オープニング


「モフトピアって知ってるよね?」
 世界司書であるエミリエ・ミイがにっこり笑う。
 モフトピア――現在、世界図書館が『駅』を設置している最上層の世界だ。いくつもの浮遊島と雲がただよう空の世界。そこにはアニモフと呼ばれる、ぬいぐるみに似た生き物たちが生息しており、日々楽しく暮らしているという。
「あのね、モフトピアにはたーくさん浮遊島があるんだけど、そのなかにね、リスによく似たアニモフたちが住む島があるんだよ。もっふもふのながい尻尾がはえてるの」
 エミリエの話によると、その壱番世界のリスに似たアニモフ――リスモフというらしい――たちは毛色によって二種類にわかれているらしい。ピンク色の毛並みの者たちとオレンジ色の毛並みの者たちだ。ピンクリスモフもオレンジリスモフも特にわけへだてなく仲良く暮らしているのだが、あるイベントのときだけは二手にわかれて優劣を競うのだとか。
「年に一度だけ、みんなで集まってスポーツ大会みたいなことをやるんだって。そこでピンクチームとオレンジチームにわかれて試合をするのがその島の伝統みたいなんだよね。えっとねぇ、知ってる人もいるかもしれないけど、それがね壱番世界のドッジボールみたいなスポーツなんだよ」
 ドッジボール。長方形のコートをふたつにわけ、それぞれに内野と外野を配置して、ボールを当てあう競技だ。ただし、リスモフの場合、投げるボールは両手で持てるサイズの木の実らしい。この木の実が不思議な木の実で、綿毛のような見た目とさわり心地をしているのに、投げればまっすぐ飛び、当たっても痛くないらしい。
 そこでエミリエが、ふふふと笑った。
「このイベントってもうずっとつづいているのに、まだ一度も決着がついたことがないんだって。だって、やってるうちにだんだん楽しくなってきちゃって、勝ち負けなんて、みんなどうでもよくなっちゃうんだよ。おかしいよね」
 もともと闘争心や敵愾心などがうすいアニモフたちだ。そういうものなのだろう。
「いまね、現地調査ってことで、このリスモフの浮遊島に行く人たちをさがしてるの。現地調査っていっても、リスモフたちとふれあってくるってくらいの任務なんだけど。どう? みんなでリスモフたちの島に行ってイベントに参加してみない? きっと楽しいよ!」

管理番号 b36
担当ライター 西向く侍
ライターコメント ロストレイルでははじめまして、西向く侍と申します。

今回はアニモフたちとのドッジボールのお誘いに参りました。
ドッジボールのルールはおおよそみなさんがご存知のとおりですが、もしかしたらアニモフ特有のルールがあるかもしれません。それは、現地に着いてからのお楽しみということで。
ピンクチームやオレンジチームに入り、この伝統行事に初の決着をつけ、リスモフの歴史に名を刻むもよし。観客や応援団として、アニモフとふれあいながら、試合のゆくえを見守るもよし。ご自由にお楽しみください。

なお、本シナリオのテーマはギャグであり、どれだけ真剣にプレイングを書かれても、とうていシリアスな内容にはなりませんので、あらかじめご了承のうえご参加ください。

参加者一覧
リオネル(cnhv9208)
レモン・デ・ルーツ(cuac4292)
伝馬 清助(cdww6956)
ゲーヴィッツ(cttc1260)

