「クリスマスといえば何だ?」 書類整理をしていた世界司書ツギメ・シュタインが顔を上げ、突然そんなことを訊いてきた。 今年のクリスマスは特別に『夜』が訪れる。ターミナル・ナイトでも『夜』はやってきたが、今回はなんと『雪』までもが降ってくるのだという。 表情には出さないが、司書となってから初めてのホワイトクリスマスをツギメは楽しみにしていた。「なになに、何かすんのー?」 居合わせていた漆重 シノが椅子に座って足をバタつかせながら言う。 ツギメは頷いた。「ロストナンバーにも気忙しい日々が続き、疲れている者が多いだろう。だからこそ、このクリスマスが良い休息日になればいいと思ってな」「なる。じゃあじゃあさぁ、ツギメがミニスカサンタのコスプレをして踊ぶふっ!」 シノは顔面に張り付いた書類を首を振って引き剥がす。「お気に召さない?」「当たり前だ」「いーじゃんいーじゃん、きっと皆楽しんでくれるよー?」 それでも首を縦に振らないツギメにシノは肩を竦めた。「それじゃあ皆で美味しいもの持ち寄ってさ、プレゼント交換会しない? オレ好きなんだよなー、こういうイベント!」「交換会か……」 贈り物とは何にするか考えている時間が一番楽しいとツギメは聞いている。 そして受け取った相手の表情を見て一喜一憂し、嬉しさや楽しさを共有出来るとも。「それもいいかもしれないな。大仰な施設も要らない分すぐに準備出来そうだ」 頷き、ツギメは書類を纏めて机の上に置く。「すぐに手配しよう」 レンガ造りの暖炉にはゆらゆらと炎が揺れ、長方形の大きなテーブルの影を壁に映し出す。 暖炉の上にはポインセチアが一対置かれており、鉢の縁をヒイラギの葉と実が彩っていた。部屋の四方と窓の左右にはレトロなランプが吊るされ、部屋の中を照らしている。 毛足の長い絨毯は触り心地が良く、冷たさを遮断してくれた。 外が暗いためか、部屋全体は薄暗い。しかし寒さを感じる暗さではなく、どことなく暖かな雰囲気に包まれていた。 窓から外を覗くと、そこには白い雪と様々な思いを抱いた人々が行き来している姿。 ――この部屋に話し声が溢れるのも、もうあと少しのこと。●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
●白い夜 しんしんと雪が降る。 それに見惚れつつも、サシャは木製のドアを開いた。 「本日はお招きいただき誠に有難うございます、メイドのサシャと申しますっ」 仲間と聖夜を過ごす部屋。 そこに居る皆に向け、サシャはそう挨拶した。 「初めまして。あたしはシレーナ。今日は楽しく過ごしましょう?」 聞けば皆もつい先ほど到着したところなのだという。 シレーナは部屋を見渡し、ツギメに歩み寄った。 「お久しぶり。元気だったかしら?」 「ああ、そっちも元気そうで何よりだ」 微笑が返ってきたのを見てシレーナも笑みを浮かべる。 「それにしてもその格好……」 シレーナはツギメの服装を見る。世に言うミニスカサンタ服というものだ。 ツギメはしばしモゴモゴした後、折角のクリスマスなのだから着ろと言われた、とだけ答えた。 「皆集まったか」 別室から顔を出したのはデュネイオリス。彼もまた赤いサンタ服に身を包んでいる。 彼はローストチキンに苺のケーキ、シャンパンやシャンメリーを追加でテーブルに並べていった。 「この手の料理は何故か赤い色が強くなる気がするな」 「たしかにね~。でも美味しそうだから良……いてっ」 摘まみ食いしようとしたシノの手を窘めたのは虚空だった。 「皆で一緒に、だろ?」 「あう。それじゃ早く席に着こう、もうお腹ペコペコだ!」 でかい子供みたいだな、とその背を見て思いながら虚空も自分の席に座った。 ●温かな湯気 「これ美味しい……!」 ラザニアを一口食べたサシャが目を輝かせる。 「それ、あたしが作ったのよ」 「シレーナ様が!?」 他にもパスタ、肉料理。パネトーネとパンナコッタといったデザート類もシレーナは持参していた。 「ワタシもクッキーを作ってきたんです。よかったらどうぞ!」 「あら、素敵ね」 シレーナはジンジャーブレッドクッキーを一枚手に取る。 齧ってみると一気に味が口の中に広がった。 「これ……とても美味しいわ。レシピ、教えて欲しいんだけど良いかしら?」 「……! はい、喜んで!」 そんな微笑ましい光景を見ていたデュネイオリスが自分に向けられた視線に気がつく。 視線の主はシノだ。 「なんだ?」 「あ、いや、サンタ服似合ってるなーって」 「……まあ自分の意思で着たのではないがな」 言いながら咳払いひとつ。 「ちなみに、私はサンタ語は喋れんぞ」 「サンタ語!?」 なんでも全て「Ho-Ho-Ho」で構成された言語なのだという。それは言語と言えるのかどうか怪しいところだが、Hoひとつにも様々なニュアンスが存在するのかもしれない。そういうことにしておこう。 「ああそうだ、よかったらこれも飲んでくれ」 虚空が荷物から引っ張り出したのは、黒い光沢のある瓶に入ったシャンパン。 黄色いラベルには異国の言葉が連なっていた。 ●運試し サシャとデュネイオリスが持ってきたのはクリスマスプディングというものだ。 「この中にはボタン・コイン・指輪が入っていて、指輪は「早く結婚できる」、指ぬきとボタンは「一生独身で過ごす」、コインは「お金持ちになる」って占いだよ」 まずワタシからやってみるね、とサシャはプディングにフォークを入れた。 そうして出てきたのは、 指ぬき。 「……そんな……そりゃあ時々こけて花瓶おっことしたりお皿を割ったり砂糖と塩間違えたりドジするけどサシャはきっといいお嫁さんになるよって旦那様のお墨付き貰ったのに、というかワタシの運命の人は素敵な殿方は……!?」 「落ち着け落ち着け」 虚空のツッコミにサシャは息を整える。 「い、今のはなし! 仕切りなおし!」 そして笑顔で言った。 「今のはね、そう、聖夜の奇跡っていうか手違いっていうかドッキリなの! 来年に期待!」 頬に汗の浮かんだ、とびきりの笑顔である。 「それじゃ……どんな結果でも別にいいが、俺もやってみるか」 頭を掻きつつ虚空もプディングに挑む。真っ二つにしてみると何やら見覚えのあるものが出てきた。 見覚えの、あるもの。 「……」 「指ぬき、か」 デュネイオリスが目を細められるだけ細める。 「まあ、婚姻だけが全てではないしな」 言いながら彼も何気ない動作でプディングを割ったが、そこからは色艶やかなボタンが出てきた。 「……」 「……交換するか?」 ツギメとロゼが複雑そうな顔で自分の引き当てた指輪を見せるが、 「いや、結果は現時点で出ているからな」 と、デュネイオリスは眉間を押さえた。 その隣で「コインだ!」とシノがはしゃぐ。 「あたしもコインね、お金持ちになる……アバウトな内容だけれど、夢があるわ」 余裕のある微笑みを見せ、シレーナはコインをポケットに落とした。 「お待ちかねの交換ターイム!」 サシャがそう言い、虚空がアミダを作成する。 名前部分を折って隠してから沢山の棒を皆で書き足していった。 「よし、完成だ!」 虚空がペンを皆に渡し、アミダの描かれた紙を広げた。 それぞれたまに譲り合ったりしながらプレゼントは決定してゆく。 「あたしのはディネイオリスさんのものね」 シレーナは包みを解いて中を見た。 その瞬間に解き放たれたのは甘く、しかし癖のない鼻を惹き付ける香り。 「これは……」 「簡単に持ち帰れるようにしてみたが、どうだろうか?」 ケーキの詰め合わせだ。交換用に作ってきた特別製である。 きっと先ほど食べたケーキのように美味しいのだろう。香りが既に物語っている。 「ありがとう、持ち帰って大事に食べるわ」 上にのったサンタとトナカイの砂糖菓子を楽しげに眺め、シレーナは微笑んだ。 「私は虚空のものか。重さがあるが、食器類か?」 「ご名答」 虚空はニッと笑う。 ディネイオリスが箱を開けると、白色に走る優雅な青い柄が目に入った。花や葉の描かれたカップとソーサーのペアだ。 「隣は茶葉だな」 「ああ、デンマークの……って、ツーリストにはピンとこないか」 笑う虚空に笑みを返し、ディネイオリスはそれらを大切に鞄へと入れた。 その隣ではツギメがメゼから貰った雪の結晶柄マフラーを巻いている。 「わあ……!」 包みを解いたサシャが顔を綻ばせた。 「あっ、それ俺からね、俺から!」 ツギメから貰ったプチシュークリームセットを見ていたシノが言う。 それはうさぎの形をしており、幸せそうな表情が特徴の人形だった。 「ありがとう、どこに飾ろうかなぁ…!」 瞳をきらきらさせ、サシャはその人形をぎゅっと抱いた。 そんなサシャのプレゼントを引いたのは虚空だ。 「へえ、どれどれ」 虚空が包みを取ると、そこからバレリーナと男の子の陶人形が特徴のオルゴールが出てきた。試しにゼンマイを巻いてみる。 「この音楽は……ロンドン橋落ちた?」 「はいっ」 「インテリアにも最適だな、ありがたく貰っておくぜ」 虚空は軽く片手を上げて笑った。 「綺麗だなぁ」 ロゼが自分の箱から出てきた銀細工のストラップを見て呟く。 それは両目にエメラルド、リボンにルビーが嵌め込まれたクマ型をしていた。 「あたしからのものよ、気に入ってもらえたかしら?」 シレーナの問いにロゼは勢い良く頷く。 「もちろん! 色の取り合わせがクリスマスカラーなんだな。大事にする!」 笑い、ロゼはそれを腰のベルトに付けた。 賑やかな声が行き交った夜。 同じ日が来るのは――また一年後のこと。 その日にほんのりと思いを馳せながら、7人は今日という日を楽しみ明かしたのだった。
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