地面をのろのろと這う疏水は鈍く光っている。目を凝らせば、疏水などではなく油を帯びた生活排水だと分かったであろう。しかし少年には足許を気にかける余裕などなかった。「ヒトーヨ、トコーヨニ……」 しゃらん。 得体の知れぬ唄声は続く。「セツーナノー、イトーナーミー……」 しゃらん。 意味など分からない。聞き取ることすらできない。それでも本能がこの唄を拒絶する。面をかぶった亡者の列が脳裏にフラッシュバックし、慌てて悲鳴を呑み込んだ。 読経のような声に追い立てられるように路地裏へと駆け込んだ。そして、むっとしたヘドロの臭気にたじろいだ。ここは先刻も通ったのではなかったか。あるいは、この辺りはすべてこんな建物が立ち並んでいるのか? 視界がぐらりと揺れた気がした。両脇に迫るビルがこのままのしかかってくるような気さえした。酸素を求めるように空を仰いでも、建物と建物の間に渡されたロープにはためく薄汚れた洗濯物が見えるだけだ。 ここは、どこだ。「ナカーズノ、ホタールー……」 しゃらん、しゃらん。 奇妙な歌声と鈴の音は徐々に遠ざかって行く。 とりあえずは助かったのだ。全身の力が抜けて、その場にずるずると座り込んだ。「ツモーリ、ツモーリシ、アクーターノゴトークー……」 しゃらん、しゃらん、しゃらん、しゃらん……。 迷路のような路地裏にうずくまり、少年は束の間の安息を貪った。 ある者は狐であり、ある者は虎であった。別の者はきつい化粧を施した京劇役者の顔を模していたし、西洋風の怪物をかたどっている者もいた。 十人、いや二十人はいるだろうか。無秩序に扮装した集団が入り組んだ街を練り歩いている。楽器や鳴り物を携えている者もいたが、彼らの腕はだらりと下げられたままだ。 きらびやかな夜会服を身に着けている者もいれば、平服のままの者もいた。混沌とした彼らの装いにはひとつだけ共通点があった。 誰も彼もが何らかの面で顔を隠している。「ヒトーヨ、トコーヨニー」 しゃらん。「ハナーノー、セツーナノー」 しゃらん。 列の先頭で鈴を鳴らすのは白い頭巾で顔を覆った人物だ。大陸風の白い衣を纏っているが、頭巾の下の目鼻立ちは窺えぬ。 まじないのように唱えられる唄と、合いの手のように鳴らされる鈴。その後にのろのろと行列が続く。劣化したアスファルトの上に立ち並ぶ粗末な露店は皆テントを畳み、物陰で息を潜めて奇妙な行進を見送っていた。「ナカーズノ、ホタールー」 ふらり。一人が列から離れ、路上に座り込んでいた浮浪児に歩み寄る。「シニーユケバ」 ふらり。浮浪児に夜叉の面を被せ、列に戻る。面を被せられた子供は何かに操られたように隊列に加わった。「チルーラムートー。チルーラムートー。チルーラムートー……」 読経のような合唱は地を這うように響き続ける。 いつしか、不気味な行列は三十人ほどにまで膨れ上がっていた。「ようこそインヤンガイへ、旅人諸君」 辮髪を揺らし、どこかで聞いたような台詞とともに男は現れた。 真っ白な下ぶくれの顔。小さな目と鼻。ハの字に下げられた眉と、中途半端に微笑む口許。「おっと、失礼。僕はリャン・チーという。こっちでは一応探偵ってことになってる」 辮髪の面を額に押し上げ、作務衣姿の男は恭しく一礼した。ロストレイルから降りた旅人達は首をかしげた。この探偵はさきの連続殺人事件の際にも登場したが、こんな珍妙な格好をする男だっただろうか。「ディアスポラ現象によってインヤンガイに転移したロストナンバーを保護し、この0世界へ連れて来ていただきたいのです。世界図書館に所属するかどうかは本人の意思次第ですが、転移先の世界への影響を考慮してここまで移送していただくことになっておりますので」 数刻前、旅人達を前にしたリベル・セヴァンは淡々とそう告げた。「対象は見たこともない世界で言葉も通じずにいます。混乱している筈ですから、慎重な対応をお願いいたします。尚、現地人に“真理”を話すことはご法度ですのでご注意を。それから、こちらが対象の情報です」 事務的に説明を重ねながらリベルは写真付きのカードを取り出した。名前はカン・アンジー。男性、十六歳。壱番世界の人間と同じ姿と身体能力を有している。「当該街区では祭礼の真っ最中だそうです。面をかぶった仮装行列が街の隅から隅まで練り歩くのですが……困ったことに、カン少年の出身世界は面を極度に畏怖する風土なのです。面は死者の顔を隠すための道具としてのみ用いられ、更に言えば彼の世界には幽霊・物の怪・あやかし・不死者の類の伝承や信仰が皆無です。