オープニング

「カンダータ軍から連絡があり、再度の訪問の日程が決まりました。今回は『理想都市ノア』の観光視察と、辺境の戦場の状況視察を行ないます。みなさん自身の目で、カンダータ世界を知ることができる機会となるでしょう」
 第2次訪問団は、戦場視察については性質上、選抜された人数での参加となる。残りの面々は市内の観光視察をということになった。
 リベルから注意事項が告げられる。
「今回、ミラー大佐から、『ランザーグ市』という辺境の地下都市へ行く許可がありました。この都市はいちどマキーナに制圧され、現在はほぼカンダータ軍が奪還したものの、いまだ侵攻してくるマキーナの群れをそのつど撃退しているという状況なのだそうです。住民はいません」
 ミラー大佐からは、次のような言葉があったらしい。
「都市に展開している部隊には私から話を通してありますので、みなさんについても理解しています。ただ――、かれらは私の、つまり異世界方面軍の部隊ではありませんので、細やかな対応を約束させることはできませんでした。『邪魔にならないように、いてくれるだけならいい』ということでしたが、逆に言えば、みなさん身の安全はご自身で守っていただくことになります。流れ弾にもご注意下さい。もちろんわざと背中を撃ったりはしませんよ。ただ、この場所は戦場ですので。どうかご了承下さい」

 ◆ ◆ ◆

 相変わらず、世界は荒涼としている。
 クレイン少佐は、窓の外を見遣り、そのようなことをふと思った。
 未だ襲撃してくるマキーナを追い返すので精一杯で、ここ、ランザーグ市の復興の目処はまるで立っていない。とても人の住めるような状態ではなく、クレインの居る執務室も、壊されていなかった建物を利用している。
 その時、ドアが強くノックされた。クレインはすぐに入るように促す。確認する必要はあまりない。ここに誰かが来るときは、ほとんどの場合、同じ用件だからだ。
 失礼します、と声を発し、若い兵士が緊張した面持ちで入ってくる。
「少佐! マキーナの襲撃です!」
「タイプは?」
 クレインは落ち着いた声で兵士に問う。
「蜂型です」
「勢力を集中し一気に叩け。仲間を呼ばせるな」
 蜂型は子犬ほどの大きさで、マキーナの中では小さく、攻撃する力もそれほど強くない。また、破壊することも比較的容易い。
 しかし、空中を俊敏に動き回り、場合によっては特殊な信号を発し、仲間を呼ぶ。大量の蜂型マキーナのせいで、多くの兵士たちが命を落としたことがある。決して侮れない相手だ。
「現場に戻れ。私もすぐに向かう」
「はっ! 失礼します」
 急ぎ戻っていく兵士から視線を外し、クレインも武器を手に取る。他に準備などは必要ない。いつでも動けるようにしてあるからだ。
 ふと、目の端を捉えたものに視線を向ける。
 デスクの上には、書簡が置かれていた。世界図書館という異世界の連中が、対マキーナ戦線の様子を視察するという旨のものだ。
 いい気なものだ。こちらは命を賭して戦っているというのに。
 しかし、邪魔さえしなければ別に構わなかった。物見遊山で命を落とすのも、別にその者たちの自由だ。
 それに、もしかしたら。
 もしかしたら、何か変わるかもしれない。
 奥底から不意に浮き上がってきた思考に、クレインは思わず苦笑した。長きに渡る戦いで、自分は随分と疲弊しているようだ。
 今は、目の前の戦いのことだけを考えろ。
 そう自分に言い聞かせ、クレインは執務室を後にした。


●ご案内
都市の観光視察を行うフリーシナリオにご参加の方は、この戦場視察には参加できません。このシナリオに参加が決まった方は、フリーシナリオへのプレイングがあっても無効となります(抽選へのエントリーは問題ありません)。

!注意!
パーティーシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。

品目パーティシナリオ 管理番号837
クリエイター鴇家楽士(wyvc2268)
クリエイターコメントこんにちは。または初めまして。鴇家楽士です。
今回は、カンダータのシナリオを担当させていただくことになりました。
今回は、以下の選択肢の中から行動を選ぶことが出来ます。

(1)都市内を探索
(2)兵士たちの戦闘の様子を見る
(3)後方にて活動

○今回はボツありです。出来るだけ皆さん描写したいと思いますが、プレイングによっては描写されないかもしれません。ご了承ください。
○プレイングは、PCさんの口調で書いていただけると、雰囲気がつかみやすいので助かります(もちろん、強制ではないので、書きやすいようになさってください)。
○その他、思いついたことを何でも書いていただけると、もしかしたら、ノベルに反映されるかもしれません(されなかったらすみません)。

それでは、皆さんのご参加、お待ちしております。

参加者
西 光太郎(cmrv7412)コンダクター 男 25歳 冒険者
イフリート・ムラサメ(cuey8106)ツーリスト 男 36歳 ロボット武者
ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)ツーリスト 男 29歳 機動騎士
オルグ・ラルヴァローグ(cuxr9072)ツーリスト 男 20歳 冒険者
飛天 鴉刃(cyfa4789)ツーリスト 女 23歳 龍人のアサシン
ゲーヴィッツ(cttc1260)ツーリスト 男 42歳 フロストジャイアント/迷宮の番人
ファーヴニール(ctpu9437)ツーリスト 男 21歳 大学生/竜/戦士
ジャック・ハート(cbzs7269)ツーリスト 男 24歳 ハートのジャック
ローナ(cwuv1164)ツーリスト 女 22歳 試験用生体コアユニット
日和坂 綾(crvw8100)コンダクター 女 17歳 燃える炎の赤ジャージ大学生
ヴィルヘルム・シュティレ(cppn6970)ツーリスト 男 60歳 吸血鬼
ハーデ・ビラール(cfpn7524)ツーリスト 女 19歳 強攻偵察兵
サーヴィランス(cuxt1491)ツーリスト 男 43歳 クライム・ファイター
天摯(cuaw2436)ツーリスト 男 17歳 ソードマイスター(刀神匠)
木乃咲 進(cmsm7059)ツーリスト 男 16歳 元学生
ツヴァイ(cytv1041)ツーリスト 男 19歳 皇子
ベルゼ・フェアグリッド(csrp5664)ツーリスト 男 21歳 従者
清闇(cdhx4395)ツーリスト 男 35歳 竜の武人
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)ツーリスト その他 1歳 偵察ロボット試作機
ローレン・クレイミスト(cxrp2124)ツーリスト 男 25歳 召喚師(サモナー)
ハクア・クロスフォード(cxxr7037)ツーリスト 男 23歳 古人の末裔
理星(cmwz5682)ツーリスト 男 28歳 太刀使い、不遇の混血児
エータ(chxm4071)ツーリスト その他 55歳 サーチャー
アルジャーノ(ceyv7517)ツーリスト その他 100歳 フリーター
ボルツォーニ・アウグスト(cmmn7693)ツーリスト 男 37歳 不死の君主
深槌 流飛(cdfz2119)ツーリスト 男 28歳 忍者
ロウ ユエ(cfmp6626)ツーリスト 男 23歳 レジスタンス
製造番号 G0036(cbxt5755)ツーリスト 男 56歳 ロボ
ミトサア・フラーケン(cnhv5357)ツーリスト 女 24歳 サイボーグ戦士
メテオ・ミーティア(cadc2803)ツーリスト 女 24歳 サイボーグ戦士
ロディ・オブライエン(czvh5923)ツーリスト 男 26歳 守護天使

ノベル

 理想都市ノアから地下鉄に乗り、世界図書館のメンバーはランザーグ市へとたどり着く。
 駅に迎えに来ていた兵士に案内され、すぐにクレイン大隊の拠点である仮設駐屯地へと向かった。
 建物のひとつに入り、しばらくそこで待たされた後、軍服に身を包み、口ひげを生やした浅黒い肌の男がやって来た。兵士たちが後ろへ下がり、敬礼をする。
「世界図書館の諸君、私がここの責任者のクレインだ。見学は勝手にしてもらって構わない。兵士にも諸君らのことは伝えてある。しかし、決して邪魔だけはしないでいただきたい。また、諸君らの安全にも配慮は出来ない。自分の身は自分で守られるよう。――以上」
 そうはっきりとした声で言うと、すぐにクレインは踵を返し、近くの兵士に手短に何かを伝えると足早に去っていった。
 明らかに歓迎されていない雰囲気だったが、それは皆、承知の上だ。
 それぞれが、それぞれの思いを持ち、動き出す。

 ◆ ◆ ◆

「むんっ! ふんっ!」
「な――!?」
 突然目の前に現れ、自らの逞しい筋肉を誇示し始めた大男に、兵士は言葉を失う。
「何者だ貴様っ!」
「我が名はガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード! 慰問に参った」
「私たちは世界図書館から来た者だ。話は伝わっているだろうか?」
 名乗ってからまた筋肉パフォーマンスを始めたガルバリュートの隣で、ヴィルヘルム・シュティレが穏やかに言った。
 詳しいことは知らなくとも、世界図書館というところから視察に来る者がいるということは、兵士たちも聞き及んでいた。
「ふざけるな!」
「うむ、気に入らなかったか」
「当たり前だ!」
 兵士が突っかかってくる。ガルバリュートのパフォーマンスの良さが伝わらなかったようだ。
 その二人を横目で見ながら、ロウ ユエは仮設駐屯地を出る。
 街の惨状を知るまでに、それほどの時間はかからなかった。歩みを進めれば進めるほど、壊れていない場所が少なくなってくる。
 嫌なことを思い出す光景だ。
 彼はそう思い、眉をしかめる。彼のよく知る場所も、緊張と破壊の連続だった。
 ふと、後ろを振り返ると、いつの間にかヴィルヘルムの姿があった。単独行動にはならない方がいいと思い、ユエはヴィルヘルムが来るのを待つ。
「酷いな」
 ヴィルヘルムはそう言うと立ち止まり、道の先を眺めた。
「敵の正体は不明、希望の光は未だ見えず。……ここは階層世界の縮図だ」
 侵され、壊され、滅んで消える。
 守るという意思は同じかもしれない。けれども、信念は数多の思惑に呑まれてしまう。だからこそ、僅かでも、互いを理解し、少しでも、志を同じくするものを見出さなければならないと、彼は思う。
 いずれ来る災いに打ち勝てるように。

