オープニング

 ――永久戦場・カンダータ

 岩壁の天蓋、虹色の足場を空中に作りながら列車が走る。
 
「なんだ、ロストナンバー達か? 連絡はなかったと思ったが」
「ありませんでした。遊興に来訪するケースも増えましたので、それではないかと」
 曇り硝子に浮かび上がるシルエットを空を行く車輪の微かなビブラートが揺らす。
「……おい、俺の今日のスケジュールはどうなってる?」
「午後よりフリーですね……会議室を抑えました、樽酒を幾つか運ばせますよ」
 問う大男に答える細身の男。
 阿吽の呼吸。
 大男が歯を見せながら笑うと細身の男も微かに笑みを浮かべる。
 
 ロストナンバー達の協力を得たカンダータの一都市の平穏な風景。

 ――我、其れを滅ぼすことを決する。

 それは今日終わる。
 執務室の扉がはじけ飛ぶ、転がり込んだ若い兵士が大声で叫ぶ。
「大変です、都市上空に大量のマキーナ反応!!」
「馬鹿な!! どういうことだ、早期警戒網何をしている!?」
「反応なしです!! 突然現れました、上空ロストレイル号からです!!」

 曇り硝子が歪、砕け散る。男の姿は疑念を確かめる間もなく爆炎の中に消えた。
 
 
 ――空に響き渡る列車の汽笛
 それは、御使の鳴らすラッパのようであった。


‡ ‡


「火急を要するため、挨拶は省きます。
 カンダータにおいて全住人の死滅が予言されました。
 即時カンダータの関連各都市に対して連絡を行ったところ応答はなく、現地協力者からの連絡も絶えております」

 常通り黒肌の司書は凛とした姿勢を保ち、淡々と語るが、少しだけ早く口を滑る言葉が珍しく現れた動揺を伝えている。

「予言と事態を鑑み、同時多発的かつ大規模なマキーナによる攻勢があったと想定されます。世界図書館は事態を重く見、蠍座号、射手座号、牡羊座号、蟹座号、合計四台のロストレイル号を派遣することを決定致しました」

 大規模な交戦の予感。
 咳き一つない水を打ったような静寂が司書室に満ちる。

「カンダータの状況は不明ですが極めて危険な状況であることは推察されます。
 最大限の警戒と準備を頂けますようお願い致します」
 
 ディスプレイに映るNO DATAの文字が虚しく明滅している。

‡ ‡


 天蓋は紅く焼け、地上は黒き煙が覆う。
 空を飛ぶ鉄の車輪から落ちた機械で造られた蝗の群れは人を喰らう。

 ロストレイル号を模した空を飛ぶ列車。
 大量のマキーナを載せた車輌は、カンダータに死を運ぶ使いとなる。

 ――我、其れを滅ぼすことを決する。
 ――我、知恵と言う名の病理に侵されし畜獣の処分を決す。

 永久戦場――その冠詞はこの世界を表すのに相応しくない、ここは――
 
 絶望を育み喰らう『デウス』の牧場

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!注意!
パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。
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品目パーティシナリオ 管理番号2960
クリエイターKENT(wfsv4111)
クリエイターコメント少々間が開いてしまいましたがカンダータの続きにしてラストフェイズです。

『Breeder of dystopia』にて、『デウス』に世界図書館の情報が大きく渡ってしまったための本ルートへの帰結が決定しました。 
 
さて、マッチポンプというキーワードは早い段階で発見頂いたので、マキーナをコントロールしている誰かがいる……というのは大凡想像の範囲内だったと思います。
相手方の正確な正体についてはかなり薄いヒントしかなかったので思っても確定できないだろうなとは思っていました(そういう方針で頂いてもいたので)、気づきそうな人も居たのですが、如何なる運命の悪戯か途中でお亡くなりになってしまいました。

そしてカンダータの現状ですが……
ロストナンバーの協力によって早晩、存在がバレると判断した『デウス』は全カンダータ人類を消去することを決定しました。
今まで倒せる範囲で調節していたマキーナ全軍を投下全土に渡って虐殺を開始しています。
通信網はずたずたになり各都市は孤立。抗戦を行っていますが、かつてない大規模侵攻に各個撃破を待つのみと言った状態です。


本シナリオにおいてロストナンバーが実行できる行動は以下になります。

1)
空を飛ぶロストレイル号型マキーナ及び随伴するマキーナと交戦する。
基本的にロストレイル乗車状態もしくは空中での戦闘となります。

参加ロストレイル号
射手座号・蠍座号

交戦敵
・G型マキーナ【空】
六本腕の人型マキーナ 体長3m程
胸部にガトリングガンを装備、腕部が空対空ミサイル、脚部に空対地ミサイル
戦闘時には音速を大きく超える機動速度を持ち、体当たりを行うケースがある
『プロギスロギオン』登場のG型マキーナに比べ装甲が薄い、装甲の厚いところに当たれば射手座号の砲撃を弾く程度と思ってください(蠍座号の砲撃は当たれば確実に壊れます)
いっぱいいます

・ロストレイル号型マキーナ
列車型マキーナ 体長:ロストレイル号と同じ
各所に巨大砲塔、車体下部に空爆用のクラスター爆弾及びバンカーバスターを積載しています。
火力は蠍座号と同程度、ダメージコントロールに優れており部分的な欠損を受けても継続的に稼働します。
合計八機います。

本項で敗北した場合、文明維持が困難なレベルにカンダータの人口は激減します。
またネームドNPCは全滅します。

2)
都市に降りたマキーナと交戦しカンダータの生存者及びカンダータ施設を護る

参加ロストレイル号
牡羊座号

交戦敵
・G型マキーナ【地】
六本腕の人型マキーナ 体長3m程
胸部にガトリングガンを装備、六本ある腕部が単分子ワイヤーになっており、脚部は地対地ミサイル
戦闘時には音速を超える機動速度を持つ
装甲が厚く正面であれば重火器(人間が通常携帯できない武器)での攻撃を弾く
沢山います

本項で敗北した場合、カンダータのインフラが崩壊、復旧するまでの間厳しい生活が続きます。

3)
『デウス』の存在する場所の探索及び到達方法の立案

参加ロストレイル号
蟹座号

交戦敵:なし
場所は以前のシナリオにて可能性が示唆されている場所の何れかです。
行動として、1)もしくは2)を選択してたとしても3)を選択することは可能です。

本項で適切な到達方法が立案されない場合、カンダータ軍の誰かが提案する作戦が採用されます。


4)その他
1)~3)までに含まれない行為、但し適切と判断されない場合は描写がされない場合がありますので留意ください。


なお、マキーナがロストレイル号を駆る理由はカンダータの希望であったロストナンバーが敵対したもしくははじめから敵であったと錯誤させ、その絶望を喰うためです。
またそのような判断に至った理由は『アルゴス号の探索』にてロストレイルを観測したためです。

