やっほー。 みんなロストレイル13号『北極星号』のこと覚えているかな? ロバート卿に変装したメガリスを追いかけるのに使った車両よ。 もともとはスレッドライナーだったあれね。 あの時はまだ非武装だったから獅子座号を撃墜できなかったけど、今度こそちゃんと完成させることにしたの。 今まではないしょで作っていたんだけど、旅団とも和解したし、隠しておく必要も無いかなって。 それでね。 実はロストレイルって12号までで結構なんでもできちゃうじゃない。世界樹も倒せちゃったしね。だからリベルたちと相談したんだけどあんまり新しいアイデアが出てこなかったんだよ。カウベルちゃんなんか『北極星号』やめて『ブラック双子座号』にしようって言うんだよ。このままだと13号はアリオみたいないらない子になっちゃうの。 だからみんなの協力が欲しいの。 ロストレイルを完成させるのを手伝って! なるたけ斬新なアイデアを頼むわ。 工房で作るのを手伝ってくれている人も募集中だし、特別な部品をもっている人がいたら声をかけて欲しいの。 そしてね。 自分で言うのが恥ずかしい人は、この目安箱に意見を入れておいて。―― 42 えっ宇治喜撰なに?―― 42 車両の数は42両? さすがにそれはちょっと長いんじゃないのかと思うんだけど……。なんか縁起悪そうだし。―― Life && Universe && Everything あんた本当に考えたの? 計算するふりをしてSleep(7,500,000)してただけじゃないの? えっ? エミリエはエミリエ専用VIPコンパートメント(甘露丸付き)が欲しいわ。=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
黒燐はあふれ出てくる熱気にたじろいだ。 「うわわぁ、すごいや」 工房はいつになく人に満ち、油と鉄の入り交じった体に悪そうな臭いが充満していた。 暑い。 昔ながらの職人の手で操作される旋盤からは一つ一つ代替えの効かない複雑な形状の部品が生み出され、最新のNC制御されたレーザ加工機は大量の規格品を吐き出している。数え切れない装置が稼働しており、どれも熱を発していた。 鍛冶職人の七代ヨソギによればこれでもマシな方だという。 「ボクの工房と比べれば装置と装置の間の距離は大きめにとってあるからそんなに暑くもないよぉ」 それに、暑いと言えばオリハルコンなどの特殊金属を溶かしているゾーンは別格である。そちらは尋常の生物は立ち入り禁止となっていて、ロボットやれアンデットやれ精霊やれのロストナンバーが労働している。 コンクリートと鉄板の交互に入れ替わる地面は漏れ出た油と水で汚れていた。 黒燐は下駄を履いてきたことを感謝した。 ともかく、黒燐は差し入れとしてもってきていたことを思い出して、まず、感謝と共にヨソギに渡した。 † 黒燐がぽっこぽっこと下駄の音をたてて区画を進むとやがて、大きく煙を吐く装置があらわれた。 ロストレイルの心臓部と言える蒸気機関である。これは石炭の代わりにナレッジキューブを燃やしてディラックの空を航行する動力としている。 蒸気機関に見下ろされる形に机があり、設計図が広げられていた。図面は、隣に蒸気機関があるためにずいぶん小さく感じたが、目の前まで来てみると黒燐が横になってもすっぽり収まるくらいの大きさがあった。 周りには二人の獣人がたむろっていた。正確には猫のリジョルとイルカサメのフカ。彼らは次世代のロストレイルの駆動部設計について議論していた。 「ロストレイルってさ、ナレッジキューブが無かったら動かないんでしょ? それじゃあ、いざって時に動かせないなんて事になりそうで不安よねー。つー事で。人力でも動かせるようにするってのは、どうかしら?」 「ふむ、案外名案かも知れない」 「無駄に体力を余らせているロストナンバーも多いしね」 「回し車まわしたり自転車こいだりしてさ。