★ 【Love is Beautiful Energy!】無何有の日々 ★
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
管理番号102-6650 オファー日2009-02-11(水) 13:27
オファーPC イェータ・グラディウス(cwwv6091) エキストラ 男 36歳 White Dragon隊員
ゲストPC1 臥龍岡 翼姫(cyrz3644) エキストラ 女 21歳 White Dragon隊員
ゲストPC2 リシャール・スーリエ(cvvy9979) エキストラ 男 27歳 White Dragon隊員
ゲストPC3 トイズ・ダグラス(cbnv2455) エキストラ 男 23歳 White Dragon隊員
ゲストPC4 唯・クラルヴァイン(cupw8363) エキストラ 男 42歳 White Dragon隊員
ゲストPC5 阿久津 刃(cszd9850) ムービーファン 男 39歳 White Dragon隊員
ゲストPC6 リヴァイアサン(cbss8024) ムービースター その他 5歳 7つの首を持つ海竜
ゲストPC7 月下部 理晨(cxwx5115) ムービーファン 男 37歳 俳優兼傭兵
<ノベル>

 1.キッチン中がチョコレート・フレーバー

「そうそう、うん、ゆっくりな。いきなり沸騰させると生クリームに申し訳が立たねぇし。……あー、でも、いい匂いだよなぁ。刻むだけで、なんでこんないい匂いがするんだろうなぁ」
 月下部理晨(かすかべ・りしん)が、鍋の持ち手を握った自分の手元を覗き込むのを、臥龍岡翼姫(ながおか・つばき)は無表情にときめきながら見ていた。
 理晨の、翼姫にとっては無上に手触りのいいやわらかい黒髪が、さらさらと流れて、窓から差し込む光に照らされ、輝いている。
 ――それを目にするだけで、翼姫は幸せの何たるかを心底実感することが出来る。
「そうね、とってもいいチョコレートを選んだもの。きっと、理晨がびっくりするくらい美味しいチョコレートが出来るわ、楽しみにしていてね」
「ん、楽しみにしてる。翼姫が買ったのって、スイス製のクーベルチュール・チョコレートだっけか? やっぱさ、スイスとかベルギーとかドイツのチョコレートはすげぇよな、日本のも実は相当美味いと俺は思うんだけど、本場のは違うわ」
「ふうん……フランスはどうなの?」
「ああ、フランスのボンボン・ショコラも悪くねぇよな。でもフランス製の、特に有名ショコラティエが作ったようなのはホラ、正直高ぇからさ」
「なるほど、そういえばそうね」
 翼姫は笑って頷く。
 ――そのありようから、残念ながら傭兵団ホワイトドラゴンはいつも貧乏だ。
 どのくらい貧乏かというと、人数や錬度からして、傭兵団としての規模はそこそこのはずなのに、維持費のかかるヘリコプターや大型の重火器を所持していられないくらいなのだ。
 理晨をはじめとしたメンバーが、傭兵以外の副業でお金を稼ぐことで、なんとか成り立っているが、それらの金銭も、団が経営する孤児院や孤児院に付随する諸々のためにあっという間に出て行ってしまうため、ホワイトドラゴンの人々は、普段から質素倹約を強いられている。
 ホワイトドラゴンのアイドルにして要である理晨のチョコレート・フリークぶりを知らない団員はおらず、彼に美味しいチョコレートをプレゼントしたいとか、チョコレートを持ち出して彼を懐柔したいとか考えている団員は多いが、まずは資金面の問題で、理晨に高級チョコレートを思う存分食べさせてやる……ということは、なかなかに難しいのが現状だ。
 とはいえ、本人は、駄菓子屋で売っているような、銅貨一枚で買える類いのチョコレートでも普通に喜ぶし釣られてくれるので、あまり問題はないのかもしれないが。
「……今度、ネットオークションで、いい感じのショコラティエのボンボン・ショコラでも落札してみようかしら。ちょうど、この前の仕事で小金も入ったことだし」
 沸騰直前まで温めた生クリームを、刻んだクーベルチュール・チョコレートが山になったボウルに注ぎ込み、言われた通り丁寧に木べらで掻き混ぜながら翼姫は呟く。
「ん、何か言ったか、翼姫?」
「ううん、何でもないわ。ただ、理晨に美味しいチョコレートを食べさせてあげたいな、って思っただけ」
