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【???】(募集は終了)
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2009-03-08(日) 16:53 |
瑕莫(cayu4682) |
会議室から少し離れた場所にある、自動販売機の隣。
何故か、どことなく神々しい空気がそこには満ちており、 足を踏み入れると、奇妙な声が聞こえてきたり、不可解な 光景が脳裏を過ぎったりするようだ。
「――……君の望みは、何かね」
静かな、その声に、聞き覚えがあるものも、いるだろう。
(PCさんのキャラシートを元に、記録者がその方のトラウマや渇望を 描写するスレッドです。 そういったものを突きつけられてみたい方は、クリエイター向け欄にでも 渇望その他の内容をお書きになり、このスレッドに発言してください。 クリエイター向け欄に書かれていないと盛大に捏造しますのでご注意を。 ※というかあまりにも捏造が難しいとあっさりした扱いかもしくはかなり アレな扱いになりそうです今書いても無意味ですねすみません。 垣間見えた渇望に対して、様々なロールを行っていただくと面白い、 もしくはノベル内で何かある……かもしれません) |
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(コーヒーってどれだろう、とか悩んでる)
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2009-03-08(日) 20:34 |
昇太郎(cate7178) |
(何かを買おうと小銭を握り締めているが、自動販売機の使い方が解らずオロオロ。 と、不意に脇から声を掛けられ、思わず振り返るが人の気配はなく、 不思議そうに首を傾げる。)
『――……君の望みは、何かね』
俺の、望み――?
(戸惑いながらも、誘われる様に足を踏み入れた) |
[27] |
なんか飲み物?
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2009-03-08(日) 21:58 |
レイ(cwpv4345) |
(コートの裾をひらんとさせながら多少かったるそうにやってく る) (コートのポケットから小銭を探り) コーヒーでも買ってからいくか…。 あ?並んでる…ってんじゃなさそうだが。 (前にいる人に軽く首かしげ) |
[36] |
自販機がありましたね
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2009-03-09(月) 02:04 |
ウィレム・ギュンター(curd3362) |
ああ、ここにありましたか。先客?がいるようですね。少々待ちましょうか。
それにしてもここは少々空気が違うような。 しかし、何かあるようには思えませんし…僕の気のせいですかね。 |
[37] |
何でこんなに混んでるんだ?
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2009-03-09(月) 02:51 |
ルークレイル・ブラック(cvxf4223) |
コーヒーは…と、ここか。 ---ん? 何だ? やけに人が多いな…? (首を傾げつつ)
『――……君の望みは、何かね』
------?! この、声…っ。 貴様…どこだっ?! (しかし、誰も見つけることができない) |
[46] |
えーと、どこで会議してるんだ。
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2009-03-09(月) 05:31 |
イェルク・イグナティ(ccnt6036) |
あー、会議室ってどこだ。 ちゃんと案内図で確認してくりゃあ良かったぜ。 (自販機の傍にいる人を見つけて声を掛ける) あ、悪いんだけどさ、あの怪物退治の会議室ってどこだか知ってるかい? ………っ!? なんだ、この空気…、首筋の毛がチリチリしやがる。
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[55] |
なんで人が溜まって・・・
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2009-03-09(月) 15:20 |
ブライム・デューン(cdxe2222) |
あれ…自動販売機ってそんなに人が集まるものだったっけ…?? ……………(なんとなく溜まっている人以外の気配もしたりしたような…)………もしかすると幽霊?………。……違うか。それだったら見えるはずだもんなー…。
でもなんか声したような…。 なんだろうなんか変な感じするな……自動販売機の隣の辺りの気が強いな…。(なんかあるのだろうかと無造作に手伸す)
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[63] |
渇望の声:昇太郎の場合
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2009-03-09(月) 20:14 |
瑕莫(cayu4682) |
何か飲み物を買おうと、小銭を握り締めて自動販売機にやってきた昇太郎は、自動販売機の使い方が判らなくておろおろしていた。 変なボタンや隙間で構成された不思議な箱のどこに小銭を入れて、何を操作したらほしいものが出てくるかも判らなければ、そもそも、飲みたいと思ったコーヒーが、どの入れ物に入っているのかも判らないのだ。 昇太郎にとってコーヒーとは、親友や<天使>が白いカップに注いでくれるもの、なのである。 どうすればコーヒーが買えるのか真剣に悩み、このまま小一時間その場に立ち尽くしそうになった昇太郎だったが、
「――……君の望みは、何かね」
不意に、どこからか声をかけられた気がして、左右をきょろきょろと見遣った。 「……? 誰も、おらん」 首を傾げつつ、聴こえた言葉を反芻する。 「俺の、望み、か……」 とても難しい問いだ、と、思う。 願うこと、望むことなど自分には許されない、と、ただ孤独に、静かに、林の中に佇む象のごとくに、贖罪のために歩むことだけが自分の運命なのだと思っていたのは、決して遠い日のことではないのだ。 「なんや……不思議な、気配が……」 戸惑いつつも、誘われるように自動販売機の隣へ踏み込んだ昇太郎の脳裏を、幾つもの笑顔が過ぎった。 神。鳥を統べる王。陽気なトランペッター。<天使>の青年。青い将軍。痩せた砂漠の民。赤い稲荷神。最古の廃鬼師。――そして、モップを手にした、芸術の神。 たくさんの顔は、すべて、昇太郎に友愛を向けている。 あの笑顔は、すべて、昇太郎に向けられたものだ。 その、幾つもの笑顔が、くるくると回りながら遠ざかっていく。 「あ、」 ――手を伸ばしても届かない。 すべては、彼を置き去りに、遠く遠くへと立ち去ってしまう。 それは彼の業。 昇太郎のなした罪への罰だ。 彼はそれを、覚悟とともに受け入れていたけれど、――そのはずだったけれど、今、この時ばかりは、ひどく胸が痛む。心が、苦しい。
(ずっと)
聞こえてきた声に、ひどく覚えがある、と思ったら、それは自分の声なのだった。
(ずっと、ずっと、ずーっと)
どこか童子めいた頑是なさで、昇太郎の声が言葉を紡ぐ。