ロストナンバーって体力ある奴多いし。それに、何だかんだ言って最終的に一番信頼出来るのは、自分達自身の力だろうと思うし」 まぁ……かよわい私は動力になる気なんて無いけどね。と、フカは続けるがリジョルは聞こえないふりをした。 そして、リジョルがアイデアを補強した。 「機関停止時のバックアップというのもいいが、緊急時に馬力を補うのにも良さそうだな。壱番世界の自動車にあるハイブリッドという奴だ」 フカが機関に外部入力用の駆動軸を書き足した。 そこに白い謎……もといゼロが通りがかった。 「ロストナンバーの魔力からも動力供給できるようにするといいのです」 「面白いことを考えるね」 今までのロストレイルはナレッジキューブの使用が強みであると同時に弱みであった。リジョルが唸る。 「なら、古エルフ式と古ドワーフ式を組み合わせたエンジンの情報をリジョルは提供するよ。非常時の動力源としてどうかな?」 あらかじめエーテルを用意しても良いし、非常時にロストナンバーからマナ、エーテル、プラーナ、気などといったものも供給しても良い。竜刻石も使えるだろう。 「エーテルコンデンサーの素材となるミスリルは『変性』で作っておくよ」 「それでしたら、いっそのこと普段はエーテルもナレッジキューブから作るってのはどう?」 フカが追加した。 「シリーズ式ハイブリッドか、たしかにその方が構造は簡単になるな」 「大改造よ! 駆動炉を降ろすわよ!」 ふと気がつくとゼロはその場から消えていた。 † それから、黒燐は工房全体を見下ろす会議室にやって来た。 「えへー、僕は応援に来ただけだよー。車両のこと気になるし。一度、ロストレイルの資料まとめたことのある者としても気になるし」 普通の建物の四階分も階段を登ると中はすっきり清浄であった。 工房の熱気から解放されて一息つく。 会議室には、ロストレイルを彷彿させる窓があって、部屋の幅もロストレイルそのものと同一であった。 水鏡晶介が黒燐に気がついて、彼を会議室に招き入れる。 「驚いた? 黒燐ちゃん。この会議室自体が新しいロストレイルの司令室の原寸大モックアップなんだ」 ここにいるのは、水鏡の他は、雪深終、チェガル・フランチェスカ、とそれと同田鋼太郎だ。 「ぼくのかんがえたさいきょうのろすとれいるだからね。やっぱりボクは他には無い機能が欲しいな。んー、他の車両にない特徴を考えるとー……。そうだね、プロテインだね」 「嘘、う……」 「俺的には、ドリンクサーバーを設置したら良いかなー、なんて思ってるんだ」 みな、他の車両にない特徴を考えようと頭を悩ませているのをチェガルが茶々を入れてみたが、それに対して。水鏡は真顔で応えた。 「あ、勿論ただのサーバーじゃないんだな、これが。内蔵されてる飲み物は全部俺の特製ドリンクなんだよ。集中力に効く物とか、脳の活性化を手助けしてくれる物とか、良い効果の物を揃えてるから皆にも是非活用して貰いたいなーって」 試飲用の物も持って来たから、宜しければ是非、と毒々しい色のボトルを次々と鞄から取り出した。雪深とチェガルは思わず目を背ける。えらくまずいと評判なのである。 「あっそうだ。差し入れもってきたんだ」 ほら、お腹空いたり、喉乾いたりしたら、いい案も出なくなっちゃうかもだしー。 黒燐が『すぽおつどりんく』とサンドイッチ、おにぎりを取り出すと、雪深とチェガルの手が『すぽおつどりんく』に伸びた。 「必要なら別に他のと被っててもよくないか?」 雪深が至極まともなツッコミを入れた。 「そうだよねー、わりと何でもできるよねー。すでに獅子座が涙目だけど」 スピード自慢の獅子座号がすでにこの極北星号に追いつかれていることを指している。 「で、プロテインじゃなくて、魔法技術とかどうかな? 今までのって男のロマンなドリルとか、砲撃とか物理的なのばっかじゃん? 近距離も遠距離も。