クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号1195-26633 オファー日2013-12-23(月) 22:21

オファーPC ダンジャ・グイニ(cstx6351)ツーリスト 女 33歳 仕立て屋
ゲストPC1 ロナルド・バロウズ(cnby9678) ツーリスト 男 41歳 楽団員

<ノベル>

「ロナルド・バロウズ」
 ダンジャ・グイニがわざとフルネームで呼びかけると、不審そうに振り返ってきたバロウズはそこに立つ彼女を見つけて目を細めた。
「これはまた、妙なところで会うね」
「広いターミナルで偶々行き会ったのも何かの縁さ。よかったら一杯付き合わないかい」
「ああ、そりゃいいねぇ」
 あっさりと頷いたバロウズに、決まりだねと口の端を持ち上げる。いい場所を見つけたんだと先に立って歩くダンジャが途中で酒を買い込むのを見て、バロウズは軽く眉を上げた。
「行きつけの店に案内してくれるんじゃないのか」
「店で飲むのもいいけど、たまにはババアの昔語りにも付き合いな」
 大勢の人様に聞かせるもんじゃないだろうと肩を竦めるダンジャに、成る程とバロウズも頷く。
「今日は珍しいダンジャさんの痴態が見られるってわけだ」
「はっ、そういう台詞はあたしを酔い潰してから言いな」
 勝てる気かいと面白そうに語尾を上げたダンジャに、さてねぇとバロウズも笑う。
「飲んでみないと分からない」
「ははっ、確かに」
 素直な答えにダンジャも口許を緩め、辿り着いたこじんまりとした家に入っていく。興味深そうに辺りを見回しながら続いたバロウズの、ここはとの尋ねにダンジャはさあと首を傾げる。
「偶々空いてるみたいだから、ちょっと拝借したのさ」
「……それ、普通は不法侵入って言わないか」
「見つかったらごめんって言やぁいいのさ」
 問題ないだろうと軽く手を揺らすダンジャに、そうかなぁと苦笑しつつバロウズも続く。あまり口喧しくしないのが、いい共犯者の条件だ。
 とりあえず飲み食いするには不自由しないテーブルを見つけ、買い込んだ酒と肴を広げる。座りなよと促すまでもなく向かいの席に着いたバロウズがどうぞと酒瓶を傾けるので、どうもとグラスを持ち上げる。バロウズにも注いでやり、軽く触れ合わせるようにして乾杯する。
「それで、今日誘ってくれた用件は?」
「用件も何も、単にあんたと酌み交わしたかったのさ」
「それは光栄なことで」
 あまり信用していないままグラスを傾けたバロウズに、ダンジャも笑みを深める。そのまま肝心なところには触れずに当たり障りのない話を続け、二本三本と空き瓶が増えていくと互いに舌の根が緩くなる。
 もう何度目とも知れず酒の注がれたグラスをテーブルに置いたまま指先で傾け、バロウズは少し熱くなった息を吐く。
「そういえばダンジャさんは、依頼を受けてない時は何してるんだ?」
 何気ない様子で尋ねられ、ダンジャはそうさねぇとグラスを持ち上げながら少し遠い目をした。
「何と言って何くれとなく、さ。長いことかかって、糸巻きは仕上げたかね」
「糸巻き」
 グラスから離した手で空中に頼りなく糸巻きを描きつけるバロウズに、それさねと何度となく頷く。何のためにと目を瞬かせるバロウズに、大事な商売道具だよとはぐらかす。
 彼女の妖素を紡いだ糸は、商売道具であり武器でもある。女は普段の備えが肝要なのさと意味ありげに微笑み、早く空けなと酒の減らない彼のグラスを示す。バロウズは急かされてグラスを取り上げるとゆっくりと回し、独り言めいて呟く。
「他人には意味なく思える物でも、本人には大事ってことか……」
「まぁ、えてしてそういうもんさね」
 お前さんにもあるだろうと水を向けると、バロウズは眺めていただけのグラスに口をつけて一気に呷った。いい飲みっぷりだねぇと冷やかすダンジャを見ないまま、バロウズはグラスを下ろした。
「楽譜、かねぇ」
「これはまた、音楽家らしい発言だね」
「……まぁ、ねぇ」
 酒を注ぎながらダンジャが語尾を上げると、バロウズは軽く口を濁した。ダンジャはまぁいいさと静かに笑い、酒瓶を置く。
「お互いもういい年なんだ、話したかない秘密の一つや二つはあろうってもんさ。吐いていい秘密は明日になれば酒精と共に消える程度のもの、重苦しく残るそれは墓まで持ってきな」
「……は。押し付けさせてもくれないんだねぇ」
「よくお言いだよ、はなから話す気もないくせに」
 軽く目を眇めて指摘すると、バロウズも少し声にして笑う。けれどどうやらそれが限界だったらしく、重そうに瞼を閉じるとそのままテーブルに突っ伏してしまった。
