0世界も年の瀬。 カウベルは今年も運行されるという「年越し特別便」についての企画を、友人であるフラン・ショコラに相談していた。「今年はアタシも是非異世界に行って、何かパァーッと派手なことをしたいわぁ」「あまり派手だと怒られると思うけど……」 フランはカウベルの入れてくれた美味しいお茶を飲みながら、混沌と化したカウベルの部屋を眺める。 その年越し特別便の為だろうか、いつもよりドレスや着物が大量に表に出ていて……しかしさすがに皺を嫌ったのかそれらはすべてハンガーにかかっており、つまり地面には下着だけが散乱していた。 いつものことである。多少の量の差異があるものの誤差範囲内だろう。「フランちゃんはお正月はやっぱり壱番世界かしらぁ?」「まだ決めていないけど……?」「まぁ! そんなことじゃあダメでしょう、壱番世界では年始は親戚の方に御挨拶に行かなきゃあ」「コタツでお蕎麦か御節かミカンを食べながら、歌合戦を見るのでしょう?」 カウベルがポカーンと口を開いた。 そういえば、そんなこともあるらしい。お茶の間を和ませる、それはそれは華やかで賑やかな歌とエンターテイメントの祭典らしい。「それぇー! それやりましょうようフランちゃん!! 紅組とぉ、白組に分かれるのでしょう? アタシが紅で、フランちゃんは白。これで参加者を集めれば完璧じゃない?」「えっ、やる側なの??」 今度はフランが目を丸く開いた。「ちょっとそういう派手なのは……」「ぁたしたち、ズッ友でしょぅ??」「今の発音腹が立つわね」「ヒドーイ!」 ふーっとフランが息を吐く。「カウベルちゃんって、自分の都合のよい時だけ”ズッ友”とか言うわよね。そういうの良くないと思います」 ぎくっとなりつつ、カウベルが慌てて両手を顔の横で振る。「フランちゃん怒ってるの? ちゃんと場所はぁ虎部君の御実家に帰りやすい程良い体育館を借りるしぃ、何なら電波ジャックとかしちゃって放送する??」「そんな話はしていません!」「えー!」 カウベルは素で「えー」って言った。「そもそもそんな大きな企画をこれから立てようっていうのが遅いんですよ! もう何日だと思ってるんですか、クリスマスも終わったんですよ!」「ううっ敬語で怒るフランちゃん、恐い!」「紅白にはですね……紅白には……凄く大きい数mの高さの衣装がいるんだからっ!!」「ええーーーっ!? それは大変だわぁーーーーー!!」☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ♪パーパラーパパパー「みなさまこんばんわ! 紅組司会、カウベル・カワードよぉ!」「白組司会を承りました、フラン・ショコラです」――パチパチパチパチ「今日はアタシのズッ友のフランちゃんとは敵同士。正々堂々勝負をさせていただきたいと思いまぁす!」「カウベルちゃん、ズッ友とか分かりにくい言葉を使うの辞めてください。多分死語ですよそれ」「だからぁ、何で敵意丸出しなの! フランちゃぁん、まだ怒ってるのぉ?」 カウベルが着物の帯に乗ってしまっている乳を揺らす。「怒ってません」 フランは負けじと胸を張り、冷たい声で言った。「ただ、計画性の無いカウベルちゃんに付き合わされたここ数日の中で友情がぶち壊れているだけです」「いやぁん、そういうのはぁ、放送の後でぇ……ちゃんとお詫びするからあ」「へぇ」「いやぁああん」 カウベルがイヤイヤと体を捻るのを見てから、フランはインカムマイクの方だけに入る小さな声で言った。「お客さんが待ってるんだから、進めて。話は後で」「う、うん、そうねぇ、ありがとうフランちゃん」 ここ数日ほとんど眠ってないフランだが、カウベルの素直なお礼には心の中で微笑んだ。終わったらまたきっちり絞って、それからいっぱい仲直りさせてやるんだから!「それでは、先行の紅組。最初の登場よぉ、よろしくねぇっ!」 ステージが一時暗転した。=============●特別ルールこの世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
