――くしゅん。 ――失礼。物語はアリッサのノートにメールが届いた所から始まる。1. ---あ、うん。 ---おっけー! すぐ行くね。 ---ん? あと三時間くらい? いいわ、今から行って待ってる! トラベラーズノートにペンを走らせて返信し、アリッサは笑顔で立ち上がった。「ねえ、甘露丸が試作品を作るんだって! 食べに行こう。見に行こう!」 天候的な意味では朝も夜もない0世界でも、時計があるからには午睡を貪る者も多い。怠惰は大抵の生物に共通の美徳だ。 それが他人の執務室であろうと、関係なくソファに寝転がって寝息を立てているのがウサギ獣人のブラン。 白い毛皮に覆われた赤くて大きな瞳を細長く閉じ、ひゅーと吐く吐息が自身の髭を揺らしていた。 そんなブランを横目に、アリッサの誘いに返事を返したのはアリオである。「あ、マジで? 今度は何作ったんだ?」「うんとね、クッキーなんだって。でも、ヴォロスで採れた特製の小麦粉とモフトピアのあま~い雲のお砂糖をたっぷり使った特製クッキーなの! 今度、ターミナルで出してみたいなって思って甘露丸に試作してもらったの。材料がとっても貴重だから、量産はできないんだよ」「量産できないのに何で試作を?」「あはは、そういうこともあるよね」「……食べたかっただけだな?」 にやり、と 笑うアリオ。 えへへ、と はにかむアリッサ。 計算ドリルと格闘していたエミリエはいつの間にか顔をあげ、「もちろん連れて行ってくれるんでしょ?」と、きらきらした瞳で二人を見つめている。 そんなエミリエに頷いて、アリッサはブランの肩を揺すり起こした。2. 世界図書館から少し歩いた所に石造りの小屋がある。 道案内のアリッサによると、甘露丸が石釜を試したい時に使う小屋だという。 誘われるままにターミナルの路地を進むと、やがてアリッサが前方を指差した。 指差す先には、重厚な石造りの小屋。屋根の煙突から僅かに煙が立ち上っており、香ばしい小麦粉の焼けるにおいがふわりと路地裏に広がっていた。 アリッサは小屋の前に立つと懐から鍵を取り出す。『石釜小屋』と描いた青いプレートを揺らし、彼女はドアノブに鍵を差し込んで回した。 かちゃりと開錠音がしたことを確認して、彼女は扉を押す。 石の壁に囲まれた木の扉がぎぎぎと音を立てて開くと、周辺の香ばしくて甘い香りを凝縮しまくったかのような濃密な空気が四人を出迎えた。 香りの発生源である石窯の前では、シェフである彼にしては珍しく作業着を真っ黒に煤けさせた姿で甘露丸がこちらに手を振っている。「おお。お嬢か、よく来たのう。それにそちら、たまたま底に居合わせたのが幸運よな。クッキーという菓子はわしも幾度となく嗜んできたが、今宵のものは過去に幾つも例がないほどの傑作じゃ。さあ、存分に堪能せい。……とは言うても、もうしばらく待ちや。今、焼けたのは石窯の火を見るためのものじゃ。ターミナルで手に入る上物の材料であることは間違いないがの。今から本番の焼成に入るがその前に石窯の灰を片付けねばならぬ。生地も寝かせねばならんし、できあがるまでは三時間ほどかかるゆえ、今のうちなら試作品をつまんでも良いぞ?」「お、うめぇ」「言うておる間に手を伸ばすか。行儀が悪いぞ、アリオ」 苦笑を浮かべる甘露丸が差し出した盆の上から、エミリエとアリッサがひとつずつクッキーをつまむ。 最初の一口はかりっと心地良く、歯ざわりはさくさくと気持ちよく、やがて口の中でふわりと溶けて舌に喉に歯に頬にと上品な甘さを残して喉に消える。 これでもまだ「普通の一品」というからには、この次に石窯が開く時にはどれほどの一品が出てくるのだろうか。 二つ目のクッキーに手を伸ばすブランを見ながら、アリッサもエミリエもアリオも早く時間が経ってくれと心から念じていた。 アリオも二つ目をいただこうと手を伸ばすが、甘露丸にひょいとお盆を上にあげられてしまう。 文字通り、お預けをくらった子供のような表情のアリオに甘露丸は微笑んで見せた。「これはこれで立派に焼けたのじゃ。焼きたてもよいが、本番にはさらに細工をするゆえ、ここまででガマンしてくれい」「えー、残念。仕方ない。それまでゆっくり待つかぁ」3.「ねぇねぇ、せっかくだから色々とお菓子持ってきてティーパーティにしようよ!」 そう言い出したのはエミリエだった。 試作品が一同の賞賛を受けた事に気を良くした甘露丸は、さらに気合をいれて本命のクッキー生地を焼成すると宣言して石窯の前に陣取っている。 