「イベント、ねぇ……」 ティアラ・アレンは古書店『Pandora』のカウンターで一人呟いた。 手にした紙には『イベントアイディア募集!』の字が躍る。 毎年行われる年越し特別便で何か面白いイベントが出来ないかと、知り合いの世界司書から渡されたチラシだった。 ティアラ自身、特に予定は入っていないし、せっかくならお世話になった人たちが楽しめるようなイベントでもと思ったのだが、肝心のアイディアが中々浮かんでこない。「いらっしゃいませ」 その時ドアが開いてベルが鳴ったので、反射的にそう言ってから、またイベントのことを考え始める。「せっかくならさ、ゲーム買いたいよな、ゲーム!」「おじさん、『たまには為になる本でも買って来い』って、本って字ばっかりでおもしろくないもん!」 だが、続いて店内に響いた元気な子供たちの声が、彼女の気持ちを揺さぶった。 そんな会話を耳にしたら、本を売ることを生業とする者としては黙ってはいられない。 ティアラはカウンターのイスから立ち上がると、腕まくりをするような思いで声のする方へと向かった。「こんにちは。本にもいろいろあるし、きっと好きになれるものが――あら、確か二人は……」 イムとメム、だっただろうか。 カエルとウサギの帽子が特徴的な男の子と女の子だ。 元世界樹旅団のツーリストで、ティアラはモフトピアで行われた運動会で初めて出会った。「そうだわ!」 きょとんとこちらを見る瞳を見て、一瞬にして様々なことが思い出され――そして、それに手を引かれたかのようにやって来たアイディアに、彼女はぽんと手を叩く。「あなたたち、手伝ってくれない?」 ◇『みんな、元気にやってるか!?』『メムとイムだよ!』 ターミナルに、陽気なイムとメムの声が響き渡る。 その発信元は、宙に掲げられたモニターだった。笑顔で手を振る二人も映っている。 それを支えているのは、二本のずんぐりとした腕。――ジルヴァの人形だ。 数体の人形はターミナルへと散らばり、それぞれモニターを手に、宣伝活動にいそしんでいる。『なんとなんと、年越し特別便に、オレたちプロデュースのイベントも登場だ!』『壱番世界の、おしょうがつっていうイベントをアレンジしたゲームをやるよ!』『モフトピアで待ってるぜ!』=============●特別ルールこの世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
「日本人としてツッコミたいけど、ロックで楽しいイベントだから良し」 仁科あかりは、草原に並ぶ巨大な円錐形の物体を見ながら言う。 「ゼシ、コマ乗りに参加するわ。魔法使いさんも、いっしょにどう?」 上手くできるかは少し自信がないが、ここはモフトピアであるし、ぶつかったり落ちたりしても平気だろう。 ゼシカ・ホーエンハイムから話を振られ、ハクア・クロスフォードは一瞬、言葉に詰まる。 「……わかった」 「やったぁ!」 戸惑いはしたが、期待に満ちた目で見られては断れない。 それに、これも良い思い出になるかもしれない。 「コロ、みんな! 久しぶりダス!」 フェリックス・ノイアルベール の使い魔ムクは、以前親睦を深めたアニモフ達との再会を喜ぶ。 その背後から、主人の声がかかった。 「貴様も参加したらどうだ?」 「ワシがダスか?」 少し怯えた目で、そびえ立つコマを見たムクであったが、アニモフ達も一緒に参加しようと言ったので、その表情も次第に和らいでいく。 「わかったダス! 頑張るダスよ!」 「お正月にこういう遊びもええな! 張り切ってくでー!」 力強い声を上げたのは、正月らしく羽織と着物という出で立ちのフィン・クリューズだ。 「うわー、こーんなおっきなコマに乗るなんて、すっごく面白そう!」 その背後では、オレンジ色の翼をパタパタとさせながら、ユーウォンが青く円い目を興味津々といった風に動かす。 