ここで……こんな所で、自分は死んでしまうのだろうか――? 頭を過ぎる死の予感。 けれども、茫とした双眸を力なく瞑れば、胸を締め付ける程の鼓動が、頼りない意識の奥で響いて来る。駆け抜ける寒風と白雪に四肢の感覚が奪われていく中、ただそれだけで、自分は未だ生きているのだと辛うじて実感出来た。 声は疾うに枯れ果て、使い物にならない。尤も、助けを呼んでも無意味なのだと既に理解していたから、叫ぶことも喚くこともなかった。 嗚呼、呼吸することすらもどかしい。 重たい目蓋を再び持ち上げて、乳白色に濁った息が天へと昇る様を忌々しげに一瞥すると、少女は奥歯を噛み締めた。 どこまで行っても視界に入るのは、鬱蒼とした針葉樹と、木々の隙間から見え隠れする陰鬱な曇り空。その色調があまりにも今の心情にそっくりで、自嘲の念すら抱いてしまう。 足元に広がる純白の絨毯を、身の内から溢れる紅で汚す。それは差し詰め、季節外れに乱れ咲く艶やかな花のようであり、また血に飢えた獣を魅了するには十分過ぎる餌と成り得る代物でもある。 受け入れ難い現実は、確実に自我を蝕むもの。 そう遠くない未来、寒さと飢えと絶望で、心が折れてしまうであろう哀れな娘は、どこに向かえば良いのかすら分からず、けれども必死に歩き続けた。 最早、身も心も限界であった。「今回、皆さんにはヴォロスへ赴いて、新たなロストナンバーの保護をお願いしたいのです」 集ったロストナンバーらへ手短に礼を述べた後、リベル・セヴァンは落ち着いた声音で切り出した。 『導きの書』に視線を落とし、開かれたページを指先で軽くなぞる。そこには旅人達への道標が示されているはずであった。「保護対象となる人物は……漆黒の髪と紫の瞳を持つ、16、7歳程度の少女ですね」 一見、どこにでもいるようなごく普通の娘が、如何様にして覚醒し、ディアスポラ現象に巻き込まれたのかは不明であるが、「どうやら、彼女は怪我を負っている模様です」 リベルは涼やかな瞳を細めると、眉一つ動かすことなく、真実のみを告げた。「ヴォロスは現在、冬季に当たります。雪の降り積もる中、しかも負傷した体で森の中を彷徨っているようなのです」 女性司書の常と変わらぬ淡々とした口調が、寧ろ穏やかならざる事態であることに尚一層拍車を掛けているようにも聞こえる。「また、この辺りには最近、2匹の銀狼が棲息するようになりました。然程、深い森林ではありませんので、少女が狼らと遭遇する確率は決して低いものではありません。無論、その場合は最悪の結末を招くこととなるでしょう」 怪我と冷えにより、悪戯に体力を削られるか、獣の餌食となるか。何れにせよ、放って置けば消え行く生命である。0世界への速やかな移送が望まれる。「元々、森の奥には近隣の村人達が信仰する女神の祠が祭られているとのこと。しかし、この2匹のお陰でここ暫くは参拝出来ず、困っていらっしゃるようです。獲物の減少するこの季節、獰猛な彼らが食物を求めて、いつ村を襲わないとも限りませんしね。ですから、少女の保護と合わせて、銀狼達への対応もお願いします」 詰まりは、娘を守るだけでなく、村人達の安寧のためにも、狼との戦闘は確実に避けられないのだろう。「敵は身の丈2~3メートル程で、強力な噛み付きと、爪を主体とした攻撃を行います。一撃をも喰らえば麻痺毒を受けてしまいますし、2匹で連携して、相手を翻弄する素早い動きにもご注意下さい」 戦闘が長引いた場合、それだけこちらが不利になるは必然。迅速な戦法が求められる。「それと、彼らは非常に好戦的で、血の臭いや赤い色に反応するようです。例えば戦闘中、傷付いた者がいれば、その人物を執拗に狙って来ます。逆に言うなら、この特性を有効利用することも可能でしょうね」 言葉を噛み締めるように紡ぐリベルへ、何名かがゆっくりと頷く。「少女の命運は貴方方に掛かっているといっても過言ではありません。防寒対策もお忘れなく」 そう締め括って『導きの書』を閉じると、リベルは深く頭を下げるのであった。
