★ 【女神祀典】エスターテの輝波祭 ★
<オープニング>

 もうじき八月も終わろうという日のことだ。
 星砂海岸には、今日も、強い、しかし最盛期ほどではない日差しが照りつけ、白い砂をじりじりと焼いている。
「そうか、では、姉さまによくしてくださったというのは、貴殿らか」
 燃えるような赤毛と南国の海のように鮮やかな蒼の眼、健康的な褐色の肌の、背の高い、眼差しの強い、凜と美しい女がそう言うのへ、レーギーナは微笑んで首を横に振った。
「よくしてくださったのは、あなたのお姉さまよ、エスターテさん。プリマヴェーラさんは、お元気かしら?」
「ああ、息災であらせられる。お陰で、わたくしもこうして外へ出てくることが出来ようというものだ」
 季節を司る四女神のうちの一柱、“青き大地の娘”プリマヴェーラは、数ヶ月ほど前にこの銀幕市に実体化し、銀幕市の個性的な面々と賑やかで和やかな茶会を繰り広げた春の体現だったが、今、レーギーナの傍らに立つ女は、その『妹』であり、夏を司る“赤き太陽の娘”なのだった。
 エスターテの方が外見的には五つほど年上に見えるが、この街において外見年齢ほど不確かなものはない。
 彼女らは個別の神性を司りながら同一の存在であるため、同時に四柱が顕れることは出来ないらしいが、それぞれの女神の記憶は、全員に引き継がれているのだという。
「ふふふ、あの祭は、確かに楽しそうだったな」
 満開の花に彩られた公園で行われ、穏やかに幕を閉じたお茶会を思い出したのか、エスターテがくすくすと笑う。
「あら……では、エスターテさんも何か開かれてはいかが?」
「姉さまのようにか? しかしわたくしはご覧の通り、華やかさなどとはほど遠い女だ。姉さまのような、和やかな茶会などは出来ぬ」
 夏の女神が苦笑とともに言うように、彼女は、かっちりとした男物の衣装に身を包み、腰には剣を佩いている。夏の暑さ、激しさを擬人化した女神だからだろうか。
 レーギーナはにっこりと笑った。
「大丈夫よ、この町の人たちは、皆、お祭ならば何でも楽しんでしまわれるもの」
「……ふむ?」
「例えば、誰が一番美しいかを決めるお祭だとか。……男女の区別なく」
「ああ、それは、噂の、美★チェンジというヤツか。確かに楽しそうだな。殿方の阿鼻叫喚なんぞが」
「ええ、とても楽しいわよ、皆さん本当に可愛らしくなるのですもの。……そうね、もしくは、一位を目指して力試しをするだとか」
「それはいいな!」
 レーギーナが言うと、エスターテが満面の笑みを浮かべた。
「わたくしは強い者が好きだ。男でも女でも、それ以外でも。志ある者が、勝利を目指して邁進する様には胸が打ち震える。――そうだな、許されるのなら、ここでもそのような熱き物語を見てみたい」
「あら、楽しそう。でも、一対一だと収拾がつかないかもしれないから、チーム戦はどうかしら?」
「ほほう。それも楽しそうだな。確かに、団体には団体の難しさ、面白味がある」
「そうね、自分だけで戦うわけではないのですもの。絆が大切になってくるわよね」
「だが、無論、戦わぬものもいるだろうな」
「そうね、その方々には、戦いの応援をしていただいたり、海辺でのお茶会に参加していただこうかしら。観客が多ければ、戦いも白熱するでしょうから。ああ、中には、屋台という、可愛らしいお店を出す方がおられても、楽しいでしょうね」
「ふむ、では、そのように準備するとしよう。――ああ、勝者にはこれを」
 言った彼女が掌を開くと、そこに青い清冽な光が凝った。
 青い光はゆっくりと渦巻き、いつの間にか、夏の海を思わせる鮮やかな蒼い石で出来た、繊細な彫刻の施されたリングに変化する。
「エスターテの指輪は勝者のための揺るぎない祝福だ。勝者が、勝者の愛するものを守れるよう、ほんのわずか力を貸す」
「素敵ね。美しい青だわ」
「ああ、夏の熱と美を凝縮した、エネルギーの塊だ。これが、真に強き者の手に渡るよう、心から願っている」
 そんな、エスターテの願いを受けて、急遽星砂海岸に会場が設けられることとなった次第である。



 三日後、強く照りつける太陽の下、その催しは行われた。
 メインは、何名かで――ひとりでも問題ないと言う猛者はひとりで参加してもよいようだ――チームを作り、優勝を目指して戦うというもので、ルールは簡単、『姫』の被る小さなティアラを奪い合うのだ。
 最後までティアラを奪われずに残ったチームが勝者になる。
 チームのメンバーは、『姫』を守りながら、他のチームを蹴散らし、敵軍の『姫』からティアラを奪ってゆくことになる。
 ちなみに男であろうが女であろうが、『姫』である。
 殿方が姫君の出で立ちをしても問題ないらしい。
 ――というところに、女王と非情な仲間たちの目論見が垣間見える。
 他にも様々な催しがあって、商売人たちがめいめいに自分たちの品物を売り、あちこちに魅力的な食べ物の屋台が建ち並び、白い砂の上に木製のテーブルとチェアとを広げて、『楽園』の出張店舗も営業している。
 熱い戦いを応援するもの、屋台の美味に舌鼓を打つもの、あちこちで忙しく立ち働くもの、エスターテの眷属である夏の海の生き物たちと戯れるものもいる。
 とても賑やかな空間がそこには広がっていた。
「厳しい夏とて、ふと気づけば遠ざかっている。季節などというものは、本当に一瞬の、あっという間に過ぎ行くものに過すぎぬ。だからこそこの熱を、ほんのわずかでも、胸の奥に留めおいてほしい」
 エスターテの言葉に、彼女の近くにいた人々が頷く。
 過ぎ行く季節を全身全霊で楽しむ。
 それは、もしかしたら、今の銀幕市民に課された使命なのかも知れなかった。

種別名パーティシナリオ 管理番号721
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
クリエイターコメント皆さん今晩は、夏の締めくくりにパーティシナリオのお誘いに上がりました。
夏の一時を、楽しく賑やかに過ごしていただければと思います。
なお、このパーティンシナリオにボツはありませんが、プレイングによってはあまり活躍していただけない場合もございます。ご注意くださいませ。

ご参加の際には、ご自分の取られる行動を、以下の組わけと照らし合わせ、ひとつないしふたつご選択のうえ、該当の番号を冒頭にお書きいただければありがたいです(両方とも必ず描写されるとは限りません。二種類選択される方は、駄目で元々、くらいのお気持ちでお書きください)。

【1】団体戦に参加する
所属チームがお決まりの場合は、【1】所属チーム名 とお書きになり、その団体でのご自分の行動をお知らせください。『姫』役の方は、役割の中にそのようにお書きいただければ幸いです。
所属のチームがお決まりではないけれど団体戦に参加希望の方は、【1】団体戦参加希望 とお書きください。適当にもとい適正を見て、お友達同士組み合わせるなどさせていただきます(『姫』はこちらで決めさせていただきます)。
なお、個人での参加も、多少不利にはなりますが可能です。【1】個人で参戦 とお書きになり、どのように激戦を潜り抜けるかをお書きください。

【2】団体戦の応援をする・お茶会に参加する
カフェ『楽園』などでゆったりとくつろぎながら、団体戦の応援をしていただきます。プレイング合わせなどで、意中の方が参加されるのをご存知でしたら、そのお名前をお書きください。ちょっといいことがあるかもしれません。

【3】商売する
星砂海岸にはたくさんの人が訪れているようです。
自慢のあの品、この品で一儲けするチャンス、かもしれませんし、自分のお店を開いて交流を深めていただくのも楽しいかもしれません。

【4】海で遊ぶ
海にはエスターテの眷属である生き物たちがたくさんいます。
魚や亀、大海蛇、竜や鳥、イルカなど、お好きな動物と戯れてください。

【5】その他
それ以外の行動を取ります。
それなりに反映させるつもりではありますが、イベントからあまりにも外れたプレイングの場合、採用率はかなり低くなりますのでご注意ください。

【6】夜の浜辺で愛を語る
戦いが終わった後の静かな砂浜で、月や星や海を見ながら、浜辺を散策し、愛や友情、絆を深めていただきます。お相手様への思いや、伝えたい言葉などをお書きください。

ふたつを選択される場合、基本的には、【6】以外のどれか+【6】、というチョイスがもっとも採用されやすいのではないかと思います。


注意事項としましては、
*PCさんがあまりにも偏ってしまった場合は、独断と偏見で移動していただくことがあります。
*シナリオの性質上、あまり細かい、詳しい行動は描写できない可能性が高いです。
*基本的にノートは参照出来ませんが、お友達関係については参照させていただきます。
*団体戦における他者への確定ロールは不採用の確率が高いですのでご注意を。



なお、記録者のNPC及び事後承諾もいい仕打ちでお借りしてきたNPCの方々は、以下のような行動を取っています。指定がない限りは描写しませんが、必要とあらばご指名ください。

寺島信夫:『楽園』でアルバイト中。
読売:『楽園』でのんびりティータイム中。
珊瑚姫:ドクターD・レーギーナと楽しく不吉に談笑中。
平賀源内:『楽園』でアルバイト中。だって断ったら源内子ちゃんにされちゃうから……!
ドクターD:珊瑚姫・レーギーナと楽しく確信犯的に談笑中。
レーギーナ・森の娘たち:たまに素敵な殿方を毒牙にかけつつ、カフェ『楽園』でお給仕中。
唯瑞貴・ゲートルード・真禮・ベルゼブル:団体戦に出場中。『姫』は唯瑞貴ではなくゲートルードらしい……。



それでは、皆さんのお越しを、楽しみにお待ちしております。

参加者
理月(cazh7597) ムービースター 男 32歳 傭兵
月下部 理晨(cxwx5115) ムービーファン 男 37歳 俳優兼傭兵
片山 瑠意(cfzb9537) ムービーファン 男 26歳 歌手/俳優
アルヴェス(cnyz2359) ムービースター 男 6歳 見世物小屋・水操士
流鏑馬 明日(cdyx1046) ムービーファン 女 19歳 刑事
ルヴィット・シャナターン(cbpz3713) ムービースター 男 20歳 見世物小屋・道化師
葛城 詩人(cupu9350) ムービースター 男 24歳 ギタリスト
マリアベル・エアーキア(cabt2286) ムービースター 女 26歳 夜明けを告げる娘
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
ミケランジェロ(cuez2834) ムービースター 男 29歳 掃除屋
昇太郎(cate7178) ムービースター 男 29歳 修羅
ルウ(cana7787) ムービースター 男 7歳 貧しい村の子供
ヤシャ・ラズワード(crch2381) ムービースター 男 11歳 ギャリック海賊団
ベル(ctfn3642) ムービースター 男 13歳 キメラの魔女狩り
ゴーユン(cyvr6611) ムービースター 女 24歳 ギャリック海賊団
エフィッツィオ・メヴィゴワーム(cxsy3258) ムービースター 男 32歳 ギャリック海賊団
沙闇木 鋼(cmam9205) ムービーファン 女 37歳 猟人、薬師
市之瀬 佳音(csvm1571) ムービーファン 女 25歳 バックダンサー兼歌手
ランスロット(cptf5779) エキストラ 女 28歳 White Dragon隊員
ジラルド(cynu3642) ムービースター 男 27歳 邪神の子、職業剣士
ヴァールハイト(cewu4998) エキストラ 男 27歳 俳優
クレイ・ブランハム(ccae1999) ムービースター 男 32歳 不死身の錬金術師
トイズ・ダグラス(cbnv2455) エキストラ 男 23歳 White Dragon隊員
森砂 美月(cpth7710) ムービーファン 女 27歳 カウンセラー
サマリス(cmmc6433) ムービースター その他 22歳 人型仮想戦闘ロボット
ティモネ(chzv2725) ムービーファン 女 20歳 薬局の店長
ガルム・カラム(chty4392) ムービースター 男 6歳 ムーンチャイルド
スルト・レイゼン(cxxb2109) ムービースター 男 20歳 呪い子
シキ・トーダ(csfa5150) ムービースター 男 34歳 ギャリック海賊団
神月 枢(crcn8294) ムービーファン 男 26歳 自由業(医師)
麗火(cdnp1148) ムービースター 男 21歳 魔導師
鳳翔 優姫(czpr2183) ムービースター 女 17歳 学生・・・?/魔導師
榊 闘夜(cmcd1874) ムービースター 男 17歳 学生兼霊能力者
アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
阿久津 刃(cszd9850) ムービーファン 男 39歳 White Dragon隊員
綾賀城 洸(crrx2640) ムービーファン 男 16歳 学生
桑島 平(ceea6332) エキストラ 男 46歳 刑事
シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
刀冴(cscd9567) ムービースター 男 35歳 将軍、剣士
十狼(cemp1875) ムービースター 男 30歳 刀冴の守役、戦闘狂
イェータ・グラディウス(cwwv6091) エキストラ 男 36歳 White Dragon隊員
リゲイル・ジブリール(crxf2442) ムービーファン 女 15歳 お嬢様
紀野 蓮子(cmnu2731) ムービースター 女 14歳 ファイター
唯・クラルヴァイン(cupw8363) エキストラ 男 42歳 White Dragon隊員
仙邏=ルーナ・レクィエム(cmrs3500) ムービースター その他 17歳 ファイター
黒瀬 一夜(cahm8754) ムービーファン 男 21歳 大学生
来栖 香介(cvrz6094) ムービーファン 男 21歳 音楽家
ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
冬野 真白(ctyr5753) ムービーファン 女 16歳 高校生
冬野 那海(cxwf7255) エキストラ 男 21歳 大学生
流紗(cths8171) ムービースター 男 16歳 夢見る胡蝶
トリシャ・ホイットニー(cmbf3466) エキストラ 女 30歳 女優
樋口 智一(cdrf9202) ムービーファン 男 18歳 フリーター
シオンティード・ティアード(cdzy7243) ムービースター 男 6歳 破滅を導く皇子
レイエン・クーリドゥ(chth6196) ムービースター その他 20歳 世界の創り手
トト・エドラグラ(cszx6205) ムービースター 男 28歳 狂戦士
守月 志郎(czyc6543) ムービースター 男 36歳 人狼の戦士
ルースフィアン・スノウィス(cufw8068) ムービースター 男 14歳 若き革命家
ノリン提督(ccaz7554) ムービースター その他 8歳 ノリの妖精
ケト(cwzh4777) ムービースター 男 13歳 翼石の民
空昏(cshh5598) ムービースター 女 16歳 ファイター
ミネ(chuw5314) ムービースター 女 19歳 ファイター
ニーチェ(chtd1263) ムービースター 女 22歳 うさ耳獣人
旋風の清左(cvuc4893) ムービースター 男 35歳 侠客
チェスター・シェフィールド(cdhp3993) ムービースター 男 14歳 魔物狩り
ウィレム・ギュンター(curd3362) ムービースター 男 28歳 エージェント
ジョシュア・フォルシウス(cymp2796) エキストラ 男 25歳 俳優
マナミ・フォイエルバッハ(cxmh8684) ムービースター 女 21歳 DP警官
リカ・ヴォリンスカヤ(cxhs4886) ムービースター 女 26歳 元・殺し屋
真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
臥龍岡 翼姫(cyrz3644) エキストラ 女 21歳 White Dragon隊員
クラスメイトP(ctdm8392) ムービースター 男 19歳 逃げ惑う人々
赤城 竜(ceuv3870) ムービーファン 男 50歳 スーツアクター
朝霞 須美(cnaf4048) ムービーファン 女 17歳 学生
槌谷 悟郎(cwyb8654) ムービーファン 男 45歳 カレー屋店主
藍玉(cdwy8209) ムービースター 女 14歳 清廉なる歌声の人魚
柝乃守 泉(czdn1426) ムービースター 女 20歳 異界の迷い人
シルヴァ・オディス(cstd8527) ムービースター 男 35歳 森の番人
八重樫 聖稀(cwvf4721) ムービーファン 男 16歳 高校生
浅間 縁(czdc6711) ムービーファン 女 18歳 高校生
三月 薺(cuhu9939) ムービーファン 女 18歳 専門学校生
ハンス・ヨーゼフ(cfbv3551) ムービースター 男 22歳 ヴァンパイアハンター
エリク・ヴォルムス(cxdw4723) ムービースター 男 17歳 ヴァンパイア組織幹部
柊木 芳隆(cmzm6012) ムービースター 男 56歳 警察官
レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
バロア・リィム(cbep6513) ムービースター 男 16歳 闇魔導師
ルークレイル・ブラック(cvxf4223) ムービースター 男 28歳 ギャリック海賊団
香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
小日向 悟(cuxb4756) ムービーファン 男 20歳 大学生
天月 桜(cffy2576) ムービーファン 女 20歳 パテシエ
二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
レイ(cwpv4345) ムービースター 男 28歳 賞金稼ぎ
ジム・オーランド(chtv5098) ムービースター 男 36歳 賞金稼ぎ
コーディ(cxxy1831) ムービースター 女 7歳 電脳イルカ
夜乃 日黄泉(ceev8569) ムービースター 女 27歳 エージェント
七海 遥(crvy7296) ムービーファン 女 16歳 高校生
ガーウィン(cfhs3844) ムービースター 男 39歳 何でも屋
サンクトゥス(cved7117) ムービースター 男 27歳 ユニコーン
鹿瀬 蔵人(cemb5472) ムービーファン 男 24歳 師範代+アルバイト
龍樹(cndv9585) ムービースター 男 24歳 森の番人【龍樹】
兎田 樹(cphz7902) ムービースター 男 21歳 幹部
エルヴィーネ・ブルグスミューラー(cuan5291) ムービースター 女 14歳 鮮血鬼
近衛 佳織(ctfb9017) ムービースター 女 15歳 魔女・侍
コーター・ソールレット(cmtr4170) ムービースター 男 36歳 西洋甲冑with日本刀
シャルーン(catd7169) ムービースター 女 17歳 機械拳士
ルイーシャ・ドミニカム(czrd2271) ムービースター 女 10歳 バンパイアイーター
アル(cnye9162) ムービースター 男 15歳 始祖となった吸血鬼
津田 俊介(cpsy5191) ムービースター 男 17歳 超能力者で高校生
ルイス・キリング(cdur5792) ムービースター 男 29歳 吸血鬼ハンター
キスイ(cxzw8554) ムービースター 男 25歳 帽子屋兼情報屋
カロン(cysf2566) ムービースター その他 0歳 冥府の渡し守
田町 結衣(chdh2287) ムービーファン 女 16歳 高校生
浦瀬 レックス(czzn3852) ムービースター 男 18歳 ミュータント
クロノ(cudx9012) ムービースター その他 5歳 時間の神さま
須哉 逢柝(ctuy7199) ムービーファン 女 17歳 高校生
タスク・トウェン(cxnm6058) ムービースター 男 24歳 パン屋の店番
八咫 諭苛南(cybu1346) ムービースター 男 14歳 中学生
レイド(cafu8089) ムービースター 男 35歳 悪魔
ルシファ(cuhh9000) ムービースター 女 16歳 天使
山口 美智(csmp2904) エキストラ 男 57歳 屋台の親父
李 白月(cnum4379) ムービースター 男 20歳 半人狼
崎守 敏(cnhn2102) ムービースター 男 14歳 堕ちた魔神
ジュテーム・ローズ(cyyc6802) ムービースター 男 23歳 ギャリック海賊団
狼牙(ceth5272) ムービースター 女 5歳 学生? ペット?
一乗院 柳(ccbn5305) ムービースター 男 17歳 学生
シュヴァルツ・ワールシュタット(ccmp9164) ムービースター その他 18歳 学生(もどき)
光原 マルグリット(cpfh2306) ムービースター 女 82歳 理事長/主婦
ロゼッタ・レモンバーム(cacd4274) ムービースター その他 25歳 魔術師
鴣取 虹(cbfz3736) ムービーファン 男 17歳 アルバイター
リシャール・スーリエ(cvvy9979) エキストラ 男 27歳 White Dragon隊員
ファーマ・シスト(cerh7789) ムービースター 女 16歳 魔法薬師
ヴィディス バフィラン(ccnc4541) ムービースター 男 18歳 ギャリック海賊団
ジョン・ドウ(caec2275) エキストラ 男 32歳 White Dragon隊員
吾妻 宗主(cvsn1152) ムービーファン 男 28歳 美大生
ラルス・クレメンス(cnwf9576) ムービースター 男 31歳 DP警官
本陣 雷汰(cbsz6399) エキストラ 男 31歳 戦争カメラマン
<ノベル>

