「オオオオオオオオオオオ!!!」「ワァァァァ!!!!!!」「ウオオオ!!!」「待ってましたァァー!!!!!」 コロッセオに手前勝手な声援が飛び交い、燃え盛るような活気に包まれる。 発見されたばかりのコロッセオに明かりが点り、幻影、亡霊、観客たるロストナンバー。 そして、選手本人達の熱い闘争心が、この場を熱狂へと巻き込んでいく。 頭はぼぅっとして心地良く、熱病に浮かされたよう、いいや、まさに熱に浮かされている。 本来、生物として持つ生存本能をはるかに超越した闘争本能が、理性や常識の障壁をあっさりと突破して、脳が、心臓が、筋肉が、毛先の一本一本にまでことごとく漲っていた。 誰かが剣を取る音がする。 誰かが防具をつける音がする。 気が早くて荒いものの中には、すでに控え室でケンカを始めているものもいるらしい。 欲しいものは観客の声援? それとも、勝利の名声? 実戦で得られる求道者としての精進? ――ただ、ただ、戦いたい? どんな目的であればかまわない。 今、戦う力を持っていて、戦う相手がいて、戦う場所がある。 これ以上、他に何が必要だろう? 暗い昇降機を経て、控え室に通され、飲み物を口にして休憩している間も火照りは収まらない。 これから控え室を出て、暗い廊下を歩き、闘技場へと歩み出て名乗りを受ける。 戦うのはそれから。それから。 石造りの建物をも揺るがす大歓声。 その中で、かーん、と一発ゴングが鳴り響いた。 果てるともなく続く喧騒は、その一発で変わり、歓声と歓喜、怒気すらも孕んで、大音量の渦となりコロッセオを揺るがした。「ロストナンバーの中で、誰が一番強いのか?」 マイクを通した声が会場のスピーカーからこぼれた。 いつのまにか闘技場の中央に、管理人、リュカオスが立っている。 スポットライトを受け、彼は雄弁に語りあげる。「これは、ただただ単純なことだ。あるいは郷里の誇りを賭け、あるいは己の流派を賭け、でなきゃ自分の訓練の成果として。……いや、理由なんかもう、どうでもいい。誰が一番強いのか? そんなもの、戦ってみなきゃわからないし、戦ってみれば分かることだ」 見ているものも、もう何故騒いでいるのかわかるまい。 だが、それでいい。それがいい。それしかいらない。「戦いってのは狂気、凶器、侠気、……狂喜。どんなもんであれ、まともな人間のやることじゃない。もともと、身を守ることさえできればそれ以上に戦う必要はない。だけど、世の中にはいるものだ。自分より強いかも知れない相手が目の前にいて、そいつと戦うことができるってんなら、もう、他には何も目に入らなくなっちまう。……ボロボロにされて、ズタズタになって、泥にまみれて格好悪くても、それでも、なんかこう、体の奥の方から、わくわくとあっついモンがこみ上げてくる、どうしようもない愚者(バカ)どもが」 控え室で誰かが「ひでぇ言いようだぜ」と言って笑う。 そう、ひどい。 ひどすぎるくらい、現実だ。間違っていない。正解だ。 だってこんなに体の底が疼いている。 もうどうしようもないくらい。 ふと顔をあげると、ドアからスタッフが呼んでいた。「そろそろ出番ですよ、準備が終わったら会場へ来てください」 ああ、と手をあげて応じる。 ――やることは、そんなに多くない。 この控え室で最後の準備をして、闘技場へ出て名乗りをあげる。 それが、次はあなたの番、というだけのこと。 立ち上がると、闘技場のスピーカーからもれた音が控え室まで転がり込んできた。「それでは、選手入場!!!」=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
扉が開き、大きなバスケットを抱えたコレット・ネロが入ってきた。 「こんにちは、差し入れ持ってきたよ」 「ようコレット!」 最初に反応したのは金毛の狼。 既にウォーミングアップは終わっているらしく、多少息が乱れていた。 それでもコレットの笑顔に反応すると手をあげて近寄る。 「おっ、差し入れありがとな、ありがたく貰っとくぜ! お前は確か観戦だったか?応援よろしく頼むぜっ♪」 「うん。オルグお兄ちゃん。頑張ってね。差し入れは安全祈願のお守りだよ。……無茶とか怪我、しないでね」 「無茶、な。……正直、今か今かって待ってるぜ。なんてったって、もうじきあらゆる世界の戦士たちと戦えるんだからな! 最強とかにゃ興味ないが、今はただ強いヤツと戦いたい! ああ楽しみだ!何人と戦えて、何人倒せるか……」 危ない事を言ってるね、と笑いコレットはバスケットをテーブルに置く。 ぐるりと部屋を見回し、籠の中身をテーブルへと広げた。 せっかくだから張り切っちゃった、と笑い、次の品を手に取る。 「ファーヴニールさんには、手作りのアップルパイ。甘いものが好きそうだから。試合、がんばって」 「うん、不思議な緊張感だよ」 アップルパイを受け取って一口かじり、美味しいよ、と笑顔を見せる。 「虎部さん、おいしいもの食べるの好きでしょ?」 「幕の内弁当? ありがとな」 「うん。あと、これ。頼まれてたもの、これでよかった?」 差し出されたのは数枚のパンフレット。 選手の名前と技、流派等、ある程度の情報は揃っている。 