◆渡る祈り 暗雲の貼り付いた空は低く、いつ降り出しても可笑しくはなかったが、幸いなことに未だ白雪は舞い散るに至っていない。 天の灰色に決して交わらない、見事なまでの鋭利な純白で閉ざされた世界は、嵐の前の静けさ。繊細であって、また荒々しいその光景を認めれば、本当に芽吹きの季節は訪れるのであろうかと疑ってしまう。 呼吸を繰り返す度、体内すらも凍ってしまいそうな程の厳しい冷気。それを頬に受けながら、ミア・リースは緑色の澄んだ双眸をトラベルギア【メッセージ・ブック】に落とした。必要なメッセージを齎す書物をはぐり、娘を探す手掛かりを求めたのだが、 『女神の支配侵すは、禁忌触れるものと心得よ』 と、結果は殆ど曖昧に近かった。記される内容は所有者が求めるものではなく、あくまで現状に於いての不可欠な情報に過ぎないのである。 「どうか、無事でいて……」 小さく唇を動かして紡ぐ祈りが、大気へと儚く溶ける。件の少女も、この地のどこかで同じ景色を瞳に映しているはずであった。 皆の心中を代弁するかのような願いは、璃空(りく)の耳にも微かに、しかし確りと届いていた。たった独り、見知らぬ世界に在る娘の不安は、果たして如何ばかりであろうか。心細さを思えばこそ、胸が痛む。 出来ることなら、今すぐにでも少女の捜索へと赴きたい。そんな気持ちを無理矢理押さえ付けながら、黙々と地面を掘り続けた。 当然、少女の身を優先とする案も出たが、彼女との位置関係が把握出来ぬ現段階では、確実な道を選択する他なかった。詰まりそれは、世界司書の言う「血の臭いや赤い色に反応する」特性を利用し、迅速に銀狼を倒すこと。胸に歯痒い想いを抱くは必至であったけれども、結果として、間接的ながらそれが少女の命を救うことにも繋がるのだ。 今はただ、只管に彼女の生命の灯が消えてしまわぬようにと願い、自分達が出来ること、やらねばならぬことをこなすしかない。 悴む指先をフェリシアから貰ったカイロの温もりで温めつつ、落とし穴作成は続けられた。 一行は前以て近隣の村民から森の詳細――主に女神の祠の位置などを確認し、そこから十分に距離を置いた風上に陣取っていた。神聖な領域を戦闘で汚してしまうのは、あまりに忍びなかったからである。 しかし凍土は思いの他硬く、作業は難航した。 体長2~3メートルの大狼が掛かる程の罠となると、相当の大きさを必要とするだろう。2匹で連携を取れる程度の知恵を持つ獣である。璃空とて、落とし穴のみで方が付くなどと、微塵も思っていない。それでも、足止め位にはなるはずだ。式神の力も借りて、何とか完成する頃には額に玉の汗をびっしりと浮かべていた。 仕上げに、用意した生肉をフェリシアが罠の上に置き、血糊を取り出して盛大に振り撒いた。偽物とはいえ、多量の紅の液体が白の大地を染める様はなかなかに迫力がある。 「うぅ、ちょっと気持ち悪いかも……」 やや血の気の引いた表情で、おっかなびっくり一仕事終えると、労いの言葉と共にミアからホットミルクの入ったカップが手渡された。体を少しでも温められるようにとヴィルヘルム・シュティレが準備したものだ。 スキーウェアやカイロなどで鉄壁の防寒対策を施して来たフェリシアであったが、ミルクの甘い香りと優しい味は逸る気持ちを落ち着け、緊張の糸を解してくれる。両手で包み込んだカップから立ち上る湯気を目で追いながら、仲間の細やかな気遣いに感謝した。 「出来れば逃げたりすることで解決したいんだけど、村を襲う可能性も考えると、倒すしかないのかしら?」 食料を与えたり、コミュニケーションで彼らとの和解の道はないものかと眉を顰めるミア。言の葉の隅々にまで滲む柔らかさは彼女の人柄そのものを表している。 敵とはいえ、ミアの望む通り、相手を殺めず済むのであれば最良だ。しかし、恐らくその希望は叶うまい。 好戦的な獣なら尚更のこと。狼らは倒れるまで牙を剥き、爪を振るうのだろう。まして獲物を眼前に退くなどという穏やかな思考は、端から持ち合わせていないはず。 目蓋を伏せ、遣る瀬無い微笑を浮かべて見せる璃空。 「銀狼が人を襲うのは、自らの命を繋ぐため。だが、私達も自らの命を繋ぎ、守るべき者を守らねばならない。共存とは、斯くも難しいものなのだな」 それはきっと、彼女らロストナンバーが武器を携え駆け行く限り、永久に尽きぬ苦悩なのかもしれない。 「仕方ない」なんて軽く割り切れる程、生命の遣り取りは簡単なものではないけれど。 「……行きましょう」 明日を生きるために。 降り積もる不安を払拭するように、フェリシアが台詞に幾らかの重みと、覚悟を乗せて。 胸に揺れるロザリオが彼女の想いに応えるかの如く、煌いた気がした。 全ての息衝く者らを眠らせる、雪融けを知らぬ冷えた空間を見上げて、ヴィルヘルムは溜息にも似た呟きを吐く。 