 ◆1.試合開始、いきなり混沌

 戦いの開始を告げたのは、凛として美しいエスターテの声だった。
 それと同時に、痛いほどに焼けた砂浜が、太陽の光というだけではない熱気と緊張に包まれる。
「……やるからには、頑張りたいわよね」
 周囲に気を配りつつ、マリアベル・エアーキアが言うと、
「ああ、そうだな、最善を尽くそう」
「守ってくれる?」
「……もちろん」
 葛城詩人は頷き、にやりと笑った。
 ふたりは、海辺にデートに来て、この催しを知ったのだ。
 美しい指輪にももちろん興味はあるが、ひとまず、楽しそうだ、と、チームを結成することにした。
 チーム名は、『夜明けの詩』。
 当然、『姫』は、マリアベルだ。
 ――あちこちで、楽しげな歓声や声援が響き始めている。
「じゃあ、お相手願……あら?」
 目の前のチームと向き合って、マリアベルが不思議そうな顔をした。
「ええと、あなたって……」
「頼むから、皆まで言うな」
 げっそりしているのはチーム『華炎』の麗火だ。
 マリアベルと同じく、頭には繊細で美麗なティアラ。
 ……衣装は、繊細なレースが美しい、純白の姫ワンピース。
 それほど違和感はないが、女性そのものには見えない。
 「銀コミといいこれといい……もしかして夏に呪われてんのか俺」
 そんな気はまったくなかったのに、家主に売られてここまで来てしまった麗火である。
「大丈夫よ、とても似合っているわ」
「褒められても嬉しくねぇっつーか、むしろ全力で胃が引っ繰り返りそうなくらい辛い」
 溜め息をつく麗火の背後では、『華炎』の鳳翔優姫がチーム『ファルケン・シュラーク』のケトと対峙している。
 静かに滲み出る気迫に、ケトは素晴らしく逃げ腰だ。
「ちょ、俺こう言うのマジ苦手なんだってええぇえ!?」
 巻き込まれるのが嫌で、少し離れた場所で見学していようと思ったのに、チェスター・シェフィールドに見つかり、強制参加させられてしまったのだ。
 チェスターは、ウィレム・ギュンターに『姫』役を押し付けられ、その腹いせにケトを巻き込んだのだが、ケトとしてはありがた迷惑もいいところだ。
「女は至宝のごとく扱えってのが祖父の教えなんだけど、せっかくなら勝ちたいってのも事実なんだよね……だから、くれない?」
 だから女じゃねぇって! という麗火の叫びを華麗にスルーして剣を構える、無邪気ににこやかな、しかし容赦という文字は存在しない優姫の言葉に、ケトは及び腰で一歩後ずさる。
 優姫の剣が無情に輝く。
「だ、だから……」
「うん?」
「そういうのは、チェスターに言ってくれーッ!?」
 そして脱兎。
 それを反射的に追いかける優姫。
「おや」
 ウィレムそんなふたりを他人事のように見送りつつ、榊闘夜と向かい合っていた。闘夜は、男が女の出で立ちをするという、自分には理解出来ない世界にげっそりしている。
 当然、『姫』である麗火の方もあまり見ようとはしていない。
「……行きますよ」
 ウィレムがランスを、闘夜が槍を構えた。
 一瞬の後、鈍い打擲音とともに、柄と柄が絡み合う。
「『姫』を守るのは、従者の務めですからね」
「……そうか」
 その背後では、ティアラを被らされたチェスターが、詩人と対峙していた。
「Don't get close to her!」
 詩人の、『声』による攻撃を、不本意ながら己の小柄さを駆使してかわし、虎視眈々とマリアベルのティアラを狙う。
「これが終わったらお昼にしましょう、私、お弁当を作ってきたのよ」
 狙われていることを理解しつつ、マリアベルは暢気で、そして楽しげだ。
 『ガレージ一家』のガーウィンは、サンクトゥスやシルヴァ・オディスに、横や後ろを警戒するように指示し、自分は前方の、『いるかと愉快な仲間たち』と向き合っていた。
「油断すんじゃねーぞ、サンクス! 詰めが甘いからなお前!」
「余計なお世話だッ!」
 ガーウィンは、ノリノリで、『いるか(略)』のジム・オーランドと、互いに出方を伺っていたのだが、どうやら余計な一言を口にしたらしく、そもそもチーム名が気に食わないとかそんな理由でイライラしていたサンクトゥスを瞬間沸騰させて彼に背後から蹴飛ばされ、もんどりうって砂に沈んだ。
「ごふぁっ!? ナニすんだこの……」
「やかましい、今ここで永遠に眠れ!」
「ぎゃーッ、ちょ、折れる折れる、マジで折れる!」
 いきなり仲間割れ勃発。
「……おい、いいのか、あれ」
 ジムが呆れたように言うと、獅子姿のシルヴァが大仰な溜め息をついた。
「馬鹿は死なねば治らん」
「あー」
 苦笑した後、双方無言でがっちり組み合う、巨体サイボーグと聖泉の番人。
「……泉の前で、無様な姿を見せるわけには行かんからな」
「オレも、みっともねぇことすると、五月蝿ぇ奴がいるんでな」
 にやり、と笑って、力比べに入る。
 そんなシルヴァの尻に炸裂するサンクトゥスの蹴り。
 ガーウィンを狙って放たれたものが、彼がちょこまかと逃げ回るものだから狙いをそれて当たってしまったのだ。
 当然、本気なので、痛い。
「あだッ」
「あ」
 しばしの沈黙。
 思わず手を放すジム、無言でぷるぷると肩を震わせているシルヴァ。
「お・ま・え・ら・あああああああ!」
 そして、――仲間割れ深刻化。
 怒号が飛び交う背後で、柝乃守泉はティモネと向かい合っていた。
 泉は、試合開始早々仲間割れ勃発でちょっとげんなりしている。
「私がしっかりしないと……でもなぁ、もう……」
「大変そうねぇ」
 むしろ感心したように見事な仲間割れを見遣りながら、ティモネは木槍を構える。
「あなたがお姫様?」
「はい、そうですよ」
 泉の頭の上には、確かにティアラが載っている。が、
「でも、そのティアラ、色が違うわよねぇ」
「えっ、嘘っ」
「……なんてね」
 くすくす笑って、ティモネが、自分のティアラを奪おうとする泉の腕を掻い潜り、その脇をすり抜ける。
「あっ!」
「ごめんねさいね、実は、あなたたちが囮云々って話しているのを聞いてしまったの」
 泉の背後には、彼女を守ろうと奮闘する八重樫聖稀の姿がある。
 聖稀は、泉に出してもらったトリモチ系の銃で、チェスターのティアラを撃ち落としたところだった。
 小さく舌打ちをしたチェスターが、それを拾おうとするのを牽制し、奪おうとしたら、
「確率から言って、あなたが『姫』ね」
 楽しげな声とともに、シャツを背中からべろりとめくられて、中に隠していたティアラをひょいと持って行かれた。
「え、あ、ああっ!?」
 追い縋ろうとした聖稀の前に、レイが立ちはだかる。
 もちろん、ティモネ姫をガードするためだ。
「残念でした、またのご来場をお待ちしております、なんてな、ははっ」
 飄々と笑うレイに、
「ちくしょ、ごめん、泉……!」
 がっくり打ちひしがれながら聖稀がうめく。
 ティアラを奪われぬように、と、ティモネを背中に乗せたコーディのヒレアタックが、『鎧の愉快な部品たち』コーター・ソールレットの腰パーツだか脚パーツだか判らないものを遠くまで弾き飛ばした。
 コーターは個人参加なのだが、分解できるのもあって、半分以上ひとりでも団体だ。パーツからパーツへ、ティアラを常に移動させながら守っている。
 一体で『姫』役も兼任しているからか、胴体部分はメイド姿だ。
 微妙ねー、と、ティモネが呟く。
 次なる尾びれアタックが、今度は、頭部からティアラを受け取ろうとしていた腕パーツを、ティアラごと海へ叩き込む。
「ああっ、スーパー迷惑だぞその尻尾!」
 コーターの脇をすり抜けて、コーディは波間に揺らぐティアラを口で咥えて拾い上げ、ティモネに渡す。
「あッ、ごめんネ、悪気はないノヨ」
 しかし、くるりと方向転換した瞬間、また、尾びれでコーターの部品を遠くへ弾き飛ばしてしまうのがコーディクオリティ。
「あんたたちに恨みはないけど……やるからには、勝つ」
 須哉逢柝は、『仲良し三人組』として参加していた。
 頭にはきらきらと光を反射するティアラが載っている。
 何であたしが『姫』なんだよ、と不満に思いつつ、自分の傍らで、一生懸命に自分を守ろうとしてくれているルシファに目尻を下げずにはいられない。
「私、レイドとお姉ちゃんのこと、守るからね! 頑張ろうね!」
「ああ、頑張ろうな、ルシファ。あたしもルシファのこと、守るからな」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃん綺麗だね、本当のお姫様みたい」
 ティアラのことを言っているのだろう、にこにこ笑ったルシファにそんなことを言われ、逢柝は赤くなる。
「ねえレイド、そう思うよね?」
「ん? ああ、そう……だ、な……?」
 首を傾げつつ、逢柝を抱き上げ、肩車をするレイド。
 単純に、背の高い自分が肩車をしたら届き難いだろうと思ったのだが、逢柝は更に真っ赤になり、俯いて、
「れ……レイド、か、肩車とか、狙われやすい上に、すんげー恥ずかしい、から、やめてくれ……!」
 いつもの彼女にはあるまじきぼそぼそとした口調で言う。
 え、そうか? と首を傾げるレイド+逢柝の前に立ち塞がったのは、『妖霊学園六年三組』チームの狼牙だ。
「銀幕市って、おもしれぇ祭りがいっぱいあってすっげーたのしーよな♪ ばっちゃんも見に来てくれるっつってたし、真面目な姿は見せらんねぇ! 友情目指して、力を合わしてがんばるぜ〜っ!」
「……真面目じゃなくて惨め、友情目指してじゃなくて優勝目指して、な、狼牙」
 うきうきと楽しげな狼牙とは裏腹に、彼女に巻き込まれて参加することになったふたりの表情は今ひとつだ。
 思わず突っ込みを入れたシュヴァルツ・ワールシュタットは、仕様的な問題で極端な暑さ寒さはあまり得意ではなく、まったく乗り気ではなかったのだが、親友である狼牙が心配で、つい同行してしまったのだ。
「よしっ、行くぞ、シュヴァルツ、ヤナギ! おれたちの滑落を寒冷に見せ付けてやろうぜっ!」
「ええと、それは、活躍を華麗に見せ付ける、かな……? まぁいいけど。怪我にだけは気をつけてくれよな」
 シュヴァルツが肩をすくめると、狼牙はオウッと元気よく返事をして、絶賛肩車中のレイド+逢柝に突進していく。
 レイドにひらりとかわされて、力いっぱい砂浜に突っ込んでも、楽しそうに尻尾を振っている。
「な、なんでまた、こうなってるんだ、僕は……!?」
 砂浜に崩れ落ちて呻いているのは、『六年三組』チームの『姫』、一乗院柳だ。
 彼は、『姫』なのだから頭にティアラは当然として、ふわふわでフリフリでレース過多な、可愛らしいワンピースに身を包まされている。
 ……当然、女王と非情な仲間たちの仕業である。
 柳沙ちゃんがここに来て、彼女らの餌食にならないということがあるだろうか、いやない。――というくらいのデフォルトである。
「で、でも……やるからには、勝ちたい、よね……!」
 女装には海底にめり込みそうなくらい打ちひしがれつつ、負けず嫌いな彼は、気持ちだけは優勝を目指す。
 少し離れた位置で、狼牙が土の力を発動させ、周辺にいた参加者たちを盛大に転倒させていた。
 試合は、賑やかに続行中だ。



