★ チーム対抗雪合戦大会 ★


<オープニング>

「わーい、雪合戦! 雪合戦!」
 リオネははしゃいでいるが、その実、雪合戦というもののことを理解しているのかどうかはナゾだ。
 ともあれ、くじ引きでチーム分けがされ、腕におぼえのある、あるいは、単に楽しそうだと思った面々が、グラウンドに集まってきた。

「いいかい、リオネちゃん。あのフラッグを取ってくるんだよ」
「取ってきたらいいことあるの?」
「ええと、それは……」
「あー、純真無垢な子どもに悪知恵を吹き込んでいるわね!」
 リオネと映人の姿をみとめて、さくらが割り込んできた。
「作戦だよ、作戦!」
「リオネちゃんを使うのはずるいわ。だって雪玉があたらないんですもの」
「そっちだって、ムービースターのメンバーはたくさんいるだろ」
「でも、ムービースターの参加者の人は、能力に制限があるんですよ。そうですよね、マルパスさん?」
 さくらと同じチームの灯里が言った。なぜだか審判役を務めることになっているらしい黒衣の司令官が頷く。
「うむ。……リオネくんの場合は、障壁に玉があたった場合も、身体にあたったのと同じものと扱うとしようか」
「えーーー! くっそー、作戦変更だ。植村さん! なにか案はないかな」
「……っていうか、なんで私まで参加しないといけないことに……」
「みなさーん、はじまりますよー!」
 テンションの低い植村。
 遠くで梨奈が皆を呼んでいる。
 いよいよ、雪合戦のはじまりだった――。

★ ★ ★

●雪合戦のルール
・雪玉を3回あてられた選手は退場です
・選手が全員退場するか、フィールド内にある自軍のフラッグを奪われたチームが負けです
・相手に怪我をさせるような行為は反則となります。
・ムービースターの方は、以下に類する能力は禁止です「ロケーションエリアの展開」「分身する」「瞬間移動する」「空を飛ぶ」
※スポーツマンシップにのっとって闘いましょう!

●チーム分け
チームは、キャラクターIDの末尾の数字で分けられます。
ID末尾が1、3、5、7、9の人…………東軍
ID末尾が0、2、4、6、8の人…………西軍
※自分のチームを間違えないように注意しましょう。

●参加NPC
公式NPCのうち、以下の面々が参加しています。
東軍:嶋さくら七瀬灯里常木梨奈
西軍:リオネ浦安映人植村直紀
審判:マルパス・ダライェル






<ノベル>

「ずいぶん、集まりましたね……」
 植村は白い息を吐きながら、両陣営を見回した。
 まるで銀幕市民全員が集合したかのような盛況ぶりである。だが、慣れない寒さに凍えてしまい、観戦を決め込むものや、休憩所で暖を取りながら雪景色のみを鑑賞するものなど、参加形態は人それぞれではあった。
 そんな中、果敢にも雪合戦参戦を決意した人々は、東軍、西軍に分かれて陣取る。
 そして作戦会議もそこそこに、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。

★ ★ ★

「見てください! 東軍用に用意してみました! 全員分ありますので、つけてくださいね」
 三月 薺が、朗らかに言う。人数分用意されたそれは【ネコミミ帽子】であった。さくら、灯里、梨奈など、女性が多いがゆえの心づくしであり、ネコミミつき帽子を被った東軍参加者たちはたしかに、ある意味、可愛らしかった。
 女性陣は言うに及ばす、男性参加者の、特に、八之 銀二、アラストール、叶 真朱、岡田 剣之進、バロア・リィム、クレイジー・ティーチャーらのネコミミ姿は、ひとつの事件ですらある。
 銀幕ジャーナル特別号の巻頭グラビアはこれだとばかりに、灯里は雪合戦そっちのけで、必死にカメラを向ける。
「みなさーん。引きつらないで、自然に笑って!」
「写真はばっちりかぁ? へへ、雪合戦キングの俺にまかせろ! 東軍勝つぞー」
 タヌキ姿になった太助(ネコミミつき)が、ちょろちょろと雪上を走り回り始めた。茶色の動物は白い雪の中で良く目立ち、格好の標的になるのを承知のうえでの囮作戦だ。タヌキを狙い、一斉に雪玉が飛んでくる。
 全身黒ずくめのアラストールも同様に、西軍の注意を引きつけている。
「万一、転んだりすると、イメージが崩れるのでね」
 という主張のもと、ゆっくり慎重に歩くさまは、とても雪合戦中とは思えない。敵方の放った玉が、なぜか彼を避けるように落ちてしまうのは、『弾丸にほとんど当たらない』能力ゆえであろうか。
「きゃあああ〜〜!!! すみませ〜ん!」
 白石 雷音は、うっかり滑った拍子に、アラストールの服の裾を掴んだ。仲良く転んで雪まみれになったところを、またも灯里が容赦なくフラッシュをたく。
「俺が囮になってもいいかなって、思ってたんですけど」
 その様子を見た真朱は、こつこつと雪玉を作り始めた。
「囮役と、相手のフラッグを取りに行く役は、別々のほうがいいですし」
「攻撃に集中する人と、雪玉を作る人も、分けたほうが効率的だよね。よおっし! 手が空いてる人、集まって!」
 浅間 縁が手招きをする。ぱたぱたと雪を払った雷音が駆けつけ、続 歌沙音と稲見 はつ香も加わった。
 歌沙音はひたすらに、念入りに固めた雪玉を量産する。はつ香はしなやかな指先を駆使し、美しい形の玉をものすごい勢いで積み上げていく。
「うむ、『不動如山』か。孫子の兵法に学ぶとしよう」
 剣之進もまた、雪の玉を固め始める。
「攻撃も守りもまかせてヨ!」
 縦横無尽に飛び交う雪玉を器用に避けながら、クレイジー・ティーチャーは金槌を振るう。
 かきーん! と小気味よい音を立てて、金槌が捉えた雪玉は、敵陣へと打ち返された。

