「…それは、ハリウッドではないのかね」「ちょっと違うみたいだよ。近い場所にあるらしいけれど、ほら」 異世界コンシェルジュの企画を練っていたヘンリーがにこやかに地図を指差す。「……ほりーうっど……」 ロバートが思わずひらがな発音(?)になってしまったのも宜なるかな、あからさまに怪しげな街の名前ではある。「街がまるまる映画セットとして作られていて、あちらこちらで撮影が行われているみたいだね」 『ホリーウッドへようこそ!』と題されたパンフレットを開きながら、ヘンリーは楽しげに続ける。「各国で作られている二流三流映画スタッフ達が、いつか超一流にのしあがる夢を見て奮闘する街、とあるよ」「……微妙な気分がしないでもないが」 ロバートこそは、その『超一流』を知り尽くしている男だ。パンフレットでにこやかに手を振ったり肩を組み合っている男女に、うさんくさげな顔を隠そうとしない。「情報を知らせてくれたのはミルカ・アハティアラさんだ。スタジオ見学、映画関係のグッズやお土産購入、それにいろいろなセットを見て歩くだけでも楽しいかも、と」「現在撮影中の映画の一例…『ラズーン』『桜の護王』………全く聞いたこともないタイトルばかりだな」「『ストック・ウォーズ』『首輪物語』『炊いた肉』……聞いたことがあるようなないような」 眉をしかめるロバートに、ヘンリーはくすくす笑う。「需要があると思うか?」 眉を寄せて企画書を取り上げたロバートに、ヘンリーはウィンクする。「時にはどうでもいい時間を過ごすことも大切だよ」 そこは巨大な倉庫だった。 遥か彼方まで聳え立つ棚と梱包された荷物。次々運び込まれるコンテナ。走り回っていた作業服の男達が、突然開いた扉に硬直して振り返る。「来た……来たぞ!」「帝国屋だ!」「帝国の打須軍だ!」 ざっざっざっざっ。足並みを揃えた四列縦隊が、胸ポケットに『帝国屋』と書かれた黒いジャケットを翻して先頭を歩いてくる男に率いられてくる。「出迎え、御苦労」 打須は黒い帽子の庇を上げた。うっそりとした目で警戒する周囲を見渡し、くい、と顎をしゃくる。「このあたり一帯、もらおうか」「っっっっ!」 周囲に衝撃が走った。帝国屋は何でも売る。売りつくす。売りつくして空になる前に、次の商品を卸問屋からかっさらう。帝国屋がやってきた後は焼け野原だ。まともな商品は残らない。弱小小売店にとっては一種の災害だ。「伝令、走れっ」「はっ」 係長が低く命じた。本部へ直行だ、至急増援を求めなくては。 品物が、なくなる。「動くなっ!」「っ!」 怒号が響き渡った。打須がにやりと凄みのある笑いを浮かべる。「喰い尽くされるまで、大人しくしていろ」「いいから走れっっ!」「はいっっ!」「ちいいっっ!」 伝令役のアルバイトの一人が飛んで来たファイルに倒された。別の一人が隙を見て走る。「素早い。逃げられました!」「構わん」 打須は竦む係長に笑みかける。「物資が届く頃には、全て終わっている」「絶好調だな」「絶好調ですね、打須さん」 エイ監督と助監督は腕組みをしつつ、撮影風景を眺める。「この分だと、エキストラ、足りなくなるな」「足りなくなりますね。めちゃくちゃ走らされますから」「……かき集めろ」「…………残ってますかね」「……………かき集めろっ」 足腰丈夫で、どれだけの荷物を抱えて走ってもへたらない奴を集めろ。でなければ、次々運び込まれる物資、次々運び出される物資というスリル感、『ストック・ウォーズ』の見せ場が断ち切られる。「このままじゃ、打須に映画が殺(と)られる」 ぼそりと唸ったエイ監督の背後で助監督が悲痛な顔で走り出す。「でええいいっ!」「カットカットカット!」 大きく振り回した剣が、見事なほどに空振りするのに慌てて助監督が声を張り上げる。「リンダ、そこ駄目だって!」「あ、ごめんなさあいっ」 ぺろっと舌を出して立ち止まった少女は、囲むむさ苦しい男達の中でてへ、とウィンクした。「リンダ、この剣重くってえ」「いやそれ十分軽いから。じゃなくて! あのね、ユーノは剣の天才なの! カザドに囲まれて、そんなにふらふら剣を振り回してちゃ駄目だから!」「いいかげんにしてくんないかな」 リンダの後ろに庇われていたプラチナブロンドの少年がぼそりと唸る。「アイドル映画ってこれだからつまんねえし」「シュルツ君っ、君もね、もうちょっと怯えようよ、レスファートは繊細な少年なんだし!」「ありえねー。