★ 【死に至る病】#3 Deal ★
<オープニング>

 指定された事務所の扉を押し開く。
 と、重厚な応接セットをはさんだ向こう側、防弾ガラスの窓を背にして、隻眼の極道・竹川導次がこれ以上ないほど険しい表情で立っていた。
「銀幕市立中央病院、その外科棟に入院しとった男がひとり、行方不明になっとる」
 そいつを探して欲しいと続けながらも、消えた人物の安否を気遣っているわけではないらしい。その証拠に、彼の口元が苦々しく歪められている。
「たんなるヒト探しかと思うやろ? でもな、その前にこれをよぉ見て欲しい」
 今度は懐から数枚の写真を取り出し、机の上にばらりと広げた。
 写真の中では、そこら中にバラバラになった『身体の部品』――手や足や胴が無作為に地面に散らばっている。
 マネキン業者が、うかつにも己の積み荷をひっくり返したのだろうか。
 そう思わずにはいられないほど、あまりにも非現実的な光景が繰り広げられている。
 だが、その考えは次の一枚と、そして彼の台詞で否定された。
「フィルムにならない『ムービースターの死』、噂くらいは聞いとるやろ?」
 生々しい切断面を上にして転がる様は、よほど手の込んだ特殊メイクかギミックであったとしてもそうそう表現できる代物ではない。
「ええか? これはな、ほんまもんの人間の体、しかも、被害者はいまんところウチの『悪役会』に登録しとるモンばっかりっつう有様や」
 続く言葉に、顔に凄みが増す。
「で、こんな真似をしくさってんのが、さっき言うた行方不明の男……この『解体屋』っちゅうこった。まあ、現場にきっちり署名残しとるから間違いようもないわ」
 そうして、さらに数枚の写真をよこしてきた。
「ヤツがなんでこないなことをしでかしとるんかは分からん。だが、おとしまえは付けなあかんのや……協力してくれへんか?」
 手に取って、そこに写っているものと依頼内容とのギャップに戸惑った。
 40代くらいだろうか。写真の中で男は、ベッドの上でギプスに固められた足を吊られつつも屈託のない笑顔でカメラにサムズアップしている。
 見舞い客らしきもの達とじゃれあう姿はとても楽しげで、血なまぐささとは無縁なほど明るいスナップばかりだった。

 *

 銀幕市に広がる、ぬけるような青空の下。
 まるでうたうように朗々と、彼は屋根の上から全開の笑顔で『観客たち』に宣言する。
「さあ、ごらんあれ! まばたき一瞬のショータイム!」
 彼の言葉とほぼ同時に。
 蜘蛛の巣のごとく張り巡らされたワイヤーが、彼に爪弾かれ、陽光を反射させながらピィィンと高く響いて音を紡ぎ。
「―――っ!」
 どさり。どさどさどさ………
 四肢を絡め取られ捕らわれた『獲物』が、悲鳴をあげる間もなく刻まれ、落ちる。
「いらないものならいくらでも、どんどんどんどん解体するぜ! 俺の仕事を見逃すな!」
 返り血を浴び、壊れた哄笑を振り撒いて、彼は伸ばしたワイヤーを自らの足場に変え、跳躍。
 そして。
 あとには、不幸にも居合わせてしまった『観客』と共に、刻まれ部品と化した『死』が白昼の街中に置き去りにされていた。

種別名シナリオ 管理番号93
クリエイター高槻ひかる(wsnu6359)
クリエイターコメント【死に至る病】をテーマとしたシリアルキラー連作『第3弾』のご案内に参りました。
今回のお相手は、『糸繰りの解体屋』です。
彼の動機を探るほか、次々『いらないもの』を解体しながら逃走する彼といわゆる鬼ごっこを繰り広げることになるかと思われます。
さほどグロイことにはならない予定ですが、状況によっては彼に『解体対象』とみなされる可能性もありますのでご注意くださいませ。

なお、このシナリオはシリーズキャンペーンものではありますが、どこから参加頂いても大丈夫ですし、全てに参加しなくてはいけないということもございません。
それでは、お気に召しましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

参加者
ランドルフ・トラウト(cnyy5505) ムービースター 男 33歳 食人鬼
シュヴァルツ・ワールシュタット(ccmp9164) ムービースター その他 18歳 学生(もどき)
ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
ユージン・ウォン(ctzx9881) ムービースター 男 43歳 黒社会組織の幹部
<ノベル>

 風に乗り、どこからともなく美しい音色が響いてくる。
 だが、弦を爪弾き、奏でるその旋律は、哀切と悦喜が混ざり合うアンバランスなものだった。


「へえ。銀幕市に三度シリアルキラー登場、か」
 導次が机に並べた写真を覗きこみ、シュヴァルツ・ワールシュタットは銀に閃く目を興味深げに細めた。
「なんか、フィルムにならないっていうのは面白いよね。その方が食べ応えもあるし、最後までじっくり味わえるもん」
 ムービースターは死ねばフィルムに戻る。事切れたその瞬間、彼らは一切の形を失ってしまう。そうなっては、できるだけ食べる時間を稼ぐために、殺さないよう気をつけていかなければならない。
 そんな思考からの、実に無邪気な発言だ。
「本当、面白いことをするヤツもいたもんだね」
 隣から覗きこむのはヘンリー・ローズウッドだ。
 シュヴァルツの黒髪とは対象的な、くすんだ金の巻き毛を指先で玩びながら、クスクスと笑みをこぼす。
「ぜひとも『彼』の真意を確かめてみたいな。何を考えているのかすごく興味があるよ」
「ヘンリー、お前も志願するんやな?」
「もちろん。前々から興味はあったけど、今回は僕の領域に踏み込んできてくれたんだしね、関わらなくちゃ損じゃないか」
 いとも平然と言ってのけながら、その表情はけして本心を映し出さない。
「それじゃあ失礼するよ、ミスタードウジ」
 ヘンリーは誰の返事も待たずに、ひらり、あらゆる種類の襲撃に備えて閉じておいた防弾ガラスの窓を開けて、そこからいずこかへと消えた。
 シルクハットと人懐こい笑顔の仮面の下に、導次への侮蔑と嫌悪と苛立ちを隠して。
 そして、この行為を注意しようにも、抗議しようにも、既に彼の姿は白昼の住宅街のどこにもなかった。
「それじゃオレも行こうっと。獲物を横取りされて食べ損ねたらシャクだしね」
 写真の1枚を指で弾いて、シュヴァルツも出発の意思を口にする。
 だが、思いがけずその背に制止の声が掛かった。
「ちょい、待て」
「なに?」
「ええか? おとしまえはつけなあかんけど、殺さんように頼む」
「え? オトシマエって、思いきってやっちゃってOKってこととおんなじ意味じゃないの?」
 不服そうな顔をする少年に、導次は噛んで含めるように言葉を重ねる。
「あかん。どうにも全貌がスッキリせぇへん事件だからこそ、そいつから引き出せるだけの情報を引き出したいんや」
 もちろんこちらの流儀で、だが。
 そう付け加えた彼に、思わず不服そうに軽く眉が寄る。
「ふうん? ま、いいや。手合わせできればさ。楽しみは半減するけど……あ、聞きたい情報、吐かせるだけ吐かせたらオレにちょうだいね?」
 名案を思いついたとばかりに目を輝かせる彼に、導次の不機嫌極まりない苦渋の表情も若干和らぐ。
「分かった、考えとくわ」
「オレ、そういう大人な言いまわしは好きじゃないな」
 反抗するように導次から顔を背けながらも、口元は笑みの形を取っており、目も心なしか楽しげな色を浮かべていた。
 そして、少し遅れはしたが、シュヴァルツもまた事務所を後にする。
 もちろん、扉から――ではなく、わざわざヘンリーが嫌がらせ目的を兼ねて開けていった窓からだ。