時間がもったいないので、今のうちに紅茶やミルク、ハチミツのかかったホットケーキなどの準備をしておき、三時間後に登場する極上のクッキーをメインにすえて一緒に楽しもうというのだ。 焼き上がってから甘露丸に準備をさせるのは忍びないし、焼きあがった後に準備する時間を待てるわけがないので先に準備しておこうという申し出に誰からも異論は出なかった。「まずはパーティの準備からだね。この小屋の隣にちっさな倉庫があるから、そこにテーブルクロスとか食器があるんじゃないかな?」「じゃあ、エミリエも取りに行ってくるね。ほら、男の子! 一緒に来るの!」「待って。倉庫の鍵は……あ、これね」 アリッサがパスホルダーから鍵を取り出す。絡まって出てきたのは青いプレートのついた鍵と黄色いプレートのついた鍵。 青いプレートのついた鍵は、先ほどアリッサのかけたこの石釜小屋のもの。 どちらも鍵、そして鍵の穴に金属式の二重リングがついている。 そういえば甘露丸に鍵を貰ったとき、ややこしいからと目印のプレート、5cm程度の手のひらサイズの大きさのタグをウィリアムに取り付けてもらったのだ。 決して難しくない作業なのに、大きな手のウィリアムには困難だったらしく結局アリッサがやることになったのを思い出して、アリッサは微かに微笑む。 その隣にある鍵には同じつくりのキーホルダーに黄色いプレートがついており、こちらには「倉庫」と書かれていた。 アリッサが黄色のプレートがついた鍵をエミリエに差し出すと、エミリエはにこりと微笑んで手に取り、元気に外へと駆け出していく。「ほら、ブランもアリオも」と、アリッサ。 急かされつつも、伸びを楽しんだブランが外に出る頃には、エミリエはもう倉庫の前にいてガチャガチャと鍵を回していた。 倉庫に一歩入ると左右の壁に沿って天井まである大きな棚が備え付けられ圧迫感を受ける。 エミリエが左右に腕を広げるだけで両手がついてしまうくらいの狭い小屋にも関わらず、 大量の金銀の食器や真っ白なテーブルクロス、クリスタルのようなコップに可愛いお皿といった小物が整然と並べられていた。「隣の小屋もこの倉庫も、ドードーが管理してる所なんだよ。だからすっごい綺麗なんだよね」「うう、俺の部屋とすごい違いだ……」 呆気に取られるアリオをよそにエミリエがテキパキと指示を出し、ブランはその荷物を抱え込む。「これと、あれとー。あ。薪だ。いるかな?」「いらないんじゃね? っつーか、これ以上は無理! 無理だから!」 アリオが薪を取り出そうとするエミリエを必死で止める。「えー、そう?」と小首をかしげたエミリエが、今度は銀の彫像に興味を示し始め、アリオは再び説得に全神経を集中させた。4. やがて、背中と腰と両肩両手に荷物を抱えさせられたブランとアリオが倉庫から現れる。 結局、薪を持たされたせいで必要以上によろよろと石窯小屋に辿りついた二人は荷物を床におろし、扉に手をかけるが力をこめても頑として開かない。「あれ、鍵がかかってるぞ?」「何だと!?」 大量の荷物を持った状態で扉があかない。そんな状況に絶望したブランが天を仰ぐ。 その甲斐があったかなかったか、運命の女神だかチャイ=ブレだかの救いはすぐさま訪れた。「あ、おーい。アリオ。ブラン。こっちよ」 アリッサの声がする。 声のする方を探し、ブランが耳をピンとそばだてる。 あちらだ、というブランの耳が差す方向を見ると、アリッサが石窯小屋の裏庭で手をふっていた。 小屋の中の作業机ではなく、小屋の裏庭にビニールシートを広げてピクニック気分にしよう! と言う申し出である。 ステキな申し出には違いないが、この荷物をあそこまで運ぶのかとげんなりしつつ男のプライドにかけて二人は再度、荷物を持ち上げた。「お、重いっ!」「しょうがないなー。あ、薪はここに置いといていいよ」 重量級の薪を置いてなお、全身にずしんッッッとのしかかる重力地獄があと数十メートル続くコトを悟り、アリオは落ちている肩をさらに落とし、ブランにいたっては耳をぺったりと顔の横にたらして、ひぃひぃ呻きながら裏庭へと運ぶ。 だがしかし、小屋の裏庭は確かに花壇の手入れが行き届き、小さな芝生になっていてピクニックには最適といえる絶好の場所でる。 それだけで労力は報われたとアリオが呟いた。 その芝生の上にビニールシートを広げ、ちょこんと座したアリッサが重労働に身を捧げた紳士二名を出迎える。「そろそろ甘露丸が出ててくる頃かな?」「ふふふ、待ちわびたぞ。というか疲れたぞ。