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<ノベル>
公園に、大人の腕ほどある丸太を担ぎながら、蘆屋 道満が現れた。
「オブジェを作っているというのは、ここかな?」
道満の問いに近くにいた男が頷くと、オブジェの材料置き場に持って来た丸太を置く。
丸太にはクナイが刺さっている。文字が刻まれたクナイが、五本。これは、と言って道満は小さく微笑む。
「五人の部下忍が、作ったのだ。自発的にな」
クナイを見ると、それぞれ「あ」「り」「が」「と」「う」という文字が刻まれている。
「これだけではないぞ」
道満はそう言い、丸太を裏返す。そこには「またね。」という文字が刻まれていた。
「我は消える。それに対し、執着など無い。在るがままを受け入れ、在るがままに在れば良いのだ」
道満は静かに言い、集っている材料たちを見つめる。在るがままにそこに在る、夢のかけら達を。
公園内の片隅で、バッキーのヘルさんを連れた真山 壱が作業をしていた。
「こんなんでもいいのかな?」
持ってきたのは、石膏型だった。壱はそこに、自らの手をぎゅっと押し込む。
「ヘルさんも、ほら」
バッキーに声をかけると、ヘルさんは手(前足)をべちべちと石膏に叩きつけた。まだ空いているスペースを見つけると、そこまで歩いて行って必死に足跡をつける。
「ヘルさん、中々やるね」
石膏から手を抜いて、壱はじっと見つめる。己の手の跡が、そこにある。指紋は綺麗に削り落としてあるから、つるっとした手形だ。
壱は「よし」と頷き、端のところに日付を刻む。今日と言う日を、刻み付けるように。
「後は乾かすだけだな」
そう言うと、石膏に顔を押し付けていたヘルさんが、ひょっこりと顔を上げるのだった。
公園の別のところで「ええ?!」という驚きの声が上がった。
「これ、使えないの?」
リカ・ヴォリンスカヤはそう言って、持って来たクーラーボックスを見つめる。中には、生クリームやアイスクリームが入っている。
材料としては使えないと聞き、大きな溜息と共に「仕方ないわねぇ」と吐き出した。そして、近くに咲いていた花を摘んで集め始める。
そんな中、近くで彫刻をしようと、石を目の前にして悩んでいる人たちを見つけた。リカは石に向かって、しゅっとナイフを投げる。ナイフは見事石を削ってしまった。
驚く人々に対し、リカはにっこりと笑う。
「こうやった方が、遠くから見れていいのよ」
おおー、という観衆の拍手と共に、再びリカはナイフを投げる。
「リオネの形にしていい? 勿論、幼いリオネよ。彼女があっての、わたしたちだもの!」
リカは笑う。楽しそうに、はしゃいでいる。
少しだけ、寂しそうな目を携えながら。
公園内のまた別のところで、溶接をしているレオ・ガレジスタがいた。レオはどこからか拾ってきた鉄屑などを、もくもくと溶接している。
妙に前衛的なオブジェだ。
一人の男が感心しつつ、何を意味しているのかとレオに尋ねた。
「わかんない」
レオは首を振る。「でも」と付け加えながら。
「なんとなく、面白い形でしょ?」
レオの言葉に、男は納得する。意味は分からずとも、面白い形。それならば、それでいいではないか、と。
レオは出来上がったオブジェを持ち上げ、材料置き場へと向かう。
「楽しいな」
持ち上げた金属のオブジェは、溶接した時の熱が少しだけ残っていて、温かかった。
材料置き場に、桑島 平は向かっていた。手にしているのは、額縁だ。
その途中で、桑島さん、と声をかけられた。そこにいたのは、一人のムービースター。
彼は「願いの事、ありがとう」と言って笑う。以前、平と友人達で、スターの願いを集めて銀幕市外の山に登った時の事を言っているのだ。
平は、にっと笑い返して額縁を差し出す。そこには、写真やビデオの画像が沢山入っている。丁度、願い事を納めた所の画像もある。
