シュリニヴァーサさんの事もちょっと恐い、かも 確かに、シュリニヴァーサいかにも学者らしく気むずかしそうにも見えた。 ―― そのためのこの仔達だ やがて、一行は最下部に辿り着いた。 ここでは回廊が円形の輪を構成している。直径は数kmあり、ゆったりと曲がっているのが見える。 未知の金属製のレールがいくつも折り重なり、コイルとも思える重層構造になっていた。 さらにはそのすきまを無数の配管が通してあった。配管は近づくところころと音がし、中をなんらかの流体が勢いよく通っていた。ひんやりと冷たく、まるで宇宙の冷気がしみ出してきているかのようであった。 サイキック女子高生五十嵐心は身震いがすると壁からそっと離れた。 そして、扉もいくつかあり、手近なものを開けると整備用と思われる道具が安置されているだけの部屋ばかりであった。 「これらは、掃除用具のようなものでしょう」 「この遺跡って、環境を安定させる装置かと思ってたんだけど、違うっぽいね。円形回廊を乗り物がぐるぐる走って、その勢いで宇宙へひゅーんと飛び出す装置……?」 この複雑な機構は、神が作ったというのが犬の伝説であるが、学者猫はこの世界に漂着した最初の犬と猫が作ったと考えている。 いずれにしても用途は不明だ。 ユーウォンが考えるようなマスドライバーだとしたら、斜坑が途中までなのが不可解である。ただ、遺跡が未完成であるという説も根強い。 「……星間攻撃用リニアカノン? もしくは移動用の何か……? いや、安直・突飛すぎるかな。トンネル終端の延長線上、地上の空の先に何があるのかも判らないし。正直、粒子加速器とか高エネルギー物理学とかそういった分野についてはさっぱりね」 小依は立ち止まり、空想する。 確かに構造はマスドライバーに酷似している。 この世界でも、都市間の移動はマスドライバーで打ち出されたシャトル――通称リニアによって行われている。 これだけの大きさがあれば、この世界の脆弱な重力を振り切るのもたやすい。 天空に浮かぶ朱い月に到達することもできるであろう。 だが、はたして真実そうなのであろうか? ―― どちらにせよ。我々はこの次元から抜け出すことができない 五十嵐心ははっとした。 太古から届く思念。 この世界に降りたったときからうっすらと響いてきた想いは、ここにきて曇りが晴れたように明晰になっていた。今日はESPの感度が良い。 ―― インフレーションの時に分化した隣の宇宙があるはず 誰かに呼びかけられた気がして心は変哲も無い壁の前で立ち止まった。 壁を眺めていると、ジャックが割り込んできた。彼は電子の流れを能力で追っていたようだ。 「ヒャッハー、この向こうに部屋があるぜぇ! エレキ=テックの目はごまかせねーよ」 「そのようだね。強い想いを感じる」 ジャックが壁の向こうにテレポートし、しばらくすると、配管の後ろに扉が開いた。 「これは扉でしたか、管が……ちょっと近づきにくいですね」 「ここ、かがめば通れます」 赤柴一門のさつきにはちょうどよい大きさであった。これは連綿と続く柴三家が支配的地位を有している理由の一つなのかもしれない。 幸いなことに、ジャック以外のロストナンバー達は一様に小柄で行動に支障が無かった。そして、一人だけ大きいジャックはテレポートができるので遮られることは無かった。 玄室に入ってみると、そこはコントロールルームであった。 壁一面にディスプレイパネルが設置されており、遺跡の全体像が掴みやすい。一行が部屋に侵入すると、スイッチを入れるまでも無く、それらの機構は息を吹き返した。 節電状態が解除されたのだろう。 ユーウォンを興奮させる材料は十分にあった。 「はぁ~。目に付く物は片っ端から、ぜーんぶ、目一杯いじるよ。開く所、取れる物、入れる隙間、押せるスイッチ……いじれそうな物は、天井から床まで何一つ見逃すもんか」 「ちょっと、気をつけてね。