 壁一面に埋め込まれた巨大な水槽の中を、ライトアップされた熱帯魚たちが優雅に泳ぐ。
 香港ノワール『死者の街』から実体化したこの組織は、映画そのままの重厚さと厳格さをもって、この空間に存在する。
 そして。
 戦闘部門・紅棍の職位に就くユージン・ウォンは、水槽が放つわずかな反射を受けながら、その組織を統べる者の前に立っていた。
「新義安の草鞋がやられた」
 革張りの椅子に身を沈めた男は、重々しく彼に告げる。
「例の……解体屋の話は聞いているな?」
 香主はしゅ…っと、指に挟んでいた一枚の写真を空に走らせ。
 それをユージンはやはり指に挟んで受け止める。
 ちらり。
 一瞥をくれた写真の男は、なにが楽しいのか、大口を開けて笑い転げている。そこには一切の悪意がなかった。カタギ足りえる無邪気さがあった。
 だが、彼は死を振り撒いている。
 いま、この瞬間も、街のどこかでショーを開催しているだろう。
 しかも。
 哄笑とともにこの銀幕市を跳躍する『白昼の蜘蛛』は、あろうことか、己の仕事の中で三合会の一派に属するものをも『ついでに』解体してしまったのだ。
 交渉役を務めるこの職位者は、その日、ちょうど悪役会のひとりとの会合の約束を取り付けていたのだという。
 彼はバラバラになった。手も足も胴も頭も、関節すらも無視して惨めで無残な断片に変わりはててしまった。
 三合会の『スズメバチ』たちは、己の巣を攻撃され、怒号を上げて殺気を放つ。
 誰もが自らの手で、このふざけた『蜘蛛』を白昼の住宅街に作り上げた巣から引きずり落したいと望んでいる。
 だが。
「仕留めろ」
 その役目を仰せつかったのはユージンただひとり。他のものの手出しは無用。意に添わなくとも、従わねばならない。
 ボスの命令は端的かつ絶対だ。
 彼は一言も発することなく、静かに礼をし、部屋を辞した。
 静謐にして沈着な空気をまといながら、しかし、その手で、怒りを押し殺すかのごとく、ぐしゃりと写真を握り潰して。
「幾度目であっても……幾人目であっても……同胞の死は慣れんな……」


 疑惑の中心ともいうべき銀幕市立中央病院は、彩度の高い照明と自然光を巧みに取り入れた現代建築の優美さと機能美を誇り、そびえ立つ。
 外科棟と小児科棟を繋ぐエントランスもまた、リノリウムの床が反射する陽射しと染み付いた消毒の香りで満たされていた。
 ランドルフ・トラウトはいささか落ち着かないながらもきちんとした風体で、その白い塔の一角に足を踏み入れる。
 事件現場で『解体屋』のニオイを覚え、こうしてここまで出向いてみたのだが、面会を申し込むべきドクターはまだ外来で診察中らしい。
 そこで、時間までにせめてと思い、外科棟を歩きまわりながら情報収集を試みようとしていたのだが。
 目論見は最初の数歩で早くも暗礁に乗り上げた。
 彼の優しさを本能で感じ取るのか、寄ってくるのはパジャマ姿の子供たちばかり。
 しかも、身体をジャングルジム代わりにして群がる光景を不穏な方向に勘違いした者が、警備員を呼びに行ったらしく――
「そこで何をしているんだね?」
 明らかに尋問としか聞こえない高圧的な声でもって職務質問をされるはめに陥っていた。間違いなく、容姿が災いしての不審人物扱いである。
「あの、ですね。わたしは……」
「な、なんだ?」
 事情を説明しようと一歩踏み出せば、相手は何故か一歩下がる。
 しかもせいぜい子供しかいなかったのだが、遠巻きながら野次馬の姿も増えはじめ、事態はますます面倒くさいことになりそうだった。
 だが。
「ドルフだよ。彼はランドルフ・トラウト。銀幕ジャーナルで何度か活躍を見させてもらった、心優しい男さ」
 口ベタながら何とか自分の身分や目的を明かそうと必死だった彼に、思わぬ所から助け舟が入る。
「彼はその優しさゆえに、よほどのことがない限りはけして他者を傷つけない、ね?」
 警備員とランドルフの間に割って入ったのは、白衣をまとった青年だった。
「先生がそう言うんでしたら……」
「ああ、すまないね」
 素直に引き下がる相手とのやりとりから、涼しげな笑みが似合う男がどうやらこの病院の医者らしいことは分かる。
 だが、それだけだ。名札をしていないため、どこの科のなんという名の医師かまでは分からない。
 ランドルフは去っていく警備員をみやり、そして自分の窮地を救ってくれた相手に頭を下げる。
「あの、有難うございました」
「ん? いや、礼はいらないよ。僕は僕のしたいことをしたんだ。それに、きみがここにきているということは事件の調査なんだろう?」
「どうしてそれを」
「言わなかったかな? 銀幕ジャーナルで活躍を拝見しているからね。これは簡単な推理なのさ」
 親しげに笑いかける彼に吊られるように笑みを浮かべつつ、どうにも気恥ずかしい気持ちになる。
「ああ、そうだ、調べるなら僕と動こうか? いつもの相棒がいないみたいだしね。僕はこの外科棟で第三病棟を担当している片桐だ」
「私などでよければ、ぜひお願いします」
 申し出てくれた相手にようやく心の底から安堵し、ランドルフは深々と丁寧に頭を下げた。
 少なくとも彼と共にいることで、情報収集の効率は格段に上がる。
 しかも、この病院は非常に広い。
 下手に動くと、ものの見事に迷子になってしまいそうなほどだ。
「彼はどうしてここに入院することになったのか、彼はどうしてシリアルキラーとなったのか、彼と関係した人物でおかしな者はいなかったか……知っていらっしゃる方はいるでしょうか」
「なるほど、その辺をまずは調べたいわけだね」
「はい」
「分かったよ。それじゃあ、まずは……」
「はい!」
 基本的に頭脳労働は自分の領分ではない。そう自覚しつつも、ランドルフは可能な限り頭を回転させ、疑問点をあげていく。
 ここにはいない彼女の分も、自分がしっかりしなければならないのだと叱咤しつつ。
 調査の重要性は理解しているつもりだ。
 背景を抑えなければ、見えてこないものがあまりにも多いから。
 三度目の正直になるだろうか。この手は、この言葉は、今度こそ命を救いあげることができるだろうか。



