★ 後方支援部隊 ★
イラスト/キャラクター:蒔本梓夏


<ノベル>

「みんな、ケガ、しないよね…? だいじょうぶだよね? 痛かったり悲しかったり、つらい気持ちになりませんようにって、神さまにおねがいするの…」
 夕焼け空の下その青年は祈った。
 この戦いで辛い思いをする、人が少しでも少なくなる様に。
 トトの祈りだった。
 心からの……。

 晴天だった太陽もオレンジになり、日が傾いてきた。
 レヴィアタンとの決戦も大詰めに差し掛かり、負傷者の数も増えてきた。
 後方支援部隊は、救護拠点となっている「鎮国の神殿」に運びこまれる、第1、第2、第3作戦の負傷者達の救護に追われていた。
 拠点ではまず、臥竜 理音等が気の進まない仕事。
 治療の優先順位。
 怪我の度合によって、治療順位を付ける作業を行っている。
 順位を付けられた者は黄色、緑等のタグを付けられる。
「全く。この私に此処までさせるなんてね。何もかも捨てるつもりでいたのに、まだこうして拾うなんて思いもしなかったわ」
 と、一人愚痴りながらも、手際よく作業を続けていく。
 早くこういう事は終わらせたいと思う。
 不安よりも幸福がいい、と心から思う。
 共に仕事をしている天野屋 リシュカは、その場で出来る手当ても一緒に行っていた。
 でも無理はしない。
 この「鎮国の神殿」にも優秀な医療スタッフは居るし、深手を負った者は、中央病院に移送されている。
 人命優先!
「みんなを守る為だし、気合い入れていかなきゃ!」
 と、きゅっと拳を握る。
 同じく、神月 枢も負傷者に黙々とタグを付けていく。
 第四作戦が始まってからだろうか?
 レヴィアタンも本気になったのか、負傷者がだんだん増えてきた。
「まだまだ、負傷者は出そうね……」
 理音が憂いの瞳で、レヴィアタンの舞う空を見て呟いた。

 「鎮国の神殿」内は、本格的に怪我人の山で、埋め尽くされていた。
 と言っても、ここで出来るのは応急処置が精一杯で、負傷の酷い者は、有志達がそれぞれの力を使って迅速に中央病院に運んでいる。
 だが、ここ「鎮国の神殿」に集まった者達も志は一緒だった。
 1人でも多くの仲間の怪我を回復させる!
 その目的の為に必死で、次々と運ばれてくる、負傷者達の怪我の治療にあたっていた。
「はい、見せて痛くないから」
 そう言って、いつもの笑顔もなりを潜め真面目な顔で、相原 圭が負傷者の手当をしている。
 圭はいつもはオシャレな青年だが今日は、違っていた。
 服が汚れるのも構わず、時には負傷者の血を浴びながら、腕まくりをし治療に専念していた。
 これも、決戦前に中央病院で応急処置の勉強をしていたお陰だ。
「怪我が疼いたら、すぐ言いな。オレがすぐ治してやるから」
 と、少女のムービースターの頭を撫でるのだった。
「あたしもおてつだいするのー!」
 と言って、包帯を全身で持って負傷者に突撃するのはリャナだ。
「いったーい」
 リャナはそう言って、包帯にからまって床に打ちつけられてしまった。
 それを助け上げたのはリディア・オルムランデだ。
「大丈夫ですか?リャナさん?わたし達はわたし達の出来ることを致しましょう」
 そう言って、リディアは応急処置の道具を医療スタッフに渡そうと持ち上げたが、思いのほか重かったのか、ひっくり返ってしまった。
「あ、あわわ…ごご、ごめんなさい!」
 謝って、すぐに辺りに放り出した薬や道具を拾い集めるリディア。
 リャナも一緒になって拾っている。
「ありがとう。リャナさん」
「うん!あたしも頑張るね!」
 リディアがそう言うと、リャナはもう一度飛び立つのだった。
「ここは、わたくしファーマ・シストの出番ですわね。傷薬、消毒薬、止血剤、気付け薬、その他各種治療薬を大量に揃えて参りましたわ♪」
 笑顔で負傷者達の前に次々と薬を並べていく、ファーマ。
「飲み薬、塗り薬、貼薬、注射…お好みの投薬方法をお伝え下さいませ〜」。
 笑顔で言う彼女に気圧されしながら、負傷者達は、ファーマの治療を受けるのだった。
 そんな中、ここでは精神的ケアもやっていた。
 ネガティヴゾーンの負のオーラにあてられた者も少なくなく、カウンセラーを本業としている、森砂 美月がムービースターやムービーファンの心のケアをしていた。
 思った以上に、負の力に押しつぶされそうになっている者も少なくなかったが、美月は根気よくそれぞれの話を聞き、彼等の心を癒していった。