「コマ乗りの受付は、こっちでーす!」 参加希望の皆は、急いでそちらへと向かった。 ◆コマ乗り 『選手の皆さんは、位置についてください!』 ティアラの顔が、会場に設置された大きなモニターに映し出される。 「メアリは独楽の上の踊り子。ハムスターのようにかけっこしてくるくる回すの」 コマを指先で撫でたメアリベルが詩を奏でるように呟く。 「モフトピアは楽しい所。モフモフのアニモフの中には何が詰まってるのかしら」 小さな口を艶やかに歪め、彼女は見物に集まるアニモフ達に視線を向ける。 「綿? 血? 臓物? 手斧でかっさばいて暴きたい。――スリリングな解剖ショウよ!」 そうして指を突きつけるが、遠くの柵の外から見守るアニモフ達には、彼女が何を言っているのかは理解できない。 勘違いをし、もふもふした小さな手を振ってくる。 「……嘘うそ、冗談。メアリはとってもいい子だもの」 メアリベルはすぐに指先を下ろしてスカートをつまみ、優雅に手を振り返した。 「ナウラー! ばんがってー!」 アルウィン・ランズウィックの声援に頷きで応え、ナウラはコマの上へと登る。 ロープを体につけ、軽く足踏みをしてみる。思ったより柔らかな感触だが、走り難いという事はなさそうだ。 『それではコマ乗り、スタートです!』 やがてアニモフ楽団が奏でる、少し調子外れのファンファーレと共に、競技はスタートした。 「ごめん、通るよ」 ナウラは言って他のコマの横をすり抜け、足に力をこめる。 『ナウラ選手、速い!』 スピード重視で、ひたすら先を目指す作戦だ。 コマはぎゅるぎゅると回転しながら、ふわふわとした草原を進んでいく。 「それ、わっせ、わっせ!」 続くのはユーウォン。 飛ぶ様に、舞う様に、余裕の笑顔で周囲の景色を楽しみながら進んでいく。 他のコマの合間を縫って進むのも、お手の物だ。 実際に飛んではいなくとも、翼があるという安心感は、気持ちに大きな余裕を生んでくれる。 その後ろには、ハクアのコマがいた。 最初は慣れなかったものの、すぐにコツは掴んだ。 ちらと後ろを振り返ると、ゼシカがゆっくりと進んでいるのが見える。 こちらに気づいて笑顔を見せる彼女に、軽く手を挙げて応え、彼はまた競技へと意識を戻した。 「へへっ、急がば回れやで」 慎重な進み方をするのはフィンだ。コマと体を繋ぐロープにも気配りは忘れない。 動き易さを重視して羽織と着物は脱ぎ去り、褌一丁という姿になっている。 「まずは楽しまなきゃね」 あかりはなるべく平坦そうなルートを選び、ペース配分を考えて走る。 ジェリーフィッシュフォームのモーリンは彼女にしがみつきながらシャボン玉を吹き、それは海中の泡の様にも見えた。 「負けないダスー!」 ムクは丸い体を活かし、コマの上を転がって進む。 抜群のバランス感覚で、多少の揺れには全く影響されない。 フェリックスは静かにお茶を飲みながら、使い魔の勇姿を見守った。 「ミスタ・ハンプも応援してね」 メアリベルも個性的な進み方だ。ステップを踏む様に爪先を動かしながら、優雅にコマの上で踊る。 お気に入りの下僕であるハンプティ・ダンプティは端にちょこんと腰掛け、コマと一緒に回っていた。 「ゼシ、頑張るのよ」 ゼシカは自らを励ましながら、小さな手足を一生懸命に動かす。 ハクアは、ずいぶんと前の方にいる様だ。さっきは振り返って応援もしてくれた。 「失敗しても泣かないもん、絶対最後までやりとげるんだから。見ててねパパ、ママ」 ◇ 選手それぞれがベストを尽くして先へと進む。あとはどれだけ記録が伸ばせるかだ。 「あうう~、世界がぐるぐるダス~」 こちらはフェリックスの使い魔ムク。 ずっと転がっている為、そろそろ限界が訪れようとしていた。 「あっ、ミスタ・ハンプ」 その時、偶然近くを走っていたメアリベルのコマから滑り落ち、砕け散るハンプティ・ダンプティ。 「なっ、なんダスか!?」 