画廊街の片隅に一件のパン屋がある。 壱番世界のフランス語で『混ざったパン屋』という名前を持つ「メランジェ・ブーランジュ」には看板娘がいた。 彼女の名前は飛鳥黎子。 金髪で縦ロール、そして家庭的で暖かい雰囲気の店に似合わないゴシックロリータ服が目立つ少女だ。 ターミナルにも冬はやってきて、クリスマスの季節が訪れる。 しかし、今日はメランジェ・ブーランジュはお休みだ。「折角のクリスマスに働かなきゃいけないなんてないわ。それにオーナーへもケーキを作って雰囲気だけでも楽しんでもらいたいわ」 店の前にクローズの看板を下げて、店の外へ出て行く。 一緒にパーティをしてくれるロストナンバーを募集するためだ。「暇そうなのもいいけれど、それなりに料理が出来る人がいいわね。キッチンは大きく使えるんだもの」 ほぅと寒さに白い息を吐きつつもその足取りはやや軽い。 一番に楽しみにしているのは無論、飛鳥なのだから‥‥。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
~キッチンは戦場だ~ 「ちょっと、一つだけいい?」 「なんじゃ、遠慮なくいうがよい。」 じとーっとした目で飛鳥黎子はジュリエッタ・凛・アヴェルリーノを睨んだ。 ビターチョコとココアをベースに、赤い苺を飾り付け&苺のペーストで縁取りしていて綺麗である。 「この、上に載っている人形が赤面しているのは……何?」 飛鳥が気にしたのは凛の作る三段重ねのガトーショコラケーキの上に乗っている飛鳥っぽい人形だった。 「この方が愛らしいからじゃな。細かいことを気にしては器の大きさがしれるぞ」 年頃の近い二人だが、凛は口調もさることながら豪快な部分が年上っぽくみえる。 「くっ‥‥いいわ。不問にするから、感謝なさい!」 「材料も作る場所をも提供してくれたのだから、文句はないぞ」 凛がいうように今、ケーキや料理を作っているのは飛鳥のバイトしているパン屋の『メランジェ・ブーランジュ』なのだ。 「ねぇねぇ、キャベツが分子レベルで分解→再構成されて『麻雀牌』になっちゃったんだけど、飛鳥ちゃん食べる?」 むすっとした飛鳥の目の前に千場 遊美が皿に盛り付けた麻雀牌をみせる。 どうみても、食べ物ではない上にサラッと聞くと冗談にしか聞こえない。 「こんなもの食べれるわけないでしょうがっ! まじめに料理しなさい!」 スッパァンとどこから取り出したハリセンで飛鳥は遊美の頭を叩いた。 「ひゃははは、もうそんなに叩くとネジが落ちて麻雀牌が超時空兵器になっちゃうよー」 冗談とも本気とも判別のつかないことをいいって遊美は料理を続ける。 普通に作っているようにしか見えないのだが、出来上がるものは食べれそうにないものばかりだった。 「遊美ちゃんは面白いな~。僕もがんばっちゃうよ~お菓子作りは得意なんだ」 ある意味芸術的な遊美の料理の腕に関心しつつも、フリル一杯の甘めブラウスにショートパンツにニーソ姿の祭堂 蘭花は自分の作業を続ける。 フリルのエプロン、頭に三角巾、獣人であることに配慮しての手袋など、細かい気配りのできる女性らしさが蘭花にはあった。 グラタンパイや抹茶クッキーなどを手際よく作っていく蘭花に飛鳥は関心する。 「へぇ、あんたやるじゃない」 「へへへ~、ありがとね♪」 照れ笑いを浮かべる蘭花は可愛かった。 「黎子様。子牛の丸焼きができましたぞ!」 ホラー映画のごとく目を光らせたガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードが窓からぬっと顔をだす。 体格の大きなガルバーが入ると他の人が作業できないからと、飛鳥が蹴って外へ追い出したのだ。 蹴られたことで喜んだとの話もあるが、当人は何も言わない。 「なんか色々ぶち壊しな気もするけれど、今日は許してあげるわ。さっさとカフェスペースの方に行って盛り付けなさいよ」 「はは、畏まりました」 ズズズという音でも聞こえそうなノリでガルバーは窓から顔を離し、ピチピチのワイシャツにエプロンにミトンという不思議な格好で入ってきた。 ~メリークリスマス~ 「「メリークリスマース!」」 パパパーンとクラッカーがなり、サンタ帽子(なぜか、ガルバーはトナカイの角)をかぶった一同が拍手をする。 『メランジェブーランジュ』のカフェスペースは木目調の壁に蘭花により飾りつけがなされていて見違えるように綺麗になった。 温かみのある部屋のテーブルには蘭花のグラタンパイから飛鳥の作ったオニオンスープ、ガルバー子牛の丸焼きなどが所狭しと広がっている。 スプーンとフォークと調味料を生クリームを混ぜて作った豪語する遊美のチーズケーキ、凛のガトーショコラケーキとデザートも十分だ。 他にも昨日の売れ残ったパンなどが振舞われ、ちょっとした贅沢感のあるパーティとなる。 「予定より結構いい感じになったんじゃない?」 見た目に満足した飛鳥はミニスカサンタ衣装み着替え、相変わらず無い胸を張った。 シャンパン(※ノンアルコール)をガルバーに注いで貰うと、満足そうに頷く。 「我ながらよいできだと思うのじゃな‥‥では、飛鳥殿。今度は乾杯の音頭をとって貰おうかの」 凛も注いでもらったグラスを手に飛鳥に微笑みをむける。 「飛鳥さんよろしくね~」 「あれ? クリスマスって蝋燭をもって怪談話をするんじゃないの?」 蘭花と遊美も準備OKの‥‥はずだ。 「じゃあ、クラッカー鳴らしたあとだけど、改めて‥‥今日はよくきたわね。料理も美味しそうなのができて‥‥その、感謝しているわ」 いつものゴシックロリータ服姿で、ケーキの上の人形のように頬を赤くした飛鳥は参加者を労う。 「べ、別に嬉しいわけじゃないんだからね‥‥じゃあ、乾杯!」 「「かんぱーい」」 カチンとグラス同士を合わせてパーティ開始の合図をすると、それぞれの料理を楽しみはじめた。 「飛鳥ちゃーん、わたしの作ったケーキを食べて食べて! 材料はスプーンとフォークだけど、大丈夫だよー」 何がどう大丈夫なのか分からないが、遊美の差し出すチーズケーキは見た目は確かにチーズケーキしている。 「し、仕方ないわね……」 ごくりと喉を鳴らした後に飛鳥は恐る恐るケーキに手をつけた。 さっくりとフォークで切れるくらいの柔らかさをもっていたそれをゆっくりと口にいれた。 「くっ……い、意外と美味しい」 騙されたとばかりに歯噛みして飛鳥は悔しがる。 どうやったらこうなるのか謎だが、実のところ遊美にも分からなかった。 「ねぇねぇ、折角だからビンゴでもやらない?」 「余興ならば、我輩が一芸を見せるべきだろう」 「あんたは黙ってなさい、そして脱ぐんじゃないわよ、肉だるま!」 楽しく暖かい空気がゆっくり広がっていく。 煌びやかさはないものの、ホームパーティらしい楽しい時間を過ごした。 ~帰り際~ 宴も終わり、皆が片付けをしていると凛が飛鳥の持つケーキを見て尋ねる。 「少しケーキを土産にしても良いかのう? お爺様を家に一人残しておる故。今日は飛鳥殿という友と楽しかったと伝えるつもりじゃ」 「よくそんな恥ずかしいことを真顔で言えるわね。私なんて、友達になんてふさわしくないでしょうに」 嬉しいと顔には書いてあるものの、飛鳥はすねた様な言い草で凛の言葉に答えた。 「いや、飛鳥殿は面白い御仁じゃ。わたくしはそなたを気に入っておるのじゃ」 「オーナーにも渡そうと思ってもともと切り分けていたけど‥‥仕方ないわ、あんたが作ったんだからあげるわよ」 凛の言葉を受け、皿に乗ったケーキを切り分け、飛鳥は店で使っている小箱に詰めて渡す。 「かたじけないのう、これからも友としていてくれるかの?」 「し、仕方ないわね。どうしてもというなら友達になってあげなくもないわよ」 ぷすっと頬を膨らませて視線を飛鳥はそらせた。 怒っているというよりも照れているのは明らかである。 「なら、これからもよろしく頼むのじゃ、飛鳥殿」 「ふん、よろしくしてあげるわ、光栄に思いなさい」 差し伸べられた凛の手を飛鳥はそっと握り返した。
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