「お前らの願いは、ぜってぇ叶う。どんだけ離れても、心は永遠だぜ」
平の言葉に、スターは「ありがとう」と言って頭を下げた。平は「おう」と答え、願いが叶うだろう証拠の画像を納めた、額縁を抱えた。
願いは叶う。小さく、呟いて。
両手一杯に廃材木を抱えながら、光原 マルグリットは材料置き場を訪れた。
「皆で協力して何かを作るっちゅうなぁ、楽しそうじゃのぅ」
にこにこと笑いながら、マルグリットは重たそうな廃材木を受け取ってくれた人々に声をかけた。
「わしゃぁ、学園では普段見ょぉるだけの側じゃったけぇ」
マルグリットはそう言って、目を細める。学園挙げての祭の際には、こうやって皆で協力している姿を理事長として見てきたものだ。
「たまにゃぁ、参加してみるっちゅうのも、ええかもしれんな」
ぽつりと呟き、マルグリットは「どれ」と言って皆を見て笑う。
「どがぁなもんを作れるか、ちぃと頑張ってみようかのぉ!」
今度は作り上げる者として、マルグリットは廃材木を手にするのだった。
あいやいやー、と魄 穂哭は声を上げた。皆がわいわいと集っている公園を訪れての、第一声である。
「楽しそうだねーぇ」
記念碑を作ると聞いて、頭蓋骨に似ている石を持ってきた。狂骨という妖怪だからこそのチョイスだ。
「穂哭も来たんか」
声をかけられてみれば、竜吉と花蝶狐の姿があった。
「竜吉に、お花じゃないか。きみ達も、記念碑を作りに?」
「おう。なんや、楽しそうやからなぁー。ほれ、これも持ってきたで」
竜吉はそう言って、竜に似ている石を見せる。
「たつが、参加するゆうから。ほねのととさままでおると、思わんかったわぁ」
花蝶狐はそう言って、ふわっと笑う。
「お花は、どんなのを持ってきたのかい?」
「これ。この石、きつねに似とるの」
穂哭の問いに、花蝶狐は石を取り出す。確かに、狐に形が似ている。
「他にも、これ」
「花の種だねーぇ」
感心したように穂哭が言うと、竜吉は「じゃ、おれも!」と言って公園の隅に向かって駆け出す。
「あそこ、シロツメクサがあるやん? そこで、冠編んだるわ」
「ほんまぁ?」
竜吉と花蝶狐は手を取り合って、シロツメクサが咲き乱れる方へと行ってしまう。穂哭は「手伝った方がいいかな?」と呟き、ゆるりとそちらへと向かっていくのだった。
大教授ラーゴは、材料置き場の方へと向かっていた。手には、不思議な光沢の金属がある。それは光に反射し、虹のように輝いていた。
「礼を言おう」
ぽつり、と小さく呟く。脳裏に浮かぶのは、銀幕市で過ごした日々。
(失ったものを、この街で取り戻す事ができた。思いがけないものに遭遇し、興味深いデータも得ることが出来た)
それは何事にも変えがたい、優しく楽しい時間。
(アレグラにチョッカイを出す連中は気に入らんが)
ラーゴは少しだけ、眉をしかめる。が、すぐに大きな息を吐き出し、ぎゅっと金属を握り締めた。
「悪くない日々だった」
たくさんの材料が集っている場所へと、ラーゴは進む。すがすがしい気持ちを、胸に宿して。
よいしょ、と小さな掛け声と共に、リゲイル・ジブリールは大理石に彫刻刀を当てた。大きく重いため、設置場所近くでの作業だ。
「おねーちゃん、何の字、書くの?」
彫刻刀を握り締めているリゲイルに、ルウは尋ねる。
「『希望』よ、ルウくん。漢字で書こうと思ってるの」
「それは素敵ですわね、リゲイルさま」
傍でにこにこと笑いながら、ルイーシャ・ドミニカムが言った。リゲイルは「ありがとう」と答え、がり、と彫刻刀で石を削った。
「わたし、色んな人に出会って、色んな出来事を体験したから」
皆、それぞれに色んな人と出会い、色んな出来事を体験した。時に一緒に、時に別々に。
「ルウくんとルイーシャちゃんは、何を使うの?」
リゲイルの問いに、ルウは「えっと」と口を開く。
