★ 【クリスマスツリーの森】スノウマン大行進! ★
<オープニング>

街にクリスマスソングが流れるようになった。
 再びあらわれた白銀のイカロスと彼のもたらした情報は――そして先日の大騒動が、市民の気持ちに影を落としていないとは言えない。
 しかしだからこそ、一方で、希望を求める話題に人々が敏くなっている面もある。
 騒乱の中心になった綺羅星学園では、事件のせいで中止が危ぶまれていた文化祭が、時期をズラして行われることになったらしい。
 そして……。

「『クリスマスツリーの森』! そうですよね!?」
 梨奈は、弾んだ声をあげた。
 銀幕市自然公園のかたすみにあらわれたのは、きらびやかに飾りつけられた『門』であった。空間型のムービーハザードであるらしく、『門』をのぞきこめば、その向こうにまったく別の世界が広がっている。
 梨奈のように、もととなった映画を知るものが見れば、その正体はあきらかだった。
 その空間は常に夜で、見渡す限り、お菓子やクリスマスオーナメントで飾り付けられたモミの木だけが立ち並んでいる。まさに、“クリスマスツリーの森”なのだ。星のまたたく夜空からはちらちらと雪が舞い、足もとは真っ白なパウダースノーが積もっているが、不思議と、寒すぎることがない。
「素敵〜。クリスマスツリーって、ひとつあるだけでもわくわくするのに、こんなにたくさんあったら、もうどうしていいかわからないくらい素敵ですよね♪」
 梨奈はおそれもせず、門をくぐってツリーの森に足を踏み入れる。
 ――と、そこで彼女は、ちいさなすすり泣きの声を聞く。
「あ!」
「……誰?」
 ツリーの木陰で顔をあげたのは、誰が見てもいわゆるひとつの『雪だるま』であった。ただ、木炭の目から、ぽろり、ぽろりと氷の粒がこぼれている。
「『スノウマン』さん! そうでしょ? ……どうして泣いてるの?」
「ああ、お客さんか……。でもすみません。おもてなしはできません」
「どうして? 『クリスマスツリーの森』では、雪だるまのスノウマンさんたちが、やってきた人たちと遊んでくれるはずでしょ」
「でも……ボク一人しかいないから……」
 しくしくと、雪だるまは泣いている。

「……というわけで、映画から実体化したのは森と――その『スノウマン1号』さんだけでした。本来、スノウマンはもっとたくさんいるそうなんですが。たったひとりであらわれてしまった1号さんがとても寂しそうなので、なんとかしてあげられないか、という話なんです」
 植村は、市民たちにそう説明した。
 緊急性のある依頼でもないし、市の命運や誰かの生命がかかっているというわけではないが……こんな時期だからこそ、こういう依頼を出したいのだ、と植村は言う。
「みなさんにお願いしたいのは『雪だるまをつくること』です。森の中央には、巨大なツリーが一本、そびえたっていますが、この木に祈りを捧げることで、森の魔法の力で、雪だるまに生命を吹き込むことができるそうです。つまり、スノウマン1号さんの友達を、つくってあげられるということですね。ツリーの魔法を発動させるためには『誰かに贈り物をしたい気持ち』が必要です。ですので、市主催の『プレゼント交換会』を合わせて行いたいと思います。みなさんは森で雪だるまをつくり、プレゼントを用意してきていただきたいんですよ。どうか、ご協力をお願いします」