「はは、そっか。ありがとうな、その気持ちだけでも嬉しいぜ」
 大きなボウルにお湯を入れ、一回り小さなボウルに刻んだチョコレートを入れて、ゆっくりとチョコレートを溶かしながら理晨が笑う。その笑顔を見ただけで幸せな気分になって、翼姫も一緒に笑った。
「理晨は何をしてるの?」
「これか? テンパリングってやつだな。チョコレートの温度を最適に保つことで、色艶や口解けをよくするんだ」
 ゆるゆるととろけたチョコレートにガラスの温度計を差し込みながら理晨が言う。
「俺、オーソドックスな型抜きチョコレートにしようと思ってるからさ。やっぱ、色艶にはこだわりてぇじゃん? ……色んな型を準備したんだ、きっと皆喜んでくれると思うな」
「そうね、理晨が作るんだから、きっと可愛くて美味しいチョコレートになるわよね。楽しみだわ」
 理晨にだけ見せる素直な笑顔で頷きながら、翼姫は生クリームと渾然一体となったチョコレートを前に、
「ここで……ラム酒を入れて、と」
 ラム酒の瓶を手に取り、大さじで液体を計ってボウルへと投じる。
 理晨と一緒に輸入食料品店に行き、選んだラム酒は金色のバカルディ。
 世界中のバーテンダーから支持される、軽やかで華やかな香りが特徴のラムだ。
「そうそう、んで、バットに流し入れんのな」
「判ったわ。ええと……」
「……ほら翼姫、バット」
 ふわりと芳醇な香りを立ち昇らせる、生チョコレート一歩手前の物体が入ったボウルを手に、目的のものを探そうとした翼姫に、にゅっと伸びた大きな手がバットを手渡す。
 翼姫はぱちぱちと瞬きをして、手の主を見上げた。
「……いたの、イェータ」
「さっきからお前らの手伝いしてたっつーの」
 理晨以外見えていない、身も蓋もない翼姫の物言いに、呆れた声を上げるのは、ホワイトドラゴンの料理番、イェータ・グラディウスだった。
「お前らの買出しに車出したのも俺だっただろうがよ」
「あら、そうだったかしら。どうでもいいことだから忘れちゃったわ」
 ツンとしながら翼姫が言うと、イェータは呆れたように肩をすくめたが、翼姫のこういう、まったく素直でない反応はいつものことでもあるので、特に気にしてはいないようだった。
「で、俺はあと何をすりゃいいんだった?」
「トリュフチョコレート・プリンも作るから、容器出しといて。プレゼント用なんだから、綺麗に洗って、乾かしておいてよね」
「あーはいはい」
 居丈高な翼姫の物言いにも、イェータは笑って頷くばかりで機嫌を損ねる様子もない。
 戦災孤児となった翼姫がホワイトドラゴンの経営する孤児院に入り、更にホワイトドラゴンに入団して十年以上が経っているのだから――つまり付き合いもそれだけ長いということだ――、彼女のこういった、素直でない態度に、そしてその裏側にあるものに、今更イェータがどうこう言うはずもないのだ。
 ……とはいえ翼姫は、余裕綽々なイェータに腹が立って、暴力や悪口雑言に訴えることも決して少なくはないのだが。
「ん、いい匂い……あ、理晨!」
「何……ツバキ姫、リシンを……独占して、お菓子作り……なんて、いい度胸……」
 そこへ、匂いを嗅ぎつけて、対面式キッチン――というより、単にダイニングと隣接しているだけなのだが――にやってきたのは、運転技術においてはホワイトドラゴンでも右に出るもののないトイズ・ダグラスと、退廃的な雰囲気から『弱そう』という評価を受けるが実はホワイトドラゴンでもトップクラスの戦闘能力を持つ“アンデッド”リシャール・スーリエだった。
「何よあんたたち、邪魔するんじゃないわよ。わたしと理晨の愛の一時を!」
 最高に不機嫌な顔になった翼姫が言うと、ひょいと近づいて彼女の手元を覗き込んだリシャールは、バットの中に流し込まれ、あとは冷蔵庫で固めるばかり、という段階に入った翼姫の生チョコレート“パヴェ”を見て、鼻で嗤った。
「……地味だね……」
「うっさいわよ、リシャ! あんたに言われる筋合いはないわ!」
 大きな冷蔵庫にバットを仕舞い込みながら翼姫が吐き捨てると、リシャールは、テンパリングの終わったチョコレートを型に流し込んでいる理晨に近づき、綺麗にラッピングされたギフトボックスを差し出した。
「ん? どうしたんだ、リシャ?」
 小首を傾げる理晨。