ノベル


 モフトピア――いくつもの浮遊島がただよう美しい世界。
 それぞれの島には、姿形のちがう様々なアニモフたちが楽しくくらしている。ここ、リスモフたちが住む島もそのひとつだ。
 リスモフというのは、壱番世界でいうところのリスに似たアニモフで、ふわふわの長いしっぽをもっているのが特徴だ。大きなぐりぐりの瞳に、小さな前歯がかわいらしい。
「へぇ、こいつらがアニモフねぇ」
 興味津々の視線をなげかけているのは竜族のリオネルだ。
 彼はツーリストであったが、自らの出身世界以外の世界を訪れた経験がこれまでなかったので、すべてが珍しくてたまらないのだ。当然ながらアニモフを目にするのも初めてだった。
「なんか、こういうの、俺の住んでた世界にもいたなぁ」
 そう言って、リスモフのほっぺをつんつんしようとする。
「この子たち、リオネルのこと、こわがってる」
 同じくツーリストのゲーヴィッツが、横合いからぬぅっと顔を出した。
 確かに、アニモフたちの身の丈は低く、比較的長身のリオネルは、彼らを見下ろすかたちになっており、リスモフたちは首をすくめていたが……
「って、むしろ、おまえの方がでかくて怖がられてるだろ?!」
 リオネルのツッコミももっともで、ゲーヴィッツはフロストジャイアントであり、その身長は優に二メートルをこえていた。
 ゲーヴィッツはしばらく考えこむ顔になり、「あ、そうか。なるほどな」と高らかに笑い始めた。その声の大きいこと大きいこと。リスモフたちをはじめ、リオネルも顔をしかめて耳をふさいだほどだ。
「おい! ほんっきで、リスモフたちに敬遠されちまうぞ!」
 リオネルの忠告は巨人の耳には届かないようで笑い続けている。
 ところが、
「どうやらそうでもねぇようですぜ、リオネルの旦那」
 伝馬清助(でんま せいすけ)が少し困った顔で苦笑した。
「はぁ? ――って、こいつら笑ってるし!」
 やたらに笑い声が大きいと思えば、いつのまにやらリスモフたちも笑い出していたのだ。どうやらゲーヴィッツの大笑を聞いているうちに自分たちも楽しくなってきたらしい。中には腹をかかえて地面を転がりまわっている者までいる。
「なんだなんだ?! 心配した俺のほうがアホだったってことか?」
 脱力するリオネル。
「……アニモフってぇのはそういう生き物ってことでございやしょう」
 その落ちた肩に、清助がぽんと手をおいた。
 そこに、今回のリスモフ島探検メンバー最後のいっぴ――いやいや、一人が熱く登場した。
「あんたたち! 笑ってる場合じゃないでしょ!」
 兎だ。どこからどう見ても二足歩行の兎だ。兎がバスケットボールのユニフォームっぽいものを着て、リスモフたちをずびしぃっと指さしている。
「今日は大事な試合の日なんでしょ?! どっじぼーるっての? なんかよくわかってないけど、今まで一度も決着がついたことないらしいじゃない! いつまでも決着がつかないなんて、それでいいの? あたしが、ビシバシひっぱってってあげるわ! さぁ、あの光に向かって!!」
 …………
 しん、と。
 静寂が訪れた。
 リスモフたちがささっと二手にわかれる。ピンクの毛並みの者たちと、オレンジの毛並みの者たちだ。みんな無言で、地面にラインを引いたり、ボールとなる木の実の準備をしたりしている。
「え? ちょ、なに? さっきまで笑ってたのに、なんなのよ、その反応はっ!」
 清助もまた無言で着物の裾をタスキでしばったりなんかしており、リオネルも屈伸や柔軟体操など準備に余念がない。
「あ、あんたたちまでガン無視っ?!」
 最後の希望をこめて、兎――いやいや、レモン・デ・ルーツは心優しきフロストジャイアントをふり仰いだ。
 彼はちいさな兎を見下ろし、目と目が合った瞬間、穏やかに微笑んだ。
 口のはしっこをわずかにつりあげて……
「いいいぃいぃぃぃぃやあああぁああぁあぁぁぁあぁっ! そんなかすかな憐れみの表情はやめてぇえぇぇえぇえぇ~~~」
 こうして、ピンクリスモフとオレンジリスモフの伝統の一戦が、今年も幕を開けた。



