★ 銀幕かくし芸大会2008 ★
<オープニング>

 カンカン照りの真夏日に。
 一般的な日本家屋の庭園にて。
「わしゃ、もう一度見てみたいんじゃよ」
 小さいが力のこもった声で、ロッキングチェアの老人はつぶやいた。その目は、遠いどこかに向けられている。
 老人の目はいったい何を映しているのだろう。迫り来る死への恐れか、はたまた過去の栄光か。
 どちらにしろ、若者にはとうてい理解できない代物だ。
 だから佐野原冬季(さのはら とうき)は単刀直入に仕事の話を切り出した。
「要はこの銀幕市でかくし芸大会を開催すればよいのですね?」
 老人は無言でうなずいた。
 あまりに極端な動作だったので、ポックリ逝ってしまったのではないかと冬季は疑ったが、ゆっくりと首が元に戻ったところを見ると杞憂だったようだ。
「わかりました。それで、報酬の方は……」
 冬季がポケットから一枚の紙切れを取り出す。
「これくらいでどうでしょう? もちろん必要経費は別途ご請求させていただきます」
 老人は面倒くさそうな一瞥を紙片に投げかけ、「夢に値段は付けられん。好きに請求するがいい」とすぐにまた遠くを見つめた。日差しが眩しいのか目を細めている。
 冬季の整った顔に会心の笑みが浮かんだ。
 この手の老人は扱いやすい。自分が稼いだ金を他人に残そうとも、あの世へ持っていけるとも考えていないタイプだ。
 もう一押しできる。そう考え、冬季が続けて提案する。
「かくし芸大会を成功させるためには、参加者を集めなければなりません。それにはそれ相応の対価というものが必要でしょう」
「賞品か?」
「ええ」
「好きにしろ」
 小躍りしたい気持ちを抑えるため、冬季はひとつ咳払いをした。
「で、参加人数の上限は……」
「多いほうがいいに決まっておる」
 遠くを見たまま、老人がロッキングチェアから身を乗り出した。表情も変わる。真剣そのものに。その目つきは、獲物を狙う猛禽類のものだ。
「わしゃ、もう一度見たいんじゃよ。真の勝利者が誕生する瞬間をな」
「わかりました」
 老人の目が映しているのは過去の栄光だったようだ。
 ふと、冬季があることに気づいてつぶやいた。
「このオープニング、ロードレースのときとほとんど同じですね」
「そうじゃな。なにせコピペじゃからの」
 老人が楽しそうに笑う。
 なにが楽しいのだろうか。手抜きがバレて作者は冷や汗ものだ。
「では、オチも同じですか?」
 いらんことを言わんでいい。
「じゃろうな」
 いらんことを答えんでいい。
「同じオチなら省略してしまいましょうか?」
 え?
「メンドクサイからの」
 おいおい……
「では、オープニングのオチは『銀幕ロードレース2007』を参照ということで。では、さっそく準備に入りますので。失礼いたします」
「ふむ、頼んだぞ」
 かくして、あやしい老人の発案とあやしい計画者の立案で、銀幕かくし芸大会が開催されるはこびとなった。

種別名パーティシナリオ 管理番号655
クリエイター西向く侍(wref9746)
クリエイターコメントというわけで(?)、西向く侍がお贈りする初のパーティーシナリオです。

昨年、銀幕ロードレースを開催した(暇な)老人が、またもや微妙なイベントを企画したようです。
銀幕かくし芸大会2008――新春かくし芸大会を思い出していただければ、それで充分です。PCのみなさんには、紅組・白組に分かれて、なにかしらの芸を披露していただきます。
プレゼンターは、ロードレースのときと同じく佐野原冬季です。審査員は、老人ひとりとなります。

以下、用量・用法上の注意をご確認のうえ、ふるってご参加ください。

▽本シナリオはギャグです。どれほど真面目にかくし芸を披露しても、必ずオチがつきます。あらかじめご了承ください。

▽また、ライターの性格上、PCのキャラが崩壊するおそれがあります。「うちの子は、たとえシャンプーハットアフロを頭にかぶせられることになっても、ぜんっぜんOK!」というくらいの剛毅な気概をお持ちの参加者をお待ちしております。

▽紅組・白組の組み分けですが、こちらでランダムに決めさせていただきます。

▽プレイングに関しましては、「○○の格好で××をやる」とかくし芸として実行する内容を書くだけでもかまいませんし、「○○をやって、最後には××になってしまう」とオチまで記入していただいてもかまいません。
前者の場合は、こちらでオチを考えます。
また、プレイングを合わせて、コンビやグループでかくし芸を披露することも可能です。その旨をプレイングに明記してください。