(向こうもおそらくは囮を使って、フラッグを狙ってくるだろうな)
 そう予測した銀二は、あえて脇道に待機することにした。どっしりと仁王立ちし(ネコミミはつけたまま)、別働隊を迎え撃つつもりである。
「そうは問屋が卸さないってな」
 低く呟いて足元の雪をひとすくいし、固く握りしめる。
 彼の両眼が、鋭く光った。

「それじゃあ私は、あんまり戦力になれないと思うので、植村さんとお茶してますねー」
 にこにこと薺は席を外し、西軍陣営に向かった。
(それって作戦かな? 植村さんと和んでる時を狙って、上から雪玉を一気に当てろ、とか?)
 バロアは首を捻る。だとしたら、薺もなかなかの策士だ。
 なお、参加する気など微塵もなく、休憩所で優雅にホットコーヒーを啜っていたティモネは、西軍の柊木 芳隆が、公安一と謳われた射撃の腕を持ってして投げた玉に、顔面を見事にヒットされた。
「……ふ。ふふふ……」
 静かに切れたティモネは、コーヒーカップをことりと置き、立ち上がる。
 華麗なる反撃の、始まりであった。

★ ★ ★

「みんな、頑張ろうね!」
 大イベントに高揚したクラスメイトPは、飛んでくる雪玉を避け――いや、彼に限っては避けることなど叶わないので、『全て』受けて、右に左に吹っ飛びながらも、西軍陣営の皆に挨拶をする。
「えっと植村さん……こんにちは。そろそろ僕の事覚えて……ああっ、東軍の女の子とお茶してるしー!」
 Pの挨拶は、ホットココア入りマグカップを手に、寒い中、大変ですね? いえ、これも仕事ですから、などと、薺とまったり会話をしている植村の耳には届かない。
 唇を噛むPは、東軍陣営のメンバーを見て、さらに打ちのめされた。
「そんなぁぁー! 浅間さんも八之さんもCTさんも……皆敵ッ!? どっ、どうしようとりあえずッ」
 意味もなく手足をばたばたさせたところに、クレイジー・ティーチャーからの一撃が飛んできた。
 Pはあえなく撃沈する。つつーっと、涙で空中に線を描いて。
「うーん、手強いね。うわっ?」
 先刻、雪玉をティモネに命中させた芳隆は、すぐさまお返しを食らった。彼は長身のうえ、黒いコートを着ているため、東軍のアラストールと同じく、標的になりやすいのである。
「ボク半透明アルよー!」
 後方で偉そうに高笑いしているのはノリン提督だ。雪玉も作れず、盾にもなれないのだが、西軍陣営のノリを良くするのに一役買っている。
「ぬう、寒いな……。しかし、厳しい修行を積んだわしにはこんなもの! 雪玉なぞ錫杖でたたき落してくれるわ」
 笠を目深にかぶり念仏を唱えながら、幻燈坊は敵陣へ突進していく。
 いかにも勇猛果敢だが、
「むっ? 『侵掠如火』っ!」
 剣之進に返り討ちにされ、あえなく雪玉だらけになってしまった。
 服の下にこっそり仕込んでおいたカイロがことごとく駄目になってしまい、震えながら自陣に引き上げる始末である。
「ううっ、すっかり冷えてしまったわい。こんなときは、可愛い女の子にお茶でも出して貰いたいのう」
「……あ、いらっしゃいませ〜」
 疲れた戦士たちを癒すべく、休憩所にて、ちょっぴりおどおどとお茶くみをしているのはリディア・オルムランデである。白銀の世界に映える美少女に熱いお茶を出され、肩まで揉まれて、幻燈坊はご満悦だ。剣之進が少し羨ましそうに、遠目に窺っている。
 来栖 香介は、大きな雪玉に見せかけて、バッキーの『ルシフ』を投げた。東軍の陣地に入ったルシフは、女性陣が作った雪玉を端から食べていく。
 しかし、それに気づいた歌沙音に、
「……………食うよ?」
 と、ぼそっと言われ、さしものルシフも固まってしまう。
 フィールド内の植え込みを利用して、マイケル・エマーソンは敵陣を目指していた。移動しながらハンドサインで、後方のブラックウッドに支援を要請する。
「よろしい、では行こうか」
 吸血鬼の腕力で握られた雪玉は、氷塊並みの硬い凶器となった。動体視力と反射神経には自信がある彼の、飛び交う雪玉の軌跡を見切った全力の一投は、東軍が雪で作ったバリケードをいとも易々と破壊する。
 さらに投げた雪玉は、金槌で打ち返されたのだが、ブラックウッドはそれを鉤爪で両断した。その瞬間の形相は凄まじく、おそらくクレイジー・ティーチャーさえも、当分は悪夢にうなされることだろう。
「……いや、思わず手が出てしまったよ。これは、反則だろうね?」
 何事もなかったように、ブラックウッドはにこやかに退場した。

