貴方がたの前に、エルフっぽい世界司書、グラウゼ・シオンが立つ。彼は普段どおりのエプロン姿で『導きの書』を片手に一礼した。「よう。先日は18箇所にわたる攻防戦、おつかれさん。お陰で世界中の苗木は全部取り払われたよ」 そこまで言うと、彼は「それでな……」と言いながら『導きの書』を捲る。「まぁ、なんだ。戦場となった壱番世界のセネガンビアの環状列石群に赴いてだな、その後の様子を伺って欲しいんだ」 そういいながらも、グラウゼは屈託もない笑みを溢して一言。「と、言うのは建前だ。ぶっちゃけ、セネガンビアで列石群観光して来い」 ……明け透けなく言う世界司書だった。「まぁ、列石群と言っても広い。皆には『女主人の墓』と呼ばれる物がある辺りに向かってもらいたいんだ」 そこは先日、戦いの舞台となった場所だ。まずはその後の経過を調査してもらいたい、という。「その後は自由行動だ。規定の時間には停留所に向かい、0世界へ戻って貰うけど結構時間があるから楽しんでおいで」 グラウゼはそう言うとぱちっ、とウインクした。 環状列石群を眺めたり、夕日や星空を見るのもいいだろう。近くにはガンビア川が流れており、運が良ければイルカを目撃できるかもしれない。 また、現在学者のグループが調査に来ているが、貴方がたが来る時は丁度休憩をしている。人懐っこい学者は貴方がたを見かけても怪しまず、もてなしてくれるだろう。 貴方がたはチケットを手に入れた。後はロストレイルに乗り込み、セネガンビアへ向かうだけである。 ……さぁ、どう過ごそうか。=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
序:大きな夕焼けを見上げて ここは、セネガンビアの環状列石群・高貴なる女主人の墓付近。そこに、多くのロストナンバー達が訪れていた。先日世界樹旅団による植樹を阻止せんと、図書館側のロストナンバー達が戦った場所である。今日は、その後の様子を調査する為に訪れたのだ。 調査はいたって順調だった。列石群にも、周りの環境にも問題は無く、世界樹旅団の残党も居なかった。 「それじゃ、各自解散!」 誰が言ったかはさておき、調査を終えたロストナンバー達は思い思いに観光を楽しむ事にした。 大きな夕日が、大地に沈んでいく。列石群の影もゆっくりと長くなる。乾いた土に広がる、赤味がかった琥珀色の空。音も無く西の大地へと落ちていく姿を、旅人たちはどんな思いで見つめるのだろうか。 ハクア・クロスフォードは、緑色の瞳をそっと細め、セネガンビアの列石群についてかかれた本の内容を思い出していた。 (確か戦士の墓からは高価な防具が、女主人の墓からは多数の豪奢な装飾品が見つかったんだったな) 思わず口元が綻ぶ。壱番世界の歴史は興味深く、故郷とは違うからこそ、その歴史に興味を持った。そして、その歴史が様々な角度から多くの人々によって研究され、考察されている事にも。 (興味深い世界だ) 改めて思いながら、彼は列石群が徐々に赤く染まるのを穏やかな気持ちで見つめていた。 その近くでは臼木 桂花がデフォルトフォームセクタン・ポチと共に空を見ていた。手には色々シールが張られた缶が握られている。クーラーボックスにもそんな缶が数本入っていた。 (やっぱり、一応これぐらいしておいた方がいいわよね) 腰に手を当ててゴクゴクと咽喉を鳴らしながら、缶の中身を飲み干す。そして、おもいっきり「夕陽のバカヤロー!」と叫ぶ。彼女はこの国ではないが、アフリカで墜落死した事になっていた。親の気持ちを何となく察してはいたが、そのせっかちさを呪わずにはいられない彼女は、その気持ちを空にぶつけていた。 その叫びに、ハクアは我に帰る。そして、桂花はクーラーボックスからキンキンに冷えた缶を取り出し、彼に笑いかける。 「アンタも飲む? 今日は無礼講よ」 「あぁ、ありがとう」 ハクアは苦笑し、ジュースの缶を受け取った。 少しはなれた所で、2人の男性が穏やかな心地で夕焼けに染まる世界を見つめていた。黒髪の男性がシューラで、金髪の男性がオーリャだった。 「ああ、壱番世界には、このようなものがあるんだね」 どこか感嘆の息まじりに、シューラが言う。その傍らで、いつにも無く相棒が興奮しているな、と思いながらオーリャは列石群を見つめる。 (ああ、わたくしめと一緒だから、というのはわかります。