ここはビ……いや、ワインと洒落込みたい所だが我輩も慎みのある貴族、レディにあわせて紅茶の香りを楽しむとしよう」「じゃあ甘露丸が石釜小屋から出てくるまでに紅茶を用意するよー!。頑張ってくれた二人のためにエミリエがいれてくるね。感謝してもいいよ! あ、お湯もらってくる。アリッサ。石窯小屋の鍵貸して」「ええ。お願いね」 アリッサから鍵を受け取ったエミリエが石窯小屋へと戻り、それから十分ほどでお湯のわいたヤカンとティーポットを手に戻ってきた。 エミリエからやかんを受け取ったアリッサは、まず、カップにお湯を注いで暖める。 次に包みを開いてティーポットに茶葉をすくいいれる。 ここにいる四人と甘露丸の五人分だから、ティースプーンに五杯。 そして、紅茶の天使へのお礼としてもう一杯。 合計でティースプーン六杯分の茶葉が入ったティーポットに勢い良くお湯を注ぎいれ、対流で茶葉を躍らせる。 後は分厚い布でティーポットごと覆い、茶葉が開くまで慌てず焦らず笑顔で待つだけ。 程なく、アリッサが「いい香りね」と微笑み、館長自ら参加者に紅茶を振舞うのだった。「はい、紅茶。ねぇ、エミリエ。甘露丸はどうだった?」「なんかね、薪の組み方にコツがあるんだって言って窯の中に入ってたよ。汗と煤だくになってたから、出てきたら紅茶の前にシャワーの方がいいかも」 ティーカップを傾けつつ、エミリエが小屋の方を見やる。この裏庭からだと小屋の入り口も窓の中も覗きこめる角度ではない。。 せっかく淹れた紅茶だが、甘露丸が職人の顔になってしまったら休憩しに来るとは限らない。 アリッサは早々にティーポットから水筒へと紅茶を移して蓋をする。 茶葉のえぐ味が出ないように切り上げ、香気を逃がさないように、酸化しないように、空気に触れないように密閉するのだ。「アリッサ。鍵、返すね。倉庫のも。この石窯小屋の鍵。なかなか開かなかったよ。壊れてるんじゃない?」「え? そんなはずはないんだけど。後でウィリアムに聞いてみるね」 二つの鍵を受け取ったアリッサは青いプレートに「要確認」と書くと、二つの鍵がトラベルパスの中で絡まないよう慎重に片付けた。5. 結局、甘露丸が石釜小屋から出てくるまで二時間を擁した。 エミリエの報告した通り、汗まみれ、煤まみれで白い肌も黒く染まっている。「ふぅ、ようやく完成じゃ」「クッキーが?」「バカを言え、薪の組み方じゃ。自然に燃え上がり、燃え尽きた頃、クッキーが最高の焼き上がりとなるぞ」「ううう、まだ待つのか」 朗らかに笑う甘露丸と、肩を落とすアリオ。「はっはっはっ、どれだけ料理を極めようと、空腹という調味料には勝てぬものじゃ、のんびり待つがよかろ。焼きあがるまで湯浴みをしてくるでな。お嬢を頼むぞ」 アリオの頭をぽんぽんと叩き、甘露丸は世界図書館の方へと歩いて行く。 頼まれてもな、とアリオが振り返れば、アリッサはエミリエと鼻歌交じりにシロツメクサで花輪を作って遊んでいるし、ブランは芝生の上でごろりと横になり、寝息を立てていた。 甘露丸がシャワーから戻るまでは他にやることもなく、アリオはトラベラーズノートを開き、適当な相手にエアメールを飛ばし始める。 そのまま十分がたち、三十分がたち、そろそろ一時間が過ぎようかと言う頃、アリッサとアリオのお腹が同時にぐぅ、と鳴った。 続けとばかりにエミリエのお腹でもぐぅぅ。 甘露丸は未だにシャワーから戻ってこない。「アリッサぁぁぁ、エミリエ、お腹がすいたよう」「そうね。そろそろ甘露丸がシャワーから戻ってきてもいいんだけど」「甘露丸の言ってたことからすると、もうそろそろ焼きあがっててもおかしくないよね。煙突からこんないい香りがしたらたまらないよー。あ、ブランなんかずーっと寝てたよ。そうだ、毛布かけてあげよう! ブランにブランケット! ゆっくり眠れるようにあったかくして後2、3時間は静かに寝かせてあげよっ?」 この幼女、イタズラを思いついた時の目をしていた。 アリッサもその目は見慣れたもので。「こら、そんな事しちゃかわいそうでしょ。毛布なら倉庫にあるわよ」 と、エミリエに黄色いプレートのついた鍵を渡す。 にやり。 エミリエは一目散に駆け出していった。 ――諸君、お待たせした。お菓子を楽しみにする館長たちの姿だったが、あまりの平和な光景に辟易していたら申し訳なかった。 ――さて、ここで、ようやく事件がはじまる。 ――くしゅん。6. やがて、予定より少し遅れてシャワーから戻ってきた甘露丸が裏庭で思い思いに時間を潰している四人に声をかける。 