深い樹海に鎖された0世界の大地をよそに、復興にわくターミナル。 世界司書たちは、さまざまな激務に追われ、忙しい日々を送っていた。そんなある日のこと―ー とある世界司書が仕事中に倒れた、と連絡があった。 アリッサが駆け付けたとき、そこでは同僚の司書たちが難しい顔で本の山と格闘していた。「どうしたの……?」「最初は過労かと思ったのですが、そうではないようなのです」 応対した司書は告げた。 事態は思ったよりも突飛で、重大であった。「私たちロストメモリーは、記憶を封印することで真理数0を獲得します。その封印された記憶は『アーカイヴ』に保存されます」「そうね」「つまり、ある意味、私たちはつねにアーカイヴ遺跡とつながりを持っている……そう言っても良いのです」「……! それじゃあ」「そのとおりです。先のチャイ=ブレの一時覚醒と、世界樹との戦いにより、アーカイヴ遺跡内にも破壊が生じました。その結果、保存されている情報に乱れが発生したようなのです」 その結果、世界司書が意識障害に陥ったのだろうということだ。 アーカイヴは自己修復機能を持つため、時間とともに問題は解決すると思われるが、それまでは、いつ、どのロストメモリーに症状があらわれるか予測できず、すでに発症したものには対処を要する。 「稀な事例ですから、対処法を見つけるのに苦労しました。しかし」「なんとかなりそうなの?」 司書が頷いたとき、がらがらと音を立てて、台車で運ばれてきたものがあった。「え……壺……?」「『壺中天』です」「――と、いうわけで、みんなは、この『壺中天システム』を使って、意識だけアーカイヴへ行ってもらいます。アーカイヴ遺跡深層『記憶宮殿』。そこには司書のみんなの記憶が封印されているの。倒れた司書の記憶に接続するから、みんなはその中に入り込んでもらうことになるわ。司書の……記憶の中に」 『壺中天』とはインヤンガイで普及している仮想現実ネットワークだが、今回はその技術が応用できた。 司書の記憶の中に入り込み、中で生じている「乱れ」を正すことで、司書は目覚める。 乱れとは、「本来、その記憶にはなかった要素」のことだ。 たとえば、ある司書が、故郷で、ドラゴンと戦って勝利した記憶を持つとする。ところが今、『記憶宮殿』に生じた乱れのため、「ドラゴンに敗北した記憶」になってしまっている。これが昏睡の原因なのだ。そこで、壺中天を通じて記憶に入り込み、もとの記憶に沿うよう、ドラゴンに勝たせてやればよい。なにがもとの記憶と違っているのかは、記憶に入り込めば直観的に知れるという。「ひとつ、約束してほしいの」 アリッサは赴くことになったロストナンバーたちに言った。「みんなは、本人さえ、もう思い出すことができない、封印された記憶に立ち入ることになる。プライバシーを覗き見てしまうことにもなるでしょう。だから戻ったあと、『記憶宮殿』で見聞きしたことは、本人はもちろん、この先誰にも、決して話してはダメよ。一生、秘密にしてほしいの。この約束が守れる人だけに、この任務をお願いします」* * * 着物の人々が、恐ろしげに噂しあう。それを、彼は茂みの陰から静かに伺っていた。「深黒山へは近付くな」「あそこには鬼が住んでいる」「行けば鬼に喰われるぞ」 時代は巡る。噂と共に。鬼もまた、*「湯木、撤退だ! 早く逃げろ!」「先輩ッ!」 五芒星の刻まれた銃を手に持ち黒いスーツを纏った男女が、一刻も早く洞窟から脱出しようと走っていく。追うのは、古より深黒山に住むと伝えられる人喰い鬼だった。 鬼は目にも止まらぬ速さで、後方を走る青年に襲いかかる。鬼が持つ炎を纏った大太刀が男の肩を刺し貫くと、男の呻きが洞窟内に響き渡った。 とっさに前を走っていた女が足を止め、青年にトドメを刺さんとする鬼に向けて発砲する。「馬鹿、早く――」 放たれた銃弾はいとも容易く、太刀で斬り捨てられた。鬼は身を翻し、次の瞬間には女の目前に現れる。斬りつけられた女の脚から焦げた皮膚の割れ目から真っ赤な血が流れ出し、彼女は崩れ落ちた。 青年は傷を負った肩を押さえ、彼女を呼ぶ。彼女は、苦痛と共に声を絞り出した。「撤退を!」 青年は悔し気にひどく顔を歪めた。しかし躊躇いをかなぐり捨てるようにして、女を置いて走り去る。洞窟の出口へと。 蹲る女の前に立つ鬼は、それ以上彼を追わなかった。「何故、私を喰わないの?」 鬼の手により洞窟の奥に作られていた部屋へと運ばれた退魔師の女は、負傷した足に手当てを施す鬼を訝しげに睨みつける。