オープニング

 初めて店を開いた時のことを覚えている。
 0世界にようやく慣れて、記憶がないことや、急な環境の激変や、理由のわからぬ胸の痛みに飛び起きたり、街角でふいに泣きそうになってしまったりすることを少しずつ受け入れて、『居場所』とか『生き方』とかを考え始めたころ。
 誰かの記念日を、一緒に祝ってあげたい。
 もう側に居ない誰かのかわりにはなれなくとも。
 おめでとう。君がここに居てくれてとても嬉しい。ありがとう。
 知り合った人の笑顔に励まされたり、泣き顔に側に寄り添ったり、怒りに自分の立ち位置を考え込んだりしながら、見つけた願い。


「サクラーっ! これはここでいいんだなあっ?」
 坂上 健が腕まくりをした姿で、額に汗を光らせながら、テーブルを移動させている。
「はい、そこでOKです! そっちは女子会向け、こっちはご家族コーナー、ここはご友人達で楽しんで頂くとして、ここはもちろん、プライベート空間……くひひっ」
 手元に広げた店内の配置図を見ながら、吉備 サクラが怪しげな笑いを零す。
「しっぽりもいいし、こっそりもいいです。目立てない恋人達なら一層いい…!」
 溜め息まじりに覗き込んでいるのは、かつて誕生会が催されていた空間、ちょっと趣向を変えて、ソファとテーブル、本棚などを配置して、居間風にしつらえた。一人で仕事をするのもよし、二人でおしゃべりするのもよし、ちょっとプライベートな会を催すのもよし。もちろん、妄想が炸裂できるようにソファにはクッションや毛布も完備、いやもちろん、疲れた時のごろ寝用だよ、うん。
「時間で貸し切りできるって感じでいきましょう……というところで、フェイさん、そこにはかぼちゃ頭の人形は吊るさない!」
「ちっ」
 びしっと指摘されてフェイが舌打ちして振り返る。
「じゃあ、これはどこに吊るすんだ?」
「吊るすの前提ですか。仕方ないのでご家族コーナーに」
「待て待て、なんでかぼちゃ頭に標的みたいな紙を貼る? ダーツの的にする気か?」
「あ、いいですね、それ」
 くくくっ、と笑うサクラは笑顔で黙ったままのフェイに気づく。
「? どうしたんですか?」
「……ありがとな、サクラ」
 ぽん、と頭に手が乗せられる。


 『フォーチュン・カフェ』の新装開店、インヤンガイでフォン・ルゥを葬った依頼の後、ひっそりと『フォーチュン・ブックス』の片隅で本の整理でもして暮らそうと考えていたハオは、戻るなり、健に背中を叩かれた。
「当日の開店準備は手伝うから、通りすがりも入れるような派手な喰い放題しようぜ、ハオ、な?」
「え、で、でも、おれ、店は」
「おいおい、何か? あんなに働かせといて報酬なし? 言ったよな? 無料食い放題に期待してるぜって」
 ロンもフェイも呼んで。ハオの新しい始まりみたいなもんだから、俺たちだけじゃなくて、通りすがりの人がふらっと入って喰っていっても良いと思うんだ。
「知り合いだけで閉じこもるんじゃなくて、そういう開かれた食べ放題しようぜ? ハオの懐がちょっとじゃなく痛むかもしれないけど、そこは諦めろよ、な?」
 目を輝かせて笑う健に、ハオは泣き笑いしながら頷いたのだ。


「厨房の方は済んでるか? 見てくるわ」
 健は店内の配置を済ませると、奥へ入る。
 料理長は平然と戻ってきた。長い休暇になると思っていたんですが、存外短かったのが残念です。新たなメニューがこれぐらいしか思いつかなかった、そうレシピを示されて、またハオが泣き笑いをしたらしい。
「ふむ、ならば、ここへ移動させれば動線も少ない、仕上げもスムーズだ」
「そうするか…」
 厨房ではレシピと配置を眺めつつ、料理長とハクア・クロスフォードが準備を進めていた。
 健は有言実行、インヤンガイから戻るなり、すぐに行ったみんなにメールを出した。ハクアは何か悩んでいたらしく、なかなか返事を寄越さなかったが、結局開店準備から関わってくれている。彼の料理も並ぶらしい。
 調理器具や買い求めて来た材料を元に考え込んでいた料理長が、ふと手を止め、ハクアを見た。
「何だ?」
「辛いことをしてくれたんだな」
 私もロストナンバーだ。
「報告書は、読んでいる」
「……ああ」
「強く一気に焼かなくてはならない時もある」
 料理長は薄く笑ってフライパンを持ち上げた。
「怯めばおしまいだ」
 料理に必要なのは、いつどこで何をするかの決断だ。
「正しい決断だった………ありがとう」
 さて。
「今日はこんな感じでいこうと思っている……デザートが少し寂しいんだ」
 料理長は『喰い放題レシピ』と題されたメモを見せる。
「なるほど、ではこれとこれを追加してはどうだ。こういうものもあると華やぐだろう」
「ああ、そうだな、それはいい思いつきだ」
 健が覗き込んだことにも気づかず、二人はレシピを前に頷き合っている。
「かなーり旨いものが喰えそうだな」
 健は満面笑みで厨房を離れる。