「おやおや、もう酔い潰れたのかい」
 だらしないねぇと肩を竦めつつ、ダンジャは用心深くバロウズを眺める。ゆっくりとした寝息が届き始め、完全に落ちたのを確認してから持ったままだったグラスを静かに戻してバロウズに向き直る。
「さて、それじゃあそろそろ本題と行こうじゃないか。ちょっと出ておいでよ」
 酔い潰れた相手に向かってにこりと笑いかけたダンジャに、応えのあるはずがない──普通なら。けれどバロウズはゆっくりと身体を起こし、どこか不敵な笑みを浮かべた。
「俺に用事なら最初からそう言ってくれればよかったのに」
 もっと早く会えたろうにと面白そうに語尾を上げるバロウズ──否、彼の中に潜む悪魔に、ダンジャはにこりと笑い返す。
「そうかい、なら今度からはそうさせてもらうよ」
 その機会があるならねと挑戦的に続けたダンジャに、悪魔はぴくりと片方の眉を上げた。ダンジャは笑顔を保ったまま少し身を乗り出させるようにしてテーブルに肘を突き、悪魔を覗き込む。
「物は相談なんだけどね、あんた、ちょいとその身体を出て行っておくれでないかい?」
「っ、は! いきなり何を言い出すかと思えば」
 片手で顔を覆うようにくつくつと喉の奥で笑った悪魔は、指の間から片目を覗かせてダンジャを見据える。
「演出や台本への口出しは無用だよ、お嬢さん」
「役者を潰す演出家には抗議もしたくなるさ」
 だろうと引く様子を見せないダンジャに、悪魔はすっと表情をなくして体勢を戻した。伸ばされる手を軽い仕種で避け、無駄だよと唇を弓形に歪めた。
「あたしも一応、妖素を備える。お前さんと同等とまで言うつもりはないけどね、つまらない小細工をされても効きゃしないよ」
「大人しく記憶を差し出せば、命までは奪わなかったものを」
 呆れたように頭を振りつつも、悪魔の目はどこか楽しげに輝いている。非力な獲物を面白がって嬲るかのようで、ダンジャは音高く舌打ちする。
(やっぱり、こいつが一番厄介なようだね……)
 ダンジャが可愛い弟妹と思う楽団員に悪魔が憑いていると知った時から、何かできないかと真剣に考えた。なまじ力があるだけにダンジャが及ぶ範疇ではないと嫌でも悟ったが、それでもできる手助けを目論んで手の中にそっと針を構える。
 そうやすやすと死んでやるものかねと悪魔の攻撃を避けながら、ダンジャも結界を使って悪魔の攻撃を凌ぎ、或いは反撃する。テーブルから落ちた酒瓶がいっそ心地いい音を立てて割れていく、零れた赤が同じようなリズムで床に落ちる。攻防を重ねる音さえ楽的で、意図せず紡がれる曲の盛り上がりに合わせたようにダンジャの腹部を抉り取った悪魔が、愉悦に満ちた様子でにいと笑う。
「はっ。ガキじゃあるまいし、何を喜んでるのさ」
 この程度は織り込み済みだよと掠れた声が悪魔の耳を打った時には、ダンジャが手の内に隠していた針が悪魔を貫く。
「最後の一突きにしては、ささやかだな?」
 馬鹿にしたように笑った悪魔に、ダンジャは崩れ落ちながらも痛みのあまり気を失えないことに感謝して、そうかねと皮肉がちに目を細める。
「あたしの目的は、はなからあんたに勝つことにはないのさ」
 言いながら、軽く指を動かして糸を手繰る。見えない妖糸が悪魔を締めつけ、戸惑いが直接伝わってきた。
「っ、お前、何をした!」
 バロウズの心が見えなくなったのだろう、焦る悪魔の様子に、どうやら成功したようだと痛みを堪えつつほっと息を吐く。
「お前さん曰くの、ババアのささやかな抵抗さ。あたしの可愛い弟妹たちに、せめてもできることはしてやらなくちゃあ」
 ざまあおみと確実に悪魔を締めつけている糸を感じながら呟くが、与えられた傷は燃えるようで自力で立ち上がることもできない。
 転がった酒瓶から流れ落ちる酒が尽きた代わりのように、ダンジャの腹部からより鮮明な赤が床を濡らしていく。悪魔は酷薄にダンジャを見下ろし、お前を殺せばいいだけの話だと不愉快そうに吐き捨てて止めを刺そうとする。
(ああ、せめてこの糸巻きを……)
 あの子たちに託すまではと祈るように考えながら、咄嗟に目を瞑っていた。次に開ける機会があるのだろうかと自嘲的に考え、そうして呑気に考えていられることにそろりと目を開けた。
「ダンジャさん!」
「……ロナルド、かい……?」
 ひどく青褪めて見下ろしてくる相手にそろりと確認するが、医者を、病院をと狼狽えていて返事はない。けれどその姿こそ確かにバロウズだと確信し、知らず詰めていた力を抜いた。
「ああ……、酒が回るねぇ」
 飲んですぐに戦うなんて無謀さねと、ダンジャは苦く笑って呟いた。