 ◆

「こんなに雪が積もっているのに、寒くないんですね♪」
 もこもこのダウンジャケットを着こんで現れた梨奈は、雪をすくいあげてぱあっと空中に投げ上げてみたり、ぱふっと雪の上に倒れこんで顔型を作ったりと、子供にかえったようにはしゃいでいる。
 植村の……つまりは銀幕市役所からの要請でかけつけ、雪だるまを鋭意制作中の貴方は、そんな彼女の様子を苦笑まじりに見守る。
 クリスマスの森でぽつねんと一人待つスノウマン1号のためにも、早く仲間を作ってやらなくてはと、貴方は熱心に手を動かしていた。
 なにしろスノウマン1号が、貴方の手元を期待をこめて見つめているので、貴方としては手放しではしゃぐわけにはいかない。
 だが、ここにいるだけでなんとなく心がうきうきしてくるのは否めない。
 クリスマスツリーの森は、皆の心に不思議な作用をもたらすのかもしれなかった。
「ああ、いい感じです! こんな仲間がほしかったんです」
 スノウマン1号は、やがて、貴方の手元で完成しつつある雪だるまを見てそう叫んだ。
「やっぱり、どことなく似ていますねえ」
 スノウマン1号は、ほわんほわんとした足取りで近づき、貴方と雪だるまを見比べてそういう。
 スノウマン1号の話によれば、命を吹き込まれた雪だるまは、性格もどこか作り主に似るのだという。
 −−−−マジっすか。
 やがて……銀幕市民によって作られた個性的な雪だるまたちが、ずらりと森の中心に並んだ。
 けだし、壮観である。
「誰だ網タイツにマスカレードの女王様雪だるまなんて作ったヤツはぁ!?」
「……こっちのぁ、えらくマッチョだな、おい」
 おどろに乱れた長い髪を振り乱したホラーな雪だるま、三度笠に道中合羽の渡世人風雪だるま等々、個性あふれる雪だるまも見受けられ、銀幕市民たちは、思い思いの感想を述べる。もちろん一番この森にふさわしい、普通の可愛らしい雪だるまもたくさん。
 そして祈る。
 雪だるまたちに命が吹き込まれ、もうスノウマン1号がさびしくないように囲んでやってくれと……

 そして。
 きらきらと、ビッグツリーの木から輝く光の粒が、皆の上に降り注いだように見えた。
 次の瞬間、雪だるまたちは陽気な声をあげ、動き始めた。
「わちきはスノウマン●●号でありんす。ぬしさん、末永くよろしゅう」
「オッス、オラ、スノウマン●●号! オラなんだかワクワクしてきたぞ!」
「ミーはスノウマン●●●号ネ〜♪ トレビアーン」
 森の中は急ににぎやかになる。
 しかし、雪だるまたちが作り主たちの性格に似るというのは本当らしく、早くも回りの女性をナンパしまくってる雪だるまやら、プロレスに興じるマッチョ雪だるまやらもいたりして、いいのかアレは。
「よかったぁスノウマン1号さん♪ これでもうさびしくないですねっ」
 梨奈はぴょんと雪の上で跳ねた。
 ……ま、まあ、さびしくないことは確かだな、うん。


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!お願い!
このシナリオに参加される方は他の【クリスマスツリーの森】パーティーシナリオへの参加はご遠慮下さい。
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種別名パーティシナリオ 管理番号859
クリエイター小田切沙穂(wusr2349)
クリエイターコメントこんばんは小田切沙穂です。スノーマン1号がさびしくないように、雪だるまの仲間を作ってあげてください。雪だるまは魔法で命を吹き込まれますが、作り主にどこかが似るようです。


!注意!
このパーティーシナリオは「ボツあり」です。プレイングの内容によっては、ノベルで描写されないこともありますので、あらかじめご了承の上、ご参加下さい。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
レオ・ガレジスタ(cbfb6014) ムービースター 男 23歳 機械整備士
ウィズ(cwtu1362) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
新倉 聡(cvbh3485) エキストラ 男 36歳 サラリーマン
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
ネティー・バユンデュ(cwuv5531) ムービースター 女 28歳 ラテラン星親善大使
リョウ・セレスタイト(cxdm4987) ムービースター 男 33歳 DP警官
二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
エドガー・ウォレス(crww6933) ムービースター 男 47歳 DP警官
吾妻 宗主(cvsn1152) ムービーファン 男 28歳 美大生
フェイファー(cvfh3567) ムービースター 男 28歳 天使
サキ(cbyt2676) ムービースター 女 18歳 ヴァイオリン奏者
ディーファ・クァイエル(ccmv2892) ムービースター 男 15歳 研究者助手
刀冴(cscd9567) ムービースター 男 35歳 将軍、剣士
十狼(cemp1875) ムービースター 男 30歳 刀冴の守役、戦闘狂
イェータ・グラディウス(cwwv6091) エキストラ 男 36歳 White Dragon隊員
エディ・クラーク(czwx2833) ムービースター 男 23歳 ダンサー
晦(chzu4569) ムービースター 男 27歳 稲荷神
朔月(cwpp5160) ムービースター 男 47歳 稲荷神
片山 瑠意(cfzb9537) ムービーファン 男 26歳 歌手/俳優
理月(cazh7597) ムービースター 男 32歳 傭兵
月下部 理晨(cxwx5115) ムービーファン 男 37歳 俳優兼傭兵
ヴァールハイト(cewu4998) エキストラ 男 27歳 俳優
大教授ラーゴ(cspd4441) ムービースター その他 25歳 地球侵略軍幹部
流鏑馬 明日(cdyx1046) ムービーファン 女 19歳 刑事
マイク・ランバス(cxsp8596) ムービースター 男 42歳 牧師
三月 薺(cuhu9939) ムービーファン 女 18歳 専門学校生
七海 遥(crvy7296) ムービーファン 女 16歳 高校生
レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
トト(cbax8839) ムービースター その他 12歳 金魚使い
<ノベル>

