今年もクリスマスがやってくる。 色々あったけれど、クリスマスと言う日はやってくる。 様々な思いはあるだろうが、クリスマスと言うこの日だけでも良い。 心から楽しもうじゃないか。 ターミナルに、様々な電飾が煌き始めた。 今までと同じく、広場に続く通りには屋台が出るようであり、テントが次々に張られていく。 今までは、ケーキコンテスト、ツリーコンテストといったものが行われていたが、今年は特にコンテストをすることは無いという。 皆で、一つのものを作り上げる。 その目標を掲げるかのように、広場には大きなツリーが一本聳え立っている。 思い思いのオーナメントを取り付けたり、広場の端に作られたオーナメント作りの場で作って取り付けたりできるようだ。 見本にあるのは、星・杖・球体・サンタクロース・長靴の四種類だ。もちろん、好きな形を作っても良い。材料は、木や粘土、折り紙等多彩なものが用意されている。 クリスマスのお知らせ、と書かれた紙を張りながら、エミリエがにっこり笑う。「なんていっても、クリスマスだもんねっ!」 意味は良く、分からないけれど。=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
クリスマスツリーのある広場までは、様々な屋台で賑わっていた。 定番のたこ焼きやイカ焼き、ベビーカステラ、綿飴、りんご飴から、本格的なカフェや雑貨屋、射的といったものまで、幅広いジャンルの店が賑わっている。 「次はわたしが全部払うよー!」 御面屋営む飴屋の前で、仁科あかりが財布から金を払う脇坂一人の横で、慌てたように言う。 大人になった彼に、お金を払って貰うのがくすぐったいようだ。 「私の懐も考えてくれたら、それでいいのよ」 にこ、と一人は笑う。女の子で、子どものあかりに金を払わせる気はないようだ。 「で、でも」 「いいから。ほら、何の飴がいいの?」 「なうい棒もございやす」 「うう……じゃあ、イチゴ飴」 「へい」 「私はなうい棒の……大葉味噌味ね」 御面屋が差し出すイチゴ飴と大葉味噌味のなうい棒を受け取りつつ、あかりは「それじゃあ」と声を上げる。 「次はわたしが」 あかりはイチゴ飴にかぶりつきつつ、次の店を見る。 『謎団子、無料配布なのです』 そう書かれた看板には、ご自由にお試しくださいなのです、とも書かれている。お茶の準備までしてある。 今年も出店された、シーアールシーゼロの謎団子店だ。 なんと、更に謎茶まで追加された、至れり尽くせりの店だ。多分。 「……無料配布」 あかりが呆然とすると、隣で一人が噴出した。 「うーん、ソースの焦げる匂い、凶悪ですぅ」 後ろから、川原 撫子の声が聞こえた。 「おっちゃんさん、たこ焼き追加ですぅ」 撫子は、はふはふとたこ焼きを食べながら、ゼロの店の前までやってくる。 「謎団子なのですぅ。まだ、あったのですねぇ」 しみじみと言い、謎団子を見る。 「今日は、端から端まで全制覇ですぅ! 嫌いなものもアレルギーも無いから、どんどん来い……なのですが」 ほくほくのたこ焼きと、謎団子。悩ましい。 「知ってるんですか、これ」 恐る恐る、あかりが尋ねる。撫子はしばらく悩んでから、にこ、と笑う。 「せーの、で食べるのですぅ!」 「え」 一人の声もさておき。撫子は「せーの!」と掛け声をかけ、ぱく、と三人同時に口へと放り込む。 「美味しい!」 あかりは、当たりを引いた! 「……何これ?」 一人は、不思議な味を引いた! 「……ふっふっふ、もういくらでも食べれる気がしますぅ! 今日は咽喉元まで詰め込みますぅ!」 一ヶ月の足止めで、バイトが全部首になってしまった撫子。学費をバイトで捻出、生活費も8割自己負担。そんな希少価値の高いだろう学生に、首を言い渡したバイト先。 ならば、やることは唯一つ。 「今日は、食いだめしますぅ! できそうな気がしますぅ!」 どうやら、撫子は食欲増進効果を引いたらしい。 うおおお、と財布を握り締め、撫子は屋台群へと向かうのだった。 臼木 桂花は、珍味三昧と書かれたみせで「んー」と唸る。 「少し、塩気がきついわね。いくら呑兵衛相手でも、もう少し塩分抑え目の方がうれるんじゃない?」 スキットルに入れたメス駆るを舐めつつ、店主に物申す。 「なるほど。酒に良く合うと思ったんですがね。