ある日の駅前広場
「無事のお戻り、なによりです、レディ・カリス」
リベルは、礼を尽くしてレディ・カリスを迎えた。
貴婦人は微笑んで頷く。
「ええ、館長代理もお怪我はない様子。これで一件落着と言ったところかしら。もっとも、まったく別の問題が浮上してしまったけれど」
「……」
いったいどこまでが最初から彼女の意図のもとにあり、どこまでが本当に不測のできごとだったのか、リベルにはわからない。レディ・カリスの表情からは読むことができなかった。
少なくとも、世界図書館が把握するのは次のことだ。
・館長エドマンド・エルトダウンは、「ロストナンバーたち数名となんらかの取引」をし、収監されていたホワイトタワーを脱出。
・館長のホワイトタワー脱出に関与したロストナンバーは誰か、またその行方は掴めていない。
・「館長と取引をしたロストナンバー数名」は、館長代理アリッサ・ベイフルックを人質としてアーカイヴを案内させ、壱番世界へ向かった。
・レディ・カリスはアリッサを救出するためトレインウォーを招集。
・壱番世界で、館長と、首謀者のロストナンバーたちを捕捉。アリッサの安全を確保した。
・壱番世界のベイフルック邸において、アリッサの父『ヘンリー・ベイフルック』が仮死状態で発見された。レディ・カリスは状況からこれが「エドマンド館長の犯行」であると告発。
そのようなことがあったのだと、ターミナルの人々は知らされている。
なかには、聞いていた話と違うとか、なにかおかしいと思ったものもいたかもしれない。
しかし、真実は、その日の壱番世界の嵐の彼方――。
「捕縛したロストナンバーの処遇は」
「そうねえ。ひとまずは『ホワイトタワー』に“滞在”していただくことになるでしょうね。一部、破損したそうだけど、建物自体に被害はないようだし」
「館長もでしょうか」
「館長は《赤の城》へ」
ぴしゃり、とカリスは言った。
「それから。館長代理はゆっくりと休ませておあげなさい。……小耳に挟んだのだけれど、甘露丸が花見の宴を計画しているとか。それは予定通り行うようにと伝えなさい。むしろ、ひときわ盛大に行うように、と」
「それは……しかし」
戸惑うリベルに、カリスは言うのだった。
「宴にはもちろん私も出席します。そして大勢のロストナンバーの前で、大切な話をしたいと思います。私たちの旅のゆくさき――この風のゆくえを決めるための、大切なことを」