▽最後に、あまりにもギャグとはかけ離れたプレイングの場合、申し訳ありませんがボツになる可能性もあります。なるべくなら、そうならないように善処しますが。

参加者
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
レイド(cafu8089) ムービースター 男 35歳 悪魔
ルシファ(cuhh9000) ムービースター 女 16歳 天使
佐藤 英秋(ccss5991) ムービーファン 男 41歳 俳優
前戎 希依(cyme3856) ムービーファン 女 15歳 見世物小屋・魔術師
前戎 琥胡(cdwv5585) ムービーファン 男 15歳 見世物小屋・魔術師
アルヴェス(cnyz2359) ムービースター 男 6歳 見世物小屋・水操士
神龍 命(czrs6525) ムービーファン 女 17歳 見世物小屋・武術使い
二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
セエレ(cyty8780) ムービースター 女 23歳 ギャリック海賊団
アディール・アーク(cfvh5625) ムービースター 男 22歳 ギャリック海賊団
シノン(ccua1539) ムービースター 女 18歳 【ギャリック海賊団】
ルドルフ(csmc6272) ムービースター 男 48歳 トナカイ
ウィズ(cwtu1362) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
ギャリック(cvbs9284) ムービースター 男 35歳 ギャリック海賊団
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
クラスメイトP(ctdm8392) ムービースター 男 19歳 逃げ惑う人々
コーター・ソールレット(cmtr4170) ムービースター 男 36歳 西洋甲冑with日本刀
玄兎(czah3219) ムービースター 男 16歳 断罪者
晦(chzu4569) ムービースター 男 27歳 稲荷神
ジュテーム・ローズ(cyyc6802) ムービースター 男 23歳 ギャリック海賊団
リカ・ヴォリンスカヤ(cxhs4886) ムービースター 女 26歳 元・殺し屋
カロン(cysf2566) ムービースター その他 0歳 冥府の渡し守
津田 俊介(cpsy5191) ムービースター 男 17歳 超能力者で高校生
アル(cnye9162) ムービースター 男 15歳 始祖となった吸血鬼
本気☆狩る仮面 あーる(cyrd6650) ムービースター 男 15歳 謎の正義のヒーロー
ルア(ccun8214) ムービースター 男 15歳 アルの心の闇
ルイス・キリング(cdur5792) ムービースター 男 29歳 吸血鬼ハンター
本気☆狩る仮面 るいーす(cwsm4061) ムービースター 男 29歳 謎の正義のヒーロー
八重樫 聖稀(cwvf4721) ムービーファン 男 16歳 高校生
柝乃守 泉(czdn1426) ムービースター 女 20歳 異界の迷い人
ガーウィン(cfhs3844) ムービースター 男 39歳 何でも屋
ゆき(chyc9476) ムービースター 女 8歳 座敷童子兼土地神
岡田 剣之進(cfec1229) ムービースター 男 31歳 浪人
赤城 竜(ceuv3870) ムービーファン 男 50歳 スーツアクター
<ノベル>

 銀幕かくし芸大会2008――
 8月某日、とてもとても暑い日に、主催者である老人の邸宅にて開催された。

 広々としたステージの中央に、マイクを持ったインバネス姿の男が立っている。心持ち禿げ上がった額と、首もとの蝶ネクタイがチャームポイントだ。
『会場のみなさん、テレビの前のみなさん、こんにちは!』
 男が甲高い声で語りかけた。ただし台詞とは裏腹にテレビ中継されているかは定かでない。
『本日は銀幕かくし芸大会2008にお集まりいただき、誠にありがとうございます。私、司会を務めさせていただきます、鹿井大鋤(しかい だいすき)と申します。このイベントのためだけに作成されたNPCでありまして、名前なんかテキトーに決めたことがまるわかりなだけに、ちょっとショックを受けております。なぜ田原俊彦とかそういうカッコイイ名前にしていただけなかったのかと、非常に残念に思い――』
 くやしそうに唇を噛みしめる鹿井の脇腹をつつく者がいた。
 責めるような目つきで彼の隣に立っているのは佐野原冬季(さのはら とうき)だ。彼は夏らしく甚兵衛姿だった。
『あ、あぁ! 申し訳ありません。ご紹介が遅れました。こちら解説を担当していただきます、佐野原冬季さんです』
 冬季は優雅に一礼した。どうやら今回は自ら参加するつもりはないらしい。
『次に審査員を務めていただきます、謎の御老人です』
 鹿井が紹介すると、老人は特別観覧席で「かっかっか」と某ご老公のように笑った。とにかく元気だ。
『それではさっそくですが、少しだけルールの説明をさせていただきます。参加者のみなさんには、あらかじめ紅組と白組にわかれていただいております。それぞれの組の代表者が交互に芸を見せ合い、その都度、審査員の御老人に100点満点で採点していただきます。紅組、白組それぞれ9組の演技が終わった時点で、合計点数の高い組の勝ちとさせていただきます。また、個人でもっとも得点の高かった方には、特別賞として賞金100万円が贈呈されます』
 さすが司会をするために生まれてきた男――鹿井大鋤。よどみなくしゃべる。
『それでは、銀幕かくし芸大会2008を開催いたします』
 鹿井の宣言により、問答無用、人畜無害、出前迅速、落書無用のかくし芸大会が始まったのだった。



『紅組が先攻ということで、まずは――ん? おおっと、これは?! 進行をお手伝いしてくださるアシスタントさんのようですね。いやいや、まさかこんなサプライズがあるとは!』
 にこやかな笑顔とともにステージに現れたのは、新倉アオイ(にいくら あおい)だった。
 アオイが手を振ると、観客(主に男性)から歓声と口笛が飛び交う。彼女はいわゆるバニーガールの姿で現れたのだ。
『これには会場も大盛り上がりです。そこに、バニーガールって仮装大賞じゃないの?! というツッコミは存在しません! さすが『計画者』ですね。いつの間にアシスタントなんて雇ったんです?』
 鹿井の質問に、冬季は無言のままだ。
『え? まさか……ああっと、バニーガールが警備員に取り押さえられています! これは無断出演だった模様です。会場内の男性からはブーイングの嵐です! これはスタートからハプニング全開ですね、御老人――って?!』
 鹿井が話をふろうと審査員席を見ると、まなじりを下げ、鼻の下をめいっぱい伸ばした老人が、点数のボタンを押しているところだった。
『こ、これは意味不明の得点ゲット! しかし、審査員はご満悦の100点満点です! まったく先の展開が読めません! おそるべし銀幕かくし芸大会!』



▽1組目▽

「紅組……1番………カロン……笛を吹くぞ」
 カロンと名乗った人物は、手にしていた鈴と杖を床に置くと、ローブの懐から一本のリコーダーを取り出した。小学生が使う、アルトリコーダーだ。
 嗚呼、奏でられるのは『きらきら星』であり、『チューリップ』である。
 しかし、この会場の雰囲気はどうしたことか。真夏だというのに、鳥肌が立ち、寒気がする。
 鹿井がようやく言葉を発したのは、演奏が終わり、カロンがステージを去ってから3分ほど経ったころだった。
『さ、先ほどまでのバニー熱が一気にクールダウンですね。果たして得点は? おや? あ、あまりの恐怖に、審査員が白目をむいて気絶しています! お医者様! 会場にお医者様はいらっしゃいませんか!』
「白組1番! 佐藤 英秋(さとう ひであき)! 体操のお兄さんをやります!」
『え? ちょっと待っ――』
 なにも考えていないのか、審査員不在のままステージに白組の一番手が登場した。
 張りつめた空気をまったく読まずに、爽やかな笑顔だ。お兄さんというには少々年を取りすぎている感もあったが、本人は気にしていない様子だ。
 そして、アクロバティックな体操技の数々を披露する。
 最後に難易度スーパーEの妙技を見せつけ、華麗に着地を決めた途端、割れんばかりの拍手が起こった。
『これはスゴイ! これぞ真のかくし芸です!』
 鹿井もいつの間にか見入っていた。
 英秋は照れた様子で頭をかきながら、退場しようとして――
 びたーん。
 派手に転んだ。
 …………
 起きあがらない。
『か、会場にお医者様はいらっしゃいませんか? お医者様はっ!』
 まだ大会は始まったばかりである。

紅組:審査不能
白組:同上



▽2組目▽

「紅組2番手! ギャリック海賊団のウグ――じゃなかった、ウィズだぜ! オレのかくし芸は、これだ!」
 ばばーんと突きだしたのは一冊のスケッチブックとマジックペンだ。
 さらさらと筆が走り、佐野原冬季の少女漫画風似顔絵が見事に完成した。多くの観客から感嘆の声が漏れる。
「はぁーい、リクエスト承りますよ〜 何でもじゃんじゃん言ってね〜」
 ウィズの観客サービスに、すぐさま複数の手が挙がった。絵柄は、写実、コミック、劇画調、なんでもあり。しかもものの一分ですべてを仕上げていく。
 そのとき、最初のウィズの言い間違いを耳にし、鋭い目つきを見せた女の子が、ゆらりと手を挙げた。
「はい、次はそこの女の子!」
「リクエストは、対策課の植村さんとアズ研の東博士が(以下自主規制)」
 会場がしんと静まりかえる。一部の女性が瞳を爛と輝かせた。
「渋い組み合わせ(かっぷりんぐ)だね!」
 ウィズは笑顔でマジックのフタを取り外し――
 ずきゅーん。
「ぐはっ!」
『こ、これは?! 正義の味方か、はたまた作者の良心か、どこからともなく狙撃がっ! 血を流して倒れていますが、ウィズ氏は大丈夫でしょうか?! っと、またもや場の空気を完全に無視して、白組の2番手が登場だ! こ、この御方は、もしや?!』
 BGMに『白鳥の湖』が流れ、全身包帯だらけの男が妙に優雅な動作で踊り出た。
「ルイス・キリングです。踊ります」
 どっと会場が沸いた。
『かの大戦で最も活躍されたヒーローの登場です! 今や銀幕市に住む子供たちの約半分が、将来はルイスさんのようになりたいと語り、かたや親たちからは、あんな大人になってほしくないと懇願される微妙な立場! そのヒーローがかくし芸大会の会場にやってきたーっ!』
 踊り終わったルイスがおもむろに包帯をはぎ取る。
 すっかり健康体へと戻ったルイスは純白のプリマ衣装を身につけていた。もちろん白鳥の頭付きだ。
「かくし芸やります」
 白鳥の湖がフェイントだった件に、全員がのけぞる。やはり予測不能。
 白鳥の嘴から一本の鉛筆を取り出す。その先を指でつまみ、ゆらゆらと揺らし――
「鉛筆が曲がりましたっ!! 以上、終わりです」
 晴れやかな笑顔のルイス。とことん予測不能。
 再び静まりかえった観客席から高速で近づく影があった。
「アル?! なぜこんなところに?」
 ルイスが、相棒の出現に驚愕する。
「色々言いたいことはあるが……」
 引きつった笑顔のアルの手には、どこから持ってきたのか金属バットがにぎられていた。
「まずは成層圏で頭を冷やしくるがいいい!」
 かっきーん。
「ぐへっ! 目指せ、プリマの星ぃぃぃぃぃぃぃ」
 きらん。
 星になった。

紅組:30点(女性にウケたため嫉妬した)
白組:40点(星は好き)