「カ、カウベルさんスタートのキュー出ししちゃいました!」 ステージ裏でスタッフとして働くことを選んだ華月がインカムを抑えて悲痛な声を上げた。 「はぁ? もぉちょっと待ってくれねぇかな」 スタッフ役を選んだエイブラムは自身の能力を駆使して、光の演出や音楽の再生を担当する予定だ。 今は出場者から演目を聞き、必要なら音楽情報の取り込み、演出のレーザーやスポットのタイミングのキューシートの作成、出場順の調整等、並行思考により全てを同時に行っていた。音楽プレイヤーも右耳と左耳に一本ずつ別に指し、手は凄いスピードで舞台構成を組み立てている。 「何故此処にいるのか。哲学的な問題です。 しかし司書カウベルは言いました。貴方は紅組と。 どうしてでしょう?」 舞台袖で、ルサンチマンは自問していた。音楽に関する世話をするのは己の本分に近い。なので、せめてここにいる理由がわからない以上、スタッフとして徹しようと思っていたが……。 「ここは私が繋ぎましょう」 ヤケクソというやつである。出場順も決まりきっていないので、紅組の自分が出るのは問題がないはず。 大きな拍手の中、舞台上には尖ったくちばしの仮面をつけた、青緑の肌の女が姿を現す。 女は無言で鎖つきジャマダハルを打ち鳴らす。 シャーンと刃が鳴り合わされるのに合わせて、スポットが色を変えてルサンチマンを照らし浮かび上がらせた。このライトはエイブラムの演出ではない。ルサンチマン本人の【調律】能力により【必要】な光源を作動させたのだ。 彼女はいくつもの果物、ボール、レンガなどを宙に投げては鎖を命中させ打ち砕いていく。その合間を縫うようにシャンシャンと音楽のように刃が鳴らされていく。 最後に等身大の藁人形を掴み放りあげ、鎖で縛りあげた。 ギチギチと引き絞られていく藁人形。 ギュリッっと鎖の擦れる音がしたかと思うと、粉々に砕かれてしまう。 「もし不埒な者が居ましたらご連絡下さい。 死なない範囲内で、こうします」 そう言って一礼。照明がふっと消える。 「紅組のルサンチマンさんの見事な演舞でした。次はトラベさんお願いします」 「まっ、先にやっとけば皆の演技がゆっくり見れるからな!」 虎部はすれ違うカウベルの肩をポンポンと叩いて、舞台に上がった。 「白組の虎部 隆! 男は白組だろー!!」 「私は女ですよ」 「おう、気にスンナ気にスンナ」 隆はフランの肩もポンポンと叩いた。 マイクを片手に、もう片方の手は拳を作る隆は、エイブラムの放つレーザーの光に照らされる。後ろでは華月が三味線をペンペンと丁寧に奏でていた。 気持ちよさそうに体を揺らしながらAメロを歌い切り、Bメロを通過。そしてサビ…… 「男の゛ォ゛ォ゛ォ゛ォォォ!!!!」 血管が切れそうな程の大熱唱が温まりきっていない会場にビリビリと響く。 最後の絶叫が終わったとき、会場は沈黙に包まれていた。しかし、ソアがパチパチと熱烈な拍手を送ると、それが伝播するように大きな拍手が巻き起こる。 「ちょっと、ソアちゃんに助けられた感じもするわねぇ、やっぱりルサンチマンさんの演技が素晴らしかったと思うけどぉ」 「トラベさんのほうが……と私が言ったら何か言うつもりでしょう。次へ行きましょう。ちなみに審査はトラベラーズノートによるリアルタイム投票も受け付けております!」 「はーい、では次に参りましょう! 紅組のチーム凸凹コンビ! 相沢さんとマグロちゃんに登場いただきます!」 「紅組の次は続けて白組が登場いたします。こちらはチェガルさんとルイスさん。昨年ターミナルでも大流行したあの曲での登場です」 「それではまず赤組から」 『どうぞー』 舞台の幕がユーウォンによってひかれると、地面に置かれたミラーボールがキラキラと輝き、舞台の左右に分かれて立ったマグロと優が足元からの照明によりで照らしだされる。 「Get ready! 