「クリスマスといえば、ケーキだよね!」 エミリエ・ミイはそう言って、にこにこと笑う。 ここ、ターミナルにもクリスマスがやって来た。ターミナル・ナイトが好評だったとの事で、クリスマス期間にも夜がやって来る事になった。しかも、時折サービスで雪まで降ると言う。 まさに、聖なる夜の演出だ。「折角のクリスマスなんだし、パーティしたいな。食べたり飲んだりして、わいわい騒いだりして」 ターミナルの広場をぐるりと見渡しながら、うきうきとエミリエは言う。 そして、何かを思いついたように「あ」と言いながら手を打つ。「ケーキコンテストっていうのもいいよね! うん、いい考え!」 エミリエはそう言って、皆に呼びかける。 クリスマスパーティをしよう、と。!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。
パーティ会場となった広場に、たくさんの出店が並ぶ。準備が出来次第開店しているところが多く、良い匂いが立ち込めている。 「ええと、スコーンと、クロテッドクリームと、コンフィチュールと……」 相沢 優は、机に持ってきたものを並べていく。食べ歩きも出来るよう、ドーナツとジンジャーブレッドクッキーも並べられている。 「あ、紅茶セットとアッサムティーの準備もしておかないと」 紅茶の準備をしつつ、優は微笑む。 (クリスマスの時、話していたらすっごく食べたくなったんだよなぁ) 準備の手を少し休み、スコーンを手に取る。 「そっち、準備が終わったのか?」 「あ、うん。大体は」 スコーンを口に放り込んだ所で、近くに屋台を構えようとするファーヴニールに声をかけられた。 「今回も、やるぞー!」 ファーヴニールは、そう言って笑う。魚へんの漢字が散りばめられたエプロンにねじり鉢巻という、気合の入った格好だ。大きな鉄板が、彼の前に広がっている。 「何を焼くの?」 「何でも。この特製餃子とか、焼きそばとか。パスタやホットケーキなんかもあるぞ」 そう言いつつ、ファーヴニールはメニュー表を見せる。辛いのから甘いのまで、多種多様だ。 「じゃあ、上から下まで全部もらおうかな!」 ミニスカサンタ姿で、日和坂 綾が現れた。傍らには、フォックスフォームのセクタン、エンエンもいる。 「おう、しっかり食え食え」 ファーヴニールはそう言って、鉄板の上に食材を置き始める。じゅう、といういい音が響き渡る。 「出来るまでの間、ユウのを食べようかなぁ」 「そんなに食べるんだ?」 「もちろん! 人間の限界に挑戦するよっ!」 ぐっと力強く、綾が答える。 「ユウはさ、コンテスト出るの? お料理得意じゃん?」 「いや、出ないよ。出店で手一杯だし」 「えー。味見なら、いくらでも手伝ったのにー」 綾はそう言いながら、優から受け取ったドーナツやクッキーを頬張る。 「紅茶も入れようか?」 「うん、よろしく!」 優が紅茶を入れている間、綾はちらりとファーヴニールの作る焼きそばを見て呟く。 「ニンジンは、入れなくていいのに」 全力で避けよう、と綾は心に決める。 臣 雀は、にっこりと笑いながら揚げパンを頬張る。 「うーん、やっぱり美味しい!」 先ほど、中華料理の店を堪能してきたのだ。 「腹ごなししてきたから、今日は沢山食べるぞ!」 ぐっと拳を握り締め、決意を新たにする。沢山立ち並ぶ店を見るだけで、ドキドキしてくるのだ。 「あれって……何?」 ぴた、と雀は足を止める。 一見、普通の団子。胡麻団子にも見えなくも無い。 「運試しに、お一つです」 シーアールシー ゼロの出店する、謎団子の店だ。ゼロは、足を止めた雀に団子をずいっと差し出す。 「ええと、それ、何?」 