監督、俺休憩」「あ、じゃあたしもちょっとおトイレに」「シュルツ君っ、どこ行くのおいっ、リンダっ、おトイレって五分前に行かなかったっ? うわああ無理無理このままじゃ絶対『ラズーン』一ヶ月後に上がんねえから!」 悲鳴を上げる助監督の前で諦めた二人のキャストがばらばらに離れていく。「やめろっ、それに手を伸ばすなっ!」 壱番世界ヨーロッパの下町風の風景の中、男二人が言い争っている。「でも…」「それは確かに無限の力を与えてくれるように思うかもしれないっ!」 ためらう男を、もう一人が叱咤する。「けれど、それはまやかしだ!」 二人の男の前には、石造りの古風な店、重そうな木の扉が半開きになっており、その隣のショーウィンドウには豪奢な布に包まれるように高々と掲げられた、金色の首輪がある。「あれを手にしてみたいんだ、ザム」「知ってるだろう! ブロード!」 ゆらりとそちらへ歩こうとする男に、ザムは必死の声を張り上げる。「あれは魔性だ! お前を喰い尽くし、力を与えるかわりに悪の道へお前を誘い込むんだぞ!」「けれど、俺は…」 あの始末をつけなければならない。 ザムを振り払って飛び込んだブロードは、やがて輝く黄金の首輪を手にして戻ってくる。「……仕方ない」 ザムは悲壮な顔で呟いた。「一緒に行こう……一緒に行って、お前が『真ん中国』(娼館)のザウリーンに渡せるよう、見守ってやるよ」「監督!また抗議の電話です!」「……ああ」 ザム役に負けず劣らず悲壮な顔をした助監督に、ビイ監督は胡乱な顔を向ける。「わかってる、もう十分聞いたぞ、聞き飽きたぞ。冒涜だって言うんだろう。真実の素晴しい物語を汚してるって。お前の脳味噌は腐ってるって。お前の××なんか××されちまえとか言うんだろう」「違いますが、内容はほぼ同じです!」「何だよ、今度は?」 撮り始めたことが知れ渡るや否や『首輪物語』のHPは炎上しっ放しだ。「お前のそれは腐れ切った自分の誇大妄想の具現化に過ぎず、お前の××は絶対××してて、××できなくて、××しまくってるから、××なことに××××だって」「……それ、内容ほぼ全面伏せ字だよな?」 でもやめられないんだよスポンサーは乗り気なんだよ何が何でも完成させろって言うんだよ業界干されていいなら止めろって言うんだけど今でも十分干されてるよな俺? 俯いてぶつぶつ言い出した監督を見ていた助監督にもう一報届く。「監督、大変です!」「今度は何が」「『真ん中国』の娼妓役が全部逃げました!」「……おい」「誰も残ってません!」「……一人もか」「ガイスだけが」「………終わった」 監督はがっくりと項垂れる。 『真ん中国』は男娼窟だ。女装ができる役者、汚れ役ができる役者を集めていた。でもって、取り仕切り役のガイスは巨漢だ。はっきりいって女装ではなく怪獣ごっこの領域に達している。「…誰か捕まえてこい」「無理です!」「捕まえてこぉおおいい!」 監督は天に向かって吠える。「でなけりゃ、スタッフ全員娼妓役にしてやるっ!」「ひえええっっ!」 男同士のがっつり絡み場面なんて、誰が急にやりたがるのか。 助監督は泣き泣き走り出す。「…姫さん、俺は」「護王…」「カットカットカット!」 叫ぶ監督はもう顔が青白い。「ごめん悪かった無謀なことを言ってるのはわかってる、けど頼むそこは洋子が護王を押し倒すんじゃないから!」「え、でもぉ」 唇を尖らせる護王役のりりこ。「おれ、押し倒されるんすか」 困惑して逞しい二の腕を掻く洋子役の陵。「わかってる本当にわかってる無理だよね配役、愛したいアイドルベスト3位のりりこちゃんと押し倒されたい男13位の陵君じゃ男女逆で全くおかしい、それ十分わかってるけど、お金出してるの俺じゃないからスポンサーだからお客だから、くれって言われてるもの作るしかないの、そこんとこわかってほしい」「でも監督、私が陵君押し倒すと動物園のカバに乗っかった状態になるけど」「俺がりりこちゃんに押し倒されるって、どう考えてもそれは●○位一歩手前っつーか」「わああああああああ駄目そういうコメントはなし純愛なんだから清純派なんだから黙って沈黙してスルーして」「それに私陵君可愛いと思えなくて」「俺りりこちゃんに守ってもらおうって無理かなって」「わかってるわかってるわかってる人物造形もう理解してなくていいから形だけでいいから目隠ししてやってもいいから」「「じゃあ、私の(俺の)意味ないじゃない(っすよ!)」」 同時に叫んだ二人がお互いを見やる。「「気が合うな」」「じゃあそういうところで再開しよっかー!」 監督は満面笑顔になる。