「あっ、きたきた!」 軽快な声がロストナンバー達の耳に入る。 全く見えないが世界司書のクサナギだ。 緊急事態なんだ! と慌てて呼びかけられたものの、当のクサナギはいつものとおり、能天気そうな顔だった。 「AMATERASUのことが導きの書に出たんだ」 えぇと、と順を追って説明を始める。 SAIと呼ばれるコンピュータが支配する管理都市の<FUKUOKA>から、レジスタンスの襲撃があるという情報を入手したと援護の要請が入ったのが切欠だった。 AMATERASUには全てを管理されていることに疑問を抱き、SAIに叛逆する者も少なくない。ロストナンバー達も以前SAI側、レジスタンス側どちらにも協力したことがあった。 レジスタンス側からの要請は、当たり前かもしれないが無いそうだ。 導きの書に書かれていたのは両陣営の激突ではなく、→【管理都市〈FUKUOKA〉Yドームにてレジスタンス全滅】しか無かった。 全滅などという恐ろしい単語を目にしたとき、クサナギはレジスタンス側を支援する為にロストナンバー達に声をかけた。 今回、表向きは世界図書館はSAI側についているので、当然SAI側に協力するロストナンバー達も募っている。 レジスタンスの全滅を防ぐことが目的のクサナギとは真っ向から対立してしまうが、見過ごすことも出来ない。 だからと言ってロストナンバー同士で戦うということも避けたいし、SAI側にロストナンバーであるという共通点を知られるのは面倒だし、勿論簡単に囚われることもないだろうが、SAI側に潜入した彼らの身の安全が保障されるとは限らない。 「しかも<FUKUOKA>にはさ、APフィールドがあるんだよね。あ、APフィールドってのはアレ、ESPとか使えなくなる磁場?なんだって。えーと、それがみんなの能力にどう影響するのかまだ判ってないんだ。だから万全の体勢で望めるとは限らない」 きわめて珍しくクサナギはキリリとした表情だ。 「そこでさ、全滅したって見せかけようぜ!」 え? とロストナンバー達がぽかんと目の前の少年を見つめる。 「SAIにいったみんなが安全に、向こうに信頼して貰える手助けってかんじ? レジスタンスの人達的にも全滅したって見せかけたほうがいいと思うんだよね。これから先、こそこそ活動も少しはしやすいと思うし。だからこそ、向こうにはいっそド派手~に勝って貰いたいんだよね!」 喋りながらポケットを漁る。 以前に聴いたことがある。クサナギは依頼を受けたロストナンバー達に“勇者バッチ”なるものを配布して回っているのだと。今まで配られた分を考えると、結構な数になると思われるが一体どこから調達しているのだろうか。そんな疑問は実は誰も持っていない。 「出発するにはまだ時間があるからさ、なんていうの、こう……全滅を装える裏工作? の準備とか、して欲しいんだ。勇者たるもの、時には影になることも厭うこと無かれ!」 あとはこれ! と、どうしてそれだけ仕舞えたのか不思議なくらいの量の勇者バッチが取り出される。 「今回のは特別仕様なんだぜ! 勇者バッチイントランシーバー!」 一見してトランシーバーが内蔵されているようには見えないが、クサナギが言うところのトランシーバーの発信ボタンは確かにちょこんと存在している。 更にそのとなりに色違いのボタンもある。 「こっちのはいざっていう時に押せって博士から言われてるんだ! 効果はわかんないけど」 勇者バッチの裏側には小さな文字で何かが書いてある。 トランシーバーが内蔵されているというので、今までのとは違い無いよりは便利かもしれない。トラベラーズノートがあるのにとは言ってはいけない。トランシーバーはロマンなのである。 「あっ、あと、忘れちゃいけない! これこれ」 人数分×2本、手渡しで配布されるそれは、魚肉ソーセージかと見紛うシロモノだった。 パッケージには【赤い恋人達】と印字されている。 「行く先は<FUKUOKA>だからさ! こいつは欠かせないじゃん?」 -そんな装備で大丈夫か? 言葉が頭をよぎる。 -大丈夫じゃ無さそうだけど何とかするのが世の情け。*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・!注意!このシナリオはあきよしこうWRの「ゼロから始まる~花咲けY―ドーム!~」と、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによるシナリオへの複数参加はご遠慮下さい。*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
