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<ノベル>
ざざ、と砂嵐の音が鳴って、そして暗転した画面が再び明るくなる。
そこは、銀幕市でも有数の賑やかな場所、広場の一角が映し出されていた。そして、ぽん、ぽんと軽やかな音。
カメラを向けられ、蔡笙香は、ジャグリングの手を休める事無く、にこりと微笑んだ。
「良かったら、見ていってくれまセンカ?」
彼はそう言うと、より高く、それを空へと上げた。周りに集まる人々が、彼の手さばきに、拍手と喝采を送る。
そして、ジャグリングを終えた彼の飄々とした笑顔が、映し出された。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「そうデスネ。リオネちゃんと、のぞみちゃんに、ありがとう、と伝えたいですカネ?」
次にカメラは、賑やかにはしゃいでいる二人組の姿を捉えていた。少しぶれたカメラが、二階堂美樹と、サンク・セーズの姿を映し出す。
「はーい! これからデュエットしまぁす!」
「記念やなあ! ほらいきまっせぇ!」
所々コブシを付けている所は、正に演歌調だ。そして、一曲歌いきった二人は、空高く、マイクのようなものを掲げた。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
浦安の言葉に、美樹が賑やかな雰囲気のまま、高らかに叫ぶ。
「みんな、大好きよ! 絶対に忘れない。私、覚えてるからね。おばあちゃんになってもずーっと覚えてて、昔話みたいに語りまくるんだから!」
そして、横にいるサンクが口を開いた。
「こっちの世界ゆうんも楽しかったわーあ! 自分のこおーとも忘れんといてなぁ! また映画見てくれたらええやん、会えるやん。こんな風に話したったこと、忘れんといてなぁ!」
そして彼は、よし、と叫ぶと、隣の美樹の腕をがっしりと掴んだ。
「え? えええっ?」
カメラの前で、サンクは美樹を俗に言う、姫抱っこの形で抱き上げる。
「サービスやーん、キメッ!」
頬を紅潮させて慌てる美樹とは対照的に、楽しそうな笑顔をサンクは見せていた。
「きゃーっ!」
「ピエロさんだぁ」
子供達がわあ、と楽しそうに叫ぶ声、色鮮やかな衣装を纏ったジョニーの姿を捉えている。
カメラの存在に気がついたジョニーは、手を大きく振ってみせた。
「きゃー、浦安チャンじゃない! え? アタシを久しぶりに見たって? ――うふふふ、ピエロに謎はつき物なのよン」
「――あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「そうねェ……色々あったケド、アナタ達と出会う事ができた幸せ、こんな素敵なコトってないわン。ありがとねン!」
満面の笑みを浮かべたジョニーは、ウィンクと投げキッスを幾つも投げかけてくる。
「あら、そんなとこで座ってないで、もっと楽しくいきましょうよン!」
「うわっ、びっくりした!」
ジョニーは広場の片隅に佇んでいた、仲村トオルへと抱きついた。いきなり抱きつかれたトオルは、驚いて一歩飛び退く。そして、カメラへと視線を向けた。
「え? 会うヤツ全員に? ご苦労さまー」
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「ん? ボク? そうだねぇ。――また会おう、かな?」
そうして、に、と口の端を上げると、するりとジョニーの腕から抜け出した。
「おっと、仕事だ。それじゃ、頑張ってね」
そうして、小さく手を振ると、彼は背中を向けて町の中へと去っていく――。
カメラは、町中の通りを映し出している。そして、こちらへ向かって歩いてくる那由多の姿を映し出していた。
「うわー、それ何? え? びでおれたー? ……えーっと、びでおれたぁって、なに……? 伝えたい言葉? ここで喋れば良いの?」
「そう。――あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「めっせーじはね……」
那由多はそこで、しばらく悩んでいるような動きをみせる。
「僕に幸せな時間、そして家族をありがとう。父上と母様には会えなかったけれど、それでも大切な家族が出来たんだもの。友達も出来たんだ。だから――幸せだよ」
そうして画面に、那由多の無垢な笑顔が映し出された。
「ありがとうございました!」
明るい声と共に、カメラには赤い革パンツにフリルがついた可愛いエプロンという、凶悪な組み合わせを身に着けたリカ・ヴォリンスカヤが映し出された。