他にどういうフラグで進んできたかとかは、最終シナリオ後にでも詳細に(元気だったら)説明しようかと思います。

以上です、それでは良い戦場を

参加者
シーアールシー ゼロ(czzf6499)ツーリスト 女 8歳 まどろむこと
アマリリス・リーゼンブルグ(cbfm8372)ツーリスト 女 26歳 将軍
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?
ヴァージニア・劉(csfr8065)ツーリスト 男 25歳 ギャング
星川 征秀(cfpv1452)ツーリスト 男 22歳 戦士/探偵
ルン(cxrf9613)ツーリスト 女 20歳 バーバリアンの狩人
ニコル・メイブ(cpwz8944)ツーリスト 女 16歳 ただの花嫁(元賞金稼ぎ)
虎部 隆(cuxx6990)コンダクター 男 17歳 学生
フィミア・イームズ(czyy2955)コンダクター 男 19歳 大学生兼モデル、ダンサー
相沢 優(ctcn6216)コンダクター 男 17歳 大学生
坂上 健(czzp3547)コンダクター 男 18歳 覚醒時:武器ヲタク高校生、現在:警察官
ブレイク・エルスノール(cybt3247)ツーリスト 男 20歳 魔導師/魔人
コタロ・ムラタナ(cxvf2951)ツーリスト 男 25歳 軍人
百田 十三(cnxf4836)ツーリスト 男 38歳 符術師(退魔師)兼鍼灸師
レナ・フォルトゥス(cawr1092)ツーリスト 女 19歳 大魔導師
ティーロ・ベラドンナ(cfvp5305)ツーリスト 男 41歳 元宮廷魔導師
ジューン(cbhx5705)ツーリスト その他 24歳 乳母
仁科 あかり(cedd2724)コンダクター 女 13歳 元中学生兼軋ミ屋店員
セダン・イームズ(czwb2483)コンダクター 女 20歳 使用人…だろうか?
イルファーン(ccvn5011)ツーリスト 男 23歳 精霊
ファルファレロ・ロッソ(cntx1799)コンダクター 男 27歳 マフィア
ティリクティア(curp9866)ツーリスト 女 10歳 巫女姫
ナウラ(cfsd8718)ツーリスト その他 17歳 正義の味方
碧(cyab3196)ツーリスト 女 21歳 准士官
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)ツーリスト その他 1歳 偵察ロボット試作機
メアリベル(ctbv7210)ツーリスト 女 7歳 殺人鬼/グース・ハンプス
吉備 サクラ(cnxm1610)コンダクター 女 18歳 服飾デザイナー志望
ハクア・クロスフォード(cxxr7037)ツーリスト 男 23歳 古人の末裔
イテュセイ(cbhd9793)ツーリスト 女 18歳 ひ・み・つ
ディラドゥア・クレイモア(czch7434)ツーリスト 男 22歳 探索者(エクスプローラー)
アヴァロン・O(cazz1872)ツーリスト その他 20歳 汎用人型兵器アーキタイプ
オゾ・ウトウ(crce4304)ツーリスト 男 27歳 元メンテナンス作業員
ローナ(cwuv1164)ツーリスト 女 22歳 試験用生体コアユニット
チャン(cdtu4759)コンダクター 男 27歳 ホストクラブ&雀荘経営者
しらき(cbey8531)ツーリスト 男 38歳 細工師・整体師
神結 千隼(ccat2642)ツーリスト 男 27歳 ヒーロー
ホワイトガーデン(cxwu6820)ツーリスト 女 14歳 作家
メルヴィン・グローヴナー(ceph2284)コンダクター 男 63歳 高利貸し
森山 天童(craf2831)ツーリスト 男 32歳 鞍馬の黒天狗
冬路 友護(cpvt3946)ツーリスト 男 19歳 悪魔ハンター
華月(cade5246)ツーリスト 女 16歳 土御門の華
レイド・グローリーベル・エルスノール(csty7042)ツーリスト その他 23歳 使い魔
エイブラム・レイセン(ceda5481)ツーリスト 男 21歳 ハッカー
ヴィクトル(cxrt7901)ツーリスト 男 31歳 次元旅行者
ギルバルド・ガイアグランデ・アーデルハイド(ccbw6323)ツーリスト 男 38歳 重戦士
ロイ・ベイロード(cdmu3618)ツーリスト 男 22歳 勇士
ダルタニア(cnua5716)ツーリスト 男 22歳 魔導神官戦士
パティ・ポップ(cntb8616)ツーリスト 女 25歳 魔盗賊にして吟遊詩人
バルタザール・クラウディオ(cmhz3387)ツーリスト 男 42歳 「黄昏の城」の主
青燐(cbnt8921)ツーリスト 男 42歳 東都守護の天人(五行長の一人、青燐)

ノベル

 Arguments for the Existence of God

 其は文明を造り之を操る。
 其は思想を造り之を操る。
 其は情報を造り之を操る。
 其とは世界であり、世界とはデウスである。
 世界の内にあって其は絶対者であり、被造物が抗する法則は存在しない。
 其は希望と絶望を天秤に揺らし最後の晩餐を貪ることを欲した。

 ――物語の支配者は神
 ――故に奇跡は存在しない


‡ ‡


『御使が薄暗い世界を覆い尽くし、戯事に消え去る間近』

 全軍砲撃開始――一秒でも永くここを守るんだ――援軍は必ず来る――
 ――こちら――市、空を飛ぶ列車から大量のマキーナが――駄目だ、これ以上もたない
 ――――どういうことだ――あいつらは―――味方じゃなかった――

 天蓋と地面の間を白線が幾筋も交錯する。
 朱く輝く爆光が縁取る鋼鉄の体躯、忌まわしい金切り音を立て次から次へとこぼれ落ちる。
 御使の力が大地に触れる度、土が爆ぜ、幾十の命が物言わぬ肉塊となる。

 ――戦線維持できません――退路――駄目です、西より三機の列車型……

『希望の種は世界の内になく、彼らを想う旅人が持って来る』


‡ ‡


 戦端は空で開く。
 兵器そのものである二人のロストナンバーがマキーナ前衛と接触する。

『ALPHA隊ローナ・ワンから各ローナに連絡。
 陣形をアブレストにアウトレンジアタック。目標はロストレイル号型に随伴されたマキーナ大群、航空管制』
 横一列に流れる飛行機雲は、ローナ扮する戦闘機群。
『――距離100000――ロックオン――LRM一斉発射』
 兵器による戦闘は極めて静かに始まる、視認性のない超々距離からのミサイルが虚空へ消える。
『全弾命中、マキーナ群急速接近――距離50000――MRM並列発射』
 着弾を示すデータ、空に朱い点の中から急速に姿を見せるマキーナの先触れ。
「BRAVO隊ローナ・ツー、マキーナ群視認距離。敵多数健在、マキーナ正面部隊にSRMを射出。
 格闘距離――目標捕捉、花火の中に突っ込みます」
 空に大三角を描くローナ達がロストレイル型マキーナに吶喊する。


 ――システム、戦争モードヲ起動

『データリンク・アヴァロンさん戦闘情報を共有します』
『ローナ様ありがとうございマス』
『Good Luck』
 ヘッドギアの片隅に浮かぶ黒髪少女のアイコンがウィンクし消え、残る光点は全てマキーナ。

 ――WDG Drive
 バイザーの奥で、アヴァロンの眼窩が青白いエネルギー光が揺れる。
 かつて解析したG型の高速起動。
 アヴァロンのシステムは、彼らを超えるための実装を構築する。

 ――チャンバー展開
 背中の装甲が弾け飛び、露わとなる巨大推進機関。
 超エネルギーは爆発的な音と火の輪を造り、アヴァロンの速度はたやすく音速の壁を破る。

『敵前衛一部向かっています』
『問題ありまセン』
 ただ突き抜ける、それだけの行為が破壊。
 砕け散ったマキーナの残骸を微かに輝く糸が絡めとる。
 土塊を高エネルギー体と変えるシステムがマキーナを捕らえ喰らった。

 青白い発光、次々に生まれる多面立体の結晶が一つの巨大なレンズとなり、その表面に現れるのは、かつて魚型マキーナを撃ちぬいた超巨大レールキャノン。

 バイザーが遥か遠くに存在する目標を捕捉する。
『エネルギーチャージ完了、ローナさん回避ヲ』

 ――目標列車型

 アヴァロンから伸びる激光。
 線上に存在したあらゆるものが、プラズマとなり空気に解けた。


‡ ‡


『救うために戦う列車と殺すために存在する列車。
 向かい合う意志が交錯することは必然』


 幾つもの白が射手座号に迫る。
 耳障りな風切音を立てる鋼鉄の羽蟲達。獲物を見つけ刃を振り上げたまま空に磔される。
 羽蟲を捕らえるは蜘蛛――交錯させた五指の間から嗤いが覗く。
「俺の糸の硬度は最高にして最強……暴れても切れやしねえ」
 糸に伝わる強烈な反応を物ともせず、蜘蛛は糸の上、己の領域を駆ける。
 
 ――空気に紛れる火薬の臭い
 
 餌食の足掻きに蜘蛛――劉は、銃を模すように人差し指と中指を突き出す
「BANG!」
 歪んだ笑みから溢れる言葉、弾倉が立てる歪な擦過音、鋼鉄の代わりに火花を吐き出しマキーナの胴が爆ぜる。
 劉の指に返しが伝わった、輩の死に反応する蟲共。
「蟲が……生意気なんだよ」
 劉が糸を踏み場に宙に舞う。

 ――雷が空気に爆ぜる
 
 鮮やかな紫が放射状に広がる。
 劉の糸を媒介に流れる、全ての物体に焼き払う純魔力の奔流。
 装甲の隙間から黒煙を吐き出すマキーナの群れは力を失い蜘蛛の巣に揺れた。
「いいタイミングだぜ……」
 劉の言葉に、整った容貌に全く相応しくない魔法少女のような杖を握った男が返したのは顰めっ面。
 ニヤリと笑いを浮かべた劉は、次の餌食を捉えるべく新たな巣を作る。
「……こいつは無茶するからな」
 無謀な片割れに振り回される男――星川は、彼ら特有の自嘲と自負の表情で相方が定めた目標を追う。


 ロストレイル号を住まう蜘蛛はもう一匹。
 リズムを刻み、害虫を喰らう。

 ふわりと舞い飛ぶ小さな女の子、風に煽られながら落ちていく卵に笑いかける。
「マキーナと戦うには、メアリも空を飛べなくちゃ。The Spider and the Fly!」
 
 ――メアリの背中に蠅の翅
 ――軽くて透き通ってとってもキレイ

 蝿はすっごく早い蟲、一瞬で水星まで逃げてしまう。
 音速なんて目じゃないわ。

 ――服を破って飛び出す、毛むくじゃらの蜘蛛の脚
 ――全部で何本? 全部で八本!

