ツリコンを行います、という張り紙が、ターミナルのあちらこちらで出されていた。 その張り紙を良く見れば、小さな字で「クリスマスといえばツリー、ツリーといえば飾りつけ。よって、ツリーの飾りつけのコンテストを開催します」とある。 大小さまざまなツリーが用意してあり、大きいものだと他の人たちと一緒に、小さいものだと個人で飾りつけが出来るそうだ。 コンテストと銘打っているものの、特に賞などが設けられているわけではない。 ただ、広場に用意されたツリーを綺麗に飾りつけるという、それだけである。 また、広場を開放するので、店を出しても良いとある。 さあ、クリスマスを共に過ごそう!=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
「メリークリスマス!」 ツリコンの会場から少し離れた場所で、ストリートライブが開かれていた。 会場に向かおうとする人々の足が、ふと止まる。 歌っているのは、ハーミットだ。0世界に来てから、あんまり唄っていなかったと気付いたのだ。 「新曲は最近書いてないから、『Tarot』の曲でいいかな?」 クリスマスの雰囲気に沿っている、雪と夢をイメージしたバラードソングだ。 (後は、壱番世界のクリスマスソングかな?) 歌いながら、ハーミットはふと気付く。 自分をビデオカメラで撮影しているマフ・タークスの姿が見えたのだ。 「なっ……何でここにいるの?」 歌の途中で、思わずハーミットは突っ込む。マフは「失礼なヤツだな」と言いながらも、ビデオカメラは手放さない。 「Marcelloってヤツに頼まれたんだよ。さっさと唄え、この野郎」 「ちょっ」 ハーミットは何かを言おうとし、ぐっと言葉を呑み、再び唄い始める。 (やれやれ) マフはそっと目を閉じる。 会場の外れで、聞いたことのある声がすると思っていた。やってきたらハーミットがライブを開いていた。ただ、それだけだ。 「ったく、オレが惚れた女に、声だけ似やがって。男のクセに」 ぶつぶつ言いながら、マフは目を開ける。 やはり、ハーミットが歌っている。女ではなく、男のハーミットが。 辺りを見ると、道行く人々が足を止め、ハーミットのライブを楽しんでいる。 即興のライブにしては、なかなかの人入りだ。 「曲のタイトルは知らんが、ここまで声が通るとはな」 マフは呟いた後、ビデオカメラを持ち直す。 クリスマスを盛り上げるように、ハーミットの歌声は続いていた。 ライブ映像を見ながら、Marcello・Kirschは鼻歌交じりに店を切り盛りする。 「温かくて、食べ歩きのできるものって事で」 売っているのは、パニーニだ。生ハムに、ソフトサラミ。チーズ、バジルソースにマヨネーズ。勿論トマトやレタスといった野菜もたくさんある。 「あれ、これ……クリスマスカラーだ」 丁度いいや、と呟いて笑う。 マフの撮っているライブ映像からは、丁度ハーミットがクリスマスソングを歌っている。 「まあ、クリスマスソングね」 隣の屋台から、ひょい、とディーナ・ティモネンが顔を覗かせる。 「友達がライブしてて。あ、良かったら」 Marcelloはそう言って、売り物のホットチョコレートを差し出す。 「じゃあ、私からも」 ディーナはそう言って、ホットワインに手を伸ばす。 「ごめん。俺、酒駄目なんだ」 「あら、ごめんなさい。これならどう?」 ディーナは改めて、ホットレモネードを差し出す。 「有難う。そっちは、トリッパと、チキンバーと……」 「紙コップに入れて出せたらいいな、と思って」 「クリスマスだもんな」 「ええ。こういうの、やってみたかったの」 ふふ、とディーナは笑う。ミニスカサンタ服が、良く似合っている。流石に、厚手のコートを羽織ってはいるが。 「おいしーごはーんを出してるお店がいっぱいあるって聞いて!」 