【0:00】 三人の人影がある、YドームのVIP専用席たるスーパーボックス席は今はマジックミラーになっているから、レジスタンス側ロストナンバーはそれを確認することは出来ない。 中にいるのはSAI側の監視者、風見一悟と二人のバイオロイド。彼らはSAIに味方する【外国人】―ロストナンバー達の監視役として、この場にいる。外国人たちがしくじるか、怪しい動きがあったときには何らかの「行動」に移るだろう。 そしてレジスタンス側は―― レジスタンス達は地下から物資強奪のため潜入。ロストナンバー達はSAI側に“外国人”であることがバレないように、レジスタンスを装いながら戦闘でカバーする予定であった。 が、SAI側ロストナンバー達が暴れやすくなるよう、彼らにレジスタンスを“始末”してもらった。 SAI側の攻撃はレジスタンスとして我々が受け止める。 ここまでが大まかな作戦である。 【0:29】 ――清闇と理星の空中大決戦! グラウンドへの潜入は第五ゲートからだった。 最初に、清闇と理星が突入する。 「さァて――」 二人が目を合わせて不適に笑いあうと、清闇の体は暖かい光に包まれる。 理星は用意しておいた発煙筒を使う。見る見るうちに煙が溢れる。 七輪で秋刀魚を焼きながらという案も出たが、七輪の煙では量が足りないのではという結論にいたり、断念したのはここだけの話だ。 その光は収束するのと同時に天井へ向けて舞い上がる。 オオォオオォォォォォォ……! ドーム全体に響く咆哮と銀色に目映く塗られた翼が、僅かに残っていた清闇をまとう光に反射して、彼の名のごとく星のように輝く。 咆哮と、その空の反射にその場にいた全員が空を見上げる。 するとそこには、理星の翼同様、メタリックに塗られた三十メートル近くになんなんとする、巨大な機械龍が居た。清闇だ。 体の大きさから想像できる、いやそれ以上の威厳を放つ咆哮がドームを揺るがす。 檸於のギアが、レナの魔法によって巨大化する。 どことなく彼の目が虚ろなのは聞いてはいけない。 「発進、レオカイザー!」 若干ヤケになっているように見えなくもない。それでも聞いてはいけない。 Yドーム上空七十メートル。 「あっ、俺は、えーと、何だっけ……れじすたんすがかいはつしたひこうきかいのてすとぷれいをじっせんでしている、んだ!」 理星の辿々しい言い方は、つまり、聞こえても言いように敢えて言っているのだろう。 尤も、演技のできない理星だから思い切り棒読み口調になっていたのはご愛敬、と言ったところか。 俺ちゃんと言えたよ! と、一応敵対している相手が居るのに、嬉しそうに報告する。龍なので表情自体は判らないが、そうか頑張ったな、と言わんばかりに清闇が頷く。 「まァあんたには悪いが……俺たちにもやるべきことはあるんでな」 和んでいた雰囲気から一転、龍の鋭い双眸が檸於を捉える。 檸於の傍らには、先にフックショットで上ってきたネイパルムがいた。二人はなにやら話をしているが、作戦会議であろうと違っていようと、些細なことだ。 力の加減は難しいが、清闇も理星もあえて大技でいく手筈だ。 当たれば大きいがそもそも当たりにくいということを装えば、向こうも避けやすいだろうし、怪しまれることも少ないだろう。 相手はロストナンバーであるから多少の怪我など厭わないだろうが、できる限りは怪我はさせたくない。 威力を示すのに、二階席くらいなら破壊してもいいだろう。 ひとや命に替えはきかないが、こだわりのある家具ならいざしらず、こういった建物の備え付けの席ならいくらでも替えはきくだろう。 「悪いな……!」 清闇が大きく口を開ける。まるで全てのエネルギーがそこに集約されていくかのように輝き、吸い込まれていく。 「げ!?」 ネイパルムを振り返った檸於だったが、肝心の相手は理星と剣を交えている。 当たったらひとたまりもないのは火を見るより明らかだ。壁に焼け跡くらい残ればまだマシだろうか。っていうかドームそのものが危なくないか!? そのままの威力で放ったら、それはもう危ないどころではなくてドームごと消滅してしまう。 SAI側と対峙した時、清闇は光と風圧だけの見かけ倒しブレスで済ます予定だった。だが、最初の一撃は、威力を見せつけた方がいい。攻撃目標は目の前の二人ではなく、俺に誤爆したっていうのはどうかな!と提案した理星でもなく(きちんと窘めておいた)、二階観客席。 カッ、と上空が光る。それはほんの一瞬で、しかし直後に三階席から凄まじい爆裂音。その場の全員が音のした方向に目をやれば、青いプラスチック製の観客席がどろどろに溶けて-間もなく固まる。 「清闇さん凄ぇっ!!」 ひとに被害が及んでいないからだろう、理星が目をキラキラさせて清闇と溶けた客席を交互に見やる。 「俺も負けてられねぇな……!」 太刀を構え直し、ネイパルムに視線を合わせる。相手の獲物は確か、ぐれねえどらんちゃあというものだ。いくら本気で殺しあうわけではないとひえ、理星の太刀筋に合わせられる相手だ。正式な修練でこそ、相手をして欲しかったものだ。 「はっ!」 