いつもと変わらない0世界の、いつもと変わらないカフェテラスにて。 丸テーブルの上に紙束を置き、生クリームの乗ったミニホットケーキを注文したリーリス・キャロンはカフェテラスをぐるりと見回した。 昼時だからだろうか、見知った者も含めて様々なお客が入っている。「ふふ、席が取れてよかった」 軽く背伸びをし、紙――報告書に目を落とす。 毛色の違う沢山の世界たち。そこでの活動内容を纏めた報告書である。リーリスはこれを読むのが好きだった。 インヤンガイの怪しげな事件についての報告書。 モフトピアでの心温まる、けれど不思議な出来事の報告書。 壱番世界でロストナンバーを保護したという報告書。 そして……「ここ、インヤンガイより美味し……面白そうかも」 一瞬出かけた本音を飲み込み、リーリスは紙面の文字を再度追う。追うごとにある「面白そうなこと」が頭の中で組み立てられていった。 もう一度カフェテラスを見回し、リーリスはすぅっと息を吸い込むと皆に呼びかけた。「ねぇみんな、マホロバへ宇宙人ごっこしに行ってみない?」 宇宙人が存在し、危うい関係ながらも一部では共存している世界である近未来巨帯都市・マホロバ。 その報告書に目を通し、リーリスは好奇心を抑えられなくなっていた。 宇宙人のフリをしてマホロバへと降り立ち、そこで様々なことをしてみたい――そういう好奇心だ。 そんなリーリスの誘いを耳に受け、同じ気持ちになった者が立ち上がる。……茶色い長髪が特徴的な雪深終である。「宇宙人ごっこ? それはなかなかに面白そうだ。俺も名産品を食ってみたい」 この時の終にとって、異郷でまず気になるのは『食』だった。 どこで何を作り、どのような加工を施し、誰をターゲットに売り出しているのか。 味は、形は、と考え始めるともう止まらない。 それを隣のテーブル越しに見ていたテオ・カルカーデも話に混ざる。彼は読んでいた小説に栞を挟んでカバンに仕舞うと、リーリスの居るテーブルへと近寄った。「素晴らしいです。楽しそうですねぇ」 そうしてにっこりと微笑む。「私、常識を知らない振りをするのは大得意ですよ?」 その微笑みに似た系統の笑みを返し、リーリスは「二人目も決定だね」と笑った。「あと一人くらい一緒に来てくれる人が居ると嬉しいんだけれど……」 言ってもう一度見回しかけたが、その必要はなかった。 柔らかなピンク色の髪を持った女性、アルア・ティーダが三人に向かって手を差し伸べたのだ。「私も行きたいですわ。マホロバという土地にはどんな方がいらして、どんな体験が出来るのかしら」 宇宙という外からの来訪者がある世界だ、さぞかし様々な人物がそこには居るのだろう。 接する人の数だけ未知の体験が待っている。そう考えるとアルアは楽しい気分になって仕方がなかった。 リーリスは嬉しそうに三人の顔を見、ぴっと人差し指を立てる。「宇宙人ならちょっとくらい変な行動をとっても常識を知らなくてもOKだと思うの。司書さんには「食文化の調査」って伝えておけばいいしね」 立てた人差し指にもう一本プラスし、Vサインを皆に向けたリーリスは明るい笑顔で言った。「みんなで名産品、食べ歩いてこようね?」 四人の向かう先には一体何があるのか。 そして、宇宙人のフリをしてマホロバを旅し、皆で名産品を味わうことが出来るのか。 それはこれからのお楽しみである。=========!注意!この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。ただし、参加締切までにご参加にならなかった場合、参加権は失われます。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、ライターの意向により参加がキャンセルになることがあります(チケットは返却されます)。その場合、参加枠数がひとつ減った状態での運営になり、予定者の中に参加できない方が発生することがあります。<参加予定者>リーリス・キャロンン(chse2070)雪深終(cdwh7983)テオ・カルカーデ(czmn2343)アルア・ティーダ(cpav3661)=========
