インヤンガイから戻ったアリッサは、執事に向かって言った。「司書たちを集めて」「かしこまりました。……インヤンガイで何か?」「……おじさまの行方がわかったかもしれないの」 執事のおもてが、はっと引き締まる。 世界図書館の本来の館長である人物が、消息を断ってからすでに6年が経過していた。 今までも、手がかりらしきものがなかったわけではないが……今回は、ほんの数カ月前の目撃情報であるという点で、アリッサたちの注意を引くものではあった。「というわけで、みんなには、インヤンガイに向かってもらいたいの」 アリッサはロストナンバーたちに言った。「行き先は『美麗花園(メイライガーデン)』っていう場所。名前はきれいだけど、今は人間は誰も住んでいない廃墟の街区よ。2年前から、ここは『暴霊域』っていう生きた人間はとても立ち入れない地域になってるの。おじさまがそんな場所に本当にいるのか、いるとしたらどうしてなのか……誰の『導きの書』も手がかりはくれなかったわ。でもーー」 危険は承知で、この廃墟の街の探索をしたい、それが世界図書館からの依頼であった。 街区は広いため、いくつかの小集団に分かれて探索を行う。現地までは、今回はロストレイルで乗り付けることとなった。地下鉄の廃線が美麗花園の地下にも伸びているという。「各チームの探索ポイントについては、担当の司書さんから説明してもらうね。それじゃ……、お願い」~飛鳥黎子、再び~「ちょっとそこのアンタ。止まりなさいよ」 アリッサからの話が終わり、さていこうかと思ったところにバリバリと板チョコをワイルドに食べる一人の司書に貴方は呼び止められた。「この飛鳥黎子様の眼に留まったなんて幸運よ。今日の出来事を史上最高の思い出とするがいいわ!」 つるぺたな胸を張り、縦ロールのツインテールをする司書は高らかに笑い出した。「前置きはいいわ、本題いくわよ。今回いってもらうのは公園。小動物とかがいるようなところね……で、そこにドラゴンが現れたわ」 一瞬、時が止まる。「あによ、嘘じゃないわよ。ちゃんと導きの書にそーかいてあんの! ほら、ウダウダいってないでドラゴン退治いってきなさいよ!」 止まった空気を無理やり動かした黎子はミニスカートにもかかわらず蹴りを入れてロストナンバー達を送り出すのだった。~暴霊龍・ケイオスグラード~『グシャァァァォッッ!』 巨大な咆哮と共に振り下ろされた足にベンチが潰された。 人がいた頃は憩いの場として使われていただろう公園はいまや巨大な羽の生えたトカゲ……ドラゴンにも見えるようなものの巣になっている。 半分以上体を腐らせながらも、濁った瞳が得物を探して動いていた。 翼を広げ、動くものを喰らっていく。 誰が呼んだか、その龍は「暴霊龍・ケイオスグラード」と名づけられた……。 !注意!イベントシナリオ群『死の街へ』は、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによる『死の街へ』シナリオへの複数参加はご遠慮下さい。
~戦前~ 「マナさ~ん、アレ頂戴、消臭スプレー」 エルエム・メールはロストレイルを降りる前、マナに両手の掌をさし出す。 「はい、消臭スプレーですね。お代は戻られましたらナレッジキューブでいただきますよ」 営業スマイルでエルエムにスプレーを渡す柊マナはさすが売り上げトップの乗務員だ。 「さて、暴霊からでも情報が手に入れば良いのであるが」 準備をしているのはエルエムだけではない、フィルターを機動させガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードは体の具合を確認している。 サイボーグ戦士のツーリストであり、その屈強な肉体の傷は戦い……ではなくプレイによるものらしい。 出発前に飛鳥に蹴られて上機嫌なところを見ると、恐らくは変態という名の紳士……もとい、貴族のようだ。 「蹴られるよりも拝めるもの拝んで追いた方がいいと思うけどね? さて、地理はと」 ディラドゥア・クレイモアはガルバーの姿に苦笑をもらしつつ意識を集中させた。 