にょき、と顔が二人の間に飛び出てきた。ちょこん、とそこにいたのは、レイド・グローリーベル・エルスノールだ。 「パニーニ、美味しいぞ」 「チキンバーとか、トリッパもあるわよ」 「じゃあ、全部くださーいな」 レイドはそう言って、二人から食べ物を受け取る。 「どんなのがあるか、全然わかんなかったけどネ。とりあえず、いっぱい食べるー!」 レイドは満面の笑みで言うと、ぱくっとパニーニにかぶりつく。おいしー、と嬉しそうにぱくついている。 「みんなへのお土産も買って帰りたいしー、紅茶に合うお菓子でも探してみようかな?」 「それなら、あっちにカフェが出てたわよ」 ディーナの言葉に「カフェ?」とレイドは聞き返す。 「ハオさんが出してたよ。クリスマス仕様のお菓子とか売ってたっけ」 カフェの話で盛り上がる二人に、レイドは「なるほどー」と言って、ぱくっと最後のパニーニを突っ込む。 「じゃあ、行ってみるよ。ありがとー」 「メリー・クリスマス。どうぞ、楽しいひと時を」 レイドの背に、ディーナは声をかける。 「いいな、こういうの。いつかお店を持って、こういう事してみたいな」 「確かに楽しいね」 ディーナの言葉に、Marcelloが頷く。ディーナは「そうね」と頷き、ふふふ、と笑った。 「余ったら、ロンに差し入れしちゃおう」 ディーナがそういった瞬間、すいません、と声をかけられる。新たなお客が来たのだ。 Marcelloとディーナが対応している間に、レイドはカフェへと到着しようとしていた。そして、ふと気付いたように呟く。 「そいえば、綾も食べ歩きしてるんだっけ」 会えたら、一緒についてってみようかなーと付け加え、くすくすと笑う。 「何かと面白いニンゲンだからなー。見てて飽きないよね」 暫く行くと、カフェに到着する。ずら、と美味しそうなお菓子が並んでおり、カフェオレ無料提供中、の文字も見える。 「どれがお勧めかなー?」 レイドはハオに尋ねる。ティータイムが楽しみになる、お菓子を求めて。 はっくしゅん、と日和坂・綾はクシャミをする。 「誰かが噂しているのかな」 真面目な顔で言うと、隣にいる相沢 優が「かもね」と言って笑う。 「そんだけ食べ物を持ってるからじゃない?」 「全制覇するためには、仕方ないよね?」 綾の手には、パニーニやらチキンバーやらお菓子やらうどんやら。 とにかく、沢山の食べ物が乗っかっている。 「まだまだこれからだよ、ユウ」 「そっか。でも、不思議だなぁ。あれから、一年経ったんだ」 優はそう言って思い返す。昨年のクリスマスは、店を出す方の側だった。懐かしみつつ、手にしていた焼きそばを口にする。あつあつで、ソースの匂いがたまらない。 「ユウのそれ、美味しそう。一口ちょうだい! 代わりに、コッチの好きなの食べてイイから」 ずいずい、と綾は食べ物を差し出す。優は考えた末、パニーニを受け取り、代わりに焼きそばを渡す。 「うーん、美味しい! もっと買えばよかったなあ」 「それ以上?」 「うん」 「そ、そっか……あ、あそこ。ゼロの店があるよ」 優は綾への突っ込みをとりあえず置き、一点の屋台を指差す。 シーアールシー ゼロが出している店だ。 「いらっしゃいませ、なのです」 「今年も頑張ってるね、ゼロ」 「前年のクリスマスより、更にパワーアップしてるのです」 ぐっと拳を作りつつ、ゼロはずらっと並んだ団子を疲労する。 その名も、謎団子・怪! 「これは、前年の謎団子をあらゆる面で強化し、面白びっくりパーティーグッズとして、長足の進歩を遂げているのです」 「パーティーグッズとしての自覚はあるんだね」 はは、と優は突っ込む。 「まず、味! 美味ゲロマズの振幅、当社比2倍!」 「2倍なんだ!」 キラキラした目で言う、綾。 「社?」 