「酷いものだな」
 ローレン・クレイミストもまた、破壊された建物の内部を観察していた。生活の跡が残されているのが、余計に悲惨さを物語っている。ボロボロになった布のようなものを拾ってみると、それは、クマのぬいぐるみだった。この持ち主は、無事に避難出来たのだろうか、とローレンは思う。
 ハクア・クロスフォードが壊れている壁の方に近づくと、瓦礫の下には、ベッドの残骸と思われるものが挟まっていた。大部分が崩れ、残っている部分も、焼けたような跡が残っている。
「何か熱線銃のようなもので焼かれたか……?」
「こちらには、爪痕のようなものが残っている」
 ローレンは、破壊者の姿をイメージした。爪痕からすると、大型の肉食獣を想像させる。ハクアの調べているところとは違うマキーナによるもののように思われた。一体で行ったとしたら、不自然な痕跡だ。
 その時、後ろでざり、と瓦礫が擦れる音がした。

「よっ、あんたも航空部隊?」
 背中の翼を羽ばたかせ、飛天 鴉刃の近くに寄ると、理星は明るく声をかけた。
「私は、戦闘に関与するつもりはない。手伝う義理もなく、関わることでカンダータ軍に無用な混乱を招く必要もないからな」
 鴉刃は表情を変えぬまま、体をくねらせ、龍のように厳かに飛ぶ。
「そっか」
 自分は世界図書館のお陰で変わることが出来た。だから、カンダータの皆もそうなればいいと、理星は思う。
 今すぐでは、なかったとしても。
 その時、耳障りな音を感じ、二人はそちらを見やる。
「マキーナか」
 そう呟いたのはどちらだったか。目の前には、蜂型をしたマキーナが二体、羽を震わせていた。
 理星は素早く金と銀の小さな鈴を取り出すと、それを鳴らす。マキーナの体がくるりと半回転し、お互いの方を向くと、尾部を持ち上げて熱線を放ち合う。
 鴉刃は態勢を立て直す間を与えず、闇霧を装備した腕を振るった。
 ぐしゃり、という音がしてマキーナの身体は裂け、浮力を失った二体は、煙を噴出しながら下へと落ちる。
 気がつけば、地上でも戦闘が起きているようだ。
 理星は鴉刃に向かって軽く手を上げると、地面に向かい降りて行く。鴉刃はそれを見送ると、また空を滑るように進んだ。

 ◆ ◆ ◆

「俺はゲーヴィッツだぁ、よろしく」
「いいか、何があっても責任は持たない。あと、絶対に邪魔だけはするなよ」
 ゲーヴィッツが挨拶をしたが、兵士はそれを無視し、念を押すように言うと、自分の持ち場へと戻って行く。
 差し出した右手の行き場がなくなり、ゲーヴィッツは仕方なく頭をかいた。
 都市内を小隊が哨戒するとのことで、それに同行させてもらえることになったのだが、兵士の中には、苛立ちを隠さずにぶつけてくる者もいる。
 少し前に、蜂型のマキーナが出現し、戦闘になっていたようなのだが、それは一段落ついたらしい。だが、仲間が潜んでいるかもしれないので、そちらの方面へ行くとのことだった。

 西 光太郎は、オウルフォームのセクタンである空に周囲を観察させながら、手帳に気づいたことをメモしていく。イフリート・ムラサメも、見たものをHDDに録画し、記録として残すようにしてある。
「さ、寒っ? ってかマキーナって昆虫タイプだったりするんだ? もっと機械機械したヒト型兵器とか想像してたよ」
 日和坂 綾が自分の腕を抱き、さすりながら言う。
「でもGじゃなくて良かったぁ……Gだったら泣いて逃げてた、私」
「色々なタイプがいるだろうから、もしかしたらそういうのも……」
「ちょっ、やめて!? マジで」
 光太郎がポツリとこぼすと、綾は本気で嫌そうな顔をし、手をぶんぶんと振る。
 軽口を叩いているが、綾も綾なりの信念を持ってここへ来ている。その後ろで周囲をきょろきょろと眺めているジャック・ハートも同じだった。
 カンダータと世界図書館は、今は味方といえる立場ではない。カンダータの世界に属するマキーナという存在と、戦って良いのかという意見もある。
 けれども、自分たちはもう既に、海魔や魔物、暴霊とも関わっている。選択はもう済んでいるのだ。
 それならば、あとは自分の心に従うだけだ。

「ぬしの守りたいものは何じゃろうか?」
 唐突とも言える天摯の問いに、近くを歩いていた兵士は怪訝そうな顔をする。
「誰か、守りたい者はおるのか?」
 繰り返し尋ねる天摯に、兵士はぶっきらぼうに答えた。
「カンダータの仲間だ。その中には家族もいる。皆そうだ。守りたいものがあるから戦う」
「そうか」
 そう言って天摯は頷く。兵士はもうこちらを向かなかったが、目が合った時に、彼の気概が感じられた。
 天摯の隣で、清闇も考えるかのような視線を宙に向ける。

