オープニング

 H県K市。
 かつては一面を山々に囲まれていたこの地は、ニュータウン開発計画により交通網が整備され、今では住宅地や商業施設といった人の生活圏が広がりつつあった。
 それでも街の喧騒を離れ、今も自然の残る山道へ入ると、そこには昔を偲ばせる古い家屋が点在しているのが見えるだろう。
 中には、もはや住む人とて無い廃屋も、わずかながら残されていた。

「うちのチロルが、いなくなっちゃったの」
 夕暮れの公園で、小学5年生の少女・篠塚あかりは、零れ落ちそうな涙をこらえながら、幼なじみの和久井浩太に打ち明けた。
「チロルって、おまえん家の猫だろ? ほら、あのアメショーの」
「うん、街の中全部探したけど、どこにもいなくって……」
「なあ浩太、俺たち今から、こないだ言ってた町外れの廃校舎に探検に行くんだ。お前も一緒に行かないか?」
 浩太にそう声をかけたのは、二人の共通のクラスメート・高崎茂だ。明るい性格だがお調子者で、よく悪戯やトラブルを起こしては、担任教師から大目玉を食らっている。
「廃校舎って、俺たちが生まれる頃につぶれたとかいう、あの山の側のか?」
「そうそう、あのボロいお化け学校」
 折からの少子化と、ニュータウン計画の一環により、この街の小学校は何度か統廃合が実施されている。
 彼等が住む市街中心部には真新しく綺麗な校舎が立ち並ぶ一方、開発の遅れた外縁部には、廃校になった小学校の校舎がそのまま放置されていることも珍しくなかった。茂の言う『お化け学校』は、そうして放置された廃校舎の一つである。
「兄ちゃん……本当にあそこに行くのぉ……やめようよぅ……」
 気弱な声を上げるのは、茂の一歳年下の弟・司。兄とは対照的に、学業は優秀だが運動オンチで臆病な面のある少年だ。
「何言ってんだよ司。嫌ならお前一人で留守番しててもいいんだぜ?」
「そんなあ……」
「それにさ、あの廃校舎からは最近、夜な夜な犬の鳴き声がするって噂だぜ。それもただの泣き声じゃねえ。地獄の底から響いてきそうな……えーと、ダンネツザイ?」
「兄ちゃん、それを言うなら『断末魔』」
「そうそう。そのダンマツマってやつ。なんか野良犬とか、ペットとかが迷い込んでんじゃねえか?」
 茂の最後の一言が、ためらっていたあかりの背中を押した。
「私も行きたい……もし本当にペットが迷い込んでいるのなら、チロルもそこにいるのかも……ねえお願い! 私も一緒に連れてって!」
 浩太は渋い顔をした。本心では彼女を連れて行きたくは無い。それでなくても、茂がドジを踏まないか、司が怪我をしないかと心配で、此度の探検には積極的に賛成する気になれなかった。しかし、ああ見えてあかりは結構ガンコなところがある。基本的には大人しい少女だが、一度決意したことは貫き通す一面があることを、長年付き合ってきた彼は知っている。一度決めたらテコでも動かないだろう。大好きなチロルが見つかる、その時まで。
「しょうがないなあ……何があっても俺のそばを離れるなよ、いいな?」
「うん! ありがとう浩太くん!」
「よーし、そうと決まりゃあ早速出発だぜ!」



「壱番世界に、ファージ型の『落とし子』が出現したわ」
 世界司書のオリガ・アヴァローナの言葉に、ロストナンバーたちは先の北海道での激しい戦いを思い出す。『ディラックの落とし子』……世界を狂わせ、侵食し、虚無へと返す恐怖の存在。全てのロストナンバーたち……否、全ての世界の『敵』。
『落とし子』には二種類が存在する。一つは実体を持ち、単体で活動する『ワーム型』。もう一つは実体を持たず、別の生物に寄生して活動する『ファージ型』。先刻オリガが言った『ファージ型』とは、後者のことを指す。
「H県K市に出現したファージは、現地に生息していた蜘蛛に寄生し巨大化。世界図書館は現時刻をもって、ファージにより変異したこの個体をコードネーム『アラクネ』と呼称し、討伐対象として認定した……その『アラクネ』を倒すことが、今回のあなたたちの任務よ」
 手元の『導きの書』をめくりながら、オリガは説明を続ける。しかし、冷静に振舞いながらも、その手は小刻みに震えているように見えた。
「『アラクネ』は同市の一角にある廃校舎を占拠し、その内部に巨大な巣を形成。巣にかかった獲物を捕食していると報告されているわ。現場は市の中央部から離れた山林に近い地域で、今のところ被害に遭っているのは、近隣に生息する野鳥や野良犬、野良猫といった動物だけなのだけど……もし人間にまで被害が及ぶようになったら……」
 オリガの声は震えていた。その先に待つ『悪い予感』を恐れるように。
「時間が無いの。一刻も早く現地へ向かって頂戴。『導きの書』には現地の人間、しかも子供が犠牲になるという予言が記されているわ……どうかみんなの手で、彼等を救ってあげて。お願い……」