気になる部分を聞き流せなかった、優。 「栄養価は、一口で数分程、男性はムキムキ! 女性はボンキュバン! しかも、私が団子を持って巨大化し、私だけ戻れば……増産プロセスで、無料で無尽蔵に供給できるのです」 「あ、それは凄い」 素直に優は感心し、綾は手を叩いている。 「これが、無料で提供なのです! 完璧、なのです」 パチパチパチパチ。 気付けば、ゼロの屋台の周りで、拍手が起こっていた。 「何だか、凄い事になってるな」 苦笑交じりに、虎部 隆が声をかけてきた。 「あ、隆。やっほー」 「食べ歩きをやってるの?」 「まあ、これからって所だな。飯は慎重に行かないと」 隆の言葉に、ずい、とゼロが謎団子・怪を差し出す。 「さあ、これを」 「俺、無理に七面鳥食わなくていいけど、それで妥協するのは駄目な気がするんだよな」 ふ、と隆は目線をそらす。 「そういわず、さあさあ!」 ずいずいと詰め寄るゼロに、隆は「あ」と声を出し、明後日の方向を見る。それにつられ、ゼロもそちらを見る。 その隙に隆は、だっ、と走り去る。 「綾、優、あとで駄弁ろうな! 異世界にサンタがいるかってな!」 去り際に、隆が叫ぶ。綾と優は「了解」と言葉を返す。 「じゃあ、私達もいこっか。……ほら、あれ。可愛いミニテディ! ユウ、ああいうふわもこ好きでしょ? 2つ頂戴!」 ぐい、と綾は優の腕を引っ張る。優は「じゃあね、ゼロ」と手を振りつつ、綾に引っ張られていく。 「では、そこのあなた!」 ゼロの団子が、ぐいぐいと、見物客の口に入れられていくのだった。 祭堂 蘭花の出しているうどん屋の横は、藤枝 竜の鉄板焼きの店であった。 暖かな店が並んでいるとの事で、人の入りも上々だ。 「いらっしゃーい! メリークリスマース! あっつあっつで食べながらあったまれるお店ですよー」 じゅる、と最後に涎が出そうになるのを、どうにか留める。鉄板焼きも隣のうどんも、とにかくいい匂いがする。 鉄板焼きはほぼセルフサービス。とにかく火を出していればいいだけだ。いい匂いに涎は出るが。 暫くすると、ようやく休憩時間になった。へろへろ、と近くにあった机と椅子につく。まかないの鉄板焼肉とオムそばセットを、忘れずにもらってから。 「しやわせー……でも、うどん」 食べながら呟くと、とん、と目の前に丼が置かれた。目線をあげると、そこには蘭花の姿がある。 「君、隣の鉄板焼きの人だよね? 折角だから、お裾分け」 「嬉しいですー。でも、いいんですか?」 「うん、この飲食スペース自体僕の用意したものだし、構わないよ」 蘭花の言葉に竜はお礼を言ってから、うどんを啜る。昆布と鰹がしっかり効いた出汁だ。 「どう? うどんは手打ちで、出汁もお手製のこだわり品だよ」 「凄く美味しいですー。でも、どうしてうどん?」 「クリスマスにうどんはヘン? けど、良くない? 体もあったまるしー」 「ああ、それはそうかもしれませんね」 「トッピングもあるよ。てんぷらとか、油揚げとか」 「うわあ、それもいいですねー」 竜は言い、改めて蘭花の店を見る。ぱっと見は、縁日の的屋みたいだ。 「あれ、ケーキもあるんですか?」 お店の端に、抹茶のケーキが置いてある。 「あれは抹茶チョコケーキだよー。僕の特製なんだ」 「抹茶チョコケーキ、ですか!」 じゅるり、と竜が涎を啜る。蘭花は「じゃあ」と言って、悪戯っぽく笑う。 「そっちの鉄板焼肉と、交換してもらおうかな」 「え、これですか? じゃ、じゃあ、ちょっとだけ!」 暖かい店の、暖かい商品の交換会が、密やかに行われるのだった。 ミニスカサンタに撒き付いた、きらきらと輝くイルミネーションが移動していた。 いや、正しくは、イルミネーションをぐるぐると体に巻きつけている、ミニスカサンタコスをしたチェガル フランチェスカである。 