 ――蟲たちが主を呼んでいる。
 人間の可聴域を超えた音で、獲物の在り処を声高に叫ぶ。
 シュヴァルツは自身の糸を繰りながら、まるで空中ブランコの要領で白昼の街中を軽やかに進んでいた。
 地面にはたくさんの障害物があるが、空中はせいぜい電信柱や電線、それからいくつかの広告塔に注意するぐらいで事足りる。
 おそらく、相手も同じ移動手段を用いているのだろう。
 だからこそ容易に、彼は目当ての男に追いつくことができた。
「みーつけた!」
 思わず弾んだ声をあげ、新作映画の看板を掲げたデパートの屋上、ぐるりと巡らされた柵の外側にすとん…っと降り立つ。
「おう、いらっしゃい」
 いっそ朗らかとすら取れる気安さで、彼はそこにいた。
「どうした、坊主。こんな所にまで昇ってきて。特等席で俺のショーを観たいのか?」
 嬉しそうに笑みを弾けさせ、解体屋は踵を返す。己の糸で作り上げた、ビルとビルを繋ぐ橋の上で。
「ああ、なんなら出演してくれたってかまわないぜ?」
「ん? いや、ただお手合わせ願いたいと思ってさ」
 チロリと赤い下で唇を舐め、イタズラっぽくシュヴァルツは笑みを浮かべる。
「もちろん、出演させてくれるって言うなら、拒むつもりもないけど」
「あんたは『いらない』やつかい?」
「さあ、どうかな?」
 軽く首を傾げて、目を細める。無邪気な色が、瞳を光らせる。
「ただ、オレは弦使いだからね。あんたを捕獲するつもりだけど、その前に思い切りやってみたいかなって思ってるんだ」
 包み隠さず正直に、己の希望を口にする。
 嘘はつかない。つく必要がそもそもないのだ。だから、どこまでも楽しげに、にこやかに、シュヴァルツは申し出るのだ。
「それでさ、アンタを掴まえたいって人がいるから、その依頼を引き受けてもいるわけだね」
 単純な動機でしょ、と逆に笑みを返す。
「オーケィ、気に入った! それじゃあ、うまくいったらご喝采! 糸繰りの一騎打ち、先に刻まれるのはさあどっちだ!」
 シュヴァルツにニヤリと笑いかけ、架空の観客に向かって挨拶をするがごとくにぐるりと周囲を見渡し、前口上を披露する。
 そして。
 解体屋は、シュヴァルツへではなく、向かいのビルへとワイヤーを繰り出した。
「――なに、いきなり逃走?」
「俺は観客がいなきゃ始まらねえのさ。もっともっといい場所を探そうぜ?」
 あはははは、と、肩ごしに振り返って心底楽しそうに笑いかけ、その余韻を引き摺りながら、糸にぶら下がって一気に地を蹴り、空に舞った。
「ホント……楽しみがいも食べごたえもありそうだよねぇ」
 しみじみ呟いた彼の口元に、大きく笑みが浮かんだ。
「どうした、坊主! 追いかけてくれないのかぁ?」
「いま行くから、ビックリしてよ」
 ダイナミックな追いかけっこも嫌いじゃない。
 躰の底から湧き上がってくるのは、好奇心と冒険心と例えようのない興奮だ。
 カサリ……少年の肩に這い出てきたのは一匹の巨大な蜘蛛、らしきもの。ソレは糸を紡ぎ出す。
 そして――
 始まる。
 光あふれる銀幕市の上空で、滑空するふたつの影。
 糸と糸が絡みあい、互いの強度を競う。
 ガラスが震える。
 掠めた肌から、血が飛ぶ。
 黒い闇が弾ける。
 悲鳴。あるいは歓声。耳に心地よい、衝撃音。
 そこから合の手を入れるのは、解体屋のワイヤーに引っ掛けられ、解体寸前でシュヴァルツに救いあげられた『出演者』の驚愕の絶叫だ。
「オレの相手してんのに、片手間に仕事しないでよ」
「いまのは『いらねえヤツ』だったんだ。坊主こそ、こっちの仕事を邪魔すんなっての」
「そんな文句は聞こえなーい! ……と、よし、つかまえた!」
 左手にぐるぐると糸を巻きつけ、ソレを思いきり良く引っ張りあげる。
「おわっ」
「オレがでたらめに糸を繰り出していると思った? 甘いよ、おっさん。よそ見するから足元が疎かになるんだって」
 いつのまに仕掛けたのか。野生動物を捕獲するかのごとき罠が、解体屋を網の中に閉じ込め、屋根と街路樹を繋いだ宙空にぶら下げる。
 だが。
「坊主、糸使いならこういう芸当も覚えとけ?」
 背後から、声。
 網の中にいるのは――解体屋の衣をまとって気絶しているただの一般人、だ。
「へえ……」
 やるじゃん、と思わず小さく呟いて。
「あ、ねえ、ところでさ、せっかくだからひとつ聞いてもいいかな?」
 感心しつつ、背後を振り返りもせずにシュヴァルツは問う。
「なんだ、言ってみろ」
「アンタ、中央病院で入院してたんだろ? この事件起こしてるのってそこの関係者ばっかりだしさ、もしかしてアンタもあのドクターと会ったこと、あるんじゃない?」
 しかも、診察なんか受けてたりしない?
 その直球とも取れる問いに、返ってきた答えは――