部屋の隅に積まれた人骨は、できるだけ見ないようにしながら。「名は?」 鬼が問う。刀を鼻先に突き付けられ、女は低い声でそれに応えた。「湯木、瑞美よ」「ほうか。……運が良かったのう、湯木。わしは今、腹が減っとらんのじゃ。お前、しばらくは生きられそうじゃぞ」 古い着物姿の鬼は、愉快そうに笑ってみせた。ぼさぼさのまま伸ばされた赤い髪に、浅黒い肌。爪は鋭く、笑う口にもチラリと牙が覗く。さらに額からは一本の角が生えていた。――ただ。青い瞳の左の目元に、泣き黒子が見える。ロストナンバー達が知る姿とは随分違うが、どことなく。その『鬼』には、今現実世界で眠り続けている世界司書の面影が確かにあった。「そのうち食べるってこと、か」「それが鬼じゃけ、悪いとは思うがの。山に入ったお前らがいけんのじゃ」 鬼は奪い取った拳銃を興味深げに掲げ見つつ、女の向かいの地面に座す。「それより退屈じゃ。何でもいい、何か話せ」「……」* 昏睡状態の湯木を救出するために集ったロストナンバー達は記憶の歪みを探すため、鬼の記憶を順に辿っていた。捕らえた女を手元に置き、喰わぬままに日々を過ごす鬼の記憶を。*二日目、「また何か話せ」「そんなに幾つも話すことなんてないわよ」「話せば喰うのを延ばしてやってもええぞ?」「どっちにしろ食べるんでしょ。いつでも勝手にすればいいわ」「ほうか。なら今日がええかの」「……ちょっと話すこと考えるわ」三日目、「それは何じゃ」「……携帯電話よ。貴方、見たことないの?」「人の世も変わったの。最近は『深黒山の噂』を畏れる者もとんと見んくなった」「そうね。その分、面白半分で山に入ろうとする人が増えて取り締まりに困るんだけど」「そんで諸悪の根源を潰しに来よったか。人に畏れられ逃げられるんは慣れとるが、今は随分人気になったもんじゃ」「……」「じゃが、生きにくい世の中になったのう。まぁ、昔から人に歓迎された覚えはないが」「……」「……」「ねぇ、」「何じゃ」「もしかして、貴方……寂しいの?」「……」五日目、「思うんだけど、寂しいなら人喰いなんてやめればいいじゃない」「無理を言う女じゃ。人を喰らわねば、わしは鬼としての力を保てんようになる」「鬼でなくなる、ということ? つまり人間に?」「それ以下じゃの。並の人間よりも劣る、抜け殻みとぉなもんじゃ」「普通の食事じゃ駄目なの?」「人間の食い物なんぞ、腹の足しにもならん」「そう……鬼でなくなるの、嫌?」「嫌じゃ」「どうして」「お前は「人間やめろ」と言われたら、嫌やないんか」十日目、「いい加減貴方の名前教えてよ、何て呼べばいいのか分からない」「……夜纏童子」「呼びにくい」「なら、好きに呼べばええじゃろう」「じゃあ、夜。たまには貴方が何か話してよ」十五日目、「どうして私を食べないの?」「腹が減っとらんと、昨日も言うた」「嘘、さっきお腹なってたじゃない」二十日目、「ねぇ、夜。一緒に街に行かない?」「嫌じゃ。わしはこの山からは出ん」「でも、寂しいんでしょ?」「人里に出て、人を喰らわずにおれると思うか」「でも、私のことは食べないじゃない。それとも、やっぱり鬼でなくなるのが嫌なの?」「……それもある、のかのう」* 時代は巡り、世は変わる。 長きに渡り山で独り変わらぬ歳月を過ごしてきた鬼も、また。* 瑞美が捕らわれてから、何日目の夜なのか。鬼は、未だ足の怪我でまともに走れぬ彼女を抱えて山を駆けていく。鬼の髪は以前よりも鈍く変色し、心なしか全身の色素が落ちてきているようだった。額の角も、細かな罅割れが見えている。 深黒山の麓に、幾つもの灯りが点っていた。灯りは坂を登り、鬼の住まう山を徐々に覆っていく。「何故」 鬼は苛立たしさを隠さず、低い声を漏らした。遠くに、鬼の居場所を探す者達の声が聞こえてくる。脚を止めている暇はなかった。「何故、わしを庇った。あれはお前の仲間じゃろう」「……なんでかな? 分からないや」 瑞美の手は銃弾が掠った痕の腕を抱えるように押さえている。彼女の仲間である退魔師の一団が、討伐すべき鬼を今尚確実に追い詰めていた。 この場面に至って、ロストナンバー達はついに『記憶の歪み』の在処に気づく。 鬼に抱えられ、彼女は苦笑を浮かべている。しかし俄にロストナンバー達の脳裏に宿ったのは、彼女が銃弾を胸に受けて横たわり、苦しげに同じ笑みを浮かべているイメージだった。 ロストナンバー達はすべて理解する。自分達がここで、いったい何をしなければならないかを。 二人を逃がしてはならない。 湯木瑞美を殺さなくてはならない。 現実の彼女は、とっくに死んでいるのだから。* そしてロストナンバー達は、深黒山の麓へ降り立った。========!注意!このシナリオのノベルは、便宜上、公開されますが、世界観的にはすべて「秘された内容」となり、参加キャラクターの方だけが知る出来事となります。========
深黒山の夜の空気はひどく冷たく、息苦しかった。そう感じるのは自分達がしようとしていることへの罪悪感故なのかと、イェンス・カルビネンは暗闇に黒く沈む山へ視線を向け、そっと目を伏せる。 「時間がないわ。急がないと、邪魔が入ってややこしいことになる」 その傍らでティリクティアが山の麓に群がる灯りの群を遠目に見やり、常ならぬ静かな声色で呟くように仲間を促した。 「そーだな、退魔師連中に追っかけられてあちこち行かれんのも面倒だ」 榊は煙草を燻らせながら、そんな彼女の様子を一瞥する。それから他の人間の姿を観察するように眺めてから、彼らの表情に合わせるようにほんの少しだけ視線を下に落とした。 「追手に俺達の存在を悟られるのもだ。退魔師はすぐ其処から登ってる。鬼は反対側へ逃げるはず」 雪深 終の言葉に、ティリクティアは一度頷いた。 「行き先、なら分かるわ。私には『視える』から」 彼女は、山の中腹を指差す。そこが鬼の住まう岩屋がある場所、彼らはそこから山の反対側の麓へ向かって下山する――そう、予知した『未来』を語った。 「途中に、小さな社があるの。樹に覆われてて見つけにくい場所よ。『鬼』はそこで一度瑞美を休ませようとするみたい」 「そこで……待ち伏せをしよう、ということかい?」 イェンスが問うと、ティリクティアは再度力強く頷いた。彼女の瞳の真直ぐさに、イェンスは喉元まで出かけた言葉を飲み込む。この先には間違いなく、辛い仕事が待っている。年端のいかない少女にそのような経験をさせてしまうのを心配に思うのは、年長者である彼には当然のことだっただろう。しかし、彼女の目には強い決意が篭っていた。それこそ、彼が説得したとしても引き下がることなどないと分かるほどに。 イェンスは終と榊に、彼女の提案をどう思うか問うように首だけ動かし振り返る。二人が首肯すると、イェンスはティリクティアの方へ向き直った。 「…………、行こう」 深く生い茂る草木を掻き分け、一行は獣道を奔る。耳に届くのは砂利を蹴る音や風を切る音ばかりで、彼らは一様に口を噤んでいた。ただ黙々と、ティリクティアが示す方向へしたがって先を急ぐ。 ふいにその沈黙を破ったのは、榊のぼやくような呟きだった。 「あの大食らい、本来の主食断ってたからだったんだな。『鬼』が『湯木』になる切欠を、あの嬢ちゃんが作ったって事なんかね?」 現在の司書が人肉を口にしているところなど誰も目撃していないし、そんな噂も存在しない。鬼は、人を食わねば鬼でいられなくなると口にしていた。それを望まぬ言葉も。それでもそうさせた者がいたとするならば、彼女がそうなのだろう。 「たぶん、これからそうなるんだろう」 一行の中でも比較的慣れた足取りで先行していた終が応える。鬼は未だ、鬼を捨てることを完全には受け入れていないようだ。なら、彼が変わる切欠はこれからという事になる。 (その切欠、というのも。今の湯木は覚えていないのか) 現実の司書は、この記憶を一切所持していない。鬼を捨て、記憶を捨て、そうしてできた今の彼は、もうあの鬼とは違う存在だ。 終には、『鬼』と『女』と『人間』と。どの立場も、分かるし、分からない。永き時を孤独に過ごした鬼は、鬼である自己を殺してまで変化を受け入れた。女は、己の命を捨ててまで、多くの人間の命を食らってきた鬼を救った。人間は、死の山に自ら登り、食われ、同胞達がその仇を討たんとまた死の山を登る。彼らの運命の行き着く先は、「死」ばかりだ。 あるいは。鬼が記憶を封印した事が。この記憶をアーカイブ遺跡の記憶宮殿に保全し、今改竄し、この先永久に遮断する。そのこと自体が、生きようとする本能か、意志なのか。ならば、そうさせた鬼の情もそうなのか。 そう思考を続けるが、それでも彼らに対する理解を終の感情が拒む。生への想いの深さ故に、死が絡みつくこの「山」が、終には受け入れ難かった。 (生きる為に、死は付き纏う。否定も許されない。どこまでも――) 「『これから』ねぇ。