(全部抱き締めて、ずーっと、いられたらええ。ずっと、この、温かい場所で)
自分を愛してくれる人々。 自分を包んでくれる温かな空間。 得難いそれを得た、この今を、そして大切な人たちを、全部自分のものにして、永遠のように抱いていたい、そんな、狂おしいほどの渇望が胸を込み上げる。 「ほしい、言うのんは……こういう、こと、なんか……?」 心臓が弾け飛びそうな勢いで脈を打ち、思わず胸を押さえた昇太郎だったが、漏れ出た声は、むしろ不思議そうだった。 ――はじめから、叶わないと判っているから、なのかもしれない。
「……おやおや」 くす、という笑い声。 「君の渇望は、無垢だね。拍子抜けするほど、無邪気な渇望だ」 くすくすくす。 「だが……可愛い結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――ふと気づけば、昇太郎は、缶コーヒーを握り締めて、自動販売機の前に立っていた。 「どした? 並んでる……ってんじゃ、なさそうだけど」 何か買おうとしてやってきたのだろうか、サングラスをした青年が、不思議そうに首をかしげる。 「いや、よぉ判らん……」 昇太郎もまた首をかしげながら、その場をあとにする。 不思議な、不可解な気分だったが、それを不快だとは、感じなかった。 |
[79] |
ちょっと休憩中
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2009-03-10(火) 00:20 |
白亜(cvht8875) |
(じーっと自動販売機を注視。 おもむろに硬貨を取り出して、投入しかけ…)
「――……君の望みは、何かね」
(聞こえた声に、手を引いた。 寸の間迷って、思い切ってその方向へと足を踏み入れた) |
[163] |
渇望の声:レイの場合
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2009-03-11(水) 19:19 |
瑕莫(cayu4682) |
「しかしまぁ……次から次へと」 レイは、作戦会議に参加するためにここを訪れ、その前にコーヒーでも買っていくか……と思ったひとりだった。 ムービースター、ムービーハザードなどという夢の産物が『日常』として溶け込んでいる世界だ、事件や騒動は当然のことなのかもしれないが、それにしても最近、あちこちで色々なことが起きすぎているようにも思う。 「そういう頃合、なのかねぇ」 独語しつつ、自動販売機のある通路に踏み込んだレイは、オッドアイに和装の青年が、どこか茫洋とした眼差しで立ち尽くしているのを目にして首をかしげた。 「どした? 並んでる……ってんじゃ、なさそうだけど」 青年の手に缶コーヒーが握り締められているのを目にして言うと、 「いや、よぉ判らん……」 彼もまた首をかしげながら踵を返し、会議室へと消えていった。 「……?」 なんだったんだろう、と思いつつ、コートのポケットに手を突っ込み、小銭を探る。取り出したコインを縦に長細い隙間に落とし、軽い金属音を耳にしながらぴかぴかと明滅するボタンを見詰め、どれを選ぶか算段する。 「ホットにするか、それともしゃきっとするために冷たいのにしとくか……」 数十秒考えたあと、新作らしいアロマブレンドなるホットのブラックを選択し、そのボタンを押すべく指を伸ばしたところで、声が聞こえた。
「――……君の望みは、何かね」
誰かに話しかけられたようだったが、彼のセンサーには何も映らない。 キルリアンセンサーもまた、何も反応しなかった。 それなのに、居住まいを正したくなるような錯覚に襲われ――そういう空気に包まれたような気がしたのだ――、レイはきょろきょろと周囲を見渡す。SF映画から実体化した彼には馴染みの薄いその感覚は、神々しさであったり畏怖であったりしたが、レイがそれに気づいていたかどうか。 「……気の所為、か……?」 それにしてはハッキリした声だった、と、確認のために自動販売機周辺を見渡していたレイの脳裏を、幾つもの光景が過ぎ去っていった。 出生時に受けた遺伝子操作により、マインドコントロールのような精神攻撃に耐性のあるレイの意識を容易く侵食する、幻影の光景だった。 「……あれは……」 切り取られた腕。切り取られた脚。奪われた臓器。奪われた眼。 無理やりに与えられた機械の身体。 与えられなかった感情。与えられなかった名前。 倒れて、もう戻らない仲間たち。 倒れて動かなくなり、冷たくなっていくあの人。流された血。 流された、涙。 奪われた温かい手。奪われた、やさしい声、言葉、笑顔。 ――生きて、と叫んだ、やさしい母の。 もう戻らない、喪われて久しい、すべてのもの。
(もう一度会いたい……手にしたい。今度こそ、この手の中に)
実験体として生み出され、失敗作の烙印を押されたあと、『母』によって救われ、解き放たれたところを賞金稼ぎの男に拾われて、あの危険な街で生きてきたレイは、今やもう、レイ以外のなにものでもない。 今更それをトラウマだ過去の疵だと騒ぎ立てるつもりもないし、そんな柄でもないと思っている。 けれど、今、この時ばかりは、ひどく胸が苦しい。
(本当ならば手にするはずだった、与えられるはずだったすべてのものが、ほしい)
心の奥底にたゆたっていた、どうしようもないものへの頑是ない願い。 二度と戻らぬものへの悼みと、せめてもう一度と泣く幼子のような心。 「……ああ」 レイは苦笑する。 相棒には、こんな顔は見せられない、と思いつつ、 「そうだな、会えたら……よかった」 叶わぬと知って、困ったような、寂しいような、しかしその感情を慈しむような、複雑な笑みを浮かべる。
「なるほど」 くす、という笑い声。 「それは君の渇望であると同時に、幸いでもあるのだろうね」 くすくすくす。 「綺麗な結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、レイは、アロマブレンドなる缶コーヒーを片手に立ち尽くしている。 いつの間にコーヒーを買ったのか、いつの間にボタンを押したのかも覚えていないが、目的を果たしたことに変わりはない。 「……何だったんだ……?」 順番を待っているのだろう、背後に、銀髪の青年が佇んでいることに気づき、レイは頭を振りながらその場をあとにする。 |
[245] |
パスタ待ち(笑)
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2009-03-13(金) 10:34 |
片山 瑠意(cfzb9537) |
(深々と溜め息を吐きながらやって来る。自販機にお金を入れ、ペットボトルのお茶のボタンに手を伸ばした)
……十狼さんはムカデの方に行くのかなぁ? まぁでも、あのムカデ手強そうだし、俺が行っても大した戦力にならなそうなんだよな……。 そう考えたら、適材適所ってやつなんだよね(笑) ま、俺は俺の全力を尽くすだけなんだけど――、
「――……君の望みは、何かね」
――え、あ、今のは……?
(覚えのある悪寒が背中を走り、不安そうに辺りを見回した) |
[249] |
ちょっと一息
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2009-03-13(金) 13:07 |
森砂 美月(cpth7710) |
ミルクティーはあるかなー……。 あれ? 何だろう、雰囲気が……重い?