 埃を被ったベッドの上。頭からすっぽりと布団を被って、司はがたがたと震えていた。
 目の前に突然、白く太い柱が降りてきて、兄たちとはそこではぐれてしまった。
 ねばつく蜘蛛の巣と、時折襲い掛かる柱を避けながら逃げ込んだそこは、ツンと鼻を突く薬品の臭いが僅かに染み付いて、どこか心落ち着く場所でもあった。
 でも今は、その静けさが更に不安を掻き立てる。あの白い柱が、またいつ襲ってくるのか。
「兄ちゃん……怖いよお……」

 ひらがなばかりの張り紙と、少し不恰好なチューリップの絵。
 それ以外は、真っ白なもやがかかったように、蜘蛛の巣に視界を阻まれて見えない。
 2階への階段を上りきったその時、肩にふわりとした感触が降りて、気が付くと茂はそこにいた。
「くそっ……どうなってんだよ……」
 最初はたかが蜘蛛の巣、簡単に手で払いのけられると侮っていた。しかし、幾ら払いのけても、目の前の蜘蛛の巣は減るどころか、どんどん腕に絡みつくばかりだ。
 そんな危機的状況にありながら、彼は何故か、昔家族みんなで行った、縁日の綿菓子屋台を思い出していた。硬い粒状のザラメが加熱された途端、細い糸状になって、割り箸に絡みつく様子を。
「……ちくしょう、腹まで減ってきやがった……」
 時と共に増してゆく空腹感が、焦りを更に加速させる。
「こんなとこ、絶対に抜け出してやる……!」
 茂は気付かなかった。その背後に、無数の小さな蜘蛛の群れが忍び寄っていることに……。

 部屋一面を覆いつくす、白く細い糸。
 無数の糸は複雑に撚り合い、絡み合い、ザイル程の太さになって、あかりの体を強固に縛り付けていた。
 目の前にはずっと探していたチロル、そこからやや離れたところに浩太が、ぐったりした様子で同じように拘束されている。
 茂と司の姿は見えない。無事でいるのか、それとも……。
「浩太くん……みんな……」
 更にその奥を見て、恐怖に目をそらす。視界の先に人の骸骨が見えた。
 ただでさえねばついた糸は、絡み合うことで強度を増し、幾らもがいても切れたり緩んだりすることはなかった。
 そして……少しずつ、ほんの少しずつだが、自分達の体が一方向に引き寄せられているのが分かる。
 その先で待ち構えているのは……全長が人間の倍ほどもありそうな巨大な蜘蛛の顎(あぎと)。

「誰か……助けて」

品目シナリオ 管理番号268
クリエイター石動 佳苗(wucx5183)
クリエイターコメント・クリエイターコメント

 こんにちは、石動です。
 今回は壱番世界を舞台にしたシナリオをお送りします。

 今回の依頼は「ファージ型落とし子に寄生され怪物化した蜘蛛『アラクネ』の討伐」です。
 舞台となる廃校舎は、横幅が東西に長い木造3階建てで、各階を結ぶ階段は、東西の端と中央の計3箇所にあります。
 各階の構造は、それぞれ中央階段を挟んで

 1階東側=校長室、職員室、保健室:1階西側=給食室、放送室、用務員室
 2階東側=低学年(1~3年)の教室:2階西側=図工室、家庭科室、
 3階東側=高学年(4~6年)の教室:3階西側=音楽室、理科室

 となっています。
 校舎内は一部を除いて『アラクネ』の糸が縦横無尽に張り巡らされており、進路が塞がれて迷宮化しています。
 不用意に糸に触ると絡め取られてしまう恐れもあるので、気をつけてください。
 校舎内の備品は、廃棄処分にかかる費用削減のため(給食室横のプロパンガスボンベなど一部危険物を除いて)殆どが放置されています。PCの皆さんは、探索中に見つけたこれらの備品を利用することも可能です。ただし、中には風化していたり腐っていたりして使い物にならないものもあるかもしれません。

 他には別棟で体育館がありますが、ここは『アラクネ』の制圧下にはありません。
 また、子供達よりも以前に捕らえられた野良犬等は、既に『アラクネ』に食われたか餓死したかで、生存している個体はありません。

 建物の構造とオープニング中のヒントを元に『アラクネ』と子供達の居場所を特定し、ターゲットを排除した上で捕らわれた4人+1匹を救出してください。
(最優先事項は「ファージ変異獣の討伐」なので、『アラクネ』さえ倒せば依頼は達成した事になります。ただし、子供達にもしものことがあれば、彼等の家族とオリガは酷く悲しむことでしょう)

『アラクネ』の攻撃方法についても、本文中にヒントがございます。
 戦闘系の特技やトラベルギアがあれば有利ですが、力押しだけでは依頼の達成は難しいでしょう。
 逆に言えば、戦闘系PCでなくても、工夫次第で活躍することは十分に可能です。
 色々と知恵を絞って考えてみてください。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