」 電子的な前奏から優のコールが入る。少し上ずった声にマグロが優しく微笑んだ。 曲はメロディアスなマグロの女声パートと、優のラップパートの絡みのある曲だった。余裕たっぷりに澄んだ声を披露するマグロに対して、優は時々音を外してしまい、慌てた様子もあったが、ノリの良い曲に会場はリズムとともに体を揺らしながら聞きいる。 途中からは優のパートにそっとマグロが音を合わせて、メロディをリードする場面も見られた。 二人がぺこりと頭を下げてから小走りに左右に捌けた後。 「ワワワワォンワォン、フンフフ ワフワー!!」 突然、狼の雄たけびが聴こえたかと思うと、パパァン!と舞台の両端から火花が散った。 舞台袖からの出演者総出のコーラスの中、客席の後ろからルイスとチェガルが舞台へ飛びだす。 ルイスはスケスケの前垂れをなびかせて、首輪からワイヤーを繰って鮮やかな着地。 また、チェガルは緑のマントをなびかせ、装着したベルトにつながった装置からのワイヤーによる……と見せかけて、特殊能力の電磁加速により宙を飛んで現れた。 ――派手だ! 「フンフフンフンフンフンフンフーン」 ――しかし歌は適当だった! ルイスは四足の狼のはずなのに、器用に後ろ脚で立って前足でマイクを持っている。しかも、動物の体型としてはありえないようなダンスを披露し、舞台の上を背中でクルクルと回ってみせたり、とにかく前垂れのなびき方がハンパ無かったのだが、曲も佳境にかかったところで 「『自由』を!!!」 と、歌ったかと思うと、前垂れを投げ捨てた。まぁ、狼なので特に隠すものもない。 チェガルはチェガルで歌えば上手いのに、半分歌を捨ててルイスとともに踊っていた。二人とも楽しそうだな、と見ている人達は拳を突き上げながら思った。 二番はサビまでは歌詞を捨ててニャーニャー言ってたが、会場は大いに盛り上がった。 『たまやぁーーーー!!』 最後にもう一度、花火が上がって終了。 先に歌ったマグロと優と司会の二人が舞台へ出てくる。 「何とも熱い演出でしたね! 歌詞は途中が良くわからなかったのですが、家がどうしたんでしょうか」 「では、先に白組のお二人にコメントを」 「こいよサチコ!! 歌なんて捨ててかかってこい!!」 そこでチェガルがあまりに血気盛んなファイティングポーズをしたので、ルイスが首根っこに噛みついてワイヤーでそのまま舞台を後にした。 「元気なコメントでしたねー! では赤組」 「あ、えーっと、精いっぱい歌ったんですけど……誘って貰ったのに、下手でごめん……」 しゅんとしながら頭をかく優にマグロがふるふると首を振る。 「優さんは優しくてカッコイイもん。心のこもった歌は皆に届くよ。 ね、そうだよねー!」 マグロが会場に呼び掛けると、温かい拍手に包まれた。 「良い雰囲気! では次は、中継……は無理だったのね、エイブラム・レイセンさんによる声帯模写で、カンダータの撫子さんからのメッセージを読み上げます!」 舞台の背後にはカンダータの殺伐とした映像が映しだされ、会場がどよめく。 そこに明るい撫子の声(を模写したもの)が聞こえてきた。 『新年明けましてハッピーニューイヤー☆ ごめんねフランちゃん、絶対白組参加して壱番世界人の貫録見せつけようと思ってたのに、一大事が発生して行けなくなりましたぁ。 埋め合わせと説明は今度必ず! 紅白は途中にイベントが入るので、それ用のお酒とわんこそばをわんこそば保存会の皆さんに依頼しましたぁ☆ 代表者で競って得点の足しにして下さいぃ☆』 舞台上で蕎麦のお椀を持った華月が撫子に変わってにっこりと笑った。 「というわけでお酒の一斗樽とわんこそば二百人前をいただいています。 ねぇ、ちょっと照明さん、何でアタシの胸にスポット当ててるのぉ?」 「スポットはエイブラムさんが……ちょっと、こっちにも飛ばそうとするのやめて欲しいわ。ルサンチマンさん、ちょっと照明卓に」 「えー、何? 女の子ばっかで何やってんのー?」 