……私の、望み? |
[261] |
糖分補給〜〜〜。
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2009-03-13(金) 19:47 |
二階堂 美樹(cuhw6225) |
はぁ〜、ちょっと一息入れようっと。 頭使ったから、甘いモノがいいなぁ〜vvv うーんと甘くて、きっつーい炭酸っ!
「――……君の望みは、何かね」
んーと…そうね、カロリーオフの方が…--------って、誰っ?! (慌ててきょろきょろ辺りを見回す) 何だか----嫌な感じだわ…。 |
[271] |
差し入れを持っていきましょうか。
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2009-03-13(金) 21:11 |
マイク・ランバス(cxsp8596) |
(自販機を見つめ、思案中。) 甘いものと、お茶があればいいでしょうか…。
「――……君の望みは、何かね」
(眉をひそめ、声の聞こえた暗闇にゆっくり振り向き、そこを見つめる。そして、思案するような表情で、闇に声をかける。)
「望み…。…渇望、ですか。」 |
[314] |
渇望の声:ウィレム・ギュンターの場合
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2009-03-14(土) 11:27 |
瑕莫(cayu4682) |
サングラスの青年が、どこか茫洋とした表情で頭を振りながらその場をあとにしたのを、首をかしげながら見送って、ウィレム・ギュンターは自販機の前へと進み出た。 少々緊張して咽喉が渇いたので、何か飲み物を、と思ったのだ。 ついでにいうと、彼が補佐役を務める同居の少年が、ウィレムの奢りで何かジュースを買って来いなどと言ったからだ。 「まったく、僕をなんだと……」 ぼやきつつも、少年のそれが自分への甘えであることが判るので、嫌な気分でもなく、冷たいレモンスカッシュを購入し、 「僕は……さて、何にしましょうかね……」 再度小銭をスロットに投入して、明滅するボタンを押す。 がたん、と音がして、細長い缶が取り出し口に転がり落ちてくる。 それを取り出そうと身を屈めたところで、
「――……君の望みは、何かね」
静謐でどこか神々しい、威圧感を含んだ声が聞こえてきた。 「……?」 周囲を見渡したが、誰もいない。 畏怖めいたものを感じるだけで、危険な雰囲気ではなかったが、念のため、と、自動販売機の隣に足を踏み入れた瞬間、ウィレムの脳裏を幾つもの光景が、幾つもの言葉が過ぎ去って行った。
(ウィレムって、半分は魔物なんだって) (あいつ、魔物の血を引いてるらしいぜ) (うわ、マジで? ちょっと引くな、それ) (大丈夫、ウィレムはウィレムだ) (魔物の血って、何色をしてるんだろうな?) (魔物の血は温かいのかしらね) (人間と同じ温度なんて、あるの?) (ウィレムがなにものであっても、何の血を引いているとしても、私の信頼は変わらない) (魔物が魔物狩りか、滑稽だな) (……そのうち、本人も魔物になって、狩られちゃったりして) (その時は誰が出るんだろうな?) (ちょっと見物だよな) (忘れないで……あなたがなにものであるかは、あなたが決めるのだということを) (魔物だって) (魔物) (魔物) (魔) (魔) (魔)
彼に向けられた心ない言葉。 それでも彼を信じ愛するものの真摯な言葉。 それらは、彼の本質を決定づけ、彼にこの道を選ばせた。 ウィレムは苦笑する。 「僕は……僕にしかなれません」 プラスの感情を向けてくれるものも、マイナスの感情をぶつけてくるものの、どちらも、正しいとか間違っているとかではないのだ。そういうものなのだろう、とウィレムは割り切っている。 しかし、そこで、
(だけど……チェスターは?)
ふわり、と浮かんだ言葉は、自分の声だった。
(チェスターは、そのことを知った時、僕をどう思うのだろう……?)
ウィレム自身、何故なのか判らないほど気にかけ、ひどく執着し、小言を言いつつも世話を焼き信頼して、ともに生きられることに喜びを感じている、小柄で表情豊かな、あの少年は。 魔物狩りでありながら、魔物の血を引く半人半魔が、自分の相棒であると知った時、一体どういう表情を、言葉を、ウィレムに向けるのだろう。
(気味が悪いと吐き捨てられる?) (傍に寄るなと突き放される?) (怖れられ、罵倒される?) (背を向けられ、感情を拒絶される?) (離れて行ってしまう?) (――……銃を向けられ、いずれは狩られる?)
ふわふわと浮かんでは消える言葉、チェスターの浮かべるたくさんの表情。 笑顔や呆れ顔、理不尽な出来事に向ける怒った顔の中に、侮蔑の表情を見つけ――チェスターは、決してあんな顔はしないはずなのに、それに思い至ることすら出来なかった――嫌だ、と、ウィレムの心が叫んだ。 他の誰に軽蔑され、嘲笑されても、それだけは嫌だ、と。 「僕、は……」 低い呻き声が漏れる。
ならばいっそ。
ほわり、と浮かんだ言葉。
(いっそ、真実魔物のように、捕らえて閉じ込めて、僕だけが真実なのだと、彼の世界を独り占めにしてしまえばいい)
この執着を、何という言葉で表せばいいのか判らない。
(あの純粋な目を曇らせ、心を翳らせるくらいなら、いっそすべてを見えないようにしてしまいたい)
判らないが、胸の奥底からふつふつと湧き上がる、この渇望を否定することも出来ない。――それだけが真実であるようで、胸が、苦しい。 「まさか、こんな風に……」 他者に執着する日が来ようとは、ウィレム自身、思いもしなかった。 ――そしてそれは、困ったことに、決して不快でもないのだった。
「ああ……とても人間らしい渇望だ」 くす、という笑い声。 「だとすれば、ヒトも魔も、大差はないのかもしれないね」 くすくすくす。 「心地よい結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、ウィレムは、細長い缶を持ったまま、自動販売機の前に立ち尽くしている。 「今のは、一体……?」 激しい、狂おしい感情も今は遠のき、不可解さだけが胸を満たす。 順番を待っていたのだろう、背後に黒髪の青年がたたずんでいることに気づいて、ウィレムは小さく頭を下げ、その場を後にした。 |
[319] |
渇望の声:ルークレイル・ブラックの場合
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2009-03-14(土) 12:03 |
瑕莫(cayu4682) |