下部にオッズまで書いてある、ということは賭場の下馬評なのだろう。 「はー。凄いラインナップだねー。フッ。お返しにこの勝利をコレットに送るよ」 「無理してそんな歯とか光らせなくても。無理するとやつれちゃうよ?」 「そーか? うーん、緊張がさすがにな。……ああ、差し入れなら、あそこでアブない落書きしてるやつも待ってるぜ」 虎部が指した先に、アインスがいた。 アインスと呼ばれたイケメンはホワイトボードに何やら書きながら、ぶつぶつと呟いている。 「ふっ、コロッセオか。ここでなら、私は思う存分相手を痛めつけ、嬲り、吊るし、善がらせる事が出来る……おっと、最後のは違ったかな」 独り言なのか、控え室の皆に対する精神的攻撃なのか、アインスの手が描き出す先には対戦相手らしきものが、殴られ、倒され、なんかこう青少年の教育上にはあまりよろしくないシーンが羅列されている。 「アインスさん?」 「やあ、コレット姫」 「姫? あのね、差し入れ。スポーツドリンク。今日はたくさん汗をかくと思ったから。気をつけて」 「礼を言う。……そして、キミの為に勝つ」 アインスは膝を折り、コレットの手を取ると、手のひらに口をつける。 顔を上げると、彼はそのままの優雅な物腰で微笑んで見せた。 「試合が終わった後は、食事でもどうだ。共に勝利の美酒に酔おう」 「うん、待ってるね」 にっこりと無垢な笑顔を返し、コレットはバスケットから最後の品を取り出した。 手に取ったのはタオル。 「雪峰さん、ウォーミングアップ中だけどお邪魔していいかな?」 「――ハッ?! コレット殿!」 それまでのやり取りが耳に入らない程、集中していたのか。 あるいは緊張していたのか。 上着を脱ぎ、腹筋や素振りなどのウォーミングアップをひたすらこなしていた。 そのため、その体はやや汗ばんでいる。 「いや、見苦しい所を見せてしまったでござるな。すぐに上着を着るでござるよ。……なぁに『うぉーみんぐあっぷ』というやつでござる。身体を動かしていれば、とりあえず緊張からは逃れられる筈でござるからな……とは言え、緊張が取れぬのは修行が足りぬでござるよ。深呼吸するでござる」 「うん、がんばってね。これ、差し入れ」 ふわり、と雪峰の肩にタオルがかけられた。 片隅に「雪峰」と刺繍が施されている。 「む、差し入れを持ってきて下さったと? 有り難い、慎んで受け取らせて頂くでござる」 「私、夜なべして縫ったのよ」 にこーっと微笑むコレットの表情は、確かにやや疲労が見える。 「よ、よ、よ、夜なべでござるか!? か、か、かたじけのうござる」 雪峰は震える手でタオルを使い汗を拭く。 ありがとうでござる、と礼を言い、鞘ごと剣を掲げた。 「拙者、微力を尽くすでござるよ」と宣言する。 「うん、がんばってね」 ――なぁ、と呟いたのは虎部だった。 「コレットってわりと悪女の素質あるんじゃないかな?」 「失敬な。コレットが悪女などと、そんなわけないだろう」 立ち上がったアインスと睨みあいとなるが、本人がいる前で揉めるわけにもいかず、場は虎部が「ははっ、冗談、冗談」と笑うことで収まった。 「緊張が取れなくてなー。ま、こうやって軽口を叩いてりゃ落ち着くか。……そうだ、クールになれ、隆」 その一室にはメイド服の一団が、まるで軍隊のように整列していた。 中世貴族に仕える正統派のメイド衣装をまとったメテオが、壇上で大声をあげる。 「私はあなた達に問います。私達は何?」 「「「我らはBar『軍法会議』、――軍法会議の冥土(メイド)なり!!」」」 メイド服の一団が一斉に返答する。 満足気に頷いたメテオはさらに声を振るう。 「ならばメイド達よ。私達が右手に持つ物は何?」 「「「紅茶とティーポット!」」」 「ならばメイド達よ。私達が左手に持つ物は何?」 「「「オムレツとケチャップ」」」 「ならば!! ならばメイド達よ。私達は何なの?」 「「「我ら給仕にして給仕にあらず。使用人にして使用人にあらず。掃除婦にして掃除婦にあらず。アイドルにしてアイドルにあらず!! ――我ら冥土なり。冥土のチームなり。ただ笑って御主人様に仕え、ただ笑って御主人様の疲れを癒す者なり」」」 「よろしい。ならば戦争……じゃなくて、ご奉仕よ!」 びしっとあげた手が虚空を指す。 それを合図に、メイド達はコロッセオのあちこちへと散っていった。 「……なんだ今のは」 「妙な奴らだな、オイ」 顔を見合わせたのはディルとレクのラデイーン兄妹だった。 異様な雰囲気のメイドの群れとその儀式(?)に、レクも踊りをとめて状況を把握できずにいる。 ディルもディルで、レクにスポーツドリンクを差し出した体勢のまま固まっていた。 だが、まぁ考えてもしかたないや、という事で思考を停止する。 「ええと、何を喋っていたのだったか……ああ、そうだ。お前は喧嘩っ早い所があるからな。突っ走りすぎてすぐに沈んだりするなよ?」 「だ~いじょうぶだって! 兄貴だってオイラがどんだけやれるか分かってんだろ?」 その言葉を証明するように、ぴっと剣を振るってみせる。 ついでにタンタンタン、とステップを始めた。 フットワークの練習もかねているのだろう、激しい動きでも笑顔のまま体を器用に動かし、ひとしきり踊るとポーズを決めると「な?」