 メアリのお腹から生えた蜘蛛の脚。
 粘着質の糸を張り巡らせてマキーナ達を捕まえる。
「ちぎろうとしてもそうはいかないわ。 
 硬い脚でドリルみたいにぎゅるぎゅる貫いて食べたげる」
 メアリは唄う言葉の通り、蜘蛛の脚が鋼鉄の蟲に穴を開ける。
 
 メアリは浮かべる笑い顔、とてもとても楽しそう。
 メアリは大きく口を開け、柔らかくなった蟲の腸にむしゃぶりついた。


「ルンは狩人! 大物狙う!」
 射手座号の上から飛ぶ二条の閃光がマキーナの光学機関が貫き通す。
 煙を吐きながら爆風に煽られるマキーナ。ルンは射手座号の屋根を蹴り、其の背に飛びつく。
「お前、こっちを向く」
 それは命令では無く決定事項。
 人外の膂力がマキーナの関節が捻じ曲げ、砲門を無理矢理ロストレイル型へ向ける。
 機体下部に咲く火の華、しかし、それはルンの期待した程の効果は上げない。
「お前弱い、使えないな」
 憮然としたルンは、G型マキーナの首を引き抜き投げ捨てると落下するマキーナを足場に別のマキーナに躍りかかる。


 中空に展開された光輝放つ陣、唄うような呪言と共に幾重にも出現した五芒。
 その煌きは呪術結界――術式の反動から術者から守る『簡易』な盾
 秘術の生み出す膨大なマナは、余剰であってすらマキーナの砲撃を霧散させていた。
「たとえ、装甲が厚くても塵に返すのみですわ!! ――ディスインテクレード」
 星杖から迸る黒色無韻。
 大気を、光すら分解せしめる破壊の励起が音もなくマキーナ群を芥へと変える。
「敵陣の綻びに楔を撃つ突撃だ」
 術式の余波に撓む空間に天の怒りたる光を打ち込むは、レナと長年轡を並べ呼吸を共にした勇者達。
「人類を滅ぼそうと動いたか……奴らは魔族と同じだな……ならば容赦などはしない!!」
 巨大な電光術が幾筋も走る、ロイ・ペイロードの剣が乱舞し紫電が荒れ狂う。
 電撃の糸を引き裂き亜人の肉体が飛び出す。
 鋼鉄の装甲に身を包むギルバルドが空中を駆け金色の槌を当たるを幸いに振り回す。
「このときのために、空中歩行靴を用意したのじゃ!! 敵が空にいようが、このハンマーで打ち砕くのみじゃ!!」

「ギルめ、飛び出しては守りが手薄になるだろう」
「わたくしは、皆さまのサポートをさせて頂きます」
 ロストレイルが燐光に覆われている――リフレクトシールド――如何なる攻撃も反射する盾。
 ダルメシアンの僧侶の言葉に勇者が頷くと飛行魔法でギルバルドを追った。


「火燕招来急急如律令!」
 射手座号上部では、百田十三が次々に護法を召喚していた。
 連続の式打ち、束ねられた火燕はロストレイル型の下部についたクラスター爆弾へ狙いを定め飛翔する。
 火燕の単体では、密閉された炸薬を誘爆させるには至らない。
 爆薬の頑丈さはヴォロスで学習していた、故に石を穿つ雨だれが如き招来、束ねた熱が装甲に浸透する。
 招来した式が四十を超えた時、轟音と共にロストレイル型が斜傾する。
「飛囀招来急急如律令!」
 間髪入れず打ち込まれた蝙蝠が、マキーナ達の隙間を縫いロストレイル型にめがけて式を投下する。
「炎王招来急急如律令!!」
 十三の叫びと共に現れた六米を超える炎皮を纏う猿、それは式による爆撃の開始だった。





 蠍座号の先頭に佇む男。
 己を囲むマキーナに見せるのは恐れではなく、中指を突き出した挑発。
 無論マキーナがそれを理解すること無く、無感情に男へ爪振り下ろし、大きく体勢を崩す。
 男――ファルファレロの周囲に浮かぶ燐光。
 防御結界に弾かれ、体勢を崩したマキーナを男が見逃す道理もない。

 ――Fuck Off
 男の脚元が烟る。
 一瞬の石火――火線は六つ、響く音は一つ
「音速を超える飛行がウリらしいが、使いこなすオツムがねえんだよてめぇらは。
 俺の早打ちにゃかないやしねえ」
 マキーナ一体にファウストの放つ感電弾が二つ、メフィストの放つ徹甲弾が二つ。
 男の両手から空になったマガジンが落ちる音を皮切りに、マキーナは空中で傾き爆散した。


 拳銃弾に貫かれた極僅かな傷が広がり、マキーナが塩の柱となって消え失せる。
「全く嫌な贋作だ」
 敵の姿に溢れる溜息。
 すでに真銀の弾丸が装填された銃の遊底を引きながら、ハクアは目を細めロストレイル型を見つめる。

『ハクアさん――ロストレイル本体の右10mに幻覚を投影本体を隠します――』
 ノートに浮かぶ文字は吉備サクラからの連絡。
 ハクアは一つ頷き機会を伺う。

 宙に浮かび上がるロストレイル号を象る幻覚。
 その精密な姿に誘蛾灯に引き寄せられるが如く密集するマキーナは己達の失策を悟る暇はない。
 蟹座号左舷から展開された大型魔法陣、炎熱の嵐が幻覚に惑わされたマキーナを融解させる。


 蠍座号に肉薄する機械の群れを迎え撃つものは他にも居る。
 三人の魔術師と石造りの魔物が一体。

(……狼型やら蜂型のマキーナとかもいたけど。もしかしたら元の生物は、すでにデウスが滅ぼしてたのかな)
 幾度カンダータへと降りたブレイクの考察は正鵠を射たものであったが、戦場においてそれを証明する意味は無い。
(……考察は後だね、ディラドゥアさんも一緒だし)
「成長の程を見せてもらおう、ロード・ブレイク」
「我が主、ブレイク。遠慮は要らない、一匹残らず食い散らせ」
「分かっているよ、レイドさん。
 じゃあ行こうかラド、君は特別強化してるから偽トレイルの動力ぶった斬りにGO」
 世にも珍しい狼狽と苦笑を刻む金剛石のガーゴイルを先陣とした小型ガーゴイルの群れが主命の元、突撃を開始する。
 空に砕け散る石と金属、ガトリングガンで小型ガーゴイルを撃墜するマキーナは、一時足りとも同じ位置に留まろうとしない。
「『ゾムの嗜虐的悪戯を警戒しているのか、生意気だね』ダッテサ」
 戦端の交えると共に無口となった主に代わり、ラドが嘲弄を紡ぐ。
「『……知ってるだろ、僕の人形達は音速くらい追いつけるんだよ、ブラザー』」
 ブレイクが腕を振る。
 満ちる魔力に応え小型ガーゴイルは速度を増し、蜂球のように取り付いたマキーナごと散華する。

「成長したねブレイク……おっと危ない」
「まだまだ及第点はやれんな」
 ガーゴイルの隙間を抜けて飛来する鉄塊をレイドの爪とディラドゥアの剣が殊投げに弾く。
「それは今後指導だね、それじゃ僕もそろそろ行こうかな」
 砕ける小型ガーゴイルの背を足場に次々と転移するレイド。
 彼の姿を追うように爆発が連なる。