よいしょっと、掛け声とともに、突然現れたティーロが舞台に勝手にあがってきてしまう。 「おっぱいスポット発見!」 赤ら顔のティーロはそう言うと堂々とカウベルの胸に抱きついた。綺麗に照明が突きささる。 「あらあら、ティーロちゃんは出場の登録していたかしらぁ?」 「おでん食ってたら歌が聞こえてよー、おじさんも歌っていーい?」 そう言うと、ティーロはカウベルのマイクを奪った。 どうするの?と言うフランからの視線をカウベルは寛容な頷きにより受け止める。 二人は蕎麦と酒の山(と華月)もそのままに、舞台から左右に捌けた。 「ペェガサァス、ファミリぃ、そうさゆーめーだけは~♪」 BGMの準備は間に合わなかったが、カウベルの指示でユーウォンが楽しげに鈴を振りながら登場した。何となく場も温まり何となく盛り上がってきたところで、 「ペガサァスゥ……ウッ」 ティーロがうめくとそのまま駆け足で裾に退場してしまう。 一瞬見えた真っ青な顔から、皆が惨事を想像したところで。 「……サーヴェ、レジーナ」 舞台にそっと登場したウェイター姿がお辞儀をすると5人に分身する。 麻生木 刹那によるアカペラの聖歌。 しかし最初の荘厳な雰囲気から、パパン、パンの手拍子の要求。一気に明るい雰囲気になる。 分身に寄る本人同士の掛け合い、それからボイパによるリズム演出。 すっかり楽しい雰囲気に包まれる会場。 舞台の袖ではティーロがルサンチマンに鎖でグルグルにされながら水を飲まされていた。 5人の刹那がそっと祈りのポーズを取り曲が終わると、会場は大きな拍手が起こった。 「んふん、一時はどうなることかと思ったけれど、何とかなるものねぇ。 麻生木 刹那くん、ありがとうございました。恐そうだけど、気遣いさんなのねぇ」 ニコッと刹那が笑うと、会場はその威圧感にどよめいた。 ちょっと目つきがよろしくないようだ。 「ナイスフォローでした。さすが接客業と言いましょうか。 このまま白組の番と行かせていただきましょう。ちょっとエイブラムさん、殴りますよ」 スポットがフランの胸元を一瞬だけ照らし消えた。 「次は俺だなー。ゲーヴィッツだ。白いから白組だ。よろしくなぁ」 舞台に真っ白な巨漢が登場した。2mは超えようかという巨大な体をマフラーと腰布だけが包んでいる。 このマフラーはクリスマスのプレゼント交換で博物屋の店主が送ったモノであり、居候が誰かしらにプレゼントしようと思って「やっぱコレジャネェからやる」とか言いだしたものであって、色がピンク色であったりするのだが、真っ白なゲーヴィッツには思いの他似合っていて、割りとかわいらしかった。 「ふぅっ」 と、息を一吹き。 舞台が真っ白な銀世界に変化する。 そして2対の大きな氷の斧を作り出すと、力強く振り回した。照明の光が斧により拡散され、会場を光がキラキラと通りすぎる。 続けて何度か振り回した斧を回転させつつ投げブーメランの如く戻ってきた所をキャッチ。最初は近距離、それからだんだんと客席の上まで届くように大きく投げ、またキャッチをする。 最後には斧が飛んでいる間に、ふっと息を吐き出し、大きな氷の柱を作りだし手元に戻った斧でワイルドに一刀両断。 気持ちよさそうに笑うと、一礼し締めた。 緊張感のある演舞に惜しみない拍手が送られる。 「素晴らしい演舞でした。舞台の美しさも含め、完成された演技でしたね。 ここで、特別審査員のメルチェさんにコメントをいただきましょうか」 会場前列が明るく照らされ、雪のスクリーンにメルチェが大きく映し出される。 「は、はい! ご紹介にあずかりました、メルチェです!」 ぺこーっとお辞儀をするとマイクに頭をぶつける。 「お、大人ですから恥ずかしくありません」 小声でそう呟いたのも、マイクがしっかりと拾っている。 メルチェはこほんと咳払いをした。 「えー、どちらの組も甲乙つけがたい演技でした。