「こんなん、あかんわ!」 ぶち切れたローズがテーブルの上のものをひっくり返す。「こんなにお肉固うしてしもて! こんなん料理やあらへん! 馬の餌や!」「ええ加減にせえっ!」 壱番世界、日本の下町の小さな食堂『クマのポーラ』で、ジャックは頭に鉢巻きを巻いたまま詰り返す。「きっちりしみこんだ味がわからへんのか、お前の舌は! そんなことやし、客あしらいかて覚えられへんのや、この極道もん!」「よう言うたな! そういうあんたかて、こないだ来た客に色目使てたん知ってるで、ええ加減にしときや!」「あほ抜かすな! あれが色目やったらお前の眼かて色目やろが!」「うちの眼が青いのは産まれつきやほっといて!」「いい調子だな」「いい感じですね」 頷く助監督にシイ監督が引き攣り笑いを返す。「けれどぼつぼつ来るぞ」「来ますかね」「さっきから二時間たってる。店に注文は出したのか」「それが今ちょうどたて込んでるとかで、ピザもドーナッツも売り切れてて」「おい…冗談じゃないぞ、あいつらは」 監督が顔を強張らせて助監督を振り返った矢先、「……監督」 勢いよくひっくり返したテーブルを挟んでやりとりしていた二人がぴたりと止まる。「お腹が空きました」 ぐうううう。ローズの腹から鳴り響く音。「僕もです」 ぐうううううううう。なお大きい音がジャックの腹からも響き渡る。「ほら来た」「来ましたね」「いい役者なんだよ」「そうですね」「大喰らいでさえなけりゃ」「……予算、もう使い切りましたよ」「……わかってる」 こうなりゃ、自前で補うしかないか。 覚悟を決めた監督は助監督に何とか宥めておけ、と言い捨てて歩み始める。 とんでもなくいい役者なのだが、二時間おきに大量の食物を消費しなくては倒れるというあたり、何とかならないのだろうか。「ここはホリーウッドだ」 きっと料理を作れる奴が何人かいるはずだ。料理が大量に作れてしかも腕がいいやつも、きっとどこかにいるはずだ。「か、監督〜〜!」「腕一本ぐらい喰わせとけ!」 背後にゾンビにしがみつかれたような悲鳴をあげる助監督を置き去って、走り出す。 ようこそ。 ここは『夢の街』ホリーウッド。 毎日どこかで様々な映画が撮られ、役者達が行き交い、悲喜劇のパレードを繰り返してる。 端役でも映画に出てみたい? キャスト達と握手したり写真を撮ったりしてみたい? 監督達の苦労話を聞いてみたい? 裏方こそ映画の真髄、表現の限界へのチャレンジャー達を見てみたい? 残念ながらCG関係は別の場所です、あしからず。 けれど、ひょっとすると。 あなたの夢が描かれているかも知れない。=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
「監督!ガイスが家に帰っちまいました!」 「ああ、だろうな」 ビイ監督はのろのろと振り返る。 アラビアンナイトに出てくる踊り子のように体を透かせた薄絹と重そうな金銀の装飾具、イルファーンと名乗った男が流し目で微笑めば、エキストラが我も我もと参加する。 「ヴォロスのバザールで買った特別な香だ。リラックス効果があるらしい」 雰囲気づくりにはまあいいかと同意したのもまずかったかもしれない、「そういう薬」に慣れっこになっている連中が堕ちた。 「僕には最愛の妻がいる。でも困っている人を放っておけない」 甘い声で囁き、薄絹を翻して踊れば、見え隠れする素肌に周囲が生唾を呑む。 「大丈夫、怖くない。僕に身を委ねて……」 「や、やめてくれ、そこ弱……あっ」 同じような薄絹に包まれた細い体をくねらせて、ヴァージニア・劉が呻いた。はだけた胸には妖しい蜘蛛のタトゥ、ブロードが顔を摺り寄せるように近づく。 「もっとこっちへ来て、ここに触れてあげて」「あ、ああ」「う、ぁ」 掠れた声をあげて仰け反った首筋、認めよう、首輪がもの凄く似合いそうだ。ブロードもそう思ったのだろう、握りしめた首輪にちらりと目をやって導かれた肌へと手を這わせる。劉と言ったか、「しょうがねえだろ、居候に首輪が欲しいってねだられて……家賃払えねーなら代わりに……」とどんよりした顔で唸った時はどうかと思ったが、鳥肌を青ざめながらもびくびく過剰反応するあたり、なかなか。ザウリーン役はとっくにいないから、とりあえずあいつでいいか、頷いたとたん、深紅のチャイナ・ドレスで厚化粧したチャンがブロードにとびかかった。 「前立腺マッサージも得意ある! 黄金の首輪はチャンのモノある!」 