「未来ある若者であれば殊更、散らせるには惜しい花だ……」 老齢とはいえ、吸血鬼の真祖であるヴィルヘルムにとって寒さは彼の身を脅かすものではなかったが、念のためにと火酒を呷る。熱い感覚で体中が満たされると、彼は黒狼へと変貌した。動物特有の鋭敏な五感を研ぎ澄まして、異変を察知すべく獣の気配を追う。 リュカオン・リカントロープもまた、吸血狼・冥牙の特性を生かして、パートナーのノーナと共に道なき雪上を辿る。厳しい寒さを物ともせず、寧ろ雪に喜ぶ犬が如く彼の身の熟しは軽やかだ。 「郷里でも似たようなことはよくやったものだけれど……ふむ、連携での狩りとなると、私とノーナも負けてはいられないね」 独白し、着き従う白狼を三つ目で見遣る。 退屈凌ぎにと世界図書館からの任務に当たったリュカオンである。本日の狩猟は身も心も満たすに足るものであれば良い。 自らの前足に牙を立てると、鮮血が流れ出る。自身を犠牲に相手を誘き出す作戦だ。痛みに顔を歪める所か、先と変わらぬ足取りで2匹の狼は雪化粧の森を疾駆した。 ◆銀の疾風 銀狼達の反応は、皆の予想を遥かに上回るものであった。 然程、遠くない位置から獣の吠え声が響く。警告にも似たそれは、敵の襲来を告げるヴィルヘルムの合図。 そして…… 「来たわ!」 大木の上で待機しているフェリシアの声が通信機から漏れてくる。ミアと璃空が前方へ視線を走らせれば、連絡から幾許もせぬ内に誘導班の姿が確認出来た。 彼らは茂みを抜けて真っ直ぐにこちらへ駆けてくると、落とし穴を優雅に飛び越える。 リュカオンは、そのままくるりと踵を返すと茂みに向かって低く唸り、半歩退いた所ではノーナがいつでも飛び掛れるように地面擦れ擦れに身構えた。 瞬きの間に狼から人型へ戻り、2人の女性を守護するように前衛へ位置取るヴィルヘルム。よく見ると、彼の手首から一筋の滴るものがあった。怪我を負ったのであれば手当てが必要なのではないかと申し出るミアへは、沈黙のまま手で制す。 リュカオン同様、自分を囮にする際、付けた傷なのだが、彼の驚異的な再生能力に寄り、それもみるみる内に癒えていく。 それならばと、ミアは『ギフト・ラッピング』で全員の能力を引き上げた。例え一定時間の効果でも、相手の攻防力が未知数なだけに、このサポートは頼りになることだろう。 招かれざる来訪者の訪れ。それを一陣の風と形容するには、余りにも相応しい気がして、フェリシアの顔は幾分強張るのだった。 程なく木々の間を器用に縫って1匹、その背後から更に大型のものが飛び出して来た。見ているこちらまで肺が痛くなりそうな荒い息遣いが、奇妙な位に響く。 ロストナンバーらを前にし、警戒から一瞬その動きを止めるも、怯むには及ばぬ相手と判断したのだろう。血糊や生肉の鮮やかな紅が、猛獣の瞳に浮かぶ危殆の色を更に深める。 無駄のない滑らかな姿態を覆う白銀の毛並みは、彼らの纏う殺気も合わさって、恐ろしい程に美しい。 大型の銀狼が口の周りを紅で汚しているのを見て取った璃空は、眉を僅かに吊り上げる。更に、小さな赤い羽根が鼻先にくっ付いている所を見れば、彼女が放っていた誘導役の鳥が餌食となったのは一目瞭然。 銀狼らは一同をねめつけ、大きく裂けた口をがばりと開いた。 尖った牙の隙間から涎を垂らし、大地を揺るがす咆哮を放つ。 怒号にも似たそのあまりの衝撃に戦慄き、身を竦めるように両手を胸の上で強く握るミア。 刹那、小型の銀狼が地を蹴った。見惚れる程の流れる動作も、しかし落とし穴に鼻先から突っ込み、大きく体勢を崩す。 透かさず木の上から飛び降りたフェリシアが赤い毛布を手際良く被せ、トラベルギアのブーツの力を借りて、即戦線離脱を図る。赤い物に敏感であるならばと、同士討ちを狙ったのだ。 彼女の素晴らしい身体能力を以っての荒業ながら、視界を塞がれた獣がじっとしているわけもなく、頭を振り上げ、激しく暴れ狂えば毛布は容易に剥がれた。 嘯き、這い上がる銀狼に追い打ちを掛けるかの如く、大気を割る凄まじい閃光――璃空の電撃が足元に炸裂。ぎゃん、と甲高い悲鳴を上げながら、再び穴へ転がり落ちる。 一方、大型の銀狼は罠には目もくれず、力強い跳躍で落とし穴を回避。人肉を喰らわんと一陣との距離を一気に縮めて、襲い掛かった。 