その巻き添えを食って揺らぐ、ムクのコマ。 「きゃぁっ」 メアリベルもぶつかりそうになり、バランスを崩してしまう。 「えっ? うわっ!」 やはり近くを走っていたイムは、激突こそしなかったものの、驚いてコマを止めてしまった。 『ムク選手、メアリベル選手、イム選手の記録、黄色のキャンディ岩1です!』 「うぁちゃっ! あぶなっ!」 フィンも危うく巻き込まれるところだったが、気をつけていたおかげで、何とか体勢を立て直す事が出来た。 「くっ……」 「うわわっ!」 ナウラとユーウォンの走る場所では、突如強い風が吹き付ける。 「負けるかっ……!」 ナウラは少しでも前へと進もうと粘るが、コマはじりじりと失速していった。 「まだまだ~!」 ユーウォンも足を踏ん張り、前へと進もうとする。 しかし全身に打ち付ける風はその力を阻んだ。 『ナウラ選手、ユーウォン選手の記録、赤のキャンディ岩3です!』 「くそっ!」 「ああっ、残念……」 「うんしょ、うんしょ……」 一方ゼシカ。速さはそれ程ではないものの、着実に前へと向かっている。 「やったるでー!」 ハプニングを切り抜けたフィンも、危なげなく進んでいた。 「よし」 「何が起こるか分からないってのも燃えるね!」 一番距離を伸ばしているのは、ハクアとあかりの二人。 表情は対照的だが、両者とも競技に集中している。 『競技終了、1分前です!』 ティアラの声が響く。 ハクアは表情を変えず黙々と走り、あかりはラストスパートをかける。 『3、2、1……終了!』 会場に、選手達の健闘を讃える拍手が沸き起こった。 「みんなセンキュ!」 あかりが言って、笑顔を振りまく。 「魔法使いさん、すごい!」 「ゼシカも、よく頑張ったな」 笑顔のゼシカの頭を、ハクアは撫でた。 「やったで表彰台!」 優勝はあかり、僅差で二位がハクア、三位にフィンとなった。 それぞれにアニモフの形をしたトロフィーと、参加者全員にお菓子が配られる。 ◆玉落とし 『さて皆さん、そろそろ玉落としが始まりますよ!』 モニターに映ったのは、あかり。 ティアラにも休憩が必要だろうと、実況を買って出たのだ。 会場に並べられた五色の箱のそばには、アニモフ達が控える。 『それじゃみんな、ファイトー!』 あかりの鳴らすチアホーンの音が合図となり、開かれた箱の中から、一斉にカラフルなボールが放たれた。 「仁科様も頑張っておられますね。私も頑張らねば」 だが勝敗に拘らず、ゲームそのものを楽しみたい。 ドアマンはまず、赤いボールを狙った。 縞模様をしたステッキ型の銃から放たれたキャンディーの弾丸は、優雅ともいえる動きでひらりとかわされる。 「おや、なかなか難しい」 今度はランクを一つ下げる。 「ほ、上手くまいりました」 青いボールは弾け、お菓子の詰め合わせとなって落ちた。 後で皆で分けようと思いつつ、ドアマンは次のターゲットを探す。 するとピンクのボールが、まるでこちらを挑発するかのように回りながら飛んでいる。 「これは、撃って差し上げるのが礼儀というものですかな」 ドアマンの放った弾丸は、ボールをお菓子へと変えた。 ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは腰に手を当て、動き回る色を見る。 一見ただのボールのようだが、あれを打ち落とせば、お菓子の詰め合わせへと変わるらしい。 彼女はその中に様々な大きさや、色々な味のチョコレートが入っている様子をイメージした。 「いっぺんに食べると体に良くないからのう、少しづつ様々な味を楽しむことこそ、甘いものが好きな乙女の願望というもの。――よしっ、気合を入れるのじゃ!」 彼女はステッキを構え、ボールに意識を集中する。 「いくら不規則とはいえ、一定の動きはこの集中力で掴もうぞ」 普段から居合道の訓練をしているという経験は、この場でも活かせるはずだった。 