とウィンクを贈る。 「まったく。ケガだけはするなよ。もう少し時間もあるから身体を温めておけ、俺は少し会場を見て廻る。他の選手がどんな特訓をしているのかも興味あるしな」 竜人の兄はそう言って控え室を後にする。 レクはドアが閉まるのを確認し「心配症なアニキだな、オイ」と、忍び笑いを漏らした。 「皆さーん。そろそろ準備をお願いしま……わっ」 扉を開けて、テオは思わず叫んだ。 その部屋にいた猛獣の群れが一斉にテオの方へ視線を向ける。 テオはわたわたと手を振り、扉から一歩出ると表札を確認しなおした。 間違いなく、目的の部屋だった。部屋の一同を見回し、おそるおそる聞いてみる。 「あ、あの、ここの部屋って《ビーストキングダム》さんの……」 「アレクの部屋だぜ。そろそろ出番か?」 テオに話しかけたのはライオン。それもメス。 その横に、黒い鬣の獅子、大きなトラ、豹、と、猫科の猛獣が揃っている。 「え、ええ。そろそろ出番ですので準備をお願いしま……」 「待て。貴様、アレクの部屋だと言ったな? 俺様も出場するんだ。忘れるな」 ガオォと吼えたのはトラだった。 威風堂々と吼えてみせる。 「俺様のほうが強いことを、今度こそ証明してやるぜ」 「なんだと貴様、わしとここで戦おうとでも言うのか!」 虎と獅子が交互に吼え、どうしていいやらとあたりを見回すテオの長い耳がびくぅと震えた。 「今、ここで決着つけようか?」 先に飛び掛ったのはどちらだっただろうか。 相手と自分の間に、突如人影が現れて思わずたじろぐ。 その人影は、アレクサンダーとグランディアの爪を両手で受け止めた。 当然、無傷ではすまない。その腕から血飛沫が飛び散り、獅子と虎の顔に赤い返り血がぴぴっと降りかかる。 「落ち着け」 両の腕から血を流しつつ、その男は深緑の瞳で二頭を静止する。 はらりと白く長い髪がほどけて垂れた。 「誰?」とレオナ。 エルザはすでにアレクの援護に入れる体勢を取っている。 「ハクア・クロスフォード。一回戦の相手だ」 「てめぇ、試合の前にケガしてアレクと殺りあうつもりか? 死ぬぞ?」 挑発エルザを静かに眺めると「心配いらん。傷の治りは人一倍早い」と返答する。 宣言通り、ハクアの傷は一分と経たずカサブタが浮かんでいた。 「自分の中にも熱いものがある、と思い出させてくれた。いい試合をしよう」 飛び掛ったエルザの爪をすっとかわし、ハクアは扉に手をかけた。 助け起こしたテオに、先に行くと告げて部屋を後にする。 「おい、挑発されてなかったか?」とグランディア。 「なに、わしの相手だというなら、今でなくともいい。……それにしても、色々と、強者がおるのぅ」 「ああ」 グランディアも、アレクサンダーも。 渾身の一撃とまでは行かないが、手加減をしたつもりもない。 それを腕で防いだのであれば、相手にとって不足はない。 「ははっ、血が滾ってきたわ」と、ガオォと吼えた。 「あたしはあなたを応援してるわ」 先ほどまでの口調と一転、エルザがアレクサンダーに擦り寄る。 「アレクは堂々としているからね」卑怯なことはしないの、とエルザが笑って見せた。 「けっ」 「グランディアもせいぜい頑張れよ」 忘れてた、というようにエルザが笑ってみせる。 「私、お邪魔ですね」とテオは静かに呟き、部屋の扉をそっと閉めた。 「さぁ、張った張った。神予想はノらなきゃ損だぜ!」 ダミ声でがなり立てる。 一見してチンピラ、よく見てもチンピラの間下 譲二が掛札を売りさばいていた。 「おう、そこの姉ちゃん。ビールよこせや。ついでに掛札買わねぇか?」 「……あたし? うーん」 返事をしたのは緋夏。 要求もあったように、ビールやスナックの籠を抱え販売員を行っている。 見た目はグラマラスでセクシーな女性だが返答した声は多少、子供っぽいアクセントが混じっていた。 それを世間知らずと見てとったか、譲二は自分の予想をまくしたてる。 「……だからヨ。こいつ、こいつが本命がっちがち。儲けていけや、姉ちゃん」 「うーん」 どさくさに紛れて肩を抱くついでに胸まで触ろうとした譲二の手をぱしりとはたき、それでも視線は掛札を見つめる。 そこに書いてあった名前は、こないだ一緒に戦った『バカ猫』の名前。 実力は、まぁ、折り紙つきだしなぁと考える。オッズも美味しくはないが悪くもない。 「あ、じゃあ、これ」 「こいつだな? あいよっ」 ぺいっと掛札を放り渡し、譲二は手元のカバンを見る。 ナレッジキューブがパンパンに詰め込まれていた。 これが全部自分のモノになれば大もうけだ。 当然、掛札の性質上、試合の行方如何によっては大損の可能性もある。 が、譲二はあえて、それを気にしていない。 手元にあるのはマンドラゴラと書かれた秘薬だった。 かつて、酒場で乱闘した際にコイツのせいで痛い目にあった譲二にとって、その効果は身に沁みて理解している。 にやにやと下品な笑みを浮かべ、とっとと店じまいをした譲二は何食わぬ顔をして関係者専用と書かれた扉を開いた。 長い獣耳が特徴的なスタッフ、テオが「うん?」とこちらを見ている。 「ここは関係者の……」 「あァん!? 俺様は今から0世界でイチバン強ェヤツになるんだぜ。