▽3組目▽

「こんにちはー 紅組3番の前戎希依(まええびす きい)だよ」
「前戎琥胡 (まええびす くう)だ」
「見世物小屋のメンバーでマジックやりまーす」
 見世物小屋の双子魔術師の名は銀幕市でもそれなりに広まっている。満を持しての登場に、会場の期待感が高まる。
 まずは希依がポケットから小さな布きれを取り出した。それが、あれよあれよという間に大きく広がっていき、琥胡と二人で端と端を持つ格好になる。
 二人が素早く布きれを放り投げると、何もない空中で火薬が炸裂し、どこからともなくひときわ巨大な風船が現れた。
 希依と琥胡が風船の両隣に立ち、手の平で銃の形をつくる。
「バン!」
 二人同時に銃を撃つ真似をすると、風船が割れて中から男の子――アルヴェスと、女の子――神龍命(しぇんろん みん)が現れた。
 あり得ないマジックに、割れんばかりの拍手が起こる。
 しかし、見世物小屋のステージはこれで終わりではない。風船が割れて出てきたのは、人間二人だけではなかった。小さな風船がいくつも宙に浮いている。
 それを、双子が大きな風船と同じ要領で次々に割っていき、七色に着色された水が中からはじけた。
「ボクのばんだね」
 アルヴェスが両手両脚を軽やかに動かすと、それに合わせて色水が宙を舞いはじめる。彼は『水使い』なのだ。
 幻想的な光景に、裂帛の気合いが響き渡った。命が演武を行っているのだ。
 彼女が打ち貫くのは、カラフルな水玉たちだ。突きが、蹴りが、滑らかに艶やかに極彩色の水滴を四方八方に散らしていく。
 アルヴェスの作り出す『柔』のカンバスに、命の作り出す『剛』のインパクトが重なり、美麗な舞台が現出する。
 最後は、希依と琥胡が両手を広げてポーズをとり、その中央で命がアルヴェスを抱きかかえてポーズを決めた。
 会場全体から、ほぅとため息が漏れた。
『なんということでしょう! ここにきてようやくまともなかくし芸です!』
 感動のあまり鹿井も涙声だ。
 と、まだ余韻の残るステージに千鳥足の女性が乱入してきた。頭にネクタイを巻き、どこから拾ってきたのか生きた亀を土産縛りにして手に持っている。
「チミたちぃ、こぉんなところで、なにしてるんらっ!」
「な、なにって言われても……かくし芸ですけど」
 希依が真面目に答えると、その女性は半開きの目でにぃと笑うと高らかに言い放った。
「にかいろぅまひぃ! からくまじゅっくをやりましゅ!」
『これは、突然の飛び入りだ! 通訳すると、二階堂美樹(にかいどう みき)、化学マジックをやります、といったところでしょうか』
 美樹は「ちょっろ、そこどきらさい」と言って見世物小屋の面々を追い払うと、制服のポケットから、ふたつの試験管に入った謎の薬品(おそらく職場から持ち出したもの)を取り出した。いかにもな、極彩色の液体だ。
「ころふらつを、こうしてまじぇるろ〜」
 一気に片方の試験管をかたむける。ふたつの液体が混じり合い。
 ちゅど〜ん。
 お約束の・ば・く・は・つ。
『紅組に対して、(いつの間にか)白組の、なんという危険マジック! ステージは白煙に覆われて何も見えません』
「げふげふげふ。なんらぁ? なにがおこったんらぁ?」
 顔を煤で真っ黒にした美樹が、どっと笑いを誘った。
 なんと彼女の頭は、それはそれは立派なアフロに。
「ぎゃー! こりゃなんだっ!」
 琥胡が悲痛な叫びを上げた。
 それもそのはず、琥胡、希依、命もアルヴェスも、全員が立派なアフロになっていた……
 まさしくお約束。

紅組:60点(素直に感動。命ちゃんカワユス)
白組:20点(アフロと酔っぱらいは嫌い)