 三十路後半とはとても思えない、少年めいた可愛らしい仕草に、翼姫はリシャールへの怒りも忘れて和む。理晨という人間の、動作のひとつひとつが、どうしてこんなに自分の目を、心を捕らえて離さないのか、不思議で仕方がない、と翼姫は思った。
 しかし、そんな和んだ心も、
「ん……ハッピー・バレンタイン……これ、俺が作ったんだけど……リシンに」
 永遠のライバル・リシャールが、理晨に、小さな花束とギフトボックスを手渡すのを目にしてしまうとはるか彼方へ吹き飛んでしまう。
「ちょっとリシャ、あんた、」
「お、マジで? 手作りとかスッゲ嬉しい。ありがとうな、リシャール!」
 翼姫がリシャールを罵る前に、パッと顔を輝かせた理晨が、リシャールの手からギフトボックスを受け取った。
「ん、音からしてクッキーかな? ……味見してみてもいいか?」
「……うん……勿論……」
「んじゃ早速」
 嬉しそうに笑った理晨が、がさがさと音を立てて包装を解き、箱の中から、星や月、花やバッキー、牛や蝶などの、様々なかたちをしたメルヘンなチョコレート・クッキーを取り出し、また嬉しそうに笑う。
「すげぇな、滅茶苦茶可愛いし、いい匂いだ。……あ、うん、美味い。サンキュー、リシャール! 大事に食べるな」
「昔……嫌々作ったのが、ここに来て……役に立つなんて、思わなかったな……。……うん、喜んで……もらえたら、俺も……嬉しい、よ……」
 さくさくのチョコレート・クッキーにご満悦の理晨と、そんな理晨に、彼にだけ向ける類いの笑顔をほんのかすかに見せるリシャール。
 翼姫が苦虫を噛み潰したような表情になったのも当然といえば当然だった。
 無論、先を越された、という思いと、まさかリシャールが手作りプレゼントを渡すなんて、という思い、それから自分のプレゼント以外で理晨が喜んでいるなんて許せない……という嫉妬によるものだ。
 そこへ、まったく空気を読んでいない……というより気にしていないイェータが、ガラスの、シンプルで可愛らしい容器を手に翼姫に声をかける。
「翼姫、容れ物準備できたぞ。……翼姫?」
「イェータうるさい! わたしは今物思いに耽ってるの!」
「……危ねぇな、鍋振り回すなよ。いやまぁ物思いに耽るのは構わねぇけど、プリン作るんだろ? 早めに準備始めねぇと、渡すまでに固まらねぇぞ」
「う……うるさいわね、判ってるわよ……!」
 飄々としたイェータにイラッとしつつも、確かに彼が言う通りだというのも判る。理晨や一部団員にプレゼントするパヴェは準備出来たので、次は、もうひとり、今はここにいない某人物のための贈り物を作り始める。
「ん、なんだ翼姫、二種類も作るのか」
 鍋に牛乳と生クリームを入れて温め始めた翼姫を見下ろし、トイズが言う。
 翼姫は聞こえなかったふりをしようと無言のままだったが、
「……ポチを毒殺するなよ」
 あまりにも的確なうえにあまりにもデリカシーのないトイズの言葉に、首まで真っ赤になった挙げ句手近にあった玉杓子を引っ掴み、
「うっさいこのムッツリ助平!」
 叫びながらトイズ目がけてそれを投擲していた。
「うわ、翼姫が切れた。図星ってことだな」
 したり顔のトイズが、宙を飛ぶ玉杓子をひょいと避けた、その時だった。
「ただいまー、お、いい匂いだな、皆キッチンにいンのかー?」
「今日はどこもかしこもチョコレートの匂いですね。……理晨が喜びそうなので、問題はありませんけど」
 銀幕市に滞在しているホワイトドラゴン団員の中でも年長組のふたり、阿久津刃(あくつ・じん)と唯(ゆい)・クラルヴァインがダイニングに踏み込んで来た。
 ふたりは、傭兵としての仕事のために、ここ数日でかけていたのだが、どうやら仕事は巧く行ったらしい。
「あ、」
 彼らが無事に帰って来たことは勿論嬉しいが――といってもそれを素直に表現出来る可愛らしい表情筋も持ち合わせていない翼姫である――、翼姫が声を上げたのは、彼らを労おうと思ったからではなく、自分の投擲した玉杓子が、キッチンを超えてすっ飛んで行ったからだ。
 そしてそれは、まったく予想もしていなかったであろう刃の額を直撃する。
 かこーん、という間抜けな音がして、
「ぅおあッ!?」
 低い叫びとともにバランスを崩した刃が引っ繰り返る。
 翼姫はそれを、まぁ刃だしいいか、などという非情極まりないことを思いながら見ていたのだった。



 2.気の早い争奪戦

「畜生、なんだったんだ今のは……」
 呻きながら身を起こした刃に、
「翼姫が、刃を歓迎したくてやったらしいぞ」
「トイズが刃に帰って来るなうざいって言って投げたの」
 トイズと翼姫の言葉が同時にかかる。
「……ほーぅ。トイズ、テメ、そりゃどういう了見だ、あァ?」
 『娘』には甘い刃は、当然翼姫の意見を採用し、早速トイズを締め上げにかかった。
「理晨理晨、馬鹿力のオッサンが虐める、助けてくれ」
 腕力では敵わないと知っているトイズがさっと理晨の背後に隠れたので、刃は舌打ちをしてそれ以上の追及を避ける。
「刃、わざとじゃねぇんだ、許してやれよ」
 無論、理晨の目の前であまりひどいことをして――してやりたい気持ちはたくさんあるが――、理晨に嫌われたくなかったからだ。
「チッ、仕方ねぇ、大目にみるか。――……そうだ、理晨、土産があるんだよ、今日はバレンタインデーだしな。なぁ、唯?」
 そんなわけで気持ちを切り替え、刃は、今回の仕事の相棒だった唯に声をかけた。
「ええ、そうなんですよ、ベルギー経由で帰国しましたのでね。せっかくですから、理晨の好きなものを、と思いまして、少々寄り道しました」
 神秘的な美貌を穏やかな微笑で彩り、唯が頷く。
 それとともに、唯が、手にしていた大きな紙袋を、ダイニングの大きなテーブルに置いた。唯に手招きされて、理晨がテーブルに近づく。
「戦闘中色々ありまして、追加料金をふんだくらせて……もとい、チップを弾んでいただきましたので、ね。ベルギー王室御用達、というものばかり選んできましたよ」
 唯の美しい手が、美しい包装のなされた箱を、大きな紙袋から取り出し、テーブルに置いていくたびに、理晨の目が輝く。
「うわ、スゲ……ゴディバにガレ、ノイハウスにレオニダス、ヴィタメールまで……! ノイハウスってさ、世界ではじめてプラリネを作ったメーカーなんだよな。名前は知ってたけど、本物を見んのって、はじめてかも……!」
 高級とは言えたかがチョコレートでここまで喜んでくれるのだから、安上がりというべきか、可愛らしいというべきか。
「はい理晨、味見をどうぞ。可愛く『あーん』してみせてくださいね」
 包装を解いた唯が、長く優美な指先で『N』の文字が刻印されたプラリネを摘み上げ、理晨に差し出す。
「や、あーんって年でも……まぁいいか」
 理晨は少し照れていたが、チョコレートの誘惑には勝てなかったのか、唯の差し出すそれを素直に食べた。
「んー……ベルギーってすげぇ……!」
 しばしの咀嚼のあと、漏れた感嘆の可愛らしさに、周囲で和み空気が巻き起こる。
 理晨という人間の、仕草のひとつひとつが、それぞれに傷や過去を背負うホワイトドラゴンの人々を癒し、この人を守らなくては……という気分にさせるから、なんとも不思議なものだ。
「すっげぇ嬉しい。ありがとうな、刃、唯」
「ま、俺はお前が喜んでくれりゃァなんでもいいンだ、そんだけで甲斐があったってもんだしな」
「そうですね、寄り道をした甲斐はありましたね、確かに。……ああそうだ、理晨」
「ん、なんだ、唯」
「理晨のお返し、期待してますね?」
「え゛っ」
 若干邪まな何かが含まれた『お返し』という言葉に理晨が一歩後ずさる。唯はふふふと笑うばかりだったが、何か碌でもないことを示唆しているのは明らかだ。外面如菩薩内面如夜叉、と時に称される唯なので、あまり不自然ではないのかもしれないが。
 と、唯の一連の行動を見ていたトイズが、
「唯がそういうことするんなら、俺も理晨にあーんってしたい! っていうか、俺もあーんってしてもらいたい!」
 言って、ずずいと大きな瓶を差し出す。
「あ、可愛い」
 理晨が、2リットルのペットボトルくらいのサイズがある瓶を手にして目尻を下げた。
「可愛いだろ? 理晨なら喜ぶだろうなって思って、これにしたんだ」
 赤いリボンをかけた瓶は、一口サイズの、ファンシーで可愛いバッキー型チョコレートがたくさん詰まったもので、銀幕市限定、数量限定のちょっと高価な市販のチョコレートだったと刃は記憶している。