だから魔法攻撃、欲言えば魔法障壁とかも付けたいけど」 チェガルが話を戻すと同田がうなづく。 「たしかにそうですね。0世界には自分のような技術者よりも、チェガルさんのような魔法使いの方が多いみたいですし」 「魔法言語を機械語に翻訳して列車に組み込んでおいて、発動する時は攻撃手が自由に組み替えて列車に詠唱させる的な」 「それだと、機械と相性が良さそうですね」 「俺的には『寒冷地特化』を推したい」 雪深は実際殆ど野次馬気分で見学に来ただけで、他の機体のことはよく把握していない。そこで自分の得意分野を勧めるつもりになったようだ。 「水中特化の魚があるなら雪中特化の北極星があっていいじゃないか」 「北極ですしね」 「いや……前に牡牛座号が凍り付いて停止してたことが……あったから、それで」 深雪は融雪剤とか薪ストーブを搭載することを提案した。 「ラッセル車をつければいいのでしょうか、うーん。雪壁を突っ切りたいならラッセルだけじゃ足りなくて、ロータリー車が必要なのかな。いいかも!」 「ドリルでどうにかなりそうじゃないの?」 チェガルがつっこむ。 「折角だから、除雪機能を発展させてロストレイル自体を巨大な刃にすればいいのではないかと! 昔の偉い人は言ってました『攻撃は最大の防御なり』と!」 同田はテンションを上げてきて、ゲームによくあるの『刃の鎧』といった感じの絵を描き始めた。 「威圧的で敵を寄せ付けず、触れる事すら出来ない感じ。更に欲を言えば、飛んできた敵の砲弾とかミサイルなんかも某大泥棒の相棒の剣士みたいにスパッ! と斬って受け流したり出来ちゃえば、もう最強なんじゃないかと!」 「それは、他の部署の協力が必要だね」 そして、同田は攻撃ユニットを作っているところに出向くことにした。 † 工房の中は作りかけの車両が勝手気ままに並べられていて迷路のようだった。 同田は会議室の窓から見下ろした光景を思い出しながら進んだ。 車両の向こうから声が聞こえてくる。 「アルウィン、立ち上がる時、きた……」 なんだなんだと思っていると、突然目の前の車両が形を変え始めた。激しく金属のこすれ合う音が響く。 水平に地面に置かれていた車体は、その三分の一ほどのところで外板が内側に入り込み、対となる台車の片方が三分の一側に移動する。 そして、車体の三分の二が空中に持ち上がった。 ――巨人な足だ。 同田の目の前がひらけ、巨人の足の向こうでは、ちっちゃな勇者アルウィンがはしゃいで飛び上がっていた。 もちろん彼女一人ではない。桐島怜生が、一一 一が、ルイス・ヴォルフが雄叫びを上げていた。 「うおおぉぉ! 燃える!!」 「俺のドリルは天を創るドリルだ!」 「オレとも合体してくれ!」 彼らはロストレイル13号に変形機構を導入しようとしていた。 ルイスがこのために1/144スケールの模型を持参しておりその変形機構を披露している。 「見てな。ここが引っ込むだろ……、そして強化連結部がせり出す。で、他の車両との合体! さらにはドリル変形!」 「合体!」 アルウィンのもってきた超合金ロボとくっつけたりしている。 「いままでのロストレイルはなんでがったいできなかったんだろ」 「アルウィンちゃん。できるんだけど秘密だったんですよ。きっと」 「秘密だと!」 同田は入り込みづらい空気を感じたが、ここまで来た目的を思い出して勇気を出した。 「ドリルって言うか外装を『刃の鎧』にできない」 「刃!」 「刃の鎧!」 「気軽にオレに触ると怪我するぜ!」 そして、ルイスはさっと飛びすさるとポーズを取り、 「オレの刃が……」 桐島の声と被さり、 「「……お前を抱きしめるとき!」」 一が続いた。 「「「ディラックの限界を超え!」」」 「ぜったいうちゅうさいきょうロボ!!」 「「「「正義の特急!! 次元漂流ロストレイガー!! !!!」」」」 