クリエイターふみうた(wzxe5073)
管理番号1142-18869 オファー日2012-08-10(金) 22:43

オファーPC ユーウォン(cxtf9831)ツーリスト 男 40歳 運び屋(お届け屋)

<ノベル>

 仲間といつのまにか始まった恋愛話。聞き役のつもりだったユーウォンにまで、あなたの番だと話が飛んできて、きょとんとしてしまう。
 子がいる、と、知っている仲間たちだ。その課程での恋愛を、たぶん想定しているのだろう。恋愛結婚?お見合い?奥さんとの出会いはー?なんて問いに、戸惑う。
「うーん、ホントのとこ……ニンゲンの言う恋って、おれにはよく分かんないんだ。おれ達は、親になって初めて、本当の雄になるから」
 どういうことかと問われた視線に、ついつい、恋の思い出話を始めることになった。つまり、一風、変わった子育て話を。

「ええと、どこから話したらいいかな……」



 ユーウォンの世界は、0世界の反対、停滞のない世界だ。秩序なく、環境は変わり続ける。人々も動物も植物も皆、世界に住むものはひとりで立つことは少なく、集落を作り寄り添いあって生活していた。
 その中で、単独で環境対応が出来るユーウォンは、珍しい知的種族だ。長命で、数も少なく、大体が一人での移動を好む。能力がそうさせるのか、流離うものが多かった。連れ立つことの少なさ故、生態は他と異なる部分も多い。生殖も、そのひとつだ。

 ユーウォンがそれに気づいたのは、大雪の地での依頼を終えた頃だった。
 寒い気候に対応するため、鱗が厚くなっていたが、いつもよりも厚みが増している気がしたのだった。お腹周りが、少しばかり太いような。
(食べ過ぎたかな……?)
 お届け先が気の良い人で、ユーウォンの旅話を聞きたいと、歓待してくれたことを思い出し、苦笑する。けど、何故だかほんの少し違和感を覚えていて。
 腹に手を当てる癖が、付いたようだった。

 程なくして新しい依頼を預かり、出立することになった。
 その頃には吹雪が砂嵐に変わり、地は氷と砂利の斑になっていた。一変した景色を前に、ユーウォンは方角を探る。以前は見た山が消えていても、河が移動していても、彼が迷うことはない。
 氷河を渡り、草原を抜け、深緑の森に潜る。道中、腰掛けて休んでは、風や地や空を眺めることが多くなった。
 いつもなら、気にならないことが気にかかる。道を惑わそうとする大木の意地悪に、ちょっとだけ腹を立てたり。閉鎖的なヒトの集落の対応に、ちょっぴり傷ついたり。一晩寝て、忘れてしまえることを、何故だか思い出してしまったり。
 今回の預かり物は、手紙だけ。しかも、急ぎではない。のんびりした道々、移動したり変わりが無いかと集落の位置を確認しつつ立ち寄るのは、お届け屋としての必要な下準備ではあったけれど、今回だけは何故か、気乗りがせずにいた。

 腹の鱗が日々膨らんでいることに気付いたのは、最初の違和感からどれほどの日が経った頃だったか。
(あれあれ?)
 強まる違和感。予感。心許なさ。
 もしや。
 卒然と降りる閃き。
(おれ、親になるんだなあ……!)

 待望のそれを見つけたのは、温い雨降る湿地帯に出た時だった。
 雨を凌いで夜を越すために、岩の洞窟に潜り込んだ。ランプを灯す。
 ユーウォンの鱗も滑りを帯び始めていた。灯りと陰に揺らめいて、てらてらと光る。
 籠もる熱に、だんだんと鱗が薄くなっていく。
 覆われた腹が、液体に満たされていたのに気づいた。身を起こすと、たふんと揺れる感触。重さ。支えに手を添えると、その中に、煙で出来た小さな影らしきものが、2つ。
(うわあ!)
 オタマジャクシの姿。新しい命の種が、尾を引いて、うごめき始めていた。
 思わず腹を撫でさすり、さすり、さすった。いつまでも撫でていたい。
 嬉しかった。