「何してるの? あぁ、ビデオレターねぇ……わたしも映っていいの?」
「勿論。――あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「そうねぇ……、わたしがいなくなってもケーキハウス・チェリーロードをよろしくね! ……きっと、味は落ちると思うけど!」
そこまで言うと、リカは店長を引っ張ってきて、もう一度カメラの前に立った。
「チェリー・パイが一番美味しいのよ。わたしが加えたオリジナルレシピは、改めて『レッド・チェリー・パイ』にしてジョージが作り続けてくれるから! 絶対食べてね、悶絶間違い無しよ!」
カメラの前に、黒い影が落ちていた。それを追って、カメラが斜め上を捉える。
「おー、何やってんだ? ビデオレター?」
そこには、翼をぱたぱたと動かして飛んでいるイェドの姿があった。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「そうだなぁ。おつかれさん! ってとこかな。なんつうか、色々どどーってきちゃってただろ? だからゆっくり休みなよ、って意味でさ。――休めるときに休んでおかないと、いつまた何が起こるか分からないからな」
イェドはそう言うと、楽しげに、にか、と笑顔を見せる。
カメラは理容室とその前で箒を手に掃除をしている、春日井公彦の姿を捉えていた。
「こんにちは。何をしているんだい? ……へぇ、ビデオレター、ね」
そう呟いた彼の肩に、ちょこん、とバッキーが登ってくる。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「今、伝えたいメッセージか……。そうだねぇ――またおいで、かな? なんだかんだで賑わっていたし、中にはムービースターのお客さんもいたしね……はは」
首を傾けてくるバッキーの頭に、そっと手を乗せて。
「バッキー達ともお別れなのは寂しいね。今までペットとか飼った事無かったから、楽しかったんだけど……」
画面に、くるりと振り返ったラズライト・MSNO57の姿が映し出された。
「こんにちは。――びでお……ですか? 本当に機械には色々と便利なものがあるのですね」
電気屋の前で、ラズライトは感心したように大きく頷いた。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「そうですね……、店長様、ハヤト様、銀幕市滞在中、自分もシトも大変お世話になりました。これからのご商売の繁盛と、お二人のご多幸とご健康を心よりお祈り申し上げます。本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたラズライトは、この様な感じで問題ありませんか? と首を傾げていた。
カメラは、スーパーまるぎんの近くに差し掛かったようだ。前を歩くルイス・キリングが振り返った。片手にはスーパーのビニール袋を提げている。
「おお、ビデオレター? 伝えたいメッセージって誰宛てに? ……あ、それは自由に決めちゃっていいんだ」
彼は、伝えたいやつらにはもう自分で言ってるしなあ、とひとりごちる。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「じゃあ、のぞみちゃんにメッセージな。おっはよー! 直接言えないけどさ――これからは夢を見るんじゃなくて、思い描いておいた夢を叶えていくんだぞー!」
ルイスはそう言って、空いている手を掲げて笑う。
カメラは、街角をこちらに曲がってくる、ケトの姿を捉えていた。
「お、それビデオじゃん! こんな所で、何撮ってんの?」
ケトはそう言いながら、カメラに思い切り近付いてきて、いえい、と叫びながらピースをしていた。
「あなたが今、伝えたいメッセージはありますか?」
その言葉に、ケトはうーん、と少しだけ考え込む仕草を見せて、そしてカメラを向いた。
「まーあ、それなりに楽しかったぜ。友達も出来たし、友達にも会えたしさぁ! ゲーセンとかハザードとかでも、思い返せば楽しかったって思えるしな!」
快活な表情の中に、どこか寂しそうな気持ちを含ませた顔で、彼は笑っていた。
画面が少しだけゆらりと揺れて、公園をそこに映し出していた。
そこには、マイク・ランバスと、彼が今面倒を見ているらしい子供達の姿があった。マイクはにこりと笑みを見せながら、カメラへと近付いてきた。