 ◆2.響く声援、賑やかなお茶会

 流鏑馬明日は、何とも言えない表情をしていた。
 先輩である桑島平を応援しようと思っていたのもあるし、レーギーナに先だっての宝玉のお礼がしたかったのは確かなのだが、何故自分は、ドクターDと森の女王などという壁に双方を挟まれて着席しているのだろうか。
「あの、レーギーナさん」
 とはいえ、黙っていても仕方がないので、持参した手作りのクッキー、とてつもなく不恰好だが味は普通、という代物を差し出す。
「これ、先日のお礼です……あの、本当に、ありがとう」
 明日が言うと、
「あら、ありがとう……とても嬉しいわ、あなたの気持ちが」
 女王はにっこり笑ってそれを受け取った。
 明日はホッとして、笑顔になる。
「やあ、素敵なお茶会だね」
 向かい側のテーブルでは、ルヴィット・シャナターンがにこにこ笑いながらティーカップを傾けている。
「ええ、本当に、素敵だわ」
 頷き、微笑むのは、同席者、ロリータ・ファッションが素晴らしく似合っている森砂美月だ。
 日焼けは天敵、と、日傘を持参しているが、女王の配下である植物たちが天然の日陰を作ってくれているため、使う必要はなさそうだった。
「お姫様たちの衣装、素敵ですよね」
「ああ、そうだねぇ」
「あのティアラも細工が細かくて、とっても綺麗。あれも手作りなのかしら」
「そうらしいね。森の娘さんたちは、器用だよね。……でも」
「ええ、なんです?」
「君も、とても素敵だよ?」
「……まあ」
 顔を見合わせ、くすくすと笑うふたり。
「……で、どうなんだ?」
 沙闇木鋼は、友人である月下部理晨を応援しながら、隣に腰かけたヴァールハイトに問いを発していた。
「どう、とは?」
 尋ね返すヴァールハイトは、砂浜中を楽しげに駆け回る理晨を、苦笑交じりに見つめている。
「現状? 近況? まァ、そんなところさ」
「そうだな、概ね、問題ない」
「そりゃ、多少はあるってェことかい」
「ん? ――ああ、何せ、ライバルが多くてな」
「そりゃァ、大変だ。でも……」
「ああ、どうした?」
「幸せそうじゃねェか」
「……まぁ、な」
 鋼の言に、ヴァールハイトが肩をすくめる。
 神月枢は同席となった綾賀城洸、真船恭一、柊木芳隆、光原マルグリット及び田町結衣とともに試合を観戦していた。
「いやぁ、皆さん、素敵ですねぇホント」
 天使も泣き出す微笑を浮かべつつ、出血大サービスで売り払った麗火の様子を観察する。まだ頭にティアラは載っているが、すでに諦観が浮き出ているのが面白い。
「はい、本当に、そう思います!」
 洸は、友人のスルト・レイゼンの戦いを、手に汗握る勢いで応援しながら、美味しいお茶とスイーツを楽しんでいた。
 危険が満ち満ちていると周囲から口を酸っぱくして言われているため、洸は『楽園』本店は未体験だ。今日のこの分店とでも言うべき出張カフェの、瑞々しい緑に彩られた空間と、お茶やスイーツ、そして人々の楽しげな雰囲気に、幸せな笑顔が止まらない。
 洸の賛美は、心の底からのもので、枢は、これを本気でやられると凹む『姫』は多そうですね、などと思っていた。
「清左くん、頑張れー!」
 双眼鏡持参の恭一は、大きく手を振って同居人を応援しながら、薫り高い紅茶を楽しんでいる。
「いいですね、こういう、ひとつの目的のために一丸になれるって」
 同居人に声援を送りつつ、これだけ頑張っているのだから可能ならば全員が勝てればいいのに、などと思い、そんな自分の甘さに苦笑する恭一に、のんびりとティーカップを傾けていた芳隆が笑顔を向けた。
「そうだねー、皆が勝てればいいのに、って、ついつい思ってしまうねー」
「あ、それ」
「うん、どうしたんだい?」
「僕も、思いました」
「……おや」
 顔を見合わせ、笑みをかわす。
 穏やかな共感が流れる。
 マルグリットもまた終始笑顔だった。
「若いもんが楽しげに騒いでいる姿っちゅうなぁ、いつ見ても気分がええもんじゃのぉ。こっちまで元気になってくるようじゃ。さてさて、どがぁなことになるんやら……ぼちぼち見学させてもらうとしようかね」
 孫がいるため声援は送らないものの、ハーブティと、小豆と抹茶を使った和風タルトを前に、マルグリットは『妖霊学園六年三組』の応援に励む。
 その隣の結衣は、兄代わりの浦瀬レックスを一生懸命に応援している。
「あ、そういえば、ルイスさん、どうしてるんだろ……」
 確か、彼も団体戦に参加すると言っていた気がする。
 まだ完治はしていないはずなのに、と、気になってきょろきょろと周囲を見渡すものの、イロモノ街道驀進中のムービースターの姿は見つからなかった。
「刀冴さん、頑張ってーっ!!」
 市之瀬佳音は、出張『楽園』から大好きなムービースターを応援していた。
 立ち上がり、両手を振り回し、飛び跳ねての、身体全部を使った応援と、佳音の大きな声に気づいたらしい当人が、笑顔で手を振ってくれるだけで失神しそうになりつつ、彼と、彼の戦いぶりに一喜一憂していると、
「あなた、彼のことが好きなの?」
 お茶と、バナナとチョコレートのタルトを運んで来た、リカ・ヴォリンスカヤにそんなことを問われ、
「えっ!? いえ、あの、そそそ、その……ッ!」
 佳音は、首まで赤くなりしどろもどろになる。
「まあ、可愛いのね、あなた」
 くすくす笑うリカは、長身のスレンダーな身体を、ふわりとしたボリュームのある、夢のように美しい繊細なレースで彩られた、ワンピースと言うよりはお姫様のようなドレスを身にまとって、とても嬉しそうだ。
 佳音は応援に必死だったし、外見にはあまり気を使わないタイプなので、リカの衣装も単純に綺麗だなぁと思っただけだったのだが、リカを目にした他の客(特に男性諸氏)は、「オイ何か明らかに系統違うのが混ざってるぞ」的驚愕&ドン引きの表情で彼女を見ている。
「綺麗なカフェに、美味しいお茶とスイーツ、そして可愛い店員さん。なんて素敵なのかしら、うふふ」
 もちろん、可愛い店員さんとは自分自身のことである。
 周囲のドン引きぶりなど気づきもせず、可愛らしく笑いつつ、リカはアルバイトに励む。
「ベル君たら……大丈夫なのかしら……?」
 朝霞須美は、のんびりとお茶をいただきながら、友人のムービースターを応援していたが、ベルと同じくいつも一緒の、ぼさぼさ頭の青年はおらず、実は、少し寂しい。
 会場が暑くて、賑やかだから余計にそう思うのかもしれない、などと思いながら、濁りのないお茶の芳醇な風味と、オレンジ入りチーズケーキの爽やかな甘さに癒される。
「無茶しないでほしいわ……心臓に悪いから」
 勿論、その中でも、ベルが怪我しないかとか、やり過ぎないかとか、はらはらと心配することは忘れない。
「もう、ふたりとも、やめてよーっ!」
 冬野真白は、兄である冬野那海と、友人である黒瀬一夜の間に入ってふたりを押し留めていた。
 真白は、友人が参加しているのもあって、普通に団体戦の応援に来ただけなのに、同じく見物に来ていた一夜と兄が睨み合いから乱闘を始めてしまい、そちらを止めるのに必死だ。
「……お前とは、一度決着をつけなきゃいけないと思ってたんだ」
「それは俺のセリフだ、くろいちの分際で俺に勝てると思ってるのか」
「誰がくろいちだッ!」
「ちょっと、お兄ちゃん、一夜さん!」
 ふたりとも、一度は真白の仲裁で退いたのだが、収まりがつかないらしく、まだやる気満々だ。
 一夜など、居候で後輩の樋口智一と一緒に来ているのに、彼を完全放置で那海と睨み合っている。
 とはいえ智一は、来栖香介の応援に夢中らしく、ふたりの喧嘩など眼中にないようで、
「頑張れ来栖、負けるな来栖ッ! お前らッ、俺の来栖はくるたんなんかじゃねぇんだぞおおおおッ!」
 暑苦しいほどの絶叫で、ありがた迷惑に近い声援を響かせていたが。
 それを尻目に、
「地べたを這いずってごめんなさいと百回謝るまでは許さないからな……!」
「はッ、その言葉、そっくりそのまま返す」
 再度拳を握り締めるふたり。
 が、
「お兄ちゃんの馬鹿ッ、もう知らない!」
 さすがに堪忍袋の緒が切れた、もしくは呆れ果てたらしい真白が、足早に人ごみに紛れて行ってしまうと、
「あっ、真白!? ちょ、待っ……これには事情が!」
 超シスコンの那海としてはもはや喧嘩どころではなく、おろおろと右往左往した挙げ句、妹の姿を完全に見失って、しょんぼりと帰宅する羽目になるのだった。
「いやぁ、ここは天国だなぁ」
 鹿瀬蔵人は、山のような甘味を前にご満悦だった。
 カフェ『楽園』といえば、恐ろしい噂が渦巻く、特に殿方には魔境のような場所で、蔵人は今まで本店を訪れたことがないのだが、今日は出張店舗ということだから大丈夫だろう、という甘い考えで全メニューを制覇するべく励んでいた。
「幸せだねぇ、ぶんたん。でも、こんなに人がいるなら、僕もバッキーの服でも作って売ればよかったかなぁ……?」
 もくもくとスイーツを平らげながら、ぐるりとまわした視線の先に移ったのは、屈強な身体を執事服に包んだ龍樹だった。
「あれ、あの人……」
 春のお茶会の記憶がフラッシュバックし、目をそらそうとする蔵人だったが、しかし、それより一瞬早く、特大サイズのメイド服を持った森の娘が、何故か身動きできないらしい龍樹に、仄黒い笑顔でにじり寄るのを見てしまった。
 あ、まずい、そう思った時には、森の娘の視線がこちらをターゲットロックオンしている。
 逃げ出す暇などもちろんなく、二十分後には、メイドユニット・蔵美ちゃんと龍子ちゃんが爆誕している次第である。
「ふふふ、賑やかでいいなぁ。これが銀幕市の醍醐味、かな……?」
 プチ地獄を横目に見つつも特に動じず、小日向悟は、一際大きな、女王や女神やドクターD、珊瑚姫や他の来客とともに囲むテーブルで、持ち込んだパソコンを駆使して個人データを展開し、試合の戦況分析及び各チームの解説をしていた。
 別に、出張カフェ『楽園』に雇われているわけでもなく、単純に、探偵気質と奉仕精神のゆえなのだが、周囲に集った人々は楽しそうだ。
「『ホワイトドラゴン』の周辺には面白いことが起きそうだね。皆、活き活きしているし、気迫が違うよ」
 チームメンバーは、一直線に突っ込んでいく『姫』に苦労させられているようだったが、皆、楽しそうだ。
 否、楽しそうなのは、ホワイトドラゴンのメンバーだけではなく、砂浜を包み込む熱気と喧騒、胸が弾むような笑い声、皆の楽しげな笑顔が嬉しくて、幸せな笑みがこみ上げてくる悟だった。
「……」
 お茶会の席の端っこでは、カロンが、特別話すでもなく、しかし去るでもなく、黙々と、エスターテの眷属らしい幻獣や、寄ってくる猫や犬に餌をやっている。
 カロンが、動物たちに餌を差し出すたびに、チリン、と鈴が鳴った。
「……あら」
 藍玉は、たまたま海で泳いでいたところ、団体戦が始まったので、それを物珍しげに見ていた。
 そこに、見知った顔、津田俊介の姿を――といってもいつもと出で立ちが違うようだったが――見い出し、
「俊介、頑張って!」
 美しい声を響かせて声援を送る。
 とはいえ、海から顔を出しての応援なので、俊介には聞こえていないかもしれない。
 人々の、様々な感情を載せて、お茶会もまた、和やかに、賑やかに、続いている。