「小さい石とか、綺麗な石とか。見つけたら積みたい」
「わたくしは、これですわ」
ルイーシャはそう言い、小さなバケツを差し出す。中には、表面がつるっとした石が沢山入っていた。
「河原で拾ってきたんですの。これにペンキで色をつけたりしたら、カラフルになりますでしょう?」
「それ、素敵ね。これが終わったら、手伝っていいかな?」
リゲイルの問いに、ルイーシャは「勿論ですわ」と言って笑う。
「その為にも、こちらを手伝わせてくださいませ」
ルイーシャの言葉に、ルウも同意する。そうして、三人は彫刻刀を手にした。『希望』を刻みつける為に。
カンカンカン、と木槌で鉄板を叩きつける音が響いていた。黒瀬 一夜だ。彼は暫く金属音を響かせた後、大きく伸びをした。
「できた」
傍らにいたバッキーのルピナが、興味深そうに鉄板を見つめる。そこには『此処で出会えたいろいろなものを最大の幸いと宝物とする 一夜・ルピナ』と刻み込まれている。
「バイト先から、丁度いい大きさの薄い鉄板、貰ってきたんだ。いいだろう?」
一夜は完成した鉄板を見つめながら、ルピナに話しかけた。そして、ルピナを肩に乗せる。
「持って行くか」
そう言うと、鉄板を持って材料置き場へと向かうのだった。
材料が全部揃った後、どのような形と名にするかをくじ引きで決めた。そうして、形はリゲイルの出した「バッキーの形」となり、名前は道満の出した「夢の足跡」となった。
形が決まれば、一斉に皆で組み立て始める。
疲れて休憩する際は、マルグリットがお茶とお茶菓子を配ったり、リカが持ってきたアイスクリームや生クリームを振舞ったりした。それに、道満が舌鼓を打っていた。
一生懸命石を積むルウをラーゴが手伝ったり、ルイーシャとリゲイルが加勢したり。傍では同じように平が一生懸命石を積んだりして。
隙間に困ったら一夜が石膏で固める事を提案し、壱が石膏を持ってくる。金属部分の溶接があれば、レオがその役を買って出た。
竜吉と花蝶狐がたまに遊びまわって、それを穂哭が「あいやー」と笑み交じりで見つめていた。
皆、それぞれが思いを馳せて作業に取り組み、ようやく記念碑は完成した。遠くから見ればバッキーに、近くで見れば沢山の思いが詰まった記念碑「夢の足跡」だ。
「あ、写真撮りませんか?」
リゲイルの提案で、皆で記念碑をバックに写真を撮った。ぱしゃり、と。
写真に写る誰もが、笑っていた。抱く思いはそれぞれでも、皆、笑っていた。
こうして、公園にはバッキーの形をした記念碑「夢の足跡」が飾られる事となった。
笑顔の集合写真と共に。
<確かに皆、此処に在った事を証明し・了>
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クリエイターコメント | お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。 この度は「確かに、此処に、存在したという事」にご参加いただきまして、有難うございました。
これが最後のシナリオとなります。最後までシナリオを執筆させてくださいまして、重ねてお礼申し上げます。 くじ引きは、皆様から頂きました案を紙に書き、えいや、と引かせていただきました。たくさんの提案、有難うございます。
少しでも気に入ってくださいましたら、心に留めてくださったら、嬉しいです。 ご意見・ご感想なども、心よりお待ちしております。
最後に、私から記念碑に一つ、メッセージを書き込んだ材料を提出させていただきます。
「またお会いできるその時を、楽しみにしております。霜月玲守」 (材料は、ワードで打った文章を印刷した紙を、ビニール袋に入れる) |
公開日時 | 2009-06-26(金) 18:30 |
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