本来の記憶で女が死ぬ時何言ったかしんねぇけど、湯木って名乗ってるくれぇだし、まぁ思い入れはあったんだろうな」 榊は無感動な心内のままに、言葉を綴る。それは人の感情の機敏をそれで辿っているかのようでもある。理解できぬものに惹かれる興味、とでも言えばいいのか。人の心の動きはそれほど、彼には予想しきれぬものを持っていた。 「記憶封印前に手回ししねぇと、名乗れねぇんだろ? 全部忘れちまうんだし」 「……そう、だね。だから彼は、名前だけでも、残したんだろうね」 最後尾に付いていたイェンスはそう呟き、彼の顔を心配そうに覗きこむオウルフォームのガヴェインを宥めるように体を撫でる。榊は後方からのイェンスの応答を得て、もう一つだけ、思いついたままに呟いた。 「他人とまともに話してしかも一緒に居んのってあの嬢ちゃんが初めてだったのかもな。それ以前は関わりっつっても人間を食う時と退魔師と殺し合う時位ってとこか」 「そうかもしれない。でも、それは全部過去のこと。でしょ?」 ティリクティアがそれ以上の推測を拒むように、榊を一瞥することもなくそう発すると、彼は「そりゃそうだ」と肯定した。 「保存された記憶の中で女が生きてんのは不具合で、今更どうしたって事実は動かねぇ」 それに、と榊は続ける。 「記憶修正して目ぇ覚めても湯木は覚えちゃいないけど、この先寝っぱなしだったら現実で死んでるあの嬢ちゃんは死んでも死に切れねぇ、だろ?」 (「人間」なら、そう考えるか) 「……そうね」 それきり、一行はまた沈黙した。ティリクティアが時折、先を奔る終に方向を指示する以外は、もう誰も口を開かない。 土を踏み、木々の隙間を抜ける。ティリクティアは、その間もただ前を見ていた。 (湯木、必ず助けるわ。だから、待ってて) そのために自分はここに来たんだと、ティリクティアは心の中でまた自分を奮い立たせる。去年のクリスマス、食いしん坊の彼から贈られてきたプレゼントを覚えている。セクタン型の弁当箱と、料理本。本を読んで、失敗しながらも一生懸命料理の勉強をしたことも。お弁当に頑張って作った料理を詰めたことも。それを持って彼に会いに行ったことも。司書室棟の休憩室で、湯木だけでなく皆に、美味しいと言ってもらえたことも。 もしもこれが、変えることのできる「未来」であるのなら、自分はきっと力を惜しみはしなかった。変える為に自分に出来ることがあるのなら、自分はそれを諦めたりはしない。 でも、これは全て「過去」なのだ。もう終わってしまったこと。すでに何もかもが手遅れの、変えられない、変わらない、「過去」。 (なら、私は……湯木を助ける為に彼女を殺す。そう、決めた。だから、だから私は、ここにいるの) 誰にも悟られぬよう、グッと奥歯を噛みしめる。予知に視えた社は、もう近い。 (大丈夫。私は、迷わないから) 壊れかけの社は個々の境界が分からぬ程生い茂った樹木に覆われ、誰からも忘れ去られたかのようにそこにあった。一行はひとまず木々の葉陰に身を隠し、鬼と女を待つことにしてそれぞれ四方に散り隠れられそうな茂みを探す。 (全部、過去のこと……か) 丁度良い大きさの岩陰に腰を落としたイェンスは、ふと、先の仲間の会話を思い出し、暗い面持ちで目を伏せ、目頭を押さえる。 (確かに、これは歪んだ結果生まれた歴史かもしれない。全て過去で、現実ではないかもしれない。それでも、……それでも) このまま、二人。無事に逃げられる未来があったなら。そう想う程に、胸が岩で押し潰されているかのように、苦しくなる。 (それでも、……彼女を殺していいと、想うことはできないんだ) 愛する人が、血に赤く染まり、青褪めた顔で、目を閉じている。その姿を見ることがどれだけ哀しく、辛く、絶望的であるかを、彼は痛いほどによく知っていた。二度と彼女が目覚めないということが、どれほどまでに受け入れ難いことであるか。そしてそんな彼女を救えなかった自分の無力さが、どれほどまでに呪わしいことであるか。 しかし、現実で眠り続ける「湯木」という世界司書を、必要とし、待つ者がいる。先にティリクティアが見せた瞳に込められた強い意思も、きっと、彼女もその中の一人だからだろう。それは、覚醒後の彼自身が「湯木」という名で築いてきた価値だ。もし、彼が目覚めなければ、それはきっと失われてしまう。……おそらく、現実の彼女が彼に遺したはずの「何か」も。それだけは、二人の為にもダメだ。 でも、ただ、それでも、どうして。 (どうして、二人を救う事ができないんだ……!) 遠くに、誰かが走ってくる音が聴こえる。だんだん近づいてくるその足音の主は、きっと想像した人物に相違ないだろう。仲間の緊張感が高まるのが分かる。せめて少しでもその足音が遅くなればいいと願うのは、許されない事なのか。 木の葉が強く擦れ合い、大きく揺れる。それと共に、ロストナンバー達は逃げる女を抱え逃げる鬼の前へと躍り出た。 「何者じゃ。退魔師……とは違うようじゃが、湯木、どうじゃ?」 「分からない。退魔師の制服ではないし、少なくとも、私はこの人達に見覚えはないよ」 立ちはだかったのが追ってきていた退魔師ではないと分かると、鬼は一行を射殺さんばかりに睨みつけ、低くどすの利いた声を発した。 「喰らい殺されとぉなかったら早ようどけ。手負いの女連れなら命取れるとでも思うたか、餓鬼共が」 その双眸には、文字通りの鬼気が宿っていた。遙か昔からこの山を支配し、人々に恐れらた鬼から向けられる怒りの感情に気圧されそうになりながらも、一行は尚も四方から二人を囲んでいる。 「女、汝の命貰い受ける……じゃねぇや。嬢ちゃん、あんたの首寄越せ」 「――え?」 「! 湯木、掴まっとれ」 次の瞬間、刀同士がぶつかり合い、深黒山の夜空を甲高い音が引き裂いた。榊のトラベルギアである模擬刀を、鬼が咄嗟に抜いた刀で止めたのだ。己ではなく明らかに腕の中の女を狙った攻撃に、鬼も、女も、困惑しているのが見て分かる。 しかし鬼はそのまま刀を振り抜き、強引に榊の模擬刀を退けた。鬼の刀を赤い炎が覆い、鬼の彼らに対する怒りをより一層露にする。 「あんた、面白ぇ太刀持ってるな」 「黙れ、口の過ぎる道具などわしは好かん。お前らは何じゃ。何故この女を狙う」 「答えられねぇな。答えても、あんたには理解できねぇ話だし」 鬼は抱えていた女を一度降ろし、敵意を剥き出しにロストナンバー達を見据える。女もまた懐から退魔師用の拳銃を取り出し、銃口を持ち上げた。 「……どうして? 私にわざわざ殺すだけの価値があるとは思えないんだけど」 怪我で上手く立ち上がれないようで、膝をついた体勢のまま女は問う。それに、終は左右に首を振って応えた。 「説明できないのは、俺達も辛いところだ。だから、許さなくていい」 「……すまない。恨むなら、恨んでくれて構わない。それでも僕達はどうしても……君達を、このまま行かせてやることはできないんだ」 続いてイェンスが、謝罪を口にした。その様子に女は余計に困惑を深めたらしく、彼らに向ける拳銃を支えている腕が僅かに下がる。 その瞬間、ティリクティアが前に出る。護身用に所持していた短刀を握る彼女は、言葉も、表情もなく、ただ、目の前の「鬼」へと真直ぐに突進していった。 「夜!」 女が叫び、下げかけた銃が再び金髪の少女に向けて構え直される。 「湯木! わしはええ、自分を守れ!」 鬼火を纏った刀が躊躇いなくティリクティアに襲いかかった。彼女はそれを故郷で鍛えられてきた護身術を使い、短刀を操って受け流す。間近に迫った炎の熱に、短刀を持つ手が火傷しかけているような感覚を覚える。しかしそのまま止まらず、突進した勢いのまま、鬼の脇腹に肘を叩きこんだ。 「ッ! 舐めよんな、此の糞餓鬼がァッ!!」 空を斬った刀が、すぐさま返し少女を狙う。殺意の篭った迷いのない動きに、ティリクティアの短刀を持つ手が、刹那に震える。恐怖ではない。ただ、いつもの「彼」と同じ声で発せられる怒号が、「彼」が今紛れもなく自分に殺意を向けている、その事実が――苦しくて。 身を固くしたのは、ほんの一瞬のことだった。しかし、その一瞬の間にも、鬼の刀の切っ先は彼女の身体を捉えんと炎をさらにまき上げている。彼女を飲み込もうと言わんばかりの勢いで。 「させねぇよ」 その刀を、榊の模擬刀が止める。 「お前、」 「俺達は、あんたに用があるわけじゃねぇんだ。黙って大人しくしててくれねぇかな」 「ふ、ざけるなァ!」 「夜、もういいから逃げて! 早くしないと追いつかれるわ!」 イェンスと終を警戒していた女の銃口が、再び鬼を助けようと動く。引き金にかけた指に微かに力がこもる。 「……グィネヴィア、頼むよ」 警戒の逸れた瞬間、イェンスの手元から瞬時に艶やかな黒髪が伸び、彼女の手から銃を奪いとった。榊の足元に届くはずだった銃弾は大きく逸れ、巨木の根元を抉る。 「髪……!?」 驚く女に、髪はそのまま絡みついて動きを封じる。