 ◆3.勝者と敗者と被害者

 試合が始まって、およそ一時間。
 徐々に戦況は変化していた。
 ティアラを奪われて脱落するグループが少しずつ増えているのだ。
 現在、チーム数は、試合開始当初の三分の二といったところだろう。
「あー! 何かテンション上がってきた――――ッ!!」
 特製デッキブラシを振り回し、チーム『合縁奇縁』のベルに突っ込んでいくのはヤシャ・ラズワードだ。
 チーム『ギャリック海賊団(団長不在)』の一員として意気揚々と参戦し、試合が始まって以降、常にハイテンションなヤシャの勢いは衰えるところを知らず、唸りをあげるデッキブラシは休むこともない。
 しかし、正直、ティアラの存在はすでに忘れている。
「おっと、危ないなぁ」
 たまたま遊びに来ていたら、いつの間にか参加することになっていたベルだが、無表情ながら実は楽しんでいて、彼は、ヤシャのデッキブラシをひょいとかわし、猪突猛進を地で行く彼の脚を払って砂に転倒させる。
「うわっぶ!?」
 ヤシャが顔面から砂に埋まるのを見届けて、ベルは、チームメイトである旋風の清佐とシャルーン、キスイと浦瀬レックス、そして八咫諭苛南の位置を確認する。
「変な……取り合わせ、だよねー」
 だからこそのチーム名なのだが、バランスという意味でどうなんだろう、などと思う。
 とはいえ、ベルに何が何でも勝利しなくてはならない、という意識は薄く、ティアラに対する執着も薄く、彼は、小柄な身体に似合わぬ怪力とスピードを武器に、純粋に戦いを楽しんでいた。
「何でオレが『姫』……」
 レックスはというと、頭に乗っかったティアラにげんなりしていた。
 もちろん、進んで『姫』を希望したわけではない。
 単純に、じゃんけんで負けたのだ。
「よく似合っていますよ、レックスさん」
 チームメイトのキスイに、含み笑いでそんなことを言われて更に脱力する。
「……これっぽっちも嬉しくない」
「おやおや、そうですか」
 キスイは、寄り添うように立つ紀野蓮子と仙邏=ルーナ・レクィエムを前に、目を細めた。
「楽しめそうですね、これは」
 彼は『姫』もチームのことも忘れて微笑する。
「……参ります」
 蓮子は、目の前に立つ美麗な青年が、ただ美麗なだけではない、危険な存在であるということを本能的に察知していた。
 蓮子は戦っている人々も、観戦している人々も、他の遊びに興じている人々も含めて、たくさんの人がいる海上にドキドキしつつ、故郷ではライバルであるメンバーと、力を合わせて戦えることに喜びを感じている。
「どうぞ……お覚悟を」
 たおやかな見かけによらぬ俊敏さで突っ込んでいく蓮子の先では、薄い笑みを貼り付けたキスイが、氷のナイフを手に佇んでいる。
 ナイフの禍々しさに気づかぬ彼女ではなかったが、繰り出されるそれを軽やかなステップで避けると、速さにものを言わせてキスイの懐に入り込み、素早くキスイの足を払ってバランスを崩させる。
「仙邏さん、お願いします!」
 蓮子が呼ばわると、鋼糸を操って清佐と渡り合っていた仙邏が、繊細な美貌には似つかわしくないほど猛々しい微笑を浮かべ、両手を宙に掲げた。
 仙邏の周囲には、驚くほどの俊敏さと正確無比な太刀筋を駆使して仙邏と戦っていた清佐、冷ややかな殺意を漂わせているキスイの他に、ペットボトルや何故か風邪薬のビンを投擲して周囲を攻撃している諭苛南の姿がある。
「ふむ、規模を絞ろうと言うのなら、この程度が適当であろうかな」
 目を細めて周囲を見渡した仙邏は、少女の外見にそぐわぬ老獪な口調で言い、楽団の指揮者のような手つきで両手を広げる。
「……?」
 仙邏の、外見を裏切りまくる膂力と物言いに、ただでさえ警戒心を刺激されていた清佐は、更に嫌な予感がしてその場から飛び退こうとしたのだが、時すでに遅し。
 仙邏の繊指が、焼けた砂に覆われた砂浜を指し示すと同時に、彼女を中心にして大地が『ズレ』た。
 どういう原理なのかは、清佐には判らない。
 恐らく、清佐と同じくズレた大地に足をとられ、隙間のようなものに落ち込んでしまったふたりも理解できなかっただろう。
 這い上がろうともがくうちに、『バトルワルキューレ』のふたりは、ターゲットを違う誰かに向けている。
「お見事です、仙邏さん……って、空昏さん!? ひとりで突撃しないで下さいってつい三分前にも言いませんでしたか!?」
 蓮子の言葉が労いから突っ込みに変化するまでわずかに数秒。
 シャルーンは、腕を対物ライフルに変化させていた。
 超長距離からの狙撃でティアラを弾き飛ばし、それを回収する作戦だ。
 このライフルは電動なので炸裂音が無く、相手にタイミングを掴み辛くさせることが出来るのだが、そのかわり常に駆動音がするので気付かれやすいのが難点だ。
「巧く折り合いをつけて使うのがプロ、かしらね」
 シャルーンが狙うのは、『バトルワルキューレ』の空昏だ。
「なんで僕が『姫』かね!?」
 などと喚きながら、ティアラを手で押さえて逃げ回っている彼女に狙いを定め、撃とうとしたところ、
「甘ぇんだよッ!」
 鋭い声がして、刃のように飛来した鷹が、シャルーンの鼻先をかすめ、彼女に手元を狂わせる。
 空中でくるりと回転した鷹が追撃の姿勢に入るのを跳んで避ける。
「カント=レラ、おいで!」
 呼ばわったのは、トホマ族の勇猛な女戦士、ミネだ。
「……あんたがあたしの相手? あんたは、あたしを満足させてくれるかしら」
 腕を打ち刀に変化させながら、シャルーンはミネと向き合う。
 ミネは激烈な眼差しで彼女を見つめ、トマホークを手に身構えた。
「戦士の誇りにかけて負けねぇって決めてんだ。この勝負だって、負けられねぇ」
 ミネは、チームメイトの位置を把握しながら、攻撃に移る。
 シャルーンの刀が閃いた。
 その脇を、空昏が走り抜けていく。
 彼女を追いかけているのは、チーム『ギャリック海賊団(団長不在)』とは別にチームを作った海賊団員、チーム『ナイツ&プリンセス』のジュテーム・ローズだ。
 美しきオカマちゃんの傍には、服を通じて大の仲良しであるヴィディス・バフィランの姿があって、
「ジュティには、指一本、触れさせねぇ!」
 目に見えない『糸』を操って、空昏のティアラを狙っている。
 ヒョウ、と空気を裂く音は、『糸』が迫る足音だ。
 それは正確無比に、空昏のティアラを彼女の頭から払い落とすかと思われた――……が。
「しまった、ティ……ティアラがっ! ……なんてなふはははは!」
 実は、ティアラを押さえているのはフリで、手を離しても支障はないのだ。
 当然、ピンを使って、ちょっとやそっとでは落ちないよう、しっかりと固定してある。
 まったくの勘で、ひょいひょいと『糸』を避け、
「切れない糸なら、散らしてしまえばいい。……しかし、真剣な争いごとは嫌いだが、こういうのは楽しいな、ふはははは!」
 高笑いしながら、空昏は扇を閃かせる。
「ちっ」
 扇に『糸』を散らされて舌打ちをしつつも、ヴィディスは楽しそうだ。
 そんな彼の姿に、ジュテームは胸の高鳴りを抑えられない。
「今日のヴィディス、特別にカッコいいわ。あたし、惚れ直しちゃう……!」
 自身も斧を手に、本来ならば同胞である『ギャリック(略)』のゴーユンの狙撃から身を守っている。
 ゴーユンは『姫』役を拝領しているが、黙って守られるつもりはなく、また性にも合わないため、ティアラを守るのは当然のこととして、同時に力試しをするつもりでここに来ていた。
 蛸足に持てるだけの銃――といっても、当たれば相当な衝撃があるし当然痛いが殺傷力はない、純粋に狙撃の能力を量ることのできるものだ――を持ち、乱れ撃ちをしている。
 乱れ撃ち、と言いつつその狙いは確かで、彼女の銃弾にレックスがティアラを撃ち落とされる。
「ふむ……概ね、問題ないようだ」
 己の腕前が落ちていないことを確認し、冷静に、ごくごく当然のように頷く彼女の傍らでは、何故かエフィッツィオ・メヴィゴワームとシキ・トーダが取っ組み合っている。
 ヤシャに付き添って無理やり参加させられたエフィッツィオは、面倒臭がりつつも応戦していたのだが、ビール持参で観戦するつもりで来ていたらしいのを、同じくヤシャに引っ張り込まれたシキが行ったビール目潰しを盛大に喰らってぶちきれたのだ。
 命中率皆無の銃は、先に、弾の無駄遣いだ、とゴーユンに奪われてしまったため、今の彼は素手だが、しかし実は、この、エフィッツィオという男は、素手の方が強い。
「てめぇは元から気に食わなかったんだよ……!」
「あーもう、暑苦しいわねーエフィちゃんったらー」
「誰がエフィちゃんだこの妖怪のらくら坊主!」
「……初めて聞いたな、その妖怪……」
「ゴーユン、そういうとこだけ突っ込むの、やめようぜ?」
「てめぇこそ暢気に突っ込み入れてる場合かっつーの!」
 胸倉を掴むエフィッツィオの手をひょいと外し、シキは仲間割れから避難する。
「エフィちゃんのそういうとこは可愛いと思うんだけどー、時と場合は考えた方がいいんじゃないかなー?」
「誰が可愛いんだ、この妖怪ヘラヘラ男っ!」
「……またネーミング変わってるし」
 怒りが収まらない様子で吼えるエフィッツィオに呆れつつ、シキは風を読み、戦況を把握して、獲物に狙いを定める。
 勝敗に興味はないが、楽しまなくては損だ、とも思う。
「今日はお祭アルヨー!」
 ノリノリで女装しているのは、ノリの妖精ノリン提督だ。
 何故か、いつの間にか二三体に増えている辺りが不可解で人外。
 しかも更に増えていく。
 初め、細胞分裂モドキで増殖することを除けば個人で参戦していたノリン提督だが、
「そうですにゃ、今日はお祭ですにゃ! サンバでバカンスでカーニバルですにゃ!」
 途中、クロノとタッグを組み、『クロノとノリン提督と妖精と猫』というチームに合体して――チーム名は、どちらの名称を先に持ってくるかで真剣に喧嘩したあと、痺れを切らした森の女王に笑顔で締め上げられた結果の妥協案だ――、ノリとカオスを振り撒いていた。
 特に、クロノが呼び出しをかけた所為で、他の時間軸から大量のクロノが溢れ、周囲はちょっとした猫の海になっている。
 誰がティアラを持っているのか本猫にも判らないカオス。
 しかも、戦っている猫ばかりではなく、普通にお茶をする、マットを敷いて日焼けする、砂浜に埋まる、浜辺の恋人の追いかけっこ、読書、絵を書く、カロンの傍にしれっと寄っていって餌をもらおうとし、容赦なくカンテラの火で焼かれるなど、たくさんのクロノたちが好き勝手に夏を満喫中である。
「皆ノリノリか! ノリノリアルな!?」
 テンションマックスの提督が、セクシーに腰を振りながらロケーションエリアを展開し、皆をサンバ地獄に叩き落すより早く、
「あーっ、鬱陶しい! とりあえず埋まれ、潰れろ、沈黙しろッ!」
 額に青筋を浮かべた来栖香介が、渾身の力で提督を砂の中に叩き込む。
 「うぎょふ」などという不可解な声を上げて砂浜に埋まる提督。
 その上からげしげしとノリンを踏ん付けている香介に、
「香介、やりすぎは駄目だよ?」
 チーム『吾妻』の『姫』、吾妻宗主がやんわりと声をかける。
「……判ってるよ。でもコイツは駄目だ、なんか本能的に受け付けねぇ」
 そっぽを向く香介に苦笑する宗主だが、そんな彼は、
「ごめんね、君と戦いたくはないんだけど……香介が、暴れたいって言うから」
 チーム『ルイスとアルのリビング・ルーム』の片割れ、ティアラを頭に載せたアルと向き合っている。
「ぼ、僕も、吾妻さんとは戦いたくなかったですよ……!」
 身内、友人と認識した相手にはとことん弱いアルは、出来ることなら違う相手を探したかったが、香介を溺愛している宗主は、彼が望むのなら、と、申し訳なさそうにしながらも退くつもりはないようで、思わず視線を泳がせたアルは、チームメイトであるルイス・キリングが香介に命すら狙われているのをみて溜め息をつき、身構えた。
 逃げられないことを、心の底から理解したのだ。
「ははは……ここで会ったが百年目。細切れにしてやるから、覚悟しやがれ……!」
 本気の殺意を滲ませて笑う香介に、全裸風スパッツ+レインボーアフロ胸毛のルイスはしなを作る。
「いやーん、くるたん、優しくしてえぇ〜ん」
 とどめに投げキッス。
「キモいッ!」
 そんなルイスの顔面にバッキーを投げつける香介、顔面と激突した瞬間ルイスの鼻に食いつくルシフ。
「いってえええぇえぇッ!?」
 熱い砂浜に、暑苦しい悲鳴が響き渡る。
「……賑やかだな」
 本陣雷汰はチーム『吾妻』に手伝いとして参加していた。
 ナイフを操って、襲い来るクロノやノリの妖精たちをさばきつつ、吾妻宗主に笑顔を向けるが、色々な因縁があって、普段の朗らかさが嘘のように、宗主は雷汰には素っ気ない。
 ツン、とそっぽを向かれ、子供っぽくすらあるその姿に、やれやれ、と苦笑する。
 とはいえ、そんな宗主の一面が見られることをも、楽しんでいる雷汰なのだが。
「みぎぃ!」
 兎田樹は張り切っていた。
「みっみぎ(よ〜し、今日は皆にBの凄さを思い知らせるんだよぉ! 団体戦こそ秘密結社の真骨頂、戦闘員の素で戦闘員になってもらった椰子の木さんたちと頑張るんだよぉ!)!」
 額にティアラを輝かせ、うさぎさんは燃えている。
 椰子の木な戦闘員さんたちが頑張っている間、ティアラを落とさないように気をつけつつ、小回りと小ささを生かして、人間たちの足の間をすり抜けたり掻い潜ったり、一生懸命頑張る樹である。
 しかし、だ。
「みぎっ(戦闘員さんを増やして、戦いを有利にするんだよぉ)」
 と、戦闘員の素を振りかけた先は、幸か不幸か――多分不幸だ――、出張カフェ『楽園』を彩る緑の一旦。
 戦闘員の素が効果を発揮して、瑞々しい植物たちがごそり、と動き出す。
 壁の部分を持って行かれてしまい、出張カフェの間取りが妙なことになってしまった。
「みぎぃ、ぎっ(あれ、急に体感温度が――……?)?」
 思った時には、四方八方に森の娘。
「……困るわ、うさぎさん」
「お姐さまの大切な緑を持って行こうだなんて、命知らず――もとい、お茶目さんなんだから」
「お店の邪魔をされた報復……じゃなくて、お仕置き……でも、この落とし前はつけてもらう……でもなくて、ちゃんと、代価は支払っていただかないと、ね?」
 仄かに黒い笑みを浮かべた神聖生物が、
「み、みぎぎっ(え? あれ? ええと……?)?」
 迫力に押されて後ずさる樹を追い詰めていく。
 ――次の瞬間、憐れなうさぎさんに対してどんな報復行動が行われたか、は、言わぬが花ということで。