死者は絶対的な穢れと忌み嫌われ、黄泉返りという概念自体が存在しません。……カン少年にとって面は死と死者の象徴。彼の目には祭礼の行列が死者の群れに見えていることでしょう」 写真で見るカンは特徴のない少年である。しかしその面差しは年齢の割に大人びて、諦観じみた翳が差していた。「不思議なことに、近年の祭礼では必ず多数の行方不明者が出ているそうです。現地では“神隠し”ではないかという噂がまことしやかに囁かれていますが、真偽のほどは定かではありません。しかし今問題なのは噂の真偽ではなく、もしもカン少年が行方不明になってしまったら……という事なのです。――お分かりですね」 そして今、旅人達は世界図書館からの依頼を受けてインヤンガイの地に立っている。「諸君はこの祭礼は初めてかな? これが祭礼の正装なのさ。期間中に出歩く時は何かしらの面をかぶることになってる。でないと神隠しに遭ってしまうと専らの噂でね」 リャンは冗談とも本気ともつかぬ表情で言って肩をすくめた。 祭礼という単語から連想する賑わいはない。街は不気味なまでの静けさに支配されていた。子供のブロック遊びのように入り組んだ建物群は軒並み灯が落とされている。外をうろついているのはアバラの浮いた野良犬と痩せた浮浪者ばかりだ。「面と衣裳が必要なら僕の事務所の物を貸そう。なーに、地元の人間が居た方が諸君も都合がいいだろう? 一歩大通りを外れれば迷路みたいなものだからね、案内は任せてほしい」 再び面を着けたリャンは下ぶくれの顔の下でくつりと笑った。「僕もあの行列のことは気になっている。道案内はそのついでというわけさ」 しゃらん。 遠くでまた鈴が鳴った。
「そのまんますぎる……かな」 「そのまんますぎるだろ」 期せずして互いの声が重なり、理星と清闇は顔を見合わせた。竜の武人たる清闇が用意したのは竜の面で、額に三本の角を持つ理星が持参したのは鬼の面であったのだ。 「気が回るな。面、自分で持って来たのか」 清闇が人懐っこく笑いかけると、理星ははにかんだように相好を崩した。 「清闇さんのお面、かっこいいなあ」 「そうか? ありがとな。……俺も俺だが、おまえのも結構そのまんまだな」 「これしか用意できなかったんだ」 服も調達出来なかったし、と付け加えて理星はうなだれてしまう。端正な顔立ちに似合わぬ表情に清闇は好意的な苦笑をこぼした。 「ほら。俺の面と交換しようぜ」 「え。でも、そんな」 「気にすんな。このままじゃつまんねえだろ?」 「……ん。ありがとう」 清闇の手の温度が残る竜の面を握り締め、理星はそわそわと笑った。それどころではないと分かっていても、清闇と同行できるのがたまらなく嬉しい。 一方、那智・B・インゲルハイムは面と衣装をリャンから借り受けていた。衣装は神父の物と一目で分かるが、仮面舞踏会で用いられるマスクのような面は不気味の一言に尽きる。 「祭礼の行列が通るルートを知りたいのだが」 那智は銀色の仮面の下からリャンに尋ねた。オペラ座に潜む怪人にも似た、しかしT字型に近いフォルムで目と鼻を隠すその面の用途を知る者はいただろうか。 「祭礼の主催者か、行列のルートを把握している者は?」 那智の声音は穏やかだ。しかし目出し孔の向こうにある筈の双眸は窺えない。 滑稽な面をかぶったリャンは小さく笑った。 「生憎、主催者はいないようだ。ルートを知っている者もいるかどうか」 「どういう意味だい?」 「そのままの意味さ。あの行列がどこから来てどこへ去るのか誰も知らない。列を先導しているのが誰かも分からないんだ。一応、昔は賑やかな祭りだったんだがね」 「成程。正体不明の行列というわけかな」 好都合じゃないか。 意味深な一言は不気味な仮面の下に押し込め、那智は低く喉を鳴らした。 「申し訳ないが別行動とさせてもらうよ。――私も“探偵”だからね」 唇の端だけで笑い、神父の姿を借りた探偵は灰色の街並へと足を向ける。 白い鳥の群れが飛び立った。狩納蒼月が折る和紙は鶺鴒の姿をした式神となって無秩序な建物群へと消えて行く。大半はカンの捜索に、一部は連絡のために他の仲間の元へと回した。アスファルトと同じ色をした天と地の間を飛ぶ白は一層清廉だ。蒼月自身も同じ色彩、すなわち白拍子の白い狩衣を普段着の上に羽織っていた。 白燐もまた白い狩衣を身に着けている。しかし彼の場合はこれが普段着だ。単眼の模様が描かれた白布で顔を隠しているのも常のことである。 「何かおかしいか?」 白燐の視線に気付いて蒼月は首をかしげた。煙草をくわえた蒼月は額に狐の面を引っ掛けているし、白燐も狐の耳と尻尾を生やしている。白燐は「いや」とかぶりを振った。自前で駄目なら狐面をと考えていた白燐だが、蒼月の姿を見て気が変わった。 「俺はこのままでいこうかと思ってな。充分仮装めいているだろう?」 他の者の仮装を楽しみにして来たのだ。わざわざ同じ格好をすることはあるまい。 「確かに。その耳と尻尾は?」 「これも自前だ」 「成程。ならば狐どうしで連れ立つとするか。にしてもこの面というのは……」 「面は嫌いか」 「そうではないが、面を被っていては煙草が吸えん」 蒼月は咥え煙草を携帯灰皿に押し付けて面を被った。そうしている間も飛ばした式神達の視覚が脳に流れ込んでくる。 「しかし、少々解せん。行方不明なぁ」 白燐はゆったりと腕を組みながら呟いた。 「そもそも祭りの最中は皆が面を着けているのだろう? その状態では互いを認識できそうにもないが。それで連れ去られたりなぁ……」 「現実に行方不明者が出ているのなら楽観視はできまい。神隠しかどうかは分からんが」 「ああ。少年が行方不明にならぬように急がねばな」 白燐は錆びたフェンスを見つけて歩み寄った。適当な箇所を選んで手を当て、わずかに眉根を寄せる。金網の記憶を読み取ろうと試みるも、脳裏に流れ込んでくるのは古いテレビのようにノイズが走る映像ばかりだ。 それでも読み取れるものはある。行列を先導する白装束の人物。彼を先頭に、まるで蛇のように長く連なる無秩序な仮装集団。行列に怯えて逃げるカンの姿。 (面に対する畏怖は分からんでもないな。こちらでは最高位の身分を示す物であったが) 金網の破れ目越しに街並を透かし見ようとしても、そこには得体の知れぬ静寂がどろりととぐろを巻いているばかりだ。 遠くで鈴の音が聞こえた気がした。生気のない街を不気味な仮装行列だけが闊歩している。 「少年は北東の方角に逃げたようだ。とりあえずそちらに行ってみよう」 白燐が声をかけると、腕を組んで黙していた蒼月は舌打ち混じりに「ああ」と応じた。 「こっちも式神達が少年の姿を捉えた。どうやら、行列は少年の居場所に向かって進んでいるらしい」 「急ごう」 二人の白狐はどちらからともなく足を速めた。 (しかし……) 面の下で、蒼月はわずかに眉を顰めた。 (あの男はなぜあんな所に?) 式神達の目は、祭礼の行列に混じる那智の姿をもはっきりと捕捉していた。 「待て。見ろ」 白燐が警戒の声を発する。蒼月は眉を跳ね上げた。 一体どこから現れたのか、無表情な面の一団がこちらを目指して歩いて来ている。 「ヒトーヨ、トコーヨニ」 「何」 「セツーナノー、イトーナーミー」 「おい――」 不気味な隊列があっという間に白燐と蒼月の間を分断する。 「チルーラムートー。チルーラムートー。チルーラムートー」 面、面、面。どこから見ても面ばかりだ。表情のない面ばかりがのろのろと二人に群がる。行列に紛れ込んでカンを探そうと考えていた蒼月だが、これではそれどころではない。 仮面の波の狭間で白燐は素早く視線を走らせる。 (……どういうわけだ) この隊列には、先導者がいない。 部屋の四隅には自ずと塵が溜まる。街にも同じことが言えるかも知れない。街の欠片とも言える辻の精霊達が吹き溜まるようにして街角に淀んでいる。彼らにカンの足取りを尋ねながら清闇は街並を辿る。傍らを飛ぶ白い鶺鴒は蒼月と白燐の現在位置を随時報告してくれていた。 這いずるように吹く風はぬるく、重い。下水に似た臭気と味の濃い料理の臭いがいびつに混じり合っている。故郷にはない空気だが、清闇がそれに眉を顰めるわけもない。鬼の面の孔から覗く片目は興味深げに街を観察するばかりだ。 「ここにも人間が沢山いるってことか」 確かな人の生活の証が街のそこここに滞り、充満している。猥雑であっても、どれもこれもが命の息吹だ。 「……だが、早く見つけねえとな」 祭礼に怯える少年の姿がふと脳裏をよぎり、懐に忍ばせたもう一枚の面に手をやった。同時に気にかかるのは理星のことだ。空から探すという彼には自らの鱗を一枚渡しておいた。この鱗を通せば離れていても意志の疎通が図れる。 ――俺でも……何か役に立てるかな。 鱗と竜の面を握り締めてそんなふうに呟く理星を思い出し、清闇は軽い苦笑をこぼした。自己評価が低いとでも喩えれば良いのか、理星の振る舞いには自信のなさや遠慮が目立つ。それも彼自身なのであろうが、もう少し胸を張ってみても良いのではないかと清闇は思う。 