「釣道具持ってきてる人いないかなー」 チェガルはきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。たまにぴょんと飛び出た釣竿が見える。 しかし、彼らに注目はいかない。それよりも注目されるべく、歩く獣竜イルミネーションがいるのだから。 (コンセント式のイルミネーションを巻き付けて、魔力の電気流しているだけだけど) 緑コードなのと、毛皮にコンセントを隠しているのとで、チェガル自身がイルミネーションになっているのだ。 「あ」 ふと目の前の店を見ると、クリスマスローズ・ポインセチアといった花や旬の冬野菜、雑貨といった、様々なものが並んでいる。 ヴァリオ・ゴルドベルグの店だ。 「いらっしゃい」 「色んなものを売ってるんだね。絵に木彫り人形に……お菓子にケーキまで」 「そっちのは、友人達が提供してくれたものだ」 「手編みのマフラーは?」 「それは、同居人が作った」 「色んな人の力がこもってるんだねー」 感心したようにチェガルが言うと、ヴァリオはこくりと頷く。 「こっちは、鉱石が雪だるまとか結晶みたいになってる」 チェガルは思わず手に取る。きらきらと鉱石が光って綺麗だ。 「それ、買ってやろうか」 突如声がして振り向くと、隆が立っていた。 「こういう小物、いいよな。折角だから、記念に」 「ほほう、おごりとな? それはいいのう」 新たな声がしてそちらを見ると、今度はジュリエッタ・凛・アヴェルリーノが嬉しそうに立っている。クリスマスの雑貨を手にしながら。 「わあ、可愛いね、それ。どこで買ったの?」 「向こうで、漆重・シノが輪投げで雑貨を取る店を出しておってな」 チェガルの問いに、ジュリエッタは答える。 「近くで、ロンがかぼちゃ頭のぬいぐるみとかも売っておったぞ」 「そういえば、俺も見たな。その隣にはフェイが本を売ってたっけ」 隆も思い返しつつ言う。 「どれも欲しくなっちゃうね」 チェガルが言うと、ヴァリオも「なるほど」と頷く。 「俺は、同居人と友人達への贈り物も探していてな。星の硝子細工などどうかと思っていたんだ」 「ええい、全員にはおごらねーって!」 隆は慌てて突っ込む。 「でも、ボクにはこれを買ってくれるんだよね?」 鉱石で出来た雪の結晶を差し出しつつ、チェガルが隆に尋ねる。 「そうだな、丁度クリスマスツリーみたいになってるし、飾っとけ飾っとけ」 隆はそう言いながら、ヴァリオから雪の結晶を購入し、チェガルに手渡す。チェガルは嬉しそうに、それを体に飾り付けた。 「よし、パニーニやらチキンバーやらうどんやら焼肉やら、がっつり食ってやるぜ!」 「謎団子っていうのを見たよ?」 チェガルの言葉に、拳を作った隆は「いやいや」と手を振る。 「それだけは、ねーから」 隆の言葉に、一同は笑うのだった。 ツリコン会場では、大小さまざまなツリーに人々が飾り付けを行っていた。 「やっぱり、こういうところで武器の良さをアピールするのが大事だと思うんだ、うん」 坂上 健は「なあ、ポッポ」と、ツリーの頂点に止まっているセクタンに話しかける。 健のツリーは、見事なまでに武器で彩られている。 小さな武器のミニチュアがゆらゆらと木の枝で揺れ、それにモールやLED、普通のオーナメントも飾られている。 全体的に、派手派手しい。 見物客がやってくると、待ってました、といわんばかりに健は近くに置いてある発電自転車を必死に漕ぐ。Z.M.A.で借りてきた、LED用の電気だ。 「そっちは加州清光で、こっちは和泉守兼定!」 がこがこがこがこ、と自転車を漕ぐ音が響く。 「あ、それは俸手裏剣に、ボウガンな! やっぱり銘アリ混ぜた方が、喜ぶ人多いかと思ってさ!」 へぇ、と感心する声が聞こえる。健はその反応に心の中でガッツポーズをしつつ、必死で自転車を漕ぎ続ける。 