……それにしても、こういうのが残るのですか) 世界が変われば、常識が変わるのはわかる。それはわかっていたが、改めてみると新鮮だった。しみじみと見つめていると、シューラがオーリャに語りかける。 「ねえ、オーリャ、すばらしいと思わないかい?」 「本当にすばらしいですね。いまはまだ、研究途中のようですが」 彼の問い掛けに、オーリャは静かに頷く。彼らの故郷では、こういうものは残らなかった。最後の祈り神子と一緒に、闇の海へ消えていた。 (なのに、世界を変えれば、存在するなんて!) その事に、シューラは素直に感動を覚えていたのだ。彼は、いつになく無邪気な瞳で、ゆっくりと言った。 「ああ、こういう素敵な夕日をオーリャと見られるなんて。自分は幸せだよ」 どうかな? と相棒に問いかければ、 「ええ、幸せですよ。いつもと違ったテンションのシューラも見れたことですし」 と、オーリャも優しい気持ちで返す。二人は顔を見合わせるとくすり、と笑う。 (祈り神子の部屋は、ターミナルと同じく昼のままでしたからね) 徐々に濃くなる赤に瞳を細めながら、オーリャは小さく頷いた。 列石の影が、徐々に、徐々に伸びていく。その様をホワイトガーデンは見つめていた。左肩から生えた翼を見れば、いつのまにか薄っすらと赤く染まっている。 (これが、彼らの見ていた光景なのね) ノスタルジアを覚えながら、彼女は広々と続く列石群を見つめる。空だけでなく、大地も赤に染められていく中で、彼女はそっと呟いた。 「綺麗」 この石の高さがそこに眠る人の背の高さではないのはわかる。けれども、彼らは日々どんな思いでこの空を見上げていたのだろうか。興味の尽きないホワイトガーデンだった。 一方、川原 撫子は安堵した表情で列石群を眺めていた。彼女はここでの戦いに参加した1人で、戦闘中に大量の石鹸水をまいたのだ。 (派手に石鹸水撒いたから気になってたんですぅ。自然大破壊みたいになってたらどうしよぉって) 調査の際、列石群は戦闘前と変わらない様子だった。その事が本当に嬉しかった。そこで、ふと彼女は思う。ラテライトも、地域によって性質が違うのだろうか、と。 別の国のラテライトを調べた際、不可逆性の事を知った。その為に石鹸水にした。しかし、後からセネガンビアの物について調べたところ、もっと脆いという情報を得ていたからだ。 (だから、本当に心配でしたぁ。でもぉ、無事で良かったですぅ☆) ほっ、と胸を撫で下ろしながら、列石群を見る。静かに、ただ静かに佇む列石群。太陽はもう、半分ほど地面に沈んでいる。 「1人で見るの勿体ないくらい綺麗ですぅ」 そう呟いていると、ホワイトガーデンもまた同じ事を呟いた。2人は顔を見合わせると、なんだか嬉しくなって笑い合った。 破:せせらぎに語らい、学者と触れ合う 列石群の近くには、ガンビア川が流れている。時にイルカが訪れるというそれは、今日も雄大に流れていた。今は夕日を浴びて、キラキラと輝いていた。 (ここも襲撃された世界遺産の一つなのね。でも、そのわりには……) なんだか寂しい場所ね、と思いながら華月は川の畔にいた。イルカを見てみたい、と思っての事だった。ドキドキしながら川べりを歩いていると、2人の影をみつけた。華月は、その方向へといってみる事にした。 金髪の少女、セリカ・カミシロは川べりの石に腰掛け、流れをずっと見ていた。最近依頼で悲しい事があった彼女は、酷く落ち込んでいた。そんな時はいつも1人で自然を見て、心の穴を埋めていたのだが……。 (何故かしら。なかなか気が晴れない) 小さく溜め息を吐いていると、華月がやってきた。軽く挨拶を交わしていると、もう1人、桃色の髪のメイドが現れる。 「環状列石近くは惑星改造計画進行時のような雰囲気を感じましたけれど、ガンビア川の近くはまた全然違うのですね」 ジューンは感慨深そうに川を見つめ、そっと言って2人に笑いかけた。 「どんな所が違うのかしら?」 興味を持った華月が問いかければ、ジューンは少し考えながら口を開く。彼女は、自分が居たコロニーには、川が無かったと言った上で続ける。 「三次元ホロで見たことはありますけれど、知識と実際は違いました」 「そうねぇ。……どんな所が?」 今度はセリカが問う。ジューンは1つ1つを吟味するように瞳を閉ざした。 