 皮膜をもった龍の翼が目一杯に広がる、ただそれだけの行為に満ちる魔力が大気を蠕動させた。
「さて弟子ばかりに戦わせるわけにはいかんな」
 龍顎から迸る猛りが天を打ち、突き上げた剣が電熱を纏い赫赫とした燐光が龍人の全身を覆った。
「ブレイクは四十は落としたか、師としては三倍は落とさねば示しがつかんな」
 不可知の突撃はもはや瞬間移動と何ら変わるところはない。
 宙をなで斬りにする幾筋赤い死線、機械の悪魔を遥かに超える魔が蹂躙を始める。





 ミサイルの爆炎が螺旋を描きながら空中の一点に吸い込まれる。
 渦巻く熱を吸い上げるのは、穏やかな表情を刻む美髯の鬼。
 たっぷりと熱を喰らったしらきは、陽炎のごとく姿を空間に溶けこませる。

 しらきが姿を現出させた先は、ロストレイル型の胴体中央。
 生態的なパーツが次から次へと爆薬を発射管へ移送している。
「ふむ……」
 しらきが髭を撫ぜ、大きく息吹を払う。
 吐息――吸収した熱い大気がロストレイル型の内部に満ち満ちる。
 高熱に包まれた爆薬は瞬く間に誘爆を繰り返しロストレイル型の内部は炎熱の地獄とかす。
 鉄が爛れ堕ちる高熱の輻射、心地よさそうなしらきが両手を軽く振ると地獄の炎熱はロストレイル型全体を蹂躙する。

 赤熱し融解を始めるロストレイル型。
 程なく自重に耐え切れず自壊し、地面に落ちた。


 襟巻き蜥蜴の魔術師は、戦場の全体を俯瞰し味方の補助に努めていた。
 ロストナンバーは個々の戦闘能力に優れるが、その気性故組織だった戦闘は得手とはしていない。
 防壁の魔術を展開し守りを固めつつ、焔棘柵放ちマキーナの動くを封じ孤立を防ぐ。

「……しらきが一機屠ったか、さて、我も負けてはおれぬな」
 懐から取り出した六枚のカード握りしめる。
 煉獄――幾多の敵を焼き払った猛炎がロストレイル型を包み込む。


 転移符の導く先はロストレイル型の先頭車輌。
 ロストレイル号とは異なる猛烈な風圧を物ともせず、コタロは後部車輌に向けて屋根の上を駆ける。
 だらり下げた右手から魔術矢、左の袖から溢れる魔術符が作る爆炎が偽物の背を駆けるコタロを追いすがる。
 最後部で待ち構えるマキーナの姿を認めるとコタロはその身を宙に躍らせた。
 ――上部装甲越しに空爆兵器を傷することは困難ならば
 魔力を込めたクロスボウが唸りをあげる。
 ――機体下部から貫くのみ
 重火器に匹敵する最大魔力の放出が偽物の射出管を炎上させたことを確認し軍服は再び姿を掻き消す。

 常に勝る無謀は、胸中を占める己が行為への罪悪感と敵への嫌悪故。

 轡を並べた友の安否を知りたかったかった。
 怨敵の存在を明らかにし、この手で滅したかった。

 ――己は兵士だ
 失せ物を探すことなどままならぬ、それを求めた故の結果がこれだ。
 ――己を知れ、兵士は
 何をも省みず戦う、それが彼らを救うために己が成しうる覚悟。
 銃後に沸く懸念は友に委ね、コタロは覚悟を完了した。


‡ ‡


 巫女の念視に触れるは、世界を覆い尽くす黒い靄。
 D型と称されたマキーナとの決戦でディナリアを覆っていた意志――神の、デウスの意志

 一つ視れば千の死者が見える
 二つ視れば万の苦悶が見える
 三つ視れば億の絶望が見える

 予知の結果を刻んだノートが額から零れた汗に濡れる。
 巫女にとって予言はリアルそのもの、絶望を覗く行為は滲む脂汗となって下着まで濡らしている。

(デウスはこの世界の神。
 異世界への侵攻はデウスが意図したの?
 カンダータの誰かが、デウスへの反逆に私達を利用している?
 乾ききった喉が痛みを訴える。
 ぬるま湯を流しこみながら、ティクリティアは疑問を浮かべる。
(以前発見された絵本、滅ぼされた文明があったという事?) 
 彼女に応えるものはいない。


‡ ‡


『奪うことは容易で、護ることは困難である』

 街に降り立ったマキーナは人々を処分していた。
 老いも若きも男も女も、如何なる差別もなく淡々と機械的に。


 十字を頂く屋根から覗く猛禽の瞳が人の地獄を捉える。

 もろび……ぞりて、……えたてま……れ
 耳につく音は、壊れた蓄音機が鳴らす。

 ――笑えない歌

 不快な表情を浮かべた鷹は静かに舞い降りる。

 剣林弾雨に沈む乾いた音。
 射手の耳しか震わせぬ音が突進するマキーナをぐらりと揺らす。
 推進機関に『偶然』命中した小さな鉄。
 音速の弾頭と化した機械に交錯する女の拳、軍靴が地面を削る。
 鉄が軋み、逃げ場を失った衝撃が砂煙を巻き上げる、鋼鉄の装甲は爆ぜ、機械は痙攣していた。
 女の翼が震え、腕が裂る、血澀きが手甲を濡らした。
 退歩掌波に酷似したカウンター、リュウと呼ばれる強靭な肉体にのみ許された一撃必殺の戦技。

 悶死する程の激痛は瞬く間にリュウに侵食される。
 破れた袖を引きちぎり、露わとなった傷ひとつない腕をぷらぷらさせながら碧は体を沈める。

 空を切る鋭い音。
 鋼鉄が擦過する音が続けて空を鳴らす。

 背後から碧の頭部のあった空間を引き裂いたマキーナの腕が跳ね上がる。
 接合部から覗く高速振動する太刀、翻る刃がマキーナの背を串刺しにする。
「後ろへ翔べ!!」
 花嫁衣装の白がマキーナを蹴り飛び退る。
 言葉を発した女は地面に転がっていた砲弾をマキーナの胴から突き出た刀の先端に叩きつける。

 爆音が鳴り、焼け焦げたマキーナの破片が地面を叩く。

「ニコルか……この先で現地兵と合流する、いいな」
 服であったものを払う碧に、ニコルは頷いた。


「俺達を信じてください。
 この街の食料庫の近くで俺達の仲間が陣取っています、そこに避難して――」
 相沢は、必死に説得の言葉を並べていた。

『――食料庫の近くに結界を貼っています。無事なかたを、こちらに案内してください』
 ノートに記載された華月の流麗な文字は、防衛網が整いつつあることを告げている。

 この場で相沢対してる相手はマキーナではなく、怯えと恐怖。
「何言ってんだ安全な場所なんてあるか、俺達は終わりなんだ」
 絶望を前にして全ての人間が高潔で居られるわけではない、濁った眼の男が相沢の襟首を掴み嗚咽を始める。
 ――不味い
 恐怖は容易に伝播する、伝播したの先にあるのは絶望と諦め――
 (このままじゃ不味い……)
 信じて貰うまで根気よく話すしかない……しかし、ここは戦場。一刻の猶予もないも事実。
 突然鈍い音が響き涙声の男が地面に転がる。
 拳を打ち付けた茶褐色肌の少年――ナウラが、男の首を掴み激昂を吐き捨てる。
「黙って従えとは言わない。私達を利用する心算で構わない。せめて守ろうとする者を邪魔しないで欲しい。
 生き抜く意志を捨てるな! 滅亡の運命に唾を吐け!」
 ナウラの感情の矛先は、人を家畜呼ばわりする神。
 (彼らは私を人だと言った、その人達を……)
「まあ、熱くなんなよ、ナウラだっけ?
 証明して信じさせてやればいいのさ、俺達がマキーナを倒せるってな」
 ナウラの腕を掴みながら、虎部がカンダータ人に語りかける。
「こんなかに街に詳しい人は居ないか?」
 カンダータ人の顔を見ながら、声を張り上げる虎部。
 彼らは顔を見合わせ、怖ず怖ずと手を挙げる娘、それを追うように何人か挙手をする。
「何をするんでしょう?」
「なあに、全部潰して死ぬか、一部潰して生き延びるか、さ」


‡ ‡


 寡婦と子供がディナリアの街道を走る。
 逃げ道など存在しない、それでも――
 寡婦は手の内にあった認識票を強く握りしめた。
 愛する人の守ってくれた命を最後の一瞬まで諦めることはできない。