「ゼロの『食物』のイメージで、ナレッジキューブから作ったのです」 「あたし、ゲテモノはちょっと」 「栄養満点なのです」 ずいずい、と差し出される。 ええいままよ、と雀は口に放り入れる。 「……あれ、美味しい」 口に入れると、ふわ、と甘い香りが広がった。想像以上に、美味しい。 「すごい、美味しい! 想像外だったよ」 「ありがとうなのです」 褒めまくる雀に、ぺこり、とゼロが頭を下げる。 「それ、そんなに美味しいの?」 ひょこ、とやり取りを聞いていたホワイトガーデンが、顔を覗かせる。 「運試しに、お一つです」 ずい、とゼロはホワイトガーデンに勧める。 「ありがとう。じゃあ、もらうわね」 ホワイトガーデンは、謎団子を口に入れる。 「そういえば、何で運試し、なの?」 ふと気付いて雀が尋ねると、ゼロは「それは」と口を開く。 「うっ……!」 ホワイトガーデンは、手を口に当てる。 「すっごく苦いんだけど、これ!」 「私は飲食不要なので、味がよく分からないのです」 あくまで、イメージの具現だ。味は、超美味からゲロマズまで、完全なるランダム。見た目では分からない。 どんな味があたったとしても、毒ではなく栄養満点ではあるのだが。 「しかも、何か入ってる!」 「一つ、貨幣を入れるのだそうです」 ゼロはこっくりと頷く。 入っているのは、ナレッジキューブ。げほげほと、ホワイトガーデンが咽ている。 「口直しに、これはどうだ?」 涙目のホワイトガーデンに、すっとプティングが差し出される。 差し出したのは、西 光太郎だ。 「わあ、美味しそう!」 雀が言うと、光太郎はにっと笑う。 パン粉やら牛脂やら干し果実を固めて干した、どっしりとしたイングリッシュプティングだ。 「前にヨーロッパで教わった、クリスマスプティングを仕込んだんだ」 光太郎はそう言って、プティングにブランデーをかけ、火をつける。 蒼い炎が、ゆらゆらとプティングに絡まって揺らめく。 「綺麗!」 ホワイトガーデンは手を叩く。 「こういう、色んな文化の人が集ってて、色んなお祭ができるっていいよな」 炎がおさまったプティングを切り分けつつ、光太郎は言う。 「本当ね。こうも一堂に、色んなものも食べられるし」 雀が言うと、光太郎もこっくりと頷く。 「今回は壱番世界のお祭だから、オレもホスト側かな?」 「あら、ここでは皆がホストみたいなものよ」 ホワイトガーデンはそう言って、にこっと笑う。 「そうだな、細かい事はいいか!」 光太郎はそう言い、二人に皿を渡す。プティングを一口食べ、雀はぐっと親指を立てる。 「みんなが笑顔になれる味だね!」 雀の言葉に、ホワイトガーデンもこくこくと頷く。ゼロは「なるほどです」と頷き、謎団子とプティングを見比べている。 「ありがとな」 光太郎は、少し照れたように笑った。 賑やかになってきたパーティ会場内で、雪峰 時光はぐるりと辺りを見回す。 「ほほう、ぱーてぃでござるか!」 さて、何から食べようか、とで店を見て回ろうとする。が、すぐにその足は止まる。 「……む」 ゴミだ。ゴミが落ちている。時光は溜息をつきつつ、ゴミを拾う。 「ああ、あんな所にもゴミが落ちているではござる……!」 「あら、時光さん」 声をかけられ、時光は振り向く。そこには、コレット・ネロとルゼ・ハーベルソンが両手に食べ物の入った袋を持って立っていた。 「コレット殿も、ぱーてぃでござるか」 「ええ。さっき、ファーヴニールさんの屋台に行って来たの」 コレットはそう言いながら、袋を軽く掲げる。良い匂いが、ふわりと漂ってくる。 「美味しそうなものばっかりだったよ。これから、どっかで食べようかと思ってるんだけど」 ルゼがそういうと、時光は「そうでござるか」と頷く。 「拙者も食べ歩きをしたいでござるが、こうもゴミが多くては」 「え、ゴミ?」 きょとんとしながら顔を合わせるコレットとルゼに、時光は「やれやれ」と肩を竦める。 「ハメを外すのも程ほどにせぬと……ああ、向こうにも」 時光はそう言い、びしっと手をあげ「では」とその場を後にする。 「……ゴミ、後で拾えばいいと思うんだけど」 ルゼの言葉に、コレットも「そうね」と頷く。 「あ、コレット」 アインスがコレット達を見つけ、声をかける。 「アインスさんも、お店を出していたのね」 「ああ。しっかりと食べていくと良い」 アインスはそう言って、並べられた食べ物たちを見せる。 生地を星型に切り抜いたピザに、海老のプロシェット。スモークサーモンと大根のオードブル。それに、ツリーのディップサラダがある。 「クリスマスまっさかりだね」 ルゼはそれらを見て、にこにこと笑う。 「コレット、キミにはこれをやろう」 アインスはそう言って、奥からパフェのようなものを取り出して渡す。 テリーヌやミニトマトで飾った、オードブルのパフェだ。 「わあ、綺麗。ありがとう」 コレットはお礼を言いつつ、それを受け取る。 「どこかで、ゆっくり食べられたら良いんだけど」 「それなら、あっちに飲食用のフリースペースがあったぞ」 アインスはそう言って、広場中央の方を差す。確かにそちらには、簡易椅子やテーブルが並べられている。 「あ、本当だね。行こう、コレット」 「うん。ありがとうね、アインスさん」 「ああ」 アインスはコレット達に手を振った後、道行く女性に声をかける。 「お、そこを行くレディ達、好きなだけ食べるといい。食材日は、図書館持ちだからな」 にこやかに、アインスは言う。 そんなアインスを見て二人で顔を合わせてから、ルゼが「あ」と声を出す。 「これ、忘れないうちにどうぞ。コレットにあげようと思って、焼いてきたんだ」 ルゼはそう言って、コレットにジンジャークッキーを差し出す。 「うわあ、美味しそう。ありがとう、ルゼさん」 コレットはお礼をいい、ぱく、と一口食べる。 「コレット、ほっぺに付いてるよ」 ルゼは笑いながら、コレットの頬に付いたクッキーの欠片を取ってやる。 「ありがとう」 「コレットには、世話を焼きたくなるんだ」 二人は笑いつつ、フリースペースへと向かっていった。 うわああん、と少年の声が響いていた。 「む、迷子でござるか」 時光は、少年に近づいていく。 「少年、男は泣いてはいけぬでござる」 少年の顔を見つめながら言うが、少年は泣き止まない。 「……どうしたんだ?」 近くで、フローズン・ヨーグルトの出店を出していた業塵が、時光に尋ねる。 「迷子のようでござるが……」 「これでも食べて、気分を変えるのがいいであろう」 業塵はそう言って、ずいっとフローズン・ヨーグルトを差し出す。少年はそれを見て、きょと、とした顔をして泣き止む。 「各種フレーバーもある」 「スイートにもちょうだい! フレーバー、全種類試すから」 フレーバーを見て、スイート・ピーが目を輝かしながら言う。業塵はこくりと頷き、いそいそと準備をする。 「私にもちょうだい! ふふ、今日はいっぱい食べるわ」 スイートの隣から、ティリクティアも手を差し出す。 「甘いの、好きなんだねぇ。スイートもだけど」 「ええ、大好きよ。げてものとか、油っぽいのとか、辛いのは苦手だけど」 「スイートも! あ、でも、お砂糖目一杯かければ大丈夫!」 「それは、甘いであろうな」 砂糖がたっぷり掛かった料理を想像し、ぽつり、と業塵が呟く。 「待たせたであろう」 業塵はそう言い、二人にたくさんのフレーバーに彩られたフローズン・ヨーグルトを差し出す。山盛りだ。 二人は大喜びで受け取り、口に頬張る。 「美味しいー!」 「甘いの、最高―!」 スイートもティリクティアも、顔を見合わせて喜ぶ。 「そういえば、ケーキコンテストもあるんだよねぇ」 ぱくぱくとフローズン・ヨーグルトを食べながら、スイートは言う。 「そうそう。試食とかあるのかしら?」 同じくぱくぱくと食べつつ、ティリクティアが言う。 「あるんじゃないかなぁ。そしたら、片っ端から目一杯頬張っていくんだぁ」 「あら、負けないわよ。全部試食するわ!」 「スイートも。いーっぱい! おなかぱんぱんになるまで、食べるんだ!」 二人は顔を見合わせ、ぐっと親指を立てる。まるで、戦友のようだ。 「他に何かいい出店はあった?」 ティリクティアの問いに、スイートは「えーと」と考え込む。 「あっちに、いろんなのを焼いてるお店だとか、クリスマスっぽい紅茶とお菓子とか、オードブルっぽいのとか。そっちは?」 「そうねぇ、不思議な団子を売ってる店も見たわよ」 二人は仲良く、情報交換を行っている。その間にも、大量のフローズン・ヨーグルトはなくなっていく。 「……拙者も、一緒に連れを探すでござるから」 スイートとティリクティアが食べている間に、時光と少年は話が成立したようだった。フローズン・ヨーグルト(こちらは普通サイズ)を食べ終えた少年の手を、時光はぎゅっと繋いで歩き始める。 「見つかると、良いな」 ぽつりと、業塵は言う。時光は、それにこっくりと頷き返すのだった。 クリスマスハム、ユールシンカのグリルを並べ終え、ゼロ=アリスは小さく微笑む。 「あとは、ここにジャムを置いて」 風車方に焼いたパイの真ん中に、ジャムを盛り付ける。これでクリスマスパイ、ヨウルトルットゥの完成だ。 「ハム、いっただき!」 「あ」 並べ終えたユールシンカを、ひらりと小さな手が掠め取る。風峰 爽太だ。 「爽太くん、家でいつも食べてるでしょう?」 「そうだけど、やっぱこういうところで食べるのも、またいいじゃん?」 にっと笑いながら、爽太は答える。 「えっと……これ、なんて料理?」 「ユールシンカです。サンタの国、フィンランドのクリスマス料理なんですよ」 「へぇ、何か見たこと無い料理だ。美味いけど」 爽太が感心したように言う。 「あ、かっわいい!」 アリスが並べたヨウルトルットゥを見つめ、ナタりー・斉藤が目を輝かせる。肩には、セクタンのオードリィがいる。 「パイなんです。お切りしましょうか?」 「うん、ぜひ! 見た目にも可愛い料理やお菓子がいっぱいで、天国に居るみたい!」 にこにこと、ナタりーは言う。 「へぇ、他にも可愛い奴とかあったの?」 爽太が尋ねると、ナタりーは「うん」と笑顔で頷く。 「雪だるま型のアイスとか、リースみたいなクッキーとか」 ねー、とオードリィに話しかける。 「わあ、いいなー。アリス姉ちゃんにも、何か取ってこようか?」 「そうですね……では、爽太くんが美味しいと思ったものを」 「了解! オレは料理駄目だから、その分食ったりしないとな」 ぐっと爽太は拳を握る。 「お、いいねー。わたしも、たくさん食べる気満々なんだ!」 「気が合うね、ナタりー姉ちゃん」 「はい、どうぞ。一緒にお飲み物はいかがですか?」 アリスがパイをナタりーに手渡す。 「わあ、ありがとう。飲み物も、ぜひ」 「じゃあ、これを。スパークリングワインジュースなんですけど」 アリスはそう言いつつ、ボトルを取り出す。ぱっと見は、普通のワインのようだ。 「え、それジュースなの?」 「はい。私、お酒は飲めませんから」 感心するナタりーに、アリスはワインジュースをグラスに注ぐ。 「アリス姉ちゃん、オレもオレも」 「はい」 爽太のぶんも、アリスは注いでやる。