オープニング


 竜刻の大地ヴォロス。
 豊かな自然に恵まれ、数多の種族が共に生きる世界。
 しかし、そこは闘争の世界でもあった。
 かつてこの地には竜という存在があった。
 長大な寿命と強靭な肉体。そして並ぶものを許さない絶大な魔力と知力を持った種族である。
 その力ゆえなのだろうか?
 竜族間で起こった戦争は熾烈を極め、強大すぎる力をぶつけ合った結果、ただ一匹の生き残りも許さず絶滅してしまった。
 だが万物の頂点であった竜族は、死後も頂点であり続けたのだ。


 竜の遺骸――竜刻。
 膨大な魔力を秘めたそれは、埋められた土地に不可思議な現象を、動植物に何がしかの影響を与える。また、鱗や骨は建造物や美術品の素材としての利用価値が極めて高い。
 そしてそれは、強力な魔法の武具として使うことが出来る。
 ヴォロスの大地は、如何に良質な竜刻を所有しているかで力が決まる。
 大きくは国同士、小さくは個人同士で起きる竜刻の奪い合いは多すぎる血を流し続けている。
 それは、あたかもかつての竜族同士の戦いのように……


 ヴォロスのある地方、もう名前すら残ってない国の軍隊が戦った古戦場。
 森の中の祠にある、朽ちた木箱に収められている竜刻は小さな光を放っていた。






 これは私見であるが、シド・ビスタークは司書をやるより暴れ牛に乗ったり、斧を振り回しながら荒野を駆けまわっている方が似合ってそうなものである。
「よく来てくれたな。お前達が今回依頼を受けてくれる奴らか?」
 まさしくインディアンな風貌のシドは訪れたロストナンバーたちを席に進めた。豪放を絵に描いたような人物ではあるが、彼は手先が器用で小物を作るのが趣味と聞いている。身に付けている装飾品は彼の手製だろうか。
「お前たちにはヴォロスへ向かってほしい」
 竜刻の回収だ、とシドは言った。
「地図だとこの辺りだ。場所が場所だから駅から相当歩くことになるが、その辺りは我慢してくれ。代わりに、人里もないから自由に立ちまわれる。異世界の道具を使っても誰かに見咎められる心配がない」
 ロストナンバー……特にツーリストの面々は、壱番世界でいうファンタジーだったりSFなアイテムを所有している者もいる。
 ヴォロスの人々から見れば何らかの魔法の道具と思われるかもしれない。それで襲われる可能性もあるのだから、確かに今回のような依頼は都合がいい。
「この場所はな、古い時代に戦争があった。結構なひどい戦だったみたいだぜ?」
 ある祠にご神体として祭られていた竜刻があったらしい。
 それを狙って二つの国が戦争を起こした。正確には元々敵対していた国が、互いに攻める理由が無くて切っ掛けの一つとしたらしいのだが、そんなことはどうでもいい。
 結果としてそこは戦場となったということだ。
「死体は埋葬する場所がないほど出まくったらしいぜ? そして戦争が理由でその土地の人間は皆死んだかしらねえが、とにかく『生きた人間』はいなくなっちまったんだ」
 生きた、を強調して一拍の間を置いた。
「……出るんだよ」
 シドは言った。
 竜刻には様々な力を持つ。
『導きの書』曰く、その竜刻には記憶を再現する能力があるらしい。
 つまり、竜刻は古戦場で行われた当時の戦争状況を再現しているのだ。
「本来はそこまで大きな力を持ってないんだがな、死者の怨念か土地に染みついた竜刻の力か中途半端に再現しやがる。アンデット同士が延々に戦ってやがるんだ」
 竜刻の力は朽ちた骨に兵隊としての動きを繰り返させていた。
 錆びた剣を、錆びた槍を、錆びた鎧で身を包む骸は互いに傷つけあい、その度に『無傷の状態』へと再生する。ようはビデオの巻き戻しだ。
「怨念とかで動いている訳じゃないからな。成仏? させられる相手でもないしはっきり言ってまともに戦えるような相手じゃない。だけどな、所詮骨で装備も錆びてるから一匹頭の実力は弱いと断言していい」
 兵隊と言ってる時点で数は考えたくないものである。ちなみにシドはここに訪れたのが戦闘技能所持者として話しているのであしからず。
「骨どもは竜刻の力で動いている。竜刻に巻かれている聖骸布を取れば力は流れなくなって骨も崩れ去るからな、見つけるまでどうにか凌いでくれ。ちなみに祠の正確は知らん。古戦場の森の御神木の麓らしいが?」
 適当なこと言ってくれてるが、御神木自体は巨大で目立つ筈だ。多分。
「それじゃ頑張ってきてくれ。吉報を待ってるぜ」
 メンバーのスキルによっては難易度が大きく影響する依頼である。