石窯をあけた時の素晴らしいクッキーの香りはいかがかな? という彼の提案に賛同し、寝ていたブランが起こされて四人と甘露丸は石窯小屋へ向かう。 アリッサがトラベルパスから青いプレートの鍵を出してドアノブに差し込みひねった時、彼女の表情が怪訝なものになった。「あれ、あかない」「ああ。やっぱり? 倉庫もここも鍵が開けにくいよね。甘露丸の鍵だとどう?」「ほう、やってみようか」 エミリエに促され、甘露丸は自分の首にかけた鍵を取り出した。 そのピンク髪の幼女はというと扉の下の方に手をあててぐっと力をいれて扉を押す。「このあたりを押すと開けやすかったよ、やってみて」 差し込んだ鍵を回すかちゃりと小さな音がする。と、同時に、扉を押していたエミリエが扉ごと中へと転がった。「いったぁぁぁい!! えええ、もっと開けにくかったのに」「うん!?」 妙な声をあげたのは甘露丸である。「おかしいの。部屋がこれほど暑いはずはないのじゃが」 暖房がキツすぎる。いや、石窯自体の温度が異様に上昇し、部屋の中まで真夏のような温度にあげているのだ。 甘露丸は急いで石窯をあける。むわっとむせ返る熱気が彼の顔をあぶった時、甘露丸は「おかしい」と確信した。 予定ではすでに燃え尽きて灰になっているはずの薪は、まだ窯の方々で練炭のように灼熱している。中にはまだオレンジ色の炎をあげている薪すらあった。 石窯の内部は彼の予想よりもはるかな高温に、しかも予想より長い時間、さらされていたのだ。 結果として、窯の中ではシルバープレートの上にある極上のクッキーになるはずだった材料が真っ黒にくすんでいた。「な、なんということじゃ。わしともあろうものが薪を組むのを失敗してしまうとは……」 頭に手をあて、甘露丸は石窯の前で崩れ落ちる。 深いため息をついても、シルバープレートの上にあるクッキー生地は真っ黒な炭と化していた。 諦めきれず一口かじるが、ほのかな甘味と僅かな小麦粉の香り、そして強烈な炭の味。「あの材料はなかなかそろえられぬ。残念じゃが次の機会まで待つしかなかろうの」「そんなぁ、楽しみにしてたのに」 アリオが「あんまりだぁ」と力なく呟いて天井を仰いだ。「うっわぁ、見事に炭だね」 エミリエが黒い塊を一口かじって、ぺっぺっと吐き出す。 彼女の感想は甘露丸と似たり寄ったりで、食べられたものではないということだ。 焼け付いたのはクッキーのみ。「悲しんでおっても仕方ない。先ほどの試作品のクッキーでいかがか?」「そうね、甘露丸のクッキーならそれだけで充分、極上だもの。さっきのクッキー、どこにいったっけ?」「……ああああ、あのクッキー、窯の上に置いてたよ! ほら、、、あああ、真っ黒ぉぉ!?」 エミリエの指差したところにクッキーを乗せたシルバープレートがあった。 が、そのシルバープレートの上にあるのは木炭に近いただの炭。 それまでに用意していたホットケーキやミルクは無事だし、紅茶を淹れるのも時間がかからないということで、急遽、主役の極上クッキー不在のままささやかなティーパーティが開かれ、珍しい甘露丸の失敗姿が見られたということで、早々にお開きになった。7.「―――と、ここまでが経緯だ」 椅子に腰掛けて足を組み、ブランはゆっくりと首を振った。 ふくふくと髭が風にゆれている。「要するにお菓子作りを失敗した。原因は火加減……薪の量が一束ほど多かっただけらしい。何もおかしな所はない。 だが、失敗したのは甘露丸だ。これで途端に妖しくなる。我輩の知る限り、彼はそのような失敗をする料理人ではない」 これはクッキー消失事件なのだ。 ブランがきっぱりとした口調で断言する。「そこで我輩は、くしゅん、――失礼。もちろん我輩は答えを分かっているが、貴殿らと犯人の答え合わせがしたくてな。 どうだろう、何かわかることはないか? そうだな、事実関係を少し捕捉しておこう。 ――基本的に石窯小屋は鍵がかかっている。これは甘露丸の決めたルールで、高温になる石窯があるため、危険だという理由だ。 ――石窯小屋の鍵をかけたのはアリッサだ。我輩達が荷物を運んでいた間に鍵をかけ、そのまま裏庭に向かった。 ――その石窯小屋の鍵があいたのは物語にあったとおりだ。最初に向かう時はアリッサが持っていた。エミリエが石窯小屋に行った時は甘露丸が石窯の前にいた。 ――石窯小屋の鍵は二つ。ひとつは話の途中でアリッサが持っていたもの。もう一つは甘露丸が持っていたが首からネックレスのようにかけており肌身離さない。 わかることはそれだけだ。 