モフトピアにも、新たな年が訪れた。 ウサギ型アニモフたちは、餅をつき、雑煮やお汁粉などを振舞う。 クマ型アニモフたちは、書初めの準備を、着々と進めている。 イヌ型アニモフたちは、凧揚げの用意をしている。凧から作る、本格的な仕様だ。 文字の凧にしたい場合は、クマ型アニモフとの共同作業も可能だ。 ネコ型アニモフたちは巨大テントを張り、中に炬燵を用意している。食べ物を持ち込んだり、ちょっとした休憩をしたり、炬燵の上に点在するミカンをつまんだり。とにかくまったりできるようにしている。「今年は、目一杯遊ぶのー!」 正月のために結成された「正月遊び隊」の隊長アニモフが叫ぶと、隊員たちが「おおおおお!」と返した。 皆を迎える準備は、万端なのだ!=============●特別ルールこの世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
ロストレイルが到着すると、アニモフ達は手を叩いて出迎えた。 「みんな、お客様なのー!」 隊長アニモフが叫ぶと、アニモフ達は嬉しそうに「おおお」と叫び返す。 そして、降りてきた人々を正月遊び会場へと誘ってゆく。会場に近づいていくと、徐々にいい匂いが漂ってくる。 ウサギ型アニモフ達による、雑煮やお汁粉の香りだ。ぺったん、ぺったん、とお餅をつく音も聞こえてくる。 「よいしょーよいしょー」 アニモフ達は、ぽふぽふと手を叩きながら、餅つきを応援する。真っ白なお餅が、臼から伸びる。 「今年のお餅も、上手にできてるのー」 「次は誰がつくのー?」 「自分なのー」 「あと十回で交代なのー」 きゃっきゃっとはしゃぎながら、ウサギ型アニモフ達は餅をつく。ついた餅は、素早く手で分けられ、もまれ、ずらっと並べられている。 よく見ると、薄紅色の餅や丸形、ウサギ型なんてものまである。 「餡子も入れるのー」 「中にイチゴも入れるのー」 ――しゃっしゃっ。 餅をもむアニモフ達の声に交じり、何かの音が響く。 「あれ、今何かの音がしたのー」 「何の音なのー?」 「分からないのー」 「分からないなら、仕方ないのー」 そっか、と納得したように言い合うと、再びアニモフ達は作業に戻るのだった。 クマ型アニモフ達が半紙を並べていると、ユーウォンがひょっこりと顔を出した。 「ここが書初めするところ?」 「あ、あけましておめでとうなのー」 「よろしくなのー」 ユーウォンの顔を見て、嬉しそうにアニモフ達が次々に挨拶をする。 「この紙に、この筆で、この墨を使って、書くのー」 「へぇ、何を書くの?」 「今年の抱負とかー、好きなものとかー」 「書きたいことなら、何でもいいのー」 「それって、字じゃないとダメ?」 きょと、と小首を傾げるユーウォンに、アニモフ達は口々に「そんなことないのー!」と告げる。 「絵でもいいのー」 「数字でもいいのー」 「記号でもいいのー」 「顔でも足でも手でも」 「なるほど、自由なんだな」 あははは、とユーウォンは笑う。 「お正月って、正月さんを迎えるためのお祭りなんだろ?」 「うん、そうなの」 「じゃあ、モフトピアの正月は、楽しいの大好きに違いないよ!」 ユーウォンはそう言うと、半紙をじっと見つめる。 「これに、いろんなものを書いて、色を足して、凧にしちゃったらどうかな?」 ユーウォンの提案に、クマ型アニモフ達が「おお」と声を上げる。 「じゃあ、準備するのー」 「たくさん書くのー」 「凧係に連絡するのー」 きゃっきゃっとはしゃぎながら、アニモフ達は準備に取り掛かる。ユーウォンもにこにこと笑いながら、半紙を前に筆を手に取るのだった。 イヌ型アニモフ達は、凧作りの準備を進めていた。ついでに、見本となる凧もいくつか制作し、風に乗せてみている。 「この世界の空もいいなぁ」 橡はそういって、空を見上げる。青く高い空に、ひらひらと凧が泳いでいる。 「一緒にするのー」 橡の姿を見つけ、イヌ型アニモフ達が集まる。あっという間に取り囲まれた橡は、驚きつつもアニモフ達の頭をなでていく。 人ごみは苦手だが、アニモフ達ならば大丈夫だ。むしろ、どんと来いと大きく構えていられもする。 「どれ、一緒にやってみるか」 橡はそう言いながら、アニモフ達から受け取った凧糸を、巧みに操る。橡の操る凧は、あっという間に青空の中で泳ぎだす。 「うわあ、上手なのー」 ぱちぱち、とアニモフ達はこぞって拍手を送る。そんな中、アニモフの一人がしょんぼりしたように、ぽて、と凧を落とす。 「ぼく、うまく飛ばせないの」 悲しそうに言うアニモフに、橡は「大丈夫だ」と言って笑いながら頭をなでる。 