 ◆4.青々と、生命は輝き

「うわあ、すごいすごいっ!」
 アルヴェスは大きな亀の背に乗ってご機嫌だった。
「かめさんすごいね、かめさん! きもちいいなぁ……っ!」
 エスターテの眷属である亀の甲羅は、ぽかぽかと暖かく、気持ちがいい。
「ボク、海でおよいだりすなはまであそんだりもしたいなっ」
 おおはしゃぎで海上をぷかぷか漂いながら、アルヴェスは、砂浜で繰り広げられている熱戦及びカオスに声援を送る。
「みんな、がんばってー! じょそうっていうのもがんばってー!」
 この催しの開催前に仕入れてきた半端な知識を元に激励を送るアルヴェス。
 頑張りたくねぇっ!? という陸からの突っ込みは、一体誰からのものだっただろうか。
「ふふふ」
 含み笑いをするのは、マニア垂涎のスク水姿の仔狸、太助だった。
「海で遊んでればだいじょうぶだ、女王さまの手も届かねぇ、はずだ、うん」
 と、かなり警戒しつつも海に飛び込み、楽しげに寄ってきたイルカの背に乗せてもらってご機嫌な太助である。
「あ、そういや、オルトロスいねぇのかな? いたらいっしょに遊びてぇなぁ」
 主人である唯瑞貴は団体戦に出場中らしいから、いないはずはないのだが、ときょろきょろしていた太助の目に、出張カフェ『楽園』の仮設テラスで寛ぐオルトロスの姿が映った。
「うぐぐ、あそこにいるのかぁ……」
 仮設テラスの向こう側では、森の女王を筆頭とした『楽園』の店員たちが、楽しげに給仕に励んでいる。
 オルトロスにはこっちに来て欲しいが、女王様たちに気づかれては元も子もない。
 どうやって、秘密裏にオルトロスをここに呼ぶかで煩悶していたら、どうやら彼に気づいたらしいオルトロスが立ち上がり、太助に向かって蛇の尻尾を振り、わんと吼えた。
 ――当然、女王たちの視線も、こちらを向く。
 まずい、と思った瞬間、何かに足首に絡みつかれ、ざばあああという音とともに、身体が浮き上がる。
 その正体は――ラッコの寝床も真っ青な、分厚い昆布だった。
「ちょ、え、えええええ!?」
 つやっつやの昆布たちに宙吊りにされ、狸、驚愕中。
「ちょっとまって女王さま、海藻もですかあああああ!?」
 砂浜の向こう側で、そんなの当然だわ、とばかりに女王が微笑むのが見えた。
 海辺に、仔狸の悲鳴が木霊する。
 人魚バージョンひまわり(半泣き)爆誕まで、あと十分。
 シャノン・ヴォルムスは、そんなプチ阿鼻叫喚や喧騒などどこ吹く顔で、息子として可愛がっているルウとともにのんびり過ごしていた。
 普通の、どこにでもいる親子がやるように、波打ち際に近い砂浜にシートを敷き、持参した弁当を広げて、同じく持参した子ども用のシャベルやバケツを使って砂遊びをするルウを、穏やかな目で見守っている。
「ぱぱ、おしろできたよ」
 にこにこ笑ったルウが、砂を固めて作った可愛らしい城を見せてくれる。
 シャノンは微笑んで頷き、ルウの頭を撫でた。
「ああ、上手だな、ルウ」
 ルウが、嬉しそうに、えへへと笑う。
 そこへ、きゅい、という声がして、見遣れば、ごく近い浅瀬に、イルカが顔を出している。
「ルウ、イルカだ、触ってみないか」
 くるりと円を描いてみせるイルカはとても可愛い。
 これも経験だ、と、ルウを誘うが、
「え、で、でも……るう、こわい……」
 臆病なルウは、尻込みしている。
「イルカは優しい生き物だ、絶対にルウを傷つけたりしない」
「う、うん、でも……」
 ルウは、シャノンにしがみつき、おっかなびっくりといった風情でイルカを見ている。そんな様子も、大層愛らしく、シャノンは目尻を下げた。
「判った、じゃあ、俺と一緒に触ろう。それなら怖くないだろう」
「うん、ぱぱといっしょなら……」
 そう言われてようやく決心がついたのか、ルウは、シャノンとともに恐る恐る手を伸ばしてイルカに触れ、驚きと感動の混じった顔をした。
「あ、すごく、すべすべしてる」
「ああ、そうだな」
「いるかさん、すごく、やさしいめをしてるんだね」
「……もう、怖くないか?」
「うんっ」
 ルウがシャノンに抱きつき、シャノンは笑ってルウを抱き上げ、頬にキスをする。ルウがくすぐったげにクスクスと笑うと、イルカがそれを見上げてきゅいきゅいと楽しげに鳴いた。
 そこから少し離れた海上では、居候先で借りてきた水着姿のジラルドが、全長二十メートル近い大きな海竜の背中に寝転び、日向ぼっこに興じていた。
「あー、最高。気持ちいーなぁ……」
 海に手を差し伸べ、ぱしゃぱしゃと水をかき回すと、色とりどりの魚たちが、漣にあわせてくるくると踊る。
 ジラルドが金の眼を細めてそれを見ているところへ、浮き輪持参ですいーっと近づいてきたのは、ガスマスクをしていないアレグラだ。
「……出来る!」
 巨大な海竜に、緊張を隠せないアレグラは、その長さに対抗して手足を伸ばし、威嚇らしきことを行っている。
 海竜が、ジラルドと同じ仕草で首を傾げるのへ飛びつき、よじ登って噛み付いてみるものの、じゃれかかられたと勘違いしたらしい海竜に、首筋を咥えられて背中に――ジラルドの目の前に乗せられ、遊園地よろしくくるくると周囲を回ってもらった時点で、きゃっきゃと笑い声を立てて大喜びしていた。
「すごいな、すごいなおまえ! なあ、そう思わないか、ちきゅうじ……おまえ!」
 ジラルドが地球人には見えなかったからだろう、途中で呼称を変えたアレグラが、ぺしぺしと海竜の首筋を叩いて言うのへ、ジラルドは笑い、
「オレはジルって言うんだ、よろしくな。……うん、すげーよな。すげーし、可愛い」
 アレグラの頭をわしわしと掻き回す。
 アレグラはきゃあきゃあと喜び、海竜とジラルドに交互に抱きついて楽しんだ。
 相変わらずなのは、クラスメイトPだった。
 セクシーな水着姿の香玖耶・アリシエートが、サーフィンをしようと、精霊を呼んで起こした大きな波に巻き込まれて海中に沈んだ挙げ句、眼鏡をその波に攫われ、
「あああっ、ちょ、ま、待ってー!」
 命でも吹き込まれたんじゃないのかというほど見事に逃げていく眼鏡を追いかけて沖合いまで来たら、全長二十メートルの海竜が、興味深げに彼を見下ろしていた。
 背中には金眼の青年と幼女とが乗っていて、海竜と同じく不思議そうに彼を見ている。
「え、あ、え……?」
 海竜は、真っ青な眼と、白銀の鱗を持ったとても美しい生き物で、クラスメイトPは思わず見惚れたのだが、可愛らしく首を傾げた海竜が、長い尻尾をにゅっと伸ばして彼の身体を絡め取った時には、さすがに狼狽し、じたばたともがいた。
「ちょ、危ない、沈む沈むしず」
 言い終わるより早く、海中に没するクラスメイトP。
 海中でくるくる振り回されているのは、多分、海竜が、一緒に遊んでいるつもりだから、だろう。
「たたた助けてえええええ!?」
 浮きつ沈みつしながら助けを求めた先には、友人たちと水遊びに興じる浅間縁の姿が。
「あ、浅間さ……」
 言いかけたら、何かを察したらしい海竜が、傍迷惑にも縁めがけて一直線に泳ぎ始めた。
 海竜の動きに合わせて大きな波が起き、海辺を急襲する。
 縁はその時、穏便に、友人たちと水のかけ合いなどをして楽しんでいたのだが、突然大きな波が来たのを不思議に思って海上を見遣り、思わず顔を引き攣らせた。
 ――尻尾でクラスメイトPを絡め取った大きな海竜が、津波ばりの波とともにこちらへ押し寄せてくる。
 マンタの背中に乗せてもらった香玖耶が、ノリノリでサーフィンに興じているのが見えたが、そちらに突っ込みを入れる暇も余裕もなかった。
「まさか、あれは幻のUMA、シーサーペント!? ……ってアレなんかこっち来るこっち来てるんですけどちょっとォオオ!!」
 友人たちが一目散に逃げていく中、クラスメイトPのことをチラリと気にしてしまった所為で逃げ遅れ、
「浅間さああああんん、に、にに、逃げてえええええ!」
 そんな、時すでに遅し的なクラスメイトPの絶叫とともに津波に巻き込まれ、盛大かつ華々しく海中に没する縁である。
 こんな海難事故聞いたことない、と海面へ浮上しながら縁は思ったが、鼻に海水が入ってツッコミどころではない。
「うわあ、すごいねー」
 波が収まったあとの海に漂いながら、三月薺は一連の惨状を感心したように眺めていた。
「縁ちゃん、楽しそうだったね」
 生死のかかったビッグウェーブも薺にかかればテーマパーク。
 本人が聞いたら、遠い目をして切り崩すべきツッコミポイントを探しただろう。
 しかし、今の彼女の相手をしているのは、タスク・トウェンなので、
「ああ、楽しそうだったな。波に飲み込まれるときの彼女は、活き活きしていた。……薺も頑張って、彼女と一緒に泳げるようになろうな」
 ともにボケることしか出来ないのだった。
「うん、頑張る。あっ、あれ、バロア君……じゃないや、妹の、バロナちゃんじゃない? 頑張ってるみたいだね、応援しなきゃ!」
 まだ浮き輪でしか泳げない彼女は、タスクに泳ぎを教えてもらっているのだが、団体戦に参加している友人たちを応援したい、というのもここへ来た大きな理由で、薺は、海面に伸び上がって砂浜に手を振り、頑張れー! と声援を送る。
 バロアの生き別れの妹というバロナちゃんが、こちらに気づいて血を吐きそうな顔をしたが、事情を知らない薺は、それには無頓着だった。
「薺、せっかくだから竜の背中に乗せてもらおう」
 タスクは、薺に泳ぎを教えながら団体戦に挑んでいるレモンやバロア――現在バロナちゃん――を応援していたのだが、ジラルドとアレグラが手招きするので、薺を促し、ふたりにも手伝ってもらって竜の背によじ登った。
「わあ、すごいっ!」
 薺が感激し、はしゃぐのを見ながら、タスクは、ジラルドと、海への飛び込み競争などに興じたり、海竜にジラルドと一緒に頭の上に乗せてもらい、その上から海に放り込んでもらったりして楽しんだ。
 海上に、アレグラと薺の、楽しげな笑い声と歓声と響き渡る。
「賑やかで、いいわねぇ」
 トリシャ・ホイットニーは手作りのお弁当を持参し、子どもたちとともに砂浜へ来ていた。
 子どもたち、というのは、ガルム・カラム、流紗、シオンティード・ティアードという、ムービースターの少年たちで、行くあてのない彼らをトリシャは保護し、面倒を見ているのだ。
 途中で、知己であるジョシュア・フォルシウスと遭遇した四人は、彼も誘い、砂浜に茣蓙と弁当を広げて寛いでいた。
「お邪魔をしては申し訳ないかと思ったのですが……」
 波やエスターテの眷属と戯れる子どもたちを、目を細めて見遣りつつ、ジョシュアが言う。トリシャは微笑んで首を横に振った。
「こういうのは、縁だものね。楽しい時間が過ごせたら、それでいいじゃない?」
「……はい、そうですね」
 ガルムとシオンティードが、真っ青な鱗を持った小型の海竜――小型と言っても全長で三メートルくらいあるが――を見つけておずおずと近寄る。
「きれい……」
「触っても、いいかなぁ?」
 ふたりが交互に呟くと、青い海竜は彼らを、長い首を傾げて見下ろした。
 きらり、と、金色の目が光る。
 その時の流紗は、青い鱗で覆われた犬のような幻獣に目を奪われていたのだが、海竜が怖くなったらしいガルムとシオンティードが背後にくっついてきたので、
「……大丈夫、噛まないよ」
 安心させるように、ふたりの頭を撫でてやった。
 そこへ、くすっと笑ったジョシュアが近づいてくる。
「やはり、この街は不思議ですね。でも……とても、綺麗です」
 ジョシュアが手を伸ばすと、海竜は嬉しげに鳴いて彼に首を擦り付けた。
 それを見て安心したらしいガルムとシオンティードが、特別乗り気でもない流紗の手を引っ張って海竜の傍へ寄って行き、恐る恐る手を伸ばして、青い鱗がキラキラと輝く首や、尻尾に触る。
 シオンティードは、時折、いつも手にしている石版を落っことしそうになって慌てていた。
 それらを、トリシャが、慈母のような眼差しで見守っている。
 その脇を、
「りんご飴、りんご飴はどうだい? ミカン飴にパイン飴、バッキー飴に、ユズ姫飴、源内子飴まで揃ってるぜぇ?」

 威勢のいい掛け声とともに通り過ぎていくのは、屋台のおやっさん、山口美智だ。本日は飴屋で参戦である。
「なーっはっはっは! 活気があるってのは、やっぱりいいもんだなぁ。お、ボウズ、バッキー飴か? ほらよ」
 豪快な笑顔と元気を振り撒きながら、飴を買いに来た小さい子どもの頭を撫でて、飴を手渡してやる。
 りんご飴やミカン飴などのフルーツ系の飴はともかく、異様に精巧な細工飴まで売っているのは気の所為……だろう、きっと。
「いらっしゃいませ、どうぞ見ていってくださいね」
 天月桜はというと、砂浜の一角で出張ケーキ屋をしていた。
 色々なフレーバーのアイスクリームと、見た目にも涼しいアイスケーキ、ババロアやムースなどの冷たいスイーツが商品で、売り上げは上々だ。
「アイスクリームとアイスケーキ、冷たいデザートいかがですかー!」
 李白月もまた、スイーツの売り上げアップを図るべく、大きな声を張り上げて客寄せ中だ。
 美形ムービースターのソツのない接客に、女性陣の反応も上々で、白月は忙しく、楽しく仕事に励んでいたが、彼が、
「お、みんな頑張れ、負けんなよーッ!」
 時折そんな声を響かせるのは、もちろん、団体戦に出場しているメンバーに、友人たちがいるからだ。
「あッ、社長! 是非とも買っていってほしいっす、アイスクリーム! 一度食べたらクセになるっすから!」
 ルウと連れ立って歩くシャノンを呼び止め、アイスクリームを買ってもらおうとしているのは、肩にパステルブルーのバッキーを載せ、左手首に桜とお揃いのブレスレットをした少年、アルバイトの鴣取虹だ。
 たくさんのアルバイトを掛け持ちしている虹は、八箇所もの場所で働いているのだが、虹自身の性質に加え、あちこちで接客業に就いているのもあって、彼のサーヴィスは嫌味がなく、爽やかで清々しい。
 爽やか少年の振り撒くピュアな笑顔に釣られて、出張ケーキショップにはお客が絶えない。
「賑やかで楽しい催しですわね、本当に、素敵ですわ」
 ケーキショップから少し離れた、椰子の木の陰では、ファーマ・シストが駆り店舗を広げている。
 その名の通り薬師である彼女は、もちろん普通に賑わいを楽しみに来たのもあるのだが、人がたくさん集まる催しならば自分の薬の実験が出来……もとい、多種多様な薬が必要とされるだろう、と、急遽露店を開設することにしたのだった。
「あら、バロア様が頑張っておられますわね。どうせなら、この性転換薬をお試しいただきたかったですわ」
 彼女の露店には、日焼け止めや冷却ジェルなどの一般的なものから、先だってファーマが口にしたような、男性の『姫』向けに持ってきた性転換薬などの怪しげなものまで、様々な薬が陳列されている。
「体調が優れない方の手当てもお引き受けしておりますわ、どうぞお気軽にご利用くださいませー!」
 ミヒャエル王子がケロローンと鳴く隣で、ファーマは明るい声を上げるのだった。
「しかし……暑いですね……」
 その近くを通りかかったのがラルス・クレメンスだった。
 非常識な能力を持ったメンバーが多数存在する銀幕市の、更に覇を競う催しにおいて、必要はないだろうとも思ったのだが、ラルスは、一応、警官として、会場警備の名目でこのイベントに参加していた。
「試合会場以外でお茶目なことをするのはやめてください」
 クールな外見にそぐわぬ冷静さで、試合に参加していないのに喧嘩をしようとしたり、人様に迷惑をかけようとしたりする連中を、適当に獣化した片腕でどついては大人しくさせていたラルスだったが、
「――あだッ!?」
 試合会場から飛来した流れ弾に巻き込まれて豹変。
「いっ……てェなこのクソヤロウがッ!」
 普通、眉間に弾丸が当たったら死ぬものだが、ラルスに関してはその突っ込みは無粋だ。彼は瞬間沸騰するや否や、かけていた眼鏡を毟り取り、全身の毛を逆立てた半獣状態で戦場に乱入していく。
「ヒトに鉛玉ブチ込みやがったのはどこのどいつだァ! 出て来やがれえェっ!」
 ラルスの咆哮が周囲を震わせ、誰かが遠い目でカオスだなぁと呟く声が聞こえたが、今のラルスにはそんな些細なことはどうでもいいのだった。