 その日から、速度を緩めることにした。
 腹は日々、膨らんでいく。
 夜は早く休み、朝はゆっくりと出立する。遅々として進まないが、腹の中にオタマジャクシを見かけると、そんなことはどうでも良いような気になった。
 身体はどんどん重くなった。足だけでなく、支えの尻尾がずっしりと太くなる。
 翼で飛ぼうと思っても、足が地を離れずに、川向こうへの橋を求めて随分と迂回したこともあった。歩幅も狭くなり、一足一足、慎重に運んでいる。動作が緩慢になってきた。
 今ではもう、腹に手を当てながら歩いている。

(おれが、親かあ)
 ふとした瞬間に、立ち止まり、腹を見下ろすことが多くなっていた。
 親になる準備を、身体の方は粛々と進めているのに、かえって心の方が一歩、置いて行かれているような。追いかけているような。
 環境に対応し変化する身体には慣れていたはずだった。その時になって初めて起こる変化だってあった。切り替わるようなそれらを、すべてユーウォンは飄々と受け止めて、当然のように過ごしていたはずなのに。
 今の変化はとても、とてもゆっくりで。毎日が同じようで、いつの間にか変わっていく。
 腹の中のオタマジャクシは、今日も元気に泳ぎ回っている。昨日との違いはわからないけれど、最初見かけたよりは、一回り大きいだろうか。泳ぎ方にそれぞれ癖があると、最近気付いた。
 じんわりと、胸に迫る感情。
 この、切々とした気持ちは何だろう。
(おれの、子供……。早く、会いたいな)
 ちょん、と、腹をつついてみれば、呼応するように、オタマジャクシがつつき返す。
 愛おしい。
 守りたい。
 泣きたいわけじゃないのに、涙が出てきた。――幸せだ。

「おはよう」「おやすみ」
 手紙の配達を終える頃には、腹のオタマジャクシに声を掛けることが多くなってきた。時々、つついて返してくれるのが嬉しい。
 常に何らかの依頼を受けていたユーウォンだったが、次の依頼は断ってしまった。
(探さなくちゃ、ね)
 早く、子らと会いたかったかった。そのためには『この子達のお母さん』が必要だ。腹に卵を抱いている同族の雌を、探さねばならない。同じように、2つの命の種を抱いている、相手。
(会いたい)
 まだ誰とも分からぬ相手に向け、ユーウォンは切に願う。早く。早く、会いたい。きみに会いたい。

「きみたちの母さんは、どこにいるのかなあ?」
 腹の子に話しかけながら、集落から集落へ、えっちらおっちら移動する。辛さなど微塵も感じなかった。思うのは、まだ会えぬ相手のこと。子らの未来。家族になるということ。
(引合わせる相手もなしに、おれの腹に種が宿ったりしないよねえ)
 数少ない同族の、この時期に腹を膨らませている、しかも同じく2つの命を抱えた、雌。もはや、それは運命の相手ではなかろうか。
 ユーウォンの脳裏には、出会えぬ可能性など、ちらりとも浮かばない。不安定な世界で、噂を聞き辿りながら、長く長く流離い続けた。

 行き着いたのは、とある人間の集落だった。
 優しい風が吹き、気候は温暖で、果物も豊富。世界の生命力を上手に活用した、いい集落だ。これなら旅人も、商売がしやすいだろう。噂では、彼女は行商人だということだった。
 大通りに出ている店を、1つ1つ、覗いてゆく。彼女の肌はどんな色だろう。目は?たてがみは?翼は?爪は? 逸る心が、速度を増して。
「ありがとうございましたー!」
 客を見送る快活な声に、釣られてそちらを向く。
 最初に目に飛び込んだのは、淡い桃色の頬だった。勝ち気な夏の瞳と、神秘的なたてがみ。そして、ユーウォンに劣らぬほどの、膨らんだ、その腹に、目が釘付けになる。透けた卵がほの見えた。立ち尽くしたユーウォンのすぐ横を、商品を抱えた客が通り過ぎる。
 彼女の視線が流れる。その瞳が、己を捉えて開かれて。
――出会った途端、互いに『相手』だと直感した。
 卵と、オタマジャクシが、引き合うような勢いで、距離を詰める。
「あ、あの! おれっ、」
「やっと来たのね!!」
「え、えっ?!」
 腕をむんずと捕まれて、店の奥へと誘導される。彼女の勢いに目を白黒させながら、ユーウォンは大人しく従うしかなかった。