さっきから中国四千年の神秘を秘めた性感マッサージと称して周囲を触りまくっていた。 「チャン、ノーマルよ! でもこの際性別は選ばないね、金の亡者よ!」 チャンが休憩時間に進め回っていた飲み物を飲んだ後、撮影現場の雰囲気がますます常軌を逸してきた気がする。 「ひいいっ」 チャンがブロードを押し倒し、握った首輪に手を伸ばしつつ、体をごそごそと摺り寄せていく。限界だったのだろう、劉がついにベッドから逃げ出す。 「いや、あの、俺はっ!」「体は正直あるよ、心も正直になるよろし!」 「ブロードはノーマルだったよなあ」「新婚ほやほやですからねえ」 ビイ監督は薄笑いする。 「今俺はとんでもないものを撮ってるよなあ」「ノーマル同士が必要に迫られてというか金のためというか、とにかく利害の一致でやりたくもない行為にいそしもうとしてる光景ですねえ」 助監督ももう頭が飽和量を超えているのだろう、のんびりと応じる。いや、二人ともむせ返るような甘い香りに朦朧としてきているのか。 「あまり無体なことをされてはいけません」 ブロードがとんでもない事態にいたろうとする寸前、青白い肌のドアマンが静かに割って入った。結構な社会的地位を持つ男性が、よんどころない事情で男娼窟に身を沈めた的な容貌。女装というよりは、端麗な容姿に胸元を軽くはだけたスーツ、地味なピアスが耳元を飾り、静かに返す視線が麗しい。そう言えば、アドリブ自由の指示にまずはお二人のご苦労をと、ザムとブロードの足を洗い、酒と料理でもてなすシナリオを選択したのは、彼だけだった。 「き、みは」「ザウリーンと申します」 にっこり笑って、ドアマンはブロードにすがりつかれ、輝く首輪を差し出される。 「チャンのものよ!」「無粋なことを」 慌ててしがみつこうとしたチャンを、さらりといなしたドアマンは、笑顔を深めながらブロードの腕を握る。 「へ?」「代わりにお教えしましょう、快楽にけぶる闇の美しさを」「ひ、」 いやあああああああ。掠れた声が響き渡るのをビイ監督と助監督は聞こえなかったふりで視線を逸らせる。 「いい、着方は分かる、何なら手伝うか?」 さっきまでセットや衣装小道具にぽかんとしていたロウ ユエは、うんざりした顔でドレスを手に身を翻す。 『…そこに居る彼に。大感動巨編のエキストラが足らない助けてくれと泣き付かれたのだが』 そう生真面目に切り出された時には、助監督は今と同じように聞こえないふりをした。 『………まあ、本番が有る訳でないし』 不承不承の納得は、衣装を示されて一瞬崩れかける。 『………………女装?』 これはダメかなと思ったが意外に乗ってくれそうだ。指示されたセットに早々に入り込み、相手役のエキストラに冷笑で応じる。 「俺の相手は君か?」「苦しいのか? 何をどうして欲しい?」 響く声にビイ監督は笑みを深める。そうとも、人間やってみて開花することだってある。 「言わなければ分からないぞ?」 「真ん中国に入りたきゃそこに這い蹲って俺様の靴を舐めろ」 その隣で俺様何様アバズレ女王様を絶好調で演じているのはファルファレロ・ロッソだ。これがまた、結構な美形だから画面が一気に華やかだ。 「最初に言っとく。俺は乗られるより乗るほうが好きだ」 言い放ったのを皮切りに、早速と近寄ったザムとブロードの掲げる首輪を見もせずに、 「はあ? この俺様に首輪嵌めて繋ごうなんざ百万年はええ出直してきなこの××!」 続いた罵倒は半分以上カット、いや三分の二以上カットすることになるんだろうが、あれだけの男から、柔らかなシャツをはだけてジッパーを下したスラックスで挑発されれば、ザムでなくとも嵌るだろう。罵った挙句に、それでも這いよりかけたザムを足蹴にした後、なおもしがみつかれかけたとたんにブチ切れてセットを一つお釈迦にしたが、ザムが無事だったので不問とする。むしろ、今後も出演できないかを交渉してもいい。 が、ザムの標的は別にあったようだ。 着物は水平線に沈む太陽と登る月をあしらったデザイン。身につけているレーシュ・H・イェソドをとっ捕まえた助監督の目を評価する。撮影が終われば解放される、それまでの我慢だ我慢。そう言い聞かせてでもいるのか、そわそわした気配が肩に漂い、それがなぜかこちらは一刻も早く押し倒されたがっているように感じる。 「レーシュ」 いやそれマジの名前だから。監督助監督が双方突っ込む間に、ザムはうっとりと距離を詰めていく。それに従って体を引いたレーシュの太腿が乱れた着物の裾から現れる。