 時間を告げる音楽がどこからともなく流れてきて、ランドルフは片桐と名乗った青年医師と共に外科棟から待ち合わせ場所へと向かう。
 ラウンジは相変わらず盛況らしい。
 そして、そこが彼の気に入りの席であるかのように、ドクターDは同じ位置に腰掛け、待っていた。
「おや、あの刑事さんとご一緒でないのですね」
 会うなりそう告げられて、ランドルフは戸惑い、赤くなる。
「あの、彼女はいま別の事件を担当していまして……」
「それではさぞかし不安でしたでしょう?」
「え、いや、そんなことは……」
「だから他の方とこうしてこられた……片桐先生は本日は緊急手術でまだOPE室のはずなのですが、どなたがそのような変装をして来てくださったんでしょう?」
「え!」
 やんわりと笑みを深めて問うドクターの言葉に、ランドルフが声をあげて思わず隣に立つ男を振り向く。
「僕は解体屋の動機より、この一連の事件の真犯人の方に興味があってね」
 不意に、医者の声色が変わる。
「え、あの?」
 ふぁさ……
 医者は、白衣の胸元をつかみ、まるで奇術師のごとき仕草で大袈裟に剥ぎ取ると――
 一瞬のうちに、『片桐』はタキシードを身にまとった金の髪の奇術師へと姿を変えた。
「え、ええ――っ?」
「ヘンリー・ローズウッド、一応名乗らせてもらうのが僕の流儀だからね」
 種も仕掛けも不明の変装を解いた彼は、驚愕に目を見開くランドルフへと紳士的な態度でそう笑ってみせた。
 そして。
「じゃあ、そこのミスターランドルフのためにも、質疑応答タイムとしようか」
 誰の了解も得ない間に、彼は自分の場を作り出し、推し進める。
「客観的に見て、ねえ、ミスター。ご自分が一番アヤシイと思わないかい?」
 クスクスと楽しげに笑い、ヘンリーはわざと大袈裟に腰を屈めてドクターの顔を下から覗きこむ。
「何を言ってらっしゃるんですか、ローズウッドさん」
 だが慌てたのは告発された彼ではなく、ランドルフの方だった。
「ドクターは我々に助言をくれる方ですよ?」
「斧を振るう殺人鬼、彼はあなたの患者だった。庭園の主は内科病棟の患者だけど、どうやらあなたの診察も受けたらしい。そして今回の事件だ」
 指折り数えて、状況証拠をあげていく。
「解体屋もあなたの患者ではないんですか? 加害者の糸を繋いで見えてくるパズルの絵は……ミスター、あなたが黒幕だって言っているようなものですよ。おかしいですか?」
「ええ。けしておかしくはありませんよ、ローズウッドさん」
 静かに頷き、そして精神科医は小さく首を傾げて彼を見上げた。
「だとしたら、この事件の真の動機はなんだろう?」
「銀幕市の病巣をさらけ出し、夢は夢、現実は現実、全ては悪夢の上で踊る醜悪な幻だと訴えたいのかもしれません」
 ドクターから返ってきた言葉、ソレは自分が望んだ答えに他ならない。
 だから。
「僕はアナタの考えが聞きたいんだよ、ミスター?」
 ヘンリーは目を眇め、凍りつくほどに冷たい笑みを浮かべて彼を見る。
 ドクターの語るのは彼の中にあるのではなく、こちらの内側にあるものだ。そして、彼はそれを自分から読みとった。
「あの……おふたりとも、どうしてそんな話を……?」
 ためらいがちに、言葉を挟む。
 ランドルフはここに来た。何かがあるという予感はしていたし、何より二度もコンビを組んだ女刑事が、ドクターにもう一度会うべきだと言っていたから。
 けれど。
 このやりとりはなんなのだろうか。
 目の前で次々と展開されていく会話は、表面上はあまりにもキレイで和やかで理知的だ。だからこそ落ち着かない。
「さて、前置きはこれくらいにしましょうか。そろそろお話すべきなのかもしれませんしね」
 眼鏡を押し上げ、一瞬の逡巡を見せたのち、ドクターはゆっくりと
「トラウトさん、三度わたしの元へ来てくださったあなたのために、そして今日ここにはいらっしゃらないあの刑事さんのために、ひとつお答えしましょう」
 守秘義務を破るのだと、そう続けて。
「銀幕市立中央病院……ここは映画の街に相応しく、外科と精神科が特化した総合病院です。撮影時のアクシデントをフォローし、度重なるストレスから心を守る。そういう場所ですね」
「なに、いきなりここの説明?」
 からかうようなヘンリーの茶々にも、静かに視線を向けるだけだ。
 そして。
「わたしが本来招かれたのは研究棟です」
 ゆっくりと指を組み変え、とてもとても静かに、深い憂いを込めて彼は言う。
 こぼれた溜息は、重く昏い。
 何を言いだすのだろう。何が飛び出すのだろう。ランドルフはむやみに不安になる。
 けれど、ドクターの瞳は凪いだ海のように静かで、先ほど展開したヘンリーとの一幕などまるでなかったかのように振る舞う。
「そのわたしが何故、研究棟からメンタルヘルス科棟へきたかについての説明なのですが……リエゾンと言うのをご存知ですか、ローズウッドさん?」
 不意に振られる質問。
 しかし、不敵な笑みを口元にたたえる彼は驚く素振りも見せず、つらつらと答えを提示する。
「ああ、もちろん。調べないわけがない。密接、という意味のフランス語。精神医学では、他科の患者が精神に変調をきたした場合、一緒になって治療に当たることをさす、だよね?」
 そして、最後に軽くウィンクする。
「ええ、仰るとおりです」
 頷く彼等のやり取りに、ランドルフは首を傾げることしかできない。
 会話はどこに向かい、何を指し示そうとしているのだろうか。
「例えば、そうですね……この病院には去年の8月から昏睡状態に陥っているひとりの少女がいます。その子はなぜ目覚めないのか。病気が悪化し脳になんらかの異常をきたしたのか、しかし原因はそれだけではないらしい。そうなれば、これもまたわたしの領域となるでしょう」
「はあ……」
 他者に説明しなれた人間特有の、分かっていなくても分かったような気にさせられる独特の抑揚に捕らわれてしまう。
「さて、ここまでご理解いただいた上でお話しましょう」
「ええと、それは」
「この病院で確認できたことなのですが……ごく一部ながら、銀幕市に奇妙な現象が起きております」
 慎重に、言葉を選びながら、彼は語る。
「銀幕ジャーナルは、あくまでも表面化した事件や、ごく一部で起きたモノを書き集めているに過ぎません。ですから、ソレを読み、こうして、あらゆる理由を持ってわたしの元へ訪れる方も多いのです」
 だからこその関連性だと告げるその言葉を、安堵の溜息と共にランドルフは受け止める。
「人の心は脆い。耐え切ることのできない精神はどのように変質し、抑圧された感情はどのようなカタチで爆発するのか」
 その発現ははたしてどこまで予測できるものなのか。
 予測できたとして、どう対処すべきなのか。
「解体屋と名乗る彼のことは、もうすでにご存知でしょう? 外科棟をはじめ、いろいろと聞いていらしたようだから」
「医者っていうのは便利だね。簡単に裏側にまで入りこめる。本来明かされることのない、その人の裏側全部を閲覧可能だ。ミスター、あんたはいい手を考えたね?」
「……そう、医者とはヒトの裏側、内側にまで踏み込み、そして病巣を見つけ出すのです。彼は……耐えられなかったのですよ。銀幕市で作り上げられた、この世界全てのルールに」
 ドクターの視線はまるで、そこにはいない解体屋の心を通して、ヘンリーの内側をも見つめているかのようだった。



 ここは日の光どころか、日常の喧騒すら届かない、もうひとつの隔絶された空間だ。
 ユージンは長い階段を降りていき、いくつもの重い扉で隔離された世界の向こう側で待つものに面会を求めた。
 彼の顔、彼の名を知るモノは、一様に瞳の中に怯えを走らせ、自ら頭を垂れて迎え入れるのだ。
 あらゆる感情を無表情に受け止めながら、最後の扉を自ら押し開く。
 瞬間。
 いっそ幻想的な光景が視界を埋める。
 そこには、無数のモニター画面があらゆる色彩を取り込みながら空間いっぱいにひしめいていた。
 この奇妙な人工の光が作り出す闇の中には、ひとりの人物が沈み込んでいる。
「情報が欲しい」
 眩しさに目を細めながら、ユージンはその細く頼りない背に用件を告げる。
「聞いているよ。例の『蜘蛛』だね?」
 こちらには一切視線を向けず、この場所の『支配者』は手元のキーボードを打ちながら、こちらの希望を見透かすように答えを返す。
 そして。
 リズミカルなタイプ音にあわせて、モニターの映像も目まぐるしく変化していく。
 それがピタリと、ひとつの照準に合わさった。
「いまちょうど……銀幕広場へ向かいながら『別の蜘蛛』と一戦交えているようだよ」
「そうか」
 チラリ、映る映像に視線を滑らせれば、小さな画面を縦横無尽に駆け巡るふたつの影が確認できた。
 空間という空間全てを駆使した、技巧の極みだ。
「本名……というべきかな? 蜘蛛の名はティッシ・ビート。出身映画は、SF、だね。秩序を乱すもの、不要と判断されたもの、そして存在が誤ってしまったモノのことごとくを解体していくのが彼らの仕事だ」
 武器はワイヤー。職人はそれ以外を使わない。そして、彼等の仕事は無秩序の世界に秩序を作り出し、同時にショーとして娯楽をも提供するのだと続け、詳細なデータを並べあげていく。
「既に調べはついていたのか」
「もちろん。標的の手札はすべて把握する――だろ? アンタは絶対聞くだろうと思って用意していたのさ。ボクだって頭にきてるんだしね」
 大好きなムービースター達がこぞって標的となっていくことが許せないのだと、彼はストレートに怒りを表明した。
「そうか」
 もう一度、短く、同じ台詞で頷くと、ユージンは音も立てずに背を向け、扉に向かう。
「あれ? もう行くの? ねえ、聞かないの?」
「なにをだ?」
「彼、あの解体屋がどうして悪役会を狙っているのか……」
「くだらない」
 ソレは聞く必要のないことだと、ユージンは切り捨てる。
「そう? じゃあ、オマケってことで聞いていきなよ。彼はさ」
 彼は――己の存在理由だと自負する『仕事』の最中に、ヴィランズと認識されて、見知らぬものたちに襲撃された。
 そう、自分とはまったく違う世界の、まったく違う原理で動く者たちに、一方的に敵だと認識されて。
 ソレが、彼があの病院に入院することとなった経緯なのだと、閉じていく扉とユージンの後ろ姿に向けて発せられた。
 だから最後の呟きは届かなかった。解体屋はどうやって襲撃した相手の素性を知り、そして悪役会のメンバーを知りえたのかということを――