「ひゃくおくまんどのビーム」 「「「「ロストフラッシュ!!!」」」」 アルウィンがポーズを取った三人の上に胴上げされている。 結局、同田は四人の勢いに飲み込まれ、変形機構の詳細を詰めることになった。 とりわけ桐島は暑苦しい。 「武装や機能において、12車両はそれぞれ特性がある 13号には今までにない機能が求められる! 従来通りだったらわざわざ作る必要なっすぃんぐ! いいんだよ、他の車両より機能性が低下しようが燃費が悪かろうが! 変形合体こそ男の夢と浪漫! それ見ればやる気もでるし雰囲気盛り上がるし、何より俺が燃える!!」 「「「「正義の特急!! 次元漂流ロストレイガー!! !!!」」」」 「合体」 「「合体!」」 「「「変形合体!!」」」 ふと、一は我に返ると、変形機構を他の部分と調和させるために他の人たちの話しを聞きに行くことにした。 † 一は道すがら考える。 ――ロストレイルがロボットに変形するとして、人間が完全に操作するタイプなのか、自律思考できるAI付きなのか。 「最初はマニュアル通りの応対しか出来なかった(略)数々の戦いを通して柔軟な思考を身につけ(略)暴走の末に創造主であるロストナンバーへ反逆し(略)やがてコンピューターはコンダクターの少女に恋を(略)」 妄想をたくましくしつつも、自分を恋愛対象から外しているところに病理が深い。 気がついたら彼女は貨物車両の森に迷い込んでいた。 その貨物車におもちゃの戦闘機のようにも見える謎の機械が運び込まれていた。 銀色に輝き、ふわふわと宙に浮いている。それらが整然と貨物車両に収まっていく。 それをゼノ・ソブレロ、ハクア・クロスフォード、アーネスト・クロックラックの三人が見守っていた。 「思ったよりも良い感じに仕上がったスね」 ゼノが感慨深げにつぶやいところで一が質問した。 「ねぇ、これはなんなのですか」 「リコンっス」 「リコン?」 説明をアーネストが受け継いだ。彼女の長い耳が揺れる。 「無人機……ですね。これに多数の小型レーザー砲『レプス』タイプを搭載しました。宇宙ステーションのデブリ除去用兵器だけど、ロストレイルに搭載しても使えると思うわ」 彼女が手元のリモコンを操作すると、一機の無人機が行列から離れてこちらの方に飛んできた。そして、無造作に置いてある鉄の塊に向いた。 「多数の小型デブリを破壊するための『アルネブ』モードですね」 ちゅん、と言う短い音と共に鉄塊の一点が紅く灯り、やがてどろどろになって流れ出した。 「それから一点突破用の収束レーザー『ニハル』モードですわ」 追加で三機の無人機からレーザが放たれると、焦点にあった鉄塊はぶくぶくと泡をはじけさせながら溶けた。 一がほーっと感心していると、今度はハクアが近くのボタンを押した。 すると三機の無人機を頂点として三角形の形にフィールドが展開された。 「ジャバウォックが持っていた能力『ミラーシールド』を再現してみたものだ。魔法式が組み込んである」 ハクアが手元で魔方陣を描き雷光を放つと、三機の編隊はすっと移動してハクアの術を吸い込んだ。 「座標制御は機械側で行っているから魔法のシールドが安定するのよ」 魔法の発動と機械のタイミングをそろえるのに苦労したそうだ。 「一応は、無人……の偵察機なんっス。レーダーでは見えない箇所に飛ばして、調査できる代物ッスよ」 そう言ってゼノは設計図を誇らしげに取り出した。 「へー。ところでこのボタンはなんですか?」 一がゼノの持ったリモコンに手を伸ばした。 ――記憶の錯誤―― 「へー。ところでこのボタンはなんですか?」 一がゼノの持ったリモ、手にはリモコンがなかった。 ……あ…ありのまま、今、起こった事を話します! ……私は、ゼノさんのもっているリモコンに手を伸ばしたと思ったら、リモコンが無かった…… アーネストがリモコンとストップウォッチをしまいながら言う。 