好もしそうに伸ばされたザムの手が撫でてざああっと音をたててレーシュの顔から血の気が引くのがわかった。 (おい待て冗談じゃねえぞ流石に相手は勘弁しろよ掘られるのはマジでヤバ…逃げ場無えよこれ…) 聞こえないセリフが聞こえるほどだ。 「ご主人様!」 突然、暑苦しく響き渡った大声がビイ監督の考えを断ち切る。 「出すぎな私めにどうぞ折檻を!」 ザムとブロードの前に投げ出された肉体は、ぎっちりとしたボンテージで縛られまくっており、隆々とした筋肉が力の限り引き締められ、一部は変色しつつ、なおも濡れ濡れと汗と何かに輝いているあたり、顔だけ覆う鎧が光を跳ね返すそこは、完全に異空間だ。 「ささ!」 はあはあと喘ぐ呼吸の合間に懇願が挟まれる。 「この肉体朽ちようとも我が心はご主人様と共に…」 首輪につながる鎖をじゃらじゃらと巧みに振り回し、首の動きだけで操ってブロードとザムに絡めとり、握らせようとする。 「ザム様! ブロード様!」「ちっ」 物騒な舌打ちとともにファルファレロが銃を引き抜いた。止める間もなく、ボンテージの騎士、ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードに向かって発砲する。 だが、もちろん、そんなことでどうにかなるような男なら、そもそもこんなものにこんな状態で参加してはいないのだろう。 「おお何たる愛撫!」 歓喜の声をあげてごろごろと鎖ごと転がっていきながら見事に銃弾を避けつつ、しかもザムとブロードに転がり寄っていくさまに、ブロードの顔が真っ白になった。 「俺…帰る」 呟かれた声がいつの間にか背後に忍び寄っていたドアマンににこやかに手首を握られ、絶叫に変わる。 「俺帰る! 帰って畑と牛の世話で生きていく!二度と役者なんかやらねええっ」 「あーそうだな、ほんと」「ビイ監督?」 ビイ監督は手にした脚本を破り捨てた。ぎょっとする助監督に満面の笑みで振り向く。 「今までのフィルム、全部よこせ」 もう『首輪物語』なんてくそつまらねえ映画はやめる。 「俺達ぁ何のために映画作ってるんだ? 業界のためじゃねえだろ、こんだけの素材が揃ってんのに、ちんけな奴らのちんけな××××のお守りなんかしてられっかよ!」 くるりと振り向いて、ビイ監督は大声を張り上げる。 「わりい、最初からやらせてくれ! あんたら最高だ! 最高にぶっ飛んでる、そいつをみんな撮らせてくれ!」 「…いいよ」 イルファーンがにっこり笑った。 「劉ももう一度連れて来よう」 鬼、と誰かが呟いたが当然無視される。 この後仕上がったビイ監督の作品は『闇の首輪』、男娼窟に迷い込んだ二人の男が全く知らない世界に巻き込まれて人生が変わってしまうという展開、最後の場面は作品中何度も現れお仕置きを懇願する顔だけ鎧のボンテージ男が、ついには念願の主人公と首輪をつないで溶岩の中へ飛び込んでいくというもの、当初はエロ三流映画として場末の映画館で公開されたが、のちにネット配信され、当局の様々な制約と追及を受けつつも「見ると人生壊れるwwww」と話題になっていった。 「あ…」 氏家ミチルは噴き出た鼻血を何とか押さえつつ、よろよろ歩く。『首輪物語』の撮影は衝撃的だった。つい自分達のあれこれを考えていて鼻血が出てしまったが、有馬を口説き落とすためにはまだまだ勉強不足だろう。 「ぎゃー!掃除のおばちゃんにコンセント引っこ抜かれたー!」 けたたましい悲鳴にすぐ側のセットを覗く。ツィーダが興味深そうに張り付いているのもわかる気がする。セット近くに宣伝を兼ねているのだろう、立て看板にいきいきと躍る手書き文字があった。 『サバーウォーズ』!! 大人気オンラインゲーム『ツクモガミ・オンライン』! その裏では、必死に大型アップデートに備えるプログラマー(あるいは社畜とも言う)たちがいた! 「DUPEバグ発見! デバッグデバッグ…うわー! 今度はヤバいバグが出てきた!」 髪の毛を振り乱した若者がキーボードに張り付いている。部屋の各所でモニターに向かい合う年齢性別さまざまの集団、壁には『納期までマイナス四日!』とか『諦めるな終わってねえ』とか、『サバ定食』と落書きされた下に『谷さん早くして!』とか、とにかくいろいろ切実な感じだ。デスクには栄養ドリンクの空き瓶が山積み、ごみ箱にはコンビニ弁当の包みが詰め込まれている。 「カアット!」 声が響き、一瞬みんなの動きが止まる。 「もう1テイク! セリフ追加するから!」「誰の!」