▽4組目▽

「紅組〜 オレちゃんで〜す」
「オレちゃん言うたら、だれやわからんやろ!」
『さすが関西弁ですね。高速のツッコミがよく似合います。紅組の4番手は、玄兎(くろと)氏と晦(つごもり)氏です。さぁ、何を見せてくれるのでしょうか楽しみですね』
「で? わしは何すりゃええんや?」
 晦の発言は別にとぼけているわけでも、ネタなわけでもない。何も知らされずに、無理やり玄兎に連れてこられたのだから仕方がない。
「まずは〜」
 玄兎が晦に耳打ちする。
 一瞬怪訝な顔をしたあと、ぶつぶつ言いながらも、晦は得意の変化術を使って、どろんと変身した。
 それは巨大なダルマだった。もちろんダルマと言ってもただのダルマではない。
『ダルマの下部が輪切りのようになっていますねぇ。これは巨大ダルマ落としとでも言いましょうか』
「えへへへ。見事成功いたしましたら、拍手喝采のほどを〜」
 おどけた口調で、宣言してから、玄兎がバットを振りかぶる。
 そう、使用するのは彼愛用の釘バットである。
「おま、ちょ、待っ――ぎゃっ!」
「ひと〜つ♪」
 玄兎がものっそい楽しそうにダルマ落としを一段吹っ飛ばす。観客席に向かって打ったものだから、客にも被害続出だ。
「ふた〜つ♪」
「ふぎゃっ!」
 そこでさすがに晦も変化を解いた。
「み〜っつ♪」
 人型に戻った晦などおかまいなしに先を続けようとする玄兎(鬼)。
「って、おまえ、ええ加減にせぇ! のわっ!」
 とっさに小狐の姿に戻り、間一髪で釘バットをかわす。
「ま〜て〜」
「待て言われて待つアホがおるかい!」
 ちょこまかと駆け回る子狐に、会場から可愛いもの好きの黄色い声援やおひねりが飛んだ。
『ええっと……追いかけっこをしながら会場外へ消えてしまいました……続行不能ですかね。つ、次、いってみましょう』
「白組4番。津田俊介(つだ しゅんすけ)。マジックをやります」
 俊介は超能力者だ。そのことを知っている面々にはなんということはない内容なのだが、幸か不幸か観客の中にそういった人間は少なかった。
 だから、自転車の曲乗り、瞬間移動、スプーン曲げといったマジックが場を盛り上げる。
『これは佐藤氏のアクロバットと、見世物小屋のマジックを融合させたようなステージです!』
 もう一押しだな。そう判断して、俊介はインパクト重視のマジックを行なうことにした。なにせ彼が狙うのは特別賞だ。
 超能力で手の平から炎を発生させる。観客席がどよめいた。
「うわっ、手が滑った」
 超能力に手が滑るなどということがあるのだろうか。それはさておき、彼が緊張していたのは事実だ。
 あっと言う間に、床や壁などに延焼する。
 あわてて超能力で冷却し――
 ――客席前面まで凍り付いた。
「…………あは、あははははは」
 俊介は乾いた笑いを発したまま、すっとその場から消えた。瞬間移動だ。
『これはかくし芸の続きなのでしょうか、はたまたただの逃亡でしょうか?!』
 結局俊介も舞台には戻ってこなかった。

紅組:60点(小狐に胸きゅん)
白組:10点(熱いのも寒いのも嫌い)



▽5組目▽

「紅組5番。レイド、イキマス……」
 早くも死にそうな顔で、レイドは登場した。一言で言えば、口から魂が抜けかかった状態だ。
 彼はそもそもこんなところに来たくはなかったのだ。
 ちらりと客席を見ると、ルシファがキラキラした瞳で彼のことを見ていた。彼女の「きっとレイドだったら優勝だよ!」という言葉がすべての始まりだった。そして今も彼女のキラキラがレイドに重くのしかかる。
「えええいっ! どうにでもなれっ!」
 開き直った人間は強い。一息に眼帯をむしり取ると、
「はいっ! 目からビィィィィィィィムッ!」
 叫んだ。
 左目から魔力の塊である黒い靄のようなものが噴出し、すぐにぽとりと床に落ちた。それは、レイド自身の運命をも表しているかのようだった。
 …………
 終わった。なにもかもが。
 ルシファの無邪気な拍手だけが、いつまでもステージに木霊していた。
「白組5番。ルドルフだ」
 それだけを口にして、鹿が――いやいやトナカイが舞台に上がった。
 あとは無言のまま、前脚をすっと引き上げる。
 会場全体がざわめいた。そこかしこで囁かれる。
「鹿が……立った?!」
 ルドルフの耳がぴんと立ち上がる。
「俺はトナカイだって言ってんだろっ!」
 その一喝に会場が静まりかえる。
 カツン。蹄の音。
 カツン。もう一つ。
 カツン。計5回。
 歩いた。鹿が――いやいやトナカイが歩いた。5歩も。
「俺の華麗なワザに惚れるなよ? カワイ子ちゃん(ウィンク)」
 ニヒルな笑みを残して去っていった。
『な、なんとも微妙な空気の5回戦でした』
 鹿井の額に冷や汗が浮いているのが目に見えるような苦しいコメントだった。

紅組:50点(ルシファちゃんカワユス)
白組:20点(獣は嫌い)



▽6組目▽

『さて、この大会もついに後半戦です。次のかくし芸はギャリック海賊団の面々によるファイアーダンスです』
 鹿井の紹介が終わると、南米リズムの太鼓の音が流れ出した。
 ステージの奥からシノンが登場する。セクシーな衣装に、男性客のボルテージが一気に上昇した。
 ついで上半身裸のアディール・アークがやって来て、口から火を噴く。
 シノンの持っている棒に炎がともり、本格的にダンスがはじまった。シノンにしては大胆な踊りは、隣に控えているアディの裸を意識しないようにと、必死に身体を動かしているのだ。
「シノンちゃーん!」
 どうやらファンクラブがあるらしく、ハチマキに垂れ幕という基本装備の男性たちが叫んでいる。
『なにせ審査員は女好……じゃなくて、ダンス好きですから、これは高得点が期待できそうです!』
 ところが、ここぞという場面でシノンが顔に手を当ててしゃがみこんでしまった。
「こ、こ、これ以上はアディ、アディ、さ、はだ、はだ、はだか……」
『おおっと、シノン嬢が恥ずかしさのあまりしゃがみ込んでしまった! どうなってしまうんだ?!』
「おーっほっっほっほ。ここはわたしの出番ね!」
 シノンを押しのけてセクシー衣装のジュテーム・ローズ登場。
 会場は――
 ドン引き。
「え?! ちょ、それってどういう反応よ!」
『なんということでしょう。警備員が自主的にジュテーム嬢(?)を排除しようとしています。これはファインプレイと言えましょう』
「あんたたち、どういうつもりよ! ちょ、放しなさいよ! あたしにも踊らせなさいよぉぉぉぉぉぉぉ」
『さて、次は白組です(軽く切り替え)』
「白組6番手は拙者だっ!」
 文字通り飛び出してきたのは西洋甲冑であるコーター・ソールレットだ。
「ふふふ、拙者のスペシャルなスキルをショウする機会がやってきたようだ! ハイテンションダンスィングを見よっ!」
 先ほどまでの民族音楽とは真逆の、ホットでリズミカルなヒップホップが流れ、コーターが華麗なブレイクダンスを披露する。甲冑ゆえに床面との相性もいいらしく、滑るように流れるダンスだ。
 観客の中にはノリノリで立ち上がっている者までいる。
「ホットでクール! 今こそ見よ! 必殺のヘッドスピィィィィン!!」
 ここぞとばかりにコーターが、頭を中心に回り出した。床との接触点からは激しい火花が散る。
 ぐわっしゃん。
『ああっと、遠心力で鎧がバラバラにっ?!』
「ぬぅおおおっ! 拙者としたことが不覚!」
『か、会場のみなさん、コーターさんの一部を見つけられた方は放送席までお願いします!』

