冬晴れの空には雲はなく、吸い込まれんばかりの濃紺の中にベテルギウス達が瞬く。 道行く人の吐く息が、ハローのような地上の光に薄ぼんやりと照らされ陽炎となって連なっている。 ――壱番世界は日本のどこにでもあるベッドタウン ――大晦日も終わりに近い年の瀬、古い年が去り新たな年が生まれる時間まで極わずか。 お盆に祈り、生誕祭を祝う――節操無く八百万に神を信奉する人達は、古きが去り新しきが生まれるこの時には厳かと言う名の表情を思い出し静謐な夜を迎えている。 ――閑静な住宅街の中にぽつんと存在する小さな社 電気が作る仮初の火が燈籠に灯り、鳥居をくぐり、少し大きな賽銭箱が目立つ拝殿に続く参道にならぶ人の表情が灯りに照らされる。 友と家族あるいは恋人と……去ろうとしている一年が積み上げた思い出、ともに過した時間、新たに築いた絆を語る言葉がさざめきとなって闇夜に溶ける 一年役目を果たし続けた辰を象る神具達が燃え、盛る焚き火の中で居並ぶ人に暖を与える最後の仕事を終えると煙となって天に帰る。 社務所には何かを勘違いしたようなご当地ゆるキャラがプリントされた御神籤が並び、年開けた瞬間のかきいれ時に備えている。 地元の子女が扮する一日限りのアルバイト巫女は、初詣客向けの縁起物――巳が飾られた破魔矢や絵馬等を並べ終え談笑していた。 仮設テントの中では、お神酒をフライングした自治体の歴々達が早々と出来上がり濁声の笑いが聞こえていた。 ――――ありふれた街のありふれた神社、ただ唯一の異なるのは仕切る神主が世界図書館の関係者であるということだけ 小さな神社ゆえ華美な装飾も無ければ、盛大なイベントでもない。 ただ壱番世界の住人達に紛れ、過した一年を想いながらありふれた年明けを迎える ――そんな越年の誘い 壱番世界に降り立つロストナンバーの足元で霜柱が砕け音を立てた。 何処から煩悩を打ち消す鐘の音が響いてきた――●ご案内こちらは特別企画「イラスト付きSS(ショートストーリー)」です。参加者のプレイングにもとづいて、ソロシナリオ相当のごく短いノベルと、参加者全員が描かれたピンナップが作成されます。ピンナップは納品時に、このページの看板画像としてレイアウトされます。「イラスト付きSS(ショートストーリー)」は便宜上、シナリオとして扱われていますが、それぞれ、特定の担当ライターと、担当イラストレーターのペアになっています。希望のライター/イラストレーターのSSに参加して下さい。希望者多数の場合は抽選となります。《注意事項》(1)「イラスト付きSS」は、イラストを作成する都合上、バストショットかフルショットがすでに完成しているキャラクターしか参加できません。ご了承下さい。(2)システム上、文章商品として扱われるため、完成作品はキャラクターのイラスト一覧や画廊の新着、イラストレーターの納品履歴には並びません(キャラクターのシナリオ参加履歴、冒険旅行の新着、WR側の納品履歴に並びます)。(3)ひとりのキャラクターが複数の「イラスト付きSS」に参加することは特に制限されません。(4)制作上の都合によりノベルとイラスト内容、複数の違うSS、イベント掲示板上の発言などの間に矛盾が生じることがありますが、ご容赦下さい。(5)イラストについては、プレイングをもとにイラストレーターが独自の発想で作品を制作します。プレイヤーの方がお考えになるキャラクターのビジュアルイメージを、完璧に再現することを目的にはしていません。イメージの齟齬が生じることもございますが、あらかじめ、ご理解の上、ご参加いただけますようお願いいたします。また、イラスト完成後、描写内容の修正の依頼などはお受付致しかねます。(6)SSによって、参加料金が違う場合があります。ご確認下さい。