このジョー様をナメんなよ、コラ!?」 「わわわっ」 軽く脅しただけで逃げて行きやがったと譲二は笑う。 さて、今回の賭けでイチバン人気なのは……と部屋を探しさまよう。 やがて一つの部屋を見つけて開いた。ターゲットは、そこにいる。 『そのターゲット』と目があった瞬間だった。 「ふん! ぬおおお!!」 ターゲット、ガルバリュートの発した雄叫びが瞬時に譲二の心胆を冷却する。 汗をほとばしらせ、ふんぬ! ぬおお! ふぅおお!! ……ぬふぅ。と何やら繰り返す筋肉だるまに言葉が出ない。しかも何故かその化け物はメイド服をまとっていた。 奥には、椅子があるにも関わらず床に胡坐をかいている笠姿の男。 鞘から僅かに刃を引き出し、そちらをうっとりと見つめており、なんともいえない色々な意味でアブない雰囲気をかもしていた。 あまりの光景に「あ、あ……」と唸るばかりで声の出ない譲二を見かねたか「何か用か?」と聞いてきたのは、角刈りの男、百田十三だった。 こちらもガルバリュートほどではないが、十分に筋骨隆々とし、熊を彷彿とさせるほどの逞しい体格である。 お。おお? としか声の出せない譲二の肩に手を置き「驚かなくてもいい。これから戦おうというのだ。おまえがおとなしくしていれば無駄なケンカはせんよ」と諭すように口を開く。 ――逆効果だった。 なんというかこう、プライドだけは人一倍の譲二である。 ナメてんのかコラ!? とか、このジョー様はなァ!? とか、そういう事を散々まくしたて、気がつくと、――譲二は派手な色のパンツのみをまとい、服は細切れになって床に落ちていた。 最後まで気付かなかったのは譲二だけだったらしい、百田は「見事だな、さすが人斬り雀」とか言いながら拍手をしている。 いつのまにかパンツ一丁になっていた譲二の肩を、背後から逞しい腕が掴んだ。 「おお、これはいかん。随分と緊張しておるようだ。拙者がほぐして進ぜよう」 おそるおそる振り向いた譲二より頭二つ分高いところから兜が見下ろしている。 その兜の下には必要以上にゴツいメイド服の筋肉巨漢。 「何、遠慮はいらんぞ、滅威怒按摩をしてやろうぞ、ご主人様」 御筋御筋(ごきんごきん)と音を立て、物凄い怪力で締め上げられた譲二が、情けない悲鳴をあげて床に倒れた。 さらに彼の手を取り、立たせたのは呼び出し係として奔走中のテオである。 「ええと、ジャックさんがいないので、あなたでいいです。選手ですよね? 死なないでくださいねー」 「い、イヤ待て。俺様はな、あの、お、おひ!?」 「此処までくる勇気があったのだから、折角ならコロッセオの中から観客席を見上げてみればいい。滅多にできる体験ではないぞ」 百田の力強い瞳に見送られ、テオに脱臼寸前の腕を引かれて、譲二は「ひぃぃ!?」と情けない悲鳴をあげて廊下へと消えていった。 「強い者と闘いたい、自分の強さを確認したい……彼もまた、漢の欲求なのだろうな」 譲二を見送った百田は、うん、と力強く頷いた。 「ピーナッツ、カシューナッツ、おいしいお菓子いかがですか~」 人間大のリス、バナーが籠を手に土産を売り歩く。 呼び止めたのはメイド姿のメテオだった。 「丁度お菓子が切れてたのよね」 「お進めはナッツ詰め合わせだよ」 「うんと、それじゃあね……きゃ!?」 振り向いたメテオの臀部をジャックが撫でている。 もう片方の手が、あろうコトか胸まで触った。 反射的に放った後ろ回し蹴りを、余裕綽々と交わしたジャック・ハートが「よぉ」と手をあげて挨拶をする。 「一度ならず二度までも!」 ヴォロスでの祭りで同じような事をされた記憶が蘇る。 ゆらり、とメテオがメイド服の裾からすらりと釘バットを取り出し、思い切り振るった。 身軽に交わしたジャックはそのまま天井に張り付くと、なんと天井にあぐらをかいて座り、高笑いをあげる。 ところで、揉め事の気配を感じた瞬間、バナーはすでにそこにいない。 「ぼく自身は、冒険者で、戦士じゃないんだよ。戦いには向いてないよー」ぱたぱたぱた、と駆けて行く姿は大きいとは言えリス、とても可愛い後ろ姿だった。 「ケンカか、気が早いな」 いつのまに現れたか、ロウ・ユエが天井を見上げて微笑んだ。 「オゥ、現れやがったな。『運命の輪』の大将よゥ?」 チンピラ然と、天井から見下ろし、睨みつける。 「そんなこともあったっけ。一回戦、相手はきみか? よろしく」 「ヒャーヒャヒャヒャ! 何がヨロシクだ。俺サマが1番強ェに決まってンだろォ?コロッセオ程度なら俺サマの能力で充分カバー出来るってェの!」 「その天井に張り付くのが能力か? 面白い手品だな」 「なァにが手品だ。バカ言ってんじゃねぇ。強いってなァ能力込みに決まってンだろォ……。怖きゃ帰りナ、ボーヤ? ギャハハハハ」 カンに触る高笑いを残し、ジャックの姿が瞬時に消えた。 一瞬の後、彼がいた所をメテオの釘バットが通過する。 「避けられた!? でも、今度は逃がさないから!」 彼を追いかけ姿を消したメイドの姿を見送ると、ロウはやれやれと微笑んだ。 ――ボロボロにされて、ズタズタになって、泥にまみれて格好悪くても、それでも、なんかこう、体の奥の方から、わくわくとあっついモンがこみ上げてくる、どうしようもない愚者(バカ)どもが―― 不意に会場のアナウンスが響く。 