小さく頭を下げた銀髪の青年が、ふらりと会議室へ向かうのを見送って、ルークレイル・ブラックは自動販売機の前へ進み出る。 「と、コーヒーはここ、か……」 ルークレイルは会議の合間にコーヒーを買いに来ていた。 たくさんしゃべれば咽喉も渇く。 「もう少し、頑張らないとな」 あんな怪物たちにこの街を破壊させるわけには行かない。 それは『家族』である海賊団のためでもあるし、海賊団を丸ごと受け入れてくれた銀幕市のためでもある。 「まぁ、この様子なら、大丈夫だろう」 油断をするつもりはないが、今の会議室の状況を鑑みれば、皆が一丸となって怪物退治に向かうであろうことは明白だ。誰もが怖じてはいないし、この街を愛する心と、隣人を思う気持ちで持って、立ち向かおうとしている。 その高揚感、連帯感は、『家族』以外どうでもいいと思って生きているルークレイルにとっても、心地よいものだったし、この街に来て、ほんの少し変化した心境を、ルークレイルは自覚していた。 「よし、じゃあ戻るか」 缶コーヒーを買い、踵を返しかけた、その時。
「――……君の望みは、何かね」
ひどく聞き覚えのある声が、どこかから聞こえた。 「――! この、声……貴様、どこだ……!」 あれは、渇望を軸にした一連の事件の、首謀者の片割れだ。 たくさんの人々が、彼らの引き起こした事件によって、自身の奥底に沈む仄暗い感情を突きつけられ、狂わされ、苦しみ涙した。 今すぐ引きずり出して決着をつけてやる、と、周囲をきょろきょろと見渡したルークレイルだったが、彼の気勢に反して、そこには誰の姿も見出すことが出来なかった。 「くそっ……」 苛立たしさに舌打ちし、会議室へ戻ろうと踵を返しかけたルークレイルの脳裏を、唐突に幾つもの映像が過ぎり、彼を硬直させた。
幾つもの屍。 幾つもの血の池。 幾つもの燃え落ちた建物。 幾つもの廃墟。 燃えている森。 血で染まった海。 業火に焦がされる青い空。 無数の骸骨、虚ろな眼窩。 流された無念の涙。 幾つもの、物言わぬ、骸。
「――……ッ!?」 骸骨は、骸は、すべてルークレイルを見ていた。 昔は眼があったはずの場所にぽっかりと開いた空虚な洞穴が、大きく見開かれたままの双眸が、持ち上げられたままで硬直した手が、殺戮者を指し示す指が、ルークレイルを声高に糾弾し、彼に罪を突きつける。 ルークレイルはそれらを踏みしだいて立ち尽くしている。 手にも、脚にも、否……身体中に、べったりと、紅黒いものがこびりつき、彼の手をかさつかせている。 ――そう、これをなしたのは、彼なのだ。 ルークレイルがやったのだ。 『家族』を守るために、すべてを犠牲にした。 『家族』の幸いのために、すべてを奪い尽くした。 堅気の人々からは奪わないという不文律の掟を破ってまで。
(それでも構わない!)
息を飲み立ち尽くすルークレイルの中に、叫ぶ声がある。
(あいつらさえ幸せならいい。あいつらさえいてくれればいい)
奈落の底にいたルークレイルに光を与えてくれた彼ら。 ひとりひとりがかけがえのない、大切な、愛しい『家族』。
(そのためなら、俺は、なにものであっても構わない)
――見ると、屍の顔はすべて、銀幕市の人々のものに変わっている。 親しく笑い合い、肩を叩き、ともに戦った人々の姿に変わっている。 彼らの虚ろな眼差し、無念と憎悪と怒りと憐れみを孕んだ双眸に、叫び出したいような狂おしさと後悔と絶望が込み上げるが、それと同時に、冷酷な自分が、どこか遠くで、だからどうしたと吐き捨てるのもまた、事実だ。 「俺は――……」 何が正しいのかは判らない。 ただ、ルークレイルが、『家族』を愛し、依存し、執着していることだけは、紛れもない事実で、真実だった。 突きつけられた、あまりに激しく自分本位なそれに、この街で緩められた心はほんの少し怯むけれど、今更否定する気も、生き方を変えるつもりも、ルークレイルにはないのだった。
「なるほど……深く激しい、濃厚な渇望だね」 くす、という笑い声。 「得難いものを得た喜びは、時に人を、獣にする……ということかな」 くすくすくす。 「興味深い結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、ルークレイルは、缶コーヒーを持ったまま、自動販売機の前に立ち尽くしている。 「これが……『囁く者』の力、か……?」 あまりにも激しい、狂おしい感情に、胸の奥が苦しい。 それが、自分の中に凝る真実だと理解しているから、尚更。 ルークレイルは小さく息を吐き、踵を返した。 「あいつのことは、あとだ。今は……クロノス討伐に専念するしかない」 決着は必ずつける。 そう念じて、会議室へと戻る。 |
[326] |
渇望の声:イェルク・イグナティの場合
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2009-03-14(土) 15:41 |
瑕莫(cayu4682) |
イェルク・イグナティは、会議室への道順が判らなくなってここへ迷い込んだ。 誰かに尋ねようにも、人とすれ違わないのではどうしようもない。 「あー……ったく、ちゃんと案内板で確認して来りゃあよかったぜ……」 ぼやきつつ進んだ先にあったのが、自動販売機だった。 「……どう考えてもここは会議室じゃねぇよな……」 がりがりと頭を掻き、溜め息をついて踵を返そうとしたイェルクの首筋を、ちりり、と、何かがざわめかせた。
「――……君の望みは、何かね」
感じたのは絶大な神威。 それに伴う畏怖と、悪寒めいてざわざわとする不可解な感覚。 「なんだ、この空気……首筋の毛が、ちりちりしやがる……」 槍を手に、油断なく周囲を伺うが、そこになにものの姿を発見することも出来ず、イェルクは首をかしげた。 ――その脳裏を、唐突に、衝撃的な映像がよぎっていった。 「ッ!?」 それは、過去に一度垣間見た、彼の――彼らの『運命』。
血にまみれたエレクスがよろめく。 ライトブリンガーを諸手に構えたギルバートが、悪鬼の如き形相でエレクスに迫り、斬りかかる。 すでに何条もの刃を身体に呑んでいるエレクスは剣閃を避けることも出来ず、ギルバートの剣に斬り裂かれ、血を吐きながら崩れ落ちていく。 ――彼から表情を読み取ることは出来なかった。 ギルバートは何ごとかを叫びながら、倒れたエレクスにライトブリンガーの切っ先を突き入れた。 執拗なまでに、何度も何度も何度も何度も。 息があるのかないのか、ギルバートの剣がエレクスを串刺しにするたび、その身体が大きく跳ね、血を迸らせる。 跳ね飛んだ血がギルバートの頬を汚したが、ギルバートは、穏やかで純粋な彼の面影など見い出せないほど鬼気迫る表情で、憎悪と絶望と激しい悲嘆に燃え盛りまた凍りつく眼差しで、四肢ある肉塊となったエレクスに向かい、絶叫している。 ――その頬に、血の色をした涙が伝っているのは、何故だろうか。 何が起きているのか判らない。 ギルバートに何があったのか、エレクスに何があったのか。 彼らの傍らを見遣り、息を飲む。 何度同じ光景を見ても、まったく同じ動作をしてしまうだろう。 そこには、何本もの矢を身体のあちこちに生やし、目を見開いたまま事切れた自分の姿がある。 あの矢は、エレクスが使うものに相違なかった。 どうして、と、ギルバートが吼える。 それは慟哭だった。 骸となったエレクスとイェルクの傍らで、大地に打ち崩れ、土を掴み掻き毟りながらギルバートが慟哭している。 何故こんなことに、という、獣の咆哮のような絶叫が迸る。