 ここは、鎮国の神殿の裏手側。
 柱には、いくつもの護符が張られている。
 愛宕の結界だった。
 この神殿が、防衛拠点が万が一にも襲われない様に、愛宕は精神統一を図る。
 この拠点は、落としてはならない。
 その為にも、自分が頑張らねばと汗を首筋から流しながら、愛宕は結界を張り続ける。

 神殿の一角では、
「るう、しんじる…。はやくかえってきて…」
 ルウがペンダントを握りしめ、父と姉の帰りを待っていた。
 父は、言った。
 必ず帰ってくると。
 約束は守る事だと教わった。
「だから、ぱぱはかえってくる…るう…まってるから」
 そう言って一心にペンダントを握って、父達が早く帰ってくるのを祈った。

 一方、仲間から最高時速400km出るという移動用使鬼を預かった、浅間 縁、椿、アレグラの三人は、それに乗り、負傷者の救護活動を行っていた。
「この辺はちょっと視界が悪いなぁ。……どう、あなた。誰かいる?」
 そう、使鬼に尋ねる緑。
「おい、あそこの瓦礫の下誰か居るんじゃないか?」
 椿が言うと、緑が、
「使鬼よ!走って!」
 瓦礫の下には、1人のムービーファンが倒れている。
「アレグラ、お願い出来る?」
 緑が急いだ声で言う。
「アレグラ、わかった。がれき、どかす」
 そう言ってアレグラが口の開いた両手で瓦礫をどかすと、すぐに椿が助け出す。
「これは、中央病院まで連れてった方がいいね」
 椿が言うと。
「使鬼、走れるわね?この人を中央病院まで運ぶわよ」
「俺達は自分の仕事を全うしなくちゃな」
 緑が言うと椿も言った。
 使鬼は、一度頷くと、4人を担いで走った。
 中央病院まで。

 他の場所でも救護活動は続いていた。
 ガルム・カラムは、『鳥』を召還して周りの様子を伺っていた。
「負傷者は、居ないかな?居ない方がいいけど……。もし、居たらボクが見つけなくちゃ」
 ガルムは、『鳥』を何度もはためかせ、負傷者を捜した。
「居たー!怪我してる人……助けなくちゃ」
「負傷者は居たかい?ガルム君?」
「うん、居たよ。3キロ先くらいの壁にもたれかかってる、人!」
 フレイド・ギーナの言葉にガルムが必死で居場所を教える。
「OK!じゃあ、行ってくる!」
 と、フレイドがバイクに乗ってガルムの示した地点に向かう。
 地上3キロを軽快に走った。
 そして、見つけた。
 ガルムの言っていた、負傷者だ。
 気絶をしているが、外傷は右足だけのようだ。
 怪我を確認すると、割と雑に負傷者を持ち上げると、自分と負傷者をロープで縛り、負傷者を後部座席に安定させると、自分はハンドルを握りまたバイクを爆走させる。
 運んでいる最中、フレイドは空を見上げて一言呟いた。
 「……I don't want to die」
 死んでたまるか、と。
 そして、思い出したかの様に、ポケットにしまってあった、機械の蝶を取り出した。

「うちらの、銀幕市や!あんな他所者のせいで、引っ掻き回されて、堪るか!!」
 そう叫びながらバイクを勢いよく走らせているのは、針上 小瑠璃だ。
 彼女は、負傷者を見つける度に、
「大丈夫や…こんなアホらしぃ事、明日ぁなったら、嘘の様に戻っとるわ、そやから、しっかりしぃ?」
 と、言っては負傷者を元気づけている。
 そして彼女も、負傷者を見つける度に機械の蝶に話しかけた。

 「鎮国の神殿」の一室。
 ホワイトボードに描かれている、銀幕市の細かい地図と×印。
 蝶の無線機を預かった少女、悠里は、仲間達から負傷者の救出の連絡がある度、その地点に×印を書いている。
「負傷者は、まだまだ居るね」
 考え込む、悠里。
「須美さんとチヒロさんも救護に行ける?」
「もちろんよ。応急処置だって準備万端よ。動きやすい格好もしてきたしね」
 と、朝霞 須美が言うと間をおいて、
「私も助けに行く準備は出来ている。早速行ってくる」
 チヒロ・サギシマも言う。
 スタスタと部屋を出ていこうとする二人に、悠里は急いで回り込み、蝶を渡す。
「これ、伝令蝶って言う連絡アイテムなの。負傷者を見つけたら連絡をちょうだい」
 悠里が言うと、二人は、
「分かったわ。すぐに連絡を入れるわ」
「分かった」
 そう言って部屋を出て行った。
「悠里、無理していませんか?」
 ジョシュア・フォルシウスが心配そうに彼女の傍らに立つ。
「私なら、全然平気だから、ジョシュアさんも伝令蝶の連絡聞き逃さない様に注意してね」
 そう言って笑顔を見せる。悠里。
 その笑顔を見て、少し心配になったが、何も言わなかった。
 その代わり。
「伝令蝶が使い物にならなくなった時は、私が走りますからね」
「……うん」
 ジョシュアが言うと、悠里が素直に頷いた。
 そして、悠里は1人呟く。
「あたしだって、みんなの役に立つんだから……っ」
 悠里達はまた伝令蝶からの連絡を待つのだった。