「……酷い言われようだな」 苦笑し、ロウは自らの髪を束ねた。 廊下を眺めると闘技場らしく様々な武器が飾られている。 予備の武器になるかな、と手近に飾られた槍を勝手に取り、ぶんと振るう。 振るったままのポーズで口を開く。 「……そう思わないか?」 「そうとも」 ロウの予想通り、返事が帰ってくる。 いつの間にか背後で阮緋が笑っていた。気配を殺す気もないらしい。 「そうだ、愚か者で何が悪い? 戦う事しか知らぬ胡来(フーライ)ばかりだ、むしろ光栄な事であろう」 「そこまでは言わないが……。折角の訓練の機会だ、参加しなければ損だろ?」 手にとった槍を掲げてみせる。 阮も青龍刀をふるい、その槍に重ね「おまえとはいい試合ができそうだな!」と笑う。 「なんだ、そのいい酒が飲めそうだ、みたいな台詞」 二人して笑いあっていると、物騒なポーズで笑ってますねー、とテオに呼びかけられる。彼は出番ですよ、と二人を手招きをしていた。 観客席の一角。 まるで商店街のようにテントが立ち並び、賑やかな様相を呈している。 一際目立つのは全身真っ赤な服を着ている赤燐。 彼女が、これまた真っ赤に染め上げた赤いテントで炭火を起こし、煎餅を焼いていた。 その隣では脇坂が商売に精を出している。 「お隣さん。商売、いかがかしら?」 「うふふ、ぼちぼちよ。あなたも食べる? おばさん、赤燐即位する前までは、お煎餅屋さんで働いてたから自信あるわよ。ぷろ級、って言うのかしら?」 「あら、嬉しい。お礼に果物ジュースいかが? 本当はジャムで作ったシャーベットや自家製の葡萄がウリなんだけど、お客さんいっぱいで売り切れちゃったのよ。味には自信あるけど喜んでもらえるかしら?」 「あらあら、ありがとねぇ」 一見、井戸端会議のように見えるこの光景だが、かたや真っ赤な服を着込み、顔を隠した赤燐。 もう片方はメガネにスーツのオネエ言葉の男性。 しかも鍛えた体格をしているため、言葉使いに違和感が目立つ。 なんとなーく周囲が近寄り固い空気の中、飛び込んできたのは踊り子、エルエム・メール。 「おせんべくださーい。ジュースもね」と明るく微笑んでみせる。 「「はぁい、ありがとねー」」 同じ口調で、思わずハモる。 「お嬢ちゃん。あなた、参加者かしら? だったら御代はいいわ、プレゼントよ。頑張ってね」 「ありがとう! 控え室で待ってるつもりだったけど、遊びに来ちゃった」 お煎餅を頬張り、それを果実ジュースで流し込む。 「そっちのお兄さんはいい体格してるよね。選手じゃないの?」 「私みたいな優男を捕まえて、冗談言わな……、あらやだ。弾みでボケちゃった」 普段はこれでもツッコミ役なのよ、と脇坂はくすくす笑う。 受け取った煎餅をぽりぽり齧ると、ふわりと醤油の風味が口に広がった。 「これ、美味しいね。熟練の味ってやつ?」 「そうねぇ、何年くらい煎餅屋さんやってたかしら。……ざっと百年? まぁ、細かいことは気にしなくていいのよ」 確か八十の時からはじめて、子育て二回くらい一段落ついてたし、と頭をひねっている。 触れていいのか悪いのか、女性に歳の噺を振っちゃった、とエルエムは微笑んだ。 「そうだ。お煎餅のお礼に、客寄せするねっ!」 彼女はそう告げると、リズムを取って踊りだす。 いつの間にか店の前には人だかりができていた。 その観客をも巻き込んでエルエムの動きはどんどん派手になっていく。 「ほら、観客のみんなも退屈でしょ? ここは一つ、エルのアピールタイムだよ!」 そう叫んで大きく跳ね、ぴたりとポーズを取ってみせた。 「演舞を折り混ぜた踊りでみんなの心をわし掴みっ。本番はもっとトリコにしてあげるよ!」 一瞬の静寂。彼女を中心とした輪は、わっと大きな拍手に包まれた。 こちらの控え室では人間大のマグロとサメが銃器を分解、手入れしていた。 「今回の狩りはロストナンバーの仲間が相手だからね。実弾使うわけにはいかないから、僕特性の無殺傷弾を用意するよ」 ごろり、と弾丸を風呂敷から取り出し、マグロ=マーシュランドはその弾丸を姉に手渡す。 「お姉ちゃんも、ちゃんと僕の弾使わないとダメだよ?」 「無殺傷? つうかさー? 前に故郷で捕獲依頼受けた時、アンタの調合した弾使ったら獲物が半殺しになっちまったじゃないのさ。マジ痛そうだったわよアレ。実弾の方がマシなんじゃないの?」 「そんなことないよ。ねぇねぇ、此処、とっても活気に溢れているよねー。僕、こーゆう空気大好きー♪ どんな人が僕達の相手になるのかなー」 「いや、人の話聞きなさいよ。でも……ふん、最強とか、そんなの私はどうだって良いのよ。唯、強い奴と存分にやり合えれば十分さね。……まぁ、私ら姉妹に敵う奴なんて居やしないだろうけどさ」 にやり、と微笑むサメは非常にシュールで、非常に迫力がある。 そんな部屋の扉をノック、もとい、消臭剤をふりかけ、少女が入ってきた。 「こんにちわー。全自動靴べらいる?」 「……は? え、ってか何で靴べら?」 「あのね、せっかくだから遊ぼうと思って!」 にこっと笑ったのは千場遊美。手には宣言通り、塩ほっけを持っている。 