いや、もちろん、我輩には犯人も分かっているし、トリックも理解できている。 ――くしゅん。 すまない、少々風邪をひいてしまったようだ。 エミリエが本当に毛布をかけてくれていたなら風邪など引かずともすんだかも知れないな。 いや、失礼。エミリエは我輩のために毛布を取りに倉庫へいったのだが、どうやらあの小屋と倉庫は鍵が悪くなっているらしく、エミリエ一人では倉庫の鍵があかなかったそうなのだ。 すまないが、くしゃみがたまに出てくることは勘弁願いたい。 おっと、それは蛇足であったな。 さて、貴殿らはこの物語をどう思う? 繰り返すが、もちろん我輩は誰がどうやったかなど承知の上だ。 ほらアレだ。貴殿らが妙な先入観を抱かぬように控えているだけで、本当は知らないとかそういうことはまったくないので、安心して考えを聞かせてくれ」 そう言って。 くしゅん、とブランは何度目かのくしゃみをした。
1) ブランの話を聞き終えて、少女二人は「ふぅん」と顔を見合わせた。 明らかに派手にカラフルな方がサンタ見習いのミルカ、12歳。 明らかに地味におっとりしてる方が古書店バイトの昴、16歳。 うさぎ紳士の優雅なティータイムに付き合う二人の少女は運ばれてきた紅茶に口をつける。 「話をする前に、ブランさんの推理も聞きたいな。わたしの考えが間違っているかもしれないから」 「むむ……!」 ね? と昴は柔らかな笑みを浮かべる。 眠たそうな瞳の奥に真意を読み取るのは難しい。 「ブランさん、犯人はだれだと思う? その名前は?」 「ふふふ、そ、その手には乗らんぞ。レディ。我輩はすでに犯人を特定しているのだ。その手段も動機も逃走経路も把握済みだ」 「……逃走経路?」 昴の顔が少しだけ曇る。 「それじゃあやっぱり、わたしの推理はまちがっているかも。ブランさん、おはなしを聞かせてほしいな。そうだ、わたしたちの推理をきいたあとでもいいから……。そうだね、このメモに犯人と動機と、その逃走経路を書いておいてくれるかな?」 昴から受け取ったメモを見つめ、笑顔のままブランの動きが固まる。 静かな笑顔の圧力にうさぎ紳士は言葉を失った。 ――くしゅん。 「……おっと、失礼。レディ、我輩はそろそろ限界のようだ。おお、この風邪さえ治れば、熱さえ引けば、喉のイガイガさえなくば、存分に我輩の推理をお聞かせする事ができるのだが、いやはや、風邪ではしかたがない。それではレディ、我輩はこれで失礼する。おお、もちろん、犯人はわかっているとも。後で我輩の部屋に来るがいい」 脱兎のごとく。 本人は余裕たっぷりに言ったつもりだったのだろうが、手荷物をまとめて逃げ出す様は、容姿を含めて脱兎と言うに相応しかった。 「あれ、……そうなんだ。ブランさん、そんなにひどいんだね」 ブランの逃げ去った扉を見ながら、手元の紅茶を一口。 「それが天然なのか計算ずくなのか、どちらにしても恐ろしいと思います」 逃げたブランと、その彼を真っ直ぐに見つめていた昴。 その二人のやりとりに。もとい昴の穏やかな追い込みにミルカがぼそりと呟いた。 「あ、おかえりなさい」 いつのまにか戻ってきていたミルカの隣にはピンクの髪の少女。勿論、エミリエである。奥のテーブルから手をひいてきたのだ。 昴のほわん、とした笑顔が向けられる。 「ただいまです、と言っても隣のテーブルに言っていただけですけどね。ブランさんは帰っちゃったみたいですし、代わりにエミリエさんに話を聞いてもらいましょうか」 「うん、そうだね。じゃあ、エミリエちゃん。ブランさんがたのんだ紅茶とおかしだけど、ブランさんは飲むまえにかえっちゃったからかわりにどうぞ」 ミルカに椅子を勧められ、昴にお茶とお菓子を勧められ、エミリエは席に着く。 「わーい、ありがとう。そうだ、この店の名物のチキン南蛮なんだけどね」 「それじゃあ、さっき、ブランさんの言ってた事件を振り返ってみましょう!」 「えー、事件なんかもういいよ! それより、去年から月刊ターミナルが発刊されないよね。あれってきっと陰謀が……」 喋りまくるエミリエを置いて、昴はカンテラに火を灯した。 明るいカフェでは炎の揺らめきが形作る影は濃くないが、影絵を操って現場の映像をテーブルクロスに抜き取ることはできる。 ゆらゆらと動いていた影はやがて、今回の事件の舞台、石窯小屋とその近くの地図――のシルエットを描き出した。 2) 昴の映し出した影絵地図を指差し、口火を切ったのはミルカ。 「まずアリッサさんの持っていた青いプレートの鍵、これは石窯小屋の鍵です。