「えーと、スープ皿、ナプキンのセット」
「ある」
「サラダボール、木のものとガラスのものと」
「ある」
 店内の片隅で、段ボールに詰まった食器や備品類をチェックしているのは鹿毛 ヒナタとロンだ。
「足りなければ『アガピス・ピアティカ』で買ってくるという手もあるな」
「んー何とかいけんじゃね?」
 灰金の短髪を振りながらヒナタが次の箱を覗き込む。
「綺麗に片付けてあるし、短期間だったから壊れてもなくなってもないし」
 しかし、フェイんとこって何でも置いとけるのな。
「……いずれ再開すると思っていたんだろう」
 箱を開ける手を少し止めて、ロンがちらりとサクラとじゃれるフェイを見やる。
「ハオは戻ってくる気なかったぜ」
「話さなくて正解だった」
 残った片目を失うことになっても止めにかかっただろう、とロンは冷笑を浮かべ吐き捨てる。
「馬鹿だからな」
 いなくなって初めて異変に気づき、ロンを問い詰めた後は無言で『フォーチュン・カフェ』の荷物を引き取ってきた。そこにあったのは、同行してくれたロストナンバー達への信頼があったのだとロンは考えている。
「きっと連れ戻ってくれると信じたんだろう」
 そう信じたからこそ、じっと待った。
「あんたは?」
 俺達を信じた?
 ヒナタの問いにロンは笑みを消した。生真面目な顔でヒナタを見つめる。
「な、何だよ」
 思わぬ凝視にヒナタも緊張する。いざとなったらダッシュをかまそう、こいつのトラベルギアは何だったっけ、と考えていると、
「『小心者』の君が依頼に出向いてくれた。そしてハオは無事にここに戻った」
 ロンが静かに頭を下げる。
「感謝しかない」


「店内配置良し、厨房良し、後で買い物手伝って、と」
 健は話し込むヒナタとロンの側を通り、扉を開けた。
「そうそう、喰い放題の看板もいるよな! お、ちょうどいいところに」
 扉を開けたすぐ横に、空を見上げて立っていたハオに呼びかける。
「ハオ、『新装開店、今日は店潰れるまで喰っちゃっていいYO!』の看板は?」
「いきなり潰しちゃうのかい?」
 くすくす笑って振り向いたハオの目元が赤い。
「…眠れなかった?」
「うん……嬉しくて」
 心配そうな健に、にっこりと笑う。
「さっき、一番最初に店を開いたことを思い出してた」
 一人きりできたこの世界で。
「何ができるのか、何をしたらいいのか、ほんとわからなかった」
 もう一度空を仰いで、ゆっくりと息を吸う。
「おれが、ここへ来た意味が、わからなかった」
「……」
 健も同じように空を見上げる。
 それは、ロストナンバーが一度は抱く思いではないだろうか。
 自分の世界から遠く離れて。
 いままでの自分を見失いそうにもなって。
「失ってもいいと思ってたんだ」
 ハオの声が微かに響く。
「でも、いつの間にか」
 失えないものができていた。
「……うん」
「それもまた……おれ、なんだ」
「………うん」
「…………ありがとう」
 ハオが健を振り向いた。
「もう一度、ここに戻って、もう一度、店がやれるとは思わなかった」
 掠れ声で呟いて、滲みかけた涙をごしり、とこぶしで拭き取った。
「ありがとう、健」



 いろんなことはあっただろうし、いろんなことがこれからもあるだろう。
 けれど今は、君はここに居る。
 だから君に、こう伝えたい。

 ターミナルへようこそ。
 少しの間だけかも知れないけど、一緒に暮らそう。


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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>

坂上 健(czzp3547)
ハクア・クロスフォード(cxxr7037)
鹿毛 ヒナタ(chuw8442)
吉備 サクラ(cnxm1610)

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品目企画シナリオ 管理番号2989
クリエイター葛城 温子(wbvv5374)
クリエイターコメントこの度はご依頼ありがとうございました。
ありがたく、OPを書かせて頂きました。
ハオやロン、フェイや料理長の気持ちはOPに語らせて頂きました。
予想外でしたので、感謝もひとしおです。
派手な看板が出ておりますので、通りすがりのロストナンバーも来られるでしょう。
後はどうぞ、飲み食いおしゃべり、うんとお楽しみ下さいませ。
お酒は出ていませんが、よっぱらったふりで究極の一発芸披露も可能です。
賑やかに参りましょう!