それを、爽太はぐいーっと飲み干した。 「よーし、じゃあしこたま食べに行くぜ!」 「あ、いいな! わたしも!」 ナタりーはパイを片手に、走り出そうとする爽太を追いかける。 「アリス姉ちゃん、お土産楽しみに待ってろよー!」 ぶんぶん、と爽太はアリスに手を振ってみせる。アリスは微笑みながら手を振り返し、自分のグラスにワインジュースを注ぐ。 「楽しいですね」 小さく呟き、会場を見渡した。ぱちぱちと弾けるワインジュースみたいに明るく楽しい、会場を。 フラーダは、出店でもふもふとお腹を満たしていきつつ、ついに到着した。 ケーキコンテストの会場である。 「甘いの、好き!」 会場内は、甘い香りで満たされている。辛いのは苦手だが、甘いのは大好物だ。 何せ、とても辛いのを食べると、火を吹き涙が出るのだから。 「さあ、そろそろケーキコンテスト、開催します!」 司会者が叫び、会場内から「おおおお」という熱気が漏れる。 「勿論、コンテストは皆さんに試食もしていただきますよ」 「試食ー!」 フラーダも叫ぶ。もちろん、会場に来ている皆も叫ぶ。特に、甘いもの好きで試食を心待ちにしていたスイート、ティリクティアの歓声がひときわ大きく響く。 「エントリーナンバー1! 祭堂 蘭花さん」 司会者はそう言い、蘭花にマイクを向ける。 「僕が作ったのは、抹茶チョコケーキだよ」 蘭花はそう言い、ケーキの台座に被せられていた布を、ばっと剥がす。途端に、蘭花の作ったケーキが顔を出す。 抹茶風味のスポンジに、抹茶のチョコクリームが挟まっている。周りにも抹茶のチョコクリームをコーティングし、クルミなどでトッピングされている。 「僕、お菓子作りは大好きだし、それなりに得意なつもりだから、こういう場になるとついつい力入れちゃうんだよねー!」 蘭花はそう言って、ケーキを見つめる。 ふわふわとしたスポンジに、とろりとした抹茶チョコクリーム。自信作だ。 「それでは、エントリーナンバー2! ツヴァイさん」 今度は、ツヴァイの前にマイクが差し出される。 「俺のケーキは、ホワイトチョコとイチゴのデコレーションケーキだ!」 ばっと布を剥がしつつ、ツヴァイは言う。 ふわふわのスポンジケーキに、たっぷりの生クリームを乗せ、ホワイトチョコとイチゴでデコレーションがされている。 更に、中央には砂糖菓子が二つ乗っている。どうも、カップルになっているようだ。 「超・傑・作のクリスマスケーキだぜ!」 ツヴァイはそう言い、くいっくいと砂糖菓子を指差す。 「切る時は、中央から真っ二つに切ってくれよ? カップルを引き裂く辺りから、な!」 なっはっは、とツヴァイは笑いながら言う。そして、会場内にコレットの姿を見つけてぶんぶんと手を振る。 「コレット、特別にカップケーキ作ってきたから、後で食べてくれよ?」 突如話しかけられ、コレットは少し頬を染めつつ手を振り返す。 「続きまして、エントリーナンバー3! 坂上 健さん」 「俺のは、クロカンブッシュだぜ」 オウルフォームのセクタン、ポッポを肩に乗せ、白衣を着た健はそう言って笑う。 「きちんと計量、味見しながら作ったから、ばっちりだ」 そう言いながら、健は飴細工の青いバラを取り出し、クロカンブッシュに飾っていく。そして、横長に作られた飴細工の残りの頭頂部に向かって、木槌を振り上げる。 「来年は、KIRIN脱却するぞっ!」 ――かしゃん! ぱらぱらぱら、と飴が零れ落ちていく。しん、と一瞬会場内が静まり返った。 「ええと……これ、本当はお祝い用の幸せお裾分けケーキだから。今回のは、引きずらないよう、俺的けじめ、みたいな」 徐々に、会場内が再び熱を帯び始める。 「一念発起的というか、来年は頑張ろうってさ!」 健の言葉に、拍手が起こった。 「さてさて、エントリーナンバー4! 藤枝 竜さん」 「私のは、北海道遠征ケーキ、です!」 ばさ、と布を剥がす。今までの中で、一番巨大なケーキだ。 真っ白なパウダーの下地を、雪に見立てているのだ。砂糖菓子で作ったロストレイルとジャバウォック、そして竜の砂糖菓子を、そこにひょいひょいと並べていく。 「ちょうどこの時期でしたね! 石狩鍋、おいしかったです。こっちに来て友達も増えましたし、楽しい一年でした!」 にこっと竜は笑いながら言う。 「あ、わ、ワームはいいけど、私は食べちゃ駄目ですから」 砂糖菓子を指差し、竜は付け加える。会場内が、笑いに包まれた。 「次は、ちゃんと生地から作りたいです。料理、がんばります! あと、来年もよろしくです」 その後も、数人のコンテスト参加者のケーキが紹介される。そして、全員が紹介し終えた後、司会者が叫ぶ。 「それでは皆さん、お待ちかねの試食タイムです!」 司会者の言葉と共に、一斉に皆が動いた。ケーキの前に、あっという間に人だかりができたのだ。 「フラーダ、食べる!」 もふっとしながら、フラーダも動いた。まずは、蘭花の抹茶チョコケーキ。 「抹茶、苦くない。甘い、美味しいー!」 「ありがとう。僕の自信作だからね!」 「蘭花、好きー!」 蘭花は、もふもふ、とフラーダを撫でる。 続いて、ツヴァイのデコレーションケーキ。 「生クリーム、ホワイトチョコ、イチゴ、全部美味しいー!」 「砂糖菓子も食うか? 恋人の味、だぜ」 「ツヴァイ、好きー!」 誰も手を出しにくかった砂糖菓子を乗っけてもらい、フラーダはご満悦だ。 次は、健のクロカンブッシュ。 「一杯、食べるー。バラ、綺麗。甘い、美味しいー!」 「俺の念が詰まってるからな。ついでに、これもやろう」 「健、好きー!」 飴の残りもひょい、と乗っけられ、フラーダは大喜びだ。 そして、竜の巨大ケーキ。 「大きい、甘い、美味しいのー!」 「あ、駄目ですってば。私は食べちゃ駄目です。代わりにこっちを」 「竜、好きー!」 竜の砂糖人形の変わりに、ワームを乗せてもらい、フラーダは嬉しそうに笑う。 結局、甘いものをもらう人、皆が大好きでたまらない。 フラーダは大喜びのまま、ケーキを試食しまくる。もふもふのお腹が、更にもふもふになるまで。 「食べた後、フラーダいつも眠い。フラーダ、寝るー……」 しこたま食べた後、フラーダはうとっとして眠りに入る。その直後、司会者から「それではっ」と声が上がった。 「皆様の投票を集計し、コンテスト優勝者を発表します」 ざわざわ、と会場内がざわつく。どろろろろろ、とドラムロールも鳴り響く。 「エントリーナンバー1! 祭堂 蘭花さんの、抹茶チョコケーキです!」 ばっと照明が蘭花に向けられる。惜しみの無い、拍手と共に。 「一言、お気持ちをどうぞ」 「やれるだけの事はやったから満足だったんだけど……やっぱり嬉しいよ!」 蘭花の言葉の後、より一層大きな拍手が沸きあがった。 「それでは皆さん、メリークリスマス!」 司会者の言葉と共に、ふわり、と空から雪が舞い降り始めた。ホワイトクリスマスだ。 「メリークリスマス!」 皆が一斉に、叫んだ。ある者は食べ過ぎて倒れたまま、またある者はまだ食べながら。暖かいものを飲みながら、微笑みながら、綺麗だと空を見上げながら。 こうして、ターミナルのクリスマスは暖かな雰囲気のまま、楽しく行われていくのであった。 「連れは、どこでござるかー?」 時光の叫びと共に。 <メリークリスマス!・了>
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