最初にこの石窯小屋を訪れた時、アリッサさんは青いプレートの鍵で小屋を開けています」 彼女はそういいながら手元のナプキンにペンで青の丸と「青」の文字を、さらにもうひとつ別のナプキンに黄色の丸と「黄」の文字を描く。 二つのナプキンに手近なところにあったナイフとフォークを乗せる。 青はナイフ――石窯小屋の鍵 黄色はフォーク――倉庫の鍵 ミルカは二枚のナプキンとナイフおよびフォークを昴の前へと差し出した。 「この時点では二本の鍵はアリッサさんが保管していました」 「うん、ここでだいじなのは青いプレートは使えた。っていうことだね」 「はい! そういうわけで次のフェイズです」 「ふぇいず……?」 3) 「ここで犯人をEさんとしましょう。ええ、もちろん、アルファベットに他意はありませんよ」 げふっ、ごふっ。 露骨に紅茶で蒸せるエミリエ。 「Eさんの使ったトリックは、鍵のすり替え、ですね。アリッサさんがプレートを付けて区別していたほど、二つの鍵は似ていた。つまり、プレートを入れ替えてしまってはどちらの鍵か分からない。そこで、最初にEさんは倉庫に行く理由を付けて、黄色のプレートの鍵を手に入れます。ではやってみましょう。まず、最初に石窯小屋の鍵には青いプレートが、倉庫の鍵には黄色のプレートがついていました」 ミルカは黄色いナプキンとフォークを、昴の手元からエミリエの前に寄せた。 「じっさいに、ここでEちゃんは鍵を持って倉庫に中にはいってる。だから、まだ黄色のプレートについた鍵は倉庫のかぎ、だよね」 フォークを手にした昴は影絵の「倉庫」に手を伸ばす。 フォークが影絵の「倉庫」に触れると、ぎぎぎ、と扉が開いた。 「そこで薪をアリオさんやブランさんに運ばせたのはEさんです」 「Eちゃんだね」 凍りついた笑顔で紅茶をポットごとお代わりしてはがぶがぶ飲み続けるエミリエ。 「で、でも、薪はあの時必要かなーって思って。ね? 甘露丸が使うかも知れなかったし」 「うん。このときに計画はできていた。……か、どうか、わたしにはわからないけれど。ここでのキーワードは「薪」だね」 「それでは、次のフェイズです!」 4) 「ポイントはこのフェイズです」 「……ふぇいず?」 昴がきょとんとした顔で首を傾げる。 エミリエはといえば、飲んだ紅茶が額からだらだら流れているかのように汗だくになっていた。 「ここでアリッサちゃんは紅茶をいれてるんだ。この紅茶のお湯は石窯小屋からもってきたものだよ」 「そして、何食わぬ顔でアリッサちゃんに一度返して、ブランさんに毛布を掛ける為にもう一度倉庫の鍵を借りる」 昴が自分の手元にあった「青」と書かれたナプキンとナイフをエミリエの前に差し出した。 これで、青のナプキンとナイフも、黄色のナプキンとフォークも、エミリエの手元にある。 「Eちゃんがお湯をもらいにいったとき、倉庫と石窯小屋のふたつの鍵は彼女の手にあったよね。その時に青と黄のプレートをつけかえちゃったんだ」 昴が「青」のナプキンの上のナイフを持ち上げる。もう片方からミルカの手が伸びて「黄色」のナプキンの上のフォークを取り上げた。 「このプレートはね。じぶんでつけかえられるんだ。ブランさんはこう言ってたよ『ウィリアムさんがやろうとして大きな手だったから大変、結局、アリッサちゃんがやることになった』って。だから、プレートをつけかえるのは、ウィリアムさんの手だと大きいからやりにくいけれどアリッサちゃんがすぐにできるくらい簡単なつくり」 二人の手が交差し、エミリエの前でナイフとフォークの場所が入れ替わった。 これで「青」のナプキンの上にはフォークが、「黄色」のナプキンの上にはナイフが置かれることになる。 昴の言葉を今度はミルカが受けついだ。 「ここで一度、二つの鍵はアリッサさんのところに戻ります」 エミリエの前の二つのナプキン、そしてその上のナイフとフォークはミルカの手によって、エミリエの所から昴の前へと移動する。 「Eさんはアリッサさんに返す時にこう言います。『石窯小屋の鍵が壊れていて、なかなか開けられなかった』と」 「だけど、あけることはできるんだよね。どうしてかな?」 「……本当は壊れていたのではなくすり替えられていたのです」 ミルカがどこかを向いてびしっとポーズを決める。 「Eさんはこの時、石窯小屋の鍵も倉庫の鍵も持っていました。だから二つの鍵を取り替えても、石窯小屋に入ってお湯を取ってくることができます」 「じゃあ、どうしてそんなことをいったのかな?」 