研ぎ澄まされた刃物と紛う鋭き爪牙が、リュカオンの無防備な脇腹を裂く――! しかし、ぎりぎりまで相手を引き付け、寸でで霧散化した冥牙の気高き王族種に傷など付けられるはずもなく、銀狼の前足は空を掻いた。 相手に体制を立て直す暇を与えず、死角を突いて躍り出るノーナ。しなやかに体を捩って繰り出される熾烈な一撃が、銀狼をどう、と押し倒した。息の合った2匹ならではの妙技であった。 上手く連携を取れずにいる銀狼達は、愚弄されたと感じたのか、威嚇の声音に苛立ちを隠しもしない。無論、焦りに塗れ、怒りに任せた攻撃が手練のロストナンバーに通じるわけもなく、ヴィルヘルムの纏うマント型トラベルギア【ナハトツェルト】が翻るや否や、その裾を黒刃に変形させて中空で迎え撃つ。 間髪容れずに銀狼の頭から削がれた左耳が、冷たい雪にぼとりと落ちた。だが、ヴィルヘルムも無傷では済まなかった。大腿に刻まれた爪痕から血が吹き出で、激痛が広がる。 血糊ではない、本物の紅蓮が広がる様はあまりにも無情で現実味がなくて、それが却ってフェリシアの若い心をきつく縛る。実践とは、命を賭した戦いとは、こんなにも過酷の極み至る所なのか。それでも、何よりも速く大きく旋回した蹴りは前脚を薙ぎ払った。 理解し難い惨状を涙で濁らせてはならないからと、ミアは銀の獣達の生き急ぐ姿を切なげに、しかし確りと瞳に焼き付けていた。 人には戦わねばならぬ時がある。今こそが、正にそういうことなのだ。ともすれば、揺らぎそうになる心を握った拳で押さえ付けて、強く唇を噛み締める。 敵味方区別なく燃やされる魂、そして生き様。全てを最後まで見届けねばならない。色鮮やかに咲き誇る花々が散り逝く、その時まで。 轟く雷鳴。 青白い電光が地上を覆う淡雪を穿った。璃空の術が、小さな誤差で銀狼を捉え損ねる。しかし、冷静さを欠くことはない。如何に格下の相手であろうと、平常心をなくせば負ける。即座に術符を構え、彼女は次の一手に備えた。 極限にまで高められた再生能力により、既に傷が塞がったヴィルヘルムの攻防は衰えを知らない。蝙蝠に変身し、緩急を付けての飛行によるフェイント、続け様に木々の陰から瞬時に間合いを詰めて後脚に食らい付くはノーナの牙。 ぶつぶつと筋肉を断ち切られた苦痛が、感覚を超えて全身を支配する。血走った目を見開きながら放たれる相手の絶叫を聞けば、死期が近いことは容易に悟ることが出来た。 転倒する銀狼にフェリシアが気を取られていると、その僅かな隙を狙っていつの間にやら落とし穴を駆け上がり、彼女の背後に回っていた小型の一匹が、襟首に齧り付いた。 「きゃあぁぁっ!!」 獲物を捕食せんとする獣の力たるや、脅威以外の何ものでもない。 仰向けに倒れ、引き摺られるフェリシアの足首をミアが血相を変えて掴むも、ブーツだけがすっぽりと脱げてしまう。殺戮者の牙からは逃れられない。璃空が電撃を試みるが、これでは味方をも巻き込んでしまうだろう。 と、風すらも追い越してしまう程のスピードで、黒い塊が敵の腹を殴り付けた。リュカオンである。満身の力を傾けられた部位は、硬い物が砕けるような鈍い音を立てる。銀狼もこれでは溜まらない。咥えていたフェリシアの襟を放し、血反吐を吐き散らした。 機を見誤ることなく、ミアがフェリシアを急いで助け起こす。両手で喉を押さえ、咳き込む彼女の様を見れば、余程苦しかったのだろう。無残にも、スキーウェアの襟刳り部分が引き千切られている。 肩を抱かれて退く涙目のフェリシアを視界の端に捉えつつ、ヴィルヘルムが掌より魔力の炎を生む。手中から飛び立った火炎弾が鉛の空に弧を描いて翔けた。だが、注がれる烈火に抱かれるより早く、敵は巧みに飛び退る。 身を起した大型の銀狼も、頭から血を流しながら、それに倣う。が、動きの切れは、最早ない。 終焉は近いと誰より自身が知っているはずなのに、銀の獣は命の続く限り、阻む者を屠らんと哮り、黄ばんだ牙を剥く。 大型の銀狼が道を切り拓くように一直線に突っ込んで来る。かと思えば、その真後ろに位置取っていたもう一匹が卓越した飛躍で、前方を走る大型の背を足場に更なる速度を伴って飛び掛かった。 思えばそれは、最後の力を振り絞った捨て身の連携技だった。 振り上げられた爪を闘牛士の如く、マントでさらりと受け流すヴィルヘルム。 「逃がすものか!」 銀狼の着地点を見計らって閃く雷光は、璃空が描き出した術。 致命的な衝撃で身を弾かれた銀狼は、地上の雪を空へと舞い上がらせながら、何メートルも吹っ飛んだ。 