特に辛口に」 そうね、と桂花は頷く。 「辛口のお酒は好きよ。というより、お酒は何でも好きよ」 ふふふ、と桂花は笑う。 「お酒選り好むような奴は、こう、ね」 ぐい、と首を切るジェスチャーをしながら、桂花は言う。目が本気だ。 「上手い酒と適度な人ごみ、それに貴方が居れば完璧なんだけど」 ふ、と遠くを見る。世界が違うのだから、仕方が無い。そう言い聞かせるように。 ――とん。 「あ、ごめんね。リーリス、よそ見してたの」 桂花の背に、人がぶつかる。リーリス・キャロンだ。 「ああ、いいのよ。気をつけて」 にこ、と笑いながらリーリスは去っていく。桂花は手を振って見送り、店主に酒を注文する。 「あら」 ふら、と不意に世界が揺れた。気のせいかもしれない。または、少し呑みすぎたのかも。 「ちょっとだけ、軽い奴に……いや、やっぱり辛口を」 一瞬だったし、と桂花は己に言い聞かせた。 しかし、ふらついたのはリーリスによる吸精のせいであった。食べ歩きのふりをしつつ、周囲に漂う感情を舐め、先程のようにぶつかったふりをするなどして、吸精をしているのである。 「あっという間に、この前と漂う感情が変わったわね」 リーリスはそう言って微笑む。ロストレイルが走るようになったからなのかもしれない。 ふと、目に焼き菓子の店が飛び込んできた。 「これ、なぁに?」 愛らしい人形の形をしたクッキーを見つけ、尋ねる。 「ジンジャークッキーですよ」 店主ではなく、隣で買い物をしていたティリクティアが答えてくれた。 「可愛いのね」 「ふふ、クリスマスの時期は、色々なお菓子が売っているんですよね。毎年、楽しみで」 店主が、試食用のクッキーを二人に差し出す。じゃくじゃくという食感と、ほろっと口の中で広がる甘さとジンジャーの香りがたまらない。 「これ、美味し……クゥへのお土産に、買って帰ろうかなぁ」 リーリスはそう言って、二つ購入する。 ティリクティアは、楽しそうな人々を見て思う。 みなの旅の行く末を。幸いに包まれますように、とも。 「クゥ、喜ぶかな?」 リーリスは呟く。当の本人が、タンクトップ一枚でコーラを飲みつつ、満面の笑顔で「ぷっはー」とか言ってるとも知らず。 リーリスは「じゃあね」と言い、ティリクティアに手を振る。ティリクティアも振り替えし、広場に聳え立つクリスマスツリーへと目を向ける。 「去年は、私も飾り付けをしていたわね」 第六感からの訴えを危惧しつつも、ティリクティアは静かに笑う。 今日は、クリスマスなのだから。 「メリークリスマス! 良い子のみんな、今日もお姉さんと一緒に、かわいいぬいぐるみを作っちゃおう!」 わああ、と吉備サクラの声に反応するように、声が広がる。 サクラが出しているのは、自らが製作したセクタンぬいぐるみやビーズ細工の指輪、ストラップ極小セクタン、製作キットなどだ。 自らも教育テレビ系、子ども向け工作番組「ぬいぐるまっぷ」に出てくるお姉さんのコスプレ(クリスマスバージョン)をするという、手の込みようだ。 「おお、すごいナ」 ジャック・ハートが店を覗く。もぐもぐ、と手にチキンを持っての登場である。 「そうでしょう。自分で作ってもいいんだぞ? 見て触って、気に入った子はおうちにつれて帰ってね!」 「おお、これなんてそっくりだナ」 「おっと、大事にする子限定だぞ?」 ぽふぽふとセクタンぬいぐるみを撫でるジャックに、すかさずサクラが言う。ジャックは「仕方ねェか」と言いつつ、店のラインナップを見つめる。 と、ビーズの指輪に目が留まる。 「綺麗でしょー。大事な人に、どうかな?」 サクラの声も、ジャックの耳には入っていないようだ。手にとって眺めるものの、すぐに戻す。 「悪いナ。……そういや、子どもにプレゼントする日だったか、クリスマスってェのは」 話題を変えるように、ジャックは言う。 「うん、そーだよ!」 ジャックは「じゃァな」と手を振り、店を後にする。 「エーリヒには積み木で、マスカローゼはスノードームにすっか」 様々な店の売り物を見ながら、ジャックは呟く。 「再開したんだ、ミルにもクリスマスリース贈っとくか。なら、ツギメにもクリスマス柄のブックカバーだナ」 ジャックが歩いていると、祭堂 蘭花が「いらっしゃい」と声をかける。 「今年は鍋だよー。ケーキもあるよー」 「緋穂はケーキでいいか。