翼を持って右へ左へと宙を周りネイパルムを翻弄する。向こうも本来の翼であればもっとスムーズに動けたであろう。さすがに自分の体程にはフックショットは扱えない。 再度、重なる竜の咆哮。 檸於のギアが機械竜にボディアタックをする。お互い、かじりつこうとしては尾で叩くの繰り返し。 「レオブレェェェェド!」 レオカイザーが超時空から取り出した何故か短剣にしたレオブレードで切り裂こうとしては引き離される。 翼と尾から繰り出される風圧で、理星とネイパルムが時々吹き飛ばされる。 「おぃぃ! お前等ちょっと自重しろ!?」 そう叫びたかった。心の底から全力で叫びたかった。 しかし大人の事情でそうは行かず。 風圧で飛ばされたが、離れた瞬間をねらって、ネイパルムは突っ込んでくる理星に持ち替えたロケットランチャーで発砲する。理星は全く避けずに全弾を体で受け止め、大袈裟に四階の客席に吹っ飛ぶ。その際、盛大に血液が飛び散る。 客席に血痕が花が咲くように広がっていく。 とどめを刺す(フリ)為、ネイパルムは理星の元へと飛び降りるが、 「理星ーーッ!」 目映い閃光が背後から迫り、反射的に体を翻し理星から距離を取る。 炸裂音。 衝撃でかるく煽られ空中で何度か回転しなければ、いかなネイパルムの巨体といえど反対側まで吹き飛ばされていたかもしれない。 清闇としても理星が血を吹き出した瞬間、彼は死に至らないのは判っていたのだが、理性は感情と歩みを揃えてはくれなかった。 ネイパルムが歴戦の勇士であり、ただのブレスであったから良かったものの、後でターミナルででも、ネイパルムに謝らなければ。 その隙を見逃さず、清闇の腹部を檸於がレオブレードでけん制する。。 鉄板鱗のおかげか体にはノーダメージで済んだ上、鉄板鱗と本来の鱗の隙間に仕込んだエフェクト玉が炸裂する。 「うわっ!」 激しい光が檸於とネイパルムを包むが、一歩引けばただの閃光なので視界が眩むこともない。が、目をやられたフリをする。 そういえば、と清闇がクサナギから受け取った勇者バッチを取り出す。 どこから、とか聞いてはいけない。それなロマンだから。 押すなよ、絶対に押すなよ!と書かれているそれは、正直、清闇も押したくて押したくてウズウズしていた。 背後から理星が飛んでくる気配。翼の動く音からして、体に負った傷はもう何ともないようだ。 ぽち。 「え」 押すなよボタンを押した瞬間、天井一面、光に満たされた。 あまりにも強い光を真正面から近距離で見たせいで、さしもの清闇も一瞬とはいえ目を焼かれる。 そのせいで天井からグラウンドまで一気に下降してしまう。 (お、やべぇな。下今誰もいないよな?) 当の本人は動じるとは正反対の場所にいた。数十メートルくらいであれば、落ちたところで清闇本人にそれほどのダメージはない。 天井付近では。 丁度清闇の身体が盾になり、閃光弾の威力から免れた理星が呆然としていた。 「さ、清闇さ……! あっ、えっと、そうだった。 う、うわーやられたー!」 この際、清闇が落ちたのは相手の秘密兵器だったに違いないことにしてしまえ! と即座に判断ーというか、空気を読んだ理星が精一杯の演技で、旋回しながら落ちていき、着地してすぐ清闇の元へと駆け寄る。 「清闇さんっ、無事かっ!?」 「おう、大したこたぁねぇんだが、あの光量には驚いた。ってお前俺を追ってきたのか?」 「だって心配したんだぜ」 おいおい、と苦笑するも、理星のその心遣いは嬉しかった。着地の後に人型に戻っていたのもあり、清闇は理星の頭を撫でる。 「ん?」 ――空牙、星占いをちょっと見直す。 【0:13】 術を使い、透明になった―厳密には透明に見せる幻術なのだが―上に肉球独特の足音がない、隠密行動をするには裏方を買って出た空牙が適任だった。 カンタレラからトラベラーズノートで連絡を受け、念のため透明化して駆け足で向かう。 「えっ」 訪れた場所は、一生彼が訪れることはない筈だった場所だ。 「何をしているであるか」 「いや、だってここ、拙者入れないでござる」 「扉は空いているから問題ないのである」 いやいやでもでもだって、の押し問答を繰り広げたが、結局時間的余裕がそれほどないこともあり、凄まじい抵抗感を抱えたまま、“その場所”へと入る。 そこで負傷したレジスタンスの衣服をカンタレラが追いはぎ張りに奪い取り、空牙に渡す。 これを、戦闘した場所、もしくは近辺に置いてきて彼らの死を装うのだ。 任せたである、と送り出されても、空牙の心は晴れなかった。しっぽがちょっぴり下がっていて哀愁を誘う背中になっていた。 【0:23】 それでも一仕事を終えてグラウンドに戻ると、低く轟く龍の咆哮が耳を裂く。 清闇殿、とすぐに見当がついた。機械龍となった彼くらいだろう、あの咆哮を出すことができるのは。近くには理星が舞っているに違いない。 ーあと問題はレナ殿でござる。 