管理番号 b15
担当ライター 橋本コウヘイ
ライターコメント はじめまして、橋本と言います。
ロストレイルに参加させていただくことになりました。今後ともよろしくお願いします。


変身ヒーローやロボット、ガチムチアニキなネタが大好きです。昔そっちの趣味と勘違いされたのはいい思い出です。
ガチ戦闘ですので暴れたい人はどうぞご一考を。
それはそれとして、ネタに走ったり投げっぱなしにするの大好きです。





この依頼の敵はアンデット兵です。ファンタジーでよくでる骨のモンスターです。
ここで戦うアンデット兵は、長い風化の影響で骨がもの凄く弱っている。装備も錆びまくってまともに使い物にならない。錆び関係で殺傷能力は高そうですが、耐久力や防御力は恐ろしく低い。動きも鈍い。
その代償として(竜骨の影響で)壊して短期間で無傷の状態に再生します。
基本的にアンデット兵同士が戦ってますが、第三者(ロストナンバー)が現れるとそっちを狙ってきます。
場所は森で、かつて戦場になった為半端に開けてたりしている。祠のある御神木は目立つ。
複数攻撃が出来たり探査技能があると有利になるかもしれません。
竜刻のある祠近辺には……?

参加者一覧
アルティラスカ(cwps2063)
デュネイオリス(caev4122)
瑠縷(cuza9653)
永光 瑞貴(cesa1307)
南郷 主税(czvt5452)
ボー チ チュク(cycx8763)

ノベル




「この先は既に戦闘領域か。……いくつか、薄いポイントがあるな」
 スナイパーライフルに取りつけられた照準器から、その先を覗いていたボーチ チュクが呟いた。
 どこか古いデザインの狙撃銃だ。
 開発経緯は知らないが、ボーチに支給されたトラベルギアはかの名銃、ドラグノフ狙撃銃に非常に酷似している。
 軽量かつ頑丈。部品が少ないところからくる整備性に優れた即射性能を持つ狙撃銃だ。
 それはそれとして、とある狙撃銃はいざというときにアサルトライフルのように連射が可能、を要望されてそれをやってみた代物らしい。あの国の狙撃銃に対する情熱は異常な気がする。
 まあそんなことはどうでもいい。
 先行して偵察から戻っって来たボーチはこの依頼に参加した仲間たちに状況を説明した。
 ロストメンバー的に言えば仕様だろうが、統一感のない面子である。
「敵戦力の少ないところから侵入して、御神木へ向かうのが鉄板ですね。アンデッド達は互いに戦い合っているようですから、そのまま戦わせておけば良いのですわ」
 アサルトライフルを携えた瑠縷がにこやかに言った。
 世界的にデュネイオリスも場違いな間があるが、瑠縷もいい勝負だ。彼女の出身世界的に問題なかろうが、花嫁衣装に身を包んだ女性が銃器を持って戦場になんて色々突っ込みたい気がする。
「それにしても竜刻なんてとてもロマンチックな品なのかしら。デュネイオリスさん辺り、売り飛ばしてしまえばとても面白いことになりそうですわ♪」
「瑠縷……。お前は何を言っているのだ」
 黒髪の竜人、デュネイオリス呆れた声を出す。体格は巨漢だが、頭から足のつま先――雄々しい翼や尻尾に全身を包む鋭い鱗が示すように二足歩行のドラゴンと行った風情だ。ありきたりだが全身筋肉を示す丸太みたいな両腕に多機能なガントレットのトラベルギア。普通に敵に回したくない類の種類である。
「いえいえ。このヴォロスでは竜刻はたいへん貴重なものでしょう? 武具にしろ工芸品の材料にしろ利用価値はとても高いですし、デュネイオリスさんはヴォロスで言えば、生きたドラゴンですから研究対象になるかもしれませんね」
「我の出身世界はここではない。竜刻にはならん」
「ヴォロスの人はそう思わないのでは? きっと、研究と称して【ピー】されたり【見せられないよ!】された挙句、【禁則事項です】とかされますよ」
「ええい。冗談でも止めろ、不愉快だ」
 さすがに不機嫌を露わにするが、
「……(にこにこ)」
 眼がマジだ。
(この女……本気か!? 笑顔に一点の曇りもない……!)
 彼とパートナーのロストナンバー、アルティラスカがいた世界は0番世界の定義で言えばプラス上層世界だ。
 光に満ちているという定義なだけに、地上を世界樹である女神と守護竜神が見守っていた世界だったらしい。
 本人たち曰く、変貌した創世神と戦ったらしいが……眼の前の花嫁から感じるのは狂気か? マイナス下層の世界出身で、『そういうことが必要』な生活環境だったらしくその辺り歪んでいるかもしれない。
「まあまあ。交流を深めるのはそこまでにして……私も少し様子を調べますね」
 ボーチの先導により着々と森の内部に進みつつある。
 先程より戦闘の音が大きく聞こえていた。
「木々よ……植物よ……」
 アルティラスカの周囲の空気が変わった。
 揺れるエルフ耳にストール状のトラベルギア。女神である彼女は、植物と同調し操れることが出来るのだ。
 森全体が自分の身体の一部になる感覚。
 元が世界樹の女神であるアルティラスカにとって、名もない森を支配するのは不可能ではない。木々の、植物の『視点』を覗く先に見つけた。
「……成程。皆さん、御神木の位置が判りました。最短のルートで行くにしても、どうしても戦闘領域を突破しないといけないようですね」
「突撃するなら問題ないですわ。銃の扱いなら慣れてますの」
 そう言って棹桿を引いてセーフティを外す。
 瑠縷は自分で言うだけにアサルトライフルを扱う様は板に付いてるが、ウェディングドレスのビジュアル的に違和感全開だ。
 何というか、藪を突いたら蛇どころか肉食獣が出そうな気そうな勢いだ。デュネイオリスは何故か彼女から花嫁衣装に身を包んだ怨霊的なもの(×大量)が見えてる気がするし、普通に距離取っている。
「……ん?」
 ボーチが離れた先から走ってくる二つの人影を見つけた。
 そう言えば先刻、少しでも突撃を有利にする為と忍者が何かの仕掛けに、男の娘のツーリストが付いて行った。
 見れば南郷主税と永光瑞貴に続くアンデット兵の大群。
「すまぬ! 見つかってしもうた!」
 見つかるな。