「イェータにもこれ。いつも世話になってるから」
「ん? お、そうなのか? そりゃ嬉しいな、ありがとよ」
 板チョコレートサイズの、バッキー型チョコレートを受け取って、翼姫の手伝いをしていたイェータが口元をほころばせた。
 それから、
「理晨、固まったみてぇだぜ」
 イェータがそう言って、冷蔵庫から、様々なデザインの型に入ったチョコレートを、キッチンの一角に並べてみせる。
「お、ホントだ。うまくいったみてぇだな、よかった」
 笑った理晨が、どこでこんなのを手に入れてきたんだろう、と思うほど様々なデザインの型から、丁寧にチョコレートを取り外していく。
 包丁、泡立て器、薔薇、地球儀、自動車、ヘリコプター、バッキー、拳銃、たくさんの一口大のハート、わんこ、熊、うさぎ、小鳥、星、月、時計、ハート、ハート、ハート。
 シンプルな、チョコレートのみのものから、ナッツやドライフルーツ、ピールを載せたマンディアンと呼ぶタイプのもの、銀色のアラザンを振り撒いたもの、細かく砕いたココナッツを振りかけたものなど、味も様々だ。
「よーし、上出来上出来」
 満足げに完成品を回収し、ラッピングを始める理晨の横では、チョコレート・プリンの生地を作り終えた翼姫が、イェータを酷使してトリュフ・チョコレートを作っている。恐らく、プリンの上に載せるのだろう。
「……あの、チョコレート……」
 不意に、ぼそりとリシャールが呟いた。
「んだよリシャ、いたのかよ」
「……存在感、希薄で……悪かった、ね……」
 暗い目つきでぼそぼそ言ったあと、リシャールが、理晨の手元を凝視する。
「たくさん、あるけど……リシンの……あのチョコレート、誰の……ところに行くと、思う……?」
「はァ? そりゃ、俺だろ」
 何の疑問もなく刃が断言すると、リシャールが溜め息をついた。
「……ジンって……ホント、幸せな……人、だよね……」
「そりゃどういう意味だコラ」
 小馬鹿にする空気を感じ取り、思わず半眼になる刃。
 殺気すら滲ませた刃だったが、リシャールは堪えた様子もなく、理晨が手際よく包装しているチョコレートを見つめていた。
 理晨はとても楽しげで、そして、どこか幸せそうだ。
「って、まさか……恋人、とか……?」
 そこでちょっと弱気になった刃がぼそっとこぼすと、
「……だよね……」
 リシャールがフゥとアンニュイな溜め息をついた。
「そんなの、許すわけねェだろ……!」
 ぐっと拳を握り、やり場のない憤りに吐き捨てた刃を、
「まぁそもそもオッサンの分はないだろうから、刃は心配しなくてもいい」
 トイズの言葉が逆撫でする。
「だったらそういうてめェの分だってねェだろうよこのムッツリ野郎!」
「はぁ? 何を言ってるんだこのニコチンは。俺の理晨が俺にチョコレートをくれないなんてわけがない」
「誰の理晨だ、誰の! ……てめぇとは、いっぺんガチで勝負つけるしかねェみてェだな……!?」
 『理晨の作ったチョコレートは誰のものか』から『理晨の作ったチョコレートが恋人のところへ流れていく可能性』、そして『自分以外に理晨のチョコレートを渡さない』に転じた思考が大人げのない凶暴性を帯び、刃はぱきぱきと拳を鳴らしながらトイズと向き合った。
 譲るつもりはないらしく、トイズが身構える。
「……大人げ、ないね……一応、……ここで二番目に年上……のくせに……。ああ、ごめん……精神年齢は、別か……」
「リシャ、てめェもだ! とりあえず殴る!」
「へぇ……やれるものなら、やってみれば……?」
 全員二十歳を超えた男が三人、チョコレートのために睨み合う図。
 相当大人げない。
「なにやってんだ、あいつらは……」
 唯に熱い茶を淹れてやりながらイェータが呆れ、
「皆、それだけ理晨のチョコレートが欲しいんですよ。……私も狙っていますけどね、もちろん」
 どこか腹黒い笑みを浮かべた唯がこっそりと宣戦布告する。
「いやまぁ、そりゃ、気持ちは判るけどさ……」
 やはり呆れたままでイェータが溜め息をつき、翼姫の手伝いに戻って行った。
 理晨と翼姫は、和気藹々と語り合いながら、それぞれの贈り物を仕上げていく。