紅組:80点(シノンちゃんしか見てません。彼女しか見えませんでした)
白組:40点(ホラーは嫌い)



▽7組目▽

 袴姿の少年がひとり、ステージの中央に立ち、丁寧に一礼した。
「紅組7番。八重樫聖稀(やえがし まさき)。得意なアーチェリーをやります」
 言うが早いか、弓弦(ゆんづる)を引き絞る。矢先が自分たちの方を向いていたので、観客たちがざわめいた。
 そこに、爆音がとどろく。
 ガーウィンが見事なバイクテクでオフロードバイクを操っている。彼が走っているのは、客席の合間の階段だ。
「あのリンゴを射抜きます」
 聖稀の視線の先――ガーウィンの頭上にはリンゴがひとつ乗っかっていた。
 最初の矢が空を切る。
「ぬわっ!」
 はずれた。というか、ガーウィンが避けた。
「なんで避けるんだよ!」
「だって、おまえ、今のは絶対に顔に当たってただろーがっ!」
「そ、そ、そんなわけないだろう」
「言いよどんでるじゃねぇか?!」
「いいから黙って……食らえっ!」
「ぬわっ! 食らえの意味をわかって言ってんのかっ!」
 連射する聖稀。逃げるガーウィン。すでにかくし芸ではなくなっている。というか、会場は大混乱だ。
 器用に観客の迷惑にならないよう動いていたガーウィンのバイクが、階段をふらふら歩いていた青年にぶつかりそうになった。
「うわっ! すまねぇ――って、ん?」
「いえ、こちらこそごめんなさい――って、え?」
 ガーウィンが眉根を寄せる。
「あんた、どこかで見たことあるような」
「そ、そ、そ、そんなことありません!」
 青年があからさまに動揺する。
 すこん。
「あ!」
「え?」
「はら?」
 ガーウィンが青年と話している隙に、聖稀の放った矢がバイクの胴体に突き刺さった。
 ちゅどん。
『お約束のように小爆発です! ガーウィンさんと――あら? さっきまで男性だったと思ったんですが、かわいらしい女性が気絶しています! というか、服が破けてますよ! このままでは放送事故です!』
 ガーウィンといっしょにのびているのは、男に変身してこっそり見に来ていた柝乃守泉 (きのかみ いづみ)だった。
「なんで女だけ服破けとんねん!」
 そのとき、客席から勢いよいツッコミが放たれた。
「梛織(なお)、おまえさ、なんでさっきからすべてにツッコんでんの? しかも関西弁」
 クライシスの質問に梛織は怪訝そうな表情を浮かべた。
「はぁ? なにが?」
「無意識……か?!」
 クライシスの額を一筋の汗が流れた。
「白組7番! ゆき、行きますじゃよー!」
 そんな二人のやりとりなど関係なく、舞台では次のかくし芸が始まろうとしていた。
「今から会場の者たちに霊を憑依させて性格を変えてみせるぞ」
 自分が被害者になるんじゃないかと、特に最前列にいた観客たちが席を立ち上がりかける。
「まずは、梛織じゃ。ほれ」
 迷いなく梛織を指定するゆき。
 次の準備としてツッコミ用のハリセンを手にしていた梛織が、びくりと身体をふるわせて、ぐったりとなった。
「次は、クライシスじゃ」
「はぁ? 俺か? 俺は幽霊なんか信じないタチで――んぐ」
 つづけてクライシスもあっさりうなだれる。
 そのころ、梛織の親友であるクラスメイトPは、彼の雄姿を一目見ようと、出前の途中に寄り道していた。
 よもや梛織が出演していないことなど知るよしもなく、ラーメンがのびる危険を冒してまで駆けつけたその友情の篤さ。偶然の神はそこに心を動かされたのかもしれない。
 クラスメイトPが会場に到着したとき、ちょうど梛織とクライシスが、ゆきに操られるままに舞台に上がったところだった。
 クラスメイトPは期待に目を輝かせた。
『さて、霊が憑依されて性格が変わるとのことでしたが、どう変わったのでしょうか?』
「ほい」
 そう言ってゆきが手を叩くと、クライシスの目がかっと見開かれた。途端に、伏し目がちになる。そのまま、ゆきにすがりつくと、
「ねーねー、はやくぅ。はやく憑依を解いてよぅ」
 上目遣いでおねだりしだした。
『タカビーキャラのクライシス氏が甘えんぼ状態です。ああっと、万事屋ファンでしょうか。ここぞとばかりにフラッシュの嵐!』
 ゆきが自慢げに胸を張った。
『この分では、梛織氏も同様に性格が変わっていることでしょう。どのように変わっているのかは、ゆき嬢のみぞ知ることです!』
「あ、ついに梛織の出番だ」
 立ち見席から身を乗り出したクラスメイトPの肩を誰かが叩く。反射的に振り返ると、そこには見慣れた顔があった。
「お、お、お、お、お、親父さん!」
 九十九軒の店長だった。
「出前をほったらかして、こんなところで油売るたぁ、良い度胸じゃねぇか――よっ!」
 必殺の九十九拳が炸裂。
「ごめんなさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」
 吹き飛んだクラスメイトPは、ゆきや梛織のいるステージに落ちていく。
 そして、なぜか着地とともに爆発。
「ふぎゃっ!」
 黒こげで転がるクラスメイトPの隣に、オカモチとドンブリが落ちてくるも、こちらは綺麗な着地を決めた。
『これは飛び入り参加なのでしょうか?! あれほどの距離を飛んできて、ラーメンは汁の一滴すらこぼれていません! 驚きのかくし芸です!』
 クラスメイトPは薄れゆく意識の中で待っていた。親友のツッコミを。梛織であれば、自分に対して的確なツッコミを入れてくれるに違いなかった。
「ほい」
 ゆきが再び手を叩くと、梛織がくわっと目を開いた。煤まみれで横たわるクラスメイトPを見て、一言。
「クロ(黒)スメイトP」
 ボケキャラになっていた。