(こんな運命は認めねェ)
イェルクは拳を握り締める。 背筋を這い上がる悪寒は、恐怖なのか哀しみなのか、得体の知れない運命などというものを押し付けるなにものかへの怒りなのか。 ――それは、星見という未来予知の能力を持つイェルクが見た、不可避とされている運命の一端だ。 槍の騎士は裏切りによって死に、弓の騎士は剣の騎士に復讐として――それとももしくは彼を止めるために、なのか――殺され、ひとり遺された剣の騎士は狂気と絶望を抱いて慟哭する。
(止めてやる……止めたい、止めなければ。違う運命が見たい……誰も泣かずに済むような)
予知夢を誰かに漏らすことは出来ない。 特に当事者に知らせることで、更なる悲劇が襲い掛かるといわれているからだ。 だからこそ、イェルクは、たったひとりで、孤独に抗い続けるしかない。 だが、どうすれば回避出来るのか、どうすれば別の未来が築けるのか、具体的な方法も判らないまま、『その日』だけが少しずつ近づいて来ている。それだけが判る。 咽喉元を込み上げる狂おしい渇望、我が身に迫る焦燥は、誰かに与えられたものではなく、イェルクがあの予知夢を見たときから心の奥底にある、今更のものだ。 それでも、もがいてももがいても沈んでゆく泥沼のような、あの、呼吸を妨げられる感覚を、目の前に突きつけられることは、ひどく咽喉が渇くし、息苦しい。
「――なるほど。君の中には、すでに、消し難い渇望が組み込まれているのだね」 くす、という笑い声。 「君たちが、君たちの行く末の果てに見い出す結晶にも、是非見(まみ)えてみたいものだ」 くすくすくす。 「興味深い結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、イェルクは、いつの間にか会議室前に立っている。 「いつの間に……?」 夢を見ていたような、まだ寝惚けているような感覚があって、足元が定まらない。 ゆっくりと巡らせた視線の先に、ふたりの騎士の姿を見い出して、イェルクは胸元を押さえた。 「方法はある……きっと」 自分に言い聞かせるように呟き、会議室へと足を踏み入れる。 ――喧騒が、彼を迎えた。 |
[327] |
(若干力尽きて来たので)
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2009-03-14(土) 16:29 |
犬井ハク(wrht8172) |
(ここから先は書けた順の公開になります) (今晩いっぱい使って書くつもりですが、どうしてもシーンが 思い浮かばなかったものはごめんなさいするかもです) (今のところ、1〜2件、ちょっと難しいかなーというのがあります)
(せっかく書き込んでくださったのに、希望に添えなくて申し訳ない……) (なるべく努力はします)
(やっぱ、必ず渇望については書いておいてくださいとお願いすべきでした……) |
[328] |
渇望の声:森砂美月の場合
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2009-03-14(土) 17:03 |
瑕莫(cayu4682) |
会議も中盤に差し掛かった頃だった。 「えーと……ミルクティーはあるかな、っと……」 美月は、甘いものが飲みたくなって自動販売機のあるこの場所を訪れ、そして『それ』を聞いた。
「――……君の望みは、何かね」
低く穏やかで心地よい、それなのに背筋がざわざわするような、不思議な感覚が美月を包み、それと同時に幾つもの、見たくない、聞きたくないものが、脳裏をよぎっていく。 美月は思わず息を飲んで硬直した。
(聞いた? あいつ、また先生にチクったんだって) (ええ、マジで?) (――が間違えて持って来ちゃった漫画のこと。規則だから、だって。――、わざとじゃないのに、って泣いてた) (うっわ何ソレ。あいつ何様のつもり?) (この前も、……が忘れ物して家に取りに帰ったの、告げ口してたよね) (……が――からノート写させてもらってるのも、よくないことだとかやめさせるべきだとか言ってなかった?) (本気でウザいよねあいつ) (自分は何も悪いことしてない優等生だから、ってこと? ぶっちゃけ存在そのものが悪いと思うんだけど?) (アタシたちみたいな馬鹿のことなんてどーでもいいと思ってるからじゃないの? あいつ、絶対にアタシたちのこと馬鹿にしてる) (「あんたたちみたいな馬鹿とは違うのよ」って? ムカつく) (うん、ホント、ムカつくよね) (本気でウザい) (学校になんて来なければいいのに) (ホントホント)
同い年の少女たちから情け容赦なく向けられる、美月への断罪の言葉。 そして、拒絶と断絶の言葉だ。
(違う……そんなつもりじゃ。そんなつもりだったんじゃ、ないのに……)
義務教育を含めて、学生時代の美月は、成績は優秀だったが、人間関係の構築に困難な部分があった。 彼女は真面目だったが、視野が狭いところもあり、例えばAという問題はAにしかなり得なかったし、Bという出来事はB以外のこととして認識出来なかった。 真面目で成績優秀な彼女は、教師の受けはよかったが、あまりにも融通が利かず、自分の価値観でものを言い、行動したため、同級生やクラスメイトからは、ほとんど憎まれていると言っていいほど嫌われていた。 それゆえにいじめを受け、心に傷を負った。 たくさんの絶望を味わい、何度も死を思い、しかし死ぬ勇気もなくて鬱々と生きていた彼女が、今の美月になったのは、ネットの海という茫洋とした場所ではあれ、そこで希望という光を見出すことが出来たからだ。 だからこそ、たくさん勉強して、努力をして、カウンセラーになった。 傷は今でも癒えていないが、それでも、自分と同じような悩みに泣く人をなくしたいから、前を向いて歩きたい。
(人を癒す人間になりたい) (心を、思いを重視して、言葉の力を信じて) (私が幸せになることで、誰かの苦しみが見えなくなるのなら、私は幸せでなくていい。私の幸せなんて、誰かに上げてしまっていい) (ポジティヴな思いがマジョリティだとして、ネガティヴな思いしか抱けない人間は、どこへ行けばいいの?) (私は、そのマイノリティを受け入れたい)
それが彼女の思いだ。 渇望、とは、また少し、違う。
(嘘ばっかり)
美月の覚悟を打ち消す、非情な声がどこかから聞こえて来る。 聞き覚えがあると思ったら、それは美月自身の声だった。
(受け入れて受け入れて受け入れて、ぶつかることを怖れて?) (違、) (ネガティヴを肯定したい? 結局は自分が可愛いからでしょ?) (そんな、) (他の誰でもない、マイノリティな自分が、受け入れられたいからでしょ?) (だから、) (弱くて醜い自分を、『別世界』から連れ戻すためだけに、甘受という名の毒を撒き散らすと言うの?) (――……そうじゃないの!)