 戦闘域の各地では、苛烈な戦闘に武器を失う者達も出てきた。
「おーい、お前等。俺さんが武器を調達してきてやったぞー。有り難く使え」
 ガーゴイル故に決して速い速度とは言えないが、アンディが必死で空を飛びムービースターやムービーファン達に武器を渡していく。
 レヴィアタンが決して怖くない訳ではない。
 内心脅えている。
 しかし、それを他人に見せまいと必死で戦地と拠点をアンディは行ったり来たりするのだった。
 一方の轟 さつき は、魔法のバイク【ミンストレル】を駆り、颯爽と武器をムービースターやムービーファンに手渡していった。
「私達の出来る事は少ないんだよ。これでも足しになるなら、頑張るから、あんた達負けるんじゃないよ」
 そう言って、また魔法のバイクで次の戦地へ向かうのだった。

 ここは、中央病院。
 今回の作戦の第2の拠点。
 そして、命綱である場所。
 中央病院は、いつも以上に忙しかった。
 「鎮国の神殿」では、治療しきれなかった、ムービースターやムービーファンが次々と運ばれてくる。
 入り口では、1人の少女が兄から借りた妖刀【刹鬼】を使い結界を張っている。
「兄ちゃんの借り物だけど凄い威力だわ。ディスペアーの一匹も寄せ付けないなんて」
 墺琵 綾姫が、1人ごちる。
「兄ちゃん、この刀返すんだから、必ず帰ってきてよ」
 そして、また精神を集中させ結界の維持に努めるのだった。

 中央病院のナースステーション側には、警護も兼ねて柊木 芳隆が居た。
 彼は、「鎮国の神殿」とここ、中央病院にセキュリティ社の部下を配置、警護に当たらせていた。
 自分も何時、戦闘になってもいい様に準備はしてある。
 そんな、戦時下の中、芳隆には気になる事があった。
 ばたばたと走り回っている、看護士の1人を捕まえる。
「ここの病棟に、黒髪のパジャマを着た少女は居るかい?」
「そんな子、この病院には沢山居ますよ!この忙しい中邪魔しないでください!」
 怒られてしまった。
 なにぶん情報が足り無すぎる。
 芳隆は諦め、警護の続きをするのだった。
 芳隆がナースステーションを離れると入れ替わりに、ナースステーションに入って来たのは、セバスチャン・スワンボートだった。
 彼は、雑用係としてあちこちに顔出しをし、こき使われつつ記録を取っていた。
 その時、興味のアンテナが湧いて、件の少女の件を調べられないかと思った。
 そして、自分の力、過去視の能力が発動した。
 看護士と言い争う、黒髪でパジャマ姿の小さな少女。
 以前見た映像よりは、若干幼い様な気がする。
 そうこうしていると少女は、向こうに行ってしまう。
 やれやれと言った風情で看護士がカルテを棚にしまう。
「アレは、少女のカルテか?」
 そう言うと、その片付けられたカルテを探す。
「有った、これだ。多分、間違いない」
 『美原のぞみ』これが少女の名前だった。
「どれどれ、難病で入院しているのか。何?2006年8月から昏睡しているだと!?」
「おい、お前。この戦時下に何やってやがる?」
 乱暴な言葉遣いに振り向けばそこには、この後方支援部隊の副官、市長秘書の上井寿将が立っていた。
「いや、ちょっと捜し物をな……」
「この戦時下に捜し物もあるか!手が空いてるなら、すぐに負傷者の搬送の手伝いに行け!」
 言い淀むセバスチャンを強く叱咤する寿将。
「ネガティヴゾーンに絡むかもしれない、捜し物だったんだ」
「ネガティヴゾーンに?一体なんだよ」
 寿将の口調は未だにつっけんどんだ。
「黒髪でパジャマの少女は、知っているだろ?」
 それを聞いて、寿将のこめかみが少し引きつった様な気がしたのは、気のせいだろうか?
「……それで」
 次を促す寿将。
「あの少女は、この病院の入院患者で、名前を『美原のぞみ』と言うそうだ」
 その名前を聞いて、寿将が一瞬凍り付く。
「……だから、なんだってえんだ?この戦時下じゃ、今は関係ねえだろ。お前も早くみんなと救護活動をするんだ!これは、命令だ!」
「……分かった。負傷者の搬送に向かう」
 寿将の激昂ぶりに、素直に命令に従う、セバスチャン。
 しかし去り際に見てしまった。
 寿将が唇を噛みしめて立ちすくんでいる所を……。