 5.決着、栄冠は

 チーム『黒』は、チーム『修羅』と真っ向からぶつかっていた。
「やー、楽しいな、こういうのって」
 終始笑顔で、ミケランジェロと組み合っているのは、『黒』の『姫』である理月だ。
 頭には流麗なティアラが輝いているが、理月に『姫』としての自覚は皆無に均しく、ひとりで突っ込んで行っては仲間たちに呆れられている口だ。
「まさか、タマと戦うことになるなんて、思わなかったなぁ」
 細身に似合わぬ怪力で、ミケランジェロのモップを防ぎつつ、しみじみと理月が言うと、
「ちょ、待て、タマじゃねェ、ミケだ、ミケランジェロ! なんでその呼称なんだ……刀冴か、刀冴の影響だな!?」
 本人は激烈に否定しているのに徐々に浸透している恐ろしい通称に、ミケランジェロが目を剥いた。
「え、あー……そうだっけか、ごめん」
 謝っているが、理月に申し訳ないという気持ちや反省は皆無だ。
「やばい、どんどん広まって行ってる気がするぞ、コレ……ッ!」
 血を吐きそうな顔でミケランジェロが呻く。
「と、刀冴……」
 そこから少し離れた位置では、『修羅』の姫である昇太郎が、首まで赤くなって、必死でクレイ・ブランハムの背後に隠れようとしている。
 昇太郎の目の前には、彼が兄のように慕っている天人の将軍にしてミケランジェロの永遠の天敵・刀冴の姿がある。
「昇太郎、それ、」
「み、みなまで言わんでええ! あの、カフェ『楽園』の連中に捕まって、その……!」
 刀冴を前に、超しどろもどろで右往左往する昇太郎。
 クレイが笑いを堪えているのを、恨みがましげに見遣るが、涙目では迫力は皆無だ。
 そう、昇太郎は、じゃんけんで負けて『姫』役を押し付けられた挙げ句、運悪く通りかかった女王と非道な仲間たちにターゲット・ロックオンされ、真っ赤な振袖をリメイクして作った華やかなワンピースを着せられて、化粧まで施されてしまっているのだ。
 踏んだり蹴ったりとはこのことで、八つ当たりを込めて周囲に甚大な被害をもたらしていた昇太郎だったが、他の誰に見られても、彼にだけは見られたくないと思っていた刀冴に見つかるや否や戦意を喪失し、半泣きで敵前逃亡しようとしている。
 そんな昇太郎に突き刺さる、
「よく似合ってるぜ、昇太郎。本当の姫君みてぇだ」
 本気と判るから余計に辛い、刀冴の賛美。
「まったくもって喜べんのやけどな、その褒め言葉……ッ!」
 すでに昇太郎の気力は折れる寸前である。
 そんなやりとりに何せ刀冴さんだからなぁなどと呆れつつ、瑠意はスルト・レイゼンと対峙していた。
「うわ、これ、厄介だな……!」
 スルトの繰り出す血の糸に全身を絡め取られそうになり、慌てて【凌牙】でもってそれらを切り払い、背後に跳んで逃げる。
 彼の背後には、黒竜エルガ・ゾーナに乗ったリゲイル・ジブリールの姿があって、瑠意とスルトの戦いに熱烈な拍手を送っている。
「瑠意兄様、頑張って!」
 少女の声援に瑠意の目尻が下がり、その後表情が引き締められる。
 防御力が必要だろうという理由で、チーム『黒』の『姫』は理月だが、『黒』が全面的に守っているのはリゲイルだった。
 リゲイルは、理月が『姫』をやると聞き、いつも守ってくれる彼を守りたくて『黒』に参加したのだが、当然、リゲイルには甘い、優秀な頼れる騎士たちが、彼女を守らないわけがない。好き勝手に突っ込んで行く理月ですら、リゲイルの動向は常に気にしていて、何かあればすぐに戻ってくるのだ。
 実の妹のように溺愛しているリゲイルが見ているとあっては、瑠意としても、張り切らないわけには行かない。
「……やるな、スルトさん」
「ふふ、そうかな」
 瑠意の言葉に、スルトが楽しげに笑う。
 スルトは、勝敗や景品よりも、純粋に、仲のよい友人たちと賑やかな催しに参加することを楽しんでいた。
 そして、投げやりで後ろ向きだった昇太郎が、日々を懸命に生きようとし始めた、その変化を感じ取り、嬉しく思ってもいる。
「でも……負けないからなっ!」
 瑠意が天狼剣と【凌牙】を構えたので、スルトは血の糸で蜘蛛の巣を編むべく片手を掲げた。
 ――まではよかったのだが、瑠意の背後で繰り広げられている惨状に、スルトの目が点になる。それに気づいた瑠意が訝しげに後ろを振り向き、素晴らしく微妙な表情で沈黙する。
「え、あの、ちょ、ブラックウッドさ……」
「なに、老いても騎士は姫君をお守りするものだからね」
「いやあの、これ、どう考えても守ってな……」
 ブラックウッドは、理月に誘われてこの催しに参加したのだが、理月に誘われたから、というのが一番大きな理由なので、勝敗へのこだわりは一切ない。一切ないどころか、戦いに専念しすぎて無防備極まりない理月に要らんことをする気満々なので、むしろ背後を守られている方が危険と言って過言ではないだろう。
 それを正しく実践するべく、ブラックウッドが、いつの間にか理月の背後に忍び寄り、彼の引き締まった腰に腕を回して首筋に息を吹きかけると、
「ぎゃああっ!?」
 実も蓋もない悲鳴が上がる。
 理月と対戦していたミケランジェロが、何か言いたそうにしているが、ブラックウッドの醸し出す大人の魅力オーラ(カラーは紫に金のラメ)に危険を感じ取ってか、特に突っ込みを入れるでもなく、彼は何やら生温かい表情とともにそっとその場を離れていった。
「ああ、ほら、ふたりきりになれたよ、理月君」
「いやいやいや、普通に公衆の面前だと思うんだが!? っていうかミケ、ちょっと、戦いを放棄すんなってー!?」
 響く悲鳴。
「……おや」
 十狼は、ヘタに本気を出すと星砂海岸が壊滅しかねないのもあって、『姫』を狙って来るものを適当にあしらいつつ、リゲイルが怪我をしないようにだけ気を配っていたのだが、ブラックウッドが何やら楽しげなことを始めたのを見て、ちらりと瑠意を見遣った。
「え」
 野生の動物的な勘で十狼の視線に気づいたらしい瑠意が、素晴らしく腰の引けた様子で彼を見上げる。
 そこへ迫る、スルトの血の糸。
「う、わっ」
 目にも留まらぬ速さで糸を掻い潜り、瑠意を米俵でも持つように抱え上げ、血の糸から守ったのち、
「えーと、そもそもの原因は十狼さんのような気もするんだけど、とりあえず、ありが……」
「礼ならば、態度で示していただこうかな」
 ぽかんとしているスルトを尻目に、胡散臭いほどの満面の笑みとともに会場をドロップ・アウトする十狼である。
「ちょっ……じゅ、十狼さん――――ッ!?」
 ドップラー効果で瑠意の悲鳴が尾を引く。
 ロゼッタ・レモンバームは、お茶を楽しみながら団体戦を楽しむつもりで来ていたのだが、クレイが参加しているのを見て予定を変更し、彼をいじめる気満々で参加を申し込んだ。
 チーム名は『茨』。
 誰をちくちくと刺すための棘なのかは、推して知るべし。
「さて……どういう風に、弄繰り回してやろうか、な……?」
 ティアラを奪われると失格となり、試合会場にはいられなくなるので、誰かを盾にしつつ人の波をすり抜け、時には魔法で身体能力を上げながら、クレイがもっともダメージを受ける方法を模索していたロゼッタは、ふと見遣った先に、兎獣人・ニーチェの姿を認めてにやりと笑った。
 ニーチェは、露出度最高級の、水着というべきなのかちょっとだけ身体を覆っている赤い布というべきなのか判然としない、キュートでセクシーな衣装で団体戦に参加していた。
 初心な青少年を悩殺し、戦闘不能に陥れまくっていた彼女の目に、クレイ・ブランハムが映ったのは運命とでも言うしかない。
「クレイ、逢いたかったわあぁ――――んっ!」
 草食動物なのに獲物を狩る目になったニーチェがダッシュの体勢に入ったのと、背筋を悪寒が走り抜け、ハッとなって振り向いたクレイが超悩殺姿(女性恐怖症にはジェノサイド級インパクト)のニーチェに気づいたのはほぼ同時だった。
「……ッッ!?」
 目を剥き、息を飲むと同時に、ちょうど傍に来ていたミケランジェロを引っ張り寄せ、ニーチェに向かって背中を突き飛ばしたクレイが、
「あ……後のことは任せろ!」
 何をどう任せろなんだよ!? というミケランジェロのツッコミを無視して脱兎のごとく逃げ出――……
「残念だったな」
 そうとしたところで、酷く楽しそうな、ロゼッタの声が響いた。
 瞬間、砂浜から植物の蔓が湧き出て、クレイに絡みつき、彼の動きを封じてしまう。
「な……!?」
 驚愕する暇もあらばこそ。
 目の前に、ニーチェが立っていた。
 瞬間移動かと突っ込みたくなるほどの速度である。
「うふふ、兎の脚力、舐めないでほしいわん」
 言って、一歩踏み出したニーチェの、水着なのか布なのか判然としない赤いそれ、豊満な美乳を辛うじて隠しているトップス部分が、何の前触れもなくぽろりと外れて落ちた。
 紐で結んでいるだけの水着だから、激しく動けば取れやすくなるのは当然なのだが、
「いやあぁーん、取れちゃったぁ、うふん」
 いやーんと言いつつまったく困っていない様子で、ぱっと胸を押さえるニーチェ。
 クレイは血を吐いて死ぬかと思った。
「ぐぐぐ、はーなーせ――――!!」
 これ以上近づかれてたまるかと、半分失神しつつも必死で蔓から逃れようともがくクレイ、お色気と悩殺笑顔を振り撒きながら迫るニーチェ、魔王さながらに笑うロゼッタ。
 あまりにも愉快すぎる図に、周囲の人々は、思わず、突っ込みも忘れて展開を見守ってしまったという。
 ――クレイがどんな目に遭ったかは、大人の事情で割愛しておく。
「なんて幸せなのかしら、あたしって……!」
 チーム『ロルベーア・クランツ』のマナミ・フォイエルバッハは、頭に輝くティアラを載せ、前後を美男子に守られて絶賛ときめき中だった。
 せっかくのお祭なのだから、と参加したマナミは、初め、DP警官たちでチームを作ろうかと思っていたのだが、
「来るぞ、マナミ!」
「あなたのことは我々が守りますが、マナミさんも警戒しておいてください、一筋縄では行かない場所ですからね……」
「ええ……判ってるわ、ふたりとも、気をつけて」
 面食いのマナミのお眼鏡に叶う、好みで言えばストライクゾーンど真ん中のハンス・ヨーゼフとエリク・ヴォルムスを見つけ、まったくの初対面だったのだが、ふたりを説き伏せて半ば無理やりチームを組んでもらったのだった。
 三人は今、エルヴィーネ・ブルグスミューラーと近衛佳織のチーム『シンデレラと魔女』と対峙していた。
 佳織の頭には、マナミのものと同じティアラが輝いている。
「お嬢様にこのような危険な役はさせられぬ……さあ、ティアラがほしくばかかってくるがいい!」
 朗々と言い放ち、佳織はタロットを抜き出した。
 前衛を務めるエリクの隙のなさから、呪文を完全に詠唱している暇はないと判断した佳織が、
「月よ、負なる者の試練を与えし盲目の黄金よ!」
 キーワードのみの詠唱で、半径十メートル内に暗闇を発生させ、視界を妨げると同時に、するり、と、エルヴィーネが動いた。
 普通の人間であれば、これだけでかなりの目くらましになったのだが、
「……効かん」
 残念ながら、ヨーゼフとエリクは、『普通』でもなければ、ただの人間でもなかった。
 後衛のヨーゼフが、音もなく、瞬間移動さながらにマナミに忍び寄ったエルヴィーネを阻止。エリクが、単純な戦闘能力だけならば実の兄を凌駕すらする身体能力で持って、一気に佳織の懐へ入り込む。
 エリクが佳織からティアラを奪おうとするより早く、
「違うわエリク、彼女は囮よ!」
 響くのは、マナミの声だ。
「本当の『姫』はそっちよ!」
 DP警官としての特徴である超能力、予知能力を活かし、『シンデレラと魔女』の嘘を暴く。
 軽く肩をすくめたエルヴィーネが、
「あら……ばれてしまったわね。まぁ、仕方がないかしら」
 素早く撤退に移るより早く、彼女の前に、撤退方向を予知で読んでいたマナミが立ちはだかり、衣装の隙間に吊り下げてあったティアラをするりと抜き取る。
「さすがに、殿方に、女の子の服の中に手を入れさせるわけには、行かないものね……」
 悪戯っぽく笑い、マナミが、手の中のティアラをくるりと回転させた。
 エルヴィーネが、また、小さく肩をすくめる。
「ああっ、しまった、お嬢様……!」
 心底悔しげに、佳織ががくりと膝を折る。
 主人よりも無念そうだ。
「お嬢様、お守りできなかった私を、お許しください……!」
「……大袈裟よ」
 砂を掴んで悔しがる佳織に、エルヴィーネが呆れた視線を向ける。
「さあ、俺たちとやろうって奴らは、いねぇのか!?」
 桑島平はノリノリで声を上げていた。
 腰に手を当てて胸を張る平の隣には、まったく同じ体勢の赤城竜と、槌谷悟郎の姿がある。
 彼らのチーム名は、『オヤジ姫と愉快なオヤジたち』。
 実際、全員がオヤジなのだから、『姫』をやるのもオヤジに決まっている。
 異様というか微妙なのは、彼らが三人とも、色違いのアフロと鬼のパンツを履いていることだろう。
 平が青、竜が赤、悟郎が黒。
 ちなみにアフロは、誰がティアラを被っているか判らなくするためのものである。
「しかし、なんでこんなことに……」
 ぼそりと悟郎が呟く。
 ノリの妖精に何かされたわけでもないのに、ノリと勢いでここまで来てしまった感がある彼の目には、諦観の光が漂っている。
 そこへ、背後から聞こえて来る、「セイヤ、セイヤ、セイヤ!」という威勢のいい掛け声。
 驚愕とも歓声とも取れぬどよめきが上がる。
「おっ、俺たちに相応しい対戦相手があらわ、れ……」
 勢い込んで振り向き、平は沈黙した。
「おぉ、こいつぁ剛毅だ」
 竜が感嘆めいた声を上げ、
「……どこからどう突っ込むべきかな、これ……」
 悟郎は遠い目をする。
 他の団体戦参加者たち、かなり残り少なくなってきた面々が、思う存分ドン引きして、波間が割れるかのように、潮が引くかのように、彼らから距離を取る。
 ――そこにいたのは、目にも眩しい深紅のゴスロリ衣装を身にまとい、SM界の女王陛下もかくやという勢いでM字開脚した地獄の悪鬼・ゲートルードと、彼を神輿さながらに担ぎ上げた、黄金の獅子型獣人トト・エドラグラ及び守月志郎だった。
「さあ、退いた退いた、ゲートルード姫のお通りだぜッ!」
 前方のトトはノリノリだが、後方の志郎は若干腰が引けている。
 トトが輝くような本気笑顔なのに対し、志郎の笑顔はやはり若干引き攣り気味だ。
 トトと同じく、チーム『地獄のプリンセス』のベルゼブルと真禮がごく普通にそれを受け入れている中、周囲を守る唯瑞貴はドン引きと諦めの入り混じった超絶微妙な表情をしている。
「むうう……強敵出現、ってやつか……!」
 平が呻き、竜と悟郎に目配せをする。
 ふたりが頷く。
「そっちが漢神輿なら……こっちは、オヤジトーテムポールで挑むぜ……!」
 平が言うと同時に、悟郎が平を肩車し、竜が更にそのふたりを肩車する。
「ぐ、これはきつい……!」
 悟郎が思わず呻くのへ、
「気合いだ、気合い! 桑島へのラブとかリーベとかアムールとかそういうもんで乗り切れ!」
 竜の叱咤激励が飛ぶ。
「ラブとかリーベとかアムールって全部愛だよねそれ……って、なかなか難しいことを言うね……!?」
「ちょ、何だよ槌谷! お前、オレのこと愛してないのかよ!」
「いやいやいやそれはちょっとどころじゃなく困った誤解を招きそうだからそういう物言いは止そう!?」
 周囲の視線が生温くなりそうな会話を交わすオヤジトーテムポールの面々。
 それを見て、
「素晴らしい……愛とは、かくも強きものなのですね……!」
 頭に燦然とティアラを輝かせたゲートルード姫が感動のあまり涙ぐむ。
 そのヴィジュアル的破壊力、プライスレス。
 幼児の膀胱程度なら軽く崩壊するだろう威力だ。
 トトは、ゲートルード姫の言う通りだぜ! と満面の笑顔を見せていたが、志郎は諦観の溜め息をつき、唯瑞貴に至ってはあまりの破壊力にちょっと涙目だ。
「まァいい……さあ、誰が姫か判るかな、ふふふ……!」
 胸を張ったオヤジトーテムポールが、絶妙にバランスを取りながら『地獄のプリンセス』と睨み合う。
「負けねぇぞ、ゲートルード姫のためにも……!」
 闘志を滾らせるトト、やることをやらなければ終われないので、溜め息をついて気合いを入れ直す志郎。隣に並んだ唯瑞貴と目が合って、思わず共感の目配せをかわす。
 ――曰く、早く終わらせよう、という。
 ふたりの切実なそれは、次の瞬間叶えられた。
「一番上、緑の、だ」
 響いた声は、チーム『ホワイトドラゴン』の嘘発見器、ジョン・ドウのもの。
「っしゃ、了解!」
 横から突っ込んできたのは、同チームのイェータ・グラディウス、阿久津刃。
「ぅおわぁッ!?」
 横っ腹に突撃された竜がバランスを崩し、オヤジトーテムポールが一気に瓦解する。その拍子に、緑・赤・黒のアフロが宙を舞い、平の頭の上のティアラをあらわにした。
 ちなみに、悟郎の頭の上にはちょんまげ、竜の頭の上にはモヒカンのカツラが載っている。
「いただきっ!」
 嬉しげな、闊達な声とともに、崩れ落ちていくオヤジトーテムポールの脇をすり抜けながらティアラを掻っ攫っていったのは、『ホワイトドラゴン』の『姫』である月下部理晨だ。
「し、しまったー!?」
 平の悲痛な声が響き渡る。
 それと同時に、反対側から突っ込んできた、チーム『SNO(白い砂浜と夏のお嬢さん)』のメンバー、夜乃日黄泉が素晴らしい手つきで鞭を揮い、ゲートルード姫の頭からティアラを奪い取った。
「ありがとう、いただくわね!」
 投げキッスをしてすり抜けていく日黄泉、こちらもバランスを崩して引っ繰り返る漢神輿。
「ぐう、む、無念……」
 ゲートルード姫が砂浜に散り、
「うぐおおおおお、ひ、ひべざぶわあああああああ!!」
 トトが男泣きに泣きながら姫に取りすがる。
 そんな地獄絵図。
 志郎と唯瑞貴はホッとした顔をしていたとかいないとか。
 しかし、これで、残りチームは本当にわずかとなった。