「よっしゃ! 俺はこっちのチームに入るぜ」
 リオネルがさっそくピンクチームの陣地に入る。
 基本的に楽しいことは大好きだ。このドッジボールにもかなり乗り気な彼だ。
「ええっと、たしかあっちの陣地にボールを投げればいいんだよな」
 あらかじめ世界司書のエミリエ・ミイに聞いておいたドッジボールのルールを思い出す。
「ほほほほ。あなた、ドッジボールをよく知らないのね」
 レモンだ。彼女もピンクチームに入ることにしたらしい。
「そういうおまえはやったことあるのかよ?」
 きらーん。レモンの両目が妖しい光を放つ。
「ばっち恋よ!」
 そう言ってユニフォームのポケットから取り出したのは『壱番世界ガイドブック』と題された分厚い本だった。
「おいおい、そんな本どこで?」
「ターミナルに決まってるでしょ」
 ウィンクする兎に不安を隠しきれない竜族の男。なにせタイトルがすでにガイドブックだ。スポーツ書ですらない。
「それ、ドッジボールについてちゃんと載ってんのか?」
「あたりまえでしょ。ええっとねぇ、ほらほら、ここ読んでよ。必殺技は炎のショット――ね? 書いてあるでしょ?」
「は? 必殺技とかあんのかよ?! ダンペー? ダンペーっていったい誰だ?! なんかちょっとちがう気が……」
 ピンクチームの陣内で顔を寄せあい、ちょっぴり怪しい『壱番世界ガイドブック』を読む二人に対し、清助はオレンジチーム陣内で気合いをいれていた。
「橙色リスモフのみなさん、気合いいれていきやしょう!」
 ねじり鉢巻をしめつつ拳をつきあげる。リスモフたちもノリノリで、「おー!」と応じた。
 彼は壱番世界でいうところの江戸時代に似た世界からやってきた。いわばちゃきちゃきの江戸っ子だ。江戸っ子らしく勝ち負けには妙にこだわるタチだったので、きっちりかっちり勝敗を決め、あわよくばリスモフの歴史に名を刻んでやろうと燃えていたのだ。
「リオネルの旦那とレモン嬢ちゃんは、いってぇなにを話してやがんだ? はっ?! もしや、ああやってこっちに圧力をかけてやがるのか?! よっしゃ、こっちも負けちゃいられねぇ! 橙色リスモフのみなさん、こっちも策を練りやしょう!」
 清助のまわりにオレンジリスモフたちが集まる。円陣を組んで顔をつきあわせた。
 神妙な面持ちで沈黙するチームメンバーたち。
「………………で、どなたさんか、まずはドッジボールとやらのやり方を教えてもらいてぇんですが――」
 オレンジチームの作戦会議は、スタートするはるか以前の状態だった……
 いっぽう、ゲーヴィッツはというと、自分がコートに入ると狭苦しいだろうと観客席にまわっていた。
 もともとドッジボールがなんなのかもわからないし、モフトピアがどんなところかもわからないまま、なんとはなしに楽しそうだという理由だけでやってきたのだ。勝負にはあまり興味がない。
 ただアニモフたちとは気が合うようで、彼のまわりでは何人ものリスモフがはしゃぎまわっている。
 そのうちの一人が、不思議な茶色い木の実の皮をむき、そこにストローのようなものをさして中身を吸っていた。果汁を飲んでいるのだろう。
「それ、ちょっと貸してみなー」
 ゲーヴィッツは木の実を受けとると、ふぅっと息を吹きかけた。フロストジャイアントの吐息には物を冷やす効果がある。木の実の果汁はきんきんに冷えていた。
 喜んで踊り出すリスモフ。ゲーヴィッツの前には、さささっと木の実をもったリスモフたちの行列ができた。みな、おおきな瞳を期待に輝かせている。
「んー これはさすがに大変だなー」
 ぽんと一回手を叩くと、ゲーヴィッツは並んでいるリスモフから次々と木の実をあずかっていき、かたっぱしから自分の体にはりつけた。そこにいるだけで冷気をまき散らすのがフロストジャイアントだ。全身から発散される冷気ですべて冷やしてしまおうという魂胆だ。
「勝負がつくころには、良いあんばいに冷えてるぞー」
 そこでふと首をかしげる。このスポーツ大会は長年ずっと決着がついていないのだ。勝負がつくことがあるのだろうか、と疑問に思ったのだった。