鬼が女の名を叫び、尚も取り押さえんとするティリクティアと榊を振り払い地を蹴った。女を縛る黒髪を焼き斬らんと、炎を纏う刀を振りかぶる。 しかし、それを受け止めたのは冷たく透き通る氷の斧だった。斧の冷気が刀の熱を奪い、炎を消失させる。それを持つ終は斧が受けた熱量に、僅かに表情を歪めた。斧の冷気が接触する刀を伝い、凍らせる。それが柄を握る鬼の手に届く前に鬼は刀を引くが、それと同時に背後に追いついた榊の手にする刃が鬼の首に当てられる。 鬼が動きを止めたのを見て、イェンスがグィネヴィアをさらに伸ばし、彼の身体を拘束した。 「夜……」 「何故じゃ。何故、お前らは」 ロストナンバー達は応えず、ただ最後に残された作業が何であるか、確認し合うように互いに視線を合わせる。 「ガウェインが追手を見てくれている。まだ、追いついては来ないみたいだ」 「そう。でも、早く済ませた方がいいわ」 イェンスが周辺の警戒に当たらせていたガウェインの視界を確認し状況を告げると、ティリクティアが表情のないまま冷たくそう言いきった。次いで、終が口を開く。 「できるだけ本来の状況に近い方がいい、と思う」 「本来の、ねぇ。確か鬼を庇って銃弾を胸に受けたんだっけ?」 榊が確認すると、終は首肯する。そのやりとりに、イェンスは表情を曇らせた。 「でも、それでは彼女に苦しい思いをさせてしまう」 「俺が、二人を「冬眠」させる。そうすれば、余計な刺激は加わらない」 それ以上反論が出ることはなく、ロストナンバー達は鬼と女の方へ向き直った。一連のやりとりを、二人も聞いていたのだろう。鬼は終を睨み、女はそんな鬼と一行を交互に見やる。 終が桜の花びらを取り出し「冬眠」のための準備をしようとしたとき、女が唇を震わせ、絞り出すように懇願の言葉を洩らした。 「待って、お願い。待って。どうしても、私を殺さなきゃいけないの?」 それにハッキリと返答したのはティリクティアだった。 「……ええ。そうよ」 「夜は? 夜は、逃がしてくれるの? 夜は、鬼だけど、でも、」 「彼は殺さない。貴女が死んだ後、彼には追手から逃げてもらわないといけないから」 鬼が理解できないとばかりに歯ぎしりし口を開きかけるのを、さらに投げかけられる女の言葉が遮る。 「なら! ……なら、せめて。お願い。夜に、ね、話したいことがあるの。どうしても死ぬなら、せめて」 諦めたような女の言葉に、鬼が苛立たしげに彼女を呼ぶ。それに女が謝罪する光景から一度目を離し、ティリクティアは仲間の方へ顔を向ける。 「そうさせて、やれないかな。追手は、ガウェインが見てくれているんだ。彼女がせめてと望むなら……」 「嬢ちゃんを逃がさなきゃいいだけだろ? そんくらい良いんじゃね」 「俺も、それは構わない」 三人ともが反対しないのを見て、ティリクティアは小さな声で「いいわ。少しだけ、待つ」と女に告げた。 拘束されたまま、女は鬼に笑いかけた。遠巻きにその様子を見るロストナンバー達に殺気のこもった視線を送っていた鬼の名前を呼ぶ。 「夜、聞いて」 未だ怒りの収まらぬ様子の鬼を宥めるかのように、その声はとても優しかった。 「私ね……夜には、やっぱり人間になって欲しいの」 「こんな時に、何を言うとる」 「だって、私がいなくなったら、夜はまた一人ぼっちになるでしょ」 いなくなったら、という言葉に鬼は反射的に噛みつきかける。しかし、女の真剣な眼に射抜かれ、歯噛みし、苛立たしさを残したままそれに応えた。 「……前も言うたじゃろ。鬼でなくなれば、わしは感情すらままならん人間以下の抜け殻じゃ。お前のことも、何も感じなくなるかもしれん」 「どうなったって、夜は夜でしょ? 違う自分になるって考えればいいの。私のことなんて……いいから」 二人の会話を聞きながら、終は手の中の桜の花弁を見つめていた。変化とは、死だと、想う。自分が自分でなくなる記憶を、彼もまた知っていた。元の自分が遠くなり、自分が生きているのかどうかも曖昧で、しかし変化する前と後の違いは明らかで。 人が食わねば生きられぬと同様に、人を食わねばあの「鬼」は死ぬのだろう。しかし、生きている限り、人は変化からは逃れられない。生きる限り、死からは逃れられぬのと同様に。生きる為には、食わなければならないのと同様に。 「生きるには、死ななくてはならない」 ぽつりと呟いた言葉を聞いた者はいただろうか。 鬼はこの瞬間まで、女を食うことはなかった。自分なら、女を食っただろうか。食わなければ、「鬼」は死ぬ。