 『ホワイトドラゴン』と『SNO』が、覇権をかけて睨み合う中、『姫』を守るべき老騎士が『姫』にちょっかいをかけているという隙を狙ってチーム『黒』の理月からティアラを掻っ攫い、更に瞬間移動でチーム『ロルベーア・クランツ』のマナミからもティアラを奪ったのは、個人参加の津田俊介だった。
 そのころには、『修羅』や『茨』も、無駄に身体能力の高い『ホワイトドラゴン』のメンツによってティアラを奪われ――といっても昇太郎などすでに戦意のほとんどを喪失していたので、それほど苦労はなかったかもしれない――、脱落している。
「も、もう少し……」
 俊介は個人参加なので、当然頭にはティアラが載っている。
 同時に、『姫』だから、と女王と鬼畜な仲間たちにとっ捕まって、裾の短いスカイブルーのワンピースやアクセサリその他で飾り付けられてしまった俊介の心は致命傷気味だ。複雑骨折でもいい。
 しかし、彼には目的がある。
 ヘタレでビビリな彼がここまで頑張るというのは椿事に近いのだが、だからといってそれを、残り少ないライバルたちが斟酌してくれるはずはない。
 自然、俊介は全身を緊張させる羽目になる。
「……行くぜ」
 真実の意味でホワイトドラゴンにとって姫的な、至宝とでも言うべき理晨だが、彼に、『姫』としての自覚はまったくない。
 メンバーの呆れ顔を尻目に、チーム『SNO』の姫役、崎守敏めがけて、一直線に突っ込んでいく。
「あはは、夏のお嬢さんにあんまりひどいことしないでほしいのさ!」
 動きやすさ総無視デザインの、フリッフリの白いワンピース――ただし身体能力を上げる効果が付加されている――、純白のレースが花びらのように全体を覆う繊細優美なそれを身にまとい、華奢なサンダルに麦藁帽子という出で立ちの敏は、手に水鉄砲を持っていて、それを、突っ込んでくる理晨めがけて発射する。
 噴出されたのは勿論単なる水だったが、
「え、う、ぅわ……ッ!?」
 水しぶきがかかるや否や、理晨はバランスを崩して転倒した。
 敏の発明品、相手の平衡感覚を崩す水鉄砲の効果である。
「よくやったわ、敏! さあ……覚悟なさいな!」
 凛とした声は上空から響いた。
 空から理晨めがけて舞い降りるのは、ロケーションエリア展開で背中から翼を生やした、レモンと日黄泉、コスチュームBに身を包んだ二階堂美樹と七海遥だ。
「スターってのは、こういうとこ、面倒臭ぇ、よな……ッ!」
 交互に上を飛び交う乙女たちに、ティアラを奪われそうになって、理晨はまだ平衡感覚が戻らぬまま、砂浜を転がるようにして彼女らの手を避ける。
 そこへ突っ込んできたのは阿久津刃だ。
「テメェら! 俺の理晨に指一本でも触れやがったら、タダじゃ済まねぇぜッ!」
 開口一番、そんなことを言い放ち、「誰がお前の理晨だ、このド阿呆ッ!」と、他のメンバーから総ツッコミされている。
「ふふふ、強い男って、好きよ……?」
 日黄泉の鞭が唸り、刃に襲い掛かる。
「ははッ、そりゃ、光栄だぜ……!」
 刃はそれを、眼にもとまらぬ早業で、素手のまま掴み取った。
「……あら」
 力比べをする不利を悟った日黄泉が鞭を手放し、背中の翼をはためかせて距離を取る。刃はそれを見上げてにやりと笑った。
「……理晨は、俺が守る……」
 上空に残る四人の翼乙女を、要所要所をゴムでカバーし、危険度を減らしたラジコンヘリで蹴散らすのは、ホワイトドラゴンの乗り物オタクといえば彼、な、トイズ・ダグラスだ。
 全長一メートルほどのラジコンヘリを改良し、運動能力を上げつつ他者を傷つける危険を少なくした――何せ理晨が、楽しいお祭の場で怪我人が出るのは嫌だと言ったので――それは、自由自在と表現するのが相応しい滑らかな動きで空を飛び、レモンたちを散り散りに追い立てる。
「もうッ、なんなのよ、こいつーっ!」
 聖なる兎様が怒りの声を上げるが、乗り物の操縦ならば何でも超一流というトイズの操るラジコンヘリには勝てず、空からの撤退を余儀なくされる。
 その間に、ロケーションエリアの効果も切れ、翼はかき消えた。
「なら……今度は、私の番、ね……?」
 チームメイトたちにウィンクをした日黄泉が、自身のロケーションエリアを展開する。
 彼女のロケーションエリア。
 半径二メートル以内の人間が、凄腕のエージェントになる。
 その範囲内にいたのは、先ほどの翼乙女四人衆だ。
「うわぁ……身体が軽い……ッ!」
「ホント、すごーい!」
 美樹と遥は、感動している。
 ふたりは、顔を見合わせて頷き、砂浜とは思えない軽やかさで走り出した。遥の視線の先には、ようやく敏の水鉄砲の効果が切れた理晨の姿がある。
「すみません、サインください!」
 ロケーションエリアの効果で、高速で色紙を差し出す能力を付加された遥の、趣味と実益を兼ねたサインください攻撃だったが、理晨は、
「あ、悪ぃ、今オフ中だから、そういうの受けねぇことにしてるんだ、ごめんな」
 飄々と言って、敏めがけて走り去ってしまう。
「ああ、そうなんだー。私、『ムーンシェイド』のファンなのに、残念……」
 戦いを忘れ、本気で残念がる遥から少し離れた位置で、美樹は男装の麗人・ランスロットと対峙していた。
 ランスロットは、縦横無尽に砂浜を駆け巡る理晨をうっとりと見つめては、
「ふふふ、じゃじゃ馬な理晨も、素敵ですよね……」
 などと呟いていたが、美樹がハリセンを手に身構えると、自分は二メートル近い棒を得物に臨戦態勢を取った。
「……負けないわよ」
「私もです。理晨がそう望むのならば、負けられません」
 そして、次の瞬間、がっちりと組み合う。
 ――何故ハリセンと棒が組み合えるのか、などと突っ込んではいけない。
 バロア・リィムはレモンに巻き込まれて『SNO』に強制参加させられていた。
「『鴉よ、闇の寵児よ/深遠より出でて/夜を停滞せしめる冷眼よ/かの広き翼を震わせ/我が前に静寂の帳を下ろせ』」
 対戦相手にのみ効果のあるめくらまし用の闇魔法を発動して、メンバーを戦いやすくしたバロアだが、彼は、魔法を使うことに対して制約のある身体なので、当然、
「うぶ……血の味がする……」
 咳き込んで軽く血を吐いている。
 おまけに今の彼は、女王と無体な仲間たちに弄ばれて、純白のワンピースに麦藁帽子、華奢なサンダルという、『姫』役の敏と同じ夏のお嬢さんスタイル@バロナに大変身中だ。
 それだけでも心が折れそうなのに、海上を見遣ると、薺とタスクが仲良く水遊びをしている。イラッとすると同時に、頼むからこっち見るな、と切実に思いもする。
 バロナ、もう疲れちゃったわ……。
 これも『楽園』の呪いなのか、女言葉で呟きそうになり、慌てて自分を叱咤激励するバロアである。
「え、ええと……大丈夫、か……?」
 ジョンは、乾いた笑いを漏らすバロアを思わず心配してしまった。
 彼は、『姫』でも何でもないのに、何故か女王によって犬耳と首輪をつけられていた。
 ジョンは特に気にしていないが、時に毛並みのいいゴールデンレトリーバーと称される彼にそれはよく似合っていたし、少々倒錯的な雰囲気をも醸し出している。
「えー? ……うん、まぁね、こういうこともあるよね、きっとそうだよ、ふふふふふふふ」
 やはり乾いた声で笑うバロア。
 どうしたらいいのかとオロオロしかけたジョンは、理晨を見失ったことに気づいてきょろきょろ周囲を見渡し、砂浜を疾走する理晨の姿に安堵の表情を浮かべた。
 どこまで行ってもポチである。
 その間に、レモンはリシャール・スーリエと対峙していた。
「ふふん、あたしの華麗なる技について来られるかしらね……!?」
 テンション高くファイティング・ポーズを取るうさぎ様に、大層個性的な私服を身にまとったリシャールは、退廃的というか、熱のない、醒めた眼差しを向け、
「理晨に……触らせなければ、いいんでしょ……?」
 模擬戦用の銃を手に、構えた。
 日黄泉のロケーションエリアで身体能力が増大したレモンが突っ込んでくると、リシャールはそれを冷静な目で見極め、わずかに身を引いて避けた。
「……やるわね……!」
 砂浜を、足場の悪さを感じさせない軽やかさで踏みしめたレモンが華麗な蹴りを繰り出して来る。それを避けると今度はラビット流星拳なる鋭いラッシュが左右から繰り出され、息つく暇もない攻撃がリシャールを襲うが、全体的にリシャールは沈着だ。
 周囲に気を配り、常に理晨の場所を掴みつつ、最小限の動きでうさぎ様の攻撃を避け、または受け流していく。
「……やるじゃない、あんた」
 レモンが感心すると、リシャールは熱のない目で彼女を見遣り、
「腐っても、プロ……だからね……」
 ぼそり、とつぶやいた。
 その、彼の目に、波打ち際近くで理晨を応援する臥龍岡翼姫の姿が映る。
 リシャールは無言で模擬銃を構えた。
 レモンが鋭い眼差しで身構えるのへ、無造作に……的確に模擬弾を撃ち込んでいく。
「くっ……この……!」
 反撃の暇を与えず、レモンを追い詰め、追い立てていくリシャールだが、彼の目的は別にあった。
 即ち――永遠のライバル・翼姫への嫌がらせ、である。
 翼姫は、一応『ホワイトドラゴン』に登録して参加していたが、チームが負けるなどとは微塵も思っていないため、肉体労働は他のメンバーに任せて、理晨の一挙手一投足を追うことに夢中になっていた。
 もう少し戦闘能力が高ければ、理晨を守ってあげたいと思うが、理晨がそれを必要としていないことも、もちろん知っている。
「理晨、素敵よ、頑張ってー!」
 夢中で理晨を応援していた翼姫は、不覚にも、リシャールが、レモンを追う振りをしてすぐ傍を駆け抜けて行きながら自分を突き飛ばしたのに、対処することが出来なかった。
「きゃあっ!」
 身体能力がそれほど高いわけではない、小柄な翼姫は、なすすべもなく吹き飛ばされ、よろめいて派手に転倒し、盛大な水しぶきを立てて海にはまってしまった。
 しかし、リシャールあとで泣かす、と胸中に復讐を誓いつつ、転んでもただでは起きないのが翼姫である。
「理晨、理晨、助けてー!」
 悲痛な声で呼ばわると、
「どうした翼姫、大丈夫か!?」
 案の定理晨は気づいてくれ、ジーンズの裾が濡れるのもお構いなしで翼姫に走り寄ると、海に浸かってびしょ濡れの翼姫を抱き上げてくれる。幸せで胸がほわんと温かくなり、翼姫は自然、満面の笑顔になる。
「ええ、大丈夫よ、でも……とっても怖かった。……ありがとう、理晨」
 当然、理晨を濡らしてしまって申し訳ないと思いつつも、ここぞとばかりに抱きつき、彼の腕を独り占めしてご満悦の翼姫だった。
 すでにほとんどが脱落した砂浜の真ん中で、サマリスは、イェータ・グラディウスと唯・クラルヴァインと向き合っていた。
 戦闘用ロボットであるサマリスを前にしては、ホワイトドラゴンでも有数の実力を持つイェータと唯も、さすがに気楽に勝利するなどということは不可能だ。
 おまけにサマリスは、両腕部マニピュレーターに通常火器、両肩のハードポイントにはガトリング砲を装備しており、二対一ですら不利と言う恐るべき相手だった。
 今も、『SNO』の『姫』に近づこうとするたびゴム弾(といっても、ヘタに喰らえば小骨の一本や二本は軽く折れるような高速弾だ)を一斉掃射され、ふたりは身動きが取れずにいる。
「でもまァ」
 イェータがぐっと足に力を込めた。
 唯はにっこり笑って頷く。
 イェータの言いたいことは、唯にはよく判る。
「――……こちらも、プロですからね」
 命のやり取りではないぶつかり合いに不思議な感覚を覚えている。
 ただ、己が力量を測るために戦う、それが清々しい。
「……行きますよ、イェータ?」
「おう」
 イェータがサマリス目がけて突っ込んでいく。
 サマリスのガトリング砲がイェータを狙い撃ちにする前に、唯はイェータから十秒遅れて走り出しながら、肩パーツとガトリング砲をつなぐジョイント部分を狙い、模擬戦用銃の引鉄を立て続けに引いた。
 サマリスの視線とゴム弾を詰めた通常火器が唯を向く。
 狙い違わぬ銃撃を跳んで避けながら、唯とイェータがサマリスを足止めしている間に、平衡感覚を取り戻した理晨が敏に向かっていく。
「……よし」
 俊介はここで勝負に打って出た。
 死角から一気に瞬間移動し、理晨と対峙している崎守敏の背後に回り込むと、彼が頭に載せているティアラを掴――……
「あはは、残念」
 明るい笑い声は、俊介の後ろから響いた。
「え……」
 振り返る間もなく、頭の上からティアラが消える。
 同時に、目の前にいたはずの敏も消えた。
「偽敏君も、キミも、ご苦労様でしたー」
「し、しまった……ッ!」
 がっくりと砂浜に崩れ落ちる俊介。
「指輪、プレゼントしたかったのになぁ……!」
 砂浜に半分埋まりながらアンニュイな溜め息をこぼす俊介を尻目に、敏と理晨は再度向かい合う。
 残ったティアラは、ふたりの頭上に輝くふたつのみ。
「……」
「……」
 無言で見詰め合うことしばし、ふたりは同時に動いた。
 敏は、一直線に突っ込みながら、片方の手で平衡感覚を崩す水鉄砲を撃ち、片方の手で理晨のティアラを狙い、理晨はそれを喰らう覚悟で突っ込みつつ敏のティアラに手を伸ばす。
 ――勝負は、一瞬。
 ふたりの身体が重なった、誰もがそう思った瞬間、
「ぅわっ……と……!?」
 理晨が盛大にバランスを崩して砂に突っ込み、勢いを殺しきれなかった敏は派手によろめきつつも転倒は免れ、砂を踏みしめて停止する。
 勝敗の行方を追って、皆が息を飲む。
 ――敏の頭上から、ティアラが消えていた。
「あー……」
 頭の上に手をやって、敏が肩をすくめる。
「ふー、びっくりした。ホント厄介だな、その水鉄砲。頭がぐらぐらするぜ」
 砂だらけの身体を起こした理晨の頭と手に、ティアラが輝いているのを見て、『ホワイトドラゴン』のメンバーが、そして観客が歓声を上げた。
 まだ砂に座り込んだままの理晨の元へ全力で抱きつきに行くホワイトドラゴンの面々を尻目に、エスターテが満面の笑顔で手を掲げた。
「勝者、チーム『ホワイトドラゴン』! 皆の健闘に、祝福を!」
 再度、わっ、という歓声。
 『ホワイトドラゴン』に歩み寄った夏の女神が、美しく透き通った指輪を、手の平の上に人数分創り出し、差し出すのを見ながら、レモンは悔しがる。
「ああん、負けちゃったわ……!」
 あと一歩だったのに、と頬を膨らませるうさぎ様のもとへ、
「残念だったわね……でも、楽しかったわ、誘ってくれて、ありがとう」
「日黄泉さんの言うとおりよ! 私も楽しかったわ、レモンちゃん!」
「滅多に出来ない経験が出来たしね。いい運動にもなったし……今夜はビールが美味しいわね、きっと」
 日黄泉と遥と美樹が歩み寄る。
 レモンは苦笑して頷いた。
 そこへ、
「わたくしからも、健闘を讃えさせていただいてよろしいかしら?」
 やってきたのは森の女王だ。
 女王に付き従うイーリスは、美しい緑の宝玉がはめ込まれた、シンプルなデザインのブローチを七つ、手にしている。
「エスターテさんの加護ほどの力はないかもしれないけれど、わたくしの愛する神代の森の、神秘的な朝露の力を込めたものよ。あなたがたがそれと望むとき、ほんの少し、不思議な力を発揮するわ。――よろしければ、お持ちになって」
 女王はそう説明した後、ぐったり項垂れて会場を去ろうとしていた俊介を呼び止めた。
「それから……俊美さん?」
「ええと……それって、もしかして、僕のことですかね」
「もちろん」
「色々間違ってるんだけど、訂正するのも疲れたからやめておこう……なんですか?」
 欲しかったのはエスターテの力が込められた指輪なのに、源氏名をゲットしてしまった。――まったくもって嬉しくない。
「あなた、エスターテさんの指輪を、どなたかにプレゼントしたかったの?」
「え、き、聴こえてたんですか……!?」
「ええ、わたくし、地獄耳なの」
「ああ、だから美★チェンジ被害者って、一様に、どんな場所でも下手なことは口にするなって言うのか……いやまぁさておき。ええと、はい、友人が危険な目に遭わなくて済むように、お守りに渡せたらなぁと思って」
 俊介の脳裏に浮かぶのは、もちろん、人魚の歌姫だ。
 彼女は、人外の存在を過剰なまでに恐れてしまう俊介が、もう一度会いたい、もう少し近づきたいと思える少女だった。
「まぁ……そうなの、それは、素敵ね」
 微笑んだ女王が、俊介に掌を差し伸べる。
 そこに、いつの間にか、淡く澄んだ、アメジストとは違う風合いの紫色をした小さな石がはめ込まれた銀の指輪がふたつ、載っていて、俊介はもの問いたげに女王を見上げる。
「ターフェアイト、という石だったと思うのだけれど、懇意にしている方からいただいたものを、イーリスが細工して、それを神代の森の夜露で清めたの。それほど大きな力を持つわけではないけれど、これがおふたりの絆になれば幸いよ」
「え、でも……」
 俊介が、勝ったわけでもなんでもないのに、と躊躇すると、女王は彼の手を取って、思わずびくっとなる俊介の手の平に、美しい指輪をそっと置いた。
「こういう出会いもまた、縁だと言うもの。この石は、あなたと、あなたの大切な人と出会うために、わたくしの元へ来たのよ」
 そう、悪戯っぽく微笑まれて、俊介は苦笑し、頷く。
「……ありがとうございます」
「どう致しまして」
 その頃には、エスターテがホワイトドラゴンの人々を祝福し終えていた。
「皆、今日はありがとう、とても楽しかった」
 未だ熱気に満ちた海岸を慈しむように見つめ、エスターテは微笑む。
「善き場所へ降り立つことが出来た己を、わたくしは喜ぼう」
 この、賑やかなエネルギーを、ともに感じることが出来てよかった、と、女神は思い、言葉なしにそれを感じ取って、人々は微笑みとともに頷くのだ。
「今しばらく、この海岸は夏の女神の領域にある。夏の終わり、真紅のエネルギーを、存分に感じ、楽しんで行ってくれ」
 その言葉を合図に、また、海岸には喧騒が溢れ、笑い声と幸せな笑顔とがあちこちでこぼれ、今という時間を刻んで行くのだ。
 少しずつ西へ去ってゆく太陽を引き止めようとでもするように、祭は、まだ、続く。