「ええ、それは!」 ミルカの目配せに、昴は小さく頷いた。 「次のフェイズ、だね?」 「……はい!」 5) 「このフェイズでのキーワードはひとつだけです。はい、エミリエさん。何ですか?」 「……ぶ、ブランにブランケット!」 「それも捨てがたいんですが、昴さんは分かりますか?」 「うん。Eちゃんが倉庫の鍵。じゃなくて『「黄色」のプレートの鍵』をもちだしたことだね」 昴は手元にあった「黄色」と書いたナプキンとナイフをエミリエの前に差し出す。 「この時、こうしてすり替えに成功したEさんは、今度は倉庫にブランケットを取りに行くと言って黄色のプレート……本当は石窯小屋の鍵を手に入れたのです」 「うん。黄色のプレートのついた鍵、でもそれはすり替えておいた石窯小屋の鍵だから、その時に倉庫でなく小屋に行けばクッキーを盗むことができるね」 昴は黄色のナプキンの上にあったナイフで影絵の「石窯小屋」の扉をノックする。 すると、影絵の石窯小屋はかちゃりと扉が開いた。 続けて、同じナイフで影絵の倉庫をノックしても、身震いした倉庫の扉は開かない。 「ええ。だから、Eさんは倉庫に入れなかった。この時に石窯小屋の扉を開けて、クッキーを失敬した後……薪を多くくべたんです。ついでにクッキーの代わりに消し炭を置きました」 「で、でも薪って重いんだよ!」 エミリエがぼそっと呟いた。 「もしエミリエだったら、そんないっぱい薪を運べたりしないもん」 「増えていた薪は男の子達に小屋前まで運ばせた薪じゃないかな? Eちゃんだけじゃ、倉庫から小屋へ運べるタイミングがないんだ」 「そうそう、薪を持っていくことを提案したのもEさんでした。フェイズ3で出てきた薪ですね」 「うっ……」 6) 「さて、このフェイズでアリッサさん達が石窯小屋に入……ろうとして、失敗しました」 「鍵があかなかったんだね」 「ここで犯人のEさんは小芝居を打ちます。ドアの一部を押すのがコツ、本当はそんなコツはなかったんです」 「そうだね。アリッサちゃんが小屋を開けられなかったのは、その時の鍵が倉庫のものだったから。Eちゃんはそれを扉の建てつけが悪いってごまかしたんだ。でも……」 ―― 昴は「青」と書かれたナプキンの上のフォークを手にとって、影絵の石窯小屋をノックする。 ―― 影絵の小屋の扉は、何度も揺れるが開くことはない。 「この鍵だと開かない。でも、実際はすぐにひらいたよね。これは甘露丸さんの鍵を使ったからで、Eちゃんのコツは関係ないんだよ」 「ここで事件が発覚します。現場検証はあまり行われませんでしたが、断片的な話からも違和感はあります」 「よくかんがえると不自然なことがあるんだ。たしかに部屋の温度は高いけど、窯の上、お盆の上にあった試作品のクッキーまでまっくろになっているのは変だよね」 甘露丸が薪の組み換えに失敗していたことも、多少温度があがっていたにしてもクッキーはすぐに消し済みになるだろうか? ましてや、窯の外にあるクッキーまで炭化するだろうか? 7) ふぅ、と一息。 「クッキーはすり替えられた。鍵とクッキーの二つのすり替えが今回の事件のこたえだね。ブランさんが風邪を引いちゃったのも、倉庫の鍵を持ってなくて毛布をもってきようがなかったからだとおもうよ」 「毛布を持っていけてたら、持って行ったのかって言う疑問もありますけどね」 「Eちゃんはいい子だから、きっとブランさんにかけてあげてたよ」 昴は穏やかに微笑む。 「うっ……」 ▼すばるはエミリエのハートに3のダメージをあたえた。 「そうですね。それに、こうして様子を見に来ているんですからきっと内心、良心の呵責があるんでしょう」 「ううっ……」 ▼ミルカはエミリエのハートに7のダメージをあたえた。 エミリエは机につっぷしてうごかなくなった。 昴とミルカの一言、一言に、何かが刺さってでもいるかのようにエミリエが呻く。 やがて、三人が口を閉ざす。 喧騒の店内で、このテーブルだけティーカップとソーサーが触れ合う小さな音のみが音を出していた。 「ねぇ、エミリエちゃん。今回の事件、ちょっと迷惑かけたひとがおおいよね」 昴が口火を切ると、ミルカがそれに追従した。 「アリッサさんやアリオさんはクッキーを食べられなかったし、ブランさんは加えて風邪もひいてしまった。甘露丸さんはきちんと作業したのに失敗してしまった」 ついでにドードーは存在を忘れられていた。 「エミリエさん、今回の犯人ってすごく”悪い子”だなぁってわたし思うんです。