 ――キッチンとダイニングの温度差、最高潮。



 3.ちび竜と理晨と和み空間

「よし、出来た……って、あれ?」
 すべてのチョコレートを包装し終わった理晨が、ようやく意識を外に向けると、何故かトイズとリシャールと刃が取っ組み合っていた。
 刃など、トラップ用のワイヤーでトイズを締め上げにかかっているほどの本気ぶりで、
「ええと……何、なんかあったのか……?」
 さっきまで皆笑ってたのに、と混乱しかけた理晨だったが、
「理晨、トイズとリシャと刃は訓練に磨きをかけるつもりなんですって。忙しいみたいだから、三人の分のチョコレートはわたしがもらっておくわ」
「そうですね、忙しいみたいです。じゃあ、私も三人の分を分けてもらいましょうかね、残っても勿体ないですしね」
 含みのあるにこやか笑顔の翼姫と唯がそんなことを言ったので、ますます困惑して眉根を寄せた。
 ちなみに、翼姫の隣では、呆れ顔のイェータが、彼女が使った鍋やボウル、木べらなどを洗って片付けている。
「いやあの、でも、」
「大丈夫ですよ理晨、じゃれあいの延長戦です。刃とトイズは本当に仲がいいですよね、見ていて微笑ましいくらいです。それに付き合っているリシャールも、お人好しと言いますか」
「……えー……そういうもん、なのか……?」
「そういうものよ?」
「そういうものですよ?」
 翼姫と唯、双方に同時に言われ、理晨が、首を傾げながらも納得しそうになった、その時だった。
 きゅいー、という可愛らしい鳴き声がした。
 不思議に思って向こう側を見遣ると、小型犬くらいの大きさの、七つ首の小さな竜が、可愛い前脚をちょこちょこと動かして、ダイニングに入ってくるのが目に入った。
「……あれ?」
 いまだ続く、大の男三人の『じゃれあい』の横をすり抜け、理晨はその小さな竜に近づいて、きゅいー、と鳴くそれを抱き上げた。
 淡灰青色のキラキラ輝く鱗と、アズライトの鮮やかな目、ライラック色の可愛い鰭と尻尾。クリスタルのようにきらりと光る、透明な角と牙、そして爪。それぞれに表情の違う、丸くて大きな目が、愛敬のある顔立ちを作り出している。
「えーと……こいつ、確か……『ワールド・レアムスグド・シリーズ』で見たことあるような……」
「そうなんですか? なかなか可愛らしいですね」
「うん、ちらっと出てたくらいで、重要な役柄、とかじゃなかったと思うんだけど、可愛かったから印象に残ってるんだ。えーと、そうそう、確かリヴァイアサンじゃなかったかな。な?」
 首を傾げてちび竜を見下ろし、尋ねてみると、
「きゅううーいぃーっ」
 嬉しげな、イルカのように可愛らしい、そんな鳴き声が返った。
 声に肯定の響きを感じた、ような気がして、理晨は満足げに頷く。
「……だってさ」
「そうですか。しかし、何故ここに?」
「んー、なんでだろ? まぁ、ここ、建物的に入りやすいし……って、あ、もしかして」
 理晨の腕に抱かれたまま、リヴァイアサンの七つ首が、それぞれ、フンフンと周囲の匂いを嗅ぐ仕草をしたので、理晨はちょっと笑って、ラッピングを終えたプレゼントの山から、一口大のハート型チョコレートを包んだものを手に取った。
「チョコレートが欲しくて入ってきたのか?」
「きゅいっ」
 首のひとつが、元気のいい鳴き声を上げる。
 理晨は笑って頷き、可愛らしいハート型のチョコレートを、その首に差し出してやった。
「きゅう、きゅいー」
 嬉しそうな声を上げてチョコレートに食いつき、咀嚼する首。
「うわー、可愛いなー」
 理晨は目尻を下げて、チョコレートをはぐはぐと食べる首の頭を撫でた。
「きゅ、きゅうー」
 くすぐったげに、しかし嬉しげに頭を振った首が、理晨の手に顔を摺り寄せる。
 すると、
「きゅう! きゅうぃいー!」
「きゅむー」
「きゅいー、きゅー!」
 撫でられてない、チョコレートももらっていない首が、抗議するような声を上げ、ばたばたと暴れだした。――暴れだしたと言っても、首を振るだけのことなので、可愛らしさ以外のものは感じないのだが。
「え、あれ、もしかして皆も欲しいのか」
 言って、他の首にチョコレートを差し出すと、その首は喜んでチョコレートを食べ、頭を撫でてもらって満足そうな声を上げるのだが、そうするとやはり、他の首が『ずるい』と言わんばかりの声を上げ、拗ねた仕草や表情をするのだ。
 つまり、同時に構ってやらないと、構ってもらえない首が拗ねる、ということらしい。
「え、あ、ど、どうしよう」
 両手の平いっぱいにハート型のチョコレートを持ち、リヴァイアサンに差し出してやりながら、理晨は焦る。
 銀幕市で出来た『弟』ほどではないが、理晨も可愛い動物が好きだ。
 出来ることなら、リヴァイアサンの七つ首全部が満足出来ればいい、と思う。
 思うのだが、理晨の腕は二本、手はふたつ。
 小さくて可愛い七つの頭が、チョコレートが山盛りになった理晨の手の中に顔を突っ込んでめいめいにチョコレートを楽しんでくれるのはいいのだが、
「きゅいー、きゅうきゅうー」
「きゅきゅっ、きゅむー!」
「きゅうぃいー、きゅー!」
「あー、判った判った、撫でる撫でる! だからほら、拗ねない喧嘩しない!」
 七つの頭を、一度に撫でるということは、阿修羅でも千手観音でもない理晨には不可能なのだ。
「きゅうー。きゅいー」
 構ってー、構ってー、というオーラを全身から発散する小さな頭たちに、そのどれのお願いも聞いてやりたくて、四苦八苦しながら撫でまくる。手の平についたチョコレートを首のひとつがぺろぺろと舐めていて、くすぐったくて思わず笑う。
「あー……その、なんだ」
 背後でぼそりと言ったのは刃だった。
「何もかもが馬鹿らしくなるくらい和んだ奴、挙手」
 言うと、無言のままトイズとリシャールが手を挙げる。
 目をあわせようとしていないところを見ると、お互い含みはあるようだが、『じゃれあい』は沈静化したらしい。
「……いいな、あのちっこいの……」
 と、真顔のトイズがつぶやく。
 その頃になると、理晨は、頭ではなく胴体を撫でてやればすべての首が満足することに気づいて、リヴァイアサンの小さな身体を抱き上げ、抱き締めて、胴体や尻尾を撫でていた。
「きゅっ、きゅきゅうー」
 くすぐったげに、嬉しげに声を上げ、リヴァイアサンが尻尾をぱたぱたと動かす。
「あーもう、可愛いなぁ、お前……!」
 目尻を下げた理晨が言うのへ、
「……馬鹿野郎、可愛いのはお前だよ……!」
「まったく……同意見……どうしよう、今すぐ……抱き締めたい……」
「お前らと意見が揃うのは不本意だけど、否定する要素が見つからない。いいなぁあいつ。俺も……」
 拳を握った刃が鼻血を堪え、リシャールは今すぐ飛び出して行きたい様子で手をわきわきと動かし、トイズは抱き締められ撫でられているリヴァイアサンを真顔で、羨ましげに見つめている。
「……まぁ、お前らも大概可愛いとは思うけどな……」
 呆れた声は、イェータのものだ。
「そうですね、可愛いと思いますよ、私も」
 笑顔で同意する唯の横で、
「っていうか理晨はわたしのなの! オヤジども自重!」
 チョコレートのラッピングをこちらも完全に終えた翼姫がぷりぷり怒っている。
 そんな、若干のカオスが含まれた賑やかな場所で、理晨は、ぴこぴこと尻尾を振るリヴァイアサンの可愛さに和みながら、幸せに浸っていたのだった。