 解体屋の、過去と呼ぶにはあまりにも近すぎる『出来事』を語り終え、ドクターからは更なる深い溜息がこぼれ落ちる。
「この銀幕市は明らかに異常な状況の渦中にあります。あらゆる常識が混じりあい、罪の基準が変わり、そして、自身の存在理由すらも揺らぐ」
「まったくもって同感だね」
 くすりと笑うヘンリーの隣で、ランドルフは何度も何度も、いま聞かされた内容を頭の中で反芻する。
 常識、基準、罪、存在理由。それが揺らぎ、しがみ付こうとすればするほど処分の対象になる世界について、考え続ける。
「だからこそ、彼のような患者も増えているのです。じわじわと、しかし確実に」
「救うことはできないんですか?」
「それはまだわかりません。ですが、彼の心が蝕まれ、変質し、本来の形を忘れているのだとしたら、ソレを思いださせることで何らかの効果は得られるかもしれませんね」
「分かりました。では、私はこれで失礼させて頂きます」
 ランドルフは席を立つ。
 壊れた彼の悲鳴が聞こえた気がする。
 だから、自分の信念と向きあうために、間に合わないかもしれないけれど、それでも現場に向かおうと決意する。
「被害者も加害者も最小限のダメージで救いたい。私は守るために戦うんです」
 正直、自分には手に余る事件だと考えてはいるが、それで引き下がれる性質でもないのだ。
 関わった以上は全力で。それが信条だ。
「有難うございました、ドクター。そして、片桐さん、じゃなくて……ええと、ローズウッドさん」
 丁寧に頭を上げ、踵を返してラウンジを走り去るランドルフ。
 二倍に膨れ上がった『覚醒』状態の体躯と嗅覚を駆使して、目指すべき場所へ跳躍する。
 その背中を、ヘンリーは目を細めて見送った。
 そして、
「いい加減、真相を話してくれる気になった?」
 いまだその場に腰を落ち着けたままのドクターへ視線を移す。
「僕の推理能力は主人公の探偵すら凌駕する――だって『そういう設定』だからね。その僕が出した答えが外れるわけがない」
 どこか自嘲気味な笑みがへばりつく。
 そういう設定だった、というこの台詞は、そのまま自分という存在とこの銀幕市という現実の世界とに明確な線引きを行っている証拠でもあった。
「だから、僕の推理は外れない。真犯人はアンタだ。そうでなくちゃおかしいからね」
 けれどドクターは、黒髪の探偵であると同時に金髪の強盗である青年から突きつけられた罪状に、否定でも肯定でもなく、全く別のモノを差し出してきた。
「例えば……そうですね、探偵役にも大きく分けてふたつのタイプがいます」
「何の話?」
 笑みを口に張りつけたまま目を細めて問うが、ドクターは構わず言葉を繋いでいく。
「ひとつは細かな点まで一切を調べ上げ、情報を蓄積し、矛盾点を弾きながら美しいパズルを作り上げるようにロジックを構築することで真相に辿り着く方法」
「ふうん? じゃあ、もうひとつは?」
「もうひとつは、ロジックではなく感情や感覚を犯人と共有し、相手に同化することで理論の飛躍を行い、卓越したひらめきによって一足飛びに答えに辿り着く方法」
 探偵役は千差万別、その個性によって物語の方向性はがらりと変わる。
 なのに彼は、たった二通りにあっさりと分け、続けた。
「前者は情報の正確さがなければ成り立たず、後者は感覚とスタンスを誤れば成り立たない」
「で、その理論はどこに着地するのかな?」
 苛立ちも居心地の悪さもどうしようもない違和感も、すべて笑みの下に隠して、ヘンリーは首を傾げて見せた。
 続く言葉は、ある程度予測できる。
「ローズウッドさん、あなたはきっと前者よりは後者に近いのかもしれません」
「どういうつもりでそう判断しているのか、僕には分からないね」
「あなたの失われた筋書きは、ご自分で埋めていくしかなさそうですよ」
「埋める作業を手伝ってくれるというのなら歓迎するよ?」
「わたしの患者になってくださるというのなら、いくらでもお相手いたしましょう」
 透明度の高い、春の陽の幻のごとき空気をまとった精神科医は、アンビバレンツな光と影に引き裂かれた奇術師に哀しい視線を向ける。
「少なくともわたしは、『わたし』と向き合い、語り、観察し、分析することで、ひとつの答えを見つけました」
「ご助言ありがとう。でもそんなカオをして、そんな言葉を綴ったところで、僕の疑惑が逸れることはないよ、ミスター」
 心は動きようがないのだと、正面から宣言した。
「では……もしわたしがすべての元凶なのだとしたら、あなたはどうなさいますか?」
「そりゃあもう」
 唇の端を吊り上げて、心底楽しげに言い放つ。
「感謝するのさ。抱擁だけじゃ足りないね。思いきり抱きしめて、キスの雨を降らせて、素敵な計画に心から賛同するよ」
 つい…っと、人差し指でドクターの輪郭を撫で、軽く上向かせると、鼻先が触れるほどに顔を近づけ囁き掛ける。
「ミスター、アンタからは『罪人の匂い』がする」
「ヘンリー・ローズウッドさん、あなたが見たい景色は、きっとあなた以外の方には理解できないでしょう」
 見つめあい、笑みを交わし、食い違った言葉を応酬し。
 無言の時間。
 しばらくの沈黙を経て二人は分かれる。
 ひとりは生と死の混在する白亜の塔の中へ、もうひとりは血と闇が入り乱れる青空の下へ。