「よーし、目指せ武器ヲタクの市民権向上!」 うおおおお、と健は漕ぎまくる。 きらきらとLEDが光り輝いている。武器のミニチュアは、その光を受けて、様々な色に光っている。 市民権向上ができた……かもしれない。 真っ白な木に、黄色い星を飾りつけながら、ティリクティアはにっこりと笑う。 「うん、綺麗!」 お菓子の飾りを多数飾りつけ、全体的に明るい色彩になっている。 「あ」 ことん、と飾ろうとしたキャンディの飾りが落ちてしまった。慌てて拾おうとすると、にゃあ、という声と共に飾りが手渡される。黒猫 にゃんこだ。 「ありがとう」 「どういたしましてにゃあ」 にゃんこは満足そうにいい、またとてとてとツリコン会場へと紛れ込んでいく。 「よし、できたー!」 最後の飾りを飾りつけ、ついにティリクティアのツリーが完成する。少し離れた所から確認し、満足そうに頷く。 「じゃあ、記念撮影」 パシャ、と持ってきたカメラで撮影する。正直、あんまり上手ではない。 「それと……すいません」 「俺?」 ぜえはあと肩で息をしている健に、ティリクティアは声をかける。必死で自転車を漕いだ後らしい。 「私とこのツリー、一緒に撮ってもらえますか?」 「いいよ」 パシャ、と一緒に撮影してもらう。ティリクティアより、上手い。 「よーし、他の人のも見て回ろうっと!」 ティリクティアは健に礼を言い、ツリコン会場内へと向かう。カメラを握り締めて。 ふむ、とツリーを見つめながら、カーマイン=バーガンディ・サマーニアはこっくりと頷く。 「中々面白いですね」 小さなツリーに、イミテーションの果物をたくさん飾り付けていく。 林檎に蜜柑、梨に葡萄といった、様々な果物だ。 「本来、一緒になるはずもない果物たちを飾ってみるというのは、中々楽しいものでございますね」 同じ木に、違う果物は生らない。だが、クリスマスツリーならば、それを可能とする。 「このツリーも小さいけれど、可愛らしくて温かみのある、よいものでございます」 カーマインはそう言い、林檎を飾る。中に灯りが入っており、ぼんやりと光っている。 「ふふ、これも良い音です」 ちりん、と涼しい音を響かせる鈴を手にし、飾り付けていく。胡桃の形をした鈴は、様々な果物を飾り付けられた木に、よく合っている。 全て飾りつけ終えた後、カーマインは少しはなれてツリーを見る。 ぽう、と優しい灯りが林檎に灯っており、様々なイミテーションの果物を温かな光で照らしている。風が吹けばツリーがやわらかく揺れ、ちりんちりん、と鈴の音が響く。 「楽しいものでございますね」 今一度、カーマインは呟く。 実感のこもった、一言であった。 「HAHAHA!」 小さなツリーを飾り付けている中に、一層楽しそうな声が響く。ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードである。 ガルバリュートは体を緑に塗りたくり、星をつけたギアを高々と掲げている。装飾と電光コードを固く己に巻きつけ、立っている。 「見られているようで、その実、拙者の本質は見られていない」 体の各所には、玉や飴といった飾りまで、ふんだんに取り付けられている。 「それもまた、良し!」 自分ではなく、ツリーとして見られているという事なのだが、間違いなく変態。 時々、フンフン、と言いながらポーズを変えている。様々なポーズをとるツリー(?)に、見物客を飽きさせる事はない。 「フンッ!」 ぶちっ、とコードが引きちぎれる。力が入りすぎて、パンプアップで千切れてしまったらしい。 「装飾品は脆弱で困る」 やれやれ、と言わんばかりに、ガルバリュートは言う。 装飾品が脆弱なのか、ガルバリュートが力強いのか。恐らく後者であろう。 「HAHAHA!」 