イラスト/晏嬰亮

世界群の「外」である、ディラックの空には、いずれの世界群にも属さない存在が発見されることがあります。もとは世界に属していて、その帰属を失ったロストナンバーとは違い、はじめからこの世界群に由来しないこれらを、<ディラックの落とし子>と呼びます。

落とし子は、一見、生命体のようですが、実際にはどうなのかはわかりません。いずれの世界にも属さないため、いかなる常識も通用しないばかりか、かれらの存在はこの世界群にとって等しく災いとなります。ディラックの落とし子にふれた世界は、徐々にその侵食を受け、虚無へと還ってしまうのです。

そのため、世界図書館は落とし子の存在を世界計によって感知し、これを滅ぼすことも、その使命のひとつとしています。

落とし子は、その性質によっていくつかに分類されます。

■ファージ
ファージ型の落とし子は実体を持たないため、虚無より飛来して世界内にひそかに侵入します。そして世界内の生物に寄生してその肉体を変質させてのっとるという性質を持っています。肉体を獲得したファージ型落とし子は、世界の内部を侵食して異質なものに造り変え、おのれのテリトリーを広げていきます。これを放置することは世界群への深刻なダメージとなりますので、すみやかな排除が必要です。寄生した肉体を滅ぼせば、落とし子も消滅します。

世界内の生物に寄生したファージは、宿主と同種の生物をコントロールする力を持つほか、宿主自身が持つ能力や、その知識をわがものとします。そのため、特に危険なのが人間のような知的生命に寄生してしまった場合です。それらは特にマンファージと呼ばれ、複雑で戦略的な行動によって侵食を行うため、事態がより深刻になるケースが見られます。

■ワーム
ワーム型の落とし子は実体を持ったまま、虚無を浮遊しています。実体があるワームは、世界群がもつ、異物を排斥する自律作用(ディアスポラ現象を引き起こす原理と考えられています)によって、世界内に侵入することはできませんが、外部から徐々に世界群を侵食するおそれがあります。なにより危険なのは、走行中のロストレイルが襲撃を受けることです。ワーム型落とし子との戦いは、ディラックの空を舞台とし、ロストレイルを用いた空中戦となります。

まれに、なんらかの理由で世界の内部にワームが出現することがあります。そういった場合は、トレインウォーと呼ばれる大規模な作戦で殲滅にあたらなくてはなりません。

過去に登場した巨大ワーム
ジャバウォック 壱番世界・北海道に出現した、歪んだドラゴンのような姿をしたワームです。「ミラーヘンジ」と呼ばれる杭状の物質を世界に打ち込んで侵食を行うほか、「ミラーシールド」という遠距離攻撃に対するバリアーを展開する能力を持っていました。
ハンプティ=ダンプティ インヤンガイとディラックの空の狭間の空間に存在した卵のような姿をしたワームです。その外殻は鉄壁の防御を誇りますが、逆に自分自身も物理的な攻撃力を持ちません。そのかわり、世界の外側からでも、内部の情報に干渉する能力を持ち、その特殊な性質を利用してインヤンガイのネットワーク空間を侵食していました。
バンダースナッチ 不定型の肉塊の姿をしたワームです。「無数の世界群の動物の情報」を体内に蓄えており、戦闘になると自らの身体の一部をありとあらゆる動物の器官に変型させて戦います。世界樹旅団に使役され、かれらがモフトピアに築いた前線基地を守護していました。
マーチヘアー 惑星ほども巨大な、竜に似た姿をしたワームです。「竜刻の大地・ヴォロス」のパワーソースである竜刻を用いた機構で莫大なエネルギーをもち、際限なく世界を侵食するものとして、世界樹旅団により創造されましたが、旅団の制御下を離れて『朱い月に見守られて』を滅ぼしました。


■イグシスト
ディラックの落とし子が、その力を増し、圧倒的な存在まで上り詰めた姿――それがイグシストです。イグシストは絶対的な「存在」として、複数の世界を支配するほどの力を振るいます。この段階に至ったものは、いわば神のようなもので、もはや滅ぼすことはできません。

今まで、世界図書館が出会ったイグシストは、他ならぬチャイ=ブレと、世界樹だけです。

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螺旋特急ロストレイル

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