<オープニング>
「みんなありがとう」
リオネは言った。
市民たちに諮られた選択は、得票を数えるならば――「どちらの剣も使わない」。
満場一致ではなかった。むしろ大きく割れた。
みな、それぞれに真剣に考え、悩み、苦しみ、その末に達した結論だ。もっと大きく差がついたのならばいざ知らず、この重大な選択を、機械的に票数だけで決めても本当にいいのだろうか。そう思うものもいた。
3将軍たちは、大きく感情をあらわすことなどないが、それでも剣を使わないとする選択をしたものがいることに驚いたようだ。なぜ神々の提案に人間が従わないのか、理解できないようだった。
しかしリオネは、すこし寂しげに微笑って、そして言った。
すべての人々へ向けて、その声よ届けと、繰り返す。
ありがとう、ありがとう、と――。
彼女は、ヒュプノスの剣を選んだ人々に向かって言った。
「ありがとう。リオネが間違ってかけちゃった魔法を……そんなのでも、続いてほしいって思ってくれたんだよね。それとも誰にも傷ついてほしくないから選んだのかな。……それはね、みんながとっても優しいってことだと思うの。みんなの優しさはね、今の銀幕市には絶対必要。だから、みんながこの選択をしてくれてよかった」
次に、タナトスの剣を選んだ人々に向かって言った。
「ありがとう。リオネの間違いを、正そうとしてくれて。リオネが罰を受けて、魔法が消える。それがいちばん正しいあり方なの。みんなは間違わずに、それを選んでくれた。みんなはね、とっても正しい人たちだよ。正しい人は、負けることがないの。みんなの正しさは、今の銀幕市には絶対必要。だから、みんながこの選択をしてくれてよかった」
そして、剣を使わないことを選んだ人々に向かって言った。
「ありがとう。可能性を信じてくれて。リオネも死なずに、のぞみちゃんも眠ったままじゃなくて、マスティマもやっつけて……、そんな最高の可能性を、みんなは信じてくれたんだよね。みんなはとっても強いよ。可能性を信じられる強さを持ってる。その強さは、今の銀幕市には絶対必要。だから、みんながこの選択をしてくれてよかった」
「ねえ、みんな。大丈夫だから安心して。みんながきちんと考えて、心から決めてくれた。神さまとしてのリオネの能力は『心の底から願う気持ちに力を与えること』だよ。みんなは真剣に考えて選択してくれたの。リオネの力ならそれに応えられる。今の銀幕市は、世界でいちばんリオネの魔法がいちばん効きやすい場所になったってことなの」
リオネのその言葉に、ミダスが、ついぞ彼から聞かれたことのないような狼狽した声を出した。
『なんと――、今、なんと?』
リオネは、3将軍に向き直ると、きっぱりと告げた。
「お父さんたちがなんにもしなくても、リオネがみんなを助けるってことだよ」
『それはならぬ神子よ。オリンポスの決定は――』
「お父さんたちじゃなくてリオネと銀幕市のみんなが決めたんだもん。それから、剣は使わないことになったけど……、お父さんは使ってもいいって言ったんだからね。だからリオネが使わせてもらうの!」
「あっ!」
「ぬお!」
イカロスとタロスの手から、剣が離れて、リオネのもとへと飛ぶ。そして彼女は高らかに宣言するのだった。
「リオネの名において命じる。神の剣を祝福に!」
二振りの剣は、かっと白熱の輝きに包まれると、甲高い音をたてて砕け散った――ように見えた。そのきらめきが、銀幕市中に降り注ぎ……、剣を選んだ人々は、自らの内よりわきでる力に気づく。今、神の加護を与えられたのだということを。
「みんな」
リオネが振り返る。
「戦わない人はヒュプノスの剣が護ってくれるから安心して。戦うっていう人は、リオネと一緒に来てほしいの。タナトスの剣を選んだ人も――もし力を貸してもらえるなら、お願い、みんなを助けて。リオネは今わかったの。あのマスティマを倒したら、悪いことは『終わる』んだってことが」
★ ★ ★
「我輩の新しい発明を知りたいか? 知りたいであろう!」