いや問題といっては差し支えがあるだろう。彼女に問題はない。あるとすれば、彼女の能力だ。ド派手な魔法を自在に操るから、このYドームを破壊せずいいられるかどうか。レジスタンス側のこちらとしては破壊してしまってもいいのだが、問題は向こうだ。できれば信用を勝ち取る協力はしたい。 「ギガ・ファイヤーボンバー!!」 「ああっ、やっぱりー!」 耳に馴染んだレナの声。よりにもよってかなり派手な魔法とは! 思わずレナの真ん前にバッと飛び出した。 完全発動する前だったのか、かなり大きな衝突音はしたものの、かろうじて、空牙はその大きな体で大惨事を未然に防いだ。 毛皮ボロボロである。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 「……あたしの魔法を防ぐだなんてやるわね!」 すぐさま距離をとる二人。レナは瞬時に動いたのでテレポートの魔法でも使ったのだろう。 「ファイアボール!」 先ほどよりずっと地味な魔法だ。避けてもドーム全体がどうなるというわけではないだろうが……やはり避けるのも好ましくはない! 「あ、危ないでござうぅぅ、カンタレラ殿ぉぉぉ!」 因みにカンタレラは近くには居ない。 ドゴッ! 激突音と、焦げ臭いにおい。 レナの放った魔法は、見事空牙の顎にクリーンヒット。 直後、焦げ臭さを感知したスプリンクラーが作動し-- 空牙はびしょ濡れになった。 そんな眼差しを受けながら、今朝のテレビを思い出した。 「ああ……拙者今日のめざまし占い最下位でござった……」 あの可愛らしいお天気お姉さんが、今は、とても、遠い。 ー同時刻、女怪盗カンタレラ 【0:07】 鮮やかなフラメンコドレスではなく、その艶めかしい身体をさらに蠱惑的にする革製の全身を覆うスーツに身を包んだカンタレラは、元々の身の軽さもあり、空牙同様裏方として動いていた。 このスーツ、彼女が自ら用意していたもので、何でもイメージは忍者らしい。軽やかに動く、動きやすい、目立ちにくい。忍者っぽいイメージを全て揃えているカンタレラにとっては最強のスーツだ。 しかし今の彼女の姿を、ある程度の年齢の壱番世界出身者が見れば、某怪盗三姉妹を連想していたに違いない。 カンタレラの役目は、まず最初に、地下一階の管理室に忍び込み、レジスタンス側が用意した偽のテープを監視カメラに仕込むことだ。 隠密活動には慣れている。バレずに忍び込むことは用意であるのだが、警備の人間が居ないのが気にかかった。 世界司書クサナギの話では、SAIに協力するロストナンバー達はまだ信頼をそれほど得ては居ないはずだ。 あるいは、別の場所で“外国人”全員を監視しているのか- カンタレラは預かり知らぬところであるが、事実、VIP専用のスーパーボックス席には、監視が居るのだ。 そうとは知らないカンタレラだから、借りた時計を見ながら、着実に、しかし迅速に管理室へと足を運ぶ。 廊下にカメラの類はない。 そんな折、カンタレラのトラベラーズノートが反応する。 通路の脇にそれて、こっそりと開くと、SAI側に協力している檸於からであった。こちらに来るときのロストレイルで一緒になったから、エアメール機能が使えるのだろう。 そこには、“監視カメラの録画とマイクはオフにした”と連絡が入る。管理室には行かずに済みそうだ。 『カンタレラ殿ー』 勇者バッチ型トランシーバーからした声にカンタレラはわずかに眉をひそめる。 「む。なんであるか空牙。カ、カンタレラは無実である!」 『別に誰も咎めていないでござるよ。ダメでござるよ、トランシーバーを使おうとしてうっかり押すなよボタン押しちゃったテヘペロなんてことは』 「な、何故判ったであるか!?」 『あっ、やっぱりでござる!』 お見通しだったというより、嘘がつけないカンタレラが墓穴を掘ったというオチだった。 『それより、予定通りやられたレジスタンスを保護したいのでござる。安全なところを探して欲しいでござる』 「任せておくのである」 プチッと通信が途切れたので、それにかこつけて押すなよボタンを押してしまおうかと企んだが、不思議なことに絶対にばれる気がしてくる。謎である。 「安全なところ……」 カンタレラは考える。安全であるということは、SAI側と接触しない、監視カメラにも写らない。つまりはそういうところだ。 Yドームの地図を見るが、どこにどんな部屋があるかは判るが、どこが安全かまでは判らない。 ただ一箇所だけ、一箇所だけ何があろうと絶対に安全な場所が一つだけあった。 【0:35】 “その場所”に負傷したレジスタンスを押し込み、癒し唄で彼らの負った怪我を回復してきたカンタレラは、グラウンドに入りあちこちのブースの隙間を縫って適当にエフェクト玉を撒き散らしていく。 押し込んだときにレジスタンスはあれだけの大怪我にも拘らず、結構な抵抗をしていたが、無視した。 