食べる側専門に思われがちなアニモフだが、もちろん作るのが大好きといった料理人気質の者も居る。 黒いウサギの姿をしたカルサというアニモフの少女はその典型的な例で、友人にはエプロンが普段着だと思われているほどだった。 性格は天真爛漫で人懐っこい。しかし今、その長所たる笑顔は曇り、溌剌とした雰囲気は消え去っていた。「どうしよう……」 カルサはテーブルの上に置いた料理本を眺め、そう絶望したかのように呟く。 由々しき事態だった。 真っ黒な耳をへにゃりと倒し、カルサは頭を抱える。「……載ってるやつ、全部作っちゃった」●「料理は生活していく上で必要なものだ」 世界司書、ツギメ・シュタインは大真面目にそう切り出した。 しかしその手にあるのは可愛らしい表紙をした「甘露丸に学ぶ! はじめてクッキング」という本。初心者向けながら多彩なメニューの並ぶそれをぱらぱらと捲り、ツギメは続ける。「だが趣味にも出来る。ツーリストやコンダクター問わず、頷ける者は居るのではないか?」 材料を然るべき方法で調理し、ひとつの料理を一から作り上げることに喜びを感じる者。 好きなお菓子を好きなだけ作り、そして好きなものを自分で作り出せるということに喜びを感じる者。 自分が作ったものを誰かが食べ、美味しい、と一言貰うだけで――笑顔を見れるだけで、喜びを感じる者。 人それぞれだが、料理し食べることに本来とは別の意味を見出す者は多い。それはどこの世界でも同じことだろう。「……モフトピアのある島に、カルサというウサギ型のアニモフが居る。彼女は料理が好きで、いつ頃入手したかはわからないがロストナンバーから譲り受けた料理本のメニューを順番に作っていた」 ツギメは「はじめてクッキング」を閉じて机の上に置く。「しかし先日、その本のメニューを制覇してしまったらしい。その落胆のし様が凄まじいのだ」 本に載っていたメニューは壱番世界の基本的な料理……和食なら味噌汁や肉じゃが、洋食ならオムライスやスパゲッティ、中華なら麻婆豆腐や水餃子といった、家庭でも作れるものばかり。あまり奇抜なものや捻りを加えたものは載っていない。 そこでロストナンバーたちが新たなレシピをカルサに伝え、一緒に作る等して立ち直らせてあげてほしいのだという。 作るのに必要な材料については心配する必要はない。カルサの家の庭に生えている木、これが不思議な木で、願った食材をすぐさま実らせて提供してくれるらしい。「本来はこの木の調査が目的なのだが……まあ、後は分かるな?」 僅かに笑い、ツギメは続ける。「料理が苦手な者には大変かもしれないが、息抜きにはなるだろう。一応軽く注意することのみ、そこの資料に載せておいた。受けてくれるなら目を通しておいてほしい。あと――」 ツギメはドアの脇に置かれた大きめのリュック数個を指差した。「料理道具も忘れずに、な」
雲の上の一軒家。 ピンク色のドアを叩くと、黒い耳を揺らしながらウサギのアニモフ……カルサがひょっこりと顔を出した。 「わああ! いらっしゃい!」 「こんにちはカルサちゃん、今日はよろしくね?」 ティーグ・ウェルバーナがそう言って頭を撫でると、カルサは嬉しげに頷いてロストナンバーたちを室内へと招き入れた。 入ってすぐにあったのは、大人数で囲めそうな大きなテーブル。 その向こうに花柄のカーテンがあり、それを開けるとすぐキッチンが控えている。 テーブルの上には件の料理本と思しき本が載っていた。 「料理は楽しんでやるもんやもんなー……よーし! カルサはんがまた料理を楽しめるよう、ボク達が一肌脱ぐでー!」 やる気満々でそう言い、フライパンを片手にフィン・クリューズがそう宣言すると、カルサの耳がぴょこんと元気良く動いた。 それぞれの挨拶を済ませた後、相沢 優はカルサの使っていた料理本を手にとった。付箋が沢山挟み込まれ、角が丸くなるくらい読まれた本。どれだけ料理好きか伝わってくるかのようだ。 「本当に料理が好きなんだな」 「うん、だって魔法みたいだし……わくわくするでしょ?」 「ああ、実は俺もわくわくしてるんだ」 優は調理器具の準備を進めている皆に目をやる。 これから皆がどんな料理を作るのだろう――そう考えただけで、どうしても心が躍ってしまうのだ。 それは壱番世界でも同じだが、ここに居るのはほとんどが出身地が異なる人々。一体何が出来上がるのか予想がつかないし、それがとても楽しい。 「さて、俺も準備するかな!」 自分の料理も誰か楽しみにしてくれているかもしれない。 優は腕まくりすると、フライパンを手に取った。 「ちょっとね、お願いがあるんだけれど……」 カルサにそう声をかけたのはユーウォンだ。 不思議そうな顔をするカルサに彼は訊く。 「今まで皆……他のアニモフたちに色んな料理を作ってあげたんだよね?」 「うんっ、美味しいって言ってもらえるのが嬉しくて沢山作ったよ! ……それがどうかしたの?」 「その中で一番「もう一度作って」って言われたものを教えてほしいんだ」 「もう一度……」 ユーウォンは考え込むカルサの頭を撫でる。しばらくしてカルサは顔を上げた。 「オムライス! 卵がふわふわでね、ケチャップで皆の顔を描いたの」 「それじゃ、少しずつそれをアレンジしてみようか」 「アレンジ……?」 初めて聞く言葉だ、という風にカルサは目を瞬かせる。 簡単なアレンジでも加えるのと加えないのとでは大きく違う。調味料ひとつで味の印象が変わったり、材料を増やしたり変えたりするだけで違う味になったりするのだ。そのことをユーウォンは知ってほしかった。 それはフィンも同じだったようで、エプロンと三角巾を着けながら頷いた。 「あの本のもんを全部作ったんやったら、また順繰りにアレンジしてったらええんや」 「ア、アレンジ、ってどうやるの?」 「たとえば……唐揚げやフライを作る時とか、粉にカレー粉を混ぜたりするだけでまた違った味になるんやで!」 衝撃だった。 カルサは料理好きだったが、素直さが一直線すぎて、信頼出来る本に書いてあるレシピを自分で少し弄ってみる、という発想がまったくなかったのだ。 そこにアレンジの仕方を聞いて、カルサは芋づる式に「ああしたい」「こうしたい」「こんなアレンジをしてみたい」という気持ちが湧いてくるのを感じていた。 「ユ、ユーウォン! フィン! あたしオムライスをアレンジしたい!」 みんなによろこんでもらいたいから。 そんな願いが聞こえたようで、2人は笑みを浮かべながら頷いた。 川原 撫子は他の皆とはまた違った膨れ方をした荷物を置き、カルサに手招きする。 「カルサちゃん、ウサギさんやヒヨコさんは好きですかぁ?」 「うんっ、もちろん!」 「それじゃぁキャラ弁作りましょぉ☆」 また聞き慣れない言葉が聞こえてきた。けれど、どこかわくわくとする言葉だ。 それを察した撫子が説明する。 「キャラ弁はぁ、キャラ……この場合は可愛い動物とかですねぇ。ウサギさんならウサギさんに見えるよう、材料を切ったり形を整えたりするお弁当なんですよぉ」 「へえええ……! 海苔で文字を作ったり、ケチャップで顔を描くのといっしょ?」 「それをもっとレベルアップさせた感じですねぇ。あっ、そうだ!」 撫子はカバンから厚手のノートを取り出すと、それをカルサに手渡した。 「今までは料理本を参考にしてましたけどぉ、これからはカルサちゃんの手でノートを取っていくのはどうでしょぉ?」 「あたしの!? ……で、できるかな」 「できるできる! きっと素敵な料理ノートが出来ますよぉ」 「じゃあやってみる!」 鉛筆を握ってやる気を出す様子を見て、撫子はにっこりと笑った。 キャラ弁を作るため、まずはストローで海苔をくり貫く。同じ要領で焼いた卵の白身も丸くくり貫いた。抜き型を使い、飾り用にハムやニンジンを使って星やハートを作ってゆく。 それをノートに取りながらカルサはじっと説明を聞いていた。 「これが終わったらぁ、鮭とか梅干しとかデンブとかぁ、自分が出したいピンク色を擂り鉢でよぉく摺ってご飯に混ぜてぇ……これでピンクウサギさんの身体の部分ができましたぁ☆」 「ほんとだ、すごーい!」 「ヒヨコさんは同じように茹で卵の黄身を摺り潰して作りますぅ☆」 キャラ弁の色作りはインスピレーションが大切! と撫子は言う。 茶色ならおかか、緑なら青海苔など、その色を何で表現するかを考えるのもとても楽しいのだ。 「ちなみに区切りはラップ、隙間は青物で埋めると良いですよぉ……これでウサギとヒヨコさんのキャラ弁完成ですぅ」 「ちゃんとウサギとヒヨコだぁ……!」 「あっ、ノートを取る手が止まってますよぉ?」 ハッとしてカルサは一生懸命聞いたこと、見たことをノートに纏めていく。 このノートがいっぱいになるのも、そう遠くない未来のことかもしれない。 ソア・ヒタネの故郷の「食」は他のロストナンバーとは少し違っていた。 動物性食品がない――というより、それらを食べるという概念がなく、覚醒してから初めてそういった料理を目にしたくらいだった。 肉や魚介類だけでなく、卵や乳製品といったものもなく、主食は野菜類。 発想の違いの問題であり、食べてはいけないという禁忌や拒否感がある訳ではなかったが、ソアは0世界に来てからもずっと野菜食を続けていた。 そこへ舞い込んできたのが、この依頼。 「わたし、他の世界のお料理のこと、もっともっと知りたいです。だから今日はわたしも、色々と学ばせてください」 「うんっ、ソアちゃんも一緒にいろんなものを教えてもらお!」 同じ生徒仲間が出来たようでカルサもはしゃいでいる。 ソアにとって野菜以外は未知の料理だが……頑張ってみるのに、良い機会かもしれない。 「あっ、まずはレシピだけ先に渡しておきますね」 ソアは丁寧な字で書かれたレシピをカルサに渡す。実際に作ってみせる料理は別のものにする予定だ。 書かれていたのは植物性食品だけを使った料理。野菜を肉や魚料理のように見立てたものも含まれている。所謂精進料理や「もどき」料理だが、これが普通の料理だったソアにはそんな自覚はない。 「すごい、こういうの何ていうんだっけ……へるしー?」 「夢中で書いてたらこんなになっちゃいました……。カルサさんはお野菜、好きですか?」 とっても好き! という答えを聞き、ソアはホッとする。 0世界に来てから、野菜を苦手とする人も多いと気がついていた。ソアにとっては信じられないことだったが、食文化の奥深さに感嘆したものだ。 「じゃあおやつを作っていきましょうか」 「はーい!」 ソアが作るのは竹筒に入った水ようかん。 ようかんは初めて目にするのか、カルサが不思議そうな顔をしている。 「夏になるとよく作って、おやつに食べてたんです。さっぱりして美味しいですよ」 「このまま冷やして食べるの?」 「はい。もうちょっと冷やしたら完成なので、少しだけ待っていてくださいね」 「うんっ……!」 頷いたその顔はあまりにも真剣で、ソアは思わず小さく笑ってしまった。 ティーグは予めツギメからカルサの持つ料理本の内容を聞き、それと被らないメニューの料理本を数冊購入してきていた。 0世界の本屋で購入しただけあり、載っているメニューも多彩だ。 それを手渡すと文字通り跳ねながらカルサは喜んだ。宝の地図でも持つかのように料理本を胸に抱えている。 「カルサちゃん、何かオススメ料理ってある?」 「オススメ料理……ん~……オムライスかな! あたし、これから「アレンジ」してそれを作るんだ~」 「へー! ねえ、良かったら教えてくれないかな?じつは包丁も鍋もあんまり握った事なくて……」 てへへと笑い、ティーグがそう言うとカルサは快くそれを受けた。 先生になるのは初めてだが、教えてと言われてやる気が出ないカルサではない。 材料選びから切り、炒め、焼き方までレクチャーしていく。 「……あたしって男の子達と一緒に外で遊ぶ事多くてね」 たどたどしい手つきで鶏肉を切りつつ、ティーグが言う。 「あんまり女の子っぽくないって言われたこともあって。でもさ、料理できたら女の子らしさも増えるかなって! ええと、女子力?」 「じょしりょく?」 「こういうの、花嫁修業、っていうんだったかしら?」 「あっ、それなら知ってる! 「けっこん」する人のためにいっぱい勉強するんだよね」 こくり、とティーグは頷いた。 「あたしもいつか結婚した時に料理ができない、なんてことはしたくないもんね!」 「いいなぁ~、そういう目標って素敵……っわああ! 手元あぶないあぶないっ!」 「へ? あわわわっ!?」 危なっかしい手つきにハラハラとしつつ、隣で餃子を作っていた優はちらちらと様子を窺っていた。 救急セットはあるが、怪我をしないに越したことはない。 もちろん怪我をしてこそ覚えることもある、というのは自分の経験からも知っているが。 優の父親はシェフをしており、幼い頃から彼に料理を教わってきた。その過程でよく怪我をしたものだ。そんな父に対して母は誰もが認める料理下手で、よく大変なことになっているのを目にしていた。 (絆創膏、使うようなことにならないと良いが……) 子供を見守るような目をなんとか無理やり自分の手元に戻し、料理の続きを再開する。 優が作っている餃子は一般的な餃子ではなく、中にトマトとチーズを入れた洋風なものだ。チーズはモッツレラを使い、味付けには塩とブラックペッパーを使用する。 手馴れた手つきでトマトとチーズを切り、餃子の皮で包んで味付けを。そのままフォークの背を使ってふちを飾り付ける。 「へえー、見た目もキレイやなあ!」 「目でも楽しんでもらいたくて。そっちは何を作ってるんだ?」 優の視線の先にはエビや鮭、イカ、キャベツを切っているフィンの姿。 それらを麺と一緒にフライパンに入れ、じゅうじゅうと焼き始める。 「よくぞ聞いてくれました! ボクが作るのは「海鮮塩焼きそば」や!」 味付けには塩胡椒、そして少々の粉末鶏がらスープ。ついつい入れすぎてしまいがちだが、しょっぱくなりすぎないように注意する。 箸で適度に混ぜつつ調味料が麺全体に行き渡るようならし、最後に隠し味を入れた。 「この隠し味、なんやと思う?」 「……この匂いは……レモン汁?」 「正解! これ入れるだけでごっつ違うんやで!」 小瓶に入れたレモン汁を加え、ネギを散らせば完成だ。 負けていられないとばかりに優も餃子を次々に焼き上げてゆく。 一方その頃、ユーウォンは皆の料理している姿をじっと観察していた。 彼は味覚順応性が高いため、基本的に「まずい」と感じることがほぼない。つまりそれは自分の作ったものが他人にとって美味しいかどうかわからない、ということである。 (これを機に人に出せる料理を覚えられるといいんだけれど……) ソアの料理を覗いてみる。繊細な味をしていそうな水ようかんが見えた。 フィンの料理も覗いてみる。良い匂いの漂う焼きそばだ。 「なるほど、見た目も匂いも美味しいと思ってもらうのに大切な部分なのか」 ふむふむと頷き、ティーグの料理も除いてみた。カルサと一緒にオムライスを作っており、そこには普段は入っていなかったグリーンピースが入っている。上には茹でたブロッコリーがのっていた。ささやかだが、アレンジの大きな一歩である。 撫子と優のことは「家庭料理が得意そう」だとユーウォンは思っていた。 それは当たりで、お弁当も餃子もとても美味しそうに見える。 「……? ユーウォンさんも、何か作るんですか?」 ソアが気がついて声をかける。照れくさそうにユーウォンは答えた。 「今回は作れないかなぁ、あり物のごった煮が得意料理だから。だから、今回はお勉強」 「ごった煮、ですか……?」 「うん、結構奥は深いんだよ……人様には出せないけどさ」 まずいと感じなくても、食材が変わることで味が変化するのはわかる。それが面白いし楽しいのだ。 いつか皆に出せるようなごった煮を作ってみたい。ユーウォンはそう考えつつ、カルサのようにレシピのメモをとった。 ● 力仕事を得意とするソアにより、完成した料理がテーブルの上に並べられる。 大きいと思われたテーブルは埋め尽くされ、美味しそうな湯気を上へと漂わせていた。 「こ、こんな感じでどうかな?」 席につく前にそわそわとカルサが撫子にノートを見せる。 「頑張りましたねぇ、とってもみやすいですよぉ。あとはキャラ弁のみとかぁ、普通のお弁当のおかずとかぁ、ノートごとに変えていくと良いかもしれないですぅ」 「はーい! お弁当って結構難しいんだね……!」 こくこくと撫子は頷く。 「お弁当は汁気と保温に気を配りますからぁ、すぐ食べる料理より工夫が要りますよねぇ。また頑張って作りましょぉ☆」 「おーっ!」 あとはその完成したノートを友達に見せるのも良いとアドバイスし、撫子はイスに座る。 きっと、カルサも笑顔なら友達も笑顔になるだろう。 オムライスの家庭的な味に顔を綻ばせつつ、優はセクタンのタイムを手元へと呼び寄せておすそ分けする。タイムは卵の部分を特に気に入ったように見えた。 「とても美味しいよカルサ」 「ほんとほんと!?」 「うん、凄く。……これみたいに、カルサが今まで作って来た料理、その料理に工夫をくわえる事で全く別の料理になる。基本の料理をカルサは覚えたんだから、これからはカルサ自身が自分で新しい料理を作っていけばいいんだ」 「あたしの料理かぁ……。ほんとはね、ちょっと不安だったんだ。けど皆と料理してたら、出来る気がしてきたんだよ」 だから頑張るね。 そんな前向きな言葉を聞き、優は笑って頷いた。 カルサが自分自身で美味しいと思える料理。そして、それを食べた人も一緒に美味しいと笑ってくれる料理を作れるよう小さく祈る。 「そうだ、豆腐ハンバーグとかタルトタタンって知ってる?」 「なにそれ、教えて~!」 ……その料理のバリエーションが広がるのも、そう遠くはない。 「いっただきまーす!」 ティーグは両手を合わせて元気良く言い、優の餃子を口に運ぶ。トマトとチーズの味が口の中で広がって美味しい。 その隣でフィンがオムライスを食べているのを見て、そわそわしながら訊いた。 「ど、どうかな、ちゃんとできてるかな?」 「めっちゃ美味しく出来とるで! これはええおヨメさんになるなぁ!」 ぼふっと照れるティーグ。料理を褒められたのはいつぶりだろうか。 フィンの作った焼きそばを口に運んだのはソアだった。 エビの弾けるような旨味に目を丸くし、思わず箸が止まる。 「こんな美味しいものがあったなんて……! 世の中ってすごい……!」 「エビの歯ごたえがいいよね、あと……って、えっ!?」 共感していたユーウォンは元から丸い目を更に丸くした。 生まれて初めて感じる新しい美味しさに、ソアが思わず涙ぐんでいたのだ。心なしかあわあわとするユーウォンだったが、もう一口食べたソアがにっこりと微笑んだのを見てホッとする。 その様子をフィンが笑いながら見ていた。 「この料理はな~、ボクの父ちゃんの得意料理やったんや。美味しいやろ?」 「はい……!」 「へへへー、教えてもらった甲斐があるわ! ほんまはもっと手が込んどるんやけれど、これは簡単に作れるようアレンジしてあるんやよ。あとでレシピを教えよか?」 「いいんですか!? 是非お願いしますっ」 フィンは嬉しそうに頷いた。 父にもっと近づくことが出来たなら、その時は店用のレシピを教えてもらうことになっている。 もし教えてもらったらその時また皆に披露しよう、と密かに決意した。 最後に皆でキャラ弁を食べ、デザートに水ようかんを味わってから木の調査を終えた。 木は食材をそのまま実らせており、ティーグが新鮮さを確かめてみると、それはまさに採れたてのように新鮮だった。 魚や肉も同じで、傷んでいる様子もない。 その時実っている食材をメモし、一行は満腹になって幸福な気持ちと共に帰路へとつく。 「今度来た時はぁ、カルサちゃんの作った料理ノート、是非見せて下さいねぇ☆」 「もちろん! ノートいっぱいにして待ってるね!」 すっかり元気になったカルサが言い、そのままぴょこんとお辞儀をする。 笑顔に見送られながら6人はロストレイルへと戻っていった。 数週間後、定期的にお食事会のお誘いが送られてくるようになるのは、また別のお話。
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