 ぐしゃ。
 がしゃんっ。
 窓ガラスに叩き付けられ、壁に叩きつけ、飛び散るガラスやコンクリートの破片を残らず糸で回収しつつ、互いを拘束すべく動く2匹の蜘蛛。
「坊主、いい腕だ。しかもかなりの面白がりだしな。お前、立派な解体屋になれるぞ?」
「それ、スカウト? でも、オレはそういうの好きじゃないんだ」
 腕を交差。放たれる糸。糸がワイヤーを絡めとり、ワイヤーが糸を断ち切り、もつれ、切り裂き――少年の身体はバラバラに――
「おっ、身代わりの術か」
 切断されたのは、蜘蛛の糸で作られた、シュヴァルツであってシュヴァルツではないもの。
「さっきのおかえし。糸繰りなら、これくらいはできなくちゃ、ね」
「なるほど、やるなぁ」
 相変わらず悲鳴が聞こえる。
 透き通る青空を切り裂くように、甲高い声が突き抜けていく。
 けれど、そこには時折、見ごたえのある刺激的なショーを楽しむかのような歓声が混じりはじめていた。
 視線。いくつもの、怯えを含みながらも危険には無防備な視線が、好奇心をはらんで彼らに向けられ続けている。
「悪いな、坊主。もうちょっと遊んでいたかったんだが、急ぎの仕事が入った」
 ニヤリと笑った解体屋の視線、その先には、逃げ惑う人々の中でひとり、異彩を放つものがいる。
「観客は多い方がいいし、出演者がいてくれるのはもっといい。標的、見つけた」
「あれも悪役会のひとり、かな。まったく、変なところを出歩かないで欲しいよね」
 また邪魔が入ったと、遊びを中断された子供のように膨れつつ。
 ぎゅいん。
「な――っ」
「残念でした、ってね」
 シュヴァルツを相手にしているのだということを、彼は忘れてはいけなかったのだ。
 追いかけっこの、あるいは戦いの最中に、無数に張り巡らされた不可視の糸が、解体屋の躰を包囲していたのだ。
 罠に掛かり、失墜。
 だが、十メートルの高さから落下したその身体を、がっしりと受け止めたものがいた。
 過剰な重みと衝撃すらも、危うげなくその両腕で吸収してしまう。
「やあ、兄さん。受け止めてくれるとは有難いな。アンタも俺のショーを見に来てくれたのかい?」
 愉しげに笑いかけた相手は、明らかに異形の相を呈していながら悲痛な表情で見つめ返す。
「ああ! ダメだよ、ソレはオレの獲物なんだから」
「邪魔をするつもりはないんです。ただ、ただ私は彼と話がしたくて……彼と、ちゃんと話をして、そして思い出して欲しいんです」
 不満の声を頭上から降らせたシュヴァルツに頭を下げ、謝罪し、そして改めてランドルフは彼と向きあう。
「ティッシさん……あなたが何を考え、何をなそうとしているのか、私には結局分からないのかもしれません。ですが……」
 語りかけてくるのは、心から理解したいという願う思いだ。
「悪人のいない映画なんて味気ないと思いませんか?」
「何を言ってるんだ、兄さん?」
 目を眇め、真剣さと剣呑さを増した顔をぐいっと近づけてきた相手へ、真摯な言葉を掛ける。
「いらないヒトなんか、どこにもいないんです……あなたも、含めて……あなたも私も、それからあの彼も、この銀幕市で生きているんですから……」
 解体屋は肩を震わせる。顔を伏せ、ランドルフの腕の中、小刻みに、何かを堪えるように。
「あの」
 だが、次の瞬間。
 盛大に爆笑し、笑い声を弾けさせながらランドルフの身体を押しのけ、ワイヤーに引き摺られるように高速で宙へと跳ね上がった。
「なるほど、なるほど、なるほどな! たいしたもんだ。あんたはなかなか面白い。アンタは立派に適応してる」
 くるり、と一回転。男は樹の上から、ランドルフと、そして屋根に立つシュヴァルツを交互に見やった。
「なあ若造、なあ坊主、お前らに俺の恐怖が分かるってのかい?」
 けたたましい笑いが不意にやみ、俯く男の顔に暗い影が落ちる。
「例えば、そうだ。毎朝あんたはコーヒーを飲む。当たり前に、普通に。けれどふと気がつくと、コーヒーを飲むようなやつは殺していいって法律が勝手に制定され、勝手に施行されていたら?」
 震える声は、哀しみゆえか、怒りからくるものか、それとも怯えか。
「更に例えようか? あんたは職人だ。どんな種類でもいいが、とにかく誇りをもってやってきた仕事師だ。ところが、ある日突然、その仕事は間違っている、罪深いものだから抹殺してしまえと、こう通達されるわけだ」
「ですが!」
 遮るように、ランドルフは声を張り上げる。
「ですが、それでも、慣れていけるのではないでしょうか?」
 彼は壊れてしまっている。
 かつて斧を振るった青年と同じように、かつて不死者たちを喰らった彼女と同じように、ドクターが語ってみせたように、どうしようもなく壊れた彼の心は、もう元には戻れないのかもしれない。
 けれどそれでも、言わずにはいられない。
 諦めてはいけないし、諦めて引き渡すことはそのまま、自分の存在を否定することに繋がる気がした。
「ドクターは俺に言った。ヒトは順応する。早いとか遅いとかの個人差はあっても、やがて心は慣れていくと」
「ドクターが……」
「へえ、そういうこと言うんだ、あの人」
 やっぱりなんか胡散臭いよね、と続けたシュヴァルツの正直な感想は、どうやら誰の耳にも届かなかったようだ。
「だけどな、そんなことじゃないんだ。俺が言いたいのはさ、罪のあるなしってのは誰が決めた基準だって話だ。馴染めないんだ。腑に落ちない。ほんの少し前まで許されていたことが、いきなり間違っていると糾弾される」
 そして、奪われる。正義を振りかざした者たちの手によって。
「あまつさえ、殺していい存在だと公言されるんだぜ?」
 たまらないな、と肩を竦める。
「つまり、こういう理不尽さに晒されてるってことだ!」
 ギュイン――解体屋のワイヤーが縦と横に蜘蛛の巣を模って放たれる
「うわぁ」
 糸はワイヤーをたやすく絡めとり、ただの糸くずに変えて地に落とす。
「くっ」
 だが、もう一方、もうひとりの標的は全身を完全拘束され、宙に浮く。
 鋼の肉体をギリギリと締め付け、肉を断つまでのタイムリミットはこちらの気分ひとつだと笑って告げる。
「さすがに坊主はかわしたか……だが、あんたは駄目みたいだ。な、こうして善意で俺にかかわってくれてもだ、俺はあんたを殺す。俺が受けた仕打ちはそういうことなんだ」
「ティッシ、さん……」
 教え諭すような声音に、ランドルフは身体よりもむしろ、胸が痛む。
 彼の痛み、彼の苦しみ、彼の叫びが、無数のワイヤーから伝わってくるかのようで、たまらなくなる。
「でも、ルールなんだからしょうがないじゃん。ゲームってさ、ルールを守るから面白いと思うんだよね」
 早くも問答に興味を失いつつあるシュヴァルツは、単純なことじゃないかと告げる。
「学校にも社会にも約束事があってさ、それをいかに破るかに腐心するのが楽しいんだよ。でたらめやったら興ざめじゃん」
 どうしてその辺が分からないかな、と更に続け、
「ああ、そっか。頭固いんだ」
 ニヤリと、笑う。
 挑発する為の発言だ。感情の揺らぎの幅が大きくなった解体屋を追い詰め、確実に手中へ納めるために。
「言っておくがな、若造、坊主。俺は慣れたくないんだよ。どんなに頭が固いって言われようと、どうあっても迎合なんぞしたくない。この異常な世界にな!」
 職人としても意地だと、彼は笑いながらも堂々と宣言する。
 この都市の奇怪なルールに則って縛りつけられたら、翼の折られた鳥と同じ、解体屋は死ぬしかないのだと笑い続ける。
 地べたを這いずることは許されないと、言ってのける。
「そんな、そんなことないですよ? この街の方は本当に良くしてくださいます。いろいろなことを受け入れてくれる、懐の深さがあるんです!」
「俺はアンタを殺そうとしてるぜ?」
「殺しません。あなたはしない。あなたは分かっているから、あなたはやりなおしたいって絶対に望んでいますから!」
 だって、見せてもらった写真の彼は、本当に楽しそうだったのだ。実体化した仲間と、この街で生活することを選ぼうとしていた。
「あ、オレもこの街が気に入っているよ。面白いヤツらがいるし、食事はおいしいし、楽しませてくれるから退屈もしないしね」
 だから、こうしてわざわざ『食欲を抑えて』掴まえるために動くし、導次との約束も守るつもりでいるのだとシュヴァルツは言う。
「それに、オレは別に、みじめに地べたを這いずりまわってなんかないけど」
「私も、私もこうしてここにいるんです。ひとりじゃないんです。たとえ世界観を同じくするヒトは誰もいなくたって、ちゃんとひとりじゃなくなるんです」
 だからもう、そんな復讐はやめようと語りかける。
 シュヴァルツは彼の心を揺さぶるために、ランドルフは彼の心を救うために。
 自身の命を握られていながら、懸命に、真摯に、ぶつけてくる想いに、解体屋の瞳に宿る闇がわずかに遠退く。黒い炎が、狂気の色が、ほんのわずかな光明に気づいたように見えた。


