「カンダータ軍から連絡があり、再度の訪問の日程が決まりました。今回は『理想都市ノア』の観光視察と、辺境の戦場の状況視察を行ないます。みなさん自身の目で、カンダータ世界を知ることができる機会となるでしょう」
第2次訪問団は、戦場視察については性質上、選抜された人数での参加となる。残りの面々は市内の観光視察をということになった。
リベルから注意事項が告げられる。
「今回、ミラー大佐から、『ランザーグ市』という辺境の地下都市へ行く許可がありました。この都市はいちどマキーナに制圧され、現在はほぼカンダータ軍が奪還したものの、いまだ侵攻してくるマキーナの群れをそのつど撃退しているという状況なのだそうです。住民はいません」
ミラー大佐からは、次のような言葉があったらしい。
「都市に展開している部隊には私から話を通してありますので、みなさんについても理解しています。ただ――、かれらは私の、つまり異世界方面軍の部隊ではありませんので、細やかな対応を約束させることはできませんでした。『邪魔にならないように、いてくれるだけならいい』ということでしたが、逆に言えば、みなさん身の安全はご自身で守っていただくことになります。流れ弾にもご注意下さい。もちろんわざと背中を撃ったりはしませんよ。ただ、この場所は戦場ですので。どうかご了承下さい」
◆ ◆ ◆
相変わらず、世界は荒涼としている。
クレイン少佐は、窓の外を見遣り、そのようなことをふと思った。
未だ襲撃してくるマキーナを追い返すので精一杯で、ここ、ランザーグ市の復興の目処はまるで立っていない。とても人の住めるような状態ではなく、クレインの居る執務室も、壊されていなかった建物を利用している。
その時、ドアが強くノックされた。クレインはすぐに入るように促す。確認する必要はあまりない。ここに誰かが来るときは、ほとんどの場合、同じ用件だからだ。
失礼します、と声を発し、若い兵士が緊張した面持ちで入ってくる。
「少佐! マキーナの襲撃です!」
「タイプは?」
クレインは落ち着いた声で兵士に問う。
「蜂型です」
「勢力を集中し一気に叩け。仲間を呼ばせるな」
蜂型は子犬ほどの大きさで、マキーナの中では小さく、攻撃する力もそれほど強くない。また、破壊することも比較的容易い。
しかし、空中を俊敏に動き回り、場合によっては特殊な信号を発し、仲間を呼ぶ。大量の蜂型マキーナのせいで、多くの兵士たちが命を落としたことがある。決して侮れない相手だ。
「現場に戻れ。私もすぐに向かう」
「はっ! 失礼します」
急ぎ戻っていく兵士から視線を外し、クレインも武器を手に取る。他に準備などは必要ない。いつでも動けるようにしてあるからだ。
ふと、目の端を捉えたものに視線を向ける。
デスクの上には、書簡が置かれていた。世界図書館という異世界の連中が、対マキーナ戦線の様子を視察するという旨のものだ。
いい気なものだ。こちらは命を賭して戦っているというのに。
しかし、邪魔さえしなければ別に構わなかった。物見遊山で命を落とすのも、別にその者たちの自由だ。
それに、もしかしたら。
もしかしたら、何か変わるかもしれない。
奥底から不意に浮き上がってきた思考に、クレインは思わず苦笑した。長きに渡る戦いで、自分は随分と疲弊しているようだ。
今は、目の前の戦いのことだけを考えろ。
そう自分に言い聞かせ、クレインは執務室を後にした。
●ご案内
都市の観光視察を行うフリーシナリオにご参加の方は、この戦場視察には参加できません。このシナリオに参加が決まった方は、フリーシナリオへのプレイングがあっても無効となります(抽選へのエントリーは問題ありません)。
!注意!
パーティーシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。