「ねぇ、アルジャーノ」
 ヘータに声をかけられ、アルジャーノは軽く首を傾げた。
「これを、マキーナにつけてくれないかなぁ?」
 ヘータがそう言うと、マントの中の暗闇から、触手のようなものが伸びて来た。その先には、硬貨くらいの大きさのゼリー状のものがある。
 アルジャーノはそれを受け取ると、しばらく不思議そうに眺めていたが、やがて「ハイ、わかりまシタ」と言うと、にっこりと微笑んだ。
『C-56ブロックにてマキーナと遭遇! ――タイプ、蜂型。数、四体!』
 その時、兵士の通信機に報告が入る。
「来たか」
 オルグ・ラルヴァローグは通信機で、上空を飛んでいるベルゼ・フェアグリッドに連絡を取る。
「空からは頼んだぞ」
『おう、任せとけ。あ、アレかァ?――思ったよりちっちェえなァ』
 オルグが気になっているのは、カンダータ軍の武器の質だった。一体、どの程度の火力でマキーナに対峙しているのだろうか。
「うおっ、デッケー蜂! スズメバチの十倍はでっけぇな」
 一方、ツヴァイの印象は、ベルゼとは違っていた。
「そうだ、蜂ってことは蜂の巣があるってことだ! あんなデッケー蜂の巣だったら、超大量のハチミツがあるに違いない!」
「いや、ないだろ」
 彼が初めて見た蜂型マキーナに興奮の声を上げていると、ロディ・オブライエンに冷静に否定される。
「いや、そんな冷静に言われると……」
 ぶつぶつ言うツヴァイを尻目に、ロディは前方に集中する。カンダータ軍の戦いぶりを見ようと思っていた。今回は蜂型だが、他のマキーナにも生物を模しているものがいるのだろうと推測する。

 深槌 流飛も、少し離れた場所から戦闘の様子を見守っていた。
 私情を交えず、冷静に状況を見なくてはならない。それにより、多くの情報を得るのが目的だった。
 蜂型マキーナは、ぶぉんぶぉんと耳障りな羽音を立てながら近づいてくる。あれならば、後ろから迫られても、簡単に気づくことが出来るだろう。
「構え! ――撃て!」
 射撃指示に合わせ、兵士が一斉に機関銃を発射した。三体はそれを受け、幾度も体を震わせた後、落下する。一体は上手くそれを避けたが、二回目の射撃で沈んだ。
 すぐに、破壊できたかどうかの確認が行われる。
「武器自体は特殊なもんじゃないんだな。それでもマキーナには対抗できるか」
『んじゃ、俺たちの武器も、きっと通用するなァ!』
 オルグが言うと、通信機の向こうでベルゼが嬉しそうな声を上げた。

 ◆ ◆ ◆

 ハクアとローレンは振り向かず、左右に分かれて跳んだ。
 そのすぐ後を太い腕が通り、その先から伸びる鉤爪が、壁の削れる大きな音と共に移動する。二人が振り返ると、そこには巨大な狼の姿をしたマキーナが、こちらをじっと見ていた。
 ローレンは狼型マキーナから目を放さないまま、これからどうするかと思案する。マキーナの頭の高さは、ローレンと同じくらいある。しかし、この部屋は大して広くない。動き回って戦うこともしづらいのに、この状況で召喚獣を召喚することは危険だ。
 ハクアに視線を向けると、彼は指先を傷つけ、自らの血で魔法陣を描いているところだった。
 だが、マキーナが完成を悠長に待っていてくれるはずもない。唸り声と共に口を大きく開けると、ハクアに噛み付こうとする。
 その時、外でパァンと何かが破裂するような音がし、マキーナの注意が一瞬そちらへと逸れた。
 それと同時に、ハクアの魔法陣が完成する。
 風の魔法が展開すると、マキーナの動きが鈍くなった。その隙に、ハクアとローレンは急いで外に出る。
 家の外には、ユエとヴィルヘルムが居た。
「助かった。恩に着る」
 先ほどは、ユエが大気を操り、破裂音を出したのだ。ハクアの言葉に、ユエは静かに頷く。
「では、終わりにしようか」
 そう言ってヴィルヘルムがナハトツェルトを翻し、ハクアが白銀の銃を構えた。
 幾つもの黒い弾丸とハクアの白の弾丸が、動きの鈍ったマキーナを襲い、ユエの作り出した風の刃が、止めを刺す。

 ◆ ◆ ◆

 ファーヴニールは、前線でマキーナとカンダータの戦いを観察した後、大隊の拠点である仮設駐屯地へと戻って来た。ローナもコピーを二体小隊に同行させ、オリジナルはここに残っている。
 ここは、元は学校のようなものだったのではないだろうかと、ファーヴニールは思う。頑丈そうな建物が並び、広いグラウンドがあるというのもそれらしい。
 武器や兵器も詳しく見てみたかったが、許可が下りなかった。だが、戦場で見た限りでは、そんなに特殊なものがあるわけでもなさそうだ。
「ローナは、何か気になることとかある?」
 ファーヴニールは、ローナに尋ねる。
「世界図書館が必要以上に干渉することで均衡が崩れ、次の敵部隊が強化されるという可能性を懸念しています」
「成る程ね」
「やり過ぎそうな人には事前に指摘はしましたが」
 それでも、それぞれがそれぞれの信念に従って進むだろう。
「策敵網にマキーナの反応複数。加速度的に増加。十、二十――」
 その時、ローナのセンサが反応を始める。
 ファーヴニールは動かなかった。まだ彼は、ここで戦うことを決めていない。
 それに、仲間を信じていた。

 ◆ ◆ ◆

 C-56ブロックは、ちょっとしたパニックに陥っていた。
 破壊を確認したはずのマキーナの一体から、点滅する光と、羽音――何かの信号のようなものが発信されたのだ。気づいた兵士が慌てて銃弾を浴びせたが、既に遅かった。
 それを目掛けて、大量の蜂型マキーナが飛来する。何重もの羽音が、その大きさを増して行く。
「歩哨、というところか」
 ボルツォーニ・アウグストが表情を変えないままで呟く。いや、死んだふりまでするのだから、囮というべきかもしれない。
「ヒャッァハァァァァッッ! さァ、アツい戦いの時間だゼェ!?」
 ジャックが声を上げながら、瞬間移動でマキーナの群れに突っ込む。彼の放った放電で、マキーナ数体の機能が停止し、地面にゴトゴトと落ちた。カンダータの兵士は、何が起こったのかも飲み込めないまま、それでも何とか機関銃で止めを刺す。
「エンエン、炎の弾丸!」
 綾もすぐに飛び出し、フォックスフォームのセクタンに声をかけた。炎の弾丸により羽をもぎ取られ、バランスを崩したマキーナに、狐火を纏わせた鉄板入りシューズの蹴りを喰らわせる。
「しょうがない奴らだ。……嫌いではないがな」
 そう言って、ハーデ・ビラールも飛び出していく。
 彼女は、腕を核として発した光の刃で、二体飛んでいるマキーナの片方を叩き斬ると、もう一体を残してその場から飛び退った。
 その直後、カンダータの兵士が放った弾丸が、残りの一体を穴だらけにする。
「まぁ、撃つだろうな」
 彼女はカンダータ軍の攻撃に巻き込まれることを警戒し、マキーナに攻撃を加えては、素早くその場から離れることを繰り返す。流れるようなその動きは、舞踏のような優雅さと、破壊に徹する冷たさを併せ持っていた。
 奴にとって我々は仮想敵だ。一緒に死んだ方が都合が良い。――そう、彼女は思う。
 しかし、それを理解してなお闘う仲間がいるのだ。協力しないわけにはいかなかった。
「これは、『うっかり』のし甲斐があるな」
 そう言って口の端を少し上げ、ボルツォーニは魔術武器を大剣に変え、それを何なく振るう。目の前を煩く飛んでいたマキーナは二体とも、頭と胴体が分かれて弾けた。
 カンダータが異世界の技術を使ってでも、マキーナとの戦いを有利に進めたかったことを考えれば、こちらの力を実際に見てもらうのが、カンダータに手を結ぶ価値があると思わせる近道だ。
 まずは見学者の身分を貫き、『うっかり』襲われるような位置にいたならば、反撃をする。
「しかし、今の状況ではな」
 兵士たちも手一杯で、冷静に状況を見られているかどうかも怪しい。
 それならば、また冷静に状況を見られるようにしてやればいい。
 そう思い、彼は再び剣を構えた。

 空のミネルヴァの眼が、一体のマキーナを捕捉した。その前には兵士。他のマキーナに気を取られ、気づいていないようだ。
「くそっ! このまま黙って見てられるかよ!」
 光太郎は走りながら、クラインの壺の中を探る。
「何だこれ!?」
 出てきたのは、玩具のようにカラフルな色で彩色された、銃のようなもの。役に立つかはわからないが、迷っている暇はない。 光太郎は、マキーナに向かってトリガーを引く。
 ぽしゅっ、と空気の抜けるような音がし、発射された弾は、マキーナの頭上で粘着質のネットとなって展開し、マキーナを絡め取った。
 兵士は音に気づき、慌てて振り向くと、身動きが取れずにもがくマキーナを銃で破壊する。
 光太郎は安堵の息を漏らした。けれども、まだまだマキーナはいる。

 天摯は、カンダータのエレメントから、漆黒の刃を持つ短刀を幾つも取り出すと、特にマキーナの数が集中している場所に投擲し、突き立てる。それは結界となって、マキーナの動きを阻害した。
 それを機に、圧されていた兵士たちは一斉に反撃する。マキーナの数が減り、視界が開けてくると、怪我人を庇うようにして立つ、兵士たちの姿。
「成程、守るというぬしらの気概が、この結界能力を創ったか」
 そう言って天摯は、穏やかな笑みを浮かべる。

 清闇は、カンダータの兵士たちが命を賭して世界や民を守ろうとしていることを肌で感じ、親近感を抱いていた。
 それは、守ることが清闇自身の本分であり、魂に課した領域だからだ。
 それならば。
 彼らと自分は同胞のようなものであり、手助けをするのは当然だ。
 清闇は相棒の鎮吼王を抜き、マキーナへと振り下ろす。すぅ、と一本筋を引いたようにマキーナの身体が裂け、炎を上げながら弾けて落ちた。 
 その上に、マキーナの残骸が幾つも振って来る。オルグとミトサア・フラーケンが、それを確実に破壊した。
「上は任せて!」
 メテオ・ミーティアがハイパーガンを手に上空から声をかけ、ベルゼも拳を握ってみせる。
 鴉刃も上空から苦戦していた兵士を助け、手助けなど、自分も随分甘くなったものだと苦笑した。

 サーヴィランスは、戦線からは少し離れ、マキーナの様子を観察していた。
 蜂型マキーナの外見は、スズメバチに似ている。だが、生物をそのまま模したというよりは、一見して機械とわかるような風貌をしていた。
 攻撃をする時は、連携を上手く取り、複数で人を襲うようにしている。
 ふと、サーヴィランスの目に、マキーナに追い詰められている兵士の姿が留まった。
 彼は、SSSを取り出すと、素早い動きで放つ。空中で三枚に分解した手裏剣は、兵士を取り囲んでいたマキーナ三体を破壊した。
 兵士が無事だったのを確認すると、サーヴィランスはまた、マキーナの観察に戻る。

『んん、中々大変デス』
 液体金属状に戻ったアルジャーノは、その辺に落ちていた岩をポリポリと食べながら、そんなことを呑気に思う。
 周囲を見回すと、戦場から離れてどこかへ行こうとするマキーナの姿を見つけた。急いで先回りをし、ヘータのトレーサーをぽいっと投げる。粘着力があるそれは、上手くマキーナの背にくっついたようだ。
 アルジャーノは満足そうに体をぴちゃぴちゃ動かすと、また戦場へと戻る。

 幽太郎は、光学迷彩を稼動させ、可能な限り戦場に近づき、センサーで情報を集めていた。
 マキーナの体内にはエンジンがあり、体は超合金で出来ているようだ。けれども、それ以上のことが、今のところわからなかった。
「!?」
 今日何度目になるかわからないが、どこかから飛んできた手榴弾を慌てて避ける。しかし――。
 その直後に、傷ついたマキーナも吹き飛ばされて来た。
 ぶつかる、と思った瞬間――左から何かが飛び出してきて、マキーナと衝突する。マキーナは右方向に飛んで行き、爆発した。
 幽太郎が顔を上げると、そこにはイフリートが立っていた。彼が、盾でマキーナを弾いてくれたのだ。しかし、彼はこちらに視線を向けずにいる。でも、明らかにカッコいいポーズを取っている。
 どうやら、幽太郎が単独で隠密行動を取っていることに、気を遣ってくれているらしい。
 イフリートはそのまま凛々しく飛び立つと、マキーナ相手に苦戦している兵士を手助けし、見せつけるように空を飛び回った。恐らく、兵士に力をアピールする意味合いがあるのだろう。
 幽太郎は、また後できちんとお礼を言おうと決意し、情報を集める作業に戻った。

 戦闘が長引くにつれ、怪我をする者も増えてきた。多くはカンダータの兵士たちだ。
 ゲーヴィッツは、目についた怪我人を抱えると、後方へと移動する。その彼の前にもマキーナが現れた。
「邪魔するなぁ!」
 彼はそう言うと、大きく息を吸い込んでから、はぁと力強く吐く。それは吹雪となり、マキーナに襲いかかった。見る間にマキーナは凍りつき、動きを停止する。

「G0036! こっち手伝ってくれ!」
 光太郎の声に、製造番号 G0036の頭部シグナルが緑色に二回、点滅する。
「ぐぁぁぁ……っ!」
 兵士の足が、瓦礫の下敷きになっている。瓦礫は重く、人一人の力では、持ち上げるのは困難だ。
 製造番号 G0036は、そちらへと近寄ると、片手で難なくそれを取り除く。荒い息をつく兵士を優しく持ち上げると、ミニバンサイズになったローナ・ツーの中に静かに座らせる。
 輸送車となったローナは、装甲車両並みの防御力を持つ上、いざとなれば攻撃も出来るため、外に出ているよりもずっと安全だ。
「怪我人、俺も、運んできたぁ」
 そこにゲーヴィッツもやって来た。兵士をローナ・ツーにそっと乗せると、応急手当てを済ませる。
『ローナ・ツー、輸送を開始します』
 ローナ・ツーはそう告げると、速やかに移動を始めた。

 流飛は近くにいた兵士が洩らしたマキーナを、的確に葬り去る。
 蜂型マキーナは、大した力を持っていない。身体も意外に脆く、攻撃態勢に入るまでにも時間がかかる。素早く対処すれば、攻撃される前に倒すことは十分可能だ。
 しかし、とにかく数が多いため、攻撃の手が間に合わない。混戦となってしまっているのも要因のひとつだった。

「くそっ、数が多いな……せめてハチミツがあればっ……!」
 もう何体倒したかわからない。いい加減疲労が溜まり、またそんなことを言いだしたツヴァイに、木乃咲 進は真剣な顔を向けた。
「ハチミツはないかもしれんが」
「が?」
 聞き返したツヴァイに、進は続ける。
「恐らく、司令塔が一体いる。そいつを倒せば隙が出来るはずだ」
「メテオもさっきから、女王蜂を探してる」
 そう言ったミトサアに、ヘータが、おずおずと声をかける。
「ワタシ、トレーサー、アルジャーノにつけてもらったよ。胸が紫のマキーナがいる」
 ヘータは説明しようと一生懸命言葉を探していたが、ふと思い立ち、触手を伸ばすと、周囲の者にぴと、と触れた。
 情報が、皆に渡される。
「どこだ? ここ?」
「天井の方みてぇだな」
 進とツヴァイが口々に言う。ヘータの言うように、胸の辺りに紫のマークのようなものがある蜂が、空に浮かんでいた。
 ミトサアは、ヘータから受け取った情報をメテオに送る。
 しばしの間をおいて。
『見つけた!』
「見つけたって! みんなはここのマキーナをお願い!」
 ミトサアはそう言うと、加速装置を作動させた。

 ◇ ◇ ◇

「皆、跳べ!」
 頭上からかかった声に、考える間もなく体が動いていた。
 四人が居た場所は、鋭い爪で抉られ、削られた石が飛び散る。
「もう一体いたのか」
 先ほどと同じ、狼型のマキーナが、虚ろな赤い目でこちらを見ていた。
 上からは、白い翼を羽ばたかせ、理星が降りて来る。彼が警告をしてくれたのだ。
「皆、出来るだけ離れろ」
 ローレンがいち早く動く。ここは先ほどの室内と違って広い。もう既に召喚は終えてある。
 三つ首の巨大な犬がローレンの背後から現れ、凶暴さを宿す目をぎらぎらと光らせながら唸る。体はマキーナよりも大きかった。
「行け、メルリン」
 ローレンの言葉と共に、ケルベロス――メルリンは地を蹴り、轟くような声を発しながら、強靭なあごで狼型マキーナの首や胴に喰らいついた。バキバキと音を鳴らしながら、マキーナの体は捻じ曲がっていく。
 しばらく口をパクパクとさせていたが、やがてマキーナはぐったりと動かなくなった。
「皆、やるなぁ!」
 理星がそう言って笑う。ヴィルヘルムも穏やかに微笑み、ハクアは頷き、ローレンは表情を変えずに、眼鏡の位置を直した。

 ◆ ◆ ◆

 女王蜂に近づくにつれ、マキーナの数が増えてきた。司令塔を守るためだろう。
「命を略奪していいのは、略奪される覚悟のある奴だけだ!」
 ミトサアはこちらに襲い掛かってくるマキーナを見据え、指先から発する電撃を喰らわせる。幾つも同時に発せられたマキーナの熱線は、高速移動でかわした。ひとつは避けきれず、足を少し焼いたが、構わずに近くに落ちていたマキーナの残骸を投げ、別のマキーナにぶつける。
 ぐじゃり、と鈍い音がしてマキーナは潰れ、炎を上げる。ミトサアはそれを冷徹な目で見た。
「イィィィィヤッホゥッ! 俺サマも来たぜぇ!」
 唐突に明るい声が響く。ジャックが瞬間移動してきたのだ。
 彼はカマイタチを発生させ、近くにいたマキーナが反応する前に切り刻む。浴びせられる熱線は、瞬間移動でかわした。ジャックのいた地面ばかりが、黒く焼かれていく。

 メテオはハイパーガンを構え、女王蜂を取り囲む群れに最大速度で飛行し、突撃した。
 数体が吹き飛ばされて落下する。それは下の仲間に任せ、ハイパーナパームを女王蜂に向かい、発射しようとするが、突然目の前にマキーナが飛び出してきたので、飛び退る。司令塔に近いだけあって、流石に蜂の動きが良い。
 気がつけば、いつの間にか、またマキーナの数が増えてきている。これではきりがない。
 その時、ごそり、と蜂マキーナの幾体かが体を削られ、力を失って落ちた。そちらを見ると、鴉刃がうねり、飛ぶ姿。
 メテオはこの機を逃さなかった。まだ対処できずにいるマキーナの間を高速移動で縫うように抜け、女王蜂の目前へと移動する。
「これで終わりよ!」
 放たれたハイパーナパームが爆音と共に炎を吹き上げ、女王蜂を包み込む。
 女王蜂は黒煙を上げながら、そのまま地面へと落下していった。

 ロディのデス・センテンスから放たれた弾が、マキーナの胸部に打ち込まれ、雷撃を放出する。
 マキーナの熱線は、ロディの脇をすり抜けていった。彼がさらに弾を撃ち込むと、マキーナは完全に沈黙した。
 それを確認すると、ロディはすぐに次の標的に向かう。
 明らかに、マキーナの動きが悪くなっていた。先ほどまで見事な連携を見せていたのに、単独で襲い掛かって来たり、混乱をきたしているのか、意味もなくうろうろしているマキーナもいる。
「成功したんだな!」
 進はそう言って手元のナイフを投げ、一体のマキーナの羽を斬り落とした。そしてバランスを崩したマキーナに素早く接近し、胸部と腹部に、両手に持ったナイフを打ち込む。
 そして、落ちていくマキーナを、新たなナイフで地面に串刺しにした。マキーナは、ブブブと音を立ててから動かなくなる。
 ずっとマキーナに圧されていた兵士たちも、徐々に力と統制を取り戻して来ていた。けれども、怪我人はいまだ多く、皆の顔には疲労の色が濃く出ている。
「まア、久々に解禁すっか」
 清闇はそう言うと、息をゆっくりと吐いた。
 彼の竜魔法の癒しの力が、周囲に優しく広がっていく。兵士たちの傷と疲労が、見る間に回復して行った。
「くっ――!?」
 突然物陰から飛び出し、襲い掛かってきたマキーナに、兵士の一人がバランスを崩し、尻餅をつく。
 だがマキーナは、横から突き出された槍に貫かれ、数度痙攣した後、動かなくなった。
「お邪魔だったかな? HAHAHA!」
 ガルバリュートはそう笑って、兵士に向かってポーズを取ってみせる。偶然にも、先ほど仮設駐屯地でガルバリュートに絡んで来た兵士だった。
 兵士は目を瞬かせ、顔を綻ばせる。
「あんたたち……すげぇよ」
 ガルバリュートが手を差し出した。
 兵士はそれを取り、立ち上がる。

『C-56ブロック、全ての蜂型マキーナが沈黙!』
『A-32ブロック、狼型マキーナ二体の破壊を確認!』
 通信機を通して、クレインのもとに報告が飛び込んでくる。
 彼は信じられない思いで両手を組み、額に当てた。
 あれだけの蜂型マキーナが発生していて、果たしてカンダータの小隊ひとつで勝てただろうか。恐らく――いや、確実に無理だっただろう。
 しかも、報告によると、同時期に別の場所に出現した狼型マキーナ二体も、世界図書館の者は、たったの五人で倒したという。
 何という力だろう。カンダータ軍では、今まで得ることが出来なかった力。
 硬い凍土で閉ざされたこの世界に、新たな風が、吹き込んだのだ。

 ◇ ◇ ◇

「どうやら、諸君のおかげと言わざるを得ないようだ」
 背後から突然かかった声に、ファーヴニールが振り返ると、そこにはクレインの姿があった。
「でも、あなた方の力でもあります」
 世辞を言うわけではない。自分たちの力の大きさも知っている。けれども、このマキーナとの戦いを、彼らはずっと続けているのだ。人の歴史が記されるようになった時から――あるいは、もっと前から。
「蜂型のマキーナには、必ず女王蜂がいるのでしょうか?」
「いや、今回遭遇したものが、そういうタイプだっただけだろう」
 ローナが尋ねると、クレインは首を振り、マキーナについてはわからないことがまだまだ多い、と言う。
「今回のことは、きちんと上に報告させてもらう」
「私も、これからどうするかを考える、良い機会になりました」
「そうか」
 ファーヴニールの言葉を聞き、クレインは朗らかに笑った。

 周囲には、壊れた蜂型マキーナがごろごろと転がっていた。
 戦っている最中は皆、戦うことに集中しているから、改めて見ると、これだけ倒したのかと感心する。
「ふーん、おもしれェ部品だなァ」
 ベルゼは、壊れたマキーナから部品を回収していた。
 その隣では、地面に落ちて動かなくなったマキーナを見て、アルジャーノが目を輝かせていた。今は人の形をしている。
 話を聞いた時から、是非マキーナを食べてみたいと思っていたのだ。
「いただきマース!」
 満面の笑みで蜂型マキーナにかぶりついたアルジャーノを見て、近くにいた兵士が奇妙な声を出したが、そんなことは気にせず、アルジャーノはポリポリとマキーナを噛み砕いた。
「うっ」
 小さく声を上げ、下を向いたアルジャーノに、どうしたと心配の声がかかる。
 アルジャーノは、体を少し震わせた後、口を開く。
「マズイ……」
 そう言って顔をしかめ、助けを求めるように視線を彷徨わせるアルジャーノに、兵士たちは顔を見合わせ、世界図書館というところには、色んなヤツがいるんだな、と笑った。

クリエイターコメントこんにちは。鴇家楽士です。
お待たせして申し訳ありません。ノベルをお届けします。

今回はボツありとお伝えしたのですが、全部のPCさんを描写させていただきました。
なるべくPCさんの魅力を表現できたらいいなと、頑張って描写したつもりなのですが、実際にそうなっていることを祈ります。

また、今回は選択肢が3つありましたが、選択肢が書かれていなかった場合は、プレイングの内容から鴇家が判断させていただき、割り振らせていただきました。
(また、選択肢が書いてあっても、プレイングの内容からこっちがいいなと判断した場合もあります)

あとは、少しでもノベルを楽しんでいただけたら嬉しいです。
ご参加、ありがとうございました!
公開日時2010-09-13(月) 20:00

 

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