上空を見上げれば、二対の巨大な龍とそれよりも小さな個体が二つ見えた。 清闇と理星だ。 ちょっと巨大な龍に乗って空を翔けてみたい、なんて心がウキウキしてしまう。 いやいやそれは後で頼……ではなくて、今考えるべきことではない。自制するのだカンタレラ。 ふるふると頭を振ると、視界に入ってきたのは“株式会社ハカタ医療機”と大きく書かれた詰まれた段ボール箱だ。 ロストナンバーのこういう付加価値は実にありがたい。 まさかこんなところに適当に置かれているとは思わなかった。 ダンボールに少しだけ手をかけただけでかなりの重量感があるのが判る。数箱あるこれらを一人で全て持ち帰るのは無理だろうが、通路側に持ち込めば何とかなる。 「残念、それ、水だよ~」 柔らかいのんびりとした声にカンタレラは跳び退って距離をとる。 顔や身体に黒いタトゥーが彫られている妙齢の女性が居た。 そう認識するが早いか否か―― ジャッ! SAI側ロストナンバーのシャンテルが拳先を認識するのに僅かな時間を要するほどの速さで一撃を繰り出してくる。 「ッ!」 寸でのところでカンタレラは一撃をかわす。が、左二の腕のスーツに跡がつく。 向こうとて、こちらに本気で仕掛けてくる気はないのは判る。 が、一方的にやられっぱなしなのも面白くない。 すぅ、と軽く息を吸い込んで―― 高く澄んだ鋭い風のような声がシャンテルを包む。 カンタレラの呪い歌。 本来であればもっと空気を裂く様な叫び声にも似た声質で歌うものだが、その声ではシャンテルを切り刻んでしまう。 威力を落としたから、シャンテルの負ったダメージはそれほどのものではなかった。彼女自身フックショットを使って中へと回避していたのもあるだろう。 シャンテルはフックショットとブースの石膏ボードを巧みに使ってカンタレラに斬撃を浴びせる。 が、注意深く見ればシャンテルの視線の先が攻撃対象になっている。 それに気付けば、後はもう組み手の様に、応酬を繰り返すだけだ。 だがそれも飽いたのか、シャンテルがフックショットを使い中に――ではなく、カンタレラの足元を掬う! 「くっ」 ワイヤーに足を引っ掛けバランスを崩したカンタレラはもんどりうつ。間髪入れず蹴り。カンタレラは転がって避けるがシャンテルはその頭上へ腕を伸ばした。 膝をつき起きあがる体勢のカンタレラがそれに気づいた時にはシャンテルは宙を舞っている。 猫の様にすばしこい相手に、カンタレラは舌打ちする。 身を捻って背後からのシャンテルの蹴りを何とかクロスブロックで受け止めると女はそのまま両手を左右に開いた。女の手から伸びた爪がシャンテルのローライズを切り裂く。 ぎりぎりでかわしてシャンテルは間合いをとった。 カンタレラはブースの影に走りこむ。だがシャンテルはフックショットで軽やかに障害物を飛び越えて追いかけてくる。 (今こそこれを使えばいいときなのである!) ウェストポーチから勇者バッチを取り出して躊躇うことなく押すなよスイッチを押す。 訝しげにシャンテルが眉を顰めた時。 「!?」 世界は真っ白になった。 ーほぼ同時刻 天才犬ふさふさ、我が道を行く 【0:22】 口にくわえた小振りのバックには、清闇が沢山作ったエフェクト玉と、「赤い恋人達」と、勇者バッチが入っている。 名前の通りふさふさしたその魅惑のしっぽを揺らせながら、彼はYドームを探索していた。 ふさふさは地図を見ても持ち歩くことは身体の構造上ほぼ不可能だ。折り畳まずに入れられるほどバックは小さくはないし、半分以下の大きさにしたとしても、今度は広げられない。肉球は魔性の手であり、些か不器用であるのだ。 「わふっ」 (全く、いかな私が卓越したすばらしい頭脳の持ち主とはいえ、この手先は如何なものでしょうね) 本人もなかなかにご不満の様子だ。 エフェクト玉は退却経路以外に仕込むため。こちらは清闇とふさふさ合同開発である。二人の魔法技術と科学技術が結集した奇跡の作品である。若干大袈裟。 勇者バッチは大事に大事に入れてある。 ふさふさ的には、これは【赤い恋人達】の起爆装置、なのだから。 そう、ふさふさはその卓越しすぎた頭脳で考えた。 世界司書から<FUKUOKA>に旅立つときに預かったものが、美味しい食べ物であるわけがない。それが彼の主張であるのだ。 皆が作業しているところに帰ってきたときもディーナとふさふさをおいてけぼりにして白米を食べていたのも知っている。 だけどこの【赤い恋人達】と皆が食べていた【赤い恋人達】は別物なのだ! そうでないとちょっと哀しいだなんて口が裂けても言わない。 そんな食べ物の恨みは恐ろしい、ということはとりあえず横に置いておくとして。 クサナギから預かったから、という理由が基本母体で、ふさふさは設置場所を求めてさまよっていた。 ディーナときたときは介助犬見習いの振りをしていたが、今はそれはしていない。