 6.夜、静かに波は謳い

 昼間の、賑やかな催しが終われば、やってくるのは穏やかな静寂だ。
「ああ、綺麗な夜空だ」
 レイエン・クーリドゥは、ルースフィアン・スノウィスと手を取り合い、砂浜をゆっくりと散歩していた。
「うん……少し、涼しくなって来たね。もうすぐに、秋になるんだろうか」
 ルースフィアンは頷くと、レイエンとともに近くの岩場に腰かける。
 美しい月と、美しい星が、滑らかな夜空を彩っていた。
 ふたりでそれを見上げ、そのとてつもない幸いに、ルースフィアンは微笑をこぼした。
「どうしたんだい、ルースフィアン?」
「……今の幸せがあるのは、貴方のお陰だと思う。これからも、夢が続く限りは、一緒に居て欲しい」
 真摯な願いは、切実な祈りでもある。
 夢が醒める不安はいつまでもつきまとうけれど、それでも、醒めるまでは真実で、現実なのだ。
 いつまでもこうしていたいという想いに代わりはない。
「貴方なしには、生きていけない」
「……ルースフィアン」
「傍にいて、ずっと、抱き締めていて」
 ルースフィアンのその言葉に、レイエンが微笑み、彼の肩を抱いた。
 それ以外に必要なものを、彼らは知らない。

「ですから、誤解なんですよ」
 ルイーシャ・ドミニカムは、神月枢と砂浜を歩いていた。
「ここ数年、恋人がいたこともありませんよ」
 枢が、苦笑交じりに、昨年のハロウィンで受けた誤解を解こうと言葉を尽くしたので、ルイーシャはそれを受け止めることが出来た。
「そうだったのですね、誤解をしてしまってごめんなさい」
「いいえ」
「お詫びに、今度、お茶でもいかがかしら?」
「……ああ、いいですね」
「嬉しいですわ。手作りのお菓子と、美味しいお茶を準備して、お待ちしておりますわね。――お好きな銘柄を、教えていただけますかしら?」

 ほのぼのと言葉を交わす脇を、レイの姿を見つけたティモネが足早に通り過ぎていく。
 ティモネはレイに追いつくと、彼の肩を軽くたたき、レイが振り向くと頬に指をぶすりと突き刺した。
「何、ティモネ姫」
「姫じゃないわよ、もう」
「や、まぁ、そうなんだけど」
 肩をすくめるレイの襟を掴み、ティモネは、
「今日はありがとう。……お礼を言わなきゃね」
 レイを乱暴に引き寄せ、頬に口づけ、思わずぽかんとするレイに、微かに笑った。

「……カップルばっかりだな」
 ルークレイル・ブラックは、祭を一通り見学したあと、海賊船に戻ろうとしたのだが、カップルの多さに辟易していた。
 しかし、
「……おや」
 海上を漂う海賊船に点る、温かな灯を見て苦笑を収めた。
「帰るべき場所、か……」
 灯は、証だ。
 仲間がいて、絆があり、目指すものがあるという、存在の証明だ。
 それが、ことの他力強く、心強く、胸を打つのだと、ルークレイルは今更のように思い、目を細めて灯火を見つめる。

「……これ……?」
 藍玉は、津田俊介に、淡い紫色の石が煌めく指輪を差し出され、素直に喜んでいた。
「でも……どうして?」
「いや、その。藍玉が、変な連中に捕まらないように、お守りだよ」
「……まあ」
 指に通すと、それは、藍玉のために作られたものであるかのように、彼女の指にしっかりと馴染んだ。
 きらきらと光る石が、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「ありがとう、俊介」
 藍玉は微笑んだ。
 人外を恐れる彼が、自分に示してくれる、この好意を嬉しいと思う。

 アルはシャノン・ヴォルムスと並んで砂浜を歩いていた。
「……アルと出会えて、よかった」
 シャノンが言い、アルの肩を抱く。
「アルとともに生きられて、俺は幸せだ。アルのすべてが、俺を幸せにしてくれる」
 静かに語られる率直な気持ちに、知らず知らず頬が上気する。
「……僕も、幸せです。シャノン、あなたと出会えて」
 ここに来て、色々な人と出会えた。そして変われた。
 幸せな時間も、いつかは終わるけれど、それまでに出来るだけ想い出を増やしていきたい、そう思う。

 天月桜は、後片付けを白月に任せて、鴣取虹と並んで海を見つめていた。
 吹き付ける潮風は、すでに秋の匂いを含んでいるように感じられ、時間の経つのは早いものだ、などと思う。
「その……虹さん。いつも、色々と手伝ってくださって、本当にありがとうございます」
「や、そんな。楽しんでやってることっすから」
 虹は照れたように頭を掻き、桜の横顔を見つめる。
 穏やかに過ぎてゆく、他愛のない時間。
 それを、とてつもなく幸せだと思う。
(いつか、告白できたらいいなぁ……)
 そんな想いを秘めながら。

「……ずいぶん、涼しゅうなったな」
 女装から解放されてようやく平素の己を取り戻し、昇太郎はちらちらと瞬く星空を見上げて目を細めていた。
 ここに来て、彼の命は違う意味を帯びた。
 彼が生きることが、彼の愛した女を生かす、それを、昇太郎は実践しようとしている。
「……俺は、幸せ者なんじゃな」
 昇太郎は呟き、隣に佇むミケランジェロを見遣った。
「ありがとうな、ミゲル」
 穏やかな目で、昇太郎を見ていたミケランジェロは、彼の告げた感謝の言葉に、
「遅ェんだよ、馬鹿」
 嬉しげに、どこか照れたように、昇太郎の頭をくしゃくしゃ掻き回した。
「でも、まァ……お前が幸せなら、それでいい」
 ミケランジェロはそう言って、肩をすくめる。

 満天の星空を見上げていた理月は、隣のブラックウッドが優しい眼差しで自分を見つめていることに気づき、
「今日はありがとう」
 そう言って笑った。
「――……それと、いつもありがとう」
 万感の思いを込めたそれに、ブラックウッドが黄金の目を細めて頷く。
「いいや、君のその心、その笑顔に、私もたくさんのものをもらっているからね」
 言って、ブラックウッドは手を差し伸べる。
 その手の中指には、理月が贈ったアンティークの指輪があった。
「いつも、はめているよ。どんな時でも、君を身近に感じられるように」
 ブラックウッドの言葉に、理月が、無防備な笑顔を見せる。
 穏やかに、何の変哲もない時間が過ぎていく。
 それを、幸せだと、思った。

「……今、幸せか?」
 刀冴は、リゲイル・ジブリールと夜の海岸を散歩していた。
 リゲイルは裸足で、楽しそうに歩いていたが、刀冴の問いに、ほんの少し驚いた顔をした。
 それから、照れ臭そうに笑って、頷く。
「……うん」
 これまでに色々な事件があって、色々なものをなくした。
 大切な人が、もう戻らなくなった。
 哀しみは、きっとどこまでも残り、消えることはないだろう。
 しかし、同じ痛み、同じ哀しみを、この街は共有してくれる。
 けれど、大好きな人たちが、今、生きてここにいることが嬉しい、その思いを実感することが出来るから、リゲイルは迷わずに、自分は幸せだと答えるのだ。
「……そっか」
 リゲイルの答えに、刀冴が晴れやかに笑う。
 伸ばされた大きな手に、くしゃくしゃと頭を掻き混ぜられて、リゲイルは明るい声を立てて笑った。

 浅間縁は、絶賛恋人祭中の海岸を、居た堪れない思いで歩いていてクラスメイトPに捕まった。
「あの……昼間はごめん、巻き込んじゃって。それと」
「ああ、あれね、気にしてないよ。……で、どしたの?」
「いや……その、よく考えたら、浅間さんって、一番古い付き合いなんだよなぁって。いい機会だから、お礼が言いたいなって思ったんだ」
「あはは、改めて言われると照れるじゃん」
「うん……そうかな」
「そうそう」
「うん、でも、これからもよろしく。僕、浅間さんと友達になれて、本当に嬉しいから。――あ、あとさ」
「なに?」
「浅間さん、店の親父さんのお嫁さんになるの?」
「……ダイノランドに私と親方のふたりだけが取り残されたら真面目に検討してみる」
「……そっかー」
 余計な質問を真剣な表情でしたあとのんびりと笑うクラスメイトPに呆れつつ、そういえばもう二年になるのだ、と思うと、さすがに感慨深い。

 レイドはルシファと須哉逢柝とともに、祭の余韻に浸りつつ海岸を歩いていた。
「やー、楽しかったよなぁ」
「うん、負けちゃったけど、楽しかったね」
 逢柝もルシファも、満足げだ。
 レイドも、ふたりや、親しい人々と賑やかな一時を過ごせて、満ち足りていた。
 そんなレイドを見上げ、逢柝が、
「……いつもありがとうな」
 ぼそり、と言う。
「え?」
「今日のこともだけど。……いつも守ってくれて、ありがとう」
 はにかんだ笑顔を見せ、逢柝が、逃げるようにルシファの隣へ回り込む。
「そん、」
「あのね、レイド。お姉ちゃんも」
 ルシファが、宝石のような真紅の目でふたりを見つめる。
「何かあったら、いつでも私を頼ってね。今日みたいに、私だって、ふたりのこと、守れるんだから」
 レイドはしばし言葉を失い、

「……ああ」
 頷くのが精一杯なほど呆然とすると同時に、この街に来られてよかった、と、幸せを噛み締める。
 親しき隣人であった孤独は、もうすでに、遠い。

 瑠意はガチガチに緊張していた。
 隣を歩く十狼を見つめ、意を決するまでにかかった時間はおよそ一時間。
「あの、十狼さん」
 名を呼ぶと、天人の美丈夫が瑠意を見遣る。
「あの、俺」
「ああ、いかがなされた」
 白銀の眼差しに射抜かれそうになりつつ、口を開く。
 今日こそは、伝えなくてはならない、そう思う。
「――……十狼さんのこと、す、好きです」
 想いを自覚してから、口に出すまで、一体どれだけかかっただろうか。
「魔法が解ける瞬間まで、十狼さんと一緒にいたい」
 首まで真っ赤になりながら告げると、十狼は穏やかに微笑んでいて、
「かようなことは、以前より存じ上げていたが、言葉として聞くのもまた、嬉しきことよな」
 その微笑に、瑠意は、至福すら覚えていた。
 自分は幸せものだ、と、強く強く思う。

 ヴァールハイトは月下部理晨と並んで腰を下ろし、静かな海を見つめていた。
 昼間の、活き活きとした理晨の姿を思い起こすだけで、唇が自然と微笑みのかたちを刻む。
「こんなに楽しそうなお前が見られるなら、ここに来た甲斐があるというものだ」
 自分にとって一番大切なものが何なのか、よく判っているからこそ、迷わずに来た。ヴァールハイトは、それを誇らしくも思う。
「……俺は」
 理晨の、不思議な銀眼が、ヴァールハイトを真っ直ぐに見つめる。
 自分より十も年上とは思えない、無邪気な笑みが唇を彩っている。
「お前がここに来てくれたことは、凄く嬉しく思ってる」
 伸ばされた手が、ヴァールハイトを引き寄せ、
「……ありがとうな」
 照れ臭そうな言葉とともに、額に唇が触れて、彼は少し、笑った。

「昼間と違って、静かね」
 流紗は、すっかり寝入ってしまったシオンティード・ティアードを背負ったトリシャ・ホイットニーとガルム・カラムとともに、海岸を散歩していた。
 シオンティードと流紗の手には、ガルムが、家族が出来てとても嬉しいから、とプレゼントした綺麗な貝殻が握り締められている。
 感謝の気持ちの込められたそれが、月光を受けて白々と輝く様を、流紗はとても美しいと思う。
「流紗? 大丈夫?」
 トリシャの問いに、海の向こう側をぼんやりと見ていた流紗はハッとなり、頷いたが、心は、昼間に見た獣を脳裏に再生していた。
 恋人によく似た獣の姿に、帰りたい、彼女に会いたいという郷愁に駆られていたが流紗だが、同時に、ここで得た家族と離れたくない、もっとここにいたいとも思い、ふたつの強い感情に、戸惑いを覚える。
 そんな流紗の胸に、
「夢というのはね、いつかは必ず醒めるものなの。それでも、こうして触れることも感じることも出来るのだから、今を、許された時間を精一杯楽しんでね。時は過ぎ去るのが早いのだから、悔いの残らないように生きて」
 トリシャの静かな、穏やかな、思いやりの詰まった言葉は、清水のように染み入った。
「さあ、帰りましょう」
「……うん」
 この街は、たくさんの罪を抱くと同時に、たくさんのものを許している。