彼の持つ魔法の一つ「啓蒙」により暴霊龍ケイオスグルードの巣となった公園の地形が脳内に俯瞰で移る。 遊具等は潰され、土管によって穴の開いた小高い山くらいしか障害物はなかった。 飛び回るには十分なエリアが取られている。 「ふむ、飛べない人が多いこちらは不利か……先に羽を潰すほうがよさそうですね」 「翼よりも眼を潰してくれるわ。ディラドゥア殿、エンチャントを頼めるか?」 冷静に判断をくだすディラドにガルバーは己のギアであるランスに魔法の付与を頼んだ。 「はいはい、他にも必要な人がいればまとめてやりますからいってくださいよと」 「僕も……頼みます」 静かに考えをめぐらせていた佐野マサトも手投げのウォーハンマーへ魔法をかけてもらう。 元の世界では変身ヒーローであったマサトだが、今の力はこのウォーハンマー型トラベルギアにかかっていた。 ディラドゥアによる魔法『聖戦の号令』、『痛霊の刃』がかけられ不思議な力がみなぎる。 暴れる龍など物ともしないと思える力だ。 「竜が竜退治、というのも皮肉なものがあるが…まあ、悪くはないか」 「後方からの援護は”私達”が行います。皆さんは全力で戦ってください」 竜人らしい姿のデュネイオリスと人間のクアール・ディクローズも席から立ち上がる。 6人のロストナンバー達は強大な敵へ立向かうため、ロストレイルのタラップを降りた。 ~腐界~ 臭い。 鼻を貫き、脳を抉り、口を犯し、肺を満たす匂いが充満していた。 吐くまではいかなくとも、この臭いの根源である暴霊龍ケイオスグラードがどれほどのものかと想像するだけで胃の内容物が口まで戻って来る。 『グギャァァァオォォゥッ!』 腐り落ちていく顔を目一杯広げてドラゴンは叫んだ。 この世の悲しみ、憎しみ、恨みをこめているかのように……。 「迂闊に近寄れないな……ウルズ、ラグズでてこい」 手にした絵本の表紙から長剣と丸盾をもった犬と炎の魔弾を放てるライフルを持つ猫の妖精族が飛び出してきた。 「ラグズ、思う存分撃ち捲くれ、ウルズは俺について来い」 10mはあるような巨大なドラゴンに小さな弾丸があたる。 ドラゴンの顔がウルズの方を向いた。 「来る前にいったが、こいつは複数の暴霊がくっついて出来上がっている。そのコアが心臓だ。奴の腹ばい姿勢を何とかしないとジリ貧だからな!」 戦闘の口火は切られる。 ディラドゥアが荒っぽく叫びながら前へとでた。 ギラリと目が光りそれを見つめてしまったディラドの動きがかたまる。 翼を広げ、低空飛行でドラゴンは突撃をしてきた。 「死角に立てといっておいたはずだ……くそっ!」 「ラグズ、翼を打ち落とせ! ウルズはディラドゥアを守れ!」 デュネイオリスが【黒炎】を手から放ち、クアールが二体の妖精獣指示を飛ばすも間に合わない。 覆いつくすような巨体と臭いがディラドを襲ってきた。 体の痺れどころか吐き気で動けなくなる。 防御魔法でもある『戦神の戦衣』がかけてあるとはいえ油断できない状況だ。 だが、ディラドを突き飛ばして庇った影がいる。 「ぐぅ……マサト!」 「大丈夫……僕は……平気だ」 突撃をかばい、砂場へごろごろと転がったマサトは砂と傷でボロボロになった体を起こして立ち上がった。 「チッ……。竜の成り損ないの分際で――。消し飛べ! 屑ガァ!!」 ディラドは大きく吼えドラゴンを背後から追いかける。 戦闘前の冷静な姿は微塵もなかった。 「死角を取れたのなら上々だ、反撃にでるぞ」 デュネは飛びあがりながら手から炎を飛ばし、ドラゴンを囲むべく動きだす。 先手は取られた‥‥だが、戦いはこれからだ。 ~激突~ 「我が名はガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード! アルガニアの誇り高き騎士にして姫の忠実なる守護者! 黎子様とアリッサ殿のために、貴様のその醜い腐肉を抉り取ってくれる」 転機を見計らったようにガルバーが高らかにランスを掲げて名乗りを上げる。 