体毛と肉を焦がす煙が幾筋も揺れている。死に息すら漏らさない所を見ると、苦しみ悶えることもなく絶命したようだ。 仲間が地に伏そうとも、大型の銀狼は駆ける速度を緩めない。 向けられた牙は、一匹撃破したばかりの璃空目掛けて。 防御の体勢を取る隙はない。 彼女は咄嗟に重心を落として両腕を顔の前で交差させる。頭部からの出血で濁った狼の視界では、渾身の一撃も腕を掠めただけであったが、それでも服ごと破かれた皮膚から溢れた血液は、意外に少なくなかった。 ぐるりと体を捻れば、漆黒のマントが優雅に広がる。 「誰かを脅かすだけの力を振るうならば、それに等しい覚悟も必要なのであろうな」 雨霰と注がれるヴィルヘルムの黒弾が脚を弾き飛ばし、 「久方振りの狩りとしては、それなりに楽しかったよ。だけど……」 時間差で振り被ったリュカオンの爪が、止めとばかりに胸から腹に掛けて深く切り裂いた。 「もう、おやすみ」 ――グオオォォッ!! 鼓膜を劈く断末魔。 瞳を見開き、崩れ落ちる銀狼。 どくどくと流れる血が、白の世界を汚していく。 よもや、この地が自らの墓場となるなど、思いも寄らなかったことだろう。口からだらしなく垂れ下がった舌が、細かに痙攣する。 認め難い敗北を突き付けた異界の旅人へ呪詛めいた一瞥をくれると、大きく息を吐き出して、それ切り銀狼は微動だにしなかった。 あれは、空の涙であったのか。 はらり、はらりと落ちる六花は切なげに重なり合い、旅人達を、刻まれた痕を、全てのものを等しく清く染め上げた。 森を渡り、何処へと通り過ぎて行く風の音以外、聞こえるものはない。 再び訪れた静寂の空間に異なる点があるとすれば、それはミアの提案で、銀狼のために簡易的ながら塚が拵えられたことだった。 亡骸を埋葬する際には、落とし穴を利用した。罠へ葬るというのも気が引けたが、こういったものは何より、死者を供養する者の気持ち次第であろうし、如何せん、時間がない。 草木の眠る季節柄、花を手向けることすら出来ない墓は、酷く憫然としたものであった。 「自己満足かもしれないけど、少しでも安らかで在れるように」 つい今し方まで対峙し、刃を交えた相手へ礼儀を以て、深い憐みを傾けられる者など、そう多くはないだろう。スカートの裾が雪で濡れてしまうのも厭わず、墓前に跪く乙女へ、 「例え偽善と罵られようとも、旅立つ者を悼む想いは無駄にはならない」 ヴィルヘルムが蓄えられた豊かな白髭を指で扱きながら、戦闘時の鋭い眼光からは想像も付かぬ好々爺然とした柔らかな笑みを送る。 与えられた任務と、遂げるべき使命は時に切なくて、相応の結果を残せば新たに課せられた十字架の重さに押し潰されそうになる。『生きる』とは即ち、只管その重圧に耐えることなのかもしれない。 傷の手当てを終えた璃空もまた、奪った命を忘れまいと、ミアに倣って黙祷を捧げた。良心に従って慈悲を向ければ、忽ちに未来への扉は閉ざされたも同然であった。それ程の死線を渡り合った敵へ、今こうして祈ることは大切な行為なのだと思う。 間違った道は選び取っていない自信はあるつもりであったが、我らの目的のために消えた命の灯を思えば、フェリシアの顔色は冴えなかった。 身命を脅かす程の獣相手に、皆が手加減も躊躇も出来なかったはずである。現に、銀狼に襲われたあの時、自分は確かに死の淵を垣間見たのだ。全ては家出娘の彼女が実家を飛び出さなければ――安穏とした日々に身を浸していたなら、絶対に味わうことのなかった峻烈なる体験である。 数多の経験に寄る価値観からか、いつ何時も物事のお仕舞いに喪失感は付き物だとリュカオンは割り切っていたが、 「彼らの最も愛する赤に飾られて逝けるのであれば、それは本望なのかもしれない」 この時ばかりは人知れず瞼を落とし、思慮の海に溺れてみる。 もしや、彼らもまた、深い契りを交わした仲であったのだろうか、と。 最早、その詮索は無意味でしかない。 ノーナの手向けの声が、天高く木霊した。 ◆掠れた心 冬季であっても緑を散らさぬ針葉樹の梢は、天上を覆い隠す。それ故、この一帯は日没が早い。後少しもすれば急速に闇に飲まれ、夕べの蒼へと変じる雪景色に焦りを感じつつ、ミアは藁をも掴む想いでもう一度【メッセージ・ブック】を開く。 「えっと……『女神の支配侵すは、禁忌触れるものと心得よ』」 先に同じ結果かと肩を落とし掛けたが、 「……待って、続きがある! 