 4.幸せなティータイム、そしてオチ

 午後二時四十分。
 理晨の可愛さに和んだお陰で騒ぎが収束し、今、リヴァイアサンを含めた七人と一匹は、リビングでティータイムを楽しんでいる。
 イェータが、個人には用意してねぇけど、と言って、大きなチョコレート・タルトを焼いていたのだ。
 理晨の大好物だけに、イェータの焼くチョコレート・タルトはいつものように絶品で、理晨をはじめ、皆が、お茶やコーヒー、ココアなどとともに、この贈り物を楽しんだ。
「えーと、とりあえず、これ、俺から。皆、いつもありがとうな」
 お茶の最中、はにかんだように笑った理晨が、綺麗にラッピングされたチョコレートを皆に渡していく。
 翼姫には薔薇、トイズには自動車、リシャールにはバッキー、唯には地球儀、刃には拳銃、イェータには包丁と泡立て器。リヴァイアサンには、もう一度一口大のハート型チョコレートが贈られた。
 それぞれに思うところあって、それぞれのために選んだらしいかたちに、喜ばないものがいるはずもなく、リビングは一時、幸せに満たされた。
「ありがとう……リシン、大事に……飾って、から……大事に、食べるよ……」
「あれ、リシャール、お前甘いものとかそんな好きじゃねぇって言ってなかったか?」
「……嫌だな、イェータ……リシンが、作ったんだよ……? だったら……それが、どんな……ものであれ……美味しく食べられるに、……決まってる、じゃない……」
「あーなるほど、納得。了解」
「理晨理晨、俺、これ、あーんってしてほしい! そんで、頭なでてほしい、リヴァイアサンみたいに!」
「え、そうなんだ? 別にいいけど……トイズも甘えん坊だなぁ」
「当たり前じゃないか、だって理晨だぞ……!」
「あ、こらこのムッツリ、どさくさに紛れて何理晨に抱きついてやがる……!」
「そういうアンタもよ、オッサン!」
「や、だってな……って翼姫、お前、あのトリュフチョコレート・プリン、一体誰にやるんだよ? ……俺か?」
「……そこは彼氏さんじゃないですかね、刃?」
「オッサンにとかありえないし! あんた、馬っ鹿じゃないの!?」
「えええー、そんなつれねぇこと言うなよ、父親が娘のチョコレートが欲しいって言って何が悪ィんだよ……!」
「……だから、これ」
「え」
「……仕方ないからあげるわ。理晨のために作ったのの、残りだけど」
「翼姫……!」
「目ぇ潤ませない、鬱陶しいから! ……イェータにも、はい」
「お、まじで?」
「……別に、残っただけだから! あんたのためとか、そんなんじゃないからね!」
「そっか……うん、ありがとな」
 素直ではない翼姫の、精いっぱいの虚勢に笑い、イェータがリヴァイアサンを抱き上げる。
「きゅうぃー?」
「ああ、うん、可愛いな、お前。……理晨を楽しくさせてくれて、ありがとうな。チョコレートや、甘い菓子ならいつでも用意してやるから、また遊びに来いよな、理晨が喜ぶ」
 小首を傾げる七つの頭にくすっと笑い、七つの頭を、それから胴体を撫でる。
「きゅっ、きゅうぃいー」
 イェータの腕の中で、くすぐったげに、嬉しげに目を細めるリヴァイアサンの姿に、理晨がまたしても目尻を下げた時、彼の携帯電話が、ファンタジー映画『ムーンシェイド』の主題歌を鳴り響かせた。
「あれ、誰だろ……って、あ」
 首を傾げた後、
「もしもし、ジーク? ん、ああ、どした?」
 理晨が呼んだその名に、一同、騒然とする。
 当然、時としてホワイトドラゴンのメンツが束になっても敵わない、最大のライバルの名前だったからだ。
「ああ、そうなんだ? いや、うん、構わねぇけど……うん、判った。んじゃ、また後で」
 通話を切った理晨の目元が、ほんの少し上気している。
「理晨、今の……」
 しかしその理由を認めたくなくて、恐る恐る言ったトイズに、理晨は無防備な、邪気のない笑みを向け、頷いた。
「うん、ジークが帰って来たみてぇだ。何か、用事があるとかで帰国してたんだけど……一週間くらい、早かったな、帰ってくるの」
 そう言って、リビングの片隅に置いた鞄から、シンプルなラッピングを施された、明らかにチョコレートではない何かが入っていると思しきギフトボックスを取り出し、その角をそっとなぞる。
「何だ、チョコレートじゃねぇのかよ?」