「こんなに雪が積もっているのに、寒くないんですね♪」
 もこもこのダウンジャケットを着こんで現れた梨奈は、雪をすくいあげてぱあっと空中に投げ上げてみたり、ぱふっと雪の上に倒れこんで顔型を作ったりと、子供にかえったようにはしゃいでいる。
 植村の……つまりは銀幕市役所からの要請でかけつけ、雪だるまを鋭意制作中の銀幕市民たちは、そんな彼女の様子を苦笑まじりに見守る。
 中でも、クリスマスの森でぽつねんと一人待つスノウマン1号のためにも、早く仲間を作ってやらなくてはと、最初に駆けつけた太助は懸命に手を動かしていた。
「任せろ、すっげぇのをつくってやっかんな!」
 と、立て続けに自分に似たまるっこい小柄な雪だるまを5体ほどこしらえていた太助だが、しまいに肉球がかじかんで来たらしく、しきりにはあっと手……というか前足に息を吹きかけている。クリスマスの森自体はさほど寒くないとはいえ、雪に長時間触れていればやはり手足は冷える。
「あ、あの……無理しないでくださいね」
 スノウマン1号はすまなそうに声をかける。
「心配すんな! 俺、こんなのも作れるぞ、どだ?」
 かっぽんかっぽんと丼を伏せてはまるく型を抜き、雪うさぎを作成。南天の実で赤い眼を、笹の葉で耳を表現しているのは野育ちならではの知恵というところか。
「ああ、いいですね! ボク、ペットってほしかったんです」
 スノウマン1号は嬉しそうに声をあげ、続いて傍で雪だるまっぽい何かを作成していたエドガー・ウォレスに顔を向けた。
「あの……エドガーさんの作ってるソレもかわいいですよね、えーとそれは……何の動物ですか?」
 と、スノウマン1号が首をかしげて質問するのも無理はない。一応ネコミミっぽいものが頭に付いているし、ネコひげを模したらしき樅の小枝が頬部両側に挿されているのだが、見ようによってはタヌキ、いやもしかすると「これは柴犬だ」とエドガーが眉間にしわを寄せて主張しようものならそう見えなくもない微妙な仕上がりである。
「何って、これはネコだよ。ちょっと変わったのを作ろうと思ってネコっぽい顔にしてみたんだけど、どうかな?」
「や、やっぱりネコですよね! 絶対ネコだと思ってましたとも!」
 と気を遣うスノウマン1号。
「……だよな? そっちはスタンダードな形にしてみたんだ。こっちも結構いい出来だと思うよ?」
 な? ともうひとつの雪像を指さされ、これまた微妙なブツなのでスノウマン1号は返事に困る。
 そんなスノウマン1号を救ったのは、レオ・ガレジスタだ。
 うぃ〜〜ん
 と、一人乗りのユンボを操って登場したレオは、
「雪だるまつくりに来たよ〜。せっかくだから大きい方がいいよね?」
「大きい仲間も小さい仲間も、とにかくたくさんのいろんな仲間がいいです〜!」
 スノウマン1号、ユンボを見上げてうれしそうに叫ぶ。
「おしきた、僕はおっきい雪だるまつくるから待っててね!」
 自然ってやつはすごいなと、無邪気に目を輝かせているレオの心は、ある意味スノウマン1号にとても近いのかもしれない。
 出来上がった巨漢雪だるまの目にはナット、鼻にはボルト、口にはスパナをつけて完成。
「がっしりしてて、お父さん雪だるまって感じですね♪」
 興味津津の表情で、皆の雪だるまを見物して回っていた梨奈がそう感想を述べた。
 そんな梨奈だが、流鏑馬明日が鋭意作成中の雪だるまを目にして一瞬固まった。
「…………お手伝いしましょうか?」
 遠慮がちに声をかける。
 さらりと流れる黒髪のクールビューティー明日が作っているのは、長い耳が頭の上に突き出てるところから、どうやらウサギっぽいなと推測される、「何か」。口か目を彩るはずだったとおぼしい赤い色粉が溶け流れてウサギのゾンビといいたいような仕上がりになってはいるが。明日は首をかしげ、
「そうね、手伝ってもらうとしたら口のあたりね。真剣に作ったのだけれど、この辺が、少し違ったかしら……」
「あ……っていうか、全体的に直した方が……あっあの決して、へたってことじゃなくて」
 梨奈、フォローに務めるが失敗したっぽい。
「…………全体的に? ……そうかしら……」
 やっぱり失敗した?と自作を見つめなおす明日に、
「あっあの、ウサギの耳はついてるけどどこかでウサギになりそこねたみたいな気がして……」
 梨奈、さらに上塗り。そんなに不味い出来かしらと明日の美しい顔が曇る。あわてて梨奈は言葉を継いだ。
「あのっもしかしたらウサギじゃなくてウサギ型エイリアンが作りたかったんですよね?」
 もういい、それ以上喋るな、梨奈……。
 ◆
 