この世界で死にかけたロストナンバーは何人も居るんだよ」 「大丈夫、こんなとこには罠なんかないはずだし、ちょっといじったからって死ぬほどの事にはならないよ。それでもやばいって言われたら一人だけでやるよ。万一部屋が真空になったりとかしても、おれならしばらく生きてられるし……」 コントロールルームの気密が失われると言うことは十分にあり得る。椅子に宇宙服を着たまま座れるようにくぼみがつけられているものがあるからだ。 とは言え、その確率は低いであろう。もはやこの世界は真空の世界では無いからだ。 そして、この部屋もひんやりと冷たい。それは活力を失ったこの世界の寂しさでもあった。 マニュアルのようなものは見つからなかったが、気にせずユーウォンがボタンを順番に押していった。何か起きれば、チャンスと。いくつかのレバーを上げ下げし、ボタンを叩いていくと、唐突にディスプレイが点灯した。 そして、起動シーケントが終わるのを待つと、ディスプレイの一つにこの世界と朱い月の模式図が表示された。よく見れば、この遺跡そのものも小さくある。 となるとこの遺跡は本来は朱い月に関連するものなのであると推測された。 「伝説は本当だったのですね。ぼくたちはあの空の朱い月からこの世界にやってきたと言い伝えられています」 「すごいよすごいよ。おれたちすごい発見しちゃったのかもしれないね。なんか押せば、あそこまでいけるのかもしれないね。それともデュラックの空からの入り口が開いちゃうとか?」 そう言いながらユーウォンが画面上に手を触れると、ブーンと言う音共に次々と画面が切り替わっていった。 ディスプレイの中の朱い月が点滅し、吹き出しには数字が表示される。そしてカウントダウンが始まる。 「完成していたのか!?」 そして、冷気と共に遺跡は起動した。 ―― カラビ・ヤウ空間をこじ開け、次元を超えるのだ 千年の眠りから息を吹き返し、真空エネルギーを転換し密度が急上昇する。 「こ、これは……」 部屋の外から遺跡の息吹が強く感じられる。 それは配管の中の流体がマッハを超える響きであったり、電磁リレーが次々とつながっていく音であった。高圧電流はコイルを唸らせ、それがまた新たな乱流の起因となる。 3、2、1…… カウトダウン終了と共に、落雷を彷彿させる衝撃がコントロールルームを貫いた。 ディスプレイを見ると、遺跡図が変化していた。ジャックの口からどよめきが漏れる。 「おいおい、マジかよ」 「トンネルが……」 赤いワイヤフレームが遺跡上部に延長されていた。それは一行が下ってきたトンネルからまっすぐ伸びており、地上までつながっていた。 「あれが地上につながったのか?」 「それより、これ! 朱い月が!」 画面上の朱い月が欠けはじめていた。最初は0%であった表示がみるみる加算されていく。 70% ――80% ――――90% そして、100%の表示と共に遺跡から朱い月に向かって螺旋を描いて光が描かれた。 肌が粟立つ冒涜的な感覚。これはよく知ったものだ。 ジャックの怒号が響き渡る。 「野郎! ワームが来るぞ!」 † アステロイドベルトを航行中の魔女っ娘大隊もその異変を観測した。 「提督、あなたの負けよ」 外的要因に世界律は改変される。 † フォンブラウン市に脇に突如出現した陥孔。 トンネル貫通によって生じた噴煙は、先日から吹きはじめた風に巻かれて勢いよく拡散していった。乾いた砂塵が巻き上がる。 遺跡の斜坑を延長した先、地上に出て、そこから空を見上げると朱い月が浮かんでいる。螺旋軌道を登れば容易に到達できるだろう。 この世界を象徴する朱い月は今や三日月のように欠けていた。その欠損は決して惑星の影なのでは無く、その向こうに遠い深淵を覗かせている。 ディラックの空だ。 突然の天変地異に犬たちは頭を垂れ、猫はどよめいた。 世界繭に穴を穿たれた世界は夷敵を呼び込むのは必然。虚空に潜み棲むワームは敏感にエサの臭いをかぎ取り、ゲートをつたって這いよる。 