ヘンリー&ロバートリゾートカンパニーに寄せられた企画案のいくつかは、有志による発案とともに、年越し特別便として運営されることが決定した。いずれも魅力的なリゾート企画揃いである。
「さて、それはそうと」
資料ファイルを閉じ、ロバートはヘンリーを振り返る。
「僕たちも今年は仕事納めにして、どこかで休養しないかい?」
「いいね。楽しそうな企画が多いことだし。どのツアーに同行する?」
「いや、それだと仕事の延長になってしまうので。個人的なものにしたいんだよ」
できれば、ティティを連れていきたくてね、と、ロバートはどこか面映そうな、素の笑顔を見せる。
「ティティ……、ああ、きみがカッパドキアで保護したという、ヴァン猫のユースティティアか」
ヘンリーは得心して頷く。
ロバートは以前、トルコ旅行の際に、ヒエラポリスの遺跡温泉で迷子の仔猫と遭遇したのだ。純白の毛並みに琥珀とトルキッシュブルーのオッドアイを持ち、泳ぎが得意なその仔猫は、『トルコの生きた文化遺産』ヴァン猫の特徴をそなえていた。
なぜそんな貴重な猫がそこにいるのかは不明なままに、政府の関係筋に話を通した結果、現在はアーサー・アレン・アクロイドの保護預りとなっている。普段はロバートの別荘で管理人が面倒を見ているそうなのだが。
もともとロバートは、動物と死に別れるのがつらくて、極力ペットは飼わないようにつとめてきたらしい。だが、ひょんなことから、世にも可愛らしい仔猫と縁ができてしまい、つまり今は、早い話が、ユースティティアと名付けたその仔猫に、
――骨抜きなのだった。
「ティティを連れていけそうな場所となると壱番世界になるのだが、都市観光ではないほうが良さそうな気がしてね」
「絶海の孤島とかかな?」
「そうだねぇ。たとえば――イースター島あたりはどうだろう?」
* *
「よーし、今年の大掃除はサボる! とっちらかって黒い羽根まみれのシオンくんの部屋は、本人が帰って来たら掃除させようそうしよう」
アルバトロス館とストレリチア館の寮母業務を、無名の司書は早々に切り上げた。
(アドさんとモリーオさんに謝らなくちゃ)
……悲観に囚われたままでは、何も好転しない。休むべきときに休んでおかないと、新しい一歩を踏み出すちからを蓄えられない。
「常磐(ときわ)たーん!」
「……はい?」
春の迷宮発生時、フライジングで保護されたゴイサギの少女に声を掛ける。朱昏出身の彼女を、シオンは何くれとなく気にかけていた。ターミナルに馴染めるようにと、ストレリチア館への入寮を勧めたのも彼だった。
常磐もまた、シオンの失踪にふさぎ込んでいたのだったが。
「久しぶりにロバート卿が、大枚はたいてロストナンバー貸し切り招待をしてくれるんですって。イースター島で羽根伸ばしましょ?」
* *
海を背に、集落を護るように、モアイ像は立っている。
ちょい。
ちょい。
ちょいちょい。
ガン・ミーとクロハナの尻尾に、ティティが交互にじゃれつき始めた。
クロハナは現地に到着するなり、もうもう、目を輝かせて走り回っており、その愛くるしさといったらない。
みかんどらごん司書は、何か壮大なことをやり遂げたかのように放心状態で仔猫に弄ばれされるがままだった。彼は出発前、「宿題」に必死に取り組んでいたのだが、その結果については、ここではツッコまないのがオトナのやさしさというものである。
「うっわ、ティティたんもクロハナさんもかっわいい。それに、ガン・ミーさんも。お疲れさまー」
「……頑張ったのだ……」
「いろいろ胸熱だわ。やだもうどうしようアドさん。鼻血が止まらない」
『オレの毛皮で鼻血ぬぐうなぁ! 血まみれじゃねーか』
「はいタオル」
「ありがとモリーオさん。巻き添えで血飛沫とばしてごめんね。ごしごし」
『まずオレを拭けー』
ぷんすかしたアドは、宿題かぁ、と、ガン・ミーのほうを見る。
『そういやオレ、なーんか忘れてる気がするんだよなー』
「アドさんも宿題抱えてるの?」
『さーな。取りあえず昼寝するわー』
ふぁあ、と、フェレット司書は大きく伸びをした。
白い仔猫はやがてひょいと顔を上げる。
次なる標的を見つけたのだ。
冷ややかな横顔のそのロストナンバーは、他の旅人とは距離を置き、静かに海を眺めていた。
その孤高の剣士ふうの彼に、ティティは走り寄った。漆黒のマントにじゃれつき、黒革のブーツに頭をこすりつける。
「……?」
突然のことに、剣士は仔猫を見やり、眉を寄せる。
「申し訳ないね。この子はとても人なつこくて、それも、動物が不得手なひとに構ってもらうのが特に好きなようで」
困惑する彼に詫びたロバートは、その顔を見て口元を綻ばせた。
「……やあセシル。イスタンブールぶりだね」
広がる青空を、カモメが飛び交う。
モアイ像がふと、微笑んだように見えた。
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●特別ルール
この世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。
帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。
http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html
!注意!
パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。
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