誇り高き騎士であり、サイボーグ戦士としての吟じだ。 腰ダメにギアを構えるとパワードスーツの出力をガルバーは高める。 キュゥィンと空気を吸い込む音がするとずっしりとした体をバーニアが浮かせた。 「一気に爆散させてくれる!」 兜の奥にあるガルバーの瞳が光を帯びる。 ゴオォォォゥンとドラゴンが飛行したときとは比べ物にもならない轟音を上げてガルバーが左目に向かって突撃を仕掛けた。 「今度こそ逃さないよ、殴りたくないけど拳しかエルにはないもんねっ!」 横に回り込んでいたエルが大地を駆ける。 今は小さな山の上に佇むケイオスグラードに向かって6人のロストナンバー達と2匹の妖精獣が包囲網を敷いていた。 エルの反対側からはラグズが翼に向かってライフルの砲火を浴びせて空へ飛ぶ自由を奪おうとしている。 翼の両側から攻撃を受け、注意力が分散したドラゴンへサイボーグ戦士が砲弾のように迫った。 顔に向かって足を向け、着地と同時に加速の勢いを伴った槍を突き立てる。 「フ‥‥修羅場の陣よりも、軍の訓練室よりも臭いな。しかし、片目を奪わせてもらったぞぉぉっ!」 腐肉を足場に淀んだ瞳にランスの先が減り込んだ。 と、同時にドゴォンという爆発音があたりに響く。 『グギャァァァァァッ!』 ドラゴンの左目には槍を突き刺しながら高らかに吼えるガルバーがいる。 目を潰された痛みにドラゴンは苦しみもがき、首を振った。 腐った肉が飛び散り、べちょべちょとヘドロのように足元に広がっていく。 マサトは落ち着いていた。 傷は痛むがそれ以上に落ち着かなければならないことを判っていた。 ドラゴンの眼を潰すためには一瞬のチャンスを逃すわけにはいかない。 「すぅ‥‥はぁ‥‥」 深呼吸をし、ウォーハンマー型ギアを砲丸投げでもするかのように構えた。 ずっしりと来る重さだが投げられない重さではない。 「ドラゴンというよりはトカゲに近いな‥‥尻尾にも注意をしなきゃな」 目の前のことに意識を向けながらも次を考える‥‥一撃で終わる相手ではないし、だからといって逃げるわけにはいかないのだ。 ガルバーが大きく振られる首の勢いに負けて飛んだ。 瞑っていた右目が開き、先ほど左目を潰した敵を睨もうと光る。 足を踏み出し、重心を移動させながらマサトはギアを振り下ろすように投げた。 シュルルルルと回転しながらウォーハンマーは空中を走り一直線にドラゴンの眼を狙う。 束縛する光りが放たれようとするとき、雷光がドラゴンの眼に直撃した。 迸るスパークするようにはじけた光りがギアをマサトの元へと返す。 『グルゥルアァァァァ!』 左目は貫かれ、右目を焦がしたドラゴンは天に向かって叫んだ。 「よし‥‥これで失明してくれたら御の字だ」 手になじむウォーハンマー型ギアをぐっと握りマサトはドラゴンとの距離を詰めだす。 「やるじゃねぇか! マサト! このまま押し切るぜ!」 ディラドがマサトに向かってサムズアップをすると、マサトも同じくサムズアップを返した。 ~逆襲~ 「目が潰れたなら、逃げられないようにするだけっ! いっくよっ、せいっ!」 両目に深手を負い、苦しむケイオスグラードに向かってエルが加速しつつ跳躍した。 10mもあるドラゴンを追い越し、翼に向かいながらトラベルギアである【虹の舞布】を纏った蹴りを叩き込んだ。 ぐにゃりと気持ち悪い肉の感覚がエルを襲った。 「ああんっ! もう、気持ちわるいなーっ!」 軟体生物でも相手をしているような手ごたえに苛立ちながらも翼をもぐべく、蹴りからパンチ、チョップと技をつなげていく。 属にいう『コンボ』である。 腐り落ちた翼がエルを振り払おうを大きく凪ぐ。 ブォゥと風が起こり猫や鳥の死骸の臭いと共に腐肉を飛び散らせた。 攻撃を途中で防御へと切り替え、翼を受け止め後ろへ飛ぶ。 彼女の世界では『キャンセル』と呼ばれる動きだ。 エルだけでなく、手負いとなったドラゴンとの距離を詰めながら誰もが急所となる肋骨をさらけ出すべく行動をはじめる。 だが、ドラゴンは思いもがけない動きを見せた。 『グルゥアァァァァ!』 