★ ベヘモット討伐作戦 ★
イラスト/あなQ


<オープニング>

 どこに行った!!

 言葉でもない、声でもない咆哮で、怪物はわめいた。

 誰がどこにやった! どこに逃がした。 どこにも行かせんぞ! わたしのものだ。わたしひとりだけのものだ! みんなみんな、わたしだけのものだ!

 ああ、ムカデと呼んでもいいものなのか? 脚は、怪物の長い胴体の、片側にしかついていない。バランスなど取れるはずもないのに、脚を伸縮し、胴体をくねらせ、異形はあたりをうろつきまわる。建物などは紙の箱のように踏み潰された。
 戦慄すべきは、胴体の、脚がついていないほうの側面だった。
 ずらりと、楕円形の口がいくつもいくつもいくつも並んでいた。鋭い牙が、唇のない口の中に無数に生えている。牙のあいだから、下水の匂いを放つ涎が絶え間なく滴り落ちている。すべての口は、それぞれが別個の意思を持っているかのように、てんでばらばらに、気まぐれに、がつがつと開閉されていた。もしや、不可視の何かを食っているのか。仙人が霞を食うように。
 あれは、今日の銀幕市民が、ディスペアーの呼んでいるものの……親玉だ。
 レヴィアタン。大きさも、放っている『気』のようなものも、あの巨大な異形の魚と同じだ。

★ ★ ★

「19時45分……。この巨大ディスペアーが身体を起こしたことで、地震が起こったと考えたほうがいいだろう。これが、『震源』なのだ」
 マルパスはビデオや写真を見つめ、顎を撫でた。以前、レヴィアタンの姿を見ただけで身体に変調をきたしたので、念のためゴールデングローブを身につけている。
「余震、と言ってもいいものなのかわかりませんが、微震が続いているようです。このディスペアーは、今も活動しているのでしょうね」
「活動といえば、報告によると、このゾーン内のディスペアーは午前6時から午後8時までと、活動時間を正確に定めているらしいな。興味深い習性だ。今後の作戦に役立てられるだろう」
「……病院です」
「?」
「中央病院の、起床時間が午前6時。消灯時間が午後8時です。偶然とは思えません。……ま、この巨大なディスペアーだけは、その規則を守っていないようですが……」
 柊市長は大きくため息をついた。この怪物が暴れれば暴れるほど、銀幕市は揺れるのだ。巨大ディスペアーとは、一度対峙している。しかし今回は、同じ戦法を取るのは危険だろう。大喧嘩をしかければ、震度5ではすまないかもしれない。
「しかし……このまちの絶望は、レヴィアタンだけではありませんでしたか」
「レヴィアタンは海から現れた。これは……姿は蟲のようだが、地の底から現れている」
 マルパスは、吐き捨てるような、ささやくような口ぶりで、『かれ』に名前をつけた。
「ベヘモットめ」

★ ★ ★

「吾輩の出番だな!!」
 飛び込んできたのは東博士だった。
 疑いもなく、帰還した調査隊の中でもっとも元気そうに見えるのが彼だった。
 博士は手持ちのモバイルの画面に、その新たな発明品の画像を呼び出してみせた。
「これは、榴弾砲のように見えるが」
 マルパスの言葉に、トンデモ博士は頷く。
「いかにも、使用法としては似たようなものだ。完成したばかりの試作品だが、これを使えばあの巨大ディスペアーを一撃で消し飛ばすことが可能と推定される」
 司令官と市長は顔を見合わせた。
「たしかに……ベヘモットを暴れさせると地上に被害がある可能性がある以上、すみやかな決着は今回の状況に望まれるところだが」
「一撃であの巨大な敵を倒せるような兵器を使って……銀幕市のほうに害はないのですか?」
 市長が質問する。
「市内で使えばな。だが戦場はあのネガティヴゾーンだろうが」
「確かに」
 ならば、最善の策に思えるが――。
「ひとつ難点があるとすれば、試作品ゆえ、発射は一回しかできない。オーバーヒートの問題を克服できていなくてな」
「ならば外すことのないよう、敵を牽制する作戦も必要か。ところで博士、ベヘモットを一撃死させられるような莫大なエネルギーはいったいどうやって?」
「愚問だな。これはファングッズの一種だぞ。バッキーに決まっておるわい!」
「なんと」
「なづけて『アズマ式超バッキー砲』。通常のファングッズとは違い、複数のバッキーからエネルギーをチャージすることができるのだ!」
 腐った森を支配する絶望の落とし子を、バッキーたちの力を結集し、一撃のもとに葬り去る。
 だがそのチャンスはたった一度だけ。
 それが「ベヘモット討伐作戦」のごくシンプルな概要だった。


<ご案内>

銀幕市の地下に、新たなネガティヴゾーンへの接点が見つかりました。そこは巨大菌類に覆われた死の世界。蟲型のディスペアーと、それらを統べる巨大ディスペアー『ベヘモット』に支配されています。ベヘモットを討伐するための作戦が敢行されることになりました。
このイベントは集合ノベル形式で行われました。

→関連シナリオ『ヨルダンの行き着く先へ』
→これまでの経緯についてはこちらへ!
→参考情報:ネガティヴパワーの脅威

→集合ノベルとは?
集合ノベルはイベント時に募集される特別なシナリオです。どなたでも、無料で参加可能です。そのかわり、プレイング字数は200字までで、必ずノベルに登場できる保証はありません。プレイング次第で出番や活躍が決まりますので、優れたプレイングをお待ちしております。




<ノベル>

■集合ノベル「ベヘモット討伐作戦」






戻る