オープニング

 緑の世界樹の下。
 白い衣服を身につけた美しい青年「原初の園丁」シルウァヌス・ラーラージュとその周りに園丁たちが立っていた。
その一段下にドクタークランチ、ゴースト。更にその背後には元図書館側のロストナンバーたちも控えていた。
今回の任務について必ず参加義務があると命じられていたのだ。
 部品が存在する以上、ロストナンバーたちに拒否権はない。

 集合がかけられ、世界樹の前に通される前にこれみよがしにスイッチを弄ぶゴーストが
語った。
「今更、念を押すことはないと思うがお前たちの命は俺らが持ってる。……ってことになってるんだよなァ、けど、いいことを教えてやると、ナラゴニアでこっちにきたやつらは
爆弾を埋め込んでなかった……なぁんてどうする?」
 その場にいたロストナンバーたちはぎょっとした。
「ただし、裏切り防止のためにある細工をした。さあて、その細工はなぁんだ。ただ爆発して死ぬだけじゃツマラナイ。裏切りがわかった地点で狂戦士になって死ぬまで周りの奴
らを殺しまわったり、毒がまわって苦しみもだえたり、ああ、たとえば裏切った本人じゃなくて、別のやつが死んじまうとか。っても、これはたとえばの話だぜ? ふふ。本当は
どうなるか試してみるのもいいかもな。……こんなことをいうのは、そういう可能性のある任務だってことだって察しがいいならわかってると思うが……裏切り行為がばれないと
思わないことだ。お前らの部品には監視機能がついているから一発だぜ? うっけけけ」
 ゴーストは不吉な種をロストナンバーたちの心に撒いた。

「では、我々は世界図書館に全面戦争を仕掛ける。それについてお前たちの役割はわかっているな」
 静寂のなかにシルヴァヌスの声が朗々と響き、恐ろしい作戦を告げる。
「うっけけ、お任せあれ! じゃあ、オレサマ、ゴーストはアリッサの首を狙いましょう。混乱のなかならわりとあっさりと殺せるでしょう。リーダーを討てば負けを認めるしか
ないだろうし。ついでにクランチの作った爆弾を街のなかに仕掛ければ面白いでしょうし」
「では、私はそれらの用意とともに図書館への攻撃」
「クランチ君。君はもうひっこんでいてくれてかまわない」
 クランチの発言を遮った者がいた。――シルウァヌスの脇には不遜な表情の園丁であった。
年老いた樹の皮のようなしわの重なった体であったが頭頂に生えている花だけは真新しい。そして淀んだ眼光は鋭かった。
「私はブルバキ・モルダヴィア、お前たちには図書館を破壊していただく。くくっ、私が作ったノエル叢雲によって……!」