参加者
レオンハルト=ウルリッヒ・ナーゲル(chym3478)ツーリスト 男 36歳 喪服の旅人
冷泉 律(cczu5385)コンダクター 男 17歳 貧乏性な大学生
黒葛 小夜(cdub3071)コンダクター 女 10歳 小学生
デュネイオリス(caev4122)ツーリスト 男 25歳 女神の守護竜兼喫茶店主

ノベル

 H県K市郊外。
 かつて「K郡」と呼ばれていたそこは、山々の彩りや田畑の実りに溢れ、小さいながらも人の息吹に満ちた、のどかな「村」であった。
 しかしニュータウン開発計画により市民の生活圏が移動して以来、住民は一人去り、二人去り、次第に田畑も荒れ果てて、今や人影を見ることすら極稀となっていた。
 そんな、忘れられた村の一角に、今はもう廃校となった小学校の校舎が、ひっそりと佇んでいる。
 苔むした柱、所々剥げたペンキ。ひびの入ったモルタル……終戦直後に建てられて以来、幾度かの改修工事を経てもなお、老朽化の波を乗り越えることは叶わなかった。
 今や通う児童とてないはずのこの校舎を、偶然にも四人の子供が訪れ、そしてそのまま姿を消した。
 異世界からの災厄に触れた「怪物」が、そこに潜んでいるとも知らず……。

 山間の線路は、錆びたレールと枕木だけを残し、今はもう列車が走ることも無い。
 その廃線を静かに、人知れず、この壱番世界――少なくとも現在運行中の日本の鉄道には存在しない、西欧風の意匠も美しい列車が走る。
 そして小さな廃駅に、その列車――螺旋特急ロストレイルは到着した。

 無人のホームに下りた四つの人影は、そこから程近い廃校舎へと急ぎ足で向かう。
 程なく、西の空に傾く夕日に照らされオレンジ色に染まった、ボロボロの校舎が見えた。
「あれが、問題の廃校舎……」
「オリガからも聞いていたけど、中は蜘蛛の巣でものすごいことになっているらしいね」
 今は化け蜘蛛が支配する牢獄と化したこの校舎を、黒葛 小夜と冷泉 律は、緊張した面持ちで見つめる。外観を眺めただけでは、中の様子は窺い知れず、物音一つ聞こえない。
 捕らわれているはずの子供達の気配がないということは、――既に食われたのでなければ――身動き一つ出来ないほどの危機的状況にあるに違いない。
「静かなものだな……静かすぎて、嫌な感じだ……」
 冷たい風の音だけが耳元を微かに過ぎゆく中、一行の中でも一際目立つ竜人、デュネイオリスは呟いた。人気の無いこのあたりは、ロストレイルが乗り入れたり、彼のような異界の者が活動するには確かに都合が良い。しかし、もし『導きの書』の予言がなければ……子供達はこの世界の誰にも見つからぬまま、『アラクネ』――ディラックの落とし子により怪物と化した蜘蛛の餌として、その幼い命を奪われていたことだろう。
「落とし子の討伐もだが…子供の命、散らす訳にはいかんな」
 そんなことが断じてあってはならない……それは、この場にいる全員の思いであった。
「行こう。こうしている間にも、子供達は命の危機に晒されている。今は少しでも時間が惜しい」
 レオンハルト=ウルリッヒ・ナーゲルの言葉に、皆は深く頷いた。
 辺りは既に夕闇に覆われ、夜の帳が下りようとしている。日が完全に暮れ、校舎内が完全に闇に覆われれば、子供達の救助はより困難になるだろう。
 旅人達に残された時間は、あまりにも少なかった。



 校舎中央、正面玄関の扉を開けた途端、一行は眼前の変わり果てた光景に絶句した。
 たくさんの靴箱が並ぶ広い玄関は、辺り一面を無数の蜘蛛の糸に覆われ、真っ白に染まっていた。まるでロープやザイル並みの太さを持つ白い糸の合間を縫って、触れただけであっさりと壊れてしまうほど繊細な、ありふれた蜘蛛の巣までもが幾重にも張られている。ありえない太さの方が『アラクネ』によるものだとすれば、通常サイズの巣の方は、アラクネが従属させた普通の蜘蛛が、それを補完するような形で張ったものだろう。それ自体は簡単に払いのけられるとはいえ、薄くもやがかかったように視界が遮られるのは厄介だ。うっかりすればより粘度の高いアラクネの糸にかかったり、死角から思わぬ襲撃を受けるかもしれない。あるいは、それこそがアラクネが従属種に命じて巣を張り巡らせた目的ではないかとも思える。
「まずは、こいつを排除しなくてはな」
 レオンハルトはそう言うと、持っていたナイフで自らの指を傷つけ、少しずつ血を流す。床に落ちた血だまりから、人の顔ほどの大きさをした『黒蜘蛛』――彼の特殊能力【血の万魔殿】により使役する魔の一つ・ブラックウィドウの分身が次々と生み出される。
 床と言わず天井と言わず、『黒蜘蛛』の群れはレオンハルトの命令を受け、一斉に校舎中に散会していった。
「あれに、ここの糸を食わせる。視覚や聴覚も共有できるから、奥の様子も探れるだろう」
『黒蜘蛛』が糸を食べている間、一行は現在の状況と、これまでに得た情報を再確認する。
「詳しい情報までは分からなかったけど、捕らわれた子供達の状況は、オリガの『導きの書』にも書かれてた。薬品臭のするベッド、ひらがなばかりの張り紙、そして人の骸骨……『薬品臭のするベッド』は保健室、『ひらがなばかりの張り紙』は1年生の教室で間違いないと思う。『人の骸骨』は、まだ人間に被害が出ていないなら『本物の骨』ではない……ということは、骨格標本のある理科室」
 小夜の推測は、現役の小学生であるだけに的を射たものであった。
「しかし我々には、それぞれの部屋の詳細な位置は分からない。それに探す範囲は決して狭くない。一塊よりも、二手くらいに別れて行動する方が良いと思うが、どうだろう」
「そうだね。連絡はトラベラーズノートで取り合うということで、いいかな?」
 デュネイオリスと律の言葉に皆異論はなかった。事態は一刻を争う。特にアラクネに最も近い理科室の2人は、可及的速やかに発見、保護しなくてはならない。
「それでは、私とレオンハルトが2階から上を探索しよう。たとえ上階層で何かあっても、私ならこの翼で飛ぶことが可能だからな。律と小夜はこの1階を頼む。発見次第、速やかにこの中央玄関へ誘導しそこから脱出。子供達4人全員の保護を確認した時点でアラクネを撃破、という流れでいこう」
 デュネイオリスの提案に一同は頷き、それぞれに子供達の探索へと一歩踏み出した。



「……静かだね」
 人気の無い1階の廊下を、小夜と律は連れ立って歩く。レオンハルトの『黒蜘蛛』が食らい切れなかった糸は、2人のセクタン・フォックスフォームが放つ狐火で少しずつ焼き切り、直接触れないようにと細心の注意を払う。
「あの3箇所の中で1階にあるといえば……やはり保健室かな?」
「たぶん。私の学校でも、保健室は1階だった」
 建築様式や地形の都合にもよるが、学校の保健室は通例1階に位置することが多い。運動場で怪我をした際の保護や病院への搬送といった救急処置を円滑に行うため、というのが主な理由である。
 彼らの読みどおり、職員室を過ぎ、蜘蛛の巣が途切れたあたりに、保健室の表札が見えた。

 埃を被った薬品棚と養護教諭用の机。更にその奥に、カーテンで仕切られた2台のベッドが並ぶ。そのうちの1台の上で、少しくすんだ白のシーツがこんもりと山を作っていた。丁度、子供一人が隠れるぐらいの大きさだ。
 周囲に敵の気配がないのを確かめた後、小夜はそっとは声をかけた。
「……高崎司くん、だね?」
「……誰?」
 突然の、あかりではない少女の声に、シーツの隙間から小さな子供の顔が覗く。泣きはらした瞳も、こすりすぎた頬も、真っ赤に染まっていた。
 視界に2人の人影――自分と同じ年頃の少女と、それより少し年長の少年の姿を認め、司はシーツを払いのけ、恐る恐る起き上がった。
「助けに……来てくれたの……?」
「ああ、この廃校に怪物が住むという噂を聞いて、そいつをやっつけにきたんだ」
「……うっ、うっ……うわぁぁぁぁぁん! ぼ、僕、とっても怖かったよう……!!」
 緊張の糸が切れたのか、司は突然大声で泣き出し、律の胸にすがりついた。彼等が一体何者なのか、何故「怪物」のことを、そして自分の名前を知っているのか、そんなことは今はどうでも良かった。この恐怖から救い出してくれる、自分と同じ「人間」のぬくもりが、恐怖に凍てついた司の心を次第に溶かしていった。
「そうだ! 兄ちゃんはどこ? ここに来るまでに見たでしょ? あの白くて大きい柱。僕たちそいつに襲われて、気が付いたらみんなとはぐれちゃって……」
「大丈夫。僕たちの仲間が助けに行っている。とにかく、今はここから脱出しよう」
 律は司の震える肩に優しく手をかけた。この保健室に来るまでに廊下の糸はある程度排除したが、いつアラクネやその配下の蜘蛛に気付かれないとも限らない。アラクネのいる理科室の正確な場所が分からない以上、出来る限りリスクは減らしたい。ならばと律は、保健室の窓を開けようとする。しかし、長年使われなかったせいか、異様に立て付けの悪い窓は、いくらこじ開けようとしてもなかなか開かない。
「それなら、これで!」
 トラベルギアの薙刀を振るい、窓ガラスを破壊する。粉々になったガラスの破片が足場となる窓枠に残らないようにと念入りに叩きつけた後、律は司と、そして薬棚で何か使えそうな薬品を探していた小夜を呼び寄せた。
「小夜、君はこの子と一緒に、外で待っていてくれ。僕はこれから、この子のお兄さんを探しに行って来る」
「三人だけで、本当に大丈夫なの?」
「もう夜も近い。いくらアラクネが来ないからといっても、暗い中でこの子をひとりには出来ないだろう? それに、出来れば年齢の近い君が一緒にいてやった方が、多分この子も安心すると思う」
 律の言うとおり、既に夕日はその半分が地平線に隠れ、東の空は宵闇の紺青に染まっていた。すがるような瞳でこちらを見つめる司の様子に、小夜もまた、彼を支えてやりたいと心から思う。
「……わかった。じゃあ、これを持っていって。アラクネ相手に通用するかどうか分からないけど、少なくとも雑魚の蜘蛛避けにはなると思う」
 そう言って小夜は律に、消毒用エタノールの入った遮光瓶を手渡した。開封済みのものは既に気化してしまっていたが、唯一未開封だったその1本は何とか使えそうだ。
「ありがとう。じゃあ、行って来る」
 小夜と司の2人が窓から脱出するのを見届け、律はトラベラーズノートを開き、上階の2人にメールを送った。
「保健室にいた司君は無事救出した。これから他の子を探しに、僕も2階へ向かう」



 律と小夜が保健室で司を発見、保護したのとほぼ同時刻――。

 2階の中央階段に程近い、1年1組の教室。その教壇の真下の床に、大きな繭状の白い塊が転がっている。
 中にいるのは、司の兄・茂だ。
 暗がりの中、不意にその身を覆う柔らかな感触。
 ねばついた白く細い糸が無数に絡みつき……気が付けば彼はこんな姿になっていた。
(何だよこれ……俺、綿菓子にされちゃったのかよう……)
 ありえない事態に、普段は豪胆な彼も泣きが入る。
 もしゃもしゃもしゃ……
 耳元で、何かが繭を食む音が聞こえる。
(ああ、俺、このまま綿菓子みたいに食われちまうのかな……)
 恐怖の果てに絶望を覚え、最期の時に怯え震える。
 しかし、その咀嚼音の主が、彼自身を食らう気配はなかった。それどころか、徐々に繭の戒めが解け、自分の体が解放されて行くのが分かる。
「……大丈夫か?」
 気が付けば、繭に空いた隙間から誰かが覗き込んでいた。普段はまず見かけることの無い、白い髪に赤い瞳をした異貌の男。それでも茂には何故か「この人は味方だ」と確信できた。
 ふと見ると、大きな黒い蜘蛛が、今まで彼を閉じ込めていた蜘蛛の糸を食べていた。最初は『黒蜘蛛』の大きさにおっかなびっくりしていたが、どうやら自分に襲い掛かる気配はないようだ。更にその向こう側では、他の『黒蜘蛛』が更に小さな蜘蛛の群れを捕食しているのが見える。先刻、茂を糸で絡め取ったのは、食われている方の蜘蛛だろう。
「心配ない。君を捕らえていた蜘蛛の群れも、この辺りに張り巡らされた糸も、全てあの『ブラックウィドウ』が食べてくれる」
「……そうだ、司は? 浩太やあかりはどうなったんだ?」
「君の弟や友達は、私の仲間が救出に向かっている……今、1階で君の弟が救助されたようだ」
 自身のトラベラーズノートを確認し、律からのメッセージを伝える。彼の口調はあくまでも余計な感情を挟まない冷静なものだったが、可愛い弟が救出されたという吉報は、それまで言い知れぬ不安にかられていた茂の心を安堵させるには十分だった。
「急ごう。奴が巣を張りなおす前に。ここを脱出するぞ」
「ああ! ……待ってろよ、司。今兄ちゃんも行くからな!」
 自らに言い聞かせるように呟くと、茂は立ち上がり、レオンハルトと共に教室を後にした。



 理科室とは、一部の子供にとって「恐ろしい場所」である。
 骨格標本の他にも、人の皮を剥ぎ内臓を露わにした姿を模した人体模型、ピンで磔にされた蝶の群れに、ホルマリン漬けにされた爬虫類の死骸。それが只の作り物だと、或いは既に物言わぬ存在だと分かっていても、グロテスクな外観や「それが作られた過程」につい思いを巡らせてしまい「怖い考え」になってしまう子供は、決して少なくない。まして、それが人気の無い暗闇の中であれば尚更。
 驕慢の罪ゆえに神の怒りを買い、醜い蜘蛛の姿に変えられた愚かな女――『アラクネ』の名を与えられた怪物は、まるで我こそが地獄の主だと言わんばかりに、この「恐ろしいもの」が満ち溢れた場所に鎮座ましましていた。

 その『地獄』に捕らわれた2人と1匹。その中で最も早く意識を取り戻したあかりは、自分達の置かれたあまりにも悲惨な状況を否応無しに思い知らされた。
 先に捕まった野良犬の死骸が、大きな口に飲み込まれかけるのが見えた。飲み込む瞬間を見るのがあまりにも怖くて、思わず目を閉じる。
 骨を砕く音と唾液を垂らす音が入り混じった、嫌な咀嚼音。何が起こっているかなんて、想像したくない。
 このままでは、私たちも同じように、あの大きな蜘蛛に食べられる。あの骨格標本と同じ、骸骨になってしまう。
 ……助けて。
 その悲痛な叫びは、恐怖のあまり喉の奥で塞き止められ、声にすることが出来ない。
 あかりが自らの運命を悟り、絶望に打ちひしがれたその時、

 目の前に、大きな人影が見えた。
 それも竜と人とを掛け合わせたような、異形の姿。
 小さな頃に読んだ絵本で、或いは最近遊んだテレビゲームで見かけたような、この世界に存在しえない「竜人」。それが今、現実のものとして目の前にいる。
 しかし、その竜人――デュネイオリスを目の当たりにしても、あかりは不思議と「怖い」とは思わなかった。むしろこちらの様子を案じる瞳の奥に、その優しい心を感じ取り、安堵すら覚える。
「おじさん……誰?」
「しっ……静かに」
『おじさん』の言葉にデュネイオリスは微苦笑を浮かべつつも、それが彼の威風堂々とした佇まいが醸し出す「頼りがい」への賛辞と受け止め、改めてこの幼子等を愛しく思う。そして、あかりの体に当たらないよう細心の注意を払いながら【黒炎】を放ち、彼女を戒めていた蜘蛛の糸を焼き切った。
 拘束が解け、あかりの体は床にそっと舞い降りる。【黒炎】の余熱による乾燥で糸の粘度や強度も落ち、体に絡みついた分も何とか自力で払いのけられるようになった。やや粘つく感触は残るものの、ひとまず動くのに支障は無さそうだ。続いて浩太、そしてチロルも同様に救い出される。
「チロル……チロル! 良かった……生きてる」
 あかりはずっと探していたチロルを抱きしめると、まだぐったりした様子の浩太のもとに駆け寄った。
「う……うーん……ここは?」
「浩太くん! 気がついたのね?」
 チロルも含め、子供達は長時間の拘束で幾分憔悴してはいたが、命に別状はなさそうだった。十分な休養とケアがあれば、程なく回復するだろう。
「行け。ここに来るまでに、通路を塞ぐ糸は粗方排除した。君たちの友人は、今頃は私の仲間たちに救出されているだろう」
「おじさんは……どうするの?」
「あの怪物を倒す。あれを放っておいては、また犠牲者を増やすだけだからな。……時間が無い。君たちの拘束を解いた際の振動で、奴もこちらの異変に気付いたはずだ。奴の攻撃が向かってくる前に、早く!!」
「うん、分かった。おじさんも必ず勝ってね!」
 自分達を救ってくれた「恩人」の姿を何度も振り返りながら、浩太そしてチロルを抱いたあかりは、急ぎ足に理科室を去り、階段を駆け降りていった。
 子供達の姿が視界から消え去ったのを確かめ、再びデュネイオリスはアラクネに対峙する。
 アラクネの瞳がこちらに向かい、不気味に光る。
 どうやら折角捕らえた『餌』に逃げられたこと、そしてそれを逃がした『敵』――デュネイオリスの存在に気付いたようだ。
「来い、化け物……!!」
 彼は叫ぶ。子供達が無事に逃げ切るまで、決してここから先は通すものかと、強い意志を込めて。



 階下へと向かうあかりたちが2階の踊り場にさしかかると、レオンハルトと律に伴われた茂の姿が見えた。
「みんな!」
「あかり! 浩太!! 無事だったんだな」
「『竜のおじさん』に助けてもらったの。チロルも一緒よ」
 胸に抱いた子猫を見せて、あかりは微笑んだ。
「デュネイオリスか……やったな」
「保健室にいた司君は、先に運動場に避難してる。小夜が一緒だ」
 お互いの無事を喜び合う3人の子供達の姿を見届けた後、レオンハルトは彼等の身柄を律に預けて言った。
「……君は、この子達を連れて外で待機してくれ。私はこれから、アラクネと戦うデュネイオリスを援護するため、3階へ向かう」
「本当に……二人だけで大丈夫なのかい?」
「問題ない。それに、同じ壱番世界出身の君達がついていれば、子供達も安心だろう」
 今しがた自分が小夜に向けて言った言葉を今度はレオンハルトから言われて、律は苦笑する。自分よりも年下の「子供」に対する「信頼」と「心配」という相反する思い。自分が小夜に感じたそれを、今またレオンハルトは自分に感じているのだろう。その心遣いに素直に感謝の意を表す一方、胸の奥で「もっと強い大人になりたい」という思いを新たにする。
 そして、今この場ではあえて口にはしなかったが、レオンハルトの胸にはもう一つの思いがあった。彼の使う【血の万魔殿】は、血液に魔力を宿らせ使役するものだ。容姿だけなら『旅人の外套』の効果で気に留められることはないが、特殊能力の行使となるとそうもいかない。不用意に流血の場面を子供達に見せて、怖がらせたくはなかった。
「……絶対、無事に帰ってきてくれよ」
「ああ。子供達のことは任せた。私も彼も、必ず奴を倒して帰ってくる」
 そう言い残し、レオンハルトは3階への階段を駆け上った。理科室では今も、デュネイオリスがアラクネとの死闘を繰り広げているはずだ。

 ディネイオリスは、思いの外苦戦していた。
 アラクネが吐き出す太く硬質な糸と、その従者である小蜘蛛が吐き出す、繊細でしなやかな糸。ここに辿り着くまでの「糸の迷宮」がそうであったように、細い糸には単体での攻撃力はないものの、周囲の視界を曇らせ、アラクネ本体の攻撃を覆い隠す効果があった。
 こちらの予測を越えた変幻自在の糸攻撃は、彼を容赦なく翻弄する。
 襲い掛かる糸を【黒炎】で焼き切ろうとするが、子供達の脱出が完了するまでは、迂闊に校舎を延焼させるわけにはいかない。故に彼は、全力で【黒炎】を使うわけにもいかず、その威力や方向に至るまで、常に気を遣いながら戦わねばならなかった。
(あの子らは、無事でいるだろうか……)
 葛藤と焦燥が、次第に彼を追い詰めていった。

(……!?)
 それまでも少しずつ、糸を食べてはアラクネに捕まり食われていた『黒蜘蛛』の数が一気に増えた。
 それと時同じくして、視界の端に見覚えのある長身痩躯の人影が映る。
「ディネイオリス、無事か?」
「……レオンハルト!!」
 今までこの校舎に放った無数の『黒蜘蛛』を全て引き連れ、レオンハルトが現れた。
「君が逃がしてくれた2人も含め、子供達は全員保護した。今は律と小夜の2人と一緒に、運動場に避難させている」
「そうか……良かった」
「今までよく持ちこたえてくれた。私も手を貸そう」
「ありがたい。恩に着る」
 そしてレオンハルトは、改めて初めて出会う『敵』、アラクネに向き直る。
「……腹が減っているのだろう? 存分に食らうがいい」
 彼の命令と共に、一斉に『黒蜘蛛』がアラクネに襲い掛かる。しかし、いくら数に勝るといっても、あまりにも大きさが違いすぎた。黒蜘蛛たちは1匹、また1匹とアラクネに捕らわれ、次々に食われてゆく。それこそがレオンハルトの狙いであった。アラクネに食われた黒蜘蛛は、本来の姿であるレオンハルトの血に戻る。大量の黒蜘蛛を食ったアラクネの口内そして体内は、やがて真っ赤な鮮血に満たされていった。
「……出でよ、コキュートス」
 氷獄コキュートス――ブラックウィドウと同じく【血の万魔殿】の力のひとつである。その力は、名が示すとおり『冷気』を司るもの。突然体内を急速に凍らされ、さしものアラクネも耐え切れず苦痛にのた打ち回りながら咆哮を上げる。更に追い討ちとばかりに、レオンハルトの手首から噴出した血が雨のように降り注ぐ。その血もコキュートスへと変化し、中も外も冷気に覆われたアラクネは、周囲の巣諸共、完全に物言わぬ氷像と化した。
「これで終わりだ……!」
 ディネイオリスの拳が、巨大な蜘蛛の氷像を激しく打ち砕く。『ディラックの落とし子』という悪魔に魅入られ、この忘却の居城で魔王として君臨していた『アラクネ』は、異界の竜人の一撃であっけなく砕かれ、無数の小さな氷の欠片に姿を変えた――。



 運動場では、既に脱出を果たした4人の子供達が、3階の一角を心配そうに眺めていた。
「おじさんたち、大丈夫かなあ……」
「大丈夫。必ず勝つよ」
 不安げに校舎を見つめる子供達に、小夜は優しく語り掛ける。
 夜の寒空の中、律の淹れてくれた紅茶とキャラメルの甘さは、不安にかられる子供達を、心身共に暖めてくれた。