ガルバリュートの笑い声は、楽しそうに広場に響き渡るのだった。 少し大きめのツリーには、シートン一家が挑戦しようとしていた。 アーネスト・マルトラバーズ・シートン、ワーブ・シートン、バナーテイル・シートンの三人だ。三人と言うか、お三方である。 「さて、やりましょうか」 アーネストが言うと、ワーブがこっくりと頷く。 「おいらも、手伝うのですよぅ」 「細かい所なら、お任せだよ」 バナーテイルもこくこくと頷く。 「では、大雑把な所はワーブさん、細かい所はバナーテイルさんにお願いしましょうか。ワーブさん、これを」 アーネストはそう言いながら、ワーブにモールを手渡す。 「バナーテイルさんは、この端を一番上に括りつけてもらえますか?」 「任せてくれよ!」 すたたた、と素早い動きでバナーテイルはツリーの頂上へと向かう。あっという間だ。流石は、リスである。 「括ったよー!」 「じゃあ、ワーブさん。ツリーの周りを回ってもらえますか?」 「了解だよぅ」 ワーブはモールの端を持って、のっしのっしとツリー周りを歩き始める。ちゃんと、トラベルギア、ポラリスの爪を発動させている。 でなければ、物が持てないからである。 「その間に、バナーテイルさんはこれらの飾りを飾り付けてもらえますか? わたくしも行きますから」 アーネストはそう言い、オーナメントをバナーテイルに手渡す。そして、自らもハシゴに登っていく。 バナーテイルはオーナメントを持ったまま、たたたた、とかけていく。そして、アーネストに指定された所に一緒に飾りをつけて行く。 下では、ワーブがモールを飾りつけ終えていた。 「できたよぅ」 「じゃあ、あちらに置いてあるオーナメントの箱を、持ってきてもらえますか?」 アーネストの指差す方に、オーナメントが沢山入っている箱がある。ワーブは「了解だよぅ」と答え、荷物を移動させていく。 「とりあえず、ここに置いて行くのですよぅ」 「有難うございますー」 「次はここに飾ればいいんだよね?」 「はい」 そういった会話や行動を何度も繰り返し、大きなツリーは綺麗に飾られる事ができた。 「やったー、できたー!」 バナーテイルが、ぴょん、と跳ねて喜ぶ。 「完成したのですね」 ほう、とアーネストが微笑む。 「綺麗だよぅ」 ワーブも嬉しそうに、こくこくと何度も頷く。 「皆で力を合わせたからですね」 「楽しかったよぅ」 「ちょっと大変だったけどね」 くすくすと三人は顔を見合わせ、そしてアーネストは二人に向かって口を開く。 「メリークリスマス」 ワーブとバナーテイルは顔を見合わせ、同じように「メリークリスマス」と返すのであった。 広場の中心にある、一番大きなツリー。 そこには、色んな人と一緒に飾りつけようと、多くの人が集っていた。 「うわあ、それ、凄く可愛いですね!」 舞原 絵奈は、ドアマンが飾っているあみぐるみを見て笑う。 「有難うございます。こちら、ジンジャーマンになっております」 ドアマンが嬉しそうにあみぐるみを差し出す。 「こっちは雪だるまですね」 「はい。他にも、様々なオーナメントを持ってきてみました」 ドアマンはそう言いながら、袋から様々なあみぐるみを見せる。 「舞原様は、良く動いてらっしゃいますね」 「はい。皆さんとこうして作業するの、すっごく楽しくて。私、今日はいくら動いてもバテる気がしません!」 「それは頼もしゅうございます」 二人が話しながら飾り付けていると、後ろから「あの」と声が掛かる。 「ゼシね、高い所に飾りたいの。でも届かなくてね」 もじもじと、ゼシカ・ホーエンハイムが言う。 「じゃあ、肩車しましょうか?」 絵奈の言葉に、ぱあ、とゼシカの顔が綻ぶ。 「あ、ありがとう」 「これ、ゼシカさんが作ったんですか?」 絵奈の問いに、ゼシカは頬をほんのり赤く染めつつ、こっくりと頷く。 