参加者
吉備 サクラ(cnxm1610)コンダクター 女 18歳 服飾デザイナー志望
ハクア・クロスフォード(cxxr7037)ツーリスト 男 23歳 古人の末裔
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
鹿毛 ヒナタ(chuw8442)コンダクター 男 20歳 美術系専門学生

ノベル

「あ…いい匂い」「何だろ、ここ…え?」
『新装開店、今日は店潰れるまで喰っちゃっていいYO!』
 『フォーチュン・カフェ』の店先を通った二人連れが、漂う香りに誘われて足を止める。
 そこをすかさず、健は満面の笑みで顔を突き出した。
「いらっしゃいませえっ!」
「きゃっ」「わっ」
 黒いTシャツの上に着崩し気味の甚平、紺の和エプロンをつけた健はどこかの居酒屋呼び込みにも見える。
「その通りっ、『フォーチュン・カフェ』です! けどさ、今日はお祝いなんだ、無料で喰い放題、だから覗いてってくれよ」
「お祝い?」「喰い放題って…いいの?」
 そんなことしたら、ほんとにこのお店、新装開店翌日に潰れちゃうんじゃ。
 怯んだ顔の二人を、まあまあすんごく旨いから、とにかく入って食べてって、と健は店の中へ押し入れる。
 やや緊張畏まり気味のヒナタは、黒の飛沫が跳ね返るような荒々しいタッチのデザインの白の作務衣に、やはり黒い和エプロン、けれども、その手にはしっかり小皿が載っているばかりか、ちょうど今、色鮮やかなえびときゅうりのピンチョスをぱくりとやったところ、入った二人と視線を合わせて一瞬止まったものの、もぐもぐと口を動かす。
「うんと旨いよ、どんどん食べてって」
「えーとあの、店員、さん?」「お客、さん?」
 ヒナタはちょいと首を傾げたが、軽く首を振り、賑やかで明るい店内を示す。
「まあ、出入り自由のビュッフェパーティみたいなもんかな? しっかり食べたければ、あそこに料理長がいるから、好きなもの注文してってよ」
『どうせ食い放題なんだし、一部ビュッフェ形式にしたら? この上給仕まで増やしてらんないでしょ、人件費的に。心付けカンパしてくれる優しい人がいるかもだけどさ』
 そう提案したのはヒナタだ。言われてみればその通り、きっちり注文して食べたいという客には奥のプライベートスペースに案内するとして、ほとんどの料理をビュッフェ形式にした。
『何か買う物ないとコンビニで立ち読みできない、俺みたいに良心的な小心者とか入りづらいし。いや俺は有難く支払わないよ? カフェ飯の値段こわい』
 まあ腹八分目位になったら手伝うわ、但し俺にウエイター経験はない、期待はするな。そう宣言した通り、表で健が呼び込む客を、それとなく奥へ、それぞれ食べやすいような場所へ誘導している。
「えーと…ほんとに、いいのかな、これ」「何か、凄いね」
 戸惑う二人の前に、いつものバイト先でつけているエプロンをつけたサクラが、にこにこ微笑みながら、大きな仕草でお辞儀をし、スケッチブックに書かれた文字を指し示す。彼女は先日の依頼で喉を傷つけ、いまもまだ声が出せない状態だ。さっき一瞬客が途切れた時に、そっと物陰でお茶を啜った。刺激物はまだ食べるのが辛い。せっかくの食べ放題だが、喉に優しいものを少しずつ、口にするぐらいしかできない。
『いらっしゃいませ、「フォーチューン・カフェ」の新装開店にようこそ! 本日はこのメニュー全てが無料の食べ放題になっております』
「どうぞ、こちらへ」
 グリーンロング丈胸当てエプロンをつけたハオが、二人を片隅の皿が積まれたコーナーに案内する。一枚だけピンクな四つ葉のクローバー柄のマグカップのワンポイント刺繍がエプロンの胸元にある、それに軽く触れてサクラに微笑み、
「お好きなものをお好きなだけどうぞ」
「私、ターミナル来たばっかりで…でもいいの?」
 一人が戸惑ってハオを見た。
「楽しんで食べてやってくれると嬉しいな」
 不安そうな相手に話しかけたフェイは、白シャツに白のロング丈ソムリエエプロンだ。やはり胸元に、一枚だけピンクな四つ葉のクローバーの栞が挟まった本のワンポイント刺繍がある。
「こいつがターミナルに戻って来れた祝いだし」
 皿を一枚ずつ二人に持たせると、
「そして、今日からまた、ここで店を開けるお祝い。宣伝も兼ねているんですよ、お気遣いなく。今後ともよろしくお願いいたします」
 今度は卒なく、珍しく白いシャツにブラックベスト風襟付ロング丈カマーエプロンを身につけたロンが進み出た。やはり、一枚だけピンクな四つ葉のクローバーのチャームがついたミニギフトボックス柄のワンポイント刺繍が胸元にある。
「これって…祝い箸…?」
 差し出された箸に一人が訝しげな声を上げた。
「もちろん、フォークスプーンナイフもありますよ、けれどまずその箸を使って欲しいんです」
 ロンが小さく、せっかくレイラさんに見立ててもらったんですから、と呟いたが、中が赤くて外側は白く、中央やや下に結び切りした色鮮やかな水引がかかっている箸袋を受け取った相手は、深々と感じ入った顔になっている。
「私の所だと、これはお正月、新年のはじめの日にだけ使うんだ」
 じゃあ、本当に大事な記念日なんだね、今日。
「壱番世界の習慣なの?」「うん、たぶんね」
 けれど、金銀の水引じゃないんだね、こんなに綺麗な色の水引の祝い箸は初めてみた、と顔を上げた相手にロンが相好を崩す。