「何をするかはまだ全く決めてないけどね! でもやっぱり、具体的に説明したほうがいいよね! そうだね、分かりやすく言うと山菜採りに都会に出たおじいさんが連射の達人に不思議の国に誘われて、お魚屋さんを始める!! っていうのはどうかな!?」 「ちょっとアンタ。何言ってんのよ」 「行くよー。百花狂乱!!」 遊美がとても楽しそうに宣言する。 椅子が歌いだし、床が胡椒を引き、マーシュランド姉妹の重火器が香ばしくなる。 「わ、おねーちゃん。これ、楽しい!」 「楽しい、じゃないわよ。なんなのよ、コレ!?」 とんとん、とドアがノックされ、出場の打診にテオが入ってきた。 途端、二人を見て固まる。 「さ、魚が立ってる! 喋ってる!? ってか銃器持ってる!」 「あはははー!」 「……あ、なんだ。遊美さんがいたんですか。じゃあ、納得です」 「どーゆー意味よーっ!?」 フカが思い切りつっこみをいれようとすると、テオは一目散に逃げ出した。 「ファーヴニール君、ですね?」 「え、あ。そうだけど」 ファーヴニールの目の前に、いかにも文士然とした男が立っていた。 クアールと名乗った彼は、同盟の提案に来ました、と告げる。 「執筆意欲を高めるため、戦闘を間近で見学したいと思います。その為になるべく長く戦場に留まりたいので、護衛を頼めませんか?」 「護衛?」 「要はアレだ、この作家が倒されねェように動いてくれりゃいい」 割り込んできたのは、これも人間大の蝙蝠。 ベルゼ、という名だっけ、と記憶を辿る。 「その龍の名に違わぬ戦いぶり、期待させてもらうゼェ? キシシシッ!」 何でまた俺を、と言い出した彼に対し、クアールはファーヴニールのトラベルギア、エンヴィ・アイを指差した。 「なるべく長く戦場にいるには、なるべく頼もしい護衛が必要です。優勝するほどの、ね。受けてくれるのなら、私も回復などの支援を惜しみません」 「いいよ」 「あっさりだな」 あまりのノリの良さに思わずベルゼがつっこむ。 「そういうのも面白いかなって」 「ありがとうございます。……ベルゼ、滅多にない機会だ、猛者と戦いの数だけ新たな物語が育まれるだろう。俺の目的はあくまでも見学だ、向かってくる相手以外への攻撃は控えてくれ」 「言ったハズだぜ、俺はもうお前の言いなりにはならねェ。今回は面白そうだから付き合ってやるだけだ、勘違いすんじゃねぇぞ!?」 「……というわけで、従者が反抗的なので、協力を求めたいのです」 「あー、なんか苦労するね、お互いに」 なんとなく同情めいた感情が沸き、ファーヴニールはクアールの肩をポンポンと叩いた。 運営統括本部。 リュカオスを中心に最後の準備にスタッフ一同が追われていた。 その中で一際、うごきが目立つのはミトサア・フラーケン。 実質的なリーダーである、彼女の元には様々なトラブル報告が入る。 「で、その騒ぎの元は?」 『不明です。「うふふふ捕まえてごらーんアルよー!」と騒ぎながら逃げ回っている妖精らしきモノがいる……としか』 『続報です! その妖精はサンバイザーを目深にしてチアリーダーっぽい姿で逃走中、とのコトです!』 「何それ。メイド隊に協力を要請、スタッフも手があいてたら対処に向かって!」 些細なトラブルに過ぎない、とは思うが放っても置けない。 一通りの対処を指示すると、ミトはふぅとため息をついた。 「休んでいいぞ」 「ううん、雑用とかはボク達に任せて、リュカオスこそ堂々としてて」 そうか? と手持ち無沙汰そうなリュカオスに水筒を渡し、ミトは微笑む。 「挨拶、とてもカッコよかったよ。ちゃんと録画したからね」と、頬を染めながら告げると、リュカオスは「そうか?」と頬をかいた。 「助かる。こういうイベントは慣れなくてな」 「少しでも力になれてたらいいんだけど。……あのさ」 ミトの赤面が、さらに紅潮する。 何度も「あのさ」といいなおし、ついに意を決する。 「頑張ったご褒美に今度、ボクとデート……」 ドアが開く。 「こんちは、おじさん。ロナルド・バロウズっていうの」 バイオリンを手に、飄々とした中年男性が入ってきた。 「そろそろ入場の音楽の打ち合わせの時間だけど、あれ、なんかお邪魔だった?」 「……な、なんでこんなタイミングで……。カギかけとけばよかった……」 げしげしと床を蹴るミトサアの心も知らず、リュカオスは真面目に入場の音楽について打ち合わせを始めるのだった。 その部屋は明かりが灯されていない。 隅っこでジャガー形態のチェキータが退屈そうにふわぁ、と欠伸をしているだけだ。 コロッセオを言えばローマ、ローマ式といえば猛獣ショー、という理由でジャガー形態を取っている彼女だが、それがため獣の本能が強くなる。 と言っても猫の本能なので、まぁ、要するに、ひたすら眠いらしい。 そんな、決して会場からは見えない位置にある隠された部屋で、くぐもった笑い声が響く。 「くくく……。役者が揃ったようだな」 下馬評を手に、神のごとき尊大な声が高笑いをあげる。 大きく手を広げ、その者は叫んだ。 「選手には、人体模型兵器ススム君一号完全勝利宣言計画の礎となって貰おう」 ドアが開く。 「……あ。ゴメンナサイ。部屋間違えました」 日和坂綾である。 手を広げたままの人影と目が合う。なんとなく気まずい。 