ティーロさんの酔っ払いっぷりも麻生木さんの素晴らしい歌の為の、ちょっとしたお茶目なジョークだったのではないかと」 大人なメルチェさんはフォローを忘れない。 「ゲーヴィッツさんの演舞は力強く見ごたえ十分で、あと、露出の多い衣装が何ともワイルドでドキドキいたしました」 そう言うと、ちょっと顔を赤らめた。恥ずかしかったかもしれない。 「というわけで、舞台の雪を撤去中なのでぇ、ほんのちょっと演目はおやすみよぉ!」 舞台上で元気に手を上げた色黒な女性に、会場がざわめく。 「こんばんわぁ! カウベル・グレートよぉ!!」 「カワードさんの方は、衣装替えと言っていなくなりましたので、こちら白組のカウベル・グレートさんです」 「うふふ、みんなぁよろしくねぇ!」 カウベルに扮したニコル・メイブがウィンクしながら手でハート型を作った。 カウベルに扮したといっても、髪は青色、衣装は白がメインカラー。カウベルの2Pと言って過言ではない。 胸はちょっと盛ってあるが、仕草のウザさなんかが完璧である。 群青色の表紙の予言の書(らしきもの)を腰から外すと、ぺらぺらとしゃべりだした。 「今回の冒険ではぁ、みんなにお蕎麦を食べて貰いたいと思います。 だって撫子ちゃんからあんなにいっぱい届いたのよぉ、食べなきゃ損でしょ? あ、ねぇ、わんこ蕎麦って何でわんこって言うのかしらぁ? 犬と関係あるぅ?」 「知りません」 突然話を振られたフランはカウベルと話す時と同じようにドライに返すことを心がけた。 「もぉ、フランちゃんったら冷たいんだからぁ、まだ怒ってるのぉ? 会場のみんなも心配してるんだからぁ」 「え、そんな、心配するほどじゃ……」 「えー本当? よかったぁ、でぇこちらはどちらさまぁ?」 ゴテゴテとした真っ赤なドレスで現れた、本物のカウベルが嬉しそうに裾を揺らした。 「アタシはカウベル・グレート!」 「えぇ、グレートなのぉ? アタシより凄そうねぇ!」 「それは、グレートだものぉ、勿論よぉ」 グレートが胸を張ると、カウベルが嬉しそうに手を叩いた。 「とってもアタシみたい!」 「でしょぉ?」 フランが二人のカウベルにため息をつく。 すると、 「でもこんな自由すぎるカウベルちゃんに合わすのは大変だわ。ズッ友解消ね!」 『えっ』 突然、ニコルはフランの口調を真似るとカウベルを軽く突き飛ばして、ペロリと舌を出してから舞台を後にした。 会場がざわめく。 「すごぉい、今のフランちゃんそっくりで、ドッキリしちゃった。 ねぇ、フランちゃんはそんなこと思ってないわよねぇ?」 ドキドキとカウベルはフランに聞いたが、フランもびっくりしていて、うまく答えることができなかった。 その後、みんなでわんこそば大会をして、紅組リードでの後半戦。 「次はユーウォンさんです。よろしくねぇ」 先ほどまでわんこそばの注ぎ役で大活躍をしていたユーウォンがやる気満々で舞台に登場した。 「よーし。とっときのを披露するね。 誰もが知ってる童謡のメロディーに乗せて、歌い終わりまで二時間に及ぶ大河叙事詩『壱番世界の命の歴史』!」 二時間という言葉に会場がどよめいた。 燕尾服に身を包んだ小柄なオレンジのドラゴンはかわいらしいが、二時間はあまりにかわいらしくない。 しかし、 「それは四十数億年前に~はじまっ♪ …え、もういいって?」 ひっく、としゃっくりしたユーウォンがそのまま笑いだしてしまい、あっという間に大河叙序詩は幕を下ろすことになった。 「あらぁ、ユーウォンちゃん出番の前にお酒飲んじゃったのぉ?」 「あの、彼はああ見えて私たちよりずっと年上なんです。壱番世界で飲酒しても何も問題ありません」 フランがそっと言い添えた。 実はユーウォンはしらふだったのだが、そのことは本人しか知らない。 「酔っ払いの紅組は置いておきまして、白組はミルカ・アハティアラさんの登場です。いつもの赤い衣装から一転して、今日は白地の着物に緑色の帯、とてもかわいらしいわ」 「ありがとうございます! ソアさんに着つけていただきました。 