『神の領域求むる人の子へは、暗き鉄槌が追う』……どういう意味かしら?」 顎に人差し指を当て、小首を傾げ悩むミアの横では、 「『人の子』とは、言うまでもなく件の娘。この森林の中で女神の力が及ぶ場を指すのであれば、それは祠周辺しかあるまい」 すらすらと答えを導き出して、戸惑いの欠片すら感じられぬ程、手際の良い所作で璃空が式神の鳥を飛ばす。 ヴィルヘルムには寧ろ、『暗き鉄槌』の意義する所が気掛かりであったが、 「本降りにならない内に、急いだ方が良いのかな」 空を見上げて呟くリュカオンへは、同意の声を上げる。 最早、一刻の猶予もならなかった。 不揃いな白の舞は見る者を魅了する。 雪を、ただ美しいとだけ思えるのは、それが意図した装飾ではないから。 優しさ、厳しさの両面を秘めながらも、散り果てる際には実に潔い、偽りなき姿が人心を捉えて止まぬのだ。 泥の如く思い体を引き摺りながら、そのようなことを考える自分は、どこか思考が欠落してしまったのかもしれない。きっとそうなのだと自嘲気味に笑んでみても、僅かに唇の端が引き攣ったに過ぎなかった。 気付けば、少女は大地に身を投げ、茫とした眼差しを彼方へ向けていた。 頬を撫でる綿雪のひんやりした感触が心地良い。あんなにも不透明な天上のどこから、この純粋の一片は生まれてくるのだろう。 ふと、思う。 もう二度と、自らの足で立ち上がることは出来ないのだとすれば。 暖かい毛布に包まる代わりに、深雪の腕(かいな)に抱かれて、瞼を落としてみるのも悪くはないのではないか。 眠ってしまいたい。 ずっと、ずっと、永遠に。 拭っても払い切れぬ闇に甘んじて身を沈ませ、霞み行く意識が完全に途切れてしまう前、少女は渡る風が奏でる旋律を耳にしたような気がした。 「――……!」 もしくは幻聴であったのだろうか。 冬の森を訪れる者など、あるはずがないのだから。 「おーい、誰かいるー!?」 引っ切り無しに声を張り、軽々と木から木へ移り渡るフェリシアは、すっかり元気を取り戻していた。多感な時期ではあるが、そもそも生来がちょっぴり御転婆な彼女。まずは自分のことよりも、件の少女が優先だ。 娘の生きる希望になればと、助けが来た事実を大声を上げることで伝えているのであった。 地上ではリュカオンとノーナが、上空にはヴィルヘルムが蝙蝠の群れに姿を変えて、彼らを中心に少女の些細な痕跡をも逃すまいと捜索を続けていたが、如何に小降りとはいえ、雪は容赦なく真の在り様を隠してしまう。 手掛かりは既知の情報のみ、目指すは女神の祠である。村人から得た情報通りの方角を駆け続ける。 突如、 (「あれは……」) 空を行くヴィルヘルムの銀の瞳が、豆粒程の影を確認する。半分、雪に同化したような瞭然としないものであったが、間違いない。正しくディアスポラ現象に巻き込まれ、世界から放逐された存在。 急降下し、ヴィルヘルムが人型に戻ると、リュカオンらも駆け付けた。 女神の祠とは木製の小さな神殿のような造りで、そこに凭れ掛る形で少女は倒れていた。固く閉ざされた眼瞼が、疲労の色を濃く滲ませている。 少女を抱き上げ、なるべく雪に晒されないようにと大樹の陰に避難する頃には、女性陣もやって来た。 「今まで良く頑張ったな」 璃空が髪や服に積もった雪を丁寧に払い除けてやる最中、人形のようにぴくりとも動かない娘の姿を目の当たりにすると、針の穴ほどに小さかったミアの不安が見る間に広がる。 『神の領域求むる人の子へは、暗き鉄槌が追う』とは詰まり、女神の祠で迎える少女の最期――。 まさかなどと最悪の事態を想像したくはなかったが、彼女の意に反して鼓動の早さは増すばかり。 そんなミアの心を見透かしたように、フェリシアが躊躇なく進み出る。流石、医者の娘というだけあり、手際良く娘の袖を捲り上げると触診を試みた。 やや沈黙あって、 「大丈夫。脈はあるわ」 どうやら意識を失っているだけらしい。微笑むフェリシアに、安堵の息が漏れた。 『暗き鉄槌』の示す所は一先ず落着したにしても、依然予断を許さぬ状況には違いないのだから、早急な応急措置が施された。 フェリシアの言霊の力で止血すると、次に璃空により防寒の符が貼られる。最後にミアが『ギフト・ラッピング』の能力を振えば、女子チームの完璧な連携プレイに寄り、少女は見事、一命を取り留めたのであった。 