――除夜の鐘が鳴り響く 参道に並ぶ人々の間には、数名のロストナンバー。 旅人の外套で隠しきれぬドアマンの長身に注目が集まるが、外国人観光客と勘違いされたのかざわめきは一瞬。 (やっぱり壱番世界の文化って、元世界で僕の住んでた地域と似たような感じがして親近感があるなぁー) 年明けを待つ神妙な雰囲気は、祭堂 蘭花が故郷の風習を思い出させる。 目を閉じながら思い出すのは、ブルーインブルーでの海賊との戦争やナラゴニア――世界樹旅団との激戦。 一年――ロストナンバーとしての生き様は激動そのものだった。 (今年は、いろいろありすぎて、大変だったけど、来年はいい1年になるようにしたいなー) 子供っぽいバナーが思い出すことは抽象的だ。 時計の針は進み鐘の音は100を超え、誰かが持っているラジオから年明けを迎えるコールが聞こえ始める 10……9……8…… はじめは小さな声が徐々に唱和となって冬空に響く。 7……6……5…… ロストナンバー達も顔を見合わせるとカウントダウンに参加する。 4……3……2……1…… 『あけましておめでとうございまーす』 わぁっと広がる笑い声と言う名のざわめきが周囲を包んでいた。 ‡ ――年が明けると参道を人が進み始める 「皆様にとってちょっと良い感じの年となりますように」 神主に習った二礼二拍手一礼でお参りを済ませたドアマンは、許可を取りながら境内をデジカメで撮影する完全なお上りさん状態。 ゆるキャラ御神籤を見つけると周囲に迷惑にならない最大限の早足で籤引に行く。 ――2013年のドアマンの運勢は《吉》 とても面白い一年。 ▼恋愛:夏に彼氏が出来る可能性が高い ▼金運:秋に一発大儲けする期待大 ▼仕事・学問:プラスの相乗効果を生む ▼願望:ゴールは目の前 ドアマンは籤の内容よりも、プリントされたゆるキャラのほうにご満悦の様子だ。 (新年の抱負かぁー。そりゃー勿論、無事健康体で過ごせる様に、だよ! 後はやっぱし更にお師匠様に近づける様に、かなー?他にも冒険旅行で色々な事にチャレンジしたい、とか…! あーっ、色々ある!色々あって今年中に全部達成できるかなぁーっ!) 蘭花は願掛けをしすぎて後ろのおっさんに『嬢ちゃん欲張りすぎだよ』と突っ込まれていた。 (今年は、いい1年になるといいねー) シンプルな願い事をするバナーは、何か面白いものでもないかと境内をウロウロとする。 ‡ 禍月 梓は御手洗場の近くの台にちょこんと座り、お参りを終えて帰る人、家でのTVに飽きてわざわざ深夜にお参り来たものの姿をぼぉっと眺めていた。 何かを見ているようで何も見ていなかった視界を影が覆う。 見上げ梓の視界には、病的な白さの顔に柔和な笑みを浮かべた長身が紙皿に乗ったおでんを差し出す姿。 「禍月様。大変美味しゅうございますよ、一口如何でしょう? それにどうです、あの素敵な様相をした御神籤もお試しになられては。私、僭越ながら吉を頂きまして、ははは、今年も良い年になりそうでございます」 ――2013年の禍月 梓の運勢は《吉》 とても好調な一年 ▼恋愛:夏に奇跡が起きる可能性が高い ▼金運:ガッツリ稼げる期待大 ▼仕事・学問:才能がキラリと光る ▼願望:赤ちゃんができる 「おー、梓ちゃんついてるー! よぉーっし、僕も御神籤引いちゃうぞ!」 ――2013年の祭堂 蘭花の運勢は《大吉》 最高に面白い一年 ▼恋愛:絶対に出会いがある ▼金運:マジで湯水の如く湧いてくる ▼仕事・学問:確実にステップアップ ▼願望:目的のためなら手段を選ばず 「やった!! みてみて、僕大吉だよ! 絶対出会いがあるだって、やったー!!」 思わぬ幸運に飛び跳ねる蘭花。 「ぼくもくじをひくんだー」 ――2013年のバナーの運勢は《大凶》 とても寂しい一年 ▼恋愛:絶対にひとりぼっちになる ▼金運:マジで年収がダウンする ▼仕事・学問:負のスパイラルに陥る ▼願望:諦めた方が良い 「お……あ……」 あまりの内容に固まるバナーの御神籤をドアマンの手がひょいと取り上げる。 「バナー様、こちらはわたくしの籤と交換いたしましょう。わたくしこちらの挿絵のほうが好みでございますので」 ちょっと涙ぐんでいたバナーの頭を撫でると、ドアマンは空を見上げ昔を思い出していた。 ――印象的な故郷の年末年始の思い出 泥酔したトスィ神の襲来により、宿泊客や従業員を巻き込んで年越し雪合戦。 参加して死ぬか、参加せずに死ぬかの二択。 総支配人の力で繰り返し生き返りながら乱痴気騒ぎ。 最後には何回死んだか競っていた。 それはそれで色々楽しかったが―― 「こういう年越しも良いものでございますね」 輪切りにされたサツマイモに目鼻が付いたキャラクターが悲しそうな顔をしている大凶の御神籤を見つめながらドアマンはつぶやいた。
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