☆ ☆ ☆


 音がする。
 それは破壊を欲する者の哄笑か、助けを求める者の悲鳴か、はたまた……。

 彷徨える森と庭園の都市・ナラゴニアは一つに留まることは許されない、どこまでも漂い続ける運命にある。
 それを逆手にとって「原初の園丁」シルウァヌス・ラーラージュは、なんとナラゴニアでターミナルに攻め込んだ。
 黒と白のチェス盤のなかに建つ都市からは声が止まない。空中を飛び交う閃光。都市からあがる炎。
「まるで宴だな」
 桜色の髪の毛に白い騎士服の女――ゴーストは出発前のナレンシフ乗り場にある、大きく開かれた発車入り口から下を見てぽつりと漏らした。
「ふん、しかし、こんな行動に出るとは、ブルバキ・モルダヴィアといい、シルウァヌスも耄碌したもんだ……クランチもそうだが、そろそろ潮時かと思ったんだがなぁ」
 ゴーストは背後から近付いてくる気配に振り返った。
「おお、きたきた。さーて、お前たち、仕事はわかってるな?」
 ゴーストが見る先にいるのは、世界図書館からナラゴニアへと寝返った……ヒイラギ、東野楽園、グレイズ・トッド、世界樹旅団ではシエラと名乗っているディーナ・ティモネンの四人。
「わかっているわ。館長……アリッサの暗殺でしょう」
 楽園は両手に毒姫を抱いたまま物騒なことを呟く。細い手がそっと毒姫の頭を撫でた。
「そうしたら、ずっとあの人と一緒にいれるのね?」
「それはお前の頑張り次第だろう? ナラゴニアでは大口叩いて取り逃がしたものなぁ。今回もそうならないといいけど」
 ゴーストの嫌味に楽園の目が鋭い刃のように細められる。
「おー、こわいこわい~。うっけけ」
「無駄口叩いてるんじゃねぇよ。俺らの乗るやつはどれだ」
 グレイズの声にゴーストは手前のナレンシフを指差した。
「あれだよ。野良犬ちゃん。せっかちだと一人でイッちまうことになるぜ? ああ、お前らにこれを渡しておく」
 ゴーストが投げ寄こしたのは小さな黒い塊だった。受け取った四人は手の中におさまっるそれをしげしげと見つめた。
「これは?」
 ヒイラギが慎重に尋ねる。
「クランチの作った爆弾だ。これ一つで小さな建物なら一発で破壊できる。……お前らは俺とまずは図書館に移動する。そして、図書館についたらそれをどこでもいいからセットしつつアリッサを目指す。途中邪魔もはいるのは想定内。お前らには敵を殺すか、足止めをしてもらう。ここの誰でもいい、見つけ次第、アリッサを殺して、首をもってこい」
 にぃとゴーストは唇をつりあげる。
「とても簡単だろう? どうせクランチのやつやブルバキが暴れて警備は手薄になっているだろうし。爆弾はいいタイミングで爆発するように既にセットしているから、それは置くだけでいい。もし敵に爆弾が発見されても四つあればどれか一つくらいは爆発するだろう。爆発音もしくは俺が合図したらすみやかに建物から退避、そのあとナレンシフで一度、ナラゴニアに戻る。以上だ。お前たちの働きは期待しているよ。世話してやっている可愛いお前たちに相手にオレサマも出来ればこれは使いたくないしな」
 いつの間にか、ゴーストの手にはスイッチが握られていた。
「なぁ。欲しいものを手にしたいだろう。苦しいのはいやだろう、復讐したいだろう、……オレサマはクランチと違って優しいし、嘘はつかねぇ。ちゃんと達成すれば御褒美をやる。わかったならさっさとナレンシフに乗り込め」
 優しい声から甘く、最後は石のように冷たい声でゴーストは告げた。四人が顔を見合わせてナレンシフに歩きだそうと
「シエラ、お前は待て」
 ゴーストが呼ぶのにディーナ、シエラが足を止めてふりかえる。それに残りの三人が視線を向けるがゴーストは手を振って三人にはやくナレンシフに乗り込むように促した。
 ゴーストが自分が保護したシエラを特別に可愛がっていることは誰もが知っていることだ。
 二人きりになるとシエラが口を開いた。
「なに、ゴースト」
「お前はとうとう、俺との賭けに勝っちまったな。……クランチにはそこまで可愛がっているなら、シエラだけはどんな任務にも俺の一存で連れていっていいと言われていた。だが俺はそれをあえてせずに、選ばせた。お前が、裏切ればいいと思っていたけど、お前はここにいる。だから俺も、本当の意味で覚悟を決める」
 ゴーストがシエラの細い体を両腕で抱擁すると耳元に唇をあてて囁いた。
「いいか、よく聞け。誰も知らないことだがクランチが死んだら、【部品】は機能を完全に失う、スイッチも意味がなくなる。俺が今までクランチの能力の欠陥を隠蔽してきたが、今回は別の任務につくからどうなるかわからねぇ。もし異変を感じたらすぐに俺の名を叫んで、ナレンシフまで退避して一人でも逃げろ」
 ゴーストは抱擁をとくと額にキスを送った。
「お前は俺を選んだ。だから俺はもう試さない、裏切らない、離しはしない。……守ってやる。くくく、まさか、俺という存在を肯定する奴とこんな風に巡り合うとはな。だから世界ってのは面白く理不尽で愛しい。くそったれめ! さぁて、楽しく遊ぶか! 宴のはじまりだ! うっけけ!」

☆ ☆ ☆

 ターミナルは外部からの襲撃を想定して作ってはいないため、都市は容易く混乱に陥った。
 戦いに自信がある者たちは襲ってくるワーム、旅団との攻防戦を繰り広げる。
 そのなかで世界図書館はいちはやく無力なロストナンバーたちの避難所のひとつとなった。もともと、そこには非力な司書たちが複数存在し、緊急事態である今はここに匿われることとなった。
 しかし、最も目立つそこを狙わないものはない。
 いかに堅牢な城も陥落しなかったことはないのだから。
 それにいちはやく気がついたロストナンバーは胸騒ぎを覚えて駆けだした。
 無力な司書たちを守ること、それにアリッサは無事だろうか? と。


ご案内

!注意!
こちらは下記のみなさんが遭遇したパーソナルイベントです。フリーシナリオとして行われます。

●パーソナルイベントとは?
シナリオやイベント掲示板内で、「特定の条件にかなった場合」、そのキャラクターおよび周辺に発生することがある特別な状況です。パーソナルイベント下での行動が、新たな展開のきっかけになるかもしれません。もちろん、誰にも知られることなく、ひっそりと日常や他の冒険に埋もれてゆくことも……。
※このパーソナルイベントの参加者
・ヘータ(chxm4071)
・アマリリス・リーゼンブルグ(cbfm8372)
・三日月 灰人(cata9804)
・ヌマブチ(cwem1401)
※このパーソナルイベントの発生条件
パーソナルイベント『緊急招集』で「図書館の破壊」を選んだ場合

このイベントはフリーシナリオとして行います。このOPは上記参加者の方にのみ、おしらせしています。

このパーソナルイベントは、冒険旅行にてリリースされたシナリオ『【進撃のナラゴニア】 強襲! ノエル叢雲』と連動しています。みなさんは、いわばこのシナリオに「世界樹旅団側として参加する」ことになります。 みなさんのプレイング内容は同シナリオに反映されますので、このパーソナルイベントの結果は、同シナリオのノベル公開をもってお知らせします。(状況によっては別のパーソナルイベントが発生しますので、合わせてご承知置き下さい。)

なお、期限までにプレイングがなかった場合、「自分の生命を守ることを優先的に、状況に応じてできる限りの行動をした」ものとします。

→フリーシナリオとは?
フリーシナリオはイベント時などに募集される特別なシナリオです。無料で参加できますが、登場できるかどうかはプレイングの内容次第です。

■参加方法
プレイング受付は終了しました。

結果

結果は、シナリオ『【進撃のナラゴニア】 強襲! ノエル叢雲』のノベルにてご確認下さい。

→→→【進撃のナラゴニア】 強襲! ノエル叢雲


ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン