白神山地。加賀の白山になぞらえたとするもの、山岳信仰の対象であったとするものなど、その呼称の由来に関して山の数だけ諸説が飛び交うこの地は、一方で太古の姿を今に留めるブナの原生林に覆われた連峰として、世界遺産に登録されてもいる。悠久の自然に育まれた独自の生態系が受け継がれている。
ひとたび足を踏み入れれば、きっとその意味を知るだろう。近年では観光地としての体裁を整える為に最低限人の手が施されはしたが、それを差し引いても尚。
未だ隆起を繰り返し急な斜面を形作る山々を。無遠慮でありのまま広大に生い茂るブナ達を。木と山を通して各所に涌き満つる澄んだ水源の数々を。そして、そこに息づく草花と共に生きる虫、戯れる野鳥、戦う獣の姿を――。
「連れてってくださいよう」
皆の前でガラが何やら鳴いている。
「寝言は現時点で仕掛かっている報告書の提出と現時点で導きの書に示されている案件の対処、現時点で打診を受けている懸念事項の提起及び対策を全て終わらせてから皆さんではなく館長に言ってください」
たまたま通りすがったリベルが、ろくに息継ぎも立ち止まりもせず言うだけ言って、そのまますたすたと行ってしまった。
「…………冗談はさておき」
ワインレッドのシルエットが見えなくなるのを確かめてから、ガラは改めて皆に向き直り、にへっと笑う。
「連れてってくださいよう」
だが、まだ寝ていた。
冗談はさておき。
「また白神山地に行ってくれませんか?」
なんだか仕事を溜め込んでいるらしい世界司書が言うには、先頃世界樹旅団との間に起きた戦いの後を見てきて欲しいとのことだ。
「まだ世界樹旅団が残ってないか、何か残してないか、確かめて欲しいんです」
とは言え、導きの書で幾ら視てもそれらしいヴィジョンは無かった為、実際に痕跡が見つかる確率は極めて少ないと言う。
「念のため、ね。でも、本当に何もないと残念じゃないですか。だから――」
「くれぐれも連れて行かないように。もっとも、確実に駅で止められますが」
「…………」
今の台詞は集まる旅人達へ向けられたものか。再び通り過ぎるリベルの背中におふぅとか変な溜息を吐いてから、ガラは嘘臭い悲しみの面持ちで話を続けた。
「ええとだから……ついでに遊んで来て下さいよう」
そんなわけで適当にお願いします。
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!注意!
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