「飯塚さん」「ひえええええ」 今さっきの台詞を言った役者が崩れ落ちた。 「鶴さん許して、追加台詞、はじめのホンからもう二倍超えてるって!」 「いい映画にしたいだろ!」 「うぁあああああ、今それを言うかな!」 それでも『飯塚さん』は台詞を確かめに駆け寄ってくる。 「うん!」 ミチルは歩きつつ口ずさみ始める。 応援歌。みんな頑張ってる。頑張ってる。 だから私も。 目当ての『炊いた肉』の撮影現場に乗り込んだ。 そこには既に鮫島 剛太郎が仕入れたばっかりのマグロ一本を搬入、その場で捌いてスシを作っていた。 「いい食いっぷりには応えてやらなきゃ男が廃るってぇもんでぇ!」 豪快に笑う剛太郎の腕は、ためらうことなく良質の切り身を分けていく。 「スシは手軽に食えてウマい!まさに、東洋のファーストフードってぇ奴だな!」 本当は空魚あたりを使いたかった。本当にうまいものがどういうものなのかを教えてやりたかった。けれど、この世界には空魚はなさそうだ。 「無ぇもんは諦めるしかねえだろ。駄々こねるのも粋じゃねえな」 おらよ、と並んだスシに、ローズとジャックが目を輝かせて駆け寄ってくる。 「これで少し元気が出ます」「これで十分は保ちそうです」 少しと十分かよ! 誰もが突っ込みたくなったが相沢 優は笑顔で料理を作り続ける。レパートリーは豊富だ。壱番世界のもの、ロストナンバーとなって新たに覚えたもの、それに、つい先日、リオに教えてもらってインヤンガイの屋台で食べた料理もレパートリーに加わっている。 「はい、これ」「次はこの煮物で」「こっちのサラダは先にどうぞ」 「アリガトゴザイマスー!」「感激デスー!」 あふあふむぐむぐと二人の完食モードは続く。それでも笑顔をこわばらせることなく、優は料理を作り続けていく。 一つの料理にもいくつもの思い出がこもっている。いくつもの思いが重なっている。料理を作りながら、優はロストレイルの旅を思い返す。 (みんな、頑張れ) 活躍と幸福を祈る愛情は、料理の最強のスパイスだ。 ミチルは自分と全員に応援歌でいろいろなものを増強した。つまみ食いも忘れず、凄い速さと体力勝負で大量生産に挑む。 「お母さん直伝、鳥の唐揚げ! 二度揚げで外はカリッ中はフワッ! レモンやマヨネーズ用意、丼飯も添えるッス!」 白鉢巻が翻る、いつか愛しい人にも思い切り食べてもらうのだ。 「更に、お餅に千切りキャベツ乗せてベーコン巻いた肉巻き餅! 勝負だ! まだまだー!」 笑顔が広がる。料理はこんなに楽しかっただろうか。 司馬 ユキノは映画の街にわくわくし、エキストラでもいいからフィルム片隅に映れたらなあと思い始めた矢先、とにかく料理が作れる人をと探し回っていた相手につかまった。 「え、料理を作るんですか? ええと…肉ってことは、焼肉?」 映画タイトルを告げられて、山積みにされた食材を見せられ、腹ペコの役者がぐったりしているのを教えられ、ユキノは慌てた。 「と、とにかく切っては焼いていこう! あ、肉ばっかりだと栄養偏るから野菜も必要ですね! あとお米とお味噌汁…材料あるかな?」 食材は何でもそろえるから、とにかくどんどん作ってほしいと泣きつかれ、思いつくままに作っていく。 「大量に作るのってやりがいあるかも!」 そのユキノの姿をじっと見ていたシイ監督は、ふと思いついたようにカメラを回すように指示する。夢中になって料理を作るユキノや優、ミチルや剛太郎の姿には、食べ物を作る熱意と楽しさがあふれていて、自分が撮っている映画よりいい絵になっているのが悔しい。 「肉、ばかりがうまいんじゃないよな」 ぼそりと呟き、脚本を見下ろした。ローズとジャックを使いたくて始めた映画だったが、今目の前で、料理に対する喜びをあらわに作り続ける人間達は、役者が演じるよりも真実の力にあふれていて。 「そりゃ、そうか」 真実に叶う虚構はない。けれども、叶わないと知っても真実を虚構でたどり着きたいと思ってしまう、人はそういう生き物だ。 この絵を映画の一部に使わせてくれないかと、後で交渉してみよう。そしてタイトルも変えるのだ、『私と彼の好きなもの』と。 ゼノ・ソブレロは浮き浮きと歩く。ついさっき、そこの掲示板で『トランスリフォーマー』の特撮用着ぐるみ展示がされているというポスターを見つけた。 『トランスリフォーマー』とは、謎のリフォーム業者にリフォームされ、巨大なロボットと化してしまったランドマーク、その巨大なランドマークロボを駆り、街を守ろうとする市長の奮闘映画だ。