理星からの情報が鱗を通して伝わってくる。清闇もまた己が掴んだ手掛かりを伝えた。間の悪いことに、祭礼の行列はカンの居場所に向かって進んでいるようだ。 しゃらん。 遠くで鳴る鈴の音は鈍く、間延びしている。 「セツーナノー、イトーナーミー……」 しゃらん。 唄声は地の底から湧き上がっているかのように低い。だが、どこか不吉ささえ感じさせる声に清闇は緩く微苦笑するのだ。 「人世常世に落ちぬるは、花の刹那の営みよ……」 命の儚い営みを唄う詞を口ずさめば、亡き友と両親の面影が胸に去来する。 だが、昔日へと飛んだ意識は理星の呼び掛けによって唐突に帰還した。 「――分かった。ちょっと遠いが、すぐ行く」 面を被り直して駆け出すが、厳しい声音とは裏腹に清闇の表情は大らかだ。 (もしもの時は理星が何とかしてくれるさ) 確信めいた信頼を抱き、黒き颯(はやて)は無機の迷路を駆け抜ける。 那智は探すのが得意だ。人ではなく猫に限っての話であるが。 「助手くん達にお土産を……というわけにはいかないかなあ」 出店でもあれば覗いてみるつもりだったが、当てが外れた。迷路のような建物群は祭りの名には似つかわしくない静寂に沈んでいる。 誰も彼もが戸板を立てて息を殺している。那智はこの空気を知っている。出身世界で疫病が流行った折も街はこんな閉塞感に支配されていた。 知らず、忍び笑いが漏れた。那智が着けている仮面は壱番世界の中世ヨーロッパで最も恐れられた病――ペストの患者を診るために医者が用いていた物である。 皮肉な取り合わせだ。死を連想させる仮面を着けた那智は生を祝福する神父の姿を模している。しかし仮装など行列に紛れ込むための便宜に過ぎない。興味のない衣装を纏ったほうが気が散らずに済む。 肩の辺りを紙の鶺鴒が飛んでいる。蒼月の式神だ。蒼月と白燐の現在位置が絶えず伝えられるが、意に介さなかった。那智には別の目的がある。 しゃらん。遠くで鈴が鳴る。 カン少年は行列を怖がっているという。ならば行列が通らないか、通り過ぎた場所に居るのかも知れないと那智は読んだ。 それなのに、那智は鈴の音を追うようにして行列の姿を求めている。 「……トコーヨニ……」 しゃらん。 「セツーナノー、イトーナーミー」 しゃらん。しゃらん。 どこからともなく、という形容がふさわしい。仮面の隊列は唐突に、地から湧くようにして現れた。 那智は面を深く被り直し、さりげなく行列へと紛れ込んだ。 「チルーラムートー。チルーラムートー」 奇妙な気分だ。行列がかぶっている面のせいだろうか。読経のような声はどこか他人事のように、別の場所から聞こえているように感じる。 動物を模した物。想像上の生物を象った物。神や悪魔の類をモチーフにしている物……。のろのろと進む面は多種多様だ。しかし面は面であって顔ではない。無表情な面は人から表情を――息吹すら奪う。 「ヒトーヨ、トコーヨニ」 列の流れに身を委ね、しかし決して呑まれることなく那智は周囲に目を光らせる。 「オチーヌルハ」 虚ろに歩む人々の顔は窺えぬ。だが、大方の背格好を判別することはたやすい。 わざわざ屈強な相手を選ぶことはない。かといって全くの無抵抗でもつまらぬ。適切な“獲物”を求め――そして、とうとう標的を定めた。 「ハナーノー、セツーナノー」 しゃらん。鈴の音に足音を溶け込ませ、一気に距離を詰める。 「イトーナーミーヨ」 伸ばした手が標的の肩を掴む。 ぐるん、と相手が振り返った。白髪の嫗(おうな)の仮面を被っている。 「ナカーズノ、ホタールー」 (……そうか) 那智は冷淡に微笑して手を放した。老婆の面を被った相手は何事もなかったかのように再びふらふらと歩き出す。 「チルーラムートー。チルーラムートー。チルーラムートー……」 奇妙な行進は続く。しかし那智の興は一気に醒めた。 「さて。とりあえず少年を探そうかな」 行列を恐れて逃げ回っているというのだから、判別は難しくない筈だ。 その時だった。 ――前方で褐色のつむじ風が巻き起こったのは。 何度目かになる息苦しさを覚え、理星は竜の面を外した。面を被るのが初めてであるからだろうが、そのせいばかりとも思い難い。入り組んだ建物群は密林よりも深く、息苦しささえ覚える。 密林は自然の造物だ。人を迷わせるために構築されるわけではない。だがこの街は違う。街は人の手で意図的に作られる物である。人工の閉塞感は自然のそれよりも薄ら寒い。 この街のどこかで少年が怯えている。