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<オープニング>
街にクリスマスソングが流れるようになった。 再びあらわれた白銀のイカロスと彼のもたらした情報は――そして先日の大騒動が、市民の気持ちに影を落としていないとは言えない。 しかしだからこそ、一方で、希望を求める話題に人々が敏くなっている面もある。 騒乱の中心になった綺羅星学園では、事件のせいで中止が危ぶまれていた文化祭が、時期をズラして行われることになったらしい。 そして……。
「『クリスマスツリーの森』! そうですよね!?」 梨奈は、弾んだ声をあげた。 銀幕市自然公園のかたすみにあらわれたのは、きらびやかに飾りつけられた『門』であった。空間型のムービーハザードであるらしく、『門』をのぞきこめば、その向こうにまったく別の世界が広がっている。 梨奈のように、もととなった映画を知るものが見れば、その正体はあきらかだった。 その空間は常に夜で、見渡す限り、お菓子やクリスマスオーナメントで飾り付けられたモミの木だけが立ち並んでいる。まさに、“クリスマスツリーの森”なのだ。星のまたたく夜空からはちらちらと雪が舞い、足もとは真っ白なパウダースノーが積もっているが、不思議と、寒すぎることがない。 「素敵〜。クリスマスツリーって、ひとつあるだけでもわくわくするのに、こんなにたくさんあったら、もうどうしていいかわからないくらい素敵ですよね♪」 梨奈はおそれもせず、門をくぐってツリーの森に足を踏み入れる。 ――と、そこで彼女は、ちいさなすすり泣きの声を聞く。 「あ!」 「……誰?」 ツリーの木陰で顔をあげたのは、誰が見てもいわゆるひとつの『雪だるま』であった。ただ、木炭の目から、ぽろり、ぽろりと氷の粒がこぼれている。 「『スノウマン』さん! そうでしょ? ……どうして泣いてるの?」 「ああ、お客さんか……。でもすみません。おもてなしはできません」 「どうして? 『クリスマスツリーの森』では、雪だるまのスノウマンさんたちが、やってきた人たちと遊んでくれるはずでしょ」 「でも……ボク一人しかいないから……」 しくしくと、雪だるまは泣いている。
「……というわけで、映画から実体化したのは森と――その『スノウマン1号』さんだけでした。本来、スノウマンはもっとたくさんいるそうなんですが。たったひとりであらわれてしまった1号さんがとても寂しそうなので、なんとかしてあげられないか、という話なんです」 植村は、市民たちにそう説明した。 緊急性のある依頼でもないし、市の命運や誰かの生命がかかっているというわけではないが……こんな時期だからこそ、こういう依頼を出したいのだ、と植村は言う。 「みなさんにお願いしたいのは『雪だるまをつくること』です。森の中央には、巨大なツリーが一本、そびえたっていますが、この木に祈りを捧げることで、森の魔法の力で、雪だるまに生命を吹き込むことができるそうです。つまり、スノウマン1号さんの友達を、つくってあげられるということですね。ツリーの魔法を発動させるためには『誰かに贈り物をしたい気持ち』が必要です。ですので、市主催の『プレゼント交換会』を合わせて行いたいと思います。みなさんは森で雪だるまをつくり、プレゼントを用意してきていただきたいんですよ。どうか、ご協力をお願いします」
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「こんなに雪が積もっているのに、寒くないんですね♪」 もこもこのダウンジャケットを着こんで現れた梨奈は、雪をすくいあげてぱあっと空中に投げ上げてみたり、ぱふっと雪の上に倒れこんで顔型を作ったりと、子供にかえったようにはしゃいでいる。 植村の……つまりは銀幕市役所からの要請でかけつけ、雪だるまを鋭意制作中の貴方は、そんな彼女の様子を苦笑まじりに見守る。 クリスマスの森でぽつねんと一人待つスノウマン1号のためにも、早く仲間を作ってやらなくてはと、貴方は熱心に手を動かしていた。 なにしろスノウマン1号が、貴方の手元を期待をこめて見つめているので、貴方としては手放しではしゃぐわけにはいかない。 だが、ここにいるだけでなんとなく心がうきうきしてくるのは否めない。 クリスマスツリーの森は、皆の心に不思議な作用をもたらすのかもしれなかった。 「ああ、いい感じです! こんな仲間がほしかったんです」 スノウマン1号は、やがて、貴方の手元で完成しつつある雪だるまを見てそう叫んだ。 「やっぱり、どことなく似ていますねえ」 スノウマン1号は、ほわんほわんとした足取りで近づき、貴方と雪だるまを見比べてそういう。 スノウマン1号の話によれば、命を吹き込まれた雪だるまは、性格もどこか作り主に似るのだという。 −−−−マジっすか。 やがて……銀幕市民によって作られた個性的な雪だるまたちが、ずらりと森の中心に並んだ。 けだし、壮観である。 「誰だ網タイツにマスカレードの女王様雪だるまなんて作ったヤツはぁ!?」 「……こっちのぁ、えらくマッチョだな、おい」 おどろに乱れた長い髪を振り乱したホラーな雪だるま、三度笠に道中合羽の渡世人風雪だるま等々、個性あふれる雪だるまも見受けられ、銀幕市民たちは、思い思いの感想を述べる。もちろん一番この森にふさわしい、普通の可愛らしい雪だるまもたくさん。 そして祈る。 雪だるまたちに命が吹き込まれ、もうスノウマン1号がさびしくないように囲んでやってくれと……
そして。 きらきらと、ビッグツリーの木から輝く光の粒が、皆の上に降り注いだように見えた。 次の瞬間、雪だるまたちは陽気な声をあげ、動き始めた。 「わちきはスノウマン●●号でありんす。ぬしさん、末永くよろしゅう」 「オッス、オラ、スノウマン●●号! オラなんだかワクワクしてきたぞ!」 「ミーはスノウマン●●●号ネ〜♪ トレビアーン」 森の中は急ににぎやかになる。 しかし、雪だるまたちが作り主たちの性格に似るというのは本当らしく、早くも回りの女性をナンパしまくってる雪だるまやら、プロレスに興じるマッチョ雪だるまやらもいたりして、いいのかアレは。 「よかったぁスノウマン1号さん♪ これでもうさびしくないですねっ」 梨奈はぴょんと雪の上で跳ねた。 ……ま、まあ、さびしくないことは確かだな、うん。
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種別名 | パーティシナリオ |
管理番号 | 859 |
クリエイター | 小田切沙穂(wusr2349) |
クリエイターコメント | こんばんは小田切沙穂です。スノーマン1号がさびしくないように、雪だるまの仲間を作ってあげてください。雪だるまは魔法で命を吹き込まれますが、作り主にどこかが似るようです。
!注意! このパーティーシナリオは「ボツあり」です。プレイングの内容によっては、ノベルで描写されないこともありますので、あらかじめご了承の上、ご参加下さい。 |
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