●初めての都市 マホロバの文化は地域によって目に見えて分かるほど違う場合がある。 基本的に壱番世界の日本を数十年ほど進めたような雰囲気をしているが、住む人種が様々なら地域ごとの特色も出るというものだろう。 「でも最近は壱番世界に似た場所が増えてきたみたい」 マホロバに到着してすぐ、おそらく観光者向けに作られたのであろう折りたたみ型のパンフレットを入手したリーリス・キャロンが言う。 人類がひとところに集まり生活し始めた歴史は浅くない。それゆえ都市部近辺から文化の統一化が進んでいるのだという。 もちろん、元々あった文化や信仰などを自然に混ぜながら、ゆっくりと。 「その過程、この目で見てみたかったです」 テオ・カルカーデがそう言って周りを見回す。 「いやいや、しかし凄いですねぇ、こういう『近未来』の景色には馴染みがないです」 そしてそんな感想を漏らした。 ここはマホロバの西側に位置するエルケイスという都市である。 この都市には昔、人類に友好的な宇宙人が多く集まった。そしてその繋がりから現在もそういった宇宙人の訪問先の一つとなっている。 エルケイスの人間は凶悪な宇宙人よりも友好的な宇宙人に多く馴染んでいるため、他の地域に比べて偏見は少ない。ここならば観光もしやすいだろう。 町並みは中央の都市よりは落ち着いており、ビルも少なめ。逆に住宅街は多く、高台から見下ろすと屋根が沢山見えた。 「綺麗な色の屋根ですのねー……!」 アルア・ティーダがきらきらとした瞳で言う。 壁の色は主に白かベージュ。屋根は青や赤、緑など様々なものがあり、淡いものも混ざっている。 上から見ると紙ふぶきのようだった。 「食い物屋はあるだろうか」 雪深 終がバサリとパンフレットを広げる。……食べ物屋を探す彼の手は、既にアップルパイを持っていた。しかも二つ。 「あ、あれっ、それ、いつお買いになったんですの?」 「ここへ来る途中だ。気がつかなかったか……」 アルアの言葉にきょとんとする終。買い食いに関しては天才的である。 「それで、目的のお店はあったのかな?」 リーリスがひょいと覗き込むようにして訊く。 終は頷き、『メニューの豊富さならココ☆ マホロバ料理のグルメテュアンニ』と書かれた部分を指さした。 よかったよかった! っとリーリスはスカートをひらひらさせて皆を振り返る。 「それじゃあここで提案! 自分のスキを追求したいよね☆ 夕方集合で一時解散にする?」 「行き先が合えば一緒に行けばいいですし、そうでなければ各々好きな場所へ行けばいい訳ですか……いいですね」 「俺も異論はない。何かあればノートで連絡を取り合おう」 「自由で楽しそうですわ。わたくしはお祭りやアトラクションを探してみようかしら……」 リーリスは赤い目を細めて笑った。 「決定だね!」 ●それぞれの楽しみ ふわん と浮かんだその少女を、巡査は目を丸くして見ていた。髪は絹糸のように美しく、陽光を受けてきらきらと光っている。その顔にはまだ幼さが残っていた。 少女――リーリスは巡査の視線を感じ、わっと声を出して着地する。 「あ、つい……楽しいと、浮かんじゃうよね☆」 「驚いた、きみはとても人間に近い宇宙人なんだね」 「うんっ! リーリスは今日、マホロバ見学に来たの。リーリスが宇宙人なのはナイショだよ?」 るんるんとした様子のリーリスを前に、巡査は学校? と首を傾げる。 「ちゃんと学校から、見学のしおり貰ったもん」 ごそごそとポシェットを漁るリーリス。しかしその手に触れるべきものが無い。 「あれ……」 「ど、どうした?」 「……ない。落としちゃっ……た?」 うるり、と涙目になるリーリスを宥めようと巡査は慌てて言う。 「重要なことを覚えていれば大丈夫、それに一緒に探してあげるよ。ね?」 「重要なこと……」 考え、リーリスはハッとした顔をする。 「……!」 「こ、今度は何を落として……」 「お兄ちゃんが言ってた! マホロバには悪い人が居て、制服着てるからすぐ分かるって! 信じてついてくと、お肉屋さんに売られて食べられちゃうんだって!」 思わず「へ?」という声が巡査の口から漏れる。 「助けてパパ! ママ! お兄ちゃーん! リーリス食べられちゃうよぉー」 「え、あ、ちょ、待っ」 零れる涙を光らせ、リーリスはその場からダッシュで逃げ出した。 