 客の相手の間に間に、彼女が話すところによると。
 腹の膨れたままで働く姿は、人の目に止まりやすかろう。ここで店を開き続ければ、同族が探し当ててきてくれるはず。互いに互いを求め探しにいくよりも、ずっと良い考えだと思ったのだ、と。
「それに、この集落は稼ぎも良いしね」
 付け加えられた呟きに、ユーウォンは感心する。なんてしっかりした娘だろう。
「ほんと、ずいぶん待ったんだからね! でも来てくれて良かった。このままおばあちゃんになるかと思った」
 ぽんぽんと投げられる威勢の良い声。怒ったり、笑ったり、睨まれたり。くるくる変わる彼女の表情から、ユーウォンは目が離せない。

 日が沈み、彼女が店を畳み始めたので、ユーウォンも手を貸した。仲良く大きな腹を揺らしながら、今まで回った集落の話題で笑いながら。
 そのまま彼女の宿に連れだってゆく。
 夕食を共にし、たくさんの言葉を交わした。互いが互いの『我が子の親』として相応しい相手であるか、知ろうとするように。
 この広い世界の中に、もう一人くらい、同じような腹をした同族が、いるのかもしれない。ユーウォンはまだ、流離うことも出来た。だから。けれど。いくら言葉を重ねても。本当は、一目見たその時から。
「着いたばかりなんでしょ? わたしの部屋に泊まるといいわ」
「えっ、いいの?」
「……もう、なんでそう聞くかしら」

 部屋に入ると、二人の雰囲気は少し変わっていた。彼女の口数は少なくなり、代わりにユーウォンが話し出す。会話はぽつりぽつり、話題はあちこちに飛び、ふっつり切れる。おかしな空気に、先に動いたのはユーウォンの方だった。
 彼女に会いたかった。会う前から会いたかった。もっと知りたかったのだ。
 近づいて、手を取って、――口付けて。そうして、彼らはゆっくりと、互いを確かめ合う。始めは触れるのも躊躇うようだった二人は、いつしか。
(これが、愛してるってことかな)
 尾が絡みつく。滑らかな彼女の背鱗。たてがみが軽く引かれる。膨らんだ腹に腹が押され、少し苦しい。オタマジャクシがつつく。外に出たがっているかのようだ。
 身体がとぐろのように絡み合う。
 ユーウォンは、彼女の愛の言葉を聞いた。おれもだよ。言葉は自然に漏れた。
 強く強く抱きしめると、潰された腹が揺れ動く。もはやユーウォンの腹なのか、彼女の腹なのか、わからなくなっていた。二つの煙のオタマジャクシは、二つの卵に吸い込まれるよう入っていく……。
 そうして、雄雌双子の赤ん坊が産まれたのだった。



「――ま、そんな感じだな」
 訥々と語り終わったユーウォンに、子供はどんな子なのか、その後どうなったのかと問いが飛ぶ。
「息子はしっかり者、娘はちょっとおてんばかな。しばらく一緒に旅して回ったよ。おれは運び屋だし、彼女は行商人だったからね」
 ユーウォンは依頼を受け、妻は商品を運び、目的地で売る。
「でも、その時が来たと感じたから、分かれて旅を続けることにしたんだ。おれは息子と、彼女は娘と」
 その時?
「その時は、その時だよ。そうしたほうがいい時ってこと」
 そして息子が運び屋として独り立ちをしようという時、ユーウォンは覚醒したのだった。けれど彼については、そう心配していない。

 話はまた、別の人の話題に移っていった。
 相づちを打ちながら、ユーウォンはふと思う。問われて語った彼女のこと、思い出したのは久しぶりだ。今もきっと、元気に商売をしていることだろう。
――ありがとうございました!
 声が耳を過ぎる。彼女が側にいた頃のように、心が明るくなったような気がした。

クリエイターコメント大変お待たせ致しました! ノベルお届け致します。

ユーウォンさんの出身世界が気になったことと、
捏造歓迎とお任せ頂いたこともあり、
あれこれと考えながら、楽しんで書かせて頂きました。
その間ずっとお待ち頂いたこと、感謝します。
世界や種族や、特に奥さんについて、イメージが異なっていなければよいのですが。
もし、何か気になる点がございましたら、事務局までお知らせ下さい。

それでは、いつかどこかでまたご縁がありますことを祈りつつ。
ありがとうございました。
公開日時2012-12-24(月) 20:40

 

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