 さすが元は兵隊なだけあってボーチは冷静だった。
 アンデット兵が突撃してくる前に適当な狙撃ポイントに移動。SVD似のトラベルギアで支援にあたっていた。
 軍隊としての狙撃兵には、必然的に高度なカモフラージュ技術が必要とされる。
 音を立てない体捌き、呼吸の操作もそうだが、迷彩服かギリースーツでも着ていれば完璧だろうが、今でも充分すぎるほどの隠蔽ぶりだ。
 アルティラスカと瑠縷を守る為、アンデット兵たちに立ちはだかったデュネイオリスはボーチがいつから姿を消していたか気付かなかった。
(狙撃兵の常だが、味方としては心強いが敵に回すなら速攻で潰さなければならない相手だな)
 守護竜としての戦闘経験か、それとも戦士としての本能か。
 だがまずは――
「道を作らねばならぬが、策は実行前の問題。ならば抉じ開けよう!」
 全身の魔力を練り上げガントレットのトラベルギア、ヴァンダライザーの宝玉が発光。
「死者達よ、許せ! ウオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 咆哮。
 竜の雄叫びが大気を振動させ木の葉を破壊する。一番近い距離にいたアンデット兵を粉砕する。
 そして光拳。
 剛腕の一撃が三体のアンデット兵を打ち砕く。更に続くアンデット兵を尾の一撃で薙ぎ払った。
 力と速度に任せただけのものであるが、デュネイオリスという強大な質量はそれだけで脅威となる。
「話に聞いてた通り脆いな。数が多いだけ……っ!?」
 腕に焼けるような痛みが走る。
 忘れていた。司書は、アンデット兵は再生能力を持っていると言っていたじゃないか。
「――しかし、よもやこれほどとはっ!?」
 拳で打ち抜いたアンデット兵が、砕いたそばから再生していく。
 動きを止めたのは一瞬だけだ。初期のラッシュで粉砕したアンデット兵は、損傷の具合で再生の度合いは遅れてはいた。
 アンデット兵たちの攻撃。迎撃に移ろうとするが、拳で打ち抜いたアンデット兵の再生に巻き込まれ腕が抜けないでいた。
 尾で薙ぎ払うか?
 否、踏ん張りも効かない上に別の間合いからまでは対応出来ない。
(まさか……ここまでか!?)
 錆びた剣の群れ――剣山がデュネイオリスを襲う。
「圧力操作……突貫します!」
 聞きなれた声がした。
 魔力の操作。瞬間、辺りの大気圧が一気に下がる。
 突風。
 駆け抜けた直後、デュネイオリスに迫っていた剣山ごとアンデット兵たちが粉砕されていた。
 風と思ったのは、アルティラスカの突撃により発生した衝撃波なのだ。
「デュン、大丈夫ですか?」
 ストール状のトラベルギアを展開し尋ねる。
 見た目こそただのストールだが、振るえば打撃、願えば相手を拘束し広げれば盾となる万能武具である。
「すまぬアティ。守護竜たる私が遅れを取るとは」
「気にしないで。私も、ここまで厄介な相手と思っていなかったわ。瑠縷さんがいなかったら危なかったかも」
 後半部分銃声で聞こえなかった。
「さあ来なさい。ガンガンやりますわ!」
 火花が散って飛び散る薬莢。花嫁のアサルトライフルはこれでもかと火を吹いてアンデット兵を近づけすらしなかった。
 状況によって有利な武器は違ってくる。
 こういう時連射の効く武器はアホほど有利なようだ。
「いいですね愉快ですね。まるで昔の楽しかった頃を思い出しますわ。撃たれても突撃してくるのはいい花嫁候補ですわ!」
 出身世界でのことを思い出しているのだろうか。
 表情が嫌なほど活き活きして、ヒャッハーとか、フゥーハハーとか言いそうな勢いだ。
 アンデット兵も撃たれて砕かれる度に再生しているが、瑠縷の体捌きもあってまったく近づけてない。
「デュン、瑠縷さんと共に御神木へ行きましょう。これ以上はただ消耗するだけ、早く元凶を断たねば」
「判った。お前へはただ一体とも通さん」
 彼は守護竜。
 護る為の戦いなら誰にも負ける理由がない。
 その絶対の自信は、すぐ傍の女神へ強い力を与える。
 ストールが動く。
 魔力を練る。
 大気圧が低下する。
「道を開きます。デュン、援護を頼みますね」
「応ッ!!」
 ヴォロスのではない、竜の力が轟く。