 ロナルドは血だらけで蹲るグイニを見下ろしながら、何をしたと自分の中の悪魔を問い詰める。
(その女が突然襲ってきたのさ)
 自分の身を守ったに過ぎないと肩を竦めるようにして答える悪魔に、そんなはずがあるかと思わず声にして怒鳴りつけていた。不審げな目を向けるグイニに何でもないとばかりに首を振り、動けそうにない彼女の様子に急いで抱き上げる。
「すぐに医者に見せないと。……悪い、俺のせいで」
「はは……、あんたのせいじゃないさ……。あんたの中の悪魔に気づいて──怒らせちまったのさ」
 それだけだと目を伏せるようにして笑うグイニに、違うだろうと問い詰めそうになるが奥歯を噛んでどうにか堪える。今は何を置いても、先に彼女を医者に連れて行かねばならない。
 友人として気安く付き合ってくれるグイニを、巻き込む気はなかった。どうしてこんなことにと思うと、酔い潰れた自分さえ呪わしい。
「本当に悪かった……っ」
「そう気にしなさんな。大丈夫、誰にも言いやしないよ」
 これでも口は堅いんだと微笑むグイニが殊更話を変えようとしてくれるせいで、もう一度の謝罪はできない。小さく息を吐き、何度でも謝りそうになるのをどうにか堪えて小さく頷く。
 さっきから、いやに悪魔が静かだ。グイニに対して不快を覚えているのは伝わってくるが、彼女の言葉を否定も肯定もしない。何があったのかと自分の意識がなかった間を訝るが、この調子ではグイニからも事実は返ってこないだろう。
「……ごめんよ」
 小さな呟きにはっと目を開けると、グイニがそうと手を伸ばしてゆっくりとロナルドの頬を撫でた。何に謝っているのかと戸惑う間にも、グイニは苦笑めいて口許を緩ませるとそっと視線を逸らした。
 あたしが干渉できるのはここまでだと悔やむような言葉は声にはされず、唇が動いたのを見てもロナルドには通じない。何を言ったのかと尋ねようとしたが先に目指していた病院を見つけ、そちらに気を取られる。
 グイニを医者の手に預けたら、もう彼女とは関わらないようにしたほうがいいのか。じくりと胸は痛みながらも思い詰めたようにそう考えていると、グイニの視線が戻ったのに気づいて見下ろす。
「今日は変なお開きになっちまったが……、今度また飲み直しに付き合ってくれるかい」
 まるで心を見越したようなタイミングに虚を衝かれたが、ロナルドはそうだなと泣きたいような気分で笑った。
「今度は飲み過ぎないようにしないとな」
「邪魔でなけりゃ、あんたたちの拠点に呼んどくれ」
 どこか意味ありげに笑ったグイニには気づかないまま、ロナルドはそれもいいなと頷いた。

 静かに、悪魔の苛立ちは深まる。

クリエイターコメント大事な対面の一幕、綴らせて頂きありがとうございます。

最初にオファー文を拝見した時に感じた空気を、できるだけそのまま。
溢れないようにそうと書いたつもりですが、上手く再現できているでしょうか。
意図されたように綴れているか不安はありながら、色んな思惑にそわそわしながら楽しく書かせて頂きました。

柔らかと痛みの混在する大事な一日、お届けします。
オファーありがとうございました。
公開日時2013-12-27(金) 22:00

 

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