「そうでしょう? 『アガピス・ピアティカ』をご存知ですか? 今閉店セールをやっているんですが、もっと素敵な品が一杯ありますよ」
 そこへ、サクラが急いだ顔で戻ってきた。
『外で待ってる方がいるみたいです。外にもオープンカフェ風スペース作ります?』
「ああ、そうだな、作ろうか」
 フェイが頷いてサクラとともに外へ出る。
 フェイ、ロン、ハオ、そして健やヒナタのエプロンは皆サクラの手作りだ。
『ごめんなさい、料理長さんの分は間に合わなくて。でも元々お持ちだろうからない人優先と思って…お手伝い兼ねるなら、エプロンつけておくべきだと思います。皆さんに差し上げます』
 そう笑ったサクラが、大変な思いをして生き抜いてきたのを知ったフェイ達は、有難く感謝して身につけさせてもらっている。
 ちなみに、ハクアにも衛生帽付厨房エプロンが準備されていたのだが、今は案内に移っていた。一応お手伝いならエプロンは必要ということで、長い髪をひとまとめにし、ロン同様ロング丈カマーエプロンだ。
「メニューか? まあ見てくれればわかると思うが」
 尋ねられて、ハクアはざっと店の中を見渡す。
 ミネストローネと豚汁とクラムチャウダー、それにカレー。
 パスタはミートソースと小松菜ベーコン、鮭ときのこのグラタン、さつまいものニョッキ生クリームソース。
 ピザはパイナップルと厚切りハム、チーズ四種とペペロンチーノソーセージ。
 プレーンオムレツに甘辛豚肉オムレツ、豚肉牛肉ホタテエビ以下鉄板焼き、ネギ焼き。
 サンドイッチはパストラミビーフにさらし玉ねぎ、レタスとみじん切りベーコン入り卵、いちごとマンゴーと生クリーム。
 ちらし寿司、山菜たけのこ御飯、ケチャップピラフクリームソース掛け。
 ピンチョスはかぼちゃとベーコン、生ハムメロン、トマトとモッツァレラチーズ、エビマリネときゅうり、クリームチーズとスモークサーモン。
 鶏のからあげ、フライドポテト、コーンコロッケ、南蛮漬け、胡麻団子。
 かぼちゃ煮鶏そぼろあん、肉じゃが、揚げ茄子煮浸し、ふろふき大根。
 サラダはポテト、ごぼうと人参、水菜シーチキン、マカロニハムきゅうり。
 フルーツカクテル、カップヨーグルト、七色ムース(いちご、オレンジ、キゥイ、レタスライム、ブルーハワイ、ブルーベリー)、一口ショート、ミニワッフル、ベビーシュークリーム、杏仁豆腐。
 もちろん、ヴォロスやブルーインブルーやインヤンガイの食材を使ったものもそここにあり、知らぬ世界の食べ物におっかなびっくり手を出す者、予想外の味に戸惑ったり夢中になって次々お代わりしている者など、店の中は単に明るいだけではなく、人の熱気と興奮であふれんばかりの光の渦だ。
「ありがとうございました!」
 ハクアの説明を受け、シュークリームチョコレートマウンテンに突進する相手に、あそこに行くなら他の食べ物を説明する必要はなかったか、と吐息をついた。
「こういう風に誰かと騒ぐのは、どうにも慣れないな」
 自分もまた小皿を取り、サンドイッチとピンチョスを取り分けながら考える。
 健からメールを貰った時は悩んだ。自分が行ってもいいものなのかと。だが、折角だからと参加させてもらった。
 昔はこうして集まりに参加する事もなかった。人との交流を避けはしなかったが、それでも明確に人と距離をとっていた。それを思うと自分も変化したのだ。
 レタスとみじん切りベーコン卵のサンドイッチはドレッシングが新鮮だった。こんがり焼かれたかぼちゃとベーコンのピンチョスも塩味が深くて旨い。
 ふと、目の前を横切っていくハオに目が向いた。興奮で顔を赤らめながら、スープの追加を指示しつつ、厨房に向かっていく。
 彼は眼の前で自分の大切な存在を奪われた事を、俺の事をどうおもっているのだろうか、と思った。
 思い出した光景。フォンを目の前で葬った自分に向けられた眼。
「………」
 もぐもぐ、と再び次のピンチョスを咀嚼する。
 あの時の彼の眼は畏怖の眼だった。
 それは仕方がない。もう既に諦めている。
 それでも恐れずに向き合ってくれる者達もいるから、自分は大丈夫だ。
 クリームチーズとサーモンのピンチョスが舌の上で蕩ける。
 あの時の判断に後悔はない。
 あれが自分の選んだ最善の選択であった。
 別に誰から感謝されたいわけでもない。
 だから、これはこれで一つの結末なんだろう。
 フルーツのサンドイッチを手に取る。いちごの酸味、マンゴーのまったりした滋味、それらを包むクリームの優しい甘味。ゼシカの顔が思い浮かんだ。
 家ではゼシカがきっと寝ずに待っているだろう。ハクアが帰るのを、布団を整え、タオルを畳みながら、窓の外を気にしているだろう。
 覚醒して、きっと自分は良かったのだろう。故郷に居たままでは自分はただ死ぬしかなかったのだから。
 手にしたレモン風味の発泡水の泡が細やかに店内の灯を照らす。
「あー、腹減った!」
 健が外から飛び込んでくる。サクラとフェイが席を作ってくれてる間、一休みな、と皿を取り出し、鶏のからあげ、フライドポテト、肉じゃが、マカロニサラダを盛って食べ始める。
「やっぱ本職の料理は美味いわー」
 はふはふと皿を平らげ、次の料理を取って戻ってきた。甘辛豚肉オムレツは熱々、料理長が今も注文を受けては作っている。揚げ茄子煮浸し、ちらし寿司、チーズとソーセージのピザ。