「あれ? 今、話し声が聞こえたけど、一人?」 「一柱だ」 「???、よ、よくわかんないけど、ゴメンナサイ、お邪魔しました!」 バタンとドアを閉め、冷や汗いっぱいにふーっと息を吐いた。 「綾も緊張してる? 強そうな相手ばかりだもんな」と話しかけたのは相沢優。 「ヤダなぁ、私より強いヤツばっかりだからバトルするんだよ? そうでなきゃタダの弱い者虐めじゃん?」 日和坂は元気に笑った。 「……早く始まらないかなぁ」 「俺は緊張してるよ」 不意に真顔で優が呟いた。 「……ま、でも、綾のドジのおかげで少しはほぐれたよ、部屋の人には悪かったけど」 「あ、そういうコト言う?」 つられて日和坂も笑い出す。 ふーっと一息。 「ふふっ……。ナンか楽しいね、エンエン。知ってる人、結構居るし?」 頭の上に乗せたセクタン・フォックスフォームのエンエンに話しかけると、彼女は準備体操に入った。 「優、最後の訓練、つきあって」 「おう。来い……どわっ」 言うが早いか繰り出された日和坂のキックに、相沢優は思い切り蹴り飛ばされた。 テオに呼ばれると、飛天 鴉刃は廊下に出た。 「いやー、殺る気満々ですね」 「……相手がどう思おうと、普段と違うと思われようと構わぬ。これが本当の私だ。 相手も本気だろう、こちらも遠慮をする必要は、ない」 鴉刃はそう呟き、廊下の中央で立ち止まる。 どうしたんですか? と振り向いたテオは、突如現れた濃霧に飲み込まれる鴉刃の姿を見て、逃げ出した。 鴉刃の方は濃霧の中できょろきょろと見回す。 「退屈なんだ、遊んでよ」 声がする。アルドのものだ。 来い、と呟いて構えた鴉刃に向け、濃霧の中から無数の銀猫が飛び掛り、じゃれついてきた。 「え?」 殺気もなく、敵意もなく、なんかこうにゃあにゃあと懐いてくる猫の群れにどうしていいかわからず、鴉刃は立ち尽くす。 「……こういう攻撃もあるのか」 世の中は広い、と呟いて。 鴉刃はとりあえず猫を数匹抱き上げると、会場へと向かった。 ――お待たせいたしました! ここは無限のコロッセオ……。零世界に隠された決闘の舞台。 厳かに、しかし脈打つように! 我々ロストナンバー達の熱い激突、その全てを受け止めんがごとく佇んでおります。 さぁ、今宵、――己の限界とその先の無限を目指す戦士たちの競演が幕を開けます! 実況は私、本郷幸吉郎。 入場曲はバイオリニスト、ロナルド・バロウズ氏の生演奏。 解説は各試合毎に選手の方々をお招きする予定となっております。 おっと、今、壇上の銅鑼が高らかに開場の刻を告げました。 まず入ってくるのは誰からなのか!? それでは各選手の入場を追いかけてみたいと思いますッ!! 全 選 手 入 場 ォ ー ! ! ! 抜けば玉散る氷の刃は攻防一体の戦陣だ! 潰せ、悪の紙コップタワー部! さぁ。背筋を伸ばし、胸を張って入場してまいりました。何故かセクタンの顔がやや伸びています。トップバッターは文武両道の生徒会長! 相沢 優! 燃ゆる炎が代名詞、双剣の狼の獲物はどいつだ! ちょこっと毛が刈られているのは気にすんな! 黄金の毛並みをなびかせて『ディクローズの拠点』切り込み隊長 『金狼』オルグ・ラルバローグ見参! 神をも恐れぬ黒き翼! 天下御免の向こう傷! 今宵、ヴォイドブラスターは命を喰らう! 今度はネタ枠だなんて言わせない! 『りんご大好き』ベルゼ・フェアグリッド選手。入場! 流転肆廻闘輪の特攻隊長を覚えているか!? 胸が拳が炎の腕が、強い相手を求めて叫ぶ! ほらほら最初の相手は誰だ!? ご存知、武闘派女子高生! 酸欠焦熱デスマッチの日和坂綾ぁ!! かわいい見た目にヤられるな! 父の背中に追いつくまではガン・ハープーンは容赦をしないっ! 大衆水泳場【魚遊館】より、海獣ハンター、妹! マグロ・マーシュランドの登場だぁ! 凍てつく吹雪のクール・ビューティ! 今日は麗人、明日は美猫ォ! 猛獣、ジャガー形態での参戦はリスペクト・ザ・ローマ・コロッセオ故! 「頑張れ、バカ猫!!」 おおっと、観客席から声援が飛ぶ。……売り子さん、大丈夫ですか? なんか零してますよ!? 「~~ッッ!!」 おおっと、咆哮で返答だ。猫性、獣性、超野生。チェキータ・シメール推参ッ!! 『一番』の名は伊達じゃないッ! コレット姫の取り合いは一歩リード……できているのか!? そのあたりはどうなんだこの色男! 白き皇子、ザ・サディスティック・アインス! 派手なアロハにサングラス。トレードマークをかなぐり捨てて、裸一貫での入場です。数々の武勇伝は伊達じゃないぞ! 「や、その、俺様は違ァっ、……ヒィィィィ!!」 甲高い雄叫びとともに、間下 譲二選手の入場です! 出た出た出た出たァッ! あれこそ名高きフカのアネゴ! 手……じゃない、ヒレに携えた長距離狙撃砲こそ一撃必殺のスーパー・ウェポン! 海獣ハンター・姉! フカ・マーシュランド! 眼光鋭き龍の双眸、嫉妬の眼差し(エンヴィ・アイ)は誰を射抜く!? っつーか「※)ただしイケメンに限る」」の資格保持者は嫉妬される側だろっ! 『龍変化』ファーヴニール選手ッ! ……おおっと、トラブルでしょうか。次の選手が出てきません。あ、いいえ! 観客席から今飛び込んで参りました! 