慌てふためく巡査を背中に、路地を曲がったリーリスはぺろりと舌を出す。 「兄の嘘を信じて社会見学にやってきた宇宙人……ふふ、これは効果がありそう」 小さく笑い、彼女は繁華街へと足を向けるのだった。 テオはこの都市で一番近未来的な場所、宇宙船の発着場……宇宙港に居た。 普段ここを利用しないままマホロバを訪れる宇宙人も少なくはないが、正規の手段で来ようとするならば通らずにはいられない場所だ。 音もなく浮遊し、ゆっくりと上昇してから規定の高さまで来たところで高速飛行を開始する宇宙船。 それを見送り、テオはほうっと熱のこもった息を吐いた。 「乗ってみたいです。更に欲をいえば分解してみたいです……」 材質は何なのだろうか。 内部構造も気になる。 どのような機関がどのように機能しているのだろう。 様々な形があるが、どれも動力源や原理は共通しているのだろうか――好奇心はとどまることを知らない。 「おや? ご旅行の方ですか?」 案内員か何かだろうか、身なりのきちんとした女性がそう言って寄ってきた。 テオは事前に入手しておいた翻訳機を手に持ち、それを見せてにこりと微笑む。 「凄い宇宙船ですね、こんなに沢山あるとは」 案内員はテオのその感想に目をぱちくりさせた。 「ふふ、宇宙人の方がそういった感想を持たれるのは珍しいですね」 どうやらここへ来る宇宙人は、大半が宇宙船を日常的に使う乗り物として認識しているらしい。 いわば今は壱番世界の人間が駐輪場を見て「凄い自転車ですね」と言ったようなものだ。 しかしまだまずい状況ではない。テオは人当たりの良い笑みを浮かべ続ける。 「実は私箱入りでして。可笑しなものに染まらないようにって殆ど全く外界と遮断されて育てられたんです」 「あら……」 「このままではいけないと勇気を振り絞って、家人の隙をついて母星を脱出してきた次第でして」 「複雑な事情がおありなんですね……」 複雑すぎて立場上、案内員はそれ以上追及してこなかった。 テオはにっこりとしたまま訊く。 「あの、この辺りにベジタリアン向けの食事処はありませんか?」 とある場所へ案内してくれた女性を前に、アルアは何かを掬うように合わせた手の上に花の種をいくつかのせた。 なんだろう、と首を傾げる女性の顔がすぐに驚きの表情に変わる。 何も無いところから水が湧き、それが手のひらを満たしたのだ。 それだけではない。水に沈んだ種がぴくりと動いたかと思うと、あっという間に発芽し、水から顔を覗かせる頃には美しい花を咲かせていたのだ。 「綺麗……」 「わたくし達が感謝を表す時に、これを相手に渡すんですの。貰っていただけます?」 アルアはソッとそれを女性に差し出す。女性は少しはにかんだ後、礼を言って受け取った。 手を振り帰ってゆく女性を見送り、アルアは目的地を再度見渡した。 ここは無重力系のアトラクションを扱うテーマパークで、今は期間限定で宇宙人は入園無料なのだという。どうやら無重力に慣れている宇宙人にも興味を持ってもらおうと企画されたらしい。 「まあ、ここってそんなにも楽しそうな場所なんですのね」 出入り口近くに咲いていた蒲公英のような花と意思を通わせ、アルアは微笑む。 花曰く、ここから帰る子供達は皆とても良い笑顔をしているのだという。 入ってみるとまさにそこは別世界。巨大な水の塊が宙に浮き、その中で泳ぎを楽しむ人々が見える。 黒いビキニに着替えたアルアは、入る際に貰った足輪を見下ろした。ここに付いているボタンを押すと重力の影響を受けなくなるのだという。実際は無重力の部屋で個人に対し、人工的に重力を発生させる装置のようだが。 「あれは何かしら……?」 空中にぽつんと浮かぶ白い板。 形だけならば飛び込み台のようだが……いや、飛び込み台だ。 「!」 一人の人がそこからジャンプし、水とはまったく違う方向へと落下する。しかしくにゃりと落下する向きが変わり、その人は離れた水の中に着水した。 別の方向にはトンネルらしきものの出入り口がぽっかりと口を開けている。あれも何かのアトラクションだろうか。 アルアも遊ぶ人々に加わり、ふよふよと浮きながら例の飛び込み台へと近寄った。 「……アルア、いきますの!」 