大きく吼えたかと思うと前進からウネウネとミミズのようなものが伸び、動くロストナンバー達を絡めとろうとして来たのである。 一本や二本かと思いきや、イソギンチャクのようにミミズが増え、のように蠢き迫った。 「ちょっ、何これっ!?」 エルに向かってニュルニュルとした触手が何十本と伸びてくる。 軽やかなステップでかわそうとするエルだが、いかせん数が多すぎた。 足に巻きつかれ、手や胴体と次々に絡みつき、体を這ってくる。 「こ、こら! やめっ……変なトコはいってくんなー!」 ニュルニュルと動く触手に体を這い回られ、エルは顔を赤くしながら抵抗した。 腕や足に絡みついた触手はギュぎゅっと締め付けをまし、さらにドラゴンの方へと引き寄せていく。 エルを取り込もうとしているのは火を見るよりも明らかだ。 腐った肉がエルへと迫ってくる。 「ウルズ、触手を斬りおとしてくれ!」 だが、クアールがウルズに指示をだし触手の何本かを斬りおとさせた。 「ありがとう! ら、【ラピッドスタイル】!」 何本か斬りおとされ、多少自由を取り戻したエルがピカーンという光りと共に一部の衣装を脱ぎ捨て、ポーズを決める。 「死ね! この、エロ触手ーっ!」 恥ずかしさと怒りに顔を真っ赤にしたエルがいまだ蠢く触手を【虹の舞布】を両手、両足に纏い体を浮かせた状態で連続攻撃を叩き込んだ。 『エリアルコンボ』と彼女の世界では言われる空中殺法である。 エルの手に伸びるものは弾かれ、さらに回し蹴りによって斬りおとされる。 【虹の舞布】は攻防一体のギアなのだ。 「まったく、見た目と攻撃範囲の広さが合わんのは、やりづらい他ないな。ただでさえ巨大な姿だと言うに」 死角にからの攻撃を行っていたのも束の間、触手による広範囲攻撃に切り替えてきたドラゴンに対してデュネイオリスは嘆息を漏らす。 伸びてくる触手を【黒炎】で焼き払いながら飛行を続けた。 「ちぃっ、こんなことでぐずぐずしていたらマジでジリ貧だぜ。早いところコアを潰さなきゃ足元も嫌な具合になってやがる」 デュネの眼下ではディラドが自らを魔法のバリア『聖神の闘衣』で守りながら間合いを詰めていく。 数が多く捌いてはいるもののバリアの光りが弱まっていくのがデュネには見えた。 「遅れた、大丈夫か?」 「すみません‥‥ありがとうございます」 また少し下がったところではクアールがマサトへ「アースヒール」をかけて手当てをしている。 回復すれば全員で攻めきる事ができるだろう。 「ガルバリュート、隙を作ることはできるか?」 怒号や斬りおとされる音、ドラゴンの悲鳴の響く中デュネはバーニアを使って変則的な動きで触手を避けているガルバーに声をかけた。 「判った、ならば内部より破壊するまでよ」 高機動を止め、両手を広げてガルバーはドラゴンの前に立つ。 見えなくともドラゴンはガルバーを感じたのか触手を伸ばして絡め取り中へと引きずりこんでいった。 ギリギリと触手が腕や足に締めついてくるがガルバーに苦しさは見えない‥‥。 助けようにも現状は自分に飛び掛る触手に誰もが精一杯だった。 じりじりとドラゴンの方へガルバーが引き寄せられ、その体内へズブズブと捕りこまれる。 『グゥゥゥ』 ガルバーを取り込んだドラゴンは低く唸り、その体を膨らませ始めた。 食った亡霊と同じようにその力を自らのものに変えようとしている。 『グワゥ、ウゥゥグルガァオォォォ!』 しかし、ドラゴンの兆候が変わった。 苦しそうに吼え、もがき苦しみついには横に倒れる。 捕り込まれたはずの首元からガルバーが腐肉を破りその姿を現したのだ。 ~決着~ 「エル殿、デュネ殿、一気に決めるであるぞ!」 横倒れしたケイオスグラードのコアは見える範囲に来ている。 体制を立て直す前に決めるならば今しかなかった。 「よし、いくぞ。他の皆は触手の相手をしてくれ!」 デュネが翼を広げ、ガルバーとエルを回収して飛び上がる。 「ったくよぉ、美味しいところを持っていきやがって! だが、一度きりのチャンスになるかもしれねぇんだ! ばっちり決めやがれよ」 バリアが砕け触手を剣で薙ぎ払って防ぐディアドが飛び上がる3人に向かって叫んだ。 