 ついに試合開始のときがきた。
 審判らしきアニモフが木の枝を削ってつくった笛を吹き鳴らす。
「うわ、始まったぜ!」
「まだ必殺技の出し方とか読んでないわよ!」
 リオネルとレモンがわたわたと身構えて――
 ぴたりと動きを止めた。
 止めざるをえなかった。
 どうにも相手チームの様子がおかしい。
 試合が始まったというのに、全員が車座になり、なにやら真剣に話しているのだ。
「うんうん、わかるぜ、わかる。おめぇの気持ちはよっくわかる。だがな、そのおとっつぁんも、同じようにつれぇんだぜ。ん? なんでぇ? あ、あ、あっしは泣いてなんかねぇ! こ、これは、心の汗ってやつでさぁ!」
 ドッジボールのルール説明からどこでどう話がこんがらがったのか、清助は鼻水をすすりながら号泣していた。
「……ええっと、レモン。もう投げてもいいんだよな?」
「……うん、殺っちゃおう」
 ぐっと親指を突き立てるレモン。リオネルもふっきれたようで、ふわふわの木の実ボールを力いっぱい投げつけた。
「のわっ! あぶねぇ! いってぇだれだ、いきなりこんなもん投げつけやがったのは!!」
 とっさにボールをさけつつ、当初の目的をすっかり忘れて怒鳴る清助。
「ん?」
 はっと気づいたときには遅かった。外野にまわったボールが背後からとんできて、清助の背中につきささった。
「ぬああっ! あっしはドッジボールの最中だったぁ!」
 ピンクチームと観客たちがわきたち、清助は「すまねぇ」とすごすごと外野にまわる。
 その後、試合は一進一退の展開を見せた。
 リオネルもレモンも清助も、このスポーツ大会が長年決着を迎えられない理由をまざまざと見せつけられ、納得しつつも、冷や汗を流した。
 もともとそれほど身体能力が高くないらしく、リスモフの投げるボールはとても遅い。レモンなどは「あんたたち、当てる気あるの!」とウサ耳を逆立てたが、どうにも本人たちからすれば本気らしい。で、相手チームもとてとてと逃げまわっては間に合わず、それに当たってしまうのだ。そういう意味では、彼らの力はまったくの五分だった。
 それでも試合には流れというものがあり、どちらかが優勢になることも当然あった。しかし、そこでアニモフの本能とでもいうべき、楽しければそれでよしの精神がひょっこり顔を出す。ウケ狙いでわざとお尻からボールに当たりにいく者がいたり、投げたボールが頭上にまいあがり落ちてきたところで自分に当たるなど、珍プレーが続出して試合が振り出しに戻るのだ。
 そうなってくると、あとはゲストプレイヤーの技量によって決着がつきそうなものだが……
「リオネルの旦那! 今度こそ覚悟してもらいやすぜ!」
 清助が外野からリオネルにボールを投げる。
「まだまだあめぇ!」
 リオネルは剛速球を真正面からうけとめ、なぜか外野の清助に投げかえす。
 二人はこの不毛な一騎打ちを暇さえあれば何度もくりかえしていた。
 二人ともドッジボールのルールをよく理解せずにこの行為を行っているわけではない。清助は清助で「弱ぇ奴をたおして内野に戻るなんざ、江戸っ子のするこっちゃねぇ!」と啖呵を切ってリオネルばかりを狙っていたし、リオネルはリオネルで相手の陣地にボールを投げられない理由ももっていた。
 リスモフを標的にすると、投げる寸前にどうしてもためらってしまうのだ。
 リスモフがおびえた様子になるからではない。むしろ自分が狙われているとわかると、楽しそうに大きな瞳を輝かせるのだ。
「ダメだ……あんな良い笑顔のかわい子ちゃんたちに攻撃なんてできねぇ」
 リオネルは地面に膝をつき、自らの敗北を認めた。
 残るはレモンだったが、そこは『壱番世界ガイドブック』がきっちり効果を発揮しており、炎のショットをはじめ、サーブ、レシーブ、トス、スパイク、ワンツーワンツーアタック、オーバーヘッドキック、ドライブシュート、果てはスリーポイントシュートまでとびだし、「先生、ドッジがしたいです」と意味不明の台詞をつぶやく始末。まるで役に立っていなかった。
 まぁ、すっかり勝負を忘れて楽しそうではあったが。