 そのやりとりを眺めるものがいる。
 高い鉄塔に腰掛け、足を組み、オペラグラスを手にして、優雅の傍観者を決め込むもの。
「……がんばってるよねぇ」
 ヘンリーは耳元に手を添え、小さく笑う。
 先程ランドルフに取り付けた盗聴器と発信機は、実に興味深い展開をこちらまで届けてくれる。
 同時に、相手の揺らぎすらも伝わってくるかのようだ。
「ミスター解体屋、間違っても流されちゃダメだよ。僕はアンタに期待してるんだから」
 この世界は異常だ。
 死があふれ、虚構と現実が交錯し、無意識の差別とあいまい化された罪が蔓延しつつある。
 ムービースターは死ぬと、フィルムになる。
 だから、『殺しても』罪にはならない。
 つまりはそういう認識がまかり通り、彼らもソレに疑問を覚えず、あまつさえ、自分が虚構の存在であると知りながら目をそらし、現状を受け入れる。
「そんなものは認めない。そんな世界にはなじめない。その方が正常なんだよ、ミスター」
 まるではじめから全てが演技であり、自分は善人なのだと錯覚して順応してしまえる者の方がおかしい。
「僕たちは自分の存在理由を見失っちゃいけない。だから、ねえ、ミスター? 僕はアンタに説得なんかで自分の役割を捨ててほしくないんだよ」
 口にする、ソレは願い。
 あるいは心からの、切望――


 不意に。
 沈黙を埋めるかのように、あるいは心の間隙に入り込むかのように、美しい旋律が流れ、届く。
 異国の言葉で綴られ、哀しく響くのは、弔いのための鎮魂歌。
「ここにきて、新しいお客様の登場らしいな」
 いつのまにそうしていたのか。
 ひとりの男が銀幕広場のベンチに座り、規格外の銃を手にして歌を口ずさんでいた。
 その銃口が、その視線が、ゆっくりと仄暗い怒りを含んで、頭上の男へ差し向けられる。
「え」
 誰何を問う間も、その行為を止める間もなく、ランドルフの頭上を越え、鉛の弾が空を裂いた。
 ワイヤーが切れる。
 ランドルフは、支えを失い、解けたワイヤーともに重力に従って落下する。
 そして解体屋は、目を細めて口笛を吹いて、揶揄する。
「おおっと。いきなりなご挨拶だな。名乗りを上げられないほど余裕がないのか?」
 無言。
 そして、二発目の銃声。
「おいおい」
「いきなりなに? またオレの邪魔をするわけ?」
 解体屋とシュヴァルツ、双方からくり出されたワイヤーと蜘蛛の糸が、ネットとなって弾丸を絡め取る。
 峻烈な一瞬。
 火花が散る。
 男は――ユージンはそれでもやはり、一言も返さない。
 けれど、彼がなそうとしていること、その頑強なる意思だけは明確に、正確にその場の全員に伝わっていた。
「……横取りする気なんだ」
 ランドルフの『出番』が終わったら、今度こそ自分が捕獲しようと考えていた矢先の横やりに、シュヴァルツは思いきり頬を膨らませた。
「何を……何をしてるんですか? やめてください!」
「私は私の仕事をする」
 ユージンにとっては、解体屋が訴える全ての言葉が、無意味な音の羅列でしかない。
 彼は殺した。その罪もその事実も消えはしない。
 構えた銃の照準は、一分の狂いもなく正確に男の両肩に狙いを定める。
 放たれた銃弾は、白昼の空を自在に跳び回る男の足を打ちぬいた。
 静止を叫ぶランドルフの悲痛な声が割って入るけれど、それすら彼には届かない。
「はっはっは、やっぱりほら、赦せないよな? 許さないようにできてるんだよな?」
 解体屋は文字通り、自らの作り上げた足場で腹を抱えて笑う。
「なあ、若造。俺の仲間はな、こういうヤツラに殺されたんだ。見舞いにきてくれたヤツは皆、軒並み狩りにあったんだ……信じられねえよなぁ? 許せるわけがねえよな、お互いさ」
「ティッシさん!」
 解体屋は――銃を構えた男へ、絞首刑のためにワイヤーを差し向ける。
「――っ」
 激痛が走ったはずだ。殺すために伸ばされた鋼の糸を、手袋を嵌めているとはいえ生身の人間の手に巻きつけ受け止めるなど。
 ワイヤーはユージンの肉に食い込み、ボタボタとコンクリートの地面に鮮赤を滴らせる。
 だが、彼は引かない。
「罪深い蜘蛛は、この鼈甲蜂が駆除するまでだ」
 凄まじい力でもって、彼は解体屋を空から引き摺り下ろした。
「やめてください!」
「聞こえない」
 一瞬、黒い銃口をランドルフの眉間に押しあて、
 そして――
「地にのたうち、踊れ」
 密やかな終わりを告げる言葉と共に、続く銃声。
 断末魔すらも掻き消される凶悪にして無慈悲な音は、蜘蛛に例えられた男の糸繰りの両腕を破壊し、ついで、その大腿部にも突き刺さった。
 飛び散る肉。
 砕かれる骨。
 まるで壊れたおもちゃのように、弾む身体。
 絶叫すらも飲み込むのは、血飛沫解体ショーのラストを飾る凄惨な赤の迸り。
 だが、それでも彼の身体はむごたらしくはない。肉塊に変えることも出来るのに、致命傷を負わせながらも必要最低限にとどめて、銃を下ろす。
「オレだって導次に言われたから我慢してたのに、いきなり割って入って横取りはないじゃん」
 非難と驚きと、それからちょっとした不満を混ぜ込んだ声で、シュヴァルツが叫ぶ。
「悪役会の依頼ではない。故に聞くつもりもない。こちらはこちらの都合で動く。私が従うのは香主の言葉と己の信念のみ、だ」
 全てを遮断するように、彼は言う。
 構えた銃は硝煙を漂わせ、沈黙する。
 強烈な死の匂いが、そこら中にばら撒かれていた。
「どうして……どうしていつもこうなってしまうんですか……?」
 鮮赤に染まった男の身体を掻き抱きながら、ランドルフの胸から溢れ出るのは、抑えようのない悲しみだ。
 これで三度。
 心が軋んだ声をあげている。
 暗く黒い痛みに、彼の血を介して自分の内側すら蝕まれていくような気さえした。
「どうしていつも……いつも、救われないんですか……どうして、彼を殺したんですか?
 彼が何故殺人に走ったのか、その理由を知りもしないで……」
「理由など、聞く必要はないからだ」
 凍傷(ヤケド)しそうなほどに冷たい眼差しを解体屋に向け、ユージンは告げる。
「……知る必要もない。殺す側にとって、殺される側などどうでも良い存在なのだからな」
 突き放す冷ややかな台詞に、痛みを覚える。
 だが、ランドルフは彼の中に抑え込まれた怒りと悲哀を感じ取っていた。
 無感情かつ無関心さを示す冷酷な宣言で在るはずの言葉の奥には、どうしようもないやるせさなが存在している。
 奪われたモノの痛み。
 殺した人間にどんな大義名分があり、どんな背景があろうとも、殺したという事実に対してなにひとつ言い訳にならない。
 殺された人間の無念も、大切なモノを奪われた者たちの悲劇も、なにひとつ変わりはしないのだということを彼は知っているのだ。
「……お前が死ぬ様をここで見ている。お前が死に至るまでの時間、それが亡き同胞のために私が歌う鎮魂歌だ」
 惨たらしく殺すこともできた。
 報復という大義名分を振りかざし、文字通りの蜂の巣、見るも無残な肉塊に貶めることとて可能だった。
 そして、それをしなかったのは、彼のプライド、そして彼自身が持つ美意識に他ならない。
 公正さで言うならば、ユージンは確かに平等であり、自身を含めて、厳格な矜持を持っているということもわかる。
 しかし。
「わかっていても、知りたいんです。知る必要があるのだと、私は思います」
 ソレがせめてもの救いへ繋がると信じていたいから。
 けれど、またしても届かずに終わるのだ。
 ランドルフの腕の中で、致命傷を負った男は苦悶の表情を浮かべながら着実に死へと向かっている。
 こうして血にまみれるのは何度目だろうか。
 こうして伸ばした手が届かない痛みに顔をしかめるのは何度目だろうか。
「あ」
 からん……
 思わず取り落としてしまった。
 『Deal』という文字に蝕まれたフィルムが一巻、ランドルフの腕から滑り落ちて、硬質な音を響かせる。
 これは異常な事件が、正常なルールに帰ったことを知らせ、終焉を告げる、無機質の閉幕のベルだ。
「終わったな」
 標的の死を見届けたユージンは、凍りついた目を細め、一切の声を拒絶するかのように静かにその場を去っていった。
 ランドルフは動けず、座り込んだまま、じっと地面に転がるプレミアフィルムを見つめていた。
「食べちゃダメ、か」
 ランドルフとユージンの問答を半ば退屈げに眺めながら、シュヴァルツは指先で唇をなぞり、どこか口惜しそうに呟きをもらす。
 獲物は横取りされてしまったらしい。
 せめて味見くらいはしてみたかったけれど、思いのほか楽しませてもらったから今回はそれでよしとしようか。
 それに、たぶん、導次が知りたがっていた情報も手に入れられた気もする。
 だから、もう十分だ。面倒なコトはもう聞きたくないし、面倒なコトはしたくない。お祭りは終わった。なら、後は帰るだけなのだ。
 だから。
「ほら、いつまで座りこんでるのさ」
 見てられないとでも言いたげに、ユージンとの問答の果てに気力を使い果たしたらしいランドルフの肩を思いきりよく叩く。
「事件は無事解決ってことにしてさ、それ、届けに行こう?」
「………はい……」
 うなだれた彼にもう一度苦笑を浮かべつつ、少年は大男を諭すようにしてその場を去っていった。