「足りないもんあるなら買って来るぜ? 荷物持ちなら任せとけ」
 にやりと笑った顔は少し前までの顔と一線を画している。
「十分に足りてるだろう。あの料理長に手抜かりがあるとは思えんな」
「にしても、予想外に入ってるよな? 夕方過ぎにはなくなりそうだな」
 じゃあ、その後か、と何事か考え込んだ健は、ハクアの視線にちょっと生真面目な顔になった。
「俺、さ」
「ん?」
「ここに居るのは三月までだ。壱番世界で警察官になるんだ。一次は通った。二次も絶対通ってみせる」
「警官…」
 健は忙しくまた料理を取って来て、がんがん食べながら、やがて、
「ヘンリーのお茶会で壱番世界人はみなチャイ=ブレに吸収されるって聞いた時、覚悟が決まったんだ。ロストナンバーで頑張るのは三月までって。間違った選択かもしれないけど、俺が一番したい事は家族の傍で壱番世界を守る事なんだ」
「…そうか」
 どこか自分と似た選択肢に、ハクアはグラスを傾ける。
 健は今日、『ドライフルーツ入り杏仁マーラーカオ』を作ってきた、と言った。彼は壱番世界では料理男子と言われる類で、それなりにいろいろ作れるそうだ。武器を振り回す部分ばかりが注目されやすいから、誤解されている部分が一杯あるのだろう。今日は閉店後、小規模のサプライズパーティをやるつもりらしい。ハオ以外の全員に、既にクラッカーが渡されている。
 ロストナンバーは様々な物を抱え覚醒し、様々な人と出会い変化していく。通常の螺旋から外れた旅なのかも知れないが、それでも自分自身の旅を続けて行く。いつか訪れる終着駅へとたどり着くまで。
「じゃあ、もうひと頑張りしてくっか!」
 サクラとフェイが戻ってくるのを目にした健が、皿を置き、片腕をぶん回しつつ、いそいそと外へ出ていく。
 その後ろ姿を見送っていると、同じように見送っていたハオがハクアの視線に気づいたのだろう、振り向いた。少し迷っていたようだが、心を決めたのだろう、こちらに向かってやってくる。
 グラスと小皿を置いた。
「ハクア」
「ああ」
 話があるのだろうと思った。皆、今ちょうど賑やかに楽しんでいる。
 健は再び街頭呼び込みを始めたし、サクラはフェイと笑いながら食器や祝い箸の補充をしている。ロンは、白シャツと黒ベスト黒エプロンのカフェスタイルに着替えたヒナタが、ラテアートに挑戦するというので準備している。客達もそちらに集まり出したようだ。さっき試しに数杯作ったのをもらったが、意外にうまくできていた。くまか、と聞くとブタだと言われたので少し沈黙が漂ったが、まあ、似たようなものだろう……。
「ちょっといいかな」
「構わん」
 呼ばれてプライベートルームの方へ入るハオに続くと、相手は背中を向けたまま、
「ひょっとすると、二度と会ってくれないかも知れないから」
「…」
 くるりと振り向いたハオがハクアを見上げる。
「ごめん」
 眉を潜めたハクアの表情をどう取ったのだろう、ハオは蒼白い顔でもう一度繰り返した。
「ごめん。けど、許してくれなくていいから」
「許す?」
 それは逆ではないのか。
「僕がフォンを殺せなくちゃいけなかった。僕が彼を楽にしてやらなくちゃいけなかった。けれど、僕には何の力もなくて」
 ハクアの視線に射すくめられたようにのろのろと俯く。
「…おれには…何の力もなくて……ハクアにフォンを殺させた」
 何の力もないのに、自分でできないことを望んで、それにハクア達を巻き込んだ。
「だから、ほんとはこんなこと言う資格なんてないし、それはわかってるんだ。ほんとは皆にも一人ずつ謝ろうと思って、けど、ハクアには、ハクアには絶対まず一番最初に謝ろうって思ってて」
 けど、謝ったからと言って、おれを許さなくていいから。ずっと憎んでくれてていいから。ハクアがしたくないことを無理にさせたんだから怒ってていいから。
「ただ、今日だけは、おれじゃなくて、皆のために、堪えてほしい。また、自分にできないこと頼んでるけど、今日さえ終わったら、もう二度とおれと口聞かなくていいから。顔合わすのが嫌なら、できるだけ外へでないから、ゼシカちゃんにだって関わらないように注意するから…」
「お前は…」
 一体何を言ってるんだ、こいつは。
 ハクアは深く深く溜め息をついた。
「後悔はない。あれが最善の選択だった」
 心の内側の声をなぞり直す。
「この先、同じことがあったとしても、俺はやっぱり同じことをする」
「っ」
 弾かれたように顔を上げるハオの眼は涙で一杯だ。
「お前のためじゃない……お前のせいじゃない」
 今更謝るな、皆ががっかりするぞ。
「え?」
「お前が再びターミナルで『フォーチュン・カフェ』ができることを喜んでいる人間がいる。自己嫌悪も自己憐憫も、倉庫にでも放り込んでおけ」
「はくあ…」
「お前こそ、あいつらのために、笑っていろ」
 きっとその要求は、ある意味、酷なことなのだろう。けれどハクアは黙って部屋の外を顎で示した。
 ヒナタがカップのコーヒーに泡立てたミルクを注いでいる。わああっと歓声が上がる。店内は皆、楽しげで嬉しげで、わくわくとした期待に満ちあふれている。
「この先も、帰属する瞬間まで、この店を投げ出さず、『幸運』を与え続けろ」
 それがお前の仕事だ。
「……わ…か…た……」
 眼を見開いたハオの頬に幾筋もの涙が伝わる。それでも瞬くことなく店を眺め続けるハオに、ハクアは微かに笑って部屋を出た。