東博士が誇らしげに胸を張る。
それは一見して、ボウガンのように見えるものだった。
「これこそ『ゴールデンアロー』! 近頃、ゴールデングローブを本来の用途を越えて対ディスペアーの武器として用いる輩がおろう。我輩としてはなかなか不本意ではあったが、実際、一定の効果が見込めるのも事実。これはゴールデングローブのネガティヴパワー中和作用を利用して――」
「つまり対ディスペアー用の新兵器ということだな」
長くなりそうな説明を遮って、マルパスが要約する。
「ふむ。ファングッズではないから、ムービースターやエキストラも使用可能。ムービーファンがファングッズと併用することもできる。使い勝手はよさそうだ」
「……それと、既存のものとしては、各種ファングッズに、バッキー砲、それからムービーボムがある」
話の腰を折られて不本意そうに、博士は続けたが、話を聞いていた柊市長は、彼に歩みよると、その白衣の肩をがっしりと掴んだ。
「ありがとう、東博士。ご協力に感謝します。貴方はずっと……市民から疑念の目で見られていたのに、いつも私たちを助けてくれた……」
「……べ、べつに、我輩はだな……勘違いするな、こ、これは我輩の発明の実験でもあってだな……!」
「よろしいでしょうか?」
いつのまにか傍にたたずんでいた邑瀬が、ぶったぎって口を開いて。
「非戦闘員の避難場所ですが、ベイエリアの『地獄門』を抜けた先の世界、また市役所2階トイレから行ける『九神国』、あとは地下の『ダークラピスラズリ』ですね……、そういったある程度以上の広さがある空間型のハザードエリアが適当かと思われます」
「では、お願いします」
「マルパスさん!」
次に市長室に飛び込んできたのは、植村だった。ロイ・スパークランドをともなっている。
「面白いものが見つかりましたよ」
「『ダイノランド・アドベンチャー』の製作者の設定メモ。新しいのが見つかってね」
ロイがテーブルの上に資料を広げる。
「映画では使われなかった設定ですが……実は人工島ダイノランドは、海を航行できるだけじゃなく……空を飛ぶこともできたようです」
★ ★ ★
「マスティマをタナトスの剣で殺すとまずいことになるかもしれん、言うとったな。結局、剣は使わんがあいつを倒すことになった。ホンマに問題はないんか?」
竹川導次の問いに、黄金のミダスは答えない。
『知らぬ。このようなことは神代の時代よりためしのなかったことゆえに。神子はなにかを予知したのかもしれぬが……それもまた我らにはうかがいしれぬこと』
「俺たちの役目はもう終わった」
うっそりと、青銅のタロスが言う。
「オネイロスのルールにより、俺たちは戦いに加わらぬ。……このような大戦、見ているだけというのも、いささか面白くはないがな」
そして、かすかに笑みを浮かべるのだった。
「ミダスのかわりに私が応えよう」
白銀のイカロスもまた、笑みを浮かべる。
「マスティマを倒したらどうなるか、ひとつだけはっきりしていることがある。それは……、空がきれいな青空になって、見晴らしが良くなるということさ」
★ ★ ★
そして――、慌ただしく、戦いの準備が進む。
轟音とともに、銀幕湾より、ダイノランド島が浮上した。
今回はこの島にマルパスの指令拠点が置かれた。飛行空母島ダイノランドがゆっくりと、マスティマへと向き直る。
最後の絶望・マスティマと、銀幕市民。
決戦の火ぶたが、切って落とされようとしている――。
<ノベル>
<ご案内>
厳しい3つの選択を「それぞれが適切に選び取った」ことにより、銀幕市にはリオネの祝福が与えられ、マスティマを撃破できるに足る力を得ました。
リオネがもたらした加護と、銀幕市民の力を合わせて、マスティマへ戦いを挑みます。果たしてこの戦いの先に、真の希望はあるのでしょうか――?
このイベントは集合ノベル形式で行われました。
※参加受付は終了しています。
→関連イベント『終末の日』
→関連イベント『選択の時』
→参考資料:ネガティヴパワーの脅威
→集合ノベルとは?