「冶五郎の所為だ! これは冶五郎の所為に違いない!」
 全方位から斬られ突かれ、かなりシャレになってない状況の主税。
 アンデット兵の突撃を食らった彼は、他の仲間と違って追われてた状況なので体勢を整えるどころかまともな抵抗も出来ないでいた。
「おぅふ!」
 アクロバティックな姿勢で避け錆びた剣先が顎を掠める。
 彼ともう一人、男の娘のツーリストだけ乱戦というかフルボッコ(をされる)状態だ。しかも全方位攻撃で普通にどう考えても即死な状況なのであるが、そこはさすが忍者なのかとても非常識な具合で四方八方の剣を避けまくっていた。
 関節とかフルに駆使しているが、腕や足が人間が向けたらいけない方向に向いてたりしているのは気のせいだろうか?
「拙者はまだ死ぬわけにはいかぬ! そう、冶五郎を【ピー】までは!」
 いい感じにハイになっているのかもしれない。段々、剣の動きが止まって見えてきている気がする。
「ふん!」
 時間差で斬って突いてくる剣の雪崩を、蛇のように身体を波打たせる。
 刹那、銃声。
「――ボーチ殿か?」
 側面にいた複数のアンデット兵の頭が破砕する。主税はそこへ飛び込むと、トラベルギアの脇差を抜き、落ちているアンデット兵の剣を拾った。
(……間に合ったか)
 着弾を確認したボーチは次の狙撃ポイントに移動を始める。
(死人の兵とはいえ、頭を撃たれればさすがに動きは止まる。あの二人、こちらの意図を読み取ってくれればいいのだが……)
 デュネイオリスたちはこの時点で御神木へと到達していた。
 当初、ボーチは竜刻を手に入れられる一番の戦力への支援のみを考えていた。
 彼女は狙撃兵という徹底的な判断力と冷静さを求められる兵種であったため、依頼を受けた直後すぐそう判断し、実際現場でそう動いたのだ。
 だがデュネイオリスとアルティラスカ、そして瑠縷の戦力を見て判断、残りの二人の支援へと切り替えた。
 単純に、あの三人は正面からの瞬間火力が高すぎるのだ。
 いくら再生能力に優れてはいても再生しきる前に突破できる。
 それに状況からアンデット兵の波に飲み込まれた二人のツーリストも気になっていたし、見捨てるというのも酷。
 適当にアンデット兵を巻いて、先行した三人の支援に向かわせるのも一つの手だ。
(……しかし、冶五郎とは誰だ?)
 違うツーリストの名前だろうか。
 何故か逆ギレしている主税が根元から折れている錆び剣を投げ捨てた。
 そんな主税と対照的に、場違いなソプラノボイスが響く。
「わたくし思いますの。確かにこのような再生能力を持つ竜刻は価値があると思いますし、件の聖骸布を巻き付けたのは誰なのでございましょう? むしろ、聖骸布の方に問題があるのでは?」
「知るかぁぁぁぁぁぁ!!!」
 鬼のような形相で回避し続ける主税へ、きゃぴきゃぴしたまさに女の子ボイスで瑞貴が尋ねた。
 男装している女の子、が瑞貴を見た依頼を受けた面々のの第一印象だったりする。
「まあ。でも調べる価値はあると思いますわ。もしかしたら、とても厄介な背景があるかも。あなたさまはどう……」
「しなを作るな甘い声を出すな小僧! 俺は衆道に興味はないぞ!」
 何だか泣きそうだ。
 瑞貴はいわゆる女の子の仕草で苦笑を浮かべた。
 それが全然違和感がないというか、彼女――彼は彼で特殊な事情があったりする。
 一身上の都合で姫と育てられた瑞貴は身ぶり口ぶりがお姫様。今現在そうする理由はなくなっているのだが、身に付いてしまったお姫様は早々抜けない。普段はワイルドを振舞っているが、現状のような場ではどうも姫言葉になってしまうのだ。
 アンデット兵の全方位攻撃をこちらもこちらで非常識な体捌きで回避し続けていた。
 お家の都合で仕込まれたか知らないが、こと回避技能は本職の忍者である主税以上のものを発揮している。
(……何というか、余裕だな)
 支援をしようとボーチは銃口を向けたが引き金を引くのを躊躇う。
 後で聞いたら瑞貴は相手のリズムを呼んで、後の先を取ってるとからしいが……会話の中でポーズを取れる理由も判るというものだ。
 先が判れば確かに余裕も出来る。
(しかし、このままではジリ貧だろう)
 アサルトライフルのようにはいかないが、連続で撃ってアンデット兵の足を止めるか――
「こうなったら仕方ありませんわ!」
 瑞貴、跳躍。
 アンデット兵と大きく距離を取ってトラベルギアを取りだす。
 美しい五色の貝紅だ。
 その一つ、金を瞼に塗る。


『ヴァァァァァァァァァァァァ!!!』


 アンデット兵の群れが瑞貴へと突撃する。
 いくら優れた回避技能を持ってしても、この圧倒的な物量の前にどれだけ持つのか……
 これが本当の眼力(めぢから)だ。
 ちなみにこの依頼が終わった後、ボーチはしばらく瑞貴と視線を合わせようとしなかった。
「――キラッ☆」
 轟く爆音きらめく笑顔。
 地面ごとアンデット兵をダース単位で消し飛ばした。






「何なのだ、このアンデットは」
 巨大なバトルアックスを受け流しデュネイオリスはたたらを踏んだ。
 御神木に辿り着き祠へ向かおうとした彼らを迎え撃ったのは、バトルアックスを持ち華美な全身鎧に身を包んだアンデットと骨の戦馬に跨る、突撃槍を構えるアンデットの騎士だった。
 身に付けている鎧と意匠が違うことから、当時の敵対していた軍の指揮官なのかもしれない。
 だがデュネイオリスが驚いたのは……
「骨も装備も風化してないどころか、力と速度が尋常ではない。大本は人間だろうに、よもやあの巨大な戦斧を自在に操るとは……っ!」
 砲弾。
 突撃する戦斧のアンデットを見てデュネイオリスはそう錯覚した。
「ふんっ!」
 躊躇したのは一瞬。
 トラベルギアのガントレットの宝珠から魔力が溢れる。
「オォォォォォォォォ!!!」
 剛拳。
 魔弾と化した拳撃が振り下ろされるバトルアックスの腹を殴る。
 避けるタイミングを逃したと、デュネイオリスはすぐに迎撃へと切り替えたのだ。
 そしてバトルアックスは、殴りつけた際見た目の通りの重量があると確認している。
 無手で戦うデュネイオリスはすぐに体勢を整え拳撃を放とうと前に出る。
「すぐに立て直せ――」
 だがすぐに回避行動へと切り替えた。
 バトルアックスの刃が眼前に迫っていたのだ。
「馬鹿なっ!?」
 強風。
 バトルアックスの刃がデュネイオリスの腕の肉を削り取る。
 まるで剣のようにバトルアックスを素早く操り上段から叩きつける。デュネイオリスは飛ぶように避けた。
「デュン!」
 アルティラスカが叫んだ。
 近寄ろうにもアンデットの騎士が邪魔をして迂闊に動けない。
「祠は眼の前だというのに……動きが鈍いという話じゃありませんでしたのっ?」
 突撃槍を前に突撃するアンデット騎士へ瑠縷はアサルトライフルを乱射する。
 だがアンデット騎士を包む頑強な鎧はそれを跳ねるだけで突撃を止められない。
(これは……魔法で強化されている?)
 着弾の際散る火花に魔法の力が見えた。
 しかしアサルトライフルを構えなおして再び銃弾をバラ巻く。今、理由を考えている暇はない。
 この二体のアンデットと戦い始めた当初は、二人のフォローをしつつ祠に向かおうとしていた。
 だが、戦斧のアンデットとアンデットの騎士の持つ予想以上の戦闘能力の前に逆に押されつつあった。
 アンデットの騎士が戦馬の腹を叩き突撃する。あの突撃槍ならば例え鋼鉄の鎧だろうと貫くだろう。
「邪魔を……凍てつく氷霧よ!」
 口早に呪文を唱えアルティラスカは氷の魔法を発動させた。
 大気中の水分が凍結し戦馬の脚先からアンデット騎士を氷結させる。
 それも一瞬。
「伏せろアティ!」
 まるで逆再生のように氷が消えてなくなる。
 この竜刻は記憶を再現する能力を持つ。つまり、凍りつくという異常から常体へと巻き戻したのだ。
 アンデット騎士の横から体当たりする。突撃槍がアルティラスカの頬をかすめた。
「大丈夫か?」
「……祝福と加護を。傷を癒してください」