とてもとても不本意ではあるが、迷い込んだ野良犬という設定である。誰に説明するまでもないが、そういう気持ちで動いている。 出来れば偉そうな立場にいるサイバノイド、もしくはバイオロイド。つまりはロストナンバーではない、本物のSAI側の者に【赤い恋人達】を持たせてしまいたい。 この押すなよボタンが設置されているのはそういうことだろう。 それ以外に存在の見当がつかない。 ふさふさは知らない。二人ものロストナンバーが押すなよボタンを押したくて押したくてたまらずにどさくさに紛れて(?)そのボタンを押して、並外れた光量を放つ閃光弾代わりとは。しかも爆発したりなぞしない、本当にただの閃光弾だったというオチ付きだ。 そんなことは露知らず、チャカチャカとときめく足音を立ててふさふさは一階を歩き回る。 目標としてはSAI側幹部に持たせることだが、そうそう都合よく、しかもこんな時間帯に夜勤をする幹部がいるとはあまり考えられないが、全面的にロストナンバー、“外国人”を信用しているわけではないし、監視役くらいはいるだろう。 器用に箱から取り出して一本ずつ分けることが出来れば最良なのだが、どうにも頼みそびれてしまった。というかそもそもなかなか言葉が通じにくくてコミュニケーションが取れない。 一階を回ってみたのだが、誰も見つけられなかった。 丁度二回に続く階段を見つけた上に、案内板に“この上スーパーボックス席”と刻まれている。 それはだいぶ古ぼけていた。あまり丁寧な扱いは受けていないのだろう。 今は展示会になっているが、Yドームのパンフレットに年間行事が書かれていた。殆ど、いや全てのイベントがスーパーボックス席とは無縁のものだった。 「くふぅ……」 (ううん。今は使われていないのでしょうか。生き物ののにおいがするのですが。スーパーボックス、なんて席だから偉そうなものがいる気がするのですがね) ふんふんと階段付近に花を近づけると、やはり間違いなく生き物独特のにおいが受け取れる。 少しばかりふさふさは逡巡したが、結局カチャカチャと階段を上っていった。 そこは一階よりは多少明るく光が差し込んでいた。 逆に一階よりは小部屋が少ない。一階はYドームをぐるりと囲むような作りであったが、経路図を見ると二階はグラウンドのバックネット裏と一塁側と三塁側のベンチ上に同じようなスーパーボックス席がある程度の作りのようだ。 パッと見た感じでは、爆弾である【赤い恋人達】を仕掛けるに適した、自販機のようなものは見当たらない。 せめてベンチのようなものがあれば、バックごと置き去りに出来るのだが。 歩いているのが街中であったのなら、ふさふさはお買い物バックらしきものを加えてお使いに来ている利口な犬に見えただろう。 丁度、一際大きな扉の前で埃のたまった灰皿を見つけた。 埃のにおいしかせず、案の定中身は殻ららしい。 丁寧にバックの中から【赤い恋人達】を取り出し、衝撃が起きないように、できる限り灰皿の中に頭を突っ込んでセットする。平らに置けるのが理想だったが仕方ないので縦型置きにする。 そっと灰皿の部分をかぶせて、設置完了。 これだけの大きさの扉の前なのだから、偉い立場のものがいるに違いない。間違いない。 その予想は当っていた。ドンピシャリと当っていた。 天才物理学犬の肩書きは伊達ではない。 ただ問題は、【赤い恋人達】は爆弾ではなかったという一点だけだ。 ―そんなふさふさの様子を、妙齢の美女が眺めていた。 オフェリア・ハンスキー。 高みの見物を決め込む予定だったのだが、予定が外れてしまった。更に戦闘で自分の価値を見せ付けなければならないという、面倒な時代になってしまったオフェリアは何とか面倒なことを全て弟に押し付けられないかと思案していたのだが。 「わふっ、わふわふぅ」 (おや、貴方はSAI側についたロストナンバーの方ですね。 ふむ、どうやらサイバノイド達はこんなところで高みの見物をしていたのですか) 「あら可愛らしいワンちゃんですこと。 手近なところで相手を見つけようかと思ったんですけど」 ふさふさはオフェリアに飛びかかった。彼女はそれを軽やかなステップでかわそうとすると、オフェリアの肩にふさふさがすがりつく。 「わふわふっ、わんっ」 (コレは爆破スイッチです。後は任せましたよ。ふふっ) 「……」 オフェリアは無反応である。何故なら残念ながらオフェリアは彼の言葉を解する術を持たなかったからだ。 「わふわふっ、わんっ」 (恐ろしいからと言って逃亡するわけではありませんよ! ただ、これを。貴方のほうが怪しまれずにもてるでしょう。【赤い恋人達】の起爆装置です。おすなよ、と書かれているほうのスイッチを押すのですよお嬢さん) 言うだけ言って、ふさふさはくるりとオフェリアに背(厳密には尻及びしっぽだ)を向け、爪音を立てて小走りに去っていく。 