とはいえ、固形物を咀嚼出来る程に体力を取り戻したわけではない。毛布に包まれた娘の上体を抱き起こすと、ヴィルヘルムがホットミルクを唇の隙間から流し込んでやる。 「暫し休むと良い、フロイライン」 これより長き旅路を、己が足で歩むために。 耳触りの良い低音は、果たして少女の心に響いたのか。 「……ぅ」 注意深く耳を澄ましていなければ、聞き逃してしまう程度の呻きが血色の悪い唇から漏れた。睫毛を小刻みに震わせて、ゆっくりと持ち上げれば、アメジストの瞳に白毛の狼が映った。 「――っ!!」 瞬間、ヴィルヘルムの腕の中でびくりと体を揺らす少女。声なき悲鳴は遣り切れぬ同情をそそる。 「嗚呼、驚かせてしまって済まないね」 柔らかい声音で娘に語り掛けるリュカオンの容姿は、今や眉目秀麗な青年へと変貌を遂げていた。少女を怯えさせぬようにという細やかな気遣いである。少女を覗き込んでいた相棒を軽い仕草で自らの元へと呼び戻す。 だが、一同には頼もしい戦友の白狼も、この娘には命を刈り取る魔性の獣と、全く異なる風に印象付けられてしまったらしい。白い肌を死人のように青くして、驚愕にがたがたと怯える。 「私達は、君の敵ではない。心配いらな――」 「い、嫌ぁっ!」 この細身の少女のどこにこれ程までの力が余っていたのか。 温和に語るヴィルヘルムの腕を手荒く撥ね退けると、飛び起き、懐から取り出した刃物を彼へ向ける。切れ味など高が知れた護身用のナイフである。まるで的が定まらぬ刀身を見れば、武器の扱いに長けている者の構えではない。 落ち着きなく揺らぐ眼差しが敵意を伴って、暗い影を宿していた。狂気の内に絶命した銀狼とはまた異なる、先鋭の色彩が一行を捉える。 それは、至極当然の振る舞いなのかもしれない。 「わたし達はあなたを助けるために来たの」 聞きたいことも、聞かせたいことも沢山あり過ぎて、上手く表せない自分を煩わしい。それでも、ミアが短く紡いだものの中に、伝わる想いはあるだろうか。手を差し伸べたら未だ間に合うのであれば、救える命を救いたい。 だからどうか、建て前でも良い。拒まないで欲しいと願うのだ。 切なる祈りは、しかし底冷えのする眼差しにより両断された。出会ったばかりの他者を受け入れるには、余りにも時期尚早であったのだろうか。 歪みの生じた想いは、なかなか噛み合ってくれない歯車の軋み具合に似ている。 差し伸べられた手を振り解くことしか出来ない少女は、悲しげに顔を顰めると、身を翻して走り出した。 「ちょっと、どこへ行くの?」 けれどフェリシアに返る答えはなく、足を縺れさせながらも逃走を図るつもりらしい。 「駄目よ、そんな体で無茶をしては……」 小さな背を追うミア達を眼前にしながら、璃空は指先に触れた術符を発動するべきか逡巡していた。能力を用いれば、少女を捉えることなど容易い。しかし、娘の抱くこちらへの不信感は増すばかりであっただろう。 艶やかな黒髪を風に靡かせ、殆ど徒歩に等しい速度で駆ける少女の手を、ミアが確りと掴んだ。麻痺してしまうような、冷たい感触が浸透する。 「は、放して……放して下さい……」 頑なな声が、心に刺さる。だが、如何に拒絶されようとも、 「駄目! 絶対放さないんだから!」 細身の体が強張るのを感じながら、フェリシアが背後から抱きすくめる。が、蹌踉けた少女を支えることが出来ず、共に甲高い叫び声を発しながら3人仲良く引っ繰り返った。傍目には雪と戯れる少女らの無邪気な一時ともとれるのだが、現状はそんなに緩いものではない。 ヴィルヘルムに助け起こされた少女は、多勢に無勢と観念したように息を吐く。 「お前が何者で今まで何をしてきたか知らぬが、それでもお前は独りではない。今は私達がいる。私達は、お前と共にある仲間だ」 璃空が言葉を慎重に選ぶように告げる。 「信じてもらえないかもしれないけど、それって当然よね。でも私達、本当の本当にあなたを助けるために来たの」 埋もれた体をリュカオンに引っ張られながら、フェリシアらが起き上がると、上目遣いの疑いを向けられた。 「どう、して……」 「え?」 「どうして、助けるのですか? 見ず知らずの私なんかを……」 恐怖にも似た困惑は、尚一層少女に痛ましいものを纏わせる。 今の今まで、当たり前の安寧を渇望することすら許されぬ境遇に在ったのかと悟れば、ミアの目尻に熱いものが込み上げた。 駄目だ。泣いては駄目なのだ。