「ええっ? ブラックウッドさんは別に、反則してないよな?」
「そうだよー。退場はんたーい」
 映人とリオネがマルパスに訴える。
「……ふむ。そうだな、ブラックウッド君は、戻って宜しい。ルールに明記されていない能力の行使については、スポーツマンシップにのっとっているか否かで判断させてもらう」
 黒衣の司令官は、東西両陣営に改めて宣言した。
「ロケーションエリア展開は論外として、魔法を使用しての雪玉作成や、魔法による障壁の設置、特殊能力による時間操作についても、自粛してもらえればありがたい。今のところそんな者はいないが、必要以上に誰かをからかい怒らせる言動も慎むように。これは戦いの形を取ったコミュニケーションであり、相手を叩き潰すことが目的ではないのだから」

「……いいか? 雪の中にこっそり石をしこむんだ、そうすると投げた時に威力が増して……ああ、絶対足元狙うんだぞ、痛いから」
「――山口君。配慮は認めるが、その雪玉は危険じゃないかね?」
 片隅で悪巧みをしていた山口 美智は、あっさりマルパスに見つかった。しぶしぶ、普通の雪玉に切り替える。
「くっ! こっちのバリケードの時間を停止させて、絶対に壊れないようにする作戦は却下ですかにゃー!」
 クロノは地団駄を踏む。黒猫の姿をした時間の神様は、今日だけは自分の毛の色を真っ白にしていた。雪を保護色とする、いわば『シロノ』バージョンである。
「ぐふぁー! にゃにをするのにゃー」
 その保護色が災いし、哀れクロノは、味方からの雪玉をその背に大量に受けていた。
「……無念にゃ」