 曲がり角の先は瓦礫に埋まり、すでに幾多の命が失われていた。
 背後からはマキーナの鳴らす砲音。
 振り向いた寡婦にできたことは、せめてわずかでも子供を逃がすために立ちふさがること。
 その横顔に宿るのは諦念ではなく覚悟。
 マキーナの胴が展開すると同時に羽根が生えたように見えるのは死の前に視る幻覚か。
 正中線が光りマキーナがぐらりと揺れ、両断された体がゆっくりと崩れ落ちる。
 マキーナを引き裂き現れた麗人の姿、天使の如き両翼が大きく戦ぎ、柔らかな風が寡婦の頬を撫ぜる。
「大丈夫か?」
 戦地にあって、涼やかな笑顔。
 何故か返事に窮する寡婦に変わって、子供が声をあげる
「うん、おばちゃん。ありがとう!」
 鼻白むアマリリスの背中で光りが散った。
 砕けたマキーナの残骸が地面を叩く。
「よう、ロストナンバー」
 煙を吹き出すロケットランチャーを投げ捨た大男が近づいてきた。
 顔の半分が火に爛れようとも見間違えようがない。
「グスタフ、無事だったか……私達は……」
 歯切れの悪い女将軍の言葉。
 片手で言葉を遮りディナリアの将は首を振る。
「……今更お前らを疑うかよ、轡を並べたってのはそういうことだぜ」


 牡羊座号から落ちる一筋の白線。
 ディナリアを蹂躙するマキーナの中央に突き刺ささる光槍は荒れ狂う電熱となって、世界を白に蹂躙する。
「――本事象をコロニー間戦争に伴う防衛と認定――全制限機能解除――」
 電磁を纏う自由落下、全方位への電熱放出。
 帯電する空気が弾け、鉄塊の埋まる爛れた地面に仁王立つジューン。
 焼け焦げたメイド服も融解する人工皮脂も気に留めずオールレンジに電磁波――否、感情を解き放つ
「グスタフ様、カンダータ西戎軍第弐連隊の皆様! 
 ご無事ですか! あれはマキーナの作った偽物です! 
 私達ロストナンバーは最後まで貴方がたと一緒に戦います!
 この地を奪還できないなら、私は……貴方がたと枕を並べて討死します!」

 彼女の言葉は、殊、ディナリアにおいて極めて影響力が強い。
 戦場の音を掻き消すがごとく、湧き上がる怒号が共闘を叫ぶ。

 ――オールハイル、カンダータ、全てを捧げよ
 ――オールハイル、カンダータ、我ら一兵まで彼女と共に

「大丈夫。
 コンナ事二兵士サン達ハ騙サレタリナンテ、シナイヨ。
 ダッテ、今マデズット一緒二頑張ッテ来タンダモノ」

 意気軒昂に巻き上がる気炎を眺める幽太郎。
 微かな語弊があるが、それは事実だ。
 忍び寄る死に耐え共に大地に刻んだ足跡、それは姦計で崩れ去るような脆いものではない。


‡ ‡


『手を取り合って』


 結跏趺坐した中性的な容貌の男から流れでたのは優しい歌であり風であった。
 それは虹色の輝きとなって大気に混じり、都市をそしてそこにいる人達を包み込む。

 ――僕は結界の使い手にして守護の担い手

 マキーナの銃弾に撃ちぬかれ痙攣する女がその煌きに触れると傷は塞がり、体を揺らすのは寝息だけとなった。
 その輝きを見た兵士の表情は悲壮から勇猛を取り戻す。
 その優しさに触れた子供の目は絶望の淀みを流れ落とし希望が輝いた。

 ――どんな地に住まう人でも必至に命を繋ぎ生きるのならば見捨てることはできない

 都市の中央からゆっくりと広がる風。
 人々を慰撫する涼風が、空から振る死――マキーナを猛然と拒絶する

 爆撃は風に阻まれ一片の火の粉も地に落とすことが能わず、鋼鉄の肉体は虹色の光に阻まれ無為な突撃を繰り替えす。
「みんな、後塵を拝する憂いはない。存分に戦ってくれ」


‡ ‡


 祓串の先端からワイヤーを縮め、引っ張られるように壁を駆ける神結の後ろをガトリング砲の掃射が追いかける。
「うおおぉ、やってくれんじゃないの。お返しすんぜ」
 神結が踏み鳴らした壁から生えた大砲が一斉に砲撃。
「グラスプアイで正面からは破壊できねーって分かってんだぜ。名演技だったろ? うぉ?」
 とっさに貼ったクリエイションは一秒。
 空からの砲撃を弾くと聳え立つ尖塔めがけてワイヤーに引かれ空を舞い飛ぶ。
「音速移動か、巨人がわんさかって、これで三度目だな」
 尖塔に着地した神結を颶風が撫ぜる。
 頬を悪戯気な笑みが浮かんだ。
「それじゃ、派手に決めてやろうじゃないか!」
 二本の発光が伸び、召喚されたランスが電磁加速し宙に浮かぶマキーナ達を貫く。
「まだ終わりじゃねぇぜ、ぬぉりゃああ!」
 徐々に角度を変えるレールガンバレードは、マキーナを破壊する白い剣のように見えた。


「ロイたちとは別なんだけど、弱者は弱者なりの戦い方ってのがあるんでちゅよ」
 地面に掘った穴の中で呟くスケイブン。
 上を通る重たい振動が大量に発生した頃合いを見計らって地面から飛び出す
「いっぱい来たわ……うらぁあああ!!!」
 ビブラートが機械の表面を振動させ皹入れる。
 マキーナの体は己の生み出す移動エネルギーに耐え切れず自壊した。


「フンガー来ヤガレー!」
 仁科が斜めに構えた仮面は、攻撃を弾きすぎて子供が泣くこと請け合いの凶悪面。
「喰ラエオリャー!!」
 怒りの余りめちゃちゃな硬度となった仮面を両手でぶん投げる。
 低空で飛んだ仮面はマキーナの脚を切り裂きブーメランのように仁科の手に戻ってきた。
「おっし、あかりちゃんナイスサポート」
 地面に転がるマキーナの背中に飛びつく虎部。
「そいつの弱点は背中の真ん中ちょいしたあるよ、弾雨の中を盗んだバイクで駆けずり回って決死の助言ある」
 盗むなよと心でツッコミを入れながら、突然現れたチャンのアドバイスに従いシャーシンを仏刹。
 漏電して機能不全を起こしたマキーナがのたうちまわり、そのうち停止する。
「確実に一機ずつ破壊っス、倒れているのを攻撃するのはちょっと気が引けるっスけど」
「何言ってんだ友護、やらなきゃやれるぜ」
「わかってるっス」
 銃から発射された徹甲弾が次々に転がるマキーナを捕らえ破壊する。


 コンダクターである相沢が正面からマキーナに挑めるのはギアの助けもあるが日々の鍛錬の賜である。
 ――戦場の気は猛々しくとも己の気は鏡の如き止水
 柔術に端する理合の極み。
 マキーナの火力は触れる必要もなく人を弑する程強大。
 しかし、対峙できぬものではない。
 ただ、それが放つ死線を妨げればいい、ミサイルを壁で防ぎ、もうもうと上がる爆炎を目眩ましに接近、高速振動する爪を弾き上げ、胴部ギリギリに鏡を展開する。
 ゼロ距離で反射されたガトリングガンがマキーナ自身を破壊した。

 澄み渡る心は世界を俯瞰する、視界にあるミサイルを避ける必要がないこともすぐ分かる。
 ナイフを構えたパティが調子に乗った表情を浮かべている。


 虚ろな眼窩となる天狗の影。
 空洞のような口腔がホーウ、ホーウと奇っ怪な音を立てる。
 
 ――機械は恐怖しない
 鋼鉄が撒き散らす火線、天狗の影を揺らす。
 うつよのものならぬ影は、刹那、姿を掻き乱されようとも再び黒い天狗を象る。
 ――機械は恐怖しない……
 黒い天狗が黒い手を広げ、黒い羽を広げマキーナに重なる。
 それは確かに恐怖した、失ったはずの本能が穢れを恐れる。
「死の汚れや、金属の装甲なんぞで防げへんよ」
 男のつぶやきと共に、装甲の隙間からあふれた黒砂ががさりと音を立て、支えを失ったかのうようにマキーナの装甲が崩れ落ちる。
 森山 天童が見上げた空には、視線を落とした大地には数えたこともない数のマキーナが蠢いている。
「羽根がのうなっても、わいはかまへん。手加減なしや」
 広げた羽根からこぼれ落ちる羽毛が無数の黒い影となりマキーナに死を伝導する。