エーリヒと分けるだろうしナ」 ぶつぶつと呟いた後、ジャックは蘭花のプレーンと抹茶のチョコケーキを一つずつ購入した。 「ここは、何のお店?」 ジャックと入れ替わりに、ルーノエラ・アリラチリフがひょっこりと顔を出す。 「寄せ鍋だよ。寒い日こそ、温かい食べ物でほっとするからねー」 蘭花が言うと、ルーノエラは「じゃあ」と言って、ちょこんと用意されている椅子に座る。 しばらく待つと、ほくほくと湯気の立つ鍋がやってきた。昆布や鰹を使った特製出汁をベースにした味噌仕立ての汁が、食欲をそそる。 「うわあ、美味しそう。これは、何?」 ひょい、と箸で丸い団子を取り出しながら、ルーノエラが尋ねる。 「鶏団子だよ。あと、豆腐とかネギとか白菜とか……あと茸も入ってるよ」 「わあい、いただきます」 はふはふ、と息を吐き出しながら、ルーノエラは鍋を食べる。熱々の鍋が、身体にしみていくようだ。 「冬といえば、鍋だよねー。クリスマスに鍋も、良いものでしょ?」 「うん、すっごく美味しいよ!」 ぱくぱくとルーノエラは鍋を食べつつ、にこにこ笑う。 「そうだ、これからクリスマスツリーを見に行きたいんだけど、何処に行けばいいのかな?」 「それなら……ほら、あそこに見えるよ」 蘭花はそう言いつつ、広場の上部を指差す。大きなツリーの上部分が、店からでも確認できる。 「あれを目指していけばいいんだね。ありがとう!」 ごちそうさま、と元気良くルーノエラは言う。 「飾りつけ、僕もやってみたかったんだけど、大丈夫だったのかな?」 「今なら、間に合うかもしれないよー」 蘭花の言葉に、ルーノエラは嬉しそうに笑い、頷く。 「じゃあ、行って見るよ。色々ありがとう」 ルーノエラが手を振りつつツリーへと向かうのを、蘭花はにこにこと見送るのだった。 ツリーは、多数の人によって、綺麗に飾りつけられていた。 「不思議な催しね」 華月が、ツリーを見つめる。暖かい格好をしているが、ふう、と吹く息は白い。 青や紫の飾りを手にし、白い部分を見つけて飾り付ける。青と白のコントラストが綺麗だ。 「あら、飾りが」 ぽと、といきなり手から飾りが落ちる。それを、黒猫 にゃんこが「にゃあ」と拾い上げてくれる。 「あら、ありがとう」 「ちぇっ、うまくいったのに」 飾りを落としたらしい、シェイムレス・ビィが舌打する。 「駄目ですよ、シェイムレスさま」 民族調の組紐をあしらった小さな鈴を飾り付けていた予祝之命が気付き、組紐と一緒にシェイムレスを飾る。 「助けて助けてー」 「少しだけ、反省しましょうね」 「にゃあ! さんたにゃんこなのー」 唐突に、そして誇らしげに言うにゃんこは、確かにサンタの格好をしている。頭にサンタ帽、腰には虎の敷物。……虎? 「可愛いのね。虎は、クリスマスなのかしら」 「にゃあ!」 にゃんこの様子に、思わずふふ、と小さく微笑む。小さな勇気を出してよかった、と。 「見て見て!」 突然、隣からずいっとオーナメントが出てくる。ルオン・フィーリムだ。 「これ、あたしが今日の為に作ってきたんだっ!」 ルオンの手にあるのは、トナカイや雪だるま、雪の結晶型の小さなマスコット。それに、リボンやライト、鈴などがある。 「凄く可愛いわね」 「でしょっ?」 にこ、とルオンは笑い、飾りつけはじめる。 「あたし、裁縫得意なんだ。綺麗に飾り付けられたツリーを見てみたいから、貢献したくって」 「素敵ね。きっと、綺麗になるわ」 「本当に素敵ですね。ルオンさまは、裁縫がお上手です」 皆から褒められ、ルオンが嬉しそうに飾り付けていると、飾ろうと思った場所に白くてふんわりしたものが飾り付けられているのに気付く。 「……これ、どういうオーナメントなんだろう? ふあ」 見ていると、何故か眠気が出てくる。 「ゼロも真似して作ってみたのです」 すっとゼロが出てきて、説明する。見よう見まねで、オーナメント製作所で作ってみたらしい。 「高いところに飾ろうと思うのですが、一緒に飾るものはありますか?」 「あ、ならこれを」 星のオーナメントを、ルオンは手渡す。ゼロはこっくりと頷き、巨大化する。これで、高所の飾りつけもばっちりだ! 「おや」 高いところから見ると、旧校舎のアイドル・ススムくんがいるのに気付く。今は動いていないようだが、どうやら人の目が無い間はわさわさ動いているようだ。 