 ラテアート。
 コーヒーに泡立てたミルクを注ぎ、作ったラテの表面に美しい絵を描くこと。ミルクの白とエスプレッソの黒がヒナタに試せと囁いている。
 家には道具も材料も無いからこれを機会に試してみよう、原理と手法は学習済みだ、ネットでな!
 勢い込んで開店前にも多少試してみていた。精魂こめたリーフを縞模様だの斑だの言われたし、やってみて、フリーポアは筆の感覚に遠く、メインはエッチングでやっていく方がいいとわかった。
『……安心しろ、濃淡以上の味は変わらん』
 言い切って全員分のをやってみて、何かこの、失敗できない、速度と分量の兼ね合いが命、一発で決めろ感は水墨画にも通じるなー、と実感。
 そしていよいよ本番と言う訳だ。
「プーさん描いて!」
「ぷーさん?」
「じゃあ、黒猫で!」
「それはジ●とか言うやつか?」
「じゃあいっそ、ト●ロで!」
「とろろ描くぞこら!」
 試行錯誤の分はスタッフと自分で消費したが、ここから先はそうも行くまい。
「軍艦描いて! アル●ジオ!」
「アニメオタクしか来とらんのか!」
 四分の一ほどのエスプレッソを入れた丸いカップを斜めにし、泡立てたミルクを注ぎ入れる。速過ぎても浮かび上がってくる分の計算が狂うし、量がオーバーする前に注ぎ止めるタイミングが難しい。
「…おおおっ!」「にーちゃん凄い!」
 ちょいちょいと楊枝を使って線を書き加えていくと、見る見るカップの表面に濃淡で描かれた絵が浮かび上がる。
「ついでにチョコレートソースも使ってだなあ」
「それって進●の巨人!」
「じゃなくて、火の七日間!」
「ええい違うわい! あんたの似顔絵だって!」
「ぎゃあああ」
 わいわい騒ぎながら、おいしいものを食べ、夢中で過ごす。
「冷めてる!」「当たり前だろが!」
「じゃあもう一杯、次は彼女描いて!」
「おまっ、学習能力あんのか?」
 こつを覚えてくれば、デッサンは得意中の得意、どんどん絵柄を増やしていく。だんだん周囲を見る余裕もできて、ふと、ヒナタの胸の中に過る気持ち。
 こいつらもロストナンバーなんだよね。
 依頼受けたり、危ないとこ行ったりしてる。
 ひょいと視線を外すと、走り戻ってきた健が手早く皿に料理を盛り、急いでかっ込んでまた飛び出していく。サクラはヒナタの視線に気づいたのか、『笑顔って良いですよね…』とスケッチブックで送ってくる。ハクアは奥の部屋から出て来て、新たな料理を思いついたのか、厨房へ入っていくし、フェイは何だかふらふらしてるハオに心配そうに近づいていく。
 皆さあ、よく修羅場に首突っ込んだ上くぐり抜けて来てるよね。
 俺極力避けてるもん。
 避けてられん事案もあるけど。予期せぬ襲撃を受けるとか知人がやばいとか。
「……まああれだ」
「え? 何?」
「いや、何でもない」
 昨今のターミナルを震わせるあれこれを思い出して、思わず首を竦めた。
 挺身も結構だけど、その結果危険な事案に身を投じるの、自分だけじゃなくなるかもだし。
「皆命を大事にな」
「世界平和祈ってんの?」
「小心者としては、そりゃあ第一希望でしょ!」
 くるくるくるりん、しゅわあっと描いた、何十にも重なったハート型。
 チョコレートソースできらりんっ、と星を描いたら、かっわいい、と周囲から歓声が上がった。