屍龍ケイオス・グラードに決めたコンボは未だに伝説! ピンクの踊り子、ナイスバディだ。エルエム・メール! ご覧ください、このふてぶてしい面構え!! 不良精神満載! 俺こそ一番強ェ! このコロッセオはすべて俺様の『射程圏内』だと豪語しております、ジャック・ハート選手! 中指おったてて、舌を出し、満を持しての登場だ!! 魍魎夜界の退魔師見参! 今日の呪符は何を屠るのか? 悪鬼を貫く鉄の串を手に、妖精眼は何を見つめる! 先生、後で疲労回復の鍼治療をお願いします! 百田十三、今、ゆっくりと入場です! 今日は悪ノリすると宣言して参りました、虎部選手! その言葉通り、チェンソーにホッケーマスク。向かう先は……あれは氷の彫刻か!? チェンソーが決まった! 氷の彫像がまっぷたぁつだァッ!! 「っしゃぁぁあ! コイヤァァ!!」 悪役パフォーマンスも好調に、虎部 隆。拳をあげてのパフォーマンスだ!! その身ひとつが、一丁の銃! 怜悧な視線はこの熱気の中にあってクールそのもの! 魔法とその血が、今夜はこの闘技場を狂わせる! ハクア・クロスフォード。腕に包帯を巻いて、白き戦士の参上です! 舞台で踊った船乗り少女、本来の姿はご覧の通り。太鼓のリズムを従えて、炎をまとって踊るは艶やかな竜人! 気合いも気迫も全開で行くぜ! 心配するなおにーちゃん! 紅蓮の踊り子、レク・ラヴィーン参上ッ! 曰く、歩く大胸筋! 曰く、背筋ナイアガラ! 曰く、悪夢の冥土頭! 一度見たら忘れられない、彼こそが噂のガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード。なんと『かめさん縛り』で棺桶に入り、メイド隊に引っ張られての登場です! !? 中央でメイド隊が停止しました。棺桶が置き去りです。何を、一体何をするつもりでしょうか。 ……棺桶が爆破したァァ!? ご覧ください。なんというパフォーマンス! 傷一つないテカテカの筋肉とともに、爆炎の中から現れた彼の雄叫びが、絶句中の客席を覆いつくします!! 優しげな風貌に柔和な表情、痩身ひとつが飄々と『ザ・サムライ』雪峰時光、ただ今、出陣!! 携えたブシドー・ブレードの銘は風斬。此度の彼の戦(イクサ)はどのようなものなのでしょうか!? ちょっと待て作家ァ!!? 事前情報では武術を修めているとの事ですが屈強の戦士に混じると一際、文系の風貌が異彩を放つ! クアール・ディクローズ。見た目通りの実力ではないということか! 彼を迎えるのは当然、仲間の……いや、なんと壇上で迎えたのはファーヴニール氏だ!! いつもの仲間ではなくファーヴニール氏に迎えられての入場です。彼らの間で何があったのか? これは今後の展開に目が離せません!! 青龍偃月刀が今宵も唸…… 「無用! 名乗りは自分であげるのが礼儀だ。俺こそ珂沙の白虎・阮亮道(ルァン・リャンタオ)だ。腕に覚えがあるならば、お相手願おう!」 おおっと、自らあげた名乗り口上! 決めたポーズは京劇の一幕のようだ! 申し訳ありません、一応仕事ですのでご紹介します! 阮選手です! 魔力のグローブ【闇霧】を両手にはめて、龍人、飛天 鴉刃。ただいま入場! 真っ向から挑むことのない暗殺者の秘儀の数々、今夜はこのコロッセオを舞台に大暴れしてくれるのでしょうか!? トラベルギアはなんと鞘! その名も【仰ぎ御影】を腰に帯び、斬った存在、数知れず! 忍者、人斬り、殺し屋、用心棒、傭兵、そして剣客! すべてはその一閃のために、すべては「斬る」という一瞬のために。誰が呼んだか「人斬り雀」参上! 百獣王の咆哮が闘技場を揺らすぅぅ!! 頭上に獣王の証たる「レグルスの王冠」を戴いて、黒き鬣が熱気に靡く! 獣の王こそ、最強の称号! アレクサンダー・アレクサンドロス・ライオンハート! 「オオオオオオオオ!!!!!!」 猛烈な咆哮を放って、今、見参ですッ!! 「獣王」の座は獅子(アレクサンドロス)のモノだと誰が決めた!? 草原に獅子が君臨するのならば、雪の密林に君臨するのは、アムール虎のグランディア! なんと決勝でアレクサンドロス選手を屠ると宣言しております! 流転肆廻闘輪の大将戦。多くのロストナンバーを熱狂させた名勝負の立役者ァ! その名を聞いて震える雑魚に用はない。首を狙う猛者を待つ。命知らずどもよ、さぁ、かかってくるがいい! 『技芸の総合商社』ロウ・ユエ選手。今、静かに登場です! 愛嬌のある顔に騙されて、ただの猫だと侮るな!! 今宵も僕は血に飢えているッ! 『銀毛の幻術師』アルド・ヴェルクアベル。濃霧のスモークの中を、今、ゆっくりと入場してまいります! お聞きください、この万雷の拍手を! ご覧ください、この戦士達の顔ぶれを! 広いコロッセオに渦巻く熱狂、この本郷 幸吉郎、実況レポーターとして彼らを紹介できた幸運、アナウンサー冥利に尽きると、全身全霊で感動していますッッッ!!! まもなく、……まもなく、激戦の火蓋が切って落とされようとしております! 第一試合はコマーシャルのすぐ後、チャンネルはそのままでッ!!
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