ばんっ ……ばしゃーん! 豪快に飛び込んだアルアは水面に顔を出し、ぷるぷると振るわせる。 と、その目に楽しげな光景が飛び込んだきた。 どうやら地上で宇宙人の曲芸団によるイベントが行われるらしい。お客の参加も大歓迎、衣装も貸し出し――そこまで確認した時点で、すでにアルアは水から出ていた。 終は迷わなかった。 「いやぁ……兄ちゃん、勇気あるねえ」 とある食べ物屋の中で終はそんな言葉を自身に向けられ、首を傾げる。 先ほどパクリと一口でいったのは蛙の唐揚げだという。食べ物に対して大らかな終にはさして問題ではなかったが、露店の店長はびっくりしたようだ。よほど不人気だったのだろう。 「それじゃあこっちもどうだい」 「む、これは……」 なにかよくわからないもの。 ……としか表現出来なかった。 「何か分かるかい?」 店長は意地悪な質問をぶつけてくる。皿にのったそれは天ぷら……らしかったが、衣が所々緑色をしている。しかもつつくとぷるぷるしていた。 「ゼリーでも天ぷらにしたのか?」 「おしいなぁ」 「おしい……」 はて、と首を傾げていると、店長は無言でお茶を置いた。いやに大きな湯のみである。 食べてみろという事なのだろう。終はじーっと観察した後、箸から逃げに逃げたそれを何とか口に収めた。 「!!」 甘……いや、辛い、しかししょっぱ……違う、苦い、が酸っぱい――気がしたが、そう感じ切る前にまた味が変わった。後味は甘い。 とりあえず何ともいえない顔をしながら終はお茶を飲んだ。 なるほど、これだけ飲んでも後味がなかなか消えてくれない。 「今のは……」 「食用ゲルの天ぷらさ」 ゼリーの方が良かった。 しかし前向きにとらえれば贅沢な味である。終は驚きはしたが、嫌な印象は持たなかった。 お代を払い、食べたものに関するメモをとりつつ、終は道を進む。ここは食品店や食品を扱う露店の集う通りで、歩いているだけで鼻腔が何度もくすぐられた。 これの前に言ったグルメテュアンニも噂通りのメニューの豊富さだったが、ここの比ではない。 「ちょっとちょっとお客さん」 途中、声をかけられ振り向いてみると、そこにはいかにも怪しいといった雰囲気を醸し出す屋台があった。 「なんだ?」 「これ買ってみないかい、美味しいよ美味しいよ。しかも成長を促進する効果あり!」 「……」 成長、という単語は甘美だが、何に対して使われているのかはっきりしない。 訊ねてみてもはぐらかされる。……怪しい。 「…………」 終はたっぷり悩み、考え、十分、二十分と経ち……結局、後ろ髪を引かれる思いでその場を去ることにした。やはり怪しい。 途中、振り返ってみると黒い制服の男に色々と聞かれている姿を確認出来――た気がしたが、終は見なかったことにした。 ●美味しいご飯! そのベジタリアン専用レストランはビルの六階にあった。エルケイスでは珍しい場所だ。 ここは宇宙港の近くにあり、飛び立つ宇宙船を見ることも出来る。 窓から見えるその光景を眺めつつ、テオは薄くスライスされた人参を口に運んだ。 「野菜は我々のものとあまり変わりませんね……」 メニューをもう一度見てみると、端に安全な施設で栽培している旨が記されていた。近くにある判子は許可の証か何かだろうか。 都市の外側は汚染地域がとても多い。特に影響を受けているのは土と水だろう、そのため食べ物に関しては何か工夫されているらしい。 ……栽培しているところも見てみたい。 そう思っているところに赤味の綺麗なサラダセットが運ばれて来、テオはそれを笑顔で受け取った。 このサラダも施設で育ったものなのだろう。 「……次に機会があったら、その施設とやらを見学してみますか」 言い、齧ったトマトは甘く熟していた。 「リーリスさん?」 テーマパークを後にしたアルア。そんなアルアが見たのは、定食屋の中を覗くリーリスの後姿だった。 「わっ、奇遇だね!」 「リーリスさんもランチタイムですの?」 「そうそうっ。ちょっと待っててね」 リーリスはそう言い残し、流れるような動きで店内へと入った。そして店長に向かって微笑みかけ――魅了を発動する。 うるうるとした瞳で彼女は言った。 「リーリスお腹すいちゃったの……でもお金も落としちゃったの。