複数人で星型、クス玉の中、サンタクロースやジンジャーマンの仮装、サンタブーツの中。様々なススムくんがいるようだ。 「これが、クリスマス」 サンタブーツを見ながら、ジューンが呟く。手には子ども達に渡すためのプレゼントを抱えている。 「……ばぁぁぁ! メリー・クリスマスでやーんす!」 サンタブーツの中から、ススムくんが飛び出す。ジューンはじっと見つめてから、こっくりと頷く。 「プレゼントはサプライズが基本、と聞きました。つまり、今のもサプライズの一環なのですね」 「……えと、わっちは」 「それにしても、大変よくできているオーナメントです。子ども達にも買っていこうかと思っているのですが」 「わっちの危機、わっちの危機でやんすよ!」 「どうしたでやんすか、7号! 手助けするでやんすよ!」 「んぎゃああ、わっち6号、どこを触っているでやんすか! わっちの貞操の危機でやんす? セクハラでやんす!」 「中々に賑やかですね」 こっくり、とジューンは頷く。その後ろで「あの」とロイシュ・ノイエンが声をかける。 「宇治喜撰241673さんに資料を渡しに来たんですが、ご存じないですか?」 「宇治喜撰241673さんとは、あそこにいらっしゃる方でしょうか」 ジューンはひときわ目立っているオーナメントを指差す。ツリーに飾られた、巨大な缶。 「……目立ってますねぇ。資料、どうしましょうかね」 「私からも、伺って宜しいでしょうか。ジンジャーマンクッキーとチキンとケーキ。これが、クリスマスの正餐なのですか? 栄養バランスが、狂っていそうです」 「それは……そうですね」 不思議そうに小首を傾げる二人のところに、ふわ、と何かが舞い降りてくる。 雪。いや、飴だ。限りなく雪に近い、飴。 「飾りでぴかぴかキラキラ、街全体がケーキみたいなのね!」 ツリー上空に、マスカダイン・F・羽空が立っている。グミキャンディ紐で、ぴょーんと頂上に昇ったようだ。 「ケーキと言ったら、仕上げは粉砂糖!」 ひらひらと粉砂糖が舞い降りる。飴でできた雪による、ホワイトクリスマスだ。食べたら甘いけれども。 「アメなのに、雪とはこれいかに!」 にかっとマスカダインは笑う。 「あら、雪」 地上の華月が舞う雪を手に取る。 「今日はとても寒いのね」 「あれ、これ、雪じゃないよ?」 ルオンが不思議そうに手に取る。舐めると甘い。 「糖分はないから、ベタベタにはならないよー。冷たくないから、風邪もひかないのだよー」 上空から、マスカダインの声がする。 不思議な様子に、星とスミレとデフォルトセクタンが連なる飾りをつけていた一人が、空を見上げる。 「何これ、すごい!」 共に飾りをしていたあかりも、空を見上げる。 「写真、写真撮らなきゃ」 一人とあかりは、二人揃って写真を撮り始める。 「なるほど、こういう趣向もあるのですね」 空を見上げつつ、こっくりとジューンが頷く。 「これは、ゼロも予想外なのです」 巨大化を解きつつ、ゼロが不思議そうに見つめる。 「わわ、鍋に入っちゃう。いや、逆に良い調味料に?」 蘭花が、鍋に蓋をするかどうかで迷う。 「みんなー、セクタンと一緒に、甘い雪を楽しもうー!」 ぬいぐるみ指導をしつつ、サクラが笑う。 「むむ、これは良いですぅ。りんご飴に更なる甘味が加わりますぅ」 撫子が、赤いりんご飴に映える白い雪を喜ぶ。 「素敵な演出ね。何かが起こっても、大丈夫な気がするみたいに」 ティリクティアが空を見上げ、笑う。 「何か降ってるぜェ、不思議だナ」 「甘いのも、お酒が進むのよね」 酒とつまみの店で、ジャックと桂花が笑いながら雪を見つめる。 「わあ、すごいなぁ! 僕も、やっぱり飾り付けに行こうっと」 広場に行く途中で買い食いをしていたルーノエラが、再び広場へと向かう。 「凄い、また漂う感情が変わってる」 周囲に漂う感情を舐めつつ、リーリスが言う。 「みんな、メリークリスマスなのね!」 マスカダインが叫ぶ。 「ちょ、甘いの、大丈夫でやんすか? ベタベタしないなら、セーフでやんす!」 ちょっぴり騒がしい、キラキラ光るツリーの上空で。 <クリスマスの夜は更けてゆき・了>
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