「こんにちは。今日は一体何を――、なるほど、ビデオレター、ですか」
彼は浦安の言葉に、なるほど、と頷いてみせる。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「……様々な人に会いました。様々な縁を持ち、残せました。――皆さん、どうかこれからも幸せに――ありがとう」
そうして彼は、肩の上で所在無さげにしているぷにょを優しく撫でたのだった。
カメラは、再び大通りへと出ようとしていた。浦安は、大きく回りこんで、彼――真船恭一の姿を映し出していた。
「お、びっくりした。何してるんだい? ――ああ、ビデオレターか、なるほどね」
彼は直ぐに事態を呑み込んで、ひとつ頷いてみせた。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「様々な出来事を通して、この年になっても多くの事を学んだ、諦めない事と人の絆の強さがいかに大事かを改めて知ることも出来たんだ。――とても素晴らしい夢だった」
彼は腕に抱いているバッキーの身体をそっと撫でた。
「これからも僕は、夢とこの町を愛してゆくよ。ありがとう――ふー坊もありがとうね。お父さんの所に来てくれて。本当に楽しかった。一緒に頑張ってくれて有難う。忘れない――ずっと愛しているよ」
そうして恭一は、慈愛の笑みを見せたのだった。
カメラは大通りのカフェへとたどり着いたようだった。
そこでは、ひとりの女性が読書に勤しんでいるようだ。カメラが近付いていくと、彼女――鈴木菜穂子は、気配に気がついて顔を上げる。
「あら、こんにちは。何を読んでいるの、ですって?」
彼女はテーブルの上に、今まで読んでいたものを広げる――銀幕ジャーナルと、マッチョさんの雑誌だ。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
改めてビデオレターについて説明し、浦安がそう投げかけると、菜穂子は静かにカメラへと視線を向ける。
「この街で、ギャグの成り行きではない奇跡を拝見しました。良い方々がいる所だと思います。夢が終わっても、それは多分変わりませんね。……消えたらそのままなのか、映画に戻るのかは知りませんが、どちらにしろ私は、もう色々諦めるのはやめにします」
そう言って、彼女は小さく頭を下げた。
「色々考えを変えさせて下さった皆さん、ありがとうございます――」
大通りもそろそろ終わりそうな頃、カメラの前に三人の姿が映った。初めにリゲイル・ジブリールがカメラへと近寄ってくる。
「あれ、何してるの? へえ、ビデオレターねぇ。面白そうじゃない」
リゲイルは、遠巻きにこちらを見ている、蘆屋道満と、ユージン・ウォンへと顔を向ける。
「ねぇ、ビデオレターだって。折角だから、私達も何か残させてもらわない?」
「びでおれたぁ?」
「えーと……」
リゲイルが道満に、ビデオレターについて軽く説明をしていく。ひとまず三人は、ビデオレターを残していくことにしたようだ。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「今まで出会った皆さん、わたしに沢山の幸せをありがとうございます。皆さんがいてくれたから、きっとこれから何が起きても乗り越えていけると思います」
リゲイルはそう言うと、深く一礼した。
隣で、道満がカメラへ満面の笑みを浮かべる。
「まるぎんのカニクリームコロッケは最高だった! 皆の者、さらばだ!」
ウォンは表情を変える事無く、一言だけ残していた。
「私にもやっと眠れる時が来たという訳だ」
「――え? 二人とも、それだけ?」
「ああ」
「ちょっと、もう少し何か残すことないの?」
当然という表情を見せた二人に、リゲイルは少しだけ頬を膨らませた。
細い路地の奥を進んだ所で、ひとりの男性がゆっくりと歩いてきていた。
「こんにちは」
どこかのんびりとした口調で話しかけてくる彼は、エンリオウ・イーブンシェンだ。
「一体何をしているの? ――へえ、ビデオレター、ね」
「――あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「幸知子さんへ。からだに気をつけてね。私はもう手伝えないけれど……んん、なんだか照れくさいねぇ」
彼はそう言って、ふわりと照れた笑みを見せた。
「――ありがとう。貴女と過ごせてよかった。あの時間が、貴女のこの先が、――幸いに満ちたものでありますように」
最後、のんびりとした口調が、凛とした響きを帯びた。そして、エンリオウは優雅に、騎士の一礼の仕草を取った。