「よしっ、命中したかっ!?」 そして一発目、彼女の放った弾は、見事に黄色いボールの中央を打ち抜く。 それは一瞬にして、お菓子の詰め合わせへと姿を変えた。 「チョコレートじゃ!」 ゆっくりと落下する透明な袋越しに、彼女が願ったとおり様々なチョコレートが入っているのが見える。 ミルクからビター、フルーツやナッツ、数々のフレーバー。 まるで今にもその味や香りが、口の中へと広がるようだった。 「しっ――しまった」 それに見とれていたら、ステッキを強く握りすぎて、発射ボタンに触れてしまったらしい。 飛び出たキャンディーが、青いボールの脇を通り過ぎる。 「いや、落ち着こうぞ。次こそは――!」 しかし、その動揺が響いたのか、続いて狙った赤いボールにも当てる事が出来ない。 「む、無念……」 ジュリエッタはがっくりうな垂れたが、手に入ったお菓子のセットは意外にも豪華で、顔は次第に綻んでいった。 「うん、やっぱり、モフトピアは最高なんだよー」 バナーは言って、空を見上げる。サンバイザー越しに見える太陽はぽかぽかと暖かく、飛び回るボール達も楽しげだ。 「大きいナッツが出てこないかなー」 くるくると飛び回るボールも、ナッツに見えなくもない。 彼が放った最初の弾は、赤いボールにひらりとかわされた。 「ありゃー、だめだー。……じゃあ、今度はあれだー」 続いて狙った黄色いボール。 今度は見事に命中し、お菓子の詰め合わせが落ちてくる。 「やったー、いい感じだよー!」 それからまた、他のボールも眺めた。 それぞれのボールもそうだが、色によっても動きに特徴があるように見える。 キャンディの弾は残り一発。 先ほど当てる事が出来た黄色いボールならば、上手く行きそうな気がした。 「もう一つ――えいっ、また当たった!」 狙い通りにもう一つ命中させ、バナーは大喜びでお菓子の詰め合わせを拾い上げる。 中にはミックスナッツや、ナッツの入ったクッキーなどもあった。 「ナッツがいっぱい入ってる! 嬉しいなー」 彼はその袋を大事に抱え、食べるその時を楽しみにする。 「ナウラ、見ててー! ふんっ」 アルウィンは勘を頼りに、キャンディーの弾丸を放った。 それは、ちょこちょこと他を避けながら飛んでいた青色のボールを貫く。 「よし! ランズウィックさん、良いぞ、頑張れ!」 それを見ていたナウラの応援にも熱がこもる。 その引き締まった顔とは対照的に、口をぽかんと開けて、落ちてくる袋を眺めるアルウィン。 「ランズウィックさん?」 その声にはっとし、視界に入った黄色のボールを慌てて撃ったが、それは当たらない。 ようやく我に返ったアルウィンは、気を取り直してピンクのボールを狙った。 今度はきちんと命中する。 「おそろしいわなだった…! ふー」 アルウィンは言いながら、ナウラと一緒に食べようと、お菓子の詰め合わせを拾いに行った。 「この私に遠くの、しかも動く的に当てろって? ふ―……やってやろうじゃない!」 ニコル・メイブは、動き回るボールを目を細めて見やり、気合の息を吐く。 まずは白に次ぐ高得点の赤を狙った。 彼女自身、自分の才能というものを熟知しているから、内心諦めモードではある。 苦手な競技にあえて挑戦しようと考えたのは、大量のお菓子が貰えるから、というのは秘密だ。 やはり、弾丸が命中する事はない。――が。 「当たった!?」 ゆらりと避けた赤玉。その背後にいた桃玉へ、キャンディは当たった。 「よし、――行ける」 自らを鼓舞する如く呟き、今度は白いボールを狙って弾丸を放つ。 それは、ふわふわの雲へと吸い込まれて行った。 「恐縮でございます」 ドアマンが表彰台の上で、恭しく礼をする。 「ぼくも1番なの? やったー!」 バナーは喜びの声を上げながら、くるくると回った。 「アルウィンもすごい! ナウラー!」 アルウィンが手を振ると、ナウラも笑顔で応える。 