声の言うことはある意味正しく、ある意味誤っている。 美月はそれを否定することも出来ない。 彼女は、今もまだ、過去のトラウマと、決別できてはいない。 外から見ても判らないだけで、美月の内面はどろどろとネガティヴだ。 長期に渡って受け続けたいじめは、彼女の心に、深刻な、癒し難い傷を残したままなのだ。 「それでも、私は――……!」 誓いを忘れたくない。 泥沼の底でもがいていた時、救い上げられたあの安堵感と、誰かが自分を見ていてくれるのだという喜び、充足感を、自分以外の誰かにも届けたい。 そして、同じ痛みにもがく誰かを救いたい。 その気持ちを忘れてしまえば、美月はもう、美月ではなくなってしまうのだ。
「甘美な暗闇だ」 くす、という笑い声。 「魂の奥底に凝るその闇のゆえに、君は光たらんと願うのだね。――その覚悟、決意が、どんな果てを見せるのか、とても興味深い」 くすくすくす。 「濃厚な結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、美月は、ミルクティーの缶を手に、いつの間にか会議室の前に戻っている。 「あれ、私……?」 胸の奥にわだかまる重苦しい記憶と絶望。 それは未だに、美月を縛る、暗黒の色をした根底だ。 光と闇を交互に行き来し踊る己を滑稽にも思いつつ、だからこそ、と、美月は思うのだ。 幸いにも、信じたいと願う力は、彼女には満ちているから。 |
[334] |
渇望の声:二階堂美樹の場合
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2009-03-14(土) 23:01 |
瑕莫(cayu4682) |
二階堂美樹は、同じ部隊のメンバーに断って会議室を抜け、自動販売機までやってきていた。 「はぁ……疲れた。糖分補給しよっと」 考えることは山積みで、状況の予測をいくつ立てても足りない。 人間は万能には到底なれないが、いかなる状況変化にも対応出来るよう、出来得る限りの万全を尽くすことは、決して無意味ではないだろう。 「頭使ったから、甘いのがいいなっ。うーんと甘くてきつい炭酸の……あっ、これがいいわ、ハチミツメロンクリームソーダ∞!」 何もそこまで頑張って甘くしなくても、と甘味が苦手な人間なら呆れ返るような類いの、少しレトロな香りの漂う、古式ゆかしいデザインの缶を見ながらボタンを押す。 「問題はカロリーよね……あとでしっかり運動しなきゃ」 カロリー表示を見ながら呟く美樹。 そこへ、
「――……君の望みは、何かね」
唐突に響いた声。 不意に周囲の空気が、重く、どこか威圧的になる。 圧し掛かるようなそれは――……神威と、畏怖。 「そうね、出来ればカロリーオフで……って、誰ッ!?」 思わず答えかけてから、びくりと震えて周囲をきょろきょろと見渡すが、誰もいない。 ただ、重苦しい、思わず背筋が伸びるような空気が、周囲にたゆたっているだけだ。 「なんだか、嫌な感じだわ……」 寒気を覚えて、美樹は両腕で自分の身体を抱いた。 ――その時だった、脳裏を、『彼』の顔がよぎったのは。 ガスマスクだったのか笑顔だったのか渋い顔だったのか仏頂面だったのか、必死な顔だったのか冷静な顔だったのか怒っている顔だったのか、そのすべての顔だったのかそれともそのどれでもなかったのか、判然としなかったけれど、確かに彼の顔だった。
(女は大人しい方が好みだ)
脳裏を、彼の言葉がリフレインする。 「……ブレイフマン……」 ぽろり、と、名前が零れた。 きっかけは、人質事件の時だ。 きっぱりさっくりと言い切ったブレイフマンに反発し、「元気のいい女の子の方がいいって言わせてやる」と宣言して、彼に付きまとい始めたのは、いつだったか。 色々なことがあって、色々なことを知って、いつの間にか好きになっていた。 多分、自分で思っているよりも彼に惚れていた……と、思う。 「……もう、ここには、いないのに……」 表現が過去形なのは、彼がすでに、この銀幕市からは喪われて久しいからだ。汚水の匂いのする第二のネガティブゾーンで、おぞましいディスペアーとなって、斃されてしまったからだ。 彼にとどめを刺した相手を責めるつもりはなかった。むしろ、いつか、自分に出来ないことをしてくれた彼に、感謝する日が来るだろうとも思っていた。 キラーと化したムービースターを救うすべはたったひとつだけだ。 そのことも、判っている。 ――判っている、けれど。
(逢いたい、逢いたい、逢いたい、逢いたい)
今の美樹の渇望など、たったそれだけのことだった。 美樹が、破天荒で猪突猛進な台風娘に戻るには、まだ、その驚愕と衝撃、悲嘆は癒え切っていないのだった。
(もう一度逢いたい。声を聞きたい。つきまとって呆れられたい。ジェーブシュカって言われたい。――好きだ、って、一言でも伝えたい)
あまりにも衝撃的な別れを経験した美樹の心は、願いは何かと問いかけられて、躊躇なく、単純に、たったそれだけを望んだ。 重苦しい別れは、彼女の中にびっしりと哀しみの根を張っている。その哀しみの根のゆえに……叶わないと知っているがゆえに、美樹は、渇望に呑まれることすら出来なかった。 「どんなになったって喪いたくなかった、って……」 目尻に滲んだ涙を、ぐっと拳で拭う。 「過去形で思ってる時点で、もう、どうしようもないんだもの」 いずれこの痛みが過去に変わる日が来る。 喪った悲嘆と同じく、出会えた喜びを語れる日が来る。 ――美樹は、そう信じている。
「ああ……なんともやわらかく、甘美で、物悲しい渇望だ」 くす、という笑い声。 「ヒトがヒトを愛する気持ちは、いつでも美しい結晶を生むけれど……君のそれは、可愛らしく真摯だね」 くすくすくす。 「純粋な結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。