朱い月は時空ゲートとしての真の姿を取り戻していた。 † その様子は遺跡奥深くのコントロールルームでも把握できた。 耳をつんざく警報音が鳴り響く。 ディスプレイ群に、この世界とゲート、そしてディラックの空との位置関係が表示されている。そして、小さな光点には『時空獣乙型A』と附してあった。その意味するところはロストナンバーにとっては明白である。 「さつきとシュリニヴァーサだったか!? テメェら急いでここに隠れていろ、俺様の出番だぜ!」 それだけ言い残すと部族戦士はテレポートアウトした。そして、ライフルを担いだ魔術師も続いて部屋から駆けだしていった。 「自分も地上に向かう。きみ達はここでゲートを閉じる方法を探ってくれ」 飛来したワームは、最初は重力に牽かれ、やがて明確な意思を持ってフォンブラウン市とその下の遺跡に向かって突き進んでいた。 「ゲートが開いてからワームが来るのが早すぎるね。ワームは待ち構えていたのかしら」 世界の侵略はワームの本能かもしれない。あるいは…… 「それとも、なにかワームを誘導するビーコンのようなものがここにあるのかもしれないね」 ―― ぼくたちはここにいるよ ―― かみさま、ぼくたちはここにいるよ 「なんということ……」 心は悟った。 これは遠い世界に残された人類に新天地の位置を知らせるための装置だ。コンソールに次々と太古の記録が開示されていく、流れ込んでいく思念の前に彼女は圧倒された。 彼女はユーウォンに告げた。 誘蛾灯を止めればワームの侵入は止まるだろう、と。 † 「ハャーッ、粉微塵にしてやるゼ」 トンネルに転移し、そこから地上、そしてワームめがけて三段跳び。上空300km、成層圏の上部すれすれ、天地が激しく入れ替わる。 地を見れば、夜陰に小さな世界が弧を描いている。小さな重力は壱番世界の5倍の厚さの大気を形作っていた。乾燥しきった風は異様に冷たい。 天に振り向けば、ひときわまばゆい光点が螺旋軌道を経て降ってくる。ワームだ。大気との断熱圧縮効果により加熱し、電離した大気が光を帯びていた。 ジャックは風をあやつり、衝突軌道を取る。 高速プラズマがワームから剥がれていき、光の尾を引いている。炎に包まれれば時空獣も美しい。戦士は腕を振るい、プラズマの流れを強力なPSI能力で静止させた。 「マッカに燃えて丸見えだゼェ。電荷を帯びれば俺サマに操られちまうんだヨォ」 ぼおっとまとわりつく光は失われていく電子の輝きだ。電離し帯電していくワームは、電子を失うだけ正の電荷を積み上げる。臨界点に向かって爆走し、やがて大気を絶縁崩壊させた。 電子雪崩が乾いた大気を走る。 それは自然では発生し得ない規模の雷だ。 ワームが失った運動エネルギーに上乗せし、瞬時に100TWを超える電撃となる。その灼熱に耐えきれずワームは形象を失った。 「エレキ=テックはココが違うのよォ。ハァー!」 だが、ボロボロと崩れ去る不定形からワームは病的なコアが姿を見せる。 それはかりそめの殻をうち捨て、遺跡めがけ降下していった。 「突入カプセルを灼いただけかよ。クソガァ! 待ちやがれ」 ジャックは追撃を構えた。 『小依です。攻撃します。射線から外れてください』 「ありがとう心」 五十嵐心のESPをハブにして、小依来歌の意思が伝えられた。 彼女は今、斜坑の最下部にいる。 「ワームがここをまっすぐめざしていて助かるわ」 対戦車ライフル《モルトント》。遺跡のレールに二脚を立て、射手は伏せている。ここから撃ち出した弾丸は朱い月まで至るはずだ。 緊張が走る。ターゲットはあまりに遠く彼女の魔法が及ばない。弾道補正が出来ないということだ。 心臓の鼓動でタイミングをはかり、引き金を引く、貫通力を重視した弾頭は細く長い、そして重金属弾芯は重たかった。弾丸は音速を遙かに超える速度で射出され、乾いた音はトンネル内で反響し耳に響く。反動でレール上をずり下がった。 