紅組:80点(ただし肝心の部分は決して破れない)
白組:60点(ゆきたんカワユス。ラーメンはどうでもいい)



▽8組目▽

「紅組8番手、ルアだよ。踊るね」
『こ、これはどからか、伝説の『ちょっとだけよ』のミュージックが!』
 ぶかぶかのワイシャツとタンクトップ、ホットパンツを着用しているルアは非常に艶めかしい。
 いやいや、どうやら実際に女体化しているらしく、激しく危険なダンスになっている。
『もとが男性なだけにノーブラです! こ、これもまた放送事故の可能性大ではないでしょうか?!』
「あんたも好きねぇ」
 じりじりと審査員席ににじり寄っていくルア(女体化)。審査員の老人は最大級に鼻の下を伸ばしている。
『これは反則すれすれの個人攻撃だっ!』
 そのとき、観客席からまたもや高速で近づく影があった。
「僕と同じ身体でそういう事をするなぁー!」
 羞恥心から真っ赤になったアルがやってきて、激しくルアともみ合う。
「邪魔するなよ!」
「そっちこそこんなことはもうやめて――あ」
 ぽろり。
 なにが『ぽろり』かはご想像にお任せします。
「うあああああああああっ! 」
 ずばーん。
「ぐへっ!」
 きらん。
『一瞬危なかったですが、ルア嬢(?)は星になってしまいました……本日二人目です。合掌』
「がっはっはっはっは。白組の8番は、おっちゃんだっ!」
 高笑いとともに登場したのは、赤城竜(あかぎ りゅう)だ。今日の彼は世紀のヒーロー・ワルトワマンのかぶり物を着用していた。
「今日は特別に普段は見せないショーをやるぞ!」
 テンションも高く、右手に掲げている等身大の人形は――
『敵役ということでしょうか。怪獣などではなく、普通の人間のようですが。どうやら服装からして刑事ですかね。どこかで見たことあるような顔をして……』
 派手なBGMに乗せて、赤城がファイトアクションを行なう。子供たちが特にエキサイトする。
『私にはどこが普段と違うのかよくわかりませんが――いやいや、よく見れば人形の首や頭など危険な部位を狙う技を繰り出しています! 人間相手のショーでは禁止されている大技ばかりです! つまり、そのための人形だったんですね! なぜ刑事なのかは依然不明ですが』
 会場から「スパシウム光線! スパシウム光線!」の合唱が起こった。
「おう! もちろんだぜ! 食らえ、怪獣ク○シマン!」
『ああっと、いま教育的指導で名前が伏せ字に?!』
 赤城がポーズを取ると、人形に仕掛けておいた爆薬が爆発する。もちろん煙は七色だ。
『やはりヒーローモノといえば爆発です!』
「ぬぅあっ!」
 ところが、爆薬の量が多かったらしく、赤城までもが巻き込まれて吹き飛ぶ。
「チクショウ、まさか自分の技でやられるとはな……だけど、おまえとなら死ぬのも怖くない……ぜ……」
 赤城が、ボロボロになった刑事人形の手を握る。そのまま気絶。
『え? 殉職ですか? ストーリーの流れはよくわかりませんが、殉職のようです! さすが希代のスーツアクター赤城竜、見事な散り様でした!』

紅組:90点(ぽろりは男のロマン)
白組:50点(ヒーローは嫌い)