「これは自爆ボタンですわ」 「自爆はロマンっス」 「ところで、ハクアは呼ばれていたんじゃなかったんスか」 「そうだった。後は任せる」 † ハクアが開発したミラーシールドはロストレイルの車両にも装備にしたい。 しかし、外装につけるとなると色々と折衝が必要である。機能装甲はミラーシールドに限ったものでは無いからである。 やがてはハクアは有機溶剤の香りが充満する一画に辿り着いた。軽くトリップしそうになった。 「ゼシカは連れてこられないな」 そこには、ベンゼン雰囲気をものともしない曲者達が揃っていた。 イテュセイ、モック・Q・エレイヴ、マスカダイン・F・ 羽空、劈の4人である。とは言え、やせ我慢しているであろうマスカダイン以外はそもそも尋常の嗅覚を有しているかは怪しい。 車両が塗装を待っていた。 「うるわしきキュートなめっこちゃんペイントデコ♔ 見た奴らは漏れなくSAN値直葬で漏らす!」 イテュセイは自分の長い髪をブラシの刷毛代わりにして、それらに自分の絵を描いていた。モックもそれに便乗して絵筆をふるっている。上下さかさまに奔っているように見えるよう、台車をボディの天井近くに描いたり、煙突を下に追加した。絵で足りなければハリボテを追加。 「どーせ不思議技術で空飛べるんだから車輪がなくても走れるでしょ。たぶん」 「異世界旅行のときに現地の人が最初に見るのは乗り物だから、やっぱり見た目のインパクトは欲しいよね!」 「だよね☀ ここに扉を作ろう!」 イテュセイとモックはボディの何もないところに扉の絵を描き始めた。 そして、「ペンキ塗り立てでーす」とまで描きこむとおもむろに――絵の扉を開けて――中に入っていった。 モックが続いて絵の中に入る。 それにマスカダインも続くことになった。試練の時である。 そして、当然のように板金に跳ね返された。胸には「ペンキ塗り立てでーす」がプリントされている。驚くべきことに鏡文字ではない。正しく読める。 マスカダインは、あきれ顔のハクアに気付くと居住まいを正した。 「はいはーい!あのねマッスーさんはね〜♪」 そして、きりりと真顔になると「光学万能迷彩」と告げた。 「大規模進攻において各個の保有戦力で事足りる面もある。情報解析で蟹・水瓶との連携が可能な事も実証済。そこで、ぜひここで現地偵察に特化した機体がほしい」 黙ってみていた劈がようやくに口を開いた。 「機械類にはそれほど詳しく無い物でして……あまり詳しい事、大した事は言えないのですが……。せめて特殊迷彩等の機能を搭載する事は出来ないのでしょうか……?」 たしかに偵察用途としては、周囲の背景をボディに映し出す――本格的な光学迷彩ではなく、単なる特殊迷彩――いわゆる迷彩車両で十分機能を果たせるとも言える。 ディラックの空では黒から紫にかけたつや消し塗装でことが足りそうだ。 「目立たない様に活動できる車両、と言う物があっても良いのではと思いまして……。窓にも特殊な素材を使用し、内部を見えないようにできるという事も考えているのですが……」 今後の図書館の戦いがどのようなステージで行われるのかはチャイ=ブレすら知り得ない。 「魔力や……赤外線とよばれるのでした? が内部から漏れないようにすれば隠密性が上がると思いますの」 どの様な場面に出くわした際に使うか……と言う事を考えると、使う機会が少ないようにも感じますわね……と、付け足しつつつ。 マスカダインがくいいっとメガネを押し上げた。 「これからどんな戦いが起きるかわからないから備えたい。高隠密行動による的確な斥候は相手を知りその弱点を突く事で作戦を迅速化、自軍の損失も防ぐ」 そして、わざとらしい遠い目をした。 「目立たなければ傷つかずに済んだんだ……。北極星……この号機が作戦展開の『指標』となる事を望む」 どこまで本気なのかはわからない。 「それで、相談がある」 ハクアはシールドをつけたいが機能装甲と干渉することを気にしていた。