きっとそんな子のところにはサンタさんも来ないんじゃないかなって。エミリエさんはどう思います?」 「サンタクロースなんていないもん」 「いますよ?」 「あんなの壱番世界の御伽噺だもん」 「壱番世界にいないから、どこにもいないんですか? ドラゴンもマーメイドも壱番世界では見たことがありませんけど」 「0世界にもいないもん」 「……ここで『私がサンタです』っていえたらかっこいいかも知れませんけど、あいにく見習いです。すみません。……でも」 エミリエの頭にミルカの手が乗せられた。 「サンタクロースがプレゼントをくれなくても、今回の事件で悪いことをしたなぁって思ったから、ここでブランさんを見てたんでしょう? そんないい子だったら、ちゃんとゴメンンサイって言えますよね。悪戯をしてもちゃんとゴメンナサイっていえる子ならサンタさんはプレゼントをくれますよ。あ、そうだ! ……もし皆に謝りに行くんでしたら、わたしもお手伝いしますよ! わたしならぱっと行けますから!」 椅子から立ち上がり、ミルカの手はエミリエに差し出される。 「うー……」 一秒、二秒。 ミルカの手と地面を交互に見つめていたエミリエは、地面を見つめた状態でミルカの手を掴んだ。 「それじゃ、行ってきますね。じゃあ、最初は……」 「ブラン」 「分かりました。それじゃ……」 ミルカがエミリエに微笑みかけた時「まって」と昴が声をあげた。 「……アリッサちゃんのほうがいいとおもうな。ブランさんは最後にしよう?」 そう言ってチラチラと扉の影から見える白い耳に視線を送り、はにかむ。 「そうですか? それじゃ、アリッサさんの執務室……の、廊下に!」 昴が紅茶を置くより早く、ミルカとエミリエの姿は店内から消えた。 8) 「はっはっはっ、こういう事だったのか」 陽気な笑い声と共にブランがテーブルに腰掛ける。 どうやら店の外で店内のやりとりに長い聞き耳を立てていたらしい。 まだテーブルにはミルカとエミリエのカップが置かれたままだ。 もちろん、紳士としては淑女達の残り物に手をつけるなどもっての他なので、たとえテーブルに残っていたお菓子がすごく美味しそうでも我慢する。 兎耳をピクピク動かしていたブランを迎え入れたのは昴。 「やはり、我輩の睨んだ通り、犯人はイーだな」 「……あの、ブランさん? 犯人はもちろんエミリエちゃんだよね」 「そ、そそそ、そうだな」 長い耳をぴこぴこ震わせてブランは咳払いをひとつ。 「推理は苦手なんだ。本はたくさん読んできたけど、小説の探偵のようにはなれないなあ」 昴の読んできた古典小説の探偵は小さなきっかけから天才的な発想と想像力で真実を見抜く天才や、どれほど絶望的な状況においても真実の希求を諦めない努力家など、個性は違うものの用意された舞台で目一杯活躍していた猛者ばかりだ。 自分のように少しずつ真実を探っていた探偵はいただろうか。 いたにしても、もう少しスマートに解いていたかも知れない。 「でも、考えて話しあうの、楽しいね」 そう言って昴はカンテラのシャッターを下ろした。 「はーい、最後にブランさーん!! ……あれ? さっきの所ですね」 唐突にミルカが店内に降ってくる。 随伴していたエミリエは顔を伏せたまま涙目のようだ。 そんなエミリエの髪をくしゃっと撫でて昴は柔らかい笑顔を作る。 「今度はわたしがお菓子の材料取ってこようか。それで、またみんなでパーティしよう? もちろんエミリエちゃんも一緒に。みんなで食べるお菓子のほうが、独り占めするよりもおいしいと思うよ」 しばらくして。 こくり、とうなづいたエミリエの頭をミルカが優しく撫でていた。 「ところでブランさん」 昴がやわらかな笑顔のままで振り向く。 「何かね? レディ」 「さいごにひとつ、謎が残ってるんだ」 「ほう、何かね?」 「さっきいってた”逃走経路”だよ。まだ分からないんだ、おしえてほしいな」 「おおおおおおおおおおおおおおおおおお、た、大変だ。また熱がぶりかえしてきた。レディ、我輩としても懇切丁寧に分かりやすく説明したいところなのだが、この体調ではそうもいくまい。ふふふ、貴族たるもの無様な説明をするわけにもいかんしな! ここは涙を飲んでまた日を改め、ゆっくりと優雅に語らいの時を持とうではないか、ではさらばだっ!!!」 今度こそ、店を背に一目散で逃げていくブランだった。
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