▽9組目▽

『さぁ、ついに出し物も最後の9組目となりました。ここまでの得点をまとめてみますと、紅組が450点、白組が240点です。これは紅組が圧倒的ですね。どうですか、解説の佐野原さん?』
『ようやく出番ですか。このまま終わるかと思っていましたよ』
『すみません。文字数の関係で。要点だけお願いします』
『紅組の方がお色気が多かった。以上です』
『ちなみに、個人特別賞は……なんと、最初のバニーガールの100点がトップです! 参加者ですらないのですが、このままでいいのでしょうか?! では、最後の出演者のみなさん、お願いします』
「紅組9番手、岡田剣之進(おかだ けんのしん)、参る」
 日ごろとは違う武士の姿を見せる良い機会である。剣之進はそう考え、今回のかくし芸大会に参加することにした。
 身のこなし、笑顔、女性へのあぴーる。すべてはこの日のために、技を磨いてきたのだ。
『おおっと! 岡田さんのこの格好は、まさしく……』
「『どじょうすくい』は武士のたしなみ!!」
『安来節です!!』
「鹿井殿、『やすきぶし』は誤りでござる! 『やすぎぶし』と読んでもらいたい!」
 勢い込んで、ひょっとこ面を被る。
 しかし!
「真打ち登場キャプテン・ギャリック様だ! 今日は俺様のとっておきの芸を見せてやろう。本当はレヴィアタン討伐戦の第4部隊でこれを使って風船ナマズの上に飛び乗ってやろうと思っていたんが、まるっきりギャグにしかならないんで自重しといた! ソレくらいの度肝を抜く大技だ。って事で。行くゼ」
 舞台の壁を蹴破って、キャプテン・ギャリック登場。
「ちょ、まだ拙者の番――」
『こ、これはもしや?! そういうオチなのでしょうかっ?!』
 剣之進の涙も、アオイのぬか喜びも、何もかもを吹き飛ばして。
 ウィズもシノンもアディもジュテームも、会場に来ていたすべての海賊団員が立ち上がった。
「俺達ギャリック海賊団だゼ!!!」
『これはドリ○ターズ並のドタバタオチだっ!!!』
 以下、キャラクターシートより抜粋。

『俺達ギャリック海賊団だぜ!』と名乗った瞬間効果で背後に津波発動。団員が居れば威力は×人数分。敵に津波のダメージを与える。デカければそのまま波で攫っていく。が、波が引いた後、ゴミだらけになるので必然的に皆でゴミ拾いをしなくてはならない。

 会場、惨状。
「拙者のっ! 拙者の『どじょうすくい』をっ!」
 波に呑まれながらも、剣之進は健気に踊ろうとしている。
 その頭上に、何かが落ちてきた。
「待てぇい! まだ私の出番が終わっていない!」
 天空より飛来したのは、特攻服を着た本気☆狩る仮面るいーすだ。ところどころ服が焼けているところを見るに、成層圏から戻ってくるときに摩擦熱でやられたようだ。
 隣にはいつの間にやら本気☆狩る仮面あーるまでが駆けつけている。
 当然ながら、彼らに踏まれた剣之進は、波間を漂っていた。
「そこの変態仮面どもっ! 俺の邪魔をするとは良い度胸だ!」
 サーフィンしながらギャリックが本気☆狩るコンビを指さす。
「私たちに戦いを挑もうというのか? いいでしょう」
 るいーすとあーるも戦闘体勢を取った。
 と、そのとき、三人が三人とも、とある方向を振り向いた。
「なんだ?! この臭いはっ!」
 三人が三人とも鼻をつまむ。
 そこには審査員である老人とリカ・ヴォリンスカヤの姿があった。彼女は注文を受けて、老人にケーキを届けにきたのだ。
「え? ちょっと! どうして気絶するのよっ!」
 リカの胸の谷間に見とれ、思わずケーキを口にしてしまった老人は、すでに悶絶している。
「うわ〜 ご愁傷様です」
 三人が三人とも手を合わせた。
 と、リカの投げナイフが高速で飛来し、ギャリックも本気☆狩るコンビも一瞬にして壁に貼り付けになる。
「今、なんて?」
 美しい笑顔に、心底寒気がくる三人だった。



▽その後▽

 会場が津波によって破壊され、審査員が謎の食中毒により再起不能になった銀幕かくし芸大会2008。
 当然のごとく勝負はうやむやになり、特別賞の賞金100万円のゆくえはわからなくなってしまった。
「さて、賞金はどこへ消えたのでしょうかね」
 リカのケーキを注文したのは冬季だった。老人を再起不能にし、賞金をくすねる計画だったのだが、どうやら津波で100万円は流れてしまったらしく、見つからない。
 冬季は肩をすくめて会場をあとにした。

 セエレは船大工である。
 みなさんご存知のように、今回のかくし芸大会では大なり小なり爆発が起こっていた。その際に、ステージを素早く修理していたのが、実はこのセエレだ。
 彼女は極度の対人恐怖症でもある。
 そのため、キャップを目深にかぶり、目立たないように動いていた。
 そして、最後まで会場に残って津波で破壊されたステージを修理していたのも彼女であり、特別賞と書かれた封筒を拾ったのもまた、彼女だった。
 海賊である自分が警察に届けるなど、もってのほかだ。
 セエレは少し考えたあと、このあとのかくし芸大会打ち上げの資金にすることにした。

『これにて銀幕かくし芸大会2008を終了いたします! みなさん、また会う日まで!!』

クリエイターコメントまずは納品が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

今となっては、これだけの人数すべてにオチをつけるという、この企画自体が無茶だった気がします……
ちなみに、組み分けは、参加順に紅・白・紅・白の順番で決定しました。
たぶん大会が流れていなかったら、圧倒的差で紅組勝利だったでしょうw

もしPCの口調等で気になる点がありましたら、遠慮無くお申し付けください。
公開日時2008-08-21(木) 10:30
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