 流れ弾と降り注ぐ瓦礫が結界の表面を弾き、弾煙が巻き起こす熱い風が女の髪をふわりと浮かばせる。
 すでに少なくない人が結界の内に収容された食料庫の前で、薙刀を構えた華月が仁王立つ。
 結界が大きく撓む人々を追ってきたマキーナが結界に触れ地面に落ちる。結界の重みを纏う薙刀がマキーナに止めを刺す。

「みなさん、こっちですこっちに避難してください!」
 目印に成るように薙刀を突き上げ華月は声が枯れるまで叫ぶ





『――みんな無事か? 今から指示する場所にマキーナを集めてくれ』

『大丈夫さ、隊長問題なくね』

『ハードランディングだよね、ぎゃーまた来たー』
 ローラーブレードで建物の中、屋根上と走り回る仁科が悲鳴を上げながら囮役を務める。

『私達も大丈夫です!』
 トランシーバー越しに聞こえるカンダータ人の協力者の声。

 目的地は軍隊基地の跡。
 複数の入り口から入った人達が一様に頷き、用意された出口を目指す。
 後背から殺到するマキーナの群れ
「ふふふ、かかったな。一気に爆破だー」
 爆破音と共に基地の床が抜け、崩れた建物がマキーナ達に蓋をする。


‡ ‡


『あたしは全部わかってるんだけど、因果の関係でここで聞いとかないと彼に知れなくて結局わかれないのよ~』
『この状況失敗なの? 知性を持った生物は遅かれ早かれこうなるわよ。どっちにしろ十分量の糧は残ると思うけど? え? 賞味期限??』
『むしろ生かさず殺さずの手段の調節が大事よ? ダメよ自分1人で考えてちゃ! 同類と相談とかした? あたしも昔よくやったし、教えたげようか?』
『えーめんどうになったからやり直し? 別にいいけどさー人生にリセットボタンはないんだよチミ』
『そんなんでうまくいくと思ったら大間違いよ』


‡ ‡


 ロストナンバー達の活躍により屠殺は戦いへと姿を変える。
 しかしそれは、未だ神の掌を抜けることはない。


 カンダータ地上・蟹座号

 フィミア・イームズはデウスの所在を三箇所類推していた。
 以前探索した先住者の廃墟、ノア政府庁舎内、通信の先にあった人工衛星。
 何れも調査の手が届きらない場所。
 ノア政府庁舎内はエイブラムが潜入を行っていたため、蟹座号は残る二つを調査すべく地上を探索していた。

 ティーロの血の魔法陣が作る姿消しの魔術で隠密する蟹座号。
 ロストナンバー達がデウスの所在を見つけるまでにかかった時間は極短かった。

 遥か高く衛星軌道上に存在する神の城。
 今や世界中に発信される電波、虚空すら見通す知覚能力者がそれを発見することは容易かった。

 そう発見は容易い――
 雲海の全てを埋め尽くすマキーナの群れ、地下世界で観察された数を遥かに上回る。
 小さな希望は大きな絶望のよりよいスパイス。

「コタロ……オレに任せろって言ったが、これは……」
 別れ際に友に告げた『死ぬなよ』の言葉が皮肉にしか聞こえなかった。

 蟹座号に走る動揺はざわめきとなって広がる。
「静かに、落ち着きたまえ。こういう時こそ冷静でなければならない」
 沈着な指揮官メルヴィンも絶望的状況に有効な打開策を思いつけずに居た。





 ノア政府最上層


 薄靄が機械生命を包むと悶え苦しみながら灰となり消える
 いつの間にか姿を形成したバルタザールの吸精によってマキーナは崩壊していた。
 彼の後背から散発的に響いていた轟音が止み黒い煙と共に扉が倒れる。
「糞、コタロはこいつに縄付けとけよ」
 扉から姿を現すエイブラムが、噴煙に咳き込みながら毒づく。
「良いではないか、勇敢な女性だ。そもそも君は女性を好むのだろう」
「アホか、俺がお手つきに手を出すわけねえだろ」
 お手つき――噴煙を吐き出す車載ロケットランチャーを投げ捨てた撫子がこの場にいる理由は単純。

『ノアのカンダータ軍司令部の急進派が入れる最上層。ここにデウスに繋がるアクセスキーかゲートがある筈ですぅ☆
 急進派は戦場の人口調節可能ですぅ、エイブラムさんの追跡振り切ってコタロさんが記憶を消されたのもそこで世界図書館関係の記憶を奪われたって考える方がしっくりきますぅ☆
 あそこから本体情報とマキーナ停止命令、両方得られるんじゃないでしょぉかぁ☆』

 有言実行は彼女のモットー。
 ノア政府を調査しようとしたエイブラムとバルタザールに無理矢理同行したわけだ。

「くく、しかし、首魁がいるにしては些か手薄と言わざるをえんな」
「姿が見えねえから居ないとは限らねえだろ……あいつらは」
 格上と言う言葉を吐くにはエイブラムの矜持が許さない。
 苦渋の判断でバルタザールに協力を依頼し、到達した最上層の守備は、戦場の嵐に比べれば無きに等しかった。


「ルドルフとか言ったけ、死んじまった怪しかったやつ。
 あいつは、デウスにあって洗脳されたんだってよ。
 アマリリスがかけた術が干渉して洗脳が解けちまったみたいだが……
 他にも同じようなのが居たみたいだけど、もう全員死んでるみたいだ」

 防御もほとんどない端末にハッキングを行うエイブラム。
 突然ディスプレイに現れた機械の能面、それは鉄が擦れるような不快な音を立てる。

 ――彼の者達がマキーナと呼ぶ先の畜獣を改造した手先を組織する
 ――その数を彼の者等が信奉する天使に擬え決した

 天使の数など知りはしない、しかしエイブラムはヒヤリとしたものを感じる。
「おい、バルタザール。天使ってのはどんだけいるんだ」
「天使学の講義かね? ふむ、私の世界では諸説があったがね、私の知りうる限り――」

 ――三億百六十五万五千七百二十二体だよ


‡ ‡


『異なる世界の絆は、絶対的な神に抗う力となった――しかし』

「これで、マキーナ共はほとんど片付いたか?」
「エマージェンシー……なんだこの数は、レーダが壊れたのか……」
 地下世界の遠くに無数の点が現れる、それは今まで排した数を遥かに超えるマキーナ。
 全てを埋め尽くすほどの軍勢。

『再び現れた神の軍勢、抗う力は――』
 片羽の少女の手からペンが零れ落ちる。
 手の震えが止まらない、集まる情報は絶望しか伝えない、希望は存在しない。

 破綻した奇跡は願えない――マヤカシは力を持たない

 絶望に転がった羽ペンを煤けた羽根を生やした男が拾い上げる。
「戦場は怖い、こんな世界なら尚更ね」
 震える少女の手を取り羽ペンを戻してやりながら男は想いを綴る。
「だけど彼らの心に触れるうちに分かった。
 僕らは彼らとは違う……彼らは僕らとは違う、しかし大切な人を想う気持ちは変わらない。
 大切な人の為に震える脚で立ち上がること、大切な人の為に祈ること……。

 だから僕は届ける、最前線で戦う人達へ彼らの心を。共に戦いたい気持ちを、信じる気持ちを。
 だから僕は届ける、最前線で戦う人達の心を彼らへ。命を掛けて守る気概を、愛する気持ちを。

 僕はその心が奇跡を起こすのだと思う。
 貴方の綴る物語では違うのかい?」


‡ ‡


 彼の伝える想いは世界の全てに伝わる。


 炎熱を帯びた血液が鱗を割って流れ出ていた。
 幾重にも襲い掛かるマキーナを前に、カードを補充するは暇はなく変じた姿も多大なダメージを追っていた。
 ――力を振るうものであれば自明、より強大な力を前には抗えぬ時は来る
 ゆったりとした諦念が体を弛緩させる
 
 ――――

 風に紛れて声が聞える。
 (……無碍に悲しませる必要はないな)
「――我が魔力の最奥今こそ見せよう」

 地下世界に赤き柱が創造される。
 龍化の溶けた魔術師が横たわっていた、微かに呼気は残っている。


 死角で弾ける銃火。
 火線に触れて魔術結界の姿を浮かぶ。
「背中を預け合える相棒がいるってなあいいもんだな、痒い所に手が届くっての?」
 煤に汚れた額を伝う脂汗を拭いながら嘯く。
「これが終わったら、アンタとコンビを組んで仕事すんのもいいかもな」
「分前は6と4だ……お前の無茶に付き合う分多くもらうぞ」


 ロストレイル型から振り落とされ地面に打ち付けらた激痛に全身が悲鳴をあげる。
 痛みは頑なとなった心に皹を入れ、零れた情念は朦朧とした意識の先で揺れた人影への絶叫となった。
「ともに! たたかわせてくれ! あなたたちと!!」


「――」
 小さな声だったが背中合わせの碧にはハッキリと聞こえた
「戦闘中に男の名を呼ぶな、会いたかったら生き残れ」
 ツッコミの声を無視し、碧は叫ぶ。
「奴らに一糸報いてやる、戦い、足掻くぞ!」
 カンダータ兵たちの雄叫びが唱和した。


「私のコピーでも食べますか?」
「ローナ様、味方を攻撃スル、コードは有効ではありまセン」
「でも、完全に遠巻きにされてジリ貧じゃない?」


 ミサイル火器を用いぬマキーナに囲まれながらもしらきの表情に陰りはない。
 誰かのために戦うこと、そこに躊躇いなどあろうはずはない。
 勾玉を喰らうしらき――鋼鉄の弾丸を弾き仁王立つのは怒を持って護を成す鬼神


 (私は、お前達を必ず守る。
 あの時死した兵達の残したものを守る……私の贖いだ。許せとは言わない……だが)
 凛と伸ばした刀から紡錘状に広がる魔力の結界。
 美しい羽根が黒く焼けようと膝を折るつもりなどなかった。


「これが終わったらフランちゃんとケーキを喉まで食べる約束ですぅ☆」
 ノア政府に迫るマキーナに対マキーナ弾頭をばら撒きながら楽しそうに笑った。


 遥か縁薄いカンダータという世界。
 この過酷な地で生きる彼らが誰がために戦うのか。
 (何も変わりはしない)
 愛を知った故にはっきりと理解る。
 (どうか死ぬまで生き抜いて欲しい、それが僕の望みだ)


「……あいつ、またブチ切れっかな」
「リア充の立場は、俺には分からないね」
「お前だってロバートとかしだりんとかいるじゃん…………あれ?? もしかして……」
「さあ、どうだろうね……そういえばあっちの方にまだ穴を掘ってあったはずだ」
「そっか、そんじゃまあもう一頑張りするかね」


「雹王招来急急如律令! 群がる蟲を凍りづけにしろ」
 胸に伝わるカンダータ兵たちの思い。
 忸怩たる思いに膝を折りそうだった。
「幻虎招来急急如律令! ロストレイル号を守ってみせろ」
 彼らの希望が己の絶望を刺激する。


「こんな馬鹿な終わりがあって堪るか。ここの人達を私達を舐めるな!」
 ふらつく体を受け止める腕、
「餓鬼に戦わせるのが兵隊様の仕事かカス共が! 腕が動かなきゃ脚で撃て、それでも駄目なら口で引き金を引け!」


 足下には数えきれぬマキーナの残骸。
 疲労に霞む視線の先にはそれを倍しても足りぬマキーナの群れ。

 ――

 言葉に成らぬ声が己を優しく抱きとめてくれるであろう人の名前。
 自分が彼を想うように、彼らには大切な人が居て――命をかけて守っている。
 自分に出来るのは守る事だけ
 だから出来る事がある限り、私は貫き通す。


「カンダータにゃゆかりはねーが、俺好みのきなくせえ世界が終わっちまうのはつまんねえ」
 蠍座号の上で特大のプラズマ弾をぶち撒ける男は己の心浮かぶ言葉を隠し嘯く。


 マキーナに触れた樹木の槍は、空間そのものを抉り取るようなおぞましい音と共に胴に風穴を開ける。
 ――……!?
 追撃の香炉を構えた青燐の表情が訝るものに変わる。
 牽制程度のつもりであった樹槍の凄まじいまでの威力、それはまるで――

 (植物がマキーナを弑することを望む……?)

 青燐は知る由もない。
 彼の握る種子は、墓とも言えぬ盛り土に育ったもの。
 そこには兵士達の肉体はなかった。しかし、デウスが喰らうことの叶わぬ魂が存在した。

 ――死しても愛するものを護る

 樹木に宿る強き想い、凪きったはずの青燐の感情がそよぐ。
 (理を外れた、忌まわしき種を作り出す術よ……今は感謝しよう)

 青燐の声に応える樹木、その有り様は幾多の砲を持つ草木の要塞。

 お巫山戯はこれまでにしましょうか、黒燐と霞月からも頼まれていますし。

 ――巫山戯た神の使いなど滅ぼすに足る
 姿を変えたカンダータの兵士の魂が男の呟きに応える。


‡ ‡


 工兵達に賛美された、美は今や見る影もない。
 盾と、武器代わりとしもはや動きを見せぬマキーナを投げ捨て、外殻のみとなったジューンは正面を見つめる。
 熱に揺らぐ影は倒した数に倍するマキーナ。
 ――各部位に致命的破損を確認、可動限界――

 地に倒れ伏すジューンをカンダータに相応しくない樹木が受け止める。


 周囲を囲むマキーナが、突如生えた樹木に巻き取られ圧潰する。
 突然の事態に状況をつかめぬまま、幽太郎の体は樹木に覆われ、電子脳にノイズが、いやかつて聞いたことのある兵士の声が聴こえた。
 それは機械が決して聞くことのできぬ言霊。
 その全てが力を貸して欲しいと叫んでいる。
「ウン、分カッタヨ」
 無声の言葉に頷く機械竜、急速に充電されるエネルギー。
 機械龍の口腔が空に向く、カンダータの魂を乗せた極大の荷電粒子砲は地上と地下を隔てる天蓋を粉砕し一直線に宇宙へと抜けた。
「……僕……カンダータ、ヲ平和二シタラ……ロストメモリー、ニナッテ宇治喜撰ト、ズット一緒二暮ラスンダ……」
 全てのエネルギーを放出した幽太郎は木に抱かれ幸せな夢に落ちる。


‡ ‡


『地下を覆う天蓋こそが絶望の象徴、地上に溢れる光に照らされた時、奇跡は灯る。
 私達の手は偽神に届き、その正体を白日に晒す』
 少女のペンが物語を綴る。
 奇跡の言葉をオゾが人の心に語る。


 大地を貫き抜ける虹色の光条がマキーナの雲を貫き、人工衛星を掠め霧散する。

 唖然とする光景の中、いち早く神よりも早く次の一手を打ち込んだのは老将であった。
「こちら蟹座号メルヴィン・クローナー。
 カンダータで戦う勇士諸君! 聞こえているか。
 残存火力を地上マキーナに集中、雲の切れ目に楔を打ち込む!」


『ほ~ら、言ったじゃない。それじゃ駄目だって』


 希望の種は、彼の地に撒かれていた。
 小さく芽吹いた希望は大樹となって神の絶対法則と上書く。


「武器ヲタクとして砲手は譲らん!」
 前面モニター次々とロックオンされるマキーナ。
 無数の発射ボタン、主砲のトリガー。
 興奮の余り漏れる忍び笑い。
「行っけぇ~、撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!」
 坂上が盤を叩く音、雄叫び、砲火、爆発が断続的に響く。


 つきだした右手、赤い魔糸の遅延結界がマキーナを捕らえる。
 動きが鈍ったマキーナをグローリベルの光と魔鍵の砲が十字に貫く。
「ディラドゥア、拉致があかない。魔力を供給する。一気にやろう」
「いいだろうレイド。小蟲共の下げろ、ブレイク。加減はできん」
 魔術師の変換魔術に輝く龍人の太刀。
 マキーナ群に背を向け貯めを作る龍人が大上段から振りぬいた時、地下世界を閃光が走る。
 陽光とも紛うべき、龍人の一閃。正面に存在した全ての存在をを原子の一片までに打ち砕いた。