「明日からは正直三日ほど休まなくちゃやれないんじゃないの?」
 そんなレベルで食べまくり騒ぎまくった客達が一通り出て行った後、机や椅子を並べ直していたハオが、ヒナタに首を振る。
「大丈夫。多少品薄かも知れないけど」
 にっこり笑う。
「何とかやれるよ。どうしても駄目なら、コーヒーだけでも。ラテアート、おれも勉強しようかな」
「洗いものは済んだぞ」
 厨房を片付けていたハクアがフロアに戻ってくる。
「外の看板とスペース分の片付け済んだ」
 フェイとサクラが表の扉を閉め、
「ああ、ロン、例の、ほら、健に頼まれたやつ」
「準備済みだ」
 え、何ですか、と言う表情で覗き込むサクラに、ロンとフェイがほぼ同時に振り返って似た仕草で肩を竦める。それを見たサクラがうっすらと赤くなり、急いでスケッチブックに文字を書いて掲げた。
『お三方が真正のBLだったら、それだけで私元気になっちゃいます』
「いやいや、それ無理だから、な、ロン」
「選ぶ権利というものがあるでしょう、サクラさん」
「そりゃこっちの台詞だろが」
 不愉快そうに眉をしかめるロンに、むっとした顔でやり返すフェイ、サクラが嬉しそうに笑う。
「それより…エプロンありがとう、思い切り使わせてもらっちゃった」
 ハオがサクラに笑うと、ぷるぷる首を振ったサクラが赤くなりながら、またスケッチブックを掲げた。
『だって今日はハオさんとお店の新しい誕生パーティですから』
「よし閉店だな?」
 片付けを確認していたらしい健が戻ってきた。ちらちらと素早く視線を投げ、
「みんな良いか?…お帰りハオ、新装開店おめでとう!」
 合図と一緒に、ハオ以外の者が一斉にクラッカーを鳴らす。
「えっあっ、あのっ!」
「これ、作ってきたから」
 健が差し出したそれに、ハオが瞬きする。箱詰めのリボンがかけられたそれを、ありがとうと受け取って包みを開き、大きく目を見開いた。
「ドライフルーツ入り杏仁マーラーカオ。ネットで調べて作ったんだぜ」
 真ん中に1の形をした蝋燭と一緒に『ハオへ・新装開店新しい誕生日おめでとう』と書かれたチョコプレートが設置されている。心得たようにフェイが蝋燭に火を灯し、ロンが店の灯を消した。戸惑った顔していたハオが周囲を見渡し、やがてそろそろと近づいて一気に吹き消す。
「おめでとう!」「おめっとさん!」「おつかれさまでした」
 穏やかな声は料理長、再びついた灯が照らしたのは、くしゃくしゃと歪んだハオの顔だ。
「あ…りがと…」
 唇を噛み締めて俯くハオに、健は軽く頬をこぶしで擦った。
「今日の開店はハオの新しい誕生日みたいなもんだろ? だから今までと変わらない、でも違う物が欲しいと思ってさ。俺は味の違うマーラーカオを作った」
「うん…」
「で、実はフェイとロンからもあるんだよな?」
「え?」
「しかも俺達全員に」
「ああそうだ」「準備してましたからね」
 頷くフェイとロンは、数日前に尋ねて来た健のことばを思い返している。
『アンタらの方が俺より年上で世慣れてるだろ?なら多少の我儘は言っても良いかと思ってさ』
 不器用で、いつもスマートに決め切れない、けれど情は厚くて優しい男はこう笑った。
『ハオの親友のアンタ達にもお願いできないか? 料理長込みアンタ達込み八人分のプレゼントをさ? パーティなら全員にサプライズプレゼントがあっても良いと思うんだ』
「まず、健に」
「え? 俺から?」
「俺達の妙なこだわりをぶち壊してくれたおかげで、ハオはこうしてターミナルで再び暮らせることになった。感謝している」
 フェイからは『嘘つきの本』が手渡された。
「その本には嘘しか書いてない。馬鹿馬鹿しいと思って笑ってくれたら有難い」
「警官になるという君にはこれがいいかと思って」
 ロンが差し出したのは指錠。
「親指を拘束されると人は身動きとれない。自分の身も守ってくれ」
「…サンキュ」
「次はヒナタ」
「え? 俺?」
「俺からはこの本を。『女に無視されても凹まない本』。世の中の半分は女なんだぞ、選択肢があるってことを忘れないでくれ」
「……ありがと」
 フェイの贈り物にむっつりしたヒナタに、ロンが微笑しながら掌ほどの半透明の箱を出す。
「何だこれ?」
「超時空脱出装置」
「は?」
「今は表示されないけど、どこかに閉じ込められたとき、0.00000000001%でも脱出できる経路があるなら表示してくれる」
 ただし、方法は自分で考えなくちゃならないけどね。