合計4ポイントを獲得した者が同点優勝となり、三人にはアニモフの形をしたトロフィー、そして参加者全員に、さらにお菓子がプレゼントされた。 「ま、当たっただけマシってとこか」 ニコルは会場の隅でお菓子の袋を見つめる。 ふと視線を移せば、木陰で寝転がっているジルヴァの姿。 「や、しばらく」 声をかけると、彼は体をだるそうに起こし、こちらを見る。 「うまくやってる? ……どうせ振り回されてんでしょ」 そうからかうと、不貞腐れた様な表情が返ってきた。 皆元気そうで何より、という言葉が出かかったが、それは飲み込む。 「おじさん!」 そこにメムが走って来て、大きくため息をついた。 「メム、1Pしかとれなかったの……がっかり!」 ニコルが複雑な表情をすると、笑いを堪える気配がする。 「当たっただけマシだろ」 自分でそう思ってはいても、人から言われると不愉快なものだ。 軽口に二人分の鋭い視線が返ってきて、ジルヴァは首をすくめた。 「じゃ、これやるよ」 彼は二人に、それぞれの手を差し出す。 その上には、草を編んで作った小さな人形が乗っていた。 「残念賞」 ニコルは思わず吹き出し、それを受け取る。 ジルヴァも照れた様に笑った。 ◆ 競技終了 競技も無事終わり、昼食の時間。 「ゼシお弁当作ってきたの。サンドイッチもあるわ。水筒にはレモネード。みんなで食べましょ」 「わ、うまそう!」 「メム、このサンドイッチがいいな!」 「二人とも、座ったらどうだ?」 ハクアの言葉に二人はきょとんとし、それからおとなしく座る。 仲間とのイベントという楽しさが、二人を浮かれさせていた。 「残念だったな」 ナウラは呟きながら、アニモフを上に投げては受け止める。 アニモフも楽しそうにはしゃいでいた。 「でもナウラ、カッコよかった!」 アルウィンに言われ、悔しげだったナウラの表情も和らぐ。 「おっ、こっちはクッキーと……なんだこれ?」 そこへイムがやって来て、二人の弁当を覗き込んだ。 「おいそしるー。アルウィン、ナウラと、つくれるようになった。おすそわけ!」 アルウィンは水筒の中の味噌汁を、イムへと差し出す。 「こっちはおにぎりに、から揚げ。……はい」 「おいしそう! いただきまーす!」 いつの間にかやって来たメムも、おにぎりを受け取って頬張った。 「楽しい企画だったよ。ありがとう」 ナウラの言葉に、イムとメムは嬉しそうに笑う。 「この柔らかさ、つぶらなお目……ああ」 ドアマンはというと、アニモフに囲まれ、至福の時を過ごしていた。 彼の持ち込んだ和洋中混在の豪華なお重と果物は、アニモフにも大人気だ。 その食べる姿も、喜ぶ表情や仕草も、全てが愛おしい。 彼らの為なら何でも言う事を聞いてしまう、押し潰されて死ねたら幸せ……そんな事までが頭をよぎるのだった。 「親分、ダメだったダス……」 しょんぼりとするムクには、無言できゅうりが差し出される。 「親分……」 「ご主人様だ」 フェリックスはあくまで無愛想に、遠くを見た。 「あれはコロとかいうアニモフだろう? 互いの傷でも舐めあってきたらどうだ」 「あっ……はい、ちょっと行ってくるダス!」 走っていくムクを眺めながら、フェリックスはまたお茶を一口飲む。 表には出さないが、彼は使い魔がモフトピアへと帰属出来る事を密かに願っている。 だからムクがこの世界に馴染めるよう、静かに見守るつもりでいた。 「おひるね、おひるね……」 眠い目をこすりながら歩くアルウィンは、居心地の良さそうな木陰を発見する。 そこには先客がいた。気持ち良さそうな、いびきが聞こえてくる。 「たのしかったね」 彼女はにっこりと笑い、ジルヴァに毛布をかけてあげてから、その横に自らも寝た。 モフトピアは今日も、とっても平和だった。
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