集合ノベルはイベント時に募集される特別なシナリオです。どなたでも、無料で参加可能です。そのかわり、プレイング字数は200字までで、必ずノベルに登場できる保証はありません。プレイング次第で出番や活躍が決まりますので、優れたプレイングをお待ちしております。
<作戦概要>
空母ダイノランドより先制攻撃として最大出力の「アズマ式超バッキー砲」を発射したあと、ムービースターの助力を受けるなどして飛行手段を中心に攻勢をかけます。バッキー砲の発射に関しては必ず行われますのでプレイングは不要です。発射後に展開される戦線においてどのような行動をとるか、方針を選択肢から選んだ上で、詳細な行動内容をプレイングとして記入して下さい。
【1】マスティマを攻撃する
マスティマ本体を攻撃します。ある程度の接近を余儀なくされるため危険度は高いですが、作戦の中核を担う重要な役割です。※おもに空中戦となります。
【2】ジズ/ディスペアーと戦う
マスティマは戦闘時にはジズなどの中・小型ディスペアーを生みだす可能性が高いです。それらの対応を行い、本体への攻撃路を切り開くなどの役割を果たします。※おもに空中戦となります。
【3】ダイノランドで行動する
空母ダイノランドはバッキー砲発射後は銀幕湾上空へ後退し、敵と一定の距離を保ちます。しかし襲撃を受ける可能性もないとは言えませんので、そういった不測の事態への対応や、ダイノランド上でなんらかの行動を行います。
【4】ギャリック号で行動する
ギャリック率いる海賊船ギャリック号が、ダイノランドの護衛などの任に就きます。ギャリック号に乗船して活動する場合はこの選択肢を選んで下さい。
【5】市街地で行動する
戦いが始まれば市街地への被害も予測されます。また、市街地やハザードエリアの救護拠点を防衛する必要もありますので、市街地で飛来するかもしれないディスペアーやマスティマ戦の余波などに対応を行います。
【6】後方支援・救護活動を行う
後方支援・救護活動を行います。この選択肢のみ、活動場所を限定していないため、なるべくどこで行動するかを明記するようにして下さい。
<掲示板>
上記作戦は以下の掲示板上で相談されたものをもとにしています。
→【マスティマ決戦】反撃の時間
!注意!
掲示板に参加しなかった人も、集合ノベルに参加する(プレイングを送信する)ことは可能です。掲示板の参加・閲覧は義務ではありません。
逆に、掲示板で発言していた場合でも、プレイングを送らなかった場合、集合ノベルに登場できないことがあるので、ご注意下さい。
<情報>
●神の剣の加護について
リオネによって、一部の市民には特別な力が与えられました。
タナトスの加護
「選択の時」において、「【2】タナトスの剣を使う」を選択したキャラクターには「タナトスの加護」が与えられます。これによりこの戦いで一度だけ、きわめて強力な魔法のパワーを発揮することができるのです。このパワーは使用している武器や兵器の攻撃に乗せてその威力を増すか、エネルギーの弾丸として敵に直接ぶつけるかすることができます(このパワーは攻撃にのみ使用できます)。
ヒュプノスの加護
「選択の時」において、「【1】ヒュプノスの剣を使う」を選択したキャラクターには「ヒュプノスの加護」が与えられます。これによりこの戦いの間、「眠っている限りは決して傷つくことのない」魔法の眠りを、自分か他者に何度でも与えることができるのです。この眠りに落ちているものは、その間、決して負傷も死亡もしません。また、この魔法の眠りは普通の眠りと同じように簡単に醒ますことができます。(※註:目覚めている間に受けたダメージが回復することはなく、眠る前に「死亡する可能性のある負傷」を得ていた場合は、死亡の可能性があります)
●ゴールデングローブについて
ムービースターは、特にプレイング等に記述がなくても、全員、ゴールデングローブを装備しているものとみなします。
●ゴールデンアローについて
ゴールデンアローはボウガン型の武器で、ゴールデングローブと同様の機能を持つ矢を射出します。この矢はディスペアーに突き刺さってダメージを与えると同時に、ゴールデングローブの機能でネガティヴパワーの発生を抑え、ディスペアーの弱体化を促します。このアイテムはファングッズではなく、誰でも使用することが可能です。
●バッキーとファングッズ
ディスペアーはムービースターではありませんので、バッキーによってプレミアフィルムにすることはできませんが、ファングッズは有効であることがわかっています。ファングッズは全種類、装備することが可能ですが、性質上、同時に使用できるのはいずれか一種類となります。
●作戦に参加しない一般市民
非戦闘員は、『地獄』など、空間型のハザードエリアに避難します。
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