 やがて激震、轟音。そして、この世の者ならざる、異様な叫び。

 幾許かの時が過ぎた後、校舎から出てくる二つの人影が見えた。
「レオンハルト! ディネイオリス! 無事でよかった……」
「おじさん!! あのお化け蜘蛛はどうなったの!?」
「……大丈夫。倒した」
 竜人のデュネイオリスと常に冷静な表情を崩さないレオンハルト。顔立ちから明らかな笑みを見ることこそ無かったが、その瞳の奥の優しい光が、全てを物語ってくれた。
 律と小夜を含めた6人の少年少女たちが、歓喜の声を上げる。
「ありがとう……本当にありがとう!」
「やっぱおじさんはすごいや! 正義のヒーローみたいだぜ!」
 感謝の言葉と共にすがりついてくる子供達の頭を、ディネイオリスはそっと撫でてやる。こういうことに慣れていないレオンハルトも、内心では決して悪い気分ではなかった。
「あ、星が……」
 あかりの言葉に、その場にいた全員が空を見上げる。いつしか空は、暗闇の中を満天の星が彩るプラネタリウムと化していた。
「きれい……」
「この日本にも、まだまだこんな場所が残っていたなんてね」
「街の中じゃあ、こんなに星が見えたことなんてなかったよ」
 初めて見るこの美しい星空に、皆思い思いに感慨を口にする。その様子を見て、律は隣にいるデュネイオリスに問いかけた。
「ねえ……この子達を乗せて、ちょっとだけ空を飛んでみるって、どうかな?」
「こんな所でか? 確かに、この星空の下を飛べたらどんなに気持ちがいいだろうとは思ってはいたが……もし誰かに見つかったらどうする?」
「そんな高くじゃなくていい。この辺りは人気もないし、万が一見られても、短時間なら『都市伝説』として誤魔化せると思う」
「僕も空飛んで見たい!」「ねえ、おじさん。いいでしょ?」
 無邪気な子供達にねだられては、デュネイオリスも無碍に断るわけにはいかなかった。
「いいだろう。少しだけだぞ?」
「小夜もあの子達と一緒にどうだい?」
「え……私もいいの?」
 戸惑う小夜の手を握って、司が「いいんだよ」と言う様に頷く。
 そしてディネイオリスは「本来の姿」である巨大なドラゴンへと変化した。小夜を含めた5人の子供達が一斉にその背に乗る。念のため校舎に残っていた縄跳び縄を命綱として体に結わえ、しっかりと体につかまる。
 ゆっくり、そして力強く翼をはためかせ、子供達を乗せた竜は夜空に舞った。
「……すごい!」
 思いもかけぬ星空の冒険に、誰もが感嘆の声を上げた。降るような星を、月を、これほどまでに間近で見たことなどなかった。
「こうして見ると、僕らの街も星空みたいだね」
 浩太がふと呟く。地上にいた時は気付かなかったが、人の営みの証である「街の灯」を今こうして見下ろすと、まるで天上の星が舞い降りたかのように見えた。
 司が、おずおすと小夜に声をかける。
「ねえ……僕たち、友達になろうよ!」
「ありがとう。でも私、本当は遠くから来たから、自分の家に帰らなくちゃいけないの。ごめんね」
「そっか……でも、また会えるよね? 今度住所教えてよ。僕、手紙書くからさ!」
 屈託の無い司の笑顔に、小夜もまた微笑を返す。胸の奥の小さな「痛み」を、彼に気取られないように。
 二人が「友達」でいられる時間は、恐らくそう長くはないだろう。時と共に彼等はいずれ歳を取り、大人になってゆく。しかし、時の流れから取り残されたロストナンバーの自分は、いつまでも子供の姿のままだ。次に会った時、自分だと気付いてもらえるかも、わからない。
 それでも小夜は、今この時を、彼等と分かち合う絆と想い出を、これからも大切にしたいと思った。

「本当にありがとう。またね!」
 ひと時の遊覧飛行を終えた子供達を、旅人達は家族の待つ街へと送り届けていった。事件を――アラクネや『落とし子』の存在を表沙汰にしないため、個々の家まで行くことは控え、市街地でひとまず別れることにした。少し帰りが遅くなったことで、もしかしたら親に大目玉を食らうかもしれない。しかしそれは、可愛い我が子を心配していることの裏返しでもあるのだ。だから悲しまなくていい。愛してくれる家族を大切にしなさい、と言い残して。
 子供達が家路を急ぐのと同様に、旅人達もまた、ターミナルへの帰路へと向かう。
 強くなりたい。
 大切な人を守りたい。
 旅人達も、そして子供達も、それぞれに立場は違えど、此度の事件でそんな思いを深く胸に刻んでいた。

 そして、そんな彼等を……天空と地上に輝く『星々』は、優しく見守るように輝いていた。

<了>

クリエイターコメント 大変お待たせいたしました。「Arachnoid Prison」ノベル本編をお送りいたします。

 今回はPCの皆様のアクションが、戦闘とサポートの分担や探す階層の順番などできれいに分かれていて、偶然かどうかは分かりませんが良い具合に連携がとれていたように思います。
 特に、蜘蛛の生態についてきちんと調べてこられた方もけっこういらっしゃって、ああ、すごく真剣にプレイングを考えてくれてるんだなあと、非常にありがたく感じました。

 字数制限や相互のアクションの兼ね合いで全てを描写することが出来なくて申し訳ありません。そんな中でも出来るだけ「そのPCさんらしさ」を出せるように頑張ってみたつもりですが、いかがでしたでしょうか?
 今回のノベルが、ご参加いただいた皆様に少しでも気に入っていただけたなら幸いです。

 この度はご参加いただき、本当にありがとうございました。
公開日時2010-02-21(日) 00:10

 

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