 そうして幕の閉じた舞台には、ひとり、観客だけが残される。
 彼は演じられた『悲劇』に、そびえたつ鉄塔の上から惜しみない拍手を送るのだ。スタンディングオベーション。価値あるショーと役者達へ、賛辞と皮肉を込めて。
「ステキだったよ。ホント、泣かせるラストだね」
 誰も聞くことはないだろう台詞を、彼は――奇術師は、暗く深く壊れた笑みを口元に刷いて呟きを落とす。
「僕たちムービースターはすべて夢、あるいは幻、そして絶望の淵に佇み、簡単に命を奪い奪われる歪んだ存在、なんだってことをハッキリさせてくれた」
 歪みゆく笑み。
「ミスター解体屋……僕も同じことがしたかったな。そうすればきっとすごく、すっきりするんじゃないかと思うよ」
 風が吹く。
 耳を傾ける。
 旋律が流れてくるのを拾いあげる。
 ヘンリーは目を閉じて、しばし身を任せた。
 いずこかで、あの男の唇から紡がれる哀切に満ちたもの淋しい音色が、おそらくは中国語と思しき歌が、しばらく続き、そして途絶えた――



END

クリエイターコメント はじめまして、こんにちは。高槻ひかるです。
 この度はシリアルキラー連作【死に至る病】第3弾にご参加くださり、誠に有難うございます。
 参加者さまの顔ぶれで、シナリオカラーも毎回ずいぶんと違ったものになるなぁと、同じテーマを扱っていながら楽しく新鮮な気持ちで挑めました。
 相手が哄笑を振り撒く『糸繰りの解体屋』ということもあってか、終始、どこかテンション高めでお送りしています。
 お待たせした分も含めて、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

>ランドルフ・トラウト様
 シリーズ三度目のご参加、誠に有難うございます。
 毎回毎回、本当に身体を張っていただいてまして……しかも毎回非常にこう、胸にくるプレイングを有難うございます。そして毎回、心身ともに傷つけてしまって申し訳ありません。
 どこまでも正面から気持ちをぶつけ、救おうとされる姿勢に脱帽です。
 ダークで病んだこのシナリオ群に一定の救いがあるのは、ランドルフ様の優しさのおかげでございます。
 ちなみに、某女刑事様不在の件に言及されているのが何とも微笑ましく……ほんわか嬉しくなってしまいました。

>シュヴァルツ・ワールシュタット様
 『赤い羊』から、二度目のご参加有難うございます。
 シリアルキラーと同じ糸使いということで、力いっぱい、追いかけっこを書かせていただきました。
 的を射た推理をしつつも楽しみを優先し、なおかつ、ご自身の楽しみよりも言いつけを守ろうとする姿が印象的でした。
 シュヴァルツ様の中にある、義理堅さなど、ふだん見えない(見せない?)一面、この街へのスタンスが、他の方と対を為しつつ表現できていれば幸いです。
 個人的には今回の対戦カードの展開を考えるのが楽しくて仕方ありませんでした。

>ヘンリー・ローズウッド様
 現段階で、ある意味非常に『直球』な勝負を挑んでくださったのは、ヘンリー様だけでした。
物語としてのタイミング的に、実に絶妙でございました。
 本来明かす予定のなかった情報まで開示してしまっているのも、ヘンリー様のスタンス故だったりします。
 ミステリーファンを標榜する身といたしましては、探偵の名を冠する方には相応の礼儀をもって接したいと考えている次第です。
 というわけで、問いに対してのお答えはこのような感じになりましたがいかがでしたでしょうか?
 可能な限り小ネタをはさみつつ、ふと垣間見える感情の揺らぎを描けていればと思います。

>ユージン・ウォン様
 哀歌を口ずさむ鼈甲蜂さまに、孤高なる美学を感じました。
 そして、用語説明から始まり、色々勉強にあることも多く、目からウロコなアプローチでした。
 独自の組織に属していらっしゃる方なので、そのしがらみやちょっとしたルートを捏造させて頂きましたが大丈夫でしたでしょうか?(ドキドキ)
 また、プレイングがそのまま美しい文章であり、映画のようなワンシーンでもあった為、それをどこまで文章化できるだろうかとドキドキしながら書かせて頂きました。
 少しでも『らしい』演出となっていればと思います。


 それではまた銀幕市のどこか、あるいは間もなく終焉を向かえるこの事件のどこかで再びお会いできることを祈りつつ、本日のショーはこれにて終了とさせて頂きます。
 あらためまして、ご来場、ご出演、誠に有難うございました。
公開日時2007-04-30(月) 23:40
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