生きる為には食わねばならない。そして食うためには、殺さなければ。山で独り、春に生まれ、冬に死ぬ生命を見送り続けた。鬼は、それが寂しかったのか。人が鬼を畏れ、否、それすら薄まったのだったか。永き時の中で畏れすらも忘れられたことが、寂しかったのか。 幾らか想像を巡らせるが、鬼の情を理解するには、終の過ごした時間では短すぎた。 最後にもう一言、何かを言おうと女が口を開きかける。しかし、何を思ったのかすぐに口を閉じ、もう一度鬼に微笑みかけた。 「何じゃ」 「ううん……なんでもない」 それからもう充分だと、女はロストナンバー達を呼んだ。 二人の身体を雪が覆っていく。終はその中に桜の花びらを撒いた。イェンスがそんな彼に何かを耳打ちすると、終は黙したまま頷く。イェンスはそのまま、二人のもとへ足を進めた。 「すまない。許して貰おうとは、思ってないんだ。ただ、」 何も言わず睨みあげる鬼と俯く女に、イェンスは二度目の謝罪を口にする。それから鬼の前に腰を落とし、グィネヴィアによる二人の拘束を、それぞれ片手のところだけ僅かに緩めた。 「ただ、手を、……彼女の手を、しっかりと握ってくれないか」 鬼は何も言わず、ただ、イェンスを睨んでいた。収まりきらぬ程の怒りを込めて、じっと、睨んでいた。その手に、女が片手を伸ばし、触れる。 「握って」 女がそう頼むと鬼は表情を大きく歪めて、彼女の望むとおりに自分より小さく、白い手を握った。雪と桜が充分に二人を包んだところで、終が鬼の前に立つ。彼を眠らせる為に、意識を集中させた。 「さようなら、夜」 鬼が眠りにつくのを、ロストナンバー達は静かに見届ける。鬼が意識を失う境界で、「みずみ」と彼女の名前を呼んだ声が、やけに耳に残っていた。 終が、今度は女の前に移動する。まだ鬼の前に腰を落としたままのイェンスに声をかけると、イェンスは微かに頷き、女の方へ顔を向けた。 「彼は、君の望んだとおりに生きるよ」 彼女には、それが真実かどうかは分からないかもしれない。それでも、せめて死に逝く彼女にだけは伝えたいと、イェンスは言葉を振り絞る。 「彼はもう、孤独じゃない」 そんなイェンスを、女は静かに見つめていた。 「訳あって、記憶は、失われてしまう……けど。決して損なわれない、君の『名前』と共に生きる。彼の想いは、そこにきっと、いや、間違いなく込められてるんだ。君と、『名前』と体で、二人一緒に生きるんだと」 一度そこで言葉を区切る。それから、これが最後だと、「だから」と、言葉を続けた。 「どうか、彼を見守っていてくれないか」 言い終えたイェンスは来ていたコートを脱ぎ、二人にかける。女はそんなイェンスに「ありがとう」と、死を待つ怖さと哀しさで震える声で告げた。 イェンスが二人から離れると、終が彼女を眠らせにかかる。女は最後まで、横で眠る鬼を見つめていた。その様子を見守っていたロストナンバー達は、あるいは見たかもしれない。彼女が最後に泣きそうな顔で微笑み、鬼を見つめたまま、唇を動かして何かを呟いたのを。そして、声にならない言葉の意味も、見えたかもしれない。 『 』 彼女が眠りについた頃、周辺を飛んでいたガウェインの視界が近づいてくる灯を見つけた。それをイェンスが仲間に伝え、二人の死が伝われば退散するだろうと鬼の髪を一房切りとり、終と共に退魔師達の方へと向かう。 「で、どうする? 嬢ちゃん」 榊が、共に残ったティリクティアに問うた。ティリクティアは二人の方へ身体を向けたまま、それに答える。 「終わらせるわ。もう、時間は残されてないもの」 「じゃ、そうするか」 榊が、地面に落ちていた女の拳銃に手を伸ばそうとする。しかし触れる手前、先にそれを拾い上げたのはティリクティアの方だった。 「……嬢ちゃんがやるのか?」 「どちらがやっても、同じでしょ」 人間であればここで彼女を止めるのだろうかと、榊は思う。彼女は幼く、もしこの場でやる責務を負うとしたら自分の方が妥当なのだろうと。 しかし彼女の感情を押し殺したような表情に、その人間として妥当な動きを起こすのを榊は思いとどまった。人間の感情とは、それを持たぬ者からすれば非常に興味深い。彼女が何を思い、これ程までの表情をするのか。彼は見たいと思ったのだ。 ティリクティアが女の前に立ち、外さぬように彼女の胸に銃口を当てる。銃を両手でしっかりと持つも、撃鉄を起こす感触の重さに、それまで無表情だったティリクティアの顔が歪んだ。 