 所変わって、「鎮国の神殿」。
 戦闘も終盤に差し掛かり、食料を求める者達で、炊き出し班も大忙しだった。
 槌谷 悟郎は、ひたすらカレーを作っていた。
 不安そうにしている者が居れば、
「手伝ってくれるかい?」
 と、優しい声をかける。
(働いていたほうが気がまぎれるはずだからな)
 そこで、既知の人物に出会った。
 以前の探索部隊支援活動時に一緒に炊き出しに加わった、真船 恭一だ。
 彼は、必死におにぎりとスープを作っていた。
「よう、久しぶりじゃないか?」
「ああ、槌谷さんじゃないですか。お久しぶりです」
 悟郎が声をかけると恭一も気さくに返事を返す。
 戦時下でも同年代同士、話が弾む。
 だが、話が終わる頃には、二人とも真面目な顔になり、
「護らないといけないよね。この街を」
 どちらとも無く言い出し、二人揃って強く頷くのだった。
「いざっちゅう時に空腹じゃぁ力が出なかろう。えっと食べて精をつけてもらわんとの。今は夏場じゃけぇ、暑さにやらりゃぁせんように冷いもんにでもしようかのぉ。」
 と言って、光原 マルグリットは、冷やしうどんを即席のテーブルにどんどん並べる。
 それを手伝うのは、生活サポート用自動人形の姫神楽 言祝だ。
 隣では、ゆきが心に絶望ではなく希望を秘めて精一杯おにぎりと豚汁の用意をしている。
 その、豚汁の火力を調整しているのは、フェルヴェルム・サザーランドだ。
 炎を操る力を使い、少しでもみんなの力になるものが出来るのを祈る。
「てやんでーい!!坊ちゃん嬢ちゃん、元気だしてこーぜ!」
 こちらでは、山口 美智が自慢のおでんを配っている。
「わたくしに出来る事はこれくらいしかありませんけれど…、皆様の疲れが癒えますように…」
 と言って美智の手伝いをしているのは、ルイーシャ・ドミニカムだ。
 それぞれの疲れた体が癒えますようにと願いを込めながら、一人一人に暖かい椀を優しい笑顔で手渡していく。
 その場に大きな声が響いた。
「ほらほら、笑って笑って」
 ハンナだ。
「そんな怖い顔してたら、幸せが逃げちゃうよ」
 笑顔でみんなに言う。
「あたし達、後方支援部隊のみんなは、あたし達が勝利するって信じてる」
 見渡して更に言う。
「あたし達が信じてるのに、前戦に出てるあんた達が勝利を信じてなくてどうするのさ?」
 皆が自分達の顔を見渡す。
「辛い闘いでも笑っていようよ。未来に向かってさ。きっと勝利が待ってるよ」
 そう言って、ハンナが笑った。
 そうすると、自然とみんなの顔が笑顔になっていく。
 ハンナの笑顔の魔法にかかった様に。
 
 厳しい戦いが続いている。
 でも自分達は、大切な人と明日を迎える事を信じている。
 決して疑う事はない。
 今日がどんな辛い日でも、明日はきっと笑っていられる。
 負ける事など無い。
 絶対に。
 信じているから。

(担当ライター/冴原瑠璃丸)






<作戦結果>

達成点:90点
活動内容・役割分担は適切かつ現実的であり、十分にその役割を果たしたと考えられます。 (司令本部)






<登場人物>

トト  臥竜 理音  天野屋 リシュカ  神月 枢  相原 圭  リャナ  リディア・オルムランデ  ファーマ・シスト  森砂 美月  愛宕  ルウ  浅間 縁  椿  アレグラ  ガルム・カラム  フレイド・ギーナ  針上 小瑠璃  悠里  朝霞 須美  チヒロ・サギシマ  ジョシュア・フォルシウス  アンディ  轟 さつき  墺琵 綾姫  柊木 芳隆  セバスチャン・スワンボート  槌谷 悟郎  真船 恭一  光原 マルグリット  姫神楽 言祝  ゆき  フェルヴェルム・サザーランド  山口 美智  ルイーシャ・ドミニカム  ハンナ  (登場順)
※この部隊への参加者は56PCでした。





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