 特に動じるでもないイェータが――何せ、イェータにとっては、理晨の愛するものすべてが守るべき対象だ――問うと、理晨はちょっと笑う。
「や、あいつ、甘いものあんまり好きじゃねぇし。……あの邪悪なセレブがこんなもん使うかは判らねぇけど、さ」
「なるほど。何買ったんだ?」
「え、ネクタイピンと、揃いのブレスレット。あいつのスーツに合わせて、俺的には結構頑張ったんだけどな」
 あいつはどうかな、などと言いつつ、理晨が立ち上がる。
「ごめん、そんなわけで、ちょっと行って来るわ。今日はもう帰って来ねぇかも」
「ああ、まぁ、あいつによろしく」
「ん、伝える」
 んじゃ、と手を振った理晨が、嬉しそうに、足早に出て行くのを、切なげだったり嫉妬心満開だったり憤怒っぽかったりする表情で見送ったあと、唐突に落ちた沈黙に、誰かが溜め息をついた時、今度は、翼姫の携帯電話が着信音を鳴り響かせた。
「もしもし、ジョン? どうしたの?」
 通話ボタンを押しながら携帯電話を耳に押し当て、小首を傾げた翼姫の声が、盛大な呆れを帯びる。
「――……はぁ? 迷子? もう、あんたってホント情けないわね、ああ、はいはい、判った判った、迎えに行ってあげるわよ! ……渡したいものもあるし! 感謝しなさいよね!」
 勢いよくまくし立てた翼姫が、呆れてものも言えない、と言った風情の中に、どことなく嬉しそうな――恐らく、その表情が読み取れたのは付き合いの長いものだけだっただろうが――感情を滲ませて、
「まったく、世話が焼けるんだから……!」
 そんな悪態をつきながら、残った面子には説明もフォローもなしに、さっさとリビングを出て行く。……手に、先ほど彼女が作っていたトリュフチョコレート・プリンの入ったギフトボックスがあったような気がするのは、気の所為だっただろうか。
「翼姫、まさか……!?」
 残された刃が驚愕の声を上げる中、イェータはやれやれと呟いて、リヴァイアサンを抱いたままソファに腰を下ろした。
「きゅう?」
「ん? ま、仲がよくていいじゃねぇか、なぁ?」
 小首を傾げる七つ首に笑いかけながら、唯が淹れてくれた茶を前に、理晨の名前を呼びながら落ち込んでいるトイズ、何ごとかをぶつぶつ呟きながら銃を手にしているリシャール、それらを「愛ですね」などと言いながら笑って見ている唯を交互に見遣る。
 それは、賑やかで、騒々しくて、でも結局のところ皆がお互いに『ここにいてくれてよかった』と思える空間だ。
 ごくごく自然で、当然の、ありふれた……けれど、何よりも大切な『世界』。
 本拠地にいても、ここにいても、どこにいても、通い合う大切な感情を思い、イェータはまた、少し笑った。
「どうしました、イェータ?」
「いーや。悪くねぇって思っただけさ」
 穏やかに微笑む唯に肩をすくめてみせ、きゅうきゅうと楽しげに鳴くリヴァイアサンを彼に任せると、イェータは立ち上がった。
「さて、んじゃ俺は飯の支度でも始めるかね。牛テールの、安くていいのを仕入れたんだ、こいつでポトフでも作るわ」
「そうですか、楽しみにしています」
 やわらかな唯の言葉に笑って頷く。

 ――そうして、そこから一時間もすると、食欲を刺激するいい匂いがキッチンから漂い出して、ダイニングやリビング、仮設宿泊所全体を包み込むのだ。
 鮮やかに活き活きとした、日々の営みを、余すところなく謳いあげながら。

クリエイターコメント大変お待たせいたしました!
毎度代わり映えのしない挨拶文で申し訳ありません……!

ともあれ、オファー、どうもありがとうございました。
バレンタインとチョコレートと愛情にまつわるプラノベをお届けいたします。

最愛の方を軸にした、ほのぼのどたばたコメディ、ということで、愛したり愛されたり大事にしたりされたり、と、とても幸せな関係だなぁと思いながら書かせていただきました。
『絶対』が存在すると言うのは、本当に幸せなことですよね!

理晨さんの愛されぶりを軸に、なんやかや言いつつも楽しく流れる一時を描けていれば幸いです。


それでは、素敵なオファー、どうもありがとうございました。
またの機会がありましたら、よろしくお願い致します。
公開日時2009-05-06(水) 19:00
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