ズッ友のカウベルさんとフランさんは敵同士。きっとますますの友情を築くためなんでしょう。なので、わたしもソアさんとは敢えて別の組です!」 ミルカの登場に手を叩いていたソアが驚いて目を丸くした。 「歌はシャボン玉です」 ミルカは体でリズムを取りながらノビノビと歌った。短い歌だったが、一度歌い終えると、ギアのプレゼントボックスを取り出す。 しゃーぼんだま とんだ ふわふわとプレゼントボックスから風船が飛びだして客席へ舞って行く。 やねまでとんで こわれてきえた そこでパパンと風船が弾けて、客が驚くのを見てミルカは悪戯そうな笑顔をしてから、続けて風船を飛ばしながら最後のフレーズを歌いきる。 かーぜかーぜふくな しゃぼんだまとばそ かわいらしい雰囲気に会場はほんわりと和んだ。 「さすがミルカちゃんねー、幸せを届けてくれるカンジ! ね、勿論私たちもぉ、ますますの友情を築くために」 「次はお友達のソア・ヒタネさんですね」 ソアは焦って、カウベルの顔を伺った。でも、カウベルはニコニコと嬉しそうな顔でソアを笑顔で促した。 「ソア・ヒタネです。ええと、歌で競いあうのは初めてで、ちょっと緊張しています」 「がんばれー」 ミルカが声をかけてくれて、ソアはマイクを握りなおした。 「わたしはあまり歌を知らないのですが……母から教えてもらった歌を歌います」 お辞儀をすると会場が温かな拍手で包まれた。 華月の笛による美しい伴奏に合わせて、ソアはドキドキとしながら歌を紡ぎ出す。 最初は少し震えた声もだんだんと笛の音と合わさって、柔らかく澄んでいった。 曲は子守唄で……。 終盤であり、また蕎麦をたらふく食べた後でもあり、皆の瞼がゆるゆると落ちてきた。 すーすーと静かな寝息だけでなく、ティーロとゲーヴィッツの上げる盛大ないびきが会場を揺らす。 皆の眠りにソアも華月も気づいていたが、二人は寝息のリズムに合わせて気持ち良く曲を紡いでいく。ゆったりとのびやかに。 「懐かしい気持ちになるような、歌声でした。ちょっとカウベルちゃん、寝ないで?」 「うん? カウベルとフランはズッ友だよー」 「もぅ、本当に調子がいいんだから」 うとうととよろけるカウベルをフランがそっと支える。 それを見てソアとミルカが嬉しそうに笑顔を合わせた。 「この私が白組に参戦するからには白組に幸せが訪れるのは確定的に明らかだわ。ごめんなさいね、紅組の皆さん」 思いっきりゲス顔で登場した幸せの魔女だったが、幸いなことに、そのゲス顔を拝んだ人数は少なかった。 「モフトピアは~今日もぉ~晴れ~だったぁ~♪」 拳もぐりぐりと演歌を大熱唱。伴奏は前曲に引き続き、華月が担当した。 「ヨッ、幸せの魔女!」 演歌仲間の虎部が合いの手を入れる。 いつもの真っ白なドレスも実は改造済。 するすると体が上昇していくにつれて、裾がニョキニョキと伸びていく。ゲーヴィッツも大きかったが、こいつはデカイ。 「う~ん、これがフランちゃんの言っていた、数mの衣装……紅白恐るべし……」 むにゃむにゃとカウベルが呟く。 「ホホホホホ、皆さんおねむの御様子。ならばここで倍返しだ! もう一曲行くわよーーー」 「ヨッ、幸せの魔女!!」 ニコルとユーウォンが肩を組んで声を送った。 ルサンチマンが容易した水を刹那が手なれた様子で配って行く。 エイブラムは相変わらず時々女性の胸元をスポットで狙い撃ちにし、何故か白組に撫子から猛烈な投票メールが届きはじめていた。 優が蕎麦を啜りながら見守る中、マグロとソアとミルカが澄んだ声で子守唄を歌い続け、チェガルがスポットの中で胸を張る。 ルイスが満足げに酒を舐め、華月がこっそりとカウベルに夢浮橋への帰属を報告する。 「最後が楽しくって良かったわねぇ」 「ええ、本当に」 にぎやかなドンチャン騒ぎは朝まで続いていた。 (終)
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