シールド展開で迷彩が剥がれては困る。 「あっゴメン。マッスーさんはね〜。アイデアを出しただけでどうやれば実現できるかわからないんだよね~」 ……僕ノ光学迷彩…使ウ…? と、ハクアと劈は気配を感じて飛びすさった。 すると、マスカダインの背後が薄ぼんやりとぼやけ、焦点が結び直されると機械の竜がそこに立っていた。 0世界で光学迷彩と言えば幽太郎・AHI/MD-01Pである。 「光学迷彩ノ装置ヲ作ル時ハ…僕ノ体ヲ参考二シテネ…。分解シテモイイケド…痛クシナイデネ…。……アト…終ワッタラ、チャント元通リニ組ミ立テテネ…」 「これで懸案は解決か」 「姿隠シタラ…敵サン二、イジメラレナク、ナルヨ…。コッソリ、オ仕事シタイ時トカ…一人デ大事ナ、オ仕事スル時トカ… …トッテモ便利ダヨ…」 そして、幽太郎は巨体をもじもじとゆらせた。 「…出来レバ…宇治喜撰二、ヤッテ欲シイ… 彼ハ今…此処二居ル、カナ…?(ドキドキ」 と、そこまで言うと、幽太郎の頭上がスパークし、逆位相次元に隠されていたクレーンが出現し、幽太郎を掴んだ。 retriving sample. ... compilation, begin... 「…エッ!? …エッ!?」 そして、ハクア、マスカダイン、劈の目の前で、いずこかの時空へと沈んでいった。 クレーンも幽太郎もそこに存在していたという痕跡はもはやない。 そして、しばらくすると、イテュセイとモックが描いていた絵ごと車両がうっすら消えた。 光学迷彩が起動したのだ。 触ってみればたしかに車両はそこにある。 そして、光学迷彩が解かれてみるとそこには地味な迷彩車両があらわれた。 「ムッキー! めっこちゃんのキュートな絵が消えている!!」 「こんにちはー」 地団駄を踏むイテュセイにモックがかまっているところで、司馬ユキノがふらりとやってきた。パシャリとフラッシュが焚かれる。 「いいなあーこういう列車ってロマンがありますよねー! 見てるだけでワクワクする!」 彼女は、作業の手が加えられ13号が変化していく過程や、ロストナンバー達が作業している様子を色々な角度から逐一写真に収めていっているのだ。 「他のところの写真も撮っていますので、伝言は引き受けますよー」 † とある車両の中、架装はほとんど存在せず、壁から張り出した板が机代わりになっているだけだ。窓は細く小さく銃眼と言ったレベルだ。 シュマイト・ハーケズヤ、ローナ、藤枝竜が向き合っていた。 「内部の火災を避けるためにも木材や、ましてやソファは配置できないな」 シュマイトは帽子のつばをつまみながら独りごちする。 今までのロストレイルの主目的は快適な輸送である。遺世界をつなぎ、走る。戦闘に参加することは幾たびもあったが、戦いの主役はロストナンバーだった。 なにせ開発当時はディラックの空における驚異などせいぜいワームくらいだったからだ。 しかし、旅団との戦いを経てロストレイルの意味合いは徐々に変わっていった。 ディラックの空のどこかには世界樹の他にもイグシストがいるだろう。 ロストレイル13号の存在理由は――スレッジライナーのそれを受け継ぎ、戦闘と探索だ。 快適装備は最低限になるだろう。 「車内を細かく区切って被害を防ぐ隔壁(バルクヘッド)を設置することを進言しよう」 今までのロストレイルはダメージコントロールが弱い。 「外面の防御ばかりでなく侵入にも対策を講じたい。攻め込まれる危険を考え、態勢は十全にすべきだ」 「ハードポイントシステムや可変素材等で容易に装備変更可能なシステムを提案します」 「キミの機能をそのままロストレイルに再現しようというのか」 「はい、私の兵装素材を一部分離増殖して提供したいと思います」 「ハードポイント……折角、車両を切り離せるのだ。機能の分離をコンセプトにしよう」 「はい、例の変形合体システムにもその方が都合がよろしいと思われます。こちらはナレッジキューブで再現しても良いですが、いかが致しましょうか」 「ナレッジキューブは辞めよう」 一方、藤枝竜も知恵を絞り出そうとしていたが、脳内は対照的であった。 「13号目ってことはこれは「へび使い座」ですね!へび…蛇…スネーク……」 シュマイトがテキパキと図面を引いていく前で、藤枝は腕を組み、椅子を揺らしながら唸っていた。 「…かば焼き?はっ!(じゅるり) だめです、知恵熱で周りもほっかほかです…まむしの黒焼きなんか食べたら火が……」 「椅子が倒れるぞ」 「そうだ! コピー機能つきってどうですか? 何百部でもクラス便りが刷れる、って違います! 他車両のコピーになれて力をもらえるんですよ! きっと便利です」 「コピーを解除したいときどうやって見分けるのだ?」 「え? う、う~ん」 「わたしの発明は堅実なのだよ。そういう地に足がついていないものは他に当たってくれないか」 ナレッジキューブがあればいかなることも可能である。しかし、ハイブリッド動力炉をはじめ、不思議とナレッジキューブには頼らない――。 そういった空気が13号の開発にはまとわりついていた。シュマイトはその思想に従ってアイデアをまとめていた。ローナの装備を搭載するとしてもそれは同じだ。 それは藤枝竜も感じていた。 「完成した図面があったら届けに行きますね」 「よろしく頼む。他に案があったら持ち帰って貰えると助かる」 藤枝竜が出て行くと、車両の中は静かになった。 ローナは描かれた図面をスキャンして、チェンバーのメインフレームに解析をさせている。 外の喧噪が机を振動させるが、それがシュマイトには心地よかった。きっと自分には考えもつかないアイデアがあるだろう。 ……それをどう実装化するか図を引くのも楽しい。こうした大物に取りかかるのは久しぶりだ。腕が鳴るな。 † 隠密行動時には光学迷彩が使用できること、平時でも特殊迷彩がなされていることを、司馬ユキノは広めてまわっている。 ヨソギの移動工房を抜けると、広い一画に辿り着いた。そこでは、車両プラットホームが並んでいた。 一対の台車の上に板が乗っただけ車両が何両も並んでいる。そして、天井から吊されたクレーンにより様々な装備が載せ替えされていた。 次々と車両と、作業する人たちがユキノのファインダーに収まっていく。 例えば、移動医務室。 一両の車両はには、患者を寝かせするベッド、診察台、各種医療機器、十分な医薬品が詰め込まれていた。 取り仕切っているのは軍用人工生命体、医龍・KSC/AW-05S。 「先のナラゴニアの襲撃を受け実感致しました。車内に医療施設を! それらの設備が車内にあれば、異世界でも迅速に救急救命が可能となります」 戦闘のみならず、未知の病原体にも対抗できるようにしてある。 「現地人の方をお救いする事は勿論。命をかけて戦う仲間達にとっても、これほど心強いものはないでしょう。ワタクシは此処に、診療車両ならぬ移動病院の実現を提案致します。100%の救命を願って!」 そう息巻く。 医務室では戦士の休息のために淹れたて紅茶も提供される。 例えば、列車砲車両。 相沢優と坂上健が中心となって作成している。十分な成果を上げられなかった射手座号のものとは異なり、小回りの利く仕様だ。魔法弾も発射できる。 大砲を見上げ、坂上は目をキラッキラ輝かせ恍惚の表情を浮かべている。 「やっぱ武器の浪漫は巨砲で合体変形で人型で主砲発射だろ!? 乗れる客車は4台くらいにしてさ、残りは全部機関車なんだよ! んで最大出力でドカーンとズバーンと! ロストレイル最大出力の手法を持つ至高の人型変形列車! 敵の戦意を挫くこと間違いなしっ、くぁー、格好いいー!」 「坂上さん。実際そんな感じになりつつありますよね」 この砲は、ロボット形体の時は腹部に収まることになっている。そのために砲身は短めだ。弾速には劣るがそこは炸薬でカバーする予定である。 「みんなの力を魔法弾にこめたらすごいことになると思うんです」 とある車両は片面の壁と天井が開くようになっていた。 リニア・RX−F91、松本彩野が見上げてる。 ユキノは、優からもらった差し入れおにぎりとサンドイッチ、プリンを持ってきていた。 「おにぎりは梅、鮭、おかか、シーチキンマヨもありますよー。ところで、これはなにー?」 「コンサート車両です♪」 「コンサート?」 「これは夢がふくらみますよ♪ あ、戦闘車両化は却下、却下ですっ。せっかく旅団の方とも仲良くなれたのだし、ライブで盛り上がって気持ちを繋いでいきましょう!」 「素晴らしいですね!」 開かれた天井には、照明がぶら下げられており、また上空にホログラムで映像を投影できるようになっている。 「空を飛びながらのコンサート! ……最初のライブは私がしてもイイですよ?」 「ご自分で歌いたいのですね……。……あの……良かったら、私も御手伝いさせて下さい」 彩野が申し出る。絵を描く事くらいしか出来ませんけども、と。 すると彼女の抱えたカエルが代弁しはじめた。 『列車をキャンバスにして、デッカイ絵を書きてぇと思ってな。こんな機会は滅多にないからなー。そーゆうのも、ありかー?』 「舞台の背景に? いいですね!」 「あの、だったらですね。私たくさん写真を撮ってきたのです。使ってくださいませんか?」 「……ありがとう」 ユキノの写真をその場でプリントアウトすると、彩野が可愛らしくデフォルメして賑やかな構図を作り上げていった。 「スプレーガンを使うのですよね? 私、使った事ないですけど…だ、大丈夫です。すぐにマスターしてみせます……!」 そして、車両の内壁には、下絵が描かれはじめていった。 † ロストレイル13号には通常の意味での客室はない。 コンパートメントもボックスシートもない。 その代わり、貨物室のような素っ気ない車両の壁からは机とベンチと寝台の代わりになる板が引き出せるようになっている。 窓はごくわずか。 色濃くカンダータの雰囲気が残っている。 あるいはヴィクトリア女王時代の――快速帆船、炭鉱、そういった人権配慮のなかった環境を思い出す者もいるだろう。 大勢のロストナンバーをどこか遠い世界へと瞬時に輸送し、必要とあればそのまま戦闘に突入できる設計だ。 唯一文化を感じる設備はコンサートホールだが、こちらも貨物の蓋が開くようにしたものに照明と音響設備を追加しただけに過ぎない。ディラックの空を航行中は中に荷物を詰め込むことができる設計だ。 完成式を目前にして架装は全て終わった。 作業を手伝ったロストナンバーたちはクリスタルパレスの慰労会に出払っている。 工房は無人だ。 そして、誰もいなくなったロボット操縦室にはアリッサが一人で座っていた。 ここが作戦司令室を兼ねるロストレイル13号の心臓部。 メインモニターの電源は落とされ、パネルが外されている。その暗がりの中から白い少女がちょこっと顔を出した。 「『因果律の外の路線』の航路データ……入力し終わったのです」 「ありがとうゼロちゃん。あなたの発案のおかげでどうにかなりそうです。これは皆さんにもエミリエにもないしょですよ」 ゼロは、パネルを元に戻して自分の出てきた穴をふさいだ。 中には、回収してきた世界計の破片を内蔵した――管制システム――いわば『ミニ世界計』が安置されている。これはアリッサがリベルの目を盗んでちょろまかした破片をもとにゼロが作り上げたものだ。 通常運行は0世界からの管制で行われるので、本来は必要の無い装備である。 「ゼロは全ての世界の安寧を願うのです」 「これで私たちは世界群の果てを目指せるわ」 ロストレイル13号、ロールアウト間近である。
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