涙は、誰より一番辛い人のためのものだから。 誤魔化すために潤んだ瞳を何度も瞬かせるも、どうやらそれも困難らしい。上手く返答出来ぬ彼女に代わって、ヴィルヘルムが届けたかったものを素直に吐露する。 「それは、君が私達の仲間だからだ」 難しい前置きなど、必要なかった。 予期せぬ安らぎは、痛みを伴う位に少女の磨耗した心を急速に満たそうとする。 何もかもが分からないことだらけだったが、心揺さ振られる程の想いを告白されて、無関心でいられる者は人間をやめた方が良いと思える程度には、彼らの言うことは信頼出来た。そこに理由なんてなかったから、恐らく他人から見ればとても愚かしい行為なのだということも理解していたけれど。 目も眩むような好意へ、自身の持てる極上の感謝では示せないかもしれない。それでも、損得の入り混じらない愛情に恵まれた己は、幸運であると確信して良いものなのだろう。 少女は言葉を1つも口に出せぬまま、涙に頬を濡らす。 濁った雲の隙間から、一条の陽光が差し込んで、彼らを柔らかく照らした。 ◆雪融けは遠くても 単調な空は、酷く物足りない。 館長公邸の庭には時々、天候を操る力が施されるというし、チェンバーに一歩踏み込めば、広がる仮想空間で暫しの享楽に耽ることも出来よう。しかし、それら全ての目を見張る技も、雄大な自然現象を存分に味わって来たばかりの者達には、何か違う気がした。 0世界へ帰還したロストナンバーらを出迎えたリベルは、労いの言葉もそこそこに、長い溜息を吐くように少女の現状を伝えた。 皆の的確な処置のお陰で命を繋ぎ止めた少女は、全快するまでの間、治療施設にその身を置かれる。日々の活動に支障が出ない程度の回復は見込まれるものの、問題は不安定な精神面のケアであろうとのことだった。 「彼女がパスホルダーを受け取るか否かは、個人の選択に委ねられる、と」 「強制は出来ないってこと?」 リュカオンとフェリシアの視線を受け、リベルが深く頷く。 帰路につく際、ロストレイル車内での少女の様子が思い出される。差し出された食べ物の中で手を付けたのは、一欠片のチョコレート。それから、温かい飲み物を少しだけ。 失われずに済んだ生命であるならば、逝った魂の分まで健やかであって欲しいものだと、璃空が物憂げに口にすれば、ヴィルヘルムは緩く首を横に振った。 例えば、今までの日常が幸福であればある程、多世界の存在や消失の運命など、納得し難い現実は山のようにある。まして、年頃の乙女ならば尚のこと。 ロストナンバーの資格を有する者全てが、当たり前のようにロストレイルへ乗車するとは限らないのだと、今更ながら思い知らされる。 誰ともなく呻き声が漏れると、付け加えるように女性司書は感情の籠らない言葉を重ねた。 「ただ、貴方方の熱心なお心遣いへは、とても感謝していらっしゃいました」 有り難う、と何度も紡いでいたのだと、リベルが伝える少女の意思が余韻染みて耳朶に響いた。 感謝の言とは当人が紡いでこそ、真意を見出せるものに違いないのだろうが、述べることの出来なかった礼を他者に託したのは、最後まで素直になれなかった罪悪感故なのかもしれない。もう少し肩の力を抜いて甘えてくれれば良いのに、深い仲でもなければ、それもなかなかに難しい。心にまで癒しの力を送ることは出来ないから、この苦難は娘本人が越えなければならない試練でもあった。 途端、胸の前でぽん、と手を合わせ、 「わたし達、未だあの子の名を聞いていないわ」 そういえばと思い出したように目を瞬くミアに、当然ながら皆さんには知る権利があるとリベルから齎されたのは『孤独』、そして『幸運』を象徴する可憐な花の名前。名は体を表すとは良く言ったもので、花に秘められたものを理解する何名かは、成程あの娘には相応しいと頷いた。 人の抱く絶望も悲しみもお構いなしに世界は回り、現在は過去へと流れて行く。 少女が元の世界で如何なる時を重ね、またどのような想いで異世界を彷徨うに至ったかは彼女以外、誰も知る所のない事実。 されど、どんなに時間は掛かっても、あの寂々とした瞳が幾つもの彩の欠片で満たされる日が来るように。そして、もしも全てを受け入れられたなら、笑顔で告げよう。 ようこそ、遥かなる冒険の世界へ。 Fin.
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