――気づくと、美樹は、冷たい缶を握り締めて自動販売機前に立ち尽くしている。 「今の、は……?」 いくつものブレイフマンの顔が、今もまだ明滅している。 彼の声がリフレインしている。 叫び出したいような哀しみと焦燥なら、今でも美樹の中でたゆたっている。 「だけど」 美樹は缶をつよく握り締めた。 ここで立ち止まり、うずくまるような人間が、ブレイフマンを惚れさせる『気の強い女の子』でいられるだろうか? ――答えは、否だ。 「今はやるべきことがある……だから、泣かない」 唇を引き結び、凜と前を向いて美樹は歩き出した。 背筋の伸びた、美しい後姿だった。 |
[336] |
渇望の声:最終
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2009-03-15(日) 22:33 |
瑕莫(cayu4682) |
ブライム・デューンは、何か冷たいものでも飲もうと思い立ち、自動販売機にやって来ていた。 会議は白熱している。 誰もが冷静だが、誰もが懸命だ。 この街のため、隣人のために、自分に出来ることを皆が模索している。 ブライムはそれを心地よく思っていた。 「……ん? 何か、妙な気配が……」 自動販売機の傍らに不思議な気配を感じ、ブライムは首をかしげる。 「なんだ、何かいるのか?」 ブライムがきょろきょろと周囲を見渡し、首を捻っているところへきたのが白亜だった。 会議の合間に、咽喉を潤そうと思い、果汁100%のジュースか温かいココアを目当てにやってきた彼は、自動販売機の周囲をうろうろしているブライムに不思議そうな目を向けつつ小銭を取り出し、スロットに入れようとしたところで動きを止めた。 「……なんだろう、この気配」 彼の呟きにブライムが反応し、白亜に声をかける。 「おまえも感じるか? 悪いものじゃなさそうだが……」 「ああ。だが、これは……まるで畏怖のようだ」 ふたりが何もない中有を見詰める中、お茶を買いに来たのは片山瑠意だ。 「十狼さんは蜈蚣の方に行くのかなぁ? まぁでも、あの蜈蚣手強そうだし、俺が行っても大した戦力にはならなさそうだもんなぁ……そういう意味では適材適所なんだろうけど。――それに、どうせ、俺は俺で、全力を尽くすしかないんだし」 彼は他に気がかりなこと――好きな人と一緒に行動したいという可愛らしく切実な悩み――があって、ふたりに気づくのが遅れた。ぶつぶつと呟きながら立ち止まり、顔を上げて、ようやくふたりを視界に認めたくらいだ。 「……あれ、白亜さん。それと……ブライムさん、だっけ? 同じ部隊の。……どうかしたのか?」 「いや……何と言えばいいのか。瑠意、貴方は感じないか?」 「え、何を……うん?」 瑠意が眉をひそめたのも、ブライムや白亜と同じ理由からだった。 この場所には、不可解な神威が満ちている。 心をざわつかせる畏怖と、足元を頼りなくさせる不安とがたゆたっている。 「何だろ、これ、覚えがあるような……」 あの時、神音のコンサートに兄貴分の友人と出かけて事件に巻き込まれ、彼に剣を向けた時に感じた、心の奥底を曝け出されるような、醜く身勝手な願望を刺激されるような、この感覚に、覚えがある。 瑠意もまた不審げに……不安げに黙り込み、周囲をきょろきょろと見渡す。 と、そこへ、 「甘い飲み物と、お茶があればいいでしょうか……おや?」 部隊の皆に差し入れを、と思い立ってやってきたマイク・ランバスが現れ、立ち尽くす三人を目にして不思議そうに瞬きをした。 「皆さん、どうなさいまし、」 マイクがすべてを言い終わるより早く。
「――……君の望みは、何かね」
静かで穏やかな、それでいて威圧感をまとった声が、それぞれの脳裏に響いた。 それと同時に四人の脳裏を、幾つもの光景、幾つもの言葉がよぎっていく。 鮮やかな彩りと、胸を掻き毟るような焦燥と、幾許かの寂寞を伴って。
凪いだ海。 戦火の上がらぬ国々。 笑顔に満ちた人々。 お腹いっぱい食べて、愛情を一身に受けることの出来る子どもたち。 明るく豪快に笑い合い、肩を背中を叩き合う海賊団の人々――かけがえのない『家族』。 平らかな日々。 争いも苦しみもない、友愛と誠によって律された世界。 花が咲き乱れ、鳥は軽やかに鳴いて羽ばたき、雲は悠然と空を泳ぎ、森も草原も山々も川も湖も、そして海も、すべてが穏やかに調和した光景。 ――そして、その先で笑っている、未だ知らぬ実の両親。
(……ああ、そうだ……)
ブライムは瞑目し、胸を押さえた。 それらを掴み取りたい、自分のものにしたい――それはたったひとりが所有できるような類いのものではないが――、真実となったその世界をこの目で見てみたい、そして自分という人間を作った父と母に一目見えたい、という、静かでありながら激しい渇望が、焦燥感すら伴って咽喉元を込み上げる。
(俺は、そのすべてを、見てみたい)
それがどれだけ困難で、真実、なされ難いものであるのか、理解しつつも。 頑是ない童子のように、真摯に、切なく、ただ願う。
花が咲いている。 一面の、桜の花だ。 人間ではない生き物である鬼たちにも、花を愛でる心はある。 咲き乱れる桜花に、畏怖めいた恐怖を覚えることもある。 ――それでも、桜が咲けば、もう、春だ。 山では木の芽が芽吹き、山菜が採り頃となり、草原では小さな花々が今を盛りと咲き、この温かな季節を謳歌する。 一際大きな桜の下で、鬼たちが陽気に踊っている。 一際大きな鬼が、大きな杯に口をつけながら、目を細めて宴を見ている。 鬼たちは、酒を飲み、皆で用意した心尽くしのご馳走を食べ、頬を赤くして、幸せそうにくるくると踊っている。巧みな舞を披露したものにやんやの喝采が向けられる。――笑顔と友愛とが、辺りに満ちている。 人間は彼らを鬼だと厭うけれど、鬼にも家族を、友を思う心がある。 希望を胸に抱き、平穏な日々を夢見る心がある。
(ああ、懐かしいな)
映画という名の故郷に残してきた、兄と一族のことを思い、白亜は瞑目する。 今、白亜は、とても幸せだ。 鬼とか人間とか、そんなカテゴリは関係なく、白亜という存在として受け入れられ、認められ、大切にされている。 故郷では殺し合うしかなかった人間の青年と、心を通わせ、友と呼び合うことも許された。 ――けれど、ここに、彼らはいない。 白亜にとっての絶対だった彼らは、ここには、いない。