 例を言おうとして止めた。回復の魔法が傷を負ったデュネイオリスの腕を再生する。
 戦斧のアンデットとアンデット騎士が並んだ。
 武器を構える。瑠縷は距離を取ってアサルトライフルを構えた。
「アティ、どう思う」
 デュネイオリスは庇う様に立つ。
「そうね。ここに来るまでに感じていたけれど、祠に近づく度魔力の濃度が上がってきていたの。あの二体のアンデットは、祠の傍にいたからか強力な力を感じるわ」
「成程な。強化されているという訳か。アンデットの身体も武具も洗練されているのはそれが理由かもしれないな」
 爆音。
 戦馬が地を蹴りアンデットの騎士が突撃する。
「ぬおおおっ!」
 側面に回ったデュネイオリスはタイミングを合わせ渾身の一撃を放つ。だがアンデットの騎士は戦馬の向きを変えると同時に突撃槍を横に払う。
 殴り倒されたデュネイオリスに戦斧のアンデットが襲いかかる。
「デュン!」
 アルティラスカが衝撃波を放つ。戦斧のアンデットは一瞬動きを止めたがすぐに体勢を整えた。瑠縷のアサルトライフルはダメージを与えられない。
 その時、瑠縷は二人から離れているので気付くことが出来た。
 本人曰く愉快痛快な花嫁勝負での直感。
 魔力が走る。瑠縷は身を伏せた。
「――キラッ☆」
 轟く爆音きらめく笑顔。
 トラベルギアにより崩壊の力を得た瑞貴の視線がアンデット騎士を消し飛ばした。
 崩れ落ちる骨と鎧。
 だが、竜刻の力により超速再生を始める。
「させない! ――青嵐!」
 扇の法術具を操り大風を起こす。
 鎧と身体の破片を飛ばされるアンデットの騎士、だが再生の力により上空で破片が形を成していく。
「今だッ!」
 瑞貴が祠に向かって駆ける。
「ぐおっ!?」
 バトルアックスがデュネイオリスを薙ぎ払う。
 戦斧のアンデットが瑞貴を追って疾走する。
「――赤焔ッ!」
 朱雀の描かれた扇から炎が走る。だが戦斧のアンデットは焼かれると同時に再生しバトルアックスの攻撃範囲に瑞貴を捉える。
 祠までの距離は後少しだ。
(間に合わない!?)
 バトルアックスが振り下ろされ割られる瞬間、銃声がアンデットの手首を貫いた。
 狙撃だ。
「冶五郎のいやらしさに比べれば、お前たちの再生能力などなんともないわ!」
 地面すれすれに走りこんだ主税が戦斧のアンデットの腕を掴む。
 鎧を掴み足を払った。
「ぬおおおりゃあああああ!」
 再生するのだから無駄に破壊する必要はない。
 勢いを利用して瑞貴の正反対に投げ飛ばした。
 瑞貴は祠の扉に手をかけた。
 扉のと開ける同時に地面に轟音が響く。再生の終えたアンデットの騎士が戦馬を走らせる。
 祠の中央に小箱は安置されていた。
 おそらくその中に竜刻はあるのだろう。
 小箱の蓋を開けるのと同時、風を切る音がした。
 投擲。
 騎士が放った突撃槍はさながら大砲。
 狭い祠の中だ。勢いの付いたそれはかわせるか。
「――ッ!」
 判断は一瞬。
 ギアの貝紅から赤色のそれを引っ張り出した聖骸布に塗りつける。
 この色は火の効果を持つ。
 竜刻から外した時点で、聖骸布への影響はそこで途切れていた。
 燃える聖骸布。
 同時に竜刻は力を流すの止めた。
 だが突撃槍は加速を止めない。
(……聖骸布をどうにかすれば良かった筈じゃ!?)
 覚悟を決めて眼をつむる。
 だが顔を叩いたのは砂――つぶてだった。
 それを風化した突撃槍と気付くまで多少の時間がかかった。
 辺りをみると風化した骨と僅かな破片を残すアンデットの残骸。
 竜刻の力は途切れたのだ。