「……敵もめいいっぱい来たってことですわね」
 カラカラに乾いた喉をドロリとした粘性のある液体が伝わる。
 急速マナを補給するポーションだが飲み心地は最悪だなので普段はあまり飲みたくないと思っているが……。
「あら? 貴方も魔力切れですかしら、飲まれます?」
「いらん……血が足りんだけだ」
 白髪のハクアはコンパートメントによりかかり顔面蒼白。
 血によって魔術を紡ぐ彼は、過度な力の行使により身動きできない程に疲弊していた。
『ハクアさん、幻覚による迷彩はこの距離が限界です……これ以上近づいたら気づかれます』
「分かった……吉備もう幻覚はいい。
 フォルトス、お前は名の知れた魔術師だったな。
 ……力を貸せ、宇宙まで撃ちぬくには力が足りん」

 金色に輝く紋章の意味を知るものは、もはや術者を除いて存在しない。
 太古の神を現す印章がロストレイル号の正面に三つ浮かび上がる。
 凛と鳴るは涼やかな詠唱、言の葉が紡ぐは五芒の結界。
 ハクアとレナ、異なる世界の異なる魔法体系が生み出す陣が重なり立体を形成する。
 空間を揺るがす鳴動がマキーナの動きから自由を奪う。

 ――巨大な杖が現れた

 翼を持ち光輝放つ杖は、偽神を打つに相応しい真の神の所有物。
 夜すら吹き飛ばす巨大な雷霆が空の彼方まで抜ける。

 マキーナの雲海に風穴が空き、宇宙に浮かぶ衛星までの道がハッキリと見える。

「勇士諸君の尽力に感謝する、後は頼むぞゼロ君」
「YES Sirなのです。ゼロはホットパンツで準備万端なのです」
 ロストレイル号に爪先立ちする少女のスカートの中は確かにホットパンツ。
 
 白い女神はその性質故に誰かを押しのけることはできない。
 それと同時に如何なるものも彼女の存在を押しのけることができない。
 
 巨大化するゼロの伸ばした手、其の先端が成層圏を突き抜け神の舞台に触れた。


 Arguments for the Existence of Miracle

 ――奇跡は存在した
 ――故に神は必要とされない

クリエイターコメントなんか自分でも意外な展開になってしまいました。
戦闘で如何に活躍するかを念頭にシナリオを進めるつもりだったんですけど……

今回の展開の主犯は以下の五名です、上程影響力が高いです。
特に1位 2位の両名は影響力が高すぎてタイトルとかキャッチフレーズまでねじ曲がってしまいましたよ。

~~~~~~~~~
1位 オゾ・ウトウさん
2位 ホワイトガーデンさん
3位 幽太郎さん
4位 アマリリスさん
5位 青燐さん
~~~~~~~~~

オゾさんにはカンダータの人の根っこの感情とロストナンバーが共感できるものを問い詰められた気がしました。
それに回答することが大きく展開に影響を与えています。
ホワイトガーデンさんが望む奇跡は、その場にいる誰もが共感できるものである必要があると思います。
それはオゾさんのプレイングと強いシナジーを持ってノベルに影響を与えました、そしてその成果は物語のそのものの書き換えであるというのが自分の考えです。

幽太郎さん以下は展開の結果プレイングもしくはこれまでの行動が大きな役割を持つこととなりました。
幽太郎さんは死亡フラグがへし折られ最終的な展開に至る起点に
アマリリスさんは過去の企画、墓場の存在が重要な気付きを与えてくれました。
青燐さんは毎度何故か超捏造の被害に

といったところです。

今回はプレイングを積み上げたというよりは感じたままで進んだ部分が多いので論理的な説明がし辛いのでとりあえず、こんなところで


以下、個別コメントです。
そういえば50人参加するとは思ってませんでした!
それも今まで書いたことのない方が結構居て驚きです。

でも、選択肢を記載しなかった人はスルーしました、文字数たんねーですし。


・ゼロさん
ホットパンツ! 採用せざるを得ない。
いや、壱番有効な到達方法だったのが事実ですよ、嘘じゃないよ。

・アマリリスさん
どこでもフラグメイカー

・撫子さん
うん、なんというか無理なんだパーティシナリオ書きながらは負荷的に

・劉さん
蜘蛛一体目
頭のなかでわりと明るいヤンキーが展開されていたのに気だる系だった事実に今更気づきました。

・星川さん
┌(┌ ^o^)┐

・ルンさん
弓で攻撃したほうが強い気が……

・ニコルさん
リア充爆弾を詰めるといいですね。
最後のフレーズがうまく使えなくて残念です

・虎部さん
現地妻でも作ってろよ

・フィミアさん
三箇所ピックアップは多すぎだと思います

・相沢さん
徐々に不穏な捏造が増えている今日このごろです、いかがお過ごしでしょうか。
┌(┌ ^o^)┐

・坂上さん
デウスとゼウスは別もんなんで……

・ブレイクさん
なおガーゴイルは再び全滅した模様
牧場に不必要な動物は排除するのは当然ですよね

・コタロさん
久方ぶりの戦闘パターンで攻めてみました

・百田さん
何時ものフレーズが無かったので軽く驚愕

・レナさん
立体魔法陣は魔法ネタでは必須だよね!

・ティーロさん
今回は少し薄めです、探索はわりと分かっている人向けのつもりだったので

・ジューンさん
設定上、残しているものがある人はなかなか死亡判定にし辛いです。
それがなければ死亡でもよかったかなと思いました。

・仁科さん
盾がガッシュのチャージルサイフォドンを思い出してしまいました。

・イルファーンさん
リア充爆弾
2を選択した中で壱番プレイングがしっくりと入ってきました。
もう一方選択していましたが、安全地帯を作る判断が具体的だったが大変GOODでした。
誰も牡羊座号盾にしてくれないし……

・ロッソさん
銃で居合と言ったら音が重なるしかないと。
早打ちキャラの参考にYoutubeのクイックドローの動画とかみるんですが、事実は小説よりもって感じです。

・ティリクティアさん
絵本は其の通りのフラグです。

・ナウラさん
正直、意外なプレイングでした。
こんな熱さで来るキャラクターだったとは

・碧さん
肉骨が出きるキャラはいいですよね、映える戦いがやりやすいです。

・幽太郎さん
リア充爆弾
最初は戦場で恋人の名前なんて呼ぶ奴は――みたいな展開にするつもりでしたが色々別フラグがたって助かりましたね!
肉など居なかった。

・メアリベルさん
そのままコピペでいいと思った(二回目)
蝿が水星はベルゼブブのことです、天使に負けた時水星まで逃げたナイスガイ

・吉備さん
10mはマキーナの速度感を考えると接触に等しいので少し離しました。

・ハクアさん
協力プレイ希望したため登場が多くなるという。
ハクアさんの攻撃は何時も神話的なイメージがあるようにしてます

・イテュセイさん
好きな柑橘系を言ってみろ

・ディラドゥアさん
選択した呪文の効果がわかりませんYO、非公開にも書いてないし!
三重加速はすばやさ+すばやさの靴だと思っている

・アヴァロンさん
一人で勝てんじゃねと密かに思ってる。

・オゾさん
もう書いた

・ローナさん
AC0はやってないのですよ……

・チャンさん
盗んだバイクwwwwどこで盗んだんだよwwwww鉄パイプもってwwww学校行くぞwwww

・しらきさん
相性がいいせいか一方的な活躍。

・神結さん
ヒーローにとってワイヤーアクションは必須だね!

・ホワイトガーデンさん
タイトルまで……

・メルヴィンさん
役割に唯一性のある人は描写がハマって好きです

・森山さん
何故死んででも護ると考えたかの部分がうまく汲み取れなかったので単純な戦闘になってしまいました。
すみません。

・友護君
捏造部分はふと浮かんでいい感じがしたので。

・華月さん
リア充爆弾
さすがに銃弾の前で高飛びは不味いと想う

・レイドさん
セットでもふもふ
口調はちょっと柔らかめ過ぎるかとも思いましたが……仲間と一緒なので

・エイブラムさん
エイブラムさんはアクションはカッコいいのに自分のシナリオだと何故かターゲットを外すケースが多い気がします。

・ヴィクトルさん
リア獣め
僕はKIRINの味方をするぞ!
嘘だけど

・ギルバルドさん
髭小人、前で過ぎ

・ロイさん
でも君も大概ガンガン行こうぜだよね

・ダルタニアさん
前は忍者だった……あれ?

・パティさん
マキーナを普通に倒せる娘は弱者とは認められない
単独行動なのでわりと出番が増えた感じ

・バルタザールさん
もっと変態に書きたいのに

・青燐さん
竜星に続き超捏造の被害に、これが貴方の運命です


いじょーです、次でラスト
公開日時2013-11-27(水) 23:40

 

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