マサトは黒猫に変身し触手を合間をちょこまかと走って注意をひきつけ続ける。 「ウルズ、ラグズ! 二人とももう少しだ。耐え切ってくれ」 クアールもギアであるブラストロッドから魔弾を放ち起き上がろうとするドラゴンを食い止めた。 天高く飛び上がった3人はデュネがガルバーを羽交い絞め状態にし、ガルバーがさらにエルを抱きかかえるようにしている。 小さく見えるドラゴンのさらに胸部にあるコアを一撃に打ち抜くために三人の力を合わせようというのだ。 「行くぞ、二人とも……振り落とされるなよ」 デュネの言葉が言い終わるが早いか、周囲の景色が川のように流れるほどに加速して降下していく。 ドラゴンとの距離がぐんと近づいた。 小さな点だったものが手でつかめるほどの大きさになっている。 空気抵抗の中、デュネの手が話され、ガルバーがバーニアを吹かせた。 「ゆくぞ、エル殿っ!」 ドンと空気を震わせる音共にガルバーがさらに加速してドラゴンへと近づく。 ドラゴンの姿が瞬く間に司会一杯に広がっていった。 エルの視線はその中でも肋骨の奥にあるコアをじっと見ている。 「これで最後っ! 投げ飛ばしていいよ!」 「ではっ……ふんぬぅぅぅぅあっ!」 加速しながら落下するなか、バー二アを吹かせて機動を修正したガルバーがエルをコアに向かって投げ飛ばした。 ぐぅっと強い力がエルの背中を押し自分の力だけでは出し切れないほどの加速をエル。【虹の舞布】を両手に纏い、体の前に突き出す。 コアを守ろうと触手が何本も伸びてくるが加速されたエルを食い止めることは出来ずに次々と薙ぎ払われた。 肋骨に到達するもエルの加速は止まらない。 バギバキと骨を砕き、その奥に濁った光りを放つ球状のコアへ手が届いた。 「こぉんのぉぉぉっ!」 光を纏った拳でコアを抜き手で貫く。 ピシっとヒビが入ったかと思うと眩い光りが辺りを包んだ。 真っ白い世界がしばらく続くが、徐々に光りが収束していくと巨大なドラゴンの姿はなく、コアを抱くエルがいる。 「終わった‥‥のか?」 クアールが周囲を見渡した。 光りがうすぼんやりと塊が浮いている。 触れると暖かさとか悲しみとかそんな思いが流れてくるようだった。 「これは‥‥取り込まれていた暴霊の魂?」 気付けばいくつもの塊がふわふわと漂い、そしてゆっくりと薄れて消えていく。 霊力エネルギーそのものへと暴霊が帰っていったのだ。 「勝負‥‥ついたみたいです‥‥ね」 マサトがジャケットについた埃を払いながら大きく息をつく。 「怪我人はいますか? すぐに治しますよ」 クアールが近づき各自の様子や妖精獣負傷を癒していった。 大きな被害はなく、作戦は成功とも言える。 「一番の被害はこの臭いですよね~。ほらほら皆さん集まって~消臭の魔法をかけますよー」 戦闘が終わり軽い性格に戻ったディラドが魔法で臭いを拭い去った。 「これなら温泉券いらないかもね……」 袖の臭いをかいだマサトはほっと一息つく。 ガルバーは臭いはとれたとしてもヘドロのような腐肉まみれになっているエルを一通り拭いていた。 「ようし、さぁ、エル殿ここは一つどちらが最強か決めようではないか!」 「何いってるのー。本来の目的は館長さん探しでしょ!」 ずべしっとエルからチョップを返されたガルバーは「おふぅ……」と息を漏らす。 「この龍は関係なかったようですし……周囲の手かがリを探しにいきましょう」 クアールが妖精獣二体を再びほんの表紙に戻すと眼鏡をくいっと人差し指であげた。 「暴霊よ、せめて安らかに眠るが良い……」 分散した光りの塊にデュネは黙祷を捧げると歩き出した。 その後、ディラドゥアの魔法で捜索を試みたものの館長の手がかりは見つからなった。 しかし、大きな脅威とそれを共に倒せる仲間と出会えたのがロストナンバー達の大きな収穫なのかもしれない……。
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