カメラは、マスティマ戦で破壊された建築物の近くへとやってきていた。幾人かがそこで瓦礫を撤去する作業をしていたが、その中のひとりがカメラに気がついて、視線を向ける。
「こんにちは。一体何をされているんですか? ――ビデオレター? メッセージを伝えるんですか? 誰宛てに、というのは、自由なのですね」
彼――アルは、浦安からの説明を受けて、なるほどと小さく頷いている。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「――美原さんへ。――おはようございます。世界は貴女の思うほど優しくはないかもしれません。けれど、とても美しいものです。それをこれから貴女の目で見ていってくださいね。――貴女と少しだけでもお話してみたかったです」
アルはそう言って、顔について埃を拭うと、ふわりと微笑んだ。
カメラは、再び住宅街の中を映し出していた。向こう側から木村左右衛門がやってくるのが見える。彼はカメラを見て驚いたらしく、頬を引きつらせていた。
「そ、それはなんだ? び、びでおれたー? ……た、魂が吸い取られるのではいか……?」
左右衛門は、浦安から説明を受けても、どこかびくびくとした表情のままである。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
「むう――、まずは街の皆に感謝を。それがしは試合を見に行くことは出来ぬが、おぬし達なら大丈夫だ」
彼はそこまで言うと、大きく息をついた。
「家主殿、今月分の家賃は棚の中にござる、残った金子は壊れた貸家修理の足しにしてくだされ」
どこか神妙な表情が、カメラへと収められていた。
ぱっと画面が切り替わって、市立中央病院の姿を遠目に映し出していた。その前に、Soraの姿が映し出される。
「ええと、このまま喋れば良いのよね?」
「うん。あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
浦安の言葉に、Soraは真面目な顔つきになって、喋り出す。
「まずは主治医へ。色々ありがとう。でももうあたしは居ないんだから、意地張らないで、あたしの役者とちゃんと仲直りしなさい。それから美原のぞみさんへ。――何度かお見舞いにいったのだけど、結局話せなくて残念だわ。……あなたを待ってる人はたくさん居るわ。それを大切にね。――最後に」
彼女はそこまで言うと、にこり、と笑みを見せる。
「おはよう!」
*
そうして、ひとつに纏められたビデオレターは再生を終えた。浦安は、そのディスクを取り出すと、もう一枚のディスクを取り出した。
それは、とある人物だけに見せる、という約束で撮られたものだった。小さな再生音と共に、画面が明るくなる。
そこに映っていたのは、蘆屋道満と、ユージン・ウォンの姿だ。
「あなたが今、伝えたいメッセージは何ですか?」
道満が真面目な表情をカメラに向けた。
「姿は消えても、それは決して別れでは無い。リゲイルよ、強くしなやかに、そして幸せに生きよ。そなたの未来に光と笑顔が溢るるを祈る。――それが我と漆の願いである」
彼はそう告げると、柔らかな微笑を浮かべた。
そして、ウォンも笑みを浮かべて、話し出した。
「リガ、あれは晩夏にしては寒い夜だったな。街の片隅で凍え続ける俺に、お前は手を差し伸べてくれた」
何かを思い出したかのように、僅かに表情が歪む。
「壊れた世界にお前を近付けぬ為とはいえ、何かと不自由な思いをさせてしまったな。――お前に会えて、……本当に良かった」
そうして彼は、最後に慈しみの笑みを浮かべた。
「幸せになれよ、リガ。――ありがとう」
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クリエイターコメント | 大変お待たせ致しました。ノベルをお届けさせて頂きます。 BGMは癒月/daiの「you」だと言い張ります。 色々まだ書き足りない部分はあったのですが、皆様のメッセージを入れることを最優先にさせて頂いた結果、一部分を削ることとなりました……(本当はあと2000文字くらいあったんです……)
皆さんの笑顔が、皆さんの心に届くことをお祈りしております。
ご参加、ありがとうございました! |
公開日時 | 2009-07-04(土) 21:50 |
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