「………まあ、俺向きっちゃ俺向きだよね、うん」
「そして、サクラ」
 フェイは小さな白い本を取り出した。
「『わたくし日記』と言う本で、迷った時に開くと、隠れている本音が文章になって浮かび上がる」
 けど、結構危険な本だから扱いに注意してくれよ。
「僕からはこれを」
 ロンがサクラの掌に落としたのは、虹色に輝く親指ほどの丸いペンダントトップだ。オパールのようにも見える。
「なくしたくない気持ちがあるだろう? それを感じたとき、これを握っておくと、次に触れるとその気持ちが甦る、永久に」
 たとえ自分の記憶を失っても、その気持ちだけは甦ることができる。
 ちらりとジェリーフィッシュフォームのセクタンを見やったロンは、記憶を甦らせるものではないからね、と付け加えた。
「ハクア、この本を楽しんでくれると嬉しい」
 フェイが差し出したのは『大きな森と小さなくま』だ。
「…絵本、だな?」
「絵本だ。森に迷い込んだ小熊が、元の家に戻るまでの話だ」
 フェイは笑ったが、眼は笑っていない。
「絵本は大人が読むと奥深いんだぞ」
「わかった。有難く読ませてもらう」
「巻末に森の穴あき地図がついている。読みながら完成させていく類だ」
「喜ぶだろう」
 脳裏に浮かんだ笑顔にハクアは目を細める。
「では、私はこれを」
 ロンが渡してきたのは、薄青い水晶のブレスレットだった。
「『物忘れの輪』と呼ばれています」
 辛い記憶が刻まれそうなとき、このブレスレットを引き千切る。
「その記憶だけ吹き飛ぶそうです。けれど……使うことはないかも知れませんね」
「ああ、たぶん」
 それでも俺に渡すのか、そういう視線に、ロンは黙って引き下がった。
 料理長には『究極の食材と最低のレシピ』という本、それに鉄色の球体。
「ゆっくり転がすと柔らかな音がするでしょう?」
「そうだね」
「疲れた時に心を癒す波長だそうです」
 そして、フェイにはロンから『使者の輪』と呼ばれる複雑そうな銀色の何十もの輪が組まれたパズルが渡され、ロンにはフェイから『柔らか人生を楽しもう!』というハウツー本が贈られ。
「さて」「残り一つ」
「へ?」
 健はきょとんとする。
「お前さ、八つ準備しろって言ったろ?」
「あ」
「だから必然、一つは残る、ので」
 こうしました、とロンとフェイは小さなカードを健に差し出す。
「何だ……えーと『フェイ召喚券』『ロン召喚券』……はあ??」
「今後、お前が参加する依頼があって、人員が厳しいなら、無報酬で一度だけ依頼を受けてやる」
「あまり無茶な呼び出しはかけないで欲しい」
 健はふんぞり返ったフェイと、渋々顔のロンを見た。びっくり眼のサクラと、あきれ顔のヒナタを見た。納得顔の料理長と、苦笑しているハクアを見た。
 くすくす楽しげに笑っているハオを見た。
 うん、と一つ頷く。
 いいんじゃないか、なんとなく。
「じゃ、とりあえず、マーラーカオ、食べようぜ!」
「ええええ、そんなちっこいの分けるっても」
「料理はまだ残ってるな」
『私、準備してきますね!』
「少し温めますか」
「手伝います」


 それぞれに散らばる仲間、その中でハオが振り返る。
「健」
 ありがとう。
「明日から、また頑張るよ」
 微笑むハオの眼にもう涙はない。翳りはない。痛みは微かに残っていても、やがて噛み砕き呑み込み、成長していく糧となるだけだ。
「…おう!」
 健は笑い返し、拳を高く突き上げた。

クリエイターコメントこの度はご参加ありがとうございました。
書きつつ,今までのことを何となく振り返っておりました。
気がつけば、こんなにいろいろなロストナンバーの方達がおられ、互いに関わりあって来られたんですよね。
その端っこにでもひっかかることができて、ハオもフェイもロンも嬉しいだろうなあと思っておりました。

ちなみに健様がゲットされた『フェイ召喚券』と『ロン召喚券』は、葛城シナリオのみに使用できます。他のWRシナリオには出張出来ませんので、よろしくお願いいたします(使えない特典ですね、すみません/笑)。

また、このシナリオにおきましては、瀬島WRにいろいろとご助言頂きました。NPCレイラさまには素敵な品物を選んで頂き感謝します。ありがとうございました。

では、またのご縁をお待ち致しております。
公開日時2013-11-19(火) 21:10

 

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