「思ったより川風が強くて、水の匂いがしますね。コロニー内は無臭が基本ですし、0世界でもそんなに強い匂いや香りは感じませんでした」 感じた全てが嬉しいのか、ジューンの顔が綻んだようにみえた。それをきっかけに3人で川のイルカのことや他愛の無い事をおしゃべりしているうちに、セリカは心が軽くなっていくのを感じた。 と、その時。川を見た華月はバシャン、と水がはじけるような音を聞く。 「あれが……!」 「かわいい!」 イルカが、川を跳ねながら泳いでいた。滑らかな肌は陽光を受けて艶やかに光り、力強く川を泳いでいく。イルカを見た事がなかった華月とセリカは嬉しそうに微笑む。 (私の悩みなんて些末なものね) 小さく内心で呟きつつ、イルカの姿に瞳を細める。と、ジューンがそっと、セリカの頭を撫でていた。そして、華月にも微笑みながら彼女は言う。 「壱番世界は面白いです。他の所も見たいです」 「そうね。色々面白そうな場所はあるみたいだし」 華月が頷きながら答える。ツーリスト3人娘は笑顔で色々な場所に思いを馳せるのであった。 一方、学者のテントでは吉備 サクラとユーウォンがもてなしを受けていた。ちょっとした食事を貰いながら、2人は学者の話を聞き、瞳を輝かせる。 サクラは最初、新しく来た学芸員と間違えられてしまった。彼女としては気に入っていた小説『遺跡は天使にお任せ』の主人公のコスプレをしていたのだが、それが原因らしい。 (とはいえ、外国で天使のコスプレは……) 内心で苦笑していると、ユーウェンが青い瞳をキラキラと輝かせながら頷いている。学者の話に夢中になっているようだ。 (ここは広いし、石柱はものすごく沢山だし、太陽は強いし、ここはホントにすごいや!) セネガンビアが気に入ったらしく、彼は頗るご機嫌だった。思わず背中の翼がぱたぱた動く。 学者は女主人の墓に埋葬された装飾品からの考察や、女主人のイメージについて等を2人に話して聞かせてくれる。彼は環状列石群を全て回っており、その中でも『女主人の墓』が気に入っているという。 ユーウォンは色々と質問し、学者はそれに喜んで答えた。難しい事は苦手な彼だが、この場所には面白いものが一杯あり、知りたい事が一杯出てきたからだ。 2人の目の前には学者の助手が用意してくれた、トマトの風味豊かなベナチンやとろとろに煮込まれたドモダ、ピリ辛なチキンヤッサなどのアフリカ料理が並んでいた。冷たいジュースやお茶と共に戴くと、思わず食が進んだ。なんでも、一服する時は大抵食事の後らしく、それでなのだそうな。 学者は遠路はるばる来た2人へ、お土産として料理を少し包んでくれた。美味しそうな匂いが鼻を擽り、お腹がまた空いてきそうだった。 「司書さんへのお土産、ゲットです?」 「なんだか、列車の中で全部食べちゃいそう」 分けてもらった料理を手に、2人は嬉しそうに顔を綻ばせた。 こうしていく内に、太陽は沈みきる。空は琥珀色から徐々に濃い紺色、群青色へと変わっていく。ちらほらと現れた星に歓声を上げる者もいた。 急:星空に思いを馳せて 空一面の星を寄り添って見上げていたのはエレニア・アンデルセンとイルファーン。2人は寄り添いながら手を繋ぎ、ゆっくりと列石群を歩いていた。 「綺麗な星空だね。君とまたこうして歩けるなんて嬉しいよ」 「私も……ですっ」 イルファーンが赤い瞳を細め、運命というものを信じたくなる、と優しく語り掛ければ、エレニアが頬を赤く染めて答える。先日見た壱番世界はどこも素晴らしく、ここもそうだろうと考えていた彼女だが、それ以上に、イルファーンと星を見ることが出来ただけでも、とても幸せだった。 普段、パペットの腹話術を通して会話をしているエレニアだが、たった1度だけでも自分の声で答えたいと思っていた。が、イルファーンの言葉に、自然と自分の声で返していた。その事に内心で驚く。 風に揺れるエレニアの黒髪を撫でつつ、0世界の空との違いを堪能しつつもすっ、と真面目な顔になるイルファーン。 「旅団との戦いはまだ続く。これからどうなっていくかは僕にもわからない。けど……」 「?」 心配そうに見上げるエレニアに、彼は小さく微笑む。そして、そっと耳元で囁いた。 「君と出会えた事は僕にとってかけがえのない奇跡だ」 そっと、白い頬に親愛の口づけ。エレニアが驚き、目を見開けば、イルファーンは優しく微笑む。 ――どうかこの穏やかな日々が少しでも長く続くように。 そう、心から願いながら強く手を握り締める。エレニアもまた、答えるかのように彼の手を握り返し、瞳を閉ざした。 一方、ユイネ・アーキュエスとルーヴァイン・ハンゼットもまた、寄り添って星を見ていた。振ってくるかのように瞬く星に、2人は思わず溜め息を吐く。それに感動しながらも、ユイネはゆっくりと過去を思い出して語り、時折静かにルーヴァインが相槌を打つ。 その会話が不意に途切れ、ユイネはそっと呟く。 「綺麗ですね……」 「あぁ、そうだな……。こういう景色を見ると、不思議と心が安らぐものだな」 2人で並んで星を見上げる。自然と自分の過去を振り返っていたルーヴァインだったが、ふと、ユイネが彼を見上げていた。 「……? どうしたんだ?」 「こういう色々な光景も、貴方がわたしを助けてくれなかったら見れなかったのでしょうね……」 その言葉に、思わず頬が赤くなるルーヴァイン。このまま穏やかなムードが続くのか、と思っていたが、急にユイネが両手を握り締め、気合の入ったような顔になる。 「これから、私も積極的に旅に参加して、色々と綺麗な景色を見てみたいですっ!」 「えっ?!」 キラキラとした瞳で語る彼女に、内心戸惑いを見せたルーヴァインではあったが、やがて自然と微笑んでいた。彼はぽん、と相棒の頭を撫でていた。 「わぁっ?!」 「意気込みがあるのは良いが、旅先であまり羽目を外し過ぎない様にな?」 その大人びた笑顔に、ユイネは小さく微笑む。背中を守りあえる相棒がいる幸せを、彼女はかみ締めていた。 「俺、自分が思っている以上にダメなんだろうなぁ」 重い溜め息を吐きながらそう呟いたのは、坂上 健だった。彼は夕焼けをぼーっと見ていたのだが、気がついたら星が天に散らばっていた。 彼自身は、全方向に頑張っていた。そして、そこそこ頼りになっている、と思っていた。けれども、仲間達は本当に困った時、誰も健に相談せず、道を決めて消えていった。その事が堪えているのだ。頼られたいのに、頼られない。それは、自分にその力が無いから。そんな事を、彼は考えていた。 (辛ぇなぁ……本当に……) 乾いた大地に寝転び、空を見上げる。何故だろう、双眸から熱い物が込み上げてきて、星が歪む。けれども健は、ただ歯を食いしばっただけだった。 その傍を、フォッカーが過ぎる。彼はのんびりと星を見上げながら歩いていた。猫の尻尾をふんわりなびかせて寝そべり、鼻歌を歌いながら北極星とかを探す。 近くに人工的な光が無い暗闇の中、星は静かに瞬いている。その光景に見とれながら、フォッカーは口元を綻ばせる。 (きっと、この空の下を飛行機で飛べたら気持ちいいんだろうにゃあ……) 生まれて育ったあの世界にはかなわないだろう。けれど、とても心地が良く、自然とその手は飛行機を操縦する際の動きを模していた。そっと瞳を閉ざし、猫耳をぴくぴくさせながら、故郷の空を思い出して。 こうしている時が、一番落ち着くフォッカーなのであった。 そして、その上を悠々と舞う者がいた。リーリス・キャロンである。彼女は金髪を夜風に靡かせ、精神感応と魅了の力を解放したまま、口元を綻ばせて。 「あら……似てるわね、塵界に。へぇぇ、壱番世界にもこんな場所があるのねぇ」 暗闇の中の列石群に瞳を細め、リーリスが呟く。この枯れた雰囲気は少しだけ、故郷にあった塵界に似ていた。……だから闇の帳が落ちるのを待って、彼女は空を飛んだのだ。 静寂に満ちた世界。地面を見れば、僅かな灯りしかない。空を見上げれば煌々と輝く星の海が広がっている。それらをぼんやりと見つめながら、リーリスの唇が僅かに綻ぶ。 (力さえあれば全てを暗闇の底に沈められるのに) 彼女は、強力な力を持っている。それが戻っている兆しも、感じている。リーリスはくすくすと笑いながら、言葉を紡ぐ。 「1度外れたんだもの、次もあるわ。再帰属出来れば、一生。そうしたら……」 地上の星は全て、全て沈めてあげる、と……彼女は誰も居ない空の只中で、そっと、誰に言うでもなく呟いた。 時間が来る。ロストナンバー達は色々な思いを胸に、ターミナルへと歩いていく。その背中を見送るように列石群は静かに佇むのだった。 (終)
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