 こうして、今年のリスモフスポーツ大会もなかなか区切りがつかず、ピンクチーム、オレンジチームともに疲労困憊の状態に陥ってしまった。一匹、また一匹とリスモフたちが地面に倒れ伏していく中、清助、リオネル、レモンの三人だけは最後まで闘っていたのだが、それも限界に近づいていた。
「て、てやんでぇ……こ、これしきのことで倒れちまったら、江戸っ子の名が――」
 清助の自慢の脚がもつれ、ごろんと転がる。
「ふふふ、ついにダウンね。これで、あたしの勝――」
 ぱたん。レモンも前のめりにころぶ。
 すでに観客たちも飽きちゃったタイムに突入しており、木登りや鬼ごっこで遊んだり、昼寝をしたり、真剣に試合を観戦しているリスモフはゼロに等しかった。
「お? 終わったのかー」
 ゲーヴィッツもいつのまにかアニモフたちと遊ぶことに夢中になり、途中から試合を気にしていなかったようだ。
「そろそろ冷えたぞー」
 などと言いながら、体中にはりつけておいた木の実をはがしては、遊び疲れたリスモフたちに配っていく。
「おいしそうだな」
 笑顔で果汁を飲む彼らを眺めながら、ひとつ自分でも飲んでみた。
「うん! これはうまい!」
 コートで荒い息をつくリスモフたちは、ピンクもオレンジも毛並みなど関係なく、みな一様に満足げな顔をしていた。やりきった……というよりは、遊びきったという至福の表情だ。
 こうして毎年、どちらが勝つことも、どちらが負けることもなく幕が下ろされてきたのだろう。
「すまねぇ、橙色リスモフさんたち。あっしがついていながら勝てなかった……ちっ、モフトピアの青空が目にしみるぜ」
 仰向けのまま詫びる清助の視界に、いくつものオレンジリスモフの顔がとびこんできた。チームメイトが彼のことを笑顔で覗き込んでいるのだ。
 オレンジリスモフたちは彼の体を支えてやり、立ち上がるのを助けてくれた。
「ありがてぇ。ありがてぇぜ」
 気がつくと、同じようにしてピンクリスモフに支えられたレモンがいた。
 二人は不意に視線をかわすと、コート中央のラインまで歩み寄り、どちらからとはなく手を差し出した。がっちりとかたい握手をする。
「あんた、なかなかやるわね」
「レモン嬢ちゃんこそ」
 結ばれた二人の手に、リスモフたちも手のひらを重ねていく。全員が笑顔だった。笑顔とはどの世界にも共通するものなのだろう。
 友情。
 まさしくそこにあるのは、光り輝く友情の二文字だ。
「おつかれさーん」
 ゲーヴィッツが冷たい木の実を、レモンや清助や選手たちに渡す。疲れた体には最高の差し入れだった。
「これ、おいしいぞ」
 巨人の満面の笑みに、すべてを出しきって闘いぬいた者たちは、誰から言い出したわけでもないのに、木の実を天高く掲げた。
「はーっはっは。モフトピアは最高――」
 この世界にきたときと同じように、ゲーヴィッツが高笑いをあげようとしたその瞬間、
「ホントに楽しかったよな、うん」
 声の主が一気に視線を集める。
 リオネルだ。一人だけものっそい元気いっぱいなリオネルだ。
「な、なんで、あんたそんなに……」
 レモンの驚愕に、さらりと答える。
「あ、俺って竜族だから。体力ハンパねぇんだ」
「あっ、そう……そうなんだ……へぇ……」
「このドッジボールってやつ、おもしろいからさ、もっとやろうぜ」
 これまたさらりととんでもないことを言い出す。
 清助、レモン、そしてさすがのリスモフたちも、この発言には青ざめるしかなかった。ゲーヴィッツだけは、素直に喜んでいたが。
「ちょ、それ、無理――」
「あー、大丈夫。俺、自分の体力を分け与えたりできるから。ほれ」
「え?!」
 リオネルの体から不可思議な光がたちのぼり、きらきらと星のかけらのように降り注ぐ。とたんに、清助もレモンもピンクリスモフもオレンジリスモフも敵味方関係なく、観客たちもゲーヴィッツまでもが、自分たちの全身に力がみなぎるのを感じた。
「力がっ! 力がわいてきやがるっ! こんしくちょう!」
「この体の奥底から吹き出してくる力の源はなんなのよ!」
 さっきまでの疲労の極地はどこへやら、清助は立ち上がり、レモンは飛び跳ねる。リスモフたちも瞳をきゅぴーんと光らせ、「ぬおおおおおおおおおおお!」などと雄叫びをあげはじめた。
「んじゃあ、試合再開な」
 リオネルが楽しそうにボールを放り投げる。
 ゲーヴィッツが思いのほか俊敏な動作でそれを受け止めた。
「今度は俺もやるぞー」
 こうして、今年のスポーツ大会は、史上初の延長戦へと突入したのだった。



 後日、ゲーヴィッツが記したメモによると、その後もリオネルの体力分配は三回以上つづき、最終的に試合が引き分けで終わったのは、モフトピア時間で真夜中のことだったようだ。
 彼のメモは正確を極め、無茶をしたレモンと清助が筋肉痛にのたうちまわる様子までもが克明に記されていたという。

クリエイターコメント 本シナリオにご参加くださったみなさん、おつかれさまでした。
そして、ありがとうございました。

思いのほか強烈なギャグにはなりませんでしたが、これに懲りず今後ともよろしくお願いいたします。

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螺旋特急ロストレイル

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