残されたオフェリアといえば。 ―ディーナ・ティモネン、裏切られる 【0:05】 SAI側ロストナンバーに迎撃され負傷したレジスタンスを回収するのに、カンタレラはディーナに助けを求めた。 彼女一人で安全な場所まで連れて行くのは骨が折れるからだろう。 それ自体は全く構わないのだが、保護した場所が。 本当にこの場所でいいの? と尋ねたが、カンタレラは胸を張って、ここ以外に相応しい場所はないのである! と答えた。 彼女の言うとおり、監視カメラもなければ多少の音が漏れても、誰かが入ってくるとかは、し辛いだろう。 保護したレジスタンスからカンタレラが強引に服を剥ぎ取り、同じく駆けつけた空牙に渡す。彼はこれをドームのあちこちにばら撒いてくるのが次の役目だ。 ディーナが強奪できた物資は大型のリュックに詰める事が出来たが、流石に重量があるので、レジスタンスとともに“その場所”へと置いてきた。 身軽になったディーナはグラウンドへと入りM4カービンを担ぎながら、辺りを警戒しながら順調にC4をセットしていく。万が一を想定して火薬の量はかなり控えめにしている。今回の目的は相手を殲滅することではない。メインは退却だ。 その際に、このC4が作動したら、目くらまし程度にはなるだろう。 「今回は本当の戦争するって聞いたから。近接しないで打ち合うのを想定していたんだけど」 あたりのブースを見渡すと、グレネードを満足に使えるだけの広さはないようだ。 ディーナと相手側だけならそれでも良かったが、レジスタンス側ロストナンバーが巻き込まれるのは避けたい。 ―サイバノイドの能力がどの程度のものなのか。 先だっては音波で自由を奪っていたらしいが、今回はAPフィールドがあるから、それがどう作用するのが全く未知数であるから今回は間違いなく純戦闘だと思い、結構な重装備できたのだ。 見取り図は貰ってきたパンフレットから手描きで転載した。 退却戦は得意だ。 これがあれば何の問題も無い。 【0:22~】 「よし……って、ん……?」 準備を整えたディーナの上空が、一瞬暗くなる。 何事かと天を仰げば、機械龍が空を飛んでいた。 ―あれ、おかしい……よ、ね? その側には、5Mになんなんとする翼を持った青年がいた。 ―うん。ちょっと待って欲しい、な。 想定外過ぎた。 今回は、今回こそは純戦闘の筈なのに……! 龍の―清闇の咆哮がディーナの耳に届く。 「―――ォッ!!」 なにやら聞いたことのある声がわずかに届く。そちらを向けば、丁度レナ・フォルトゥスの魔法が炸裂し、その近辺が白光に包まれる。 大きな大きな猫がその魔法を食らってしまっている。 「だ……」 プルプルと握った拳が震える。 「騙された……ッ!」 別に誰も騙してはいない。 ディーナとふさふさが下見にきていた時に清闇たちの作業を見ていなかったという不運があっただけで。 それに誰もお互いの作戦について発表していたわけでもなかった。空牙とカンタレラはお互いに少し打ち合わせをしたようだが、それ以外は各々自由に動いて何の問題も無かったから、それと殆どのメンバーが、結構大雑把だったというちょっとアレな結果になってしまっただけなのだ。 誰も悪くないのに悲劇は起きてしまうのだ。だからこその悲劇なのだ。哀しいね。 「今回こそっー!」 ヤケになって【赤い恋人達】をバリバリととても見た目からは想像できないような豪快な食べ方をする。 しょっちゅう特殊能力の応戦に出くわすから、今回こそはと思ったのだ。 何故みんなの作戦を聞いておかなかったのかと半分泣きそうになりながら、それでもディーナは担いでいたアサルトを設置する。 美味しいのが余計に今はなんだか腹立たしい。 退却経路は確保。追跡を振り切るアサルトも設置。 後は、と立ち上がった時、ある方向からまばゆい光が僅かにディーナを目をさす。 光に弱いディーナだが、その刺すような光はすぐにおさまった。 痛みを少なからず覚えるが、この光のモトがなんであるかを確認しなければならないし、誰かの攻撃であるのなら援護しに行かなければらない。 またあの強烈な光が刺してきてもブースが盾になるような動きで、光の差したほうへと足早に向かう。 そこには。 「目っ、目がっ。カンタレラの目がっ」 銀髪を結い上げたカンタレラとシャンテルが目を押さえてもんどりうっていた。 この二人の様子からしてディーナだけが刺すような痛みを覚えたわけでは無さそうだ。とんでもなく強い光源だったらしい。 「こっちへ! とりあえずこの場から出よう」 眼前で見たのだろう、カンタレラは目を押さえて、ディーナの声の方向に手を伸ばしている。 ぐっと手を引いて、カンタレラを肩に担ぐ。 細身の割りに思ったより体重を感じたのは背が高かいからだろう。 「何があった!?」 ザッとディーナの反対側から背の高い男と遭遇した。 SAI側のロストナンバーだろう。