ワームの座標まで約10秒、弾丸はターゲットをかすめ、虚空へと消えていった。 「この距離では難しかったか、大気の影響でワームの軌道が逸れているんだわ」 すぐさま空薬莢を抜き取り、尾栓脇のホルダーから次弾を取り出し薬室に押し込んだ。 『ジャックさん。できますか』 「あたぼうよ」 落ちてきたワームはジャックとのドッグファイトに突入した。雷撃とビームが交錯する。 そんななか一人と一体は遺跡の方に流れていった。ジャックの誘導であり、ワームの本能の欲求する方向でもあった。 小依はボルトを倒し、ロッキングラグを閉鎖、照星の向こうでの縦横無尽に駆けるターゲットと戦友が見える。 慎重にタイミングをはかり、距離が詰まるのを待った。 「威力は絞らないとね。来歌さんまで黒焦げにしちゃうからね」 コントロールルームのユーウォンは遺跡のマスドライバーモードを探り当てた。 そして、心が指揮をとった。 『タイミングはこちらで取ります。来ます! 3、2、1、ファイア!』 発射された弾丸は、回廊で電磁加速される。回廊を抜けるまでは小依の弾道補正魔術の圏内だ。照準器から目を逸らせない。 「時空を超える加速器なら、できるはず」 『着弾まで、 ……3、2、1、今です!』 ワームに組み付いていたジャックはテレポートした。その一瞬の後。虚空を一筋の光が走る。弾丸がコアに刺さる。ジャケットに包まれた鉛が変形し弾芯をターゲットに導き、有り余る運動エネルギーのまま貫通した。 そして不健康な生命を失ったワームの残骸はそのまま遺跡の脇の地面にべしゃりと打ちつけられ、四散した。 † コントロールルームの二人が安堵のため息をつく、戦闘の緊張にはなかなか慣れないようだ。 そして、ユーウォンは深呼吸して、システムの停止ボタンを探り当てた 「あれれ、本当にデュラックの空に通じたなんてね」 画面上では螺旋軌跡が消えていくとともに、朱い月が元の姿に戻っていく。現実の天体も元の姿を取り戻していることだろう。 遺跡も定常状態に至った。それでも落ち着いた小さなうなりが響いてくる。この遺跡はまだ完全に機能を止めたわけでは無い。 ただ、一時的に休んでいるだけだ。 「やったよ。遺跡を止めたよ。あれ、ねぇ、心?」 「え、えっ!?」 ユーウォンが振り返ると、五十嵐心は固まっていた。この装置に染みついた残留思念と、それの残した記録に心を奪われていたのだ。 「ワームももう退治されたよ。大丈夫だから」 「え、えっ!? ワーム。あ、うんそうだったね」 そして、戻ってきたみんなに彼女は告げる。 「この遺跡を作ったのは、大昔の人間……犬たちの言う神さまよ。ここの記録にあったし、犬でも猫でも無い残留思念があったから間違いないと思うわ」 「それじゃ、昔は神さまはこの世界にいたの?」 「違うわ。どこだかはわからないけど、ディラックの空のかなたにある世界で部品が作られて、この世界に来た犬猫がここに設置したのよ。……そうで無いと説明がつかないわ」 そこまで話せば、ユーウォンにも事情が飲み込めてきた。 「そうか、それでビーコンなのね。それとも通信装置なのかな。うまく使えば異世界にいる神さまとやらと交信できるのかもね」 「へっ、そいつぁずいぶんおセンチで気の長い話しだな。ここは千年前に放棄されたって話しだぜ」 「そうか、なら、この遺跡が放棄されたのも、わかる。もう神さまは滅んでいるんだ。それを知った猫は神を信じるのをやめ、犬はその事実をひた隠しにしてきたのよ」 ―― 君達に希望を託す。そして、いつか…… その推測を裏付ける思念が心に沁みてきた。 † こうして、ゲートは閉じられ、朱い月がこの世界に戻ってきた。 しかし、今はまだ誰も気付いていない。その朱い月がわずかに大きくなっていたことに……。そして、その月にはうすく雲がかかっていた。
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