 何やら喧嘩しながら雪だるまを作っている、恋人同士みたいな二人がいる。
「アオイちゃん、寒くない?寒くない?ホントに大丈夫?ホラ、おいでってば。暖めてあげるから」
「寒くないって、大丈夫だって! 少し落ち着いてよ。あーもう雪だるま作れないじゃん」
 しきりに肩を抱きしめようとしたり、背後から抱きすくめようとする男と、頬を染めつつそんな彼をぶんぶんと腕を振り回して……だが、そんなに乱暴でも厭そうでもなく振り払っている少女。
 ちりんちりん。
 自転車が二人の脇にやってきて止まった。
 「銀幕市役所」と書かれた黒い腕章をした若い男がメガホン片手に降りてくる。若い男はメガホンで怒鳴った。
「お二人さーん! ラブラブなのは結構ですが、まもなくビッグツリーに祈り、雪だるま達に命を与える時刻ですよ〜〜。 ったくクリスマスはどこもかしこもカップルばっかでブツブツ」
 どうやら、市の一大イベントとなるクリスマスの森の行事進行を任された市役所員らしい。
「違うのっ! あたし達親子だから」
 少女……新倉アオイが主張し、若い市役所員は目を見張る。アオイの父親、
新倉聡はアオイの恋人はおろか、兄といっても不自然でないほどに若く見えたのだ。
「あっ……しっつれいしました。ともかく時間ですから、少し急いで雪だるまの仕上げ、お願いしますね」
 若い男はぺこぺこ頭を下げると、また自転車に乗りメガホン片手にアナウンスしつつ走り出す。
「もうっ、お父さんがくっつくからまた間違えられた」
 アオイが聡を睨んだとき、
「アオイちゃーん」
 と元気よく二階堂 美樹が近付いてきた。
「美樹さんも来てたんだ」
「これ作ったの」
 美樹が嬉しそうに見せるのは、ふた昔ばかり前の少女漫画の美少年の目や唇などのパーツを切り抜いて貼り付けた、ミスマッチ全開の雪だるま。
「え……福笑い?」
 しばらく固まっていたアオイはかの伝統的遊びを連想したらしい。
「違う!! さわやかなお兄さん雪だるまを目指したの!」
 コメントに詰まったアオイに、美樹はこの乙女的美学がわからんのかと言わんばかりに唇を尖らせた。ご丁寧に美樹の雪だるまには、薔薇の花束を背負わせてあり、手にはテニスラケットを挿している。「強くなれ、岡!」とかいいながら鬼特訓をしてくれそうな気がせんでもない。
 だが、美樹の美学を解る奴はおそらくそう多くあるまい。
「雪だるま作成中の皆様、お急ぎください。まもなくビッグツリー周辺に集合し、祈り……あきゃ!?」
 アナウンスしつつ歩き回っていた市役所員は、ずぼぼぼと飛び交う雪に巻き込まれ、積もった雪の中に沈んだ。
「あ……悪りィけど、そこ離れといた方がいいぜ」
 と、十狼の傍で寄り添うようにして雪像を固めていた片山 瑠意が苦笑交じりの声をかけた。
 雪だるま、というよりは、超絶リアルな雪像作成中の十狼も振り返り苦笑する。十狼の天人の血ゆえに、雪が彼の手元に勝手に集まり凝集してゆく。その渦中に市役所員は巻き込まれたようだった。
 もがもがと雪を払いつつ起き上った市役所員は十狼の精緻な芸術作品といえそうな作品にいちゃもんをつけた。
「スノウマン1号の仲間なんですから、もうちょっとシンプルな顔でいいと思いますよ」
「そうなのか? 面倒なものだのう……いや、そもそもこのような遊びごとに出るつもりなど毛頭なかったのだが、全く若は、十狼の都合なぞ考えても下さらぬのですからな……」
 十狼のそばでスコップを豪快にふるってキングサイズの雪だるまを作っていた刀冴が十狼の困り顔に陽気な笑い声をあげた。
「とかなんとか言って、楽しいくせに」
 刀冴のいうのも無理からぬ様子で、十狼は紫のバケツをかぶり紫の玉を目にはめこんだ、雪だるまの幽霊といった雰囲気のゆがんだ雪像を懸命に作っている瑠意に手を貸していた。
 刀冴の傍らでは、理月が夢中で雪だるまを固めている。
 雪だるまの目玉を金色のビー玉にし、顔の左半面に松葉を貼り付け、手の代わりにサバイバルナイフを挿し、お尻の部分に毛糸で作った狸の尻尾をつけた不思議な形の雪だるまである。
「よし、いい出来だ」
 仕上げに自分のに似た青いマフラーを巻いてやり、にっこり。
 また一方、まったりと童心に帰り遊ぶ三十路のイケメンコンビ、イェータ・グラディウス&月下部 理晨がいて。もうひとり傍にいる、ヴァールハイトはスーツ姿で黙々と雪だるまを作っており、実にシュールな一場面となっている。
 −−−いや、そもそも理月と月下部 理晨が並んで雪だるまを作ってる光景自体、すでにかなりシュールかもしれないが。
 ともあれイェータと彼は理晨に無理やり連れてこられたらしく時折顔を見合せては理晨のはしゃぎぶりにため息をついているが、イェータは意外に楽しそう。
「三十路超えて雪遊びかよ、ったく」などと言いつつも、理晨が、
「ま、今回のは雪だるまに仲間作ってやるってんだから、人助けみたいなもんじゃね?」
 と言えば、
「ま、一人ぼっちってのは気の毒だよな、確かに」
 指先で雪の感触を楽しむように、雪像を作ってゆく。
 せっかくだからお揃いにしようと、仕上げに自分の三つ編みに巻いてある赤い布を頭に巻いてやる。
 理晨はその有り余る体力でばしばしと雪を集めて固めた、自身の同じくらい長身でしっかりした体つきの雪だるまを作りあげ、
「よし、おまえの名前はヴァールハイトな!」
 と命名。
 理晨の恋人たるヴァールハイトは複雑な表情をしている。イェータも同様だ。
「……俺に全く似ていないぞ」
「つか、なんで雪だるまに恋人の名前つけんだよ?」
 理晨はしかしご機嫌で、雪だるまヴァールハイトをひと撫でし、ビッグツリーの根元に安置する。両隣りにイェータとヴァールハイトの作品が並んだ。ヴァールハイトは、とある超高級ブランドのマフラーを惜しげもなく雪だるまに巻いてやっている。
「い……いいんですか、マフラー」
 通りがかった市役所員が息をのむが、当人は涼しい顔だ。
「寒さには慣れている」
 …………違うんですが。
 

「そろそろ皆さん出来上がってるみたいですよ。急いで急いで!」
 ようやっと形ができかけた段階の梨奈は、市役所員にせかされて溜息をついた。
「ふえ〜ん、時間が足りないですぅ」
「お手伝いしましょうか?」
 マイク・ランバスがいつもの柔和な微笑みをたたえて近づいてくる。
「ありがとうございます♪」
 たちまちオーソドックスなまるっこい雪だるまが出来上がり、梨奈は安堵の笑顔を浮かべた。梨奈は雪だるまに玩具の金髪カツラをかぶせ、おもちゃのアーチェリーを持たせて、ハート模様のマフラーを付けてやる。
「名づけて恋のキューピッド雪だるまです!」
「皆さ〜ん、時刻です。雪だるまを作られた皆様は、雪だるまを持って、ビッグツリー周辺に御集りください」
 市役所員のアナウンスが響き渡る。
 ビッグツリー周辺で雪だるまを作っていた市民も多かったが、離れた場所で雪だるまを作っていた銀幕市民たちもそれぞれの雪だるまを抱えてあるいは押して、ツリーの木の周辺に集まってくる。
「おっ、あちこちで、面白い雪だるまができているね」
 自作の目と鼻に消し炭を挿しこんだ欧米式の3段雪だるまを抱えたエディ・クラークが青い瞳を輝かせた。
 けだし、壮観である。
 見た目も様々に個性的な人々が、これまた個性的な雪だるまを抱えて期待を込めて待ちわびていたスノウマン1号を取り囲む。
「皆さん……本当にありがとうございます。僕だけじゃなく、皆さんも、いつもたくさんの仲間が温かく囲まれていますように……それが僕の祈りです。皆さんも一緒に祈ってくださいね」
 