「強敵であったな」
 自ら傷の処置をしているデュネイオリスが呟いた。
 原因となった聖骸布の焼失を確認した一同は、竜刻の回収や他にいるかもしれない外敵に備えるなど己々次の行動へ移っていた。
「竜刻……竜の遺骸の一部、か」
 先刻目にした竜刻は規模に応じて小さいものだった。
 聖骸布の影響もあったかもしれないが、たったあのサイズで今回のような効果を持っていた。もっと大きいものだとどれほどの効果を持つのだろうか。
「もし、我がいた世界でも似た性質があるとするのならば、残酷な歴史ばかりだったかもしれぬな」
「だが兵士にとっては理想郷なのかもしれないさ」
 ボーチが言う。
「兵士など戦場以外でしか居場所がない。有事には散々もてはやされ、平時には異常者扱いだ。だとすれば、この地を覆う永遠の争乱は戦士たちの望む姿かもしれぬ」
「お前の言も間違ってはないだろうが、そんなものは必要ない。……あの死者達も、これで少しは安らかに眠れると良いのだがな」
 死者を慰め、弔うための舞を踊るアルティラスカと瑞貴を見て瞑目。
 舞を終え、御神木へ触れるアルティラスカが気になってボーチは尋ねた。
「――いえ。何でもありませんわ」
 一瞬涙が見えたのは気の所為だろうか。
 ボーチは早く帰ろうと促す。
「………………」
 女神は御神木を見上げた。
 アルティラスカは御神木へと同調して、当時何があったのか調べていたのだ。
 帰還後、図書館への情報提供として調べていたのだが……
(戦争だから手段は選んでいられないのだろうけど、だけど、こういう事まで……)
 見えたのは、当時の戦争という光景。
 この依頼と関係する点はどれだったのだろうか。
 そもそも司書へ話すべきか。
「……もう誰も、何かに縛られることがないように」
 そう祈り背を向ける。








 どこかで空を走るロストレイルを、古い武具に身を包んだ一団が安らかな表情で見守っていた。






クリエイターコメント このたびはβシナリオへご参加いただき、ありがとうございました。
どうだったでしょうか? 皆さんのキャラ設定から色々想像してみたのですが、文句がくるかもと実はびくびくしたりしています。
それでは、また次のシナリオで。

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螺旋特急ロストレイル

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