(会いたい……な)
贅沢な渇望だ。 これだけ満たされていてもなお欲するのかと、誰かが嘲笑うかもしれない。 それでも、会いたいと思う。 身体を掻き毟りたくなるような、切ない願いが咽喉元を灼く 彼らにも、この街で、幸せになって欲しいと思う。故郷では叶えられなかった願いを、ひとつひとつ、真実にして欲しいとも思う。 そう、自分がそうだったように。
眠っている美しい少女。 生気のない、陶器人形のような、しかし無上に美しい顔。 実際に会ったことはないけれど、彼女のことはよく知っている。 彼女がいなければ、この街は成り立たないのだから。 孤独と絶望とともに眠り続ける少女のために、夢神の子リオネは魔法をかけた。 だから、今の銀幕市がある。 ――今の銀幕市のお陰で、たくさんのものを得た。 バッキーを得、不思議な能力が付加された様々な道具を得、友人を得、家族を得て、――そして想い人を得た。 今の幸いの大半は、銀幕市にかかった魔法の賜物と言っていい。 たくさんの、かけがえのないものに囲まれた自分はとても幸せだ、と思う。 けれど。
(だけど……それは、のぞみちゃんを犠牲にしてるってことでもあるんだ)
彼女自身の幸せのために、そして彼女を案じ愛する人々のためにも、一刻も早く目覚めて欲しい、自分に何かが出来るなら力を尽くしたい、瑠意はそう思っている。 誰かの犠牲の元に成り立つ幸せはおかしい、と思う。 しかし、また、それと同時に、瑠意は、彼女が目覚めることに対して、不安と寂しさを抱いている。
(だけど、魔法が解けたら……皆、消えてしまう。あの人たちも――十狼さんも、いなくなってしまう)
だから目覚めないで欲しい、この街の魔法をずっと続かせて欲しい、という身勝手な願望が、瑠意の中で沸き立つ。今にも吹きこぼれてしまいそうなほどに、滾っている。
(俺は……勝手で滑稽だ。だって、どっちの俺も、俺なんだから……)
その身勝手な思いの中で、瑠意は揺れる。 拳を握り締め、唇を噛み締めて。
孤児院の子どもたちが笑っている。 笑っている子どもたちの、あの満面の笑みが好きだ。 笑っている人々が好きだ。 人々の幸せのために何か手伝いがしたい。 皆が穏やかに笑える、平和で幸せな世界であればいい。 すべての人々を愛し、すべての人々の幸いのために生きたい。 ――そう、母を亡くし、父を喪った自分を慈しみ育ててくれた彼が、自分自身の幸いになど目も向けず、そうやって生きていたように。 分け隔てなく、我が身を一歩後ろに置き、万人のために。
(その通りです……それこそが、我が喜び)
マイクは、きゃあきゃあと大騒ぎをしながら笑う子どもたちの姿に目を細め、頷く。 彼の存在意義はそこにある。 他者の幸いのために生きることこそ、彼の意味。 だからこそ、ゾンビに襲われた彼らを逃がすために、たったひとり徒手空拳で立ち向かうなどという無謀を冒すのだ。そうでなくては、マイクの意味は失われてしまうのだ。
(けれど、それゆえに、貴方自身は空虚なのですね、私よ)
聞こえてきた声は自分のものだった。
(個として一を愛することが出来ぬまま、たったひとり、どこまで行くのです?)
呆れたような、憐れむような、蔑むような、溜め息をつくような、自分の声に、マイクは苦笑するしかない。 ――マイクは個人としての自分に固執出来ない。 自分の幸いのために生きることが出来ない。 そういう育ち方をして、そういう生き方を選んだ。 今更悔いてはいないけれど、無論、そのことで悩んだことも、ある。
(動物としての人間の本能を忘れ、空っぽなままで、どこへ?)
問いはいっそ真摯ですらあった。 若き日のマイクが自身に問いかけているのかもしれなかった。
(――……どこへでも)
吹っ切っているのとは恐らく違う。 それを心の闇というのなら、闇はまだ彼の中で燻っている。 ただ、それよりもなすべきことをなさねばと思うから、隣人たちを愛しいと思うから、マイクは立ち止まらないし、振り返らない。――立ち止まれないし、振り返れない、のかもしれないが。
「なるほど……それぞれに、興味深い」 くす、という笑い声。 「それぞれに意義があり、意味がある……存在とは、それゆえに深遠で、趣ぶかいのだろうね。それは、私の求める答えに近いのかもしれない」 くすくすくす。 「たくさんの結晶を、ありがとう」 どこからか聞こえる謝意。 「さあ……望むものは集まった。……クロノスが、もう少し集めさせてくれるかもしれない。私はそれを見つめながら、次の準備をしよう」 どこか楽しげな独白のあと、あの不可解な、神威を孕んだ気配が、遠ざかっていく。
――気づくと、四人は、めいめいに缶を握り締めて、自動販売機周辺に立ち尽くしている。 「なんだったんだ、今のは……?」 ブライムが顔をしかめ、呟くが、答えられるものはない。 だが、それぞれに、理解はしている。 あれらが、己が内面に巣食う利己であることを。 その利己は、時として他者を傷つけ、踏み躙るのだということを。 「だからこそ……放っておけない」 白亜の言葉に頷き、四人は踵を返した。 クロノス討伐を成功させるべく、再び会議の間へと戻っていく。
くすくす。 「――君たちが見せてくれるものが楽しみだよ」 時空の狭間に落とされたその言葉を聞くことが出来たものは、無論、いなかったけれど。 |
[337] |
(ありがとうございましたー)
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2009-03-15(日) 22:36 |
犬井ハク(wrht8172) |
(最後はまとめてになりましたが、以上11名様の渇望を描かせていただきました) (色々な渇望を見せてくださってどうもありがとうございました)
(途中、見苦しいところをお見せしまして申し訳ないです)
(少しでも楽しんでいただければ幸いです) (パーティシナリオの執筆も頑張りますので、少々お待ちくださいませ) |