 ◆
(「俺が西洋風に祈るとは、妙なものだが……」)
 蓬髪にきらめく雪をまとわせて、清本 橋三も祈る。腰に木の枝の刀を挿し、彼によく似た彫りの深い顔立ちをした雪だるまが傍らにいる。
 リョウ・セレスタイトは雪だるまというより女神のごとき雪像を作り上げ、周囲の注目を浴びていた。
「イイ女だねぇ」
 遊び気分で頬にキス。もちろん戯れで、一瞬唇がかすめる程度の軽いもの。
 ところが次の瞬間。
「あン、もう終わりなの?」
 雪像がつやっぽい声をあげ、拗ねたように身をくねらせたのでリョウは目を丸くする。
「あなたが私を作ってくれたの? せっかくだから、私と同じくらい美形の雪像の男性を探してこようかしら」
 蒼いバラのティアラを戴いた女神像は、なんともセクシーな笑みを浮かべて周囲の、これまた生命をもち動き出した雪だるま達にウィンクを送る。
「ん、いいんじゃない? 積極的な女性も可愛いね」
 頑張ってこいとリョウも軽く手を振って送り出す。
 一方、橋三の雪だるまはなぜかどこからともなく現れた、ちょんまげを付けた雪だるまに枝の刀で切りかかられている。
「貴様、由井正雪の残党(『雪』だるまだから)と見た! とりゃ〜〜!」
 作り主たる橋三の存在を反映してか、すっぱり切られてしまう。そのたびもくもくと作り直すのだが、やっぱりなぜだか斬られてしまうのであった。
「貴様、立花道雪の残党(『雪』だるまだから)と見た! とりゃ〜〜〜!」
「及ばずながらご助勢!」
 橋三も加勢するが、いかんせん斬られ属性があるためか、彼も雪だるまたちに木の枝の刀でばしばし斬られているのだった。ある意味ものすごく人&雪一体となって盛り上がっている。
 かと思えば、いきなり商売を始めた雪だるまがいたり。
「クリスマスの記念に、海賊雪だるまと記念撮影なんてどうですか〜? お安くしておきますよv」
 海賊帽をかぶり、おもちゃのサーベルを腰にさした雪だるまが客引きを始めた。
 そばで作り主のウィズが、
「ちょ、オレそっくりだし!」
 と頭を抱え、周囲は暖かい笑いに包まれる。ウィズの雪だるま、なかなかにハンサムにできているがとにかく良く喋る。
 スノウマン1号は嬉しそうに、新しく命をもった雪だるまたち一体一体と握手したり話しかけたりして回っている。
 刀冴の大きな雪だるまはスノウマン1号を抱き上げてよしよし♪してやっている。
「これで寂しくねぇだろ、なァ?」
 刀冴は満足げだ。
「お友達百人できるといいねっ」
 トトは雪兎や雪金魚など、小型の雪だるまをいっぱい引き連れてきて、スノウマン1号を喜ばせた。
「お友達がいないのは、つらいよね…。すのうまんいちごうがさみしくなくなるように、ボクもがんばる!」
「わあ……かわいいなあ!」
 スノウマン1号、雪うさぎや雪ねこなどに囲まれて、嬉しそうにウィズの商売上手な雪だるまと記念撮影に収まった。
 三月 薺はうさぎっぽい形をした雪だるまを引き連れてスノウマン1号に手袋をプレゼント。
 そんななごやかな光景の中、一体の爆乳雪だるまが淡々ととんでもないことをお語りになってたり。
「雪像を兵力化することができたなら、地球征服も可能であろうに……そう、太陽の熱核融合を停止させ地球上を急速に寒冷化し……」
 周囲ドン引き。 
「ラーゴ、良い子にしろ! あっちで遊べ!」
 爆乳雪だるまの主、大教授ラーゴはそっくりな自作の雪だるまともども、お気に入りのアレグラに叱られるのであった。
「まあまあ、こういう場所ですから争いはやめましょう」
 マイク・ランバスが仲裁に入る。そしてマイクは、
「これは、私から……」
 と、毛糸のボンボン付帽子をスノウマン1号にプレゼント。
「この空間と出会いを作ってくれた貴方へ、感謝を込めて」
 との言葉が添えられていて、
「いいんですか? こんな素敵な……感謝したいのは、ボクのほうなのに……」
 しんみりするスノウマン1号をアレグラが遊びに誘う。
「お前、元気見せるしろ!」
「お前も見せるしろ!」
 と、アレグラ作の雪だるまも元気いっぱいだ。
 朔月は息子の晦に、自作の息子そっくりなキツネ雪だるまを見られまいとしていたのだが、雪だるまが動き出し勝手な場所へ行こうとするので、慌てて叱り飛ばしている。
「こっこら、勝手な真似をすな!」
 晦はといえば、父親が雪像を見せてくれないのでふてくされてどこかへ行ってしまった様子。
 数珠を首に下げた、キツネ耳のある雪だるまがスノウマン1号に一生懸命かごめかごめなどの昔遊びを教えているのだが、朔月が気づくのはいつのことやら。
「ちゃうちゃう、鬼はじゃんけんで負けた方や」
 その世話焼きな口調など、晦そっくりなのだが。
 小さな雪だるまや、雪だるま見物に来た子供たちが レオ・ガレジスタの大きな雪だるまによじのぼって歓声をあげたりと、クリスマスツリーの森はにぎやかになる一方。
 そんな喧騒から一人離れた場所に身を置いて、冷静に観察しているのはネティー・バユンデュである。
「雪という物質は地球人に特別な影響力を及ぼすようですね」
 自己抑制に優れたラテラン星人たる彼女も、その彼女の手になる雪だるまも、クリスマスという事象について、論理的解析を試みるのが最優先となり、にぎやかに遊ぶ周囲からはどうも浮いている。
 と、そんな彼女と雪だるまのところへ、もこもこと4体の雪だるまが現れた。
「メリー・クリスマス」
 吾妻 宗主に似た声が言った。
「おまえ、ノリ悪りぃぜ」
 フェイファーに似た声が言う。
「行きましょう、ネティ様」
 サキに似た声。
「皆が待っていますよ」
 ディーファ・クァイエルに似た声。
 ネティと雪だるまがビッグツリーの傍によると、いきなり雪つぶてが飛んできた。
「……!」
 冷たいけれど、痛くはない。
 何の意味があってこんなものをぶつけるのかと訝しさと非難の目で振り返ると、これが雪投げという遊びなのだと吾妻達が笑いながら教えてくれた。
 これも異文化体験とネティも加わり、サキははしゃいでコートを翻しながら雪つぶてを避けて走った。
「冬のしゃんとする空気は大好き。寒いけど大切な人達と一緒に過せるのが凄く嬉しいわ」
「少し、指が痛くなりますけどね」
 ディーファも雪だるまづくりで冷え過ぎた指をさすりながら同意した。

「あっ、エドガー・ウォレスさん! サインください!」
 七海遥はバッキー型の雪だるまを引き連れ、周囲のムービースターたちにサインをねだって回っている。しかも、ムービースターとその手になる雪だるまに同じページにサインをもらうのだから結構ちゃっかりしているかもしれない。まず最初のページにスノウマン1号にサインしてもらった。
 彼女のキラキラ目に負けてペンを執るスターたちも多かったが。
 遥と同世代に見える見物客の女子高生たちが「きみょ可愛い」としきりに携帯写真を撮りたがるのは流鏑馬明日の不気味ウサギとエドガーの微妙ネコ。
 互いの微妙さが親近感を誘うのか、二体はなんだか意気投合してたり。
「うさ? うさうさうさっうさ」
「……う”にゃー……」
 こ、怖えー(酷)。
 斬られっぱなしの清本橋三&雪だるまコンビのサイン(サインした瞬間にまた斬られたため、血しぶき&雪しぶき付)も遥のコレクションに並んだ。
 魔女っ子帽子の少女雪だるまは伝説のゴスロリ美少女うさぎ・レモンの作だ。
 作ったレモンは、
「まあリャナちゃんそっくり♪ あたし自分の才能が恐ろしいわ」
 と悦に入ってますが、魔女っ子雪だるまはそんな作り主をよそに他所様の雪だるまにタックルをかましていたりする。
「ちょえー!」
「きゃああ!」
 製造物責任はどうなっておるのやら。
 そんな阿鼻叫喚(ヲイ)の雪景色をよそに、クリスマスツリーの森のどこかでは、ピクニックパーティーが始まったようだ。いい香りが漂い、ココアケーキや和風ローストチキンやスパイシーなカレーなどの差し入れが来たと歓声が上がる。
 皆が雪だるま達と共に思い思いの飲み物で乾杯したころ……
 ばらばらと皆の頭上に、空中から鮮やかな包みが降ってきた。
「メリー・クリスマス!」
 空飛ぶトナカイと、そこに乗った美女&美少女サンタ、男性サンタが声を投げかける。
「……あ。いつもうちの庭の草勝手に食べてくトナカイ」
 アオイが呟いた。

 賑やかな人&雪だるまの中心にいるスノウマン1号は常に幸せそうな銀色に輝いていたという……

 ちなみにスノウマン9号ことリョウ・セレスタイトの雪女神は雑誌のグラビアを飾ったとか、スノウマン5号こと二階堂美樹のコーチ雪だるまはさわやかにネットをひらりと飛び越えてたとか、スノウマン8号ことエドガー・ウォレス作の微妙ゆるキャラな雪だるまのストラップが発売されるらしいとか、数々の伝説が生まれた。
 そして……
「あれ〜? どこに行っちゃったの、あたしの雪だるま……」
 そのころ常木梨奈は、自身の作った雪だるまが行方不明になってしまい、不思議そうに首をかしげていた。
 この雪だるまがどこへ行ったのか、そしてその間何をしていたのかは、また別の話。

クリエイターコメントもぉPCさんとか雪だるまとか雪だるまを超越した雪像とか入り乱れて楽しかったです。ってお前が一番楽しんでどうすんだコラ。というお叱りは甘んじて受けますが楽しいんだもんと開き直らせていただきます(ヲイ)。ともあれスノウマン1号は皆様のおかげでにぎやかに楽しくお友達たくさんになれたです。
なのなの♪
公開日時2008-12-24(水) 18:00
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