何かお手伝いするから、ゴハン食べさせて?」 「な……なんて可哀想なお嬢ちゃんだ、いいぜ、食ってけ食ってけ!」 「やったぁ! ありがとうおじちゃん!」 飛び跳ね、リーリスは興味深げにそれを見ていたアルアに手招きする。 「一緒に食べよ?」 「いいんですの……っ?」 「大丈夫だよ、ほら座って座って」 まったくもって慣れた様子のリーリスである。 出てきたのは野菜と牛肉を炒めたもの、バターライス、クルトンの浮いたコンソメスープ。どれも壱番世界で見掛けるものだが、一つだけよく分からないものがあった。 ぷるぷるした、天ぷら。 ここに終が居たら止めてくれたかもしれない。 否、確実に止めていた。 その後、色んな意味で他人の耳を奪えそうな土産話を作った二人は店の仕事を手伝い、リーリスの魅了によりメニューの大半が完売……という、新たな土産話も追加で作ったのだった。 ちなみにリーリスのお食事本番はこの後に向かった宇宙人集会場にて行われたという。 名産品は探せばすぐに見つかった。 観光の名所と思しき場所には人も車も多く、そして土産物屋も所狭しと並んでいる。雑踏の中を進みながら、終はたまに跳びながら人垣越しに商品を見た。 彼は土産物が好きだった。土地のらしさが妙な濃さで詰まっており、様々なものを見て取れる。 (しかし……) 帰った後のことを思う。 土産物とは大抵かさ張るものである。物が増えるのを好まない終は食べ物系の土産――マホロバまんじゅうやマホちゃん人形焼といったものを中心に購入した。 ちなみにマホちゃんとはいわゆる「ゆるキャラ」らしい。赤茶けた髪をした女の子で病弱設定。マホロバの人間は自虐的な面でも強いのだろうか。 ひとしきり買った後、終はそれらをベンチの上に並べた。 「ふむ」 世界司書のツギメに何か土産を、と思ったのだ。 しかし味の好みが分からない。 「……帰ってから選んでもらうとするか」 無難なものから他人が首を傾げるものまで、色んな種類を織り交ぜて買ったつもりだ。一つくらいは好みに沿ったものがあるだろう。 ……ツギメがチョコ系に凄まじく惹かれながらも顔には出さず、せんべいを選んだという後日談が出来るのは、もうしばらく後のことだ。 ●旅行のおわり 「ふー、お腹いっぱい!」 元居た高台にて、つやつやした顔のリーリスがそう言って笑う。 集会場は宇宙人しか入れないものだったが、リーリスらは難なく通ることが出来た。 ちなみに宇宙人が集った目的はマホロバでの生き方を学んだり、他ではしにくい相談をするため。月に何度かあるらしく、来るのは皆マホロバで生活をしようとしている、もしくは既にしている者ばかりだった。 「アルアさんはどこへ行ってらしたんですか?」 テオが長い耳を揺らし、興味深げに訊く。 「無重力アトラクションというものを楽しんできました、あと……踊りを少々」 思い出し、ほわっとした表情になるアルア。 民族的な衣装を着て曲芸団に混じり踊った思い出は、彼女の胸で輝いていた。無重力状態を挟みながらふわふわと踊るのは早々ない体験だ。 「それにしても……」 リーリスが終を見る。 「凄い荷物だね」 「そうか? 皆が少なすぎるだけだと思うが……」 食べ物系の土産は箱に入っているため、量が多く見えるのだ。今回は本当に多かったりするが。 「リーリスは何か土産など買わなかったのか?」 「リーリスは美味しいものいっぱい貰っちゃったから、それだけでいいかなーって!」 さてっ、と彼女は来た時と同じように皆を振り返る。 「名残惜しいけれど、今日のところはこれで帰ろっか。機会があったらまた皆で行こうね♪」 三人とも迷いなく頷く。 ここではそれぞれにとっての目新しいもの、新しい味を見つけることが出来た。 これはこの世界を知る確実な一歩になっているはずだ。見知らぬ地への旅行とは、それだけの価値がある。 「……あっ、宇宙船ですわ」 アルアが指さした先には、夕暮れの空を飛ぶ丸い宇宙船が居た。今まで見たどれよりも綺麗に輝いている。 こうして帰り際にもう一つ思い出を作った一行は、見慣れたロストレイルの車両に向かって歩き始めたのだった。
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