重い、と無意識に口の端から言葉が零れる。それでも顔を上げ、ティリクティアは銃の引き金にかけた指にゆっくりと力を込めた。 湯木を、起こさなければならない。違う。湯木に、目を覚まして欲しい。堪えていた感情が溢れそうになるのを必死で押さえながら、ティリクティアは真直ぐに女を見る。 「……ごめんなさい」 山の深い森の中に、銃声が響いた。その音にイェンスと終は足を止めかけるが、思い直してそのまま先を急ぐ。深黒山の夜の空気が、やけに寒々しかった。 * * * 司書室棟の廊下を、四人は歩いていた。あれから、記憶の乱れが修復され目を覚ました湯木が業務に復帰したと聞きおよんで、彼の司書室を訪ねようと集まったのだ。 先頭を足早に急ぐティリクティアの両腕は、大きなデフォルトセクタン型の弁当箱を大事そうに抱えている。 その背を眺めながら、榊が呟く。 「あの後、鬼はどうしたんだろうな」 湯木がここにいる以上、退魔師達から上手く逃げおおせたことは間違いない。おそらく榊が言ったのは、そのことではないだろう。終もまた、その後鬼が「何をした」のか、思考するところはあった。 「女の名を名乗ったのは、あの女が最後に喰った人間だからってことはあるのか?」 榊がそう口にすると、イェンスは眉根を寄せ、口を開きかける。それを、終の言葉が遮った。 「分からない。それはもう、確かめようがない」 ありえない、と言わなかったのは、終には鬼の心の内を全て知ることはついぞできなかったからだ。鬼が何を想い、何を望んだのか。何を成そうと考えたのか、それを知る機会は、おそらくもう二度とないのだろう。 「ただ。これ以上、人の秘密は触れない方がいいのかもしれない」 一足先に湯木の司書室の前に到着したティリクティアが扉の前で立ち止まり、自分達が追いつくのを待っている。それを眺めながら、終は思う言葉をそのまま声に出す。 「……愚考は、腹が減るな」 三人が追いつくとほぼ同時に、ティリクティアは扉をノックする。中から、司書が入室を促す声が聴こえた。 「こんにちは、湯木」 「ん。ティアか。それと、……今日は、客が多いの」 ティリクティアがいつもの明るさで挨拶をすると、湯木もまたいつもの無表情な顔といつもの起伏のない物言いで四人を迎えた。 「あのね、今日は新しい料理を覚えたから持ってきたのよ。また、湯木に味見して欲しくて」 「ほうか。そりゃ有り難いの。ちいと待っとれ、茶ぁ淹れる」 そう言って四人をちゃぶ台の周りに座らせてお茶を淹れに行った湯木を見つめながら、ティリクティアは安堵したように息をつく。それと同時に、両手に引き金を引いた瞬間の感触が蘇ってきて、ほんの少しだけ、弁当箱を抱える腕が強張る。 撃鉄を起こす時の重さを、命を奪う感触の重さを、まだはっきりと覚えていた。銃弾が彼女の身体を貫いたときの光景は、目を瞑ればすぐにでも蘇ってくる。 それでいい、と想う。自分は、初めて人を殺した記憶を絶対に忘れない。例えそれが、現実のことではないとしても。 (自分の選択を、自分の選んだ行動の結果を、忘れたりはしないわ) 五人分のお茶を運んできた湯木に、ティリクティアは何事もなかったように、いつもどおりの自分で例を言う。 ちゃぶ台の中央にティリクティアの作ってきた弁当を置き、皆でそれを食べた。楽しげな日常の光景に、イェンスは目を細める。 湯木は、もう過去のことを何も覚えていない。忘れないで欲しいとは、どうしても言えなかった。そんな言葉で、良いとも思わなかったが。ただ、二人の記憶はあのアーカイブ遺跡の記憶宮殿の中で、経年による劣化も改変も消失もなく、誰の目に触れず保管される。それが、唯一の救いなのか。 壺中天を外した後、榊が「湯木は人肉断つために司書になったのかもな」と言っていたことを思い出す。先に終が言ったように、事実はもう確かめようがない。それでも、イェンスはそうであって欲しいと、願う。 あのとき。最期に彼女が「言わなかった言葉」を、覚えている。鬼はそれを知らなくても、分かっていたはず。そして―― 「あら? 湯木、貴方今、笑わなかった?」 「……ほうかの?」 「笑ってた。俺も見た」 「あー、笑ってたな。俺も見てた見てた」 そして、きっと。彼女は今も、彼を見守っていると――イェンスは、そう思うのだった。 * 『よる だ い す き 』 *
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