一応どこに監視カメラがあるか判らないから向こうも見逃してはくれないだろう。 男―ディオンがどのくらいの手かは判らないが、いつ回復するかわからないカンタレラを担いで対等に渡り合うのは難しいだろう。 上空や中央付近でも炸裂音が耐えない。 チラリと時計を見れば、撤退には程よい時間だ。 腰にセットしておいた信号拳銃を抜き放ち、天空に向けて引き金を引く。 その刹那。上空から先程のような光が降り注いでくる 反射的に天井を見上げたディオンの身体で光が遮られるよう移動し、光が比較的おさまると同時にディオンの背中を蹴り飛ばす。 「ぎゃっ!」 シャンテルはまだ目が潰れている。 ディオンは蹴り飛ばした。 今なら退却するのは簡単、な筈だった。 ドォォォォン! 身体が浮き上がるほどの衝撃と風圧。 何かとても重たいものが急激に空から落ちてきたようなインパクト。 「な、なに……?」 あまりの衝撃でグラウンドに穴が開いた挙句、意図的ではないにしろ開けた張本人の清闇はグラウンドを半分埋めて、翼の青年―理星はどうにも後からついて落ちてきたらしい。 「レオレーザァァァッ!!」 レオカイザーがレーザ光線を放つ。グレネードが連鎖的に誘爆。その爆音に重なったのは 「フィールド・リミット…」 レナの呟き。 「メテオ・ストライク!!」 「なにやらやばそうな雰囲気がするのである」 「逃げるよ、動かないでね!」 カンタレラを担いだままのディーナは、不穏な空気を悟ったお互いのため、大人二人分とは思えない軽いフットワークで退却経路を使う。 カッ 【0:55】 「えっ」 檸於とレナの一撃から辛くも脱出した五人だが、負傷したレジスタンスを保護された場所になんとか着いたとき、男性二人は絶句した。 その場所は、女子トイレだったからだ。 空牙の目の逸らし方からして、彼は知っていたようだ。服の切れ端や髪の毛などをばら撒く工作を担当したから、先に一度ここにきたようだ。 全ての希望条件がそろった場所はここしかないである、と言われても、納得は出来る。出来るが、男として、ここは絶対に入れない。 豪儀な清闇も流石に躊躇っている。理星は清闇の困惑振りが感染したようで、入り口と清闇を交互に見てオロオロとしている。 「誰も居ないんだから入ればいいのに。っていうか、来てくれないと、私とカンタレラだけじゃ運べないよ」 「そうなのである。早くするのである。誰かきたらどうするのである」 女性二人に言われて、気まずい気持ちを必死で堪えて、普段の三人からは想像も出来ないほどおっかなびっくり、足を運ぶ。 心なしかレジスタンスメンバーも居心地が悪そうだ。ご愁傷様というお互いの目線が語っている。 清闇と理星は元の腕力で、三人ずつ抱える。一人は空牙が、最後の一人は女性だったこともありディーナが担ぐ。 先導はカンタレラ。 「さっさとおさらばである。走るのである!」 「それにしても、レナ殿あんな派手な魔法使うだなんて、もう、アレでござる! もうしっぽニギニギ禁止でござる!」 「なんだよそんなことされてたのかお前」 「えっ、いいなあ、俺もやりたい! 駄目か?」 「メッ!でござる!」 「それより、レジスタンス側の工作は完了してるの?」 「大丈夫でござる、拙者がバラ巻いてきたでござるよ。ある程度散らしてきたでござる」 「むう、しかし髪の毛程度で足りるのであるか? 偽者の死体くらい使っても良かったのでは」 「それだと登録がどうって言ってたから、多分駄目なんじゃないのかなあ」 レジスタンス側ロストナンバーは全員猛ダッシュしていた。 当のレジスタンスは大雑把に抱えられて、「ヒィ」とか「もっちゆっくり!」とか叫んでいるが、一人、空牙の背に乗っているレジスタンスだけは満面の笑みだ。 誰一人として痛いがないのを怪しまれるかが未だ気にかかりはするが、あの二人の攻撃威力だ。消し炭程度にしか残っていなくても事態が事態だし、責任者もさほど強くは言えまい。 「ま、とりあえず上手くいったってことかね」 「わんっ、わんわんっ」 (素晴らしいですよ皆さん! 私と違って天才ではなさそうですが!) 途中からふさふさも合流する。 「うおっ、犬だ、モフモフだ!」 逃げている途中だというのに、理星は熱い視線をふさふさに送る。 この間にも、魔法とレーザーが爆発したことで連鎖されている爆発音がまだ聞こえる。 「そういえば、空牙、お前さん、なんでびしょぬれなんだよ」 不思議そうに清闇が尋ねる。 全くスピードが衰えないあたりはさすがロストナンバーというべきか。 「……今日の占い、最下位でござったからな……」 答えになっていない答えだが。 レジスタンスは殲滅され(た。様に見せかけられた)、ドームも壊れていないようなので、SAI側に“外国人”を疑う気持ちも少しは緩和されているに違いない。 -大団円?
このライターへメールを送る