B級ロボット映画ではあるが、それでもコアなファンの間で、その特撮技術が高く評価されていたし、何より。 「リフォーム元のデザインを活かしつつ、それをうまくロボット化するってのは中々いいセンスしてるッス」 じっくりゆっくり楽しむつもりだ、足も弾むというものだ。 そのゼノとすれ違ったのは、坂上 健だ。 「…さすがメリケン産」 顔面サイズのハンバーガーは肉汁たっぷりでジューシーだ。もぐもぐと食べながら、セットや撮影器具の側で一休みするスタッフ、サインをねだられ取り囲まれる役者を眺める。 壱番世界、と一括りにしていたけれど、ここはどこよりも異世界だった。探しさえすればドリームランドは案外身近にあるのかもしれない。 世界の中で世界を守ろう、そう決めて警察官を選んだけれど。 視野を狭めるのはつまらないかもしれない。 目の前をどピンクの象が走っていく。後を追いかけていくのは虹色のダチョウに見えるが、あれは着ぐるみなのか、それとも最新のロボットなのか。 「…どっちもありだな」 そうだ、もっと自由に柔軟に。 世界は夢と知らない事で満ち溢れてる。一点だけ見てひたすらそこを目指すより、あちこち見回しながらのんびり歩こう。 ハンバーガーの最後の一口を味わいながら、そう思った。 「私はこちらですかね」「あー、それもいいなあっ」 おじさまいいセンスねえっ。 きゃあきゃあと盛り上がっているのは街角のブースに群がっている少女たちだ。映画のキャラクターグッズ、特にミニコレと呼ばれる三頭身キャラや、小動物のグッズはいつでも人気の的、少女達に交じってドアマンもいそいそとお土産を選ぶ。 その近くを、ナウラは手を振る相手に駆け寄った。 「楽しいね!何があった?」 手には村山へのお土産、鷲を象った木彫りを握っている。色鮮やかに着色されていて、瞳にはガラス玉が入っており、今にも飛び立ちそうだ。 「ブワーてして!シャキーン!綺麗でな!」 アルウィン・ランズウィックは合流したナウラに映画製作の見学の興奮を語りながら両手を振り回す。 彼女が見たのは『ラズーン』だ。 『お姫様?騎士?大変?頑張ってクダサイ!』 リンダやシュルツはなんだかだるそうな顔をしていたが、アルウィンが映画製作の苦労を尋ねると、いろいろ話してくれた。 一日七時間剣のけいこをしたこと。運動がチョー苦手なのに抜擢されて血の気が引いたこと。けれどほんとはずっとユーノには憧れていて、発売されたシリーズは全て持ってるし読み込んだこと。それをあまりにもうまく演じられなくて自分にがっかりしてること。シュルツはシュルツでずっと待っていた役だったのに、自分の身長がどんどん伸びて、次回作は演じられそうにないと分かって泣きたい思いでいること。役者はほんとは嫌いで歌手になりたかったから、この後は役者をやめること。 『ここかっこよかったな、栄養(英雄)みたいで!』 栄養? 英雄のこと? 何言ってんの、ほんと。 笑い転げながら、アルウィンが振り回した槍に二人ともきらりと目を輝かせた。もう一度やって、今の、そう言われて、ここからこう敵がきたから、こう、とやってみせると、リンダは大きく頷いて、それメチャクチャだね、いいね、と興奮した。早速その演技が取り入れられて、確かに二人の演技はきっちり気合が入って。 サインをもらい、『ラズーン』のロゴシールをもらい、お土産をみつくろったあたりで、ナウラと合流した。 「良い勝負だった!」 『ストック・ウォーズ』の手に汗握る攻防と結末、人手でゴリ押しはしたが、帝国屋も頑張った。だからもちろん、彼らの健闘も讃える。 ナウラの話は映画のストーリーではなくて、現実の出来事のようだ。 「それから? それから?」 アルウィンは夢中で先を尋ねる。 「荷物をお届けするのならまかせてください!」 ギアとテレポートをこっそり使っちゃいますけど、とミルカ・アハティアラは明るく笑う。 「打須さん、怖い顔してないで笑顔なんかも見てみたいですね! 意外と可愛いもの好きだったりしたらギャップがありそうでいいですけど」 せっかくの映画ですし、ハッピーエンドで終わらせたいですね! 今の今まで減る一方だった荷が次々と新たに現れるのに、打須の顔が険しく歪む。 「何をしてる、さっさと運べ!」 こんな倉庫、数時間で空にできるだろうが! 叱咤の声は本気だ。びくりとした打須側が速度を上げる。それに応じてこちらもパワーアップだ。 「??…一体、何がどうなって…? …あ、はい!」 