「ゼシの手作りビーズのアクセサリーで、ツリーさんもお洒落さんに大変身」 「うん、確かに大変身ですね!」 「これがお星さま、これはうさぎさん。これは……」 あ、という声と共に、ビーズのアクセサリーが下に落ちてしまう。そこに、とててて、と白いフェレットがやってきて、拾いあげる。アドだ。 アドはビーズのアクセサリーをすっとゼシカに手渡し、またどこかに行ってしまった。 「じゃあ、飾り付けちゃいましょうか」 絵奈に肩車をしてもらい、んしょ、とゼシカはツリーに飾り付ける。キラキラと光に反射して、輝いている。 「上の方をご所望でしたら、わたくしがお手伝いできますよ」 「ならば、これもお願いできますか?」 ドアマンが絵奈とゼシカからビーズのアクセサリーを受け取っていると、予祝之命が小さな鈴を差し出してきた。民族調の組紐をあしらっている。 「そういうものも飾ってよいのだな」 感心したように、ツギメ・シュタインが言う。 「ツギメさんも、飾り付けに来られたんですか?」 絵奈が尋ねると、ツギメはこっくりと頷く。 「皆を楽しませるものを自分で飾る、というのは、中々興味深くてな」 「では皆様、行ってまいります」 ドアマンは声をかけた後、上の方の宙にドアを設置する。ドアを開け、上の方にビーズのアクセサリーと鈴を飾りつけようとする。 「これは」 興味深い何かを見つけて呟いた後、飾りつけ、再び皆の下に戻る。 「有難うございます、ドアマンさん」 ゼシカがぺこりと頭を下げる。ドアマンは「いえ」と首を振り、微笑む。 「珍しいものを拝見できたので、満足でございます」 ドアマンは微笑み、上を指差す。 そこには、宇治喜撰241673が飾り付けられている。皆は顔を合わせた後、再び作業に戻る。 全て完了すると、一番大きなツリーに、灯が灯った。 「凄い。こんな綺麗なもの、初めて見た」 絵奈は呟く。ドアマンやゼシカは、嬉しそうに見上げている。 二人を心配させないよう、絵奈はその場をそっと離れる。涙が零れ落ちる前に。 広場から見える一番大きな建物に、イルミネーションツリーが出来上がっていた。ジュリエッタが、窓にセクタンの資格能力を利用して、正確に電飾を取り付けていったのだ。 「イタリアでは、聖夜は一番重要なお祭じゃ。イタリア都市グッビオの世界一ツリーには及ばぬが、皆が楽しんでくれれば幸いじゃのう」 ジュリエッタはイルミネーションを見て微笑む。そして、ゆっくりと目を閉じる。 (昔、見たのう。亡き両親と共に) じり、と鼻の奥が痛い。 目を開くと、空からふわふわと雪が降ってきていた。ホワイトクリスマスだ。 「風の扱いは、任せろッてンだヨ! 俺サマの十八番だゼ、ゲハハハハ!」 どこかで、声が響いてくる。ジャック・ハートの声だ。 「メリー・クリスマス、良い夢をッてなァ、仔猫チャン?」 ヒャーハハハハ、とジャックは笑い声を上げる。が、すぐにカップルに気付き、中指を立てる。 「見せ付けてンじゃねェヨ、バカヤローども!」 その声に対し「どうせ見せ付けられるならツリーの方がいいよな!」という声が帰ってきたような気がした。 雪合戦の会場から強奪した雪を降らせつつ、ジャックは会場を見つめる。キラキラと輝く、沢山のツリーたちを。 「キング、クイーン……アルナ。いつか必ず帰る。この地を、血と炎に染めてロストレイルを奪う。氏族のために」 小声でジャックは呟く。誰の耳にも届かぬ、陰鬱な声で。 クリスマスの夜は更けていく。 喜びも、悲しみも、怒りも、楽しさも。全てが渦巻いて、イルミネーションへと変換され、キラキラと輝かせながら。 だからこそ、今一度皆で叫ぶのだ。 メリークリスマス! <ツリコンは大盛況のうちに・了>
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