「ほら、凧を持っててやるから、一気に走るんだ」 「走るの?」 「ああ、めいっぱい走るんだ。後ろは振り返らずに、だぞ」 橡の言葉に、こく、と真顔でアニモフは頷く。そして、きゅっと凧糸を持ったままくるりと踵を返す。 「じゃあ、行くの!」 「おう、走れ!」 橡の合図とともに、アニモフは走り出す。その速度に合わせ、橡も走り出す。すると、ふわ、と凧が気流に乗って空へと泳ぎだした。 「もっともっとだ、走れ!」 すでに橡の手を離れ、凧は大空へと駆け上がってゆく。そこでようやく、橡はにっこりと笑いながら「もういいぞ」と声をかけてやる。 「うわああああ!」 アニモフは歓喜の声を上げる。さっきまで、空へと昇ることのなかった凧が、今や空の中で泳ぎまわっている。 「ぼくも教えてほしいのー」 「ぼくもぼくもー」 「よしよし、順番順番」 橡がいうと、アニモフの一人が「みてみてー」と言う。手には独楽を持っている。 「お、独楽じゃないか。それもやるかい?」 「やるのー」 きゃっきゃっとはしゃいでいると、クマ型アニモフ達が「おーい」と手を振りながらやってきた。 「あとで、凧作りを手伝ってほしいの」 「大きい凧を作るのー」 クマ型アニモフ達の中に、ユーウォンの姿もある。 「凧作り、なかなか難しそうだなあ」 「大丈夫なのー」 「ぼくらも頑張るのー」 「そうだよね、うん。がんばろうね、みんな!」 「なんなら、凧作りを手伝うぞ」 橡がいうと、ユーウォンは「うん」と嬉しそうにうなずく。 クマ型アニモフ達が持ってきた、たくさんの半紙をつなぎ合わせつつ、イヌ型アニモフ達が凧を作っていく。 「なかなか面白い模様だなぁ」 橡が感心したように言うと、ユーウォンが「ね」と言って笑う。 最終的に、巨大な凧が完成し、アニモフ達から大きな拍手が沸き上がった。 「凧揚げ凧揚げー! 飛ぶもののことなら、おれに任せとけ!」 おおお、とアニモフ達が再び拍手する。 「ふむ、飛ばそうにもなかなか難しそうだな」 橡が完成した凧を見ながら言う。する、ユーウォンは「そうだね」と言ってうなずく。 「大きすぎるからかな? だったら、強い風を捕まえようよ! 高い雲の上からなら、いけそうだよ!」 ユーウォンはいうが早いか、巨大な凧をもって地を蹴って空へと飛ぶ。すると、空の上の強い風が、巨大な凧を簡単にゆらゆらと飛ばし始める。 「よしっ!」 気流に乗ったのを確認し、ユーウォンは凧から手を放して地上へと降りる。地上では、凧の糸をアニモフ達が交代で手繰っている。 「おお、すごいなぁ」 橡が言うと、アニモフ達も「すごいのー」とうっとりしたように口々に言う。 「みんなー、お雑煮を炬燵で食べるのー」 ウサギ型アニモフ達と、ネコ型アニモフ達が皆を呼びに来る。 「あ、そういえば、ぜんざいとかもあるのー」 「おお、そりゃうまそうだ」 「凧は、交代で見ておくのー」 アニモフ達の言葉に、橡とユーウォンは「じゃあ」と言って、ほかのアニモフ達と一緒に炬燵へと向かうのだった。 吉備 サクラは、ふう、と一息つく。 セクタン、ゆりりんのミネルヴァの目で、島の全景を見ながらスケッチを行っていたのだ。 「モフちゃんたち、楽しそうね」 小さく笑みを携え、サクラは呟く。 姿を厳格で消しているため、誰の目にも触れられてはいない。会話もしていない。自分がモフトピアにいるということは、誰も知らないのだ。 「これが、最後のモフトピア見学ね」 ぽつりと呟き、手の中のスケッチを見つめる。 楽しそうに準備をし、正月行事に興じるアニモフ達の姿が描かれている。そのスケッチに書かれたアニモフ達は、誰もが笑顔でいっぱいだ。 幸せな様子を眺め、写し取る。 それが、今回のサクラの目的だった。 あたりを見回し、誰もいないことを確認する。そうして、樹の葉を一枚、口に含んだ。 (ここは、楽園。私の居場所はないけれど、楽園) それがいい、とサクラは思う。 泣いている子や、寂しそうな子がいたら、きっと余計なことをしてしまう。 そんな子がいなくてよかった、とサクラは改めて思う。 「ここが、永遠の楽園でありますように」 心からの言葉を吐き出し、サクラは空を見上げた。 色とりどりの、なんて書いてあるかもわからぬ、巨大な凧が飛んでいた。 ゆらゆらと揺れるその姿は、モフトピア全体を見下ろしているかのようであった。 <それぞれの正月は過ぎてゆき・了>
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