オゾ・ウトウは撮影現場の見学に来たはずだったのに、気づいたら作業着を押し付けられていた。この雰囲気の中で自分は違うと言いづらい。力・スピードはそこそこだが、丈夫が取り柄、荷物を担いで右へ左へひたすら走る。 「き、貴様は一体…」 ミルカの背後から数百キロはありそうな荷物を軽々と持ち上げて片っ端から補充するシィ・コードランに、思わずと言った声が上がる。 「通りすがりのバイク便です! 覚えておきなさい!」 鮮やかに切り返したシィに打須はいらだった声を上げる。 「そんな着ぐるみの奴らに負ける気か!」 「し、しかし、っ」 うろたえた顔で配下は指差す。 「あれ見て下さいよ!」 「「「ニウォーク!ニウォーク!」」」 倉庫に叫びが響き渡る。荷ウォーク族に扮したイテュセイは、無数の人海戦術で大きい荷物を着実に倉庫に積み上げていく。歩みは遅いが、圧倒的物量でカバー、極め付きは大量のめっこが引くコロに乗ったピラミッド物資。巨大なそれが揺らぎもせずに運び込まれていくばかりではない、荷山を崩そうと突進してきた帝国屋にめっこビームが炸裂する。 「そんなの聞いてねえ!」 「言ってないからね!」 「ふざけんなああっ」 ビームに吹き飛ぶ輩から悔しげな叫びが上がる。 「させないぞ、帝国屋!」 ナウラが床をベルトコンベアのように変形させて動かし、荷物を運搬する。もちろん、自分も運ぶ。それだけではない、俊敏さを活かし、壁や高所を跳び、妨害を避ける。床を壁に変え、帝国屋を阻み、味方を守る。 ちっと高く舌打ちした打須はエイ監督を見やる。止める気はなさそうだ。 「そういうことなら、こちらも容赦せん!」 叫んだ打須が合図を送ると、後ろに控えていた人員が一気に姿を消した。同時に倉庫の外から悲鳴と怒号が響き渡る。 「人員は無限ではあるまい」 冷ややかな笑みが零れる。急を知らせに走ろうとした一人が、打須の放つメジャーに背中を裂かれ倒れ伏す。 「ここは任せな」 ダンジャ・グイニが進み出た。 「メジャーで何やってんだ!」 倉庫内に残った人員を始末すればいいとばかりに飛び掛かってくる帝国屋に結界を張り、味方を守ったばかりか、ファスナーで最短ルートを開いた。我先に飛び込んでいくこちらの手のものを追おうとする打須の前、絹ミシン糸で立ちふさがる。 「数での蹂躙に酔うようじゃ帝国屋に明日は無い! 思い出すんだよ、フォークリフトすら触ってない頃、一人でカット台車やロング台車を押したあの日を」 「怯むな! 過去に支えを見出すな。我らが手に掴むのは未来だ」 冷笑とともにぐっと握られる手、物資は今だ運び込まれず、もう間もなく倉庫は空になる。 その時。 『こちら 空中管制機スノー1。アント隊へ、攻撃目標は倉庫外壁右側と内部ファスナー周囲に布陣、作戦を開始せよ』 淡々とした声が響いた。同時に倉庫内にばらばらと走りこんできたのは、コピーされ人数を増やしたローナ達。イヤフォンマイクで状況を報告し合いながら散っていく。どこかの空軍衛生兵を思わせる服装、総数五十はいるだろうか。フォークリフトに滑り込んだものもいる。 『シスターズ、現在の仕入れを維持せよ』 『アント1より本部へ、帝国屋は既に物資の9割を搬出』 『生命線になる補給路だ、奪還する 』 『各員 荷物に被害を出すなよ。アント輸送部隊 行くぞ!』 そして再び物資の供給が始まる。 「打須さんっ!」 戸口から走りこんできた配下が、悲鳴のような声で叫ぶ。 「このままじゃトラックが過積載でやられます!」 「運べ、臆病者」 「しかし、道交法108がっ!」 その瞬間、ぎりっと打須は歯を食いしばった。帽子の庇を深く下げる。低く掠れた声が呟く。 「ここを守るには戦力不足だ。…拠点を増やしすぎたな」 引き上げるぞ! 来た時と同様、打須率いる帝国屋は嵐のように去っていく。 それを見送った人々から一斉に歓声が上がり、ローナ、スノー1は薄く微笑んだ。 「悪運は今日も味方だったな」 「…なんなの、このかっこよさは」 エイ監督は小さく震え、思わず助監督を振り返る。 「あの女の子達、引き抜きましょうよ」 助監督のことばにエイ監督は大きく頷く。 汗にまみれた役者にサインをもらった。笑顔で一緒に写真も撮った。 夜になっても撮影は続き、誰もが夢を叶えようと必死にもがいて、朝を待っていた。 写真のVサインに優は笑み返す。 いつかスクリーンで出会う、その時を夢見る。
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