そう思うと居ても立ってもいられなかった。最も慕っていると言って良い清闇が同じ依頼を受けたこともあり、理星は意を決して捜索に加わった。 手の中に握り締める鱗から絶えず清闇の意思が流れ込んでくる。現状報告の合間に理星を気遣う言葉が挟まれていてくすぐったい心持ちになる。離れていても清闇が傍に居るようで、嬉しい。 目立たぬよう、建物と建物の谷間を縫うように飛ぶ。褐色の肌も相まって、翼を羽ばたかせる理星の姿はまるで猛禽のようであった。しかし整った顔に浮かぶのは猛禽とは程遠い表情だ。 (早く見つけないと。大丈夫だって教えてやらないと……) “迷子の少年”。それがカンに対する理星の認識だった。覚醒したばかりのロストナンバーは唐突に知らない場所に飛ばされ、帰る術を見失う。まさに迷子だと理星は思う。 「ヒトーヨ、トコーヨニ」 しゃらん。 「ハナーノー、セツーナノー……」 しゃらん。 眼下を蛇のような行列が進む。先導を務めるのは白装束の人物だ。 理星はふるりと身震いした。先程見た時よりも隊列が大きくなっている。 神隠しが起こるという。祭礼の後は必ず大量の行方不明者が出るのだと。 (……まさか) この行列が生者を連れ去るとでもいうのか? 理星は焦燥を抑えて高度を上げた。一気に上昇したいところだが、建物の間を抜けてしまったのでは人目につく。面を被らずに祭礼の行列から逃げるか隠れるかしている子供はいないかと懸命に探す。 斜め後ろを飛ぶ鶺鴒からは蒼月と白燐の現在位置が伝わってくる。彼らも同じ方角へ向かっているようだ。このまま行けばほどなくして合流できるだろう。 「あ」 銀色の双眸がついに少年の姿を捉えた。 傾きかけたビルとビルの間にカンがうずくまっている。おまけに、祭礼の行列はその場所へと向かっているではないか。 「清闇さん、見つけた。行列が少年の所に向かってる」 早口に伝え、理星は一気に速度を上げた。 「ヒトーヨ、トコーヨニ」 しゃらん。 「オチーヌルハ」 しゃらん。 読経のような唄とともに行列は進む。理星はその後を迅速に、しかし慎重に追う。鈴の音に気付いたのだろう、カンがびくりと体を震わせるのが見て取れた。 「ハナーノー、セツーナノー」 カンが居るのは路地裏と言って良い小路だ。祭礼の行列は何故そんな場所を目指すのだろう。 「イトーナーミー」 立ち上がったカンが駆け出した。しかしすぐに足がもつれて転倒してしまう。 「ナカーズノ、ホタールー」 しゃらん。 白装束を纏い、白布で顔を隠した先導者が機械的に鈴を鳴らす。 「シニーユケバ」 カンに迫るのは無貌の行列――死者の群れ。 「ツモーリ、ツモーリシ」 伸ばされる青白い手、手、手。 カンの悲鳴が聞こえた気がした。 「アクーターノゴトークー……」 その瞬間、理星は一陣の風と化した。 急降下する理星の姿はまさに隼だ。カンが何事か叫んだ。しかし抵抗するいとまは与えない。竜の面を額に押し上げた理星はカンを掻っ攫い、そのまま疾風の如く駆け出した。 「あ――」 「ごめん、ごめんな。ちょっとだけ我慢、な?」 腕の中のカンを懸命に宥め、とにかく人気(ひとけ)のない場所を探す。飛んで逃げたいところだが、これ以上カンを動転させるような真似は避けたい。 「チルーラムートー。チルーラムートー。チルーラムートー……」 蛇のような行列はのろのろと遠ざかって行った。 理星が選んだのは通りから外れた空地に佇む廃プレハブだった。他の仲間も駆けつけている。 蒼月はカンと対面する前に面を外していた。カンを怖がらせないようにするためだ。理星も面を外したが、彼を見たカンは明らかに怯えの色を見せた。角や翼を怖がったのだろう。理星はしゅんとして清闇の傍らに立った。だが、清闇から労いの言葉とともに頭を撫でられるとすぐにはにかんだように笑った。 「落ち着いて話を聞け。ほら、これが死者の顔か?」 とにかく言葉が通じることに気付かせたい。白燐は静かに声をかけながら白布をずらして顔を示した。カンはぽかんと口を開けて白燐を見た。 「信じられんかもしれんが、あんたは死者が生者を連れて行くような不可思議な街に紛れこんでしまったんだ」 蒼月は外を気にしながらゆっくりと口を開いた。面を外していても屋外よりは安全だろうが、油断はできない。 座り込んだカンはびくりと肩を震わせた。死者という語に反応したのだろう。彼にとって死者は絶対的な恐怖だ。 「俺はあんたを助けに来た。兎に角此処に居たら危ない」 「助け……?」 「ああ。一緒に来てはくれないか? 詳しい事は此の街を離れてから説明する。……恐ろしいだろうが、出来たらこれを被ってほしい。でなければ命の危険がある。死者が攫いに来るかも知れん」 カンと視線を合わせるようにしゃがみ込み、蒼月は懐から別の面を取り出した。カンが面に恐怖を抱いていることは分かっている。だが、真に神隠しであるかどうかはさておき行方不明者が出ている事実は看過できない。若干身の危険を感じさせるように話をするつもりだった。 「助けに、って」 カンは震える喉から掠れた声を押し出した。 「あなた達は誰ですか? どうして、こんな……」 「そうだな……喩え話をしようか。今、あんたは迷子になっている。自分がどこにいるかも、元の場所へ帰る方法も分からない。それで俺達が派遣された。迷子になって困っている人がいるから助けて欲しいと」 「迷子……」 「ああ、そうだ。そんなふうに困っている人を保護する場所があるから、一緒にそこに行かないか? そこにはあんたと同じような人が沢山いる」 噛んで含めるように、根気強く言葉を重ねる。憔悴に染まったカンの瞳が揺れた。怯えとは違った揺らめきだった。 「俺もあんたを助けに来たんだ」 カンを怖がらせないように少し離れた場所から理星が声をかけた。 「俺も……いや、みんなかな。みんなも最初はあんたと同じだった。俺たちとあんたは兄弟みたいなものなんだってさ」 ロストナンバーに関してつまびらかに説明することは此処では出来ない。精一杯分かりやすい言葉を選ぶ理星の傍らで清闇が肯いている。 那智は一歩離れた場所から興味深そうにやり取りを観察していた。医者としての那智の目は疲弊したカンがやや衰弱していることを見て取っていたが、それよりも気になることがある。 「君は死者が怖いそうだね。何をそんなに恐れるんだい?」 那智はちらと仮面をずらし、穏やかな物腰を崩さぬまま尋ねた。カンの価値観は非常に興味深い。那智にとって、死者は生者より恐れる部分がないからだ。 「私には死者を恐れる理由が見当たらないんだ。死んだ者は何も出来やしないだろう? 君は死者に対して脅えを感じることをしたのかな?」 紳士的ですらある微笑を浮かべる那智の目には純粋な好奇心のみが浮かんでいる。あるいはそれは知的好奇心であるのかも知れない。 しかしカンは答える術を持たない。怯えを浮かべて眉尻を下げるだけだ。那智の言葉は正論だが、カンにとってはナンセンスだった。なぜなら彼は“そういう土地で生まれ育った”からだ。 「ああ、無理に答えなくてもいいんだ。私も他の人たちと同じ目的で来たのだから。事情は他の人たちが話してくれた通りだよ、付け加えることは何もない」 那智はうっそりと笑って再び仮面を着けた。 しゃらん。 鈴の音は執拗に鳴り続けている。まだ遠いが、カンは「ひっ」と声を上げて身を縮ませた。 「……嫌だ」 そして両手で耳を塞ぎ、立ち上がってじりじりと後退する。 「貴方達だって面を着けてる。嫌だ。嫌だ……」 「大丈夫、俺達は生者だ。生者も面を着けねば死者に攫われ――」 「嫌だ。嫌だ。嫌だ!」 止めるいとますらない。静かに言葉を重ねる蒼月の前で、カンは崩れかけた裏口から脱兎の如く逃げ出した。 「あ、待っ――」 「よせ。深追いしても混乱させるだけだ」 反射的に飛び出しかけた理星を蒼月が制した。振り返った理星はくしゃりと眉尻を下げる。 「でも、このままじゃ」 「手は打つ。――……」 厳かに何事かを命ずると、蒼月の影の一部が細胞のように分裂した。黒い影はたちまち壮年の男――鬼神“弐之鬼”へと変ずる。 ――ヒトーヨ、トコーヨニ…… ――ハナーノー、セツーナノー…… 不気味な唄が耳の奥でどろどろと鳴り響いている。それは幻聴であるのかも知れなかった。カンはそれほどまでに疲弊し、憔悴していた。 どこまで逃げても追ってくる。かと言って戻ることも出来ない。先程のプレハブに戻れば面を着けた五人が出迎えるだけだ。 「――――――!」 本能的に狭い路地に逃げ込もうとして、凍りついたように足を止めた。 「ヒトーヨ、トコーヨニ」 しゃらん。 「ハナーノー、セツーナノー」 しゃらん。 白装束の人物を先頭に、面の行列がこちらを目指してやってくるではないか。 「ナカーズノ、ホタールー」 しゃらん、しゃらん。 「ツモーリ、ツモーリシ、アクーターノゴトークー」 しゃらん、しゃらん、しゃらん、しゃらん! 鈴が激しく鳴らされる。おうおうと、地を這うような呻き声さえ聞こえた気がした。 ――あんたは死者が生者を連れて行くような不可思議な街に紛れこんでしまったんだ。 (……逃げられない、のか?) 視界が傾く。 「チルーラムートー。チルーラムートー。チルーラムートー」 亡者の群れが迫る。 背後に数人の足音を聞きながら、カンは成す術なく闇の中へと引きずり込まれていた。 (……あったかい) ゆりかご、あるいは母親の胸のようだとカンは思った。正確には母親とは少し違う。しかし母親と同等に心地良い温度だ。 ゆるゆると浮上する意識に任せて目を開くと、そこには鬼の面をずらした武人の顔があった。 「……あったけえだろ?」 膝をついた清闇が、疲れ切ったカンの体を穏やかに抱き締めていた。 カンの体が高圧電流に触れたかのように震える。しかし清闇は腕に静かに力を込めるばかりだ。彼の恐怖すらをも包み込まんとするかのように。 「な? これでも俺を死者だと思うか?」 引き締まった腕の中で、カンの震えが徐々におさまって行く。 百聞は一見に如かず。同様に、一の温もりは百の言葉よりも雄弁だ。 「驚かせて済まなかった。行列から守る手立てが他に思い付かなくてな」 蒼月が小さく詫びた。カンの影に弐之鬼を潜らせ、もしもの時はカンを影に引き込んで隠すように命じておいたのだ。 「……逃げたとて、あれらから逃げ切れるとは思えんけどな。あれらの方が道を知っておろうに。事実、お前はこの短時間で二度も襲われかけた」 大通りにちらりと目を投げながら白燐が口を開いた。建物に囲まれた小路を選んで身を潜めているが、いつ行列が現れるか分からない。 「ほら……自分で確かめてみろ」 白燐はカンの手を取り、自分の胸にそっと押し当てた。 「我らは生者だ、死者ではない。その証拠に、脈打っているだろう?」 カンは清闇の胸に額を押し当てたままであったが、その頭が小さく縦に振られるのが誰の目にも見て取れた。 その瞬間に最も顔を輝かせたのは恐らく理星であっただろう。 清闇も蒼月と同じようにカンの分の面――気が抜けるような愛らしい仔犬の顔を象った物である――を用意していた。蒼月が面の必要性を再三説いたもののカンはどうしても応じず、清闇がカンを抱いて歩くこととなった。着物の裾でカンを隠せば顔を晒さずに済む。 「大丈夫。ちゃんと守る」 鬼の面を着け直した清闇の声にカンは小さく肯いた。はたから見れば父親が幼子を片腕で抱いているように見えるだろう。 「……もしまたあれらが来たらどうする?」 カンをちらと振り返りつつ白燐は蒼月に並んだ。先刻二人に殺到した無貌の群れは砂糖菓子を見つけた蟻のようであった。動きの鈍い彼らから逃れるのはそう難しくなかったが、今は面を恐れるカンがいる。 「まくしかない。いざという時は俺とあんたがこの場を抜けて行列を引きつけよう」 「心得た。所で、あれらに関して少し気にかかることがあるのだが」 「あんたもか。ふむ……俺の憶測だと思っていたが、まんざら当て推量でもなさそうだ」 「何、心配はいらない」 と口を挟んだのは那智であった。不気味な仮面の下の唇は冷めた微笑の形を作っている。 「先程も述べたが、死者は生者より恐れる部分がないのだから」 蒼月は答えずに顎を引いただけだった。 行列が近くを通る気配はまだない。かといってのんびりしているわけにはいかないだろう。一行は清闇とカンを囲むようにして出発した。 「ヒトーヨ、トコーヨニ……」 「ハナーノー、セツーナノー……」 「ナカーズノ、ホタールー……」 「ツモーリ、ツモーリシ、アクーターノゴトークー……」 祭礼は遠くで続いている。無貌の行列が無人の街をどろどろと闊歩している。 地を這うような低い唄を聞きながら理星は唇を引き結んだ。唄の意味はよく判らないが、生き死にが儚いものだということは何となく判るし、悲しい事が多いのもよく判っている。 「生き死にってのぁ儚いモンさ。この手で護りてえ、もっと傍にいて欲しい、なアんて望もうとも、雪解け水の流れみてえにあっという間に遠ざかる」 心中を読んだかのような清闇の声に理星ははっとした。顔を上げれば鬼の面と目が合う。面を着けているのに、なぜか理星には清闇が静謐に微笑んでいるように感じられた。 「……まア、だからこそ俺は、人間だの命だのってえ奴が好きなんだろうけどな」 面の孔からは一粒の赤い目が覗いている。愛しげに細められるその目が何を見ているのか理星は知らない。清闇の友人が何百年も前に亡くなったことも、清闇の両親が清闇の内の魔性に喰われて狂ったことも理星は知らない。 それでも、 「俺はあの世界にはいちゃいけないモノだったけど……」 理星の手は、よすがを求める子供のように清闇の衣装の裾を掴んでいた。 「別の世界でなら、生きていても許されるかな」 脳裏をよぎるのは行方知れずの両親のことだ。父と母は許されぬ恋を貫いて理星を産んだ。 小さな笑い声が落ちて来て理星は我に返った。そこにはやはり清闇が居る。 「――……おまえはもっと幸せになっていい奴だと俺は思うんだけどな」 改めてそう告げられた瞬間、理星はどんな顔をしたのだろう。彼の顔は竜の面で隠されている。だが、清闇ならば面の向こうの表情さえも見透かしていたかも知れない。 「……清闇さん」 「ん?」 「このまま歩いてていいかな」 「ああ」 裾を離そうとしない理星に清闇は大らかな笑みを返した。 (……にしてもなァ) 行列の唄声を遠くに聞きながら、清闇の表情がわずかに厳しくなる。 (この雰囲気……祭りってェより、まるで――) 那智は相変わらずマイペースだった。依頼の目的は果たした。帰りの列車に乗り込むまで油断はできないだろうが、あの面子なら心配はないだろう。 一行の元を離れた那智は橋の上に佇んでいた。欄干の上に肘をつき、無機質な目でドブ川を眺めている。 「ヒトーヨ、トコーヨニ……」 しゃらん。 「セツーナノー、イトーナーミー……」 しゃらん。 濁った川面を船が進む。舳先に立って鈴を鳴らすのは白装束に身を包んだ人物だ。船の上には面を被った人々がずらりと並んでいる。 彼らが進む先には黒い洞穴がぽっかりと口を開けている。コンクリートで作られた、低いアーチ状の穴だ。どうやらこの川は暗渠に繋がっているらしい。 「どうかしたか?」 という声に振り返ると、二人の白狐が立っていた。 「ああ……偶然だなあ。その衣装、行列の先導者によく似ているじゃないか」 那智は穏やかな笑みをもって応じた。 「俺のは自前だがな。しかし、おかげで貴重な体験が出来た」 白燐は乾いた苦笑を浮かべて欄干に手を置いた。 「所変われば風習も変わる、か。先程聞いたのだが、壱番世界の中国という国においては白は喪を表す色であるそうだな。日本という国でも死者に白を用いるとか」 「そうらしい。そのせいかな、私の目にはこの祭礼が葬式のように見えるんだよ」 「ならば、さしずめ三途の川か」 蒼月は橋の下を軽く顎でしゃくった。川面をのろのろと進む船は吸い込まれるように暗渠の奥へと消えて行く。 此岸と彼岸という言い方がある。川は生者と死者を隔てる境界だ。そして、川は血管のように街中に張り巡らされている。 「やあ諸君。もう目的は済んだのかい」 その時、下ぶくれの面を被った男が唐突に現れた。リャンだ。那智は「ちょうど良かった」と事務的な笑みを浮かべた。 「面と衣装をお返しせねば。我々はもう帰らなければいけないようだから」 「おっと、ご丁寧にありがとう。お役に立てて何よりだ」 探偵どうしのそつのないやり取りを蒼月と白燐が黙って見つめている。 「諸君らに案内は必要なかったようだからね。僕は僕で祭礼のことを調べて回っていたんだ」 「何か分かったのか?」 白燐が問うと、リャンは何事かを見透かしたように笑った。 「よそ者には言えないこともある。諸君らにも僕に明かせないことくらいあるだろう? それと同じさ。――ご機嫌よう、旅人諸君。縁があればまたのお越しを」 リャンは胸に手を当てて恭しく一礼し、辮髪の面を被り直して入り組んだ街へと消えていく。 「……念のため、列車に乗るまでは着けておいたほうがいい」 蒼月はカンのために用意しておいた面を那智に渡した。 <駅>に着いた三人を待っていたのは清闇と理星であった。カンは疲労のあまりロストレイルの座席で眠りこけている。列車は黒々とした空へと翔け上がった。 遠ざかる街並を見下ろしながら、理星は小骨を飲み下すようにこくりと喉を鳴らした。 祭りである筈なのに、灯りがろくに見当たらぬ。 (……依頼は果たしたんだよな。そうだよな?) 旅人は任務が終われば帰途に着くのみだ。そしてまた次の地へと赴く。川の流れのように、決してひとつところに留まることはない。 「人世常世に落ちぬるは、花の刹那の営みよ。鳴かずの蛍死にゆけば、積もり積もりし芥の如く。散るらむと、散るらむと、散るらむと。散るらむと、散るらむと、散るらむと」 しゃらん、しゃらん、しゃらん――しゃらん! (了)
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