★ ★ ★

「うお!」
 銀二が投げた雪玉に当たったマックス・ウォーケンは、その中から丸めた怪文書を発見した。いったいどういう理屈でそうなるのかは、最重要機密である。
「これは……! 八之くんに関する、超恥ずかしい秘密に関する情報だな。八之くん、きみは(ぴー)が(ぴー)で(ぴぴー)なのか!」
「それ以上はやめてくださいー! どうしてばれたかわかりませんが、それは私の秘密なんですぅ」
 本気☆狩る仮面 あーるが、涙目でマックスの口を塞ぐ。
 あえなく倒れ伏したマックス(注:味方)をまたぎ、高い身体能力のままに、あーるは立ちふさがる銀二に特攻を仕掛けた。
「銀二さん。いざ、勝負です」
「ふ。そうだな。お互い舞台裏で動く者同士、目立たずひっそりと退場しようじゃないか。なぁ?」
 銀二はゴキッと首を鳴らし、上半身のスーツを脱ぎ捨てた。
「……いや? ふたりとも目立たないってことはないっしょ?」
 雪玉を握りしめながら、縁が突っ込む。
「女子たち! あの目立つ特攻服を狙うよ?」
 雷音と歌沙音とはつ香が、積み上げてきた雪玉を、このときとばかりにあーるに投げつけた。
 集中砲火を浴びて、あーるは退場する。
「本気☆狩る仮面 あーるに代わり、今度はわたくしが相手だ!」
 まるで入れ替わりのように現れたアルを見て、女性陣はひそひそと囁き合う。
「あの人って……」
「しっ。それ言っちゃだめ」
「そうとも! 人生には秘密にしたいことがある!」
 アルはその怪力を存分に生かし、巨大雪玉を作り上げていた。直径1mほどの雪玉が、東軍陣地に転がっていく。
「上等だ、アル! さぁ行くぞ! ここが貴様と俺の死に場所だッ!」
 銀二が啖呵を切り、縁がハッパをかける。
「ほらほら男子たち。背後にいるか弱い女の子たちをしっかり守ってよ!」
「心得た。男には容赦なく、おなごには多少甘くが『ぽりしー』だ。あんたたちのことは身を挺しても守ってみせる」
『其疾如風』と呟いた剣之進は、剣の柄で、巨大雪玉を粉々に打ち砕いた。
 しかし、アルはにやりと笑う。
「……時間稼ぎは出来たようだ。あとはマイケルさんにまかせるとしよう」
「しまった!」
 東軍一同は、アルの雪玉に気を取られていた。
 援護を受けて、地味ながら着実に進んでいたマイケルは、すでにフラッグに到達していたのだ!
 もらった! これで西軍の勝利だ! 東軍、破れたり!
 誰もがそう思った、次の瞬間――
 マイケルはいそいそと星条旗を取りだし、手近な棒にくくりつけたのである。
「合衆国ばんざい!」
「……あのねえ」
 脱力した縁は、自分のバッキーに言うのだった。
「……エン。あの人食べちゃっていいから」

 一方、攻守を担当しながらも、クレイジー・ティーチャーは、人外の運動能力にて、西軍フラッグの前に辿り着いていた。
「悪いネ。もらったヨオ!」
 しかし、そこには思わぬ伏兵がいた。彼にとって可愛い可愛い綺羅星学園の生徒、リオネである。
「先生」
「な、なんダイ、リオネクン?」
「……取っちゃやだ」
 リオネのひたむきな瞳に見つめられ、こよなく生徒を愛する教師はたじろいだ。
「そんなこと言われてもナァ……。ウーン、カワイイ生徒の頼みだしナ……でも勝負だし……。あ、そういえばリオネクンちゃんと宿題やっ……へばぶっ!?」
 迷っている間に、気配を殺した香介が、背後に忍び寄っていた。
「隙あり。フラッグは渡さねぇよ?」
 いちどきに何個も投擲され、最後の最後で、とうとうクレイジー・ティーチャーは退場の憂き目に遭う。
「んじゃ、俺がもらおっと」
 囮役をこなしながら、太助はするっと西軍陣営に走ってきた。軽やかに飛び上がり、フラッグをキャッチする。

「あ」

 一瞬の出来事に、東軍も西軍も、全員があんぐりと口を開ける。
「東軍勝利。撤収!」
 マルパスの、審判と言うよりは司令官的掛け声が、鮮やかに響き渡った。

★ ★ ★

「植村さんて、もともと広報課だったんですか」
「そうなんです。たまたま、銀幕市がこんなことになってしまったので、『対策課』をやる羽目に……」
 勝負の行方もなんのその、薺と植村は、ほのぼの茶飲み話を続けていた。何らかの作戦があったにしても、それはすでに時空の彼方である。

「……うん、いい絵が描けそうです」
 美大生であるところの吾妻 宗主は、西軍に組み分けされていたが、雪合戦には加わらず、ずっとスケッチを続けていた。
 ムービースターとムービーファンが入り交じって雪遊びをしているさまを描写できる、この機会を逃がしてはならないと思ったからだ。
 少し離れたところに陣取ったおかげで、雪玉に見舞われることもなく、絵は仕上がりそうだ。
 デッサンは終わり、あとは色を置いていくだけ。
 水筒に入れたホットコーヒーをひとくち飲み、宗主は絵筆を持ち直す。
 この絵のタイトルをどうしようか、などと思いながら。






<登場人物一覧>

【東軍】三月 薺 八之 銀二 アラストール 叶 真朱 岡田 剣之進 バロア・リィム クレイジー・ティーチャー 太助 白石 雷音 浅間 縁 続 歌沙音 稲見 はつ香 ティモネ

【西軍】柊木 芳隆 クラスメイトP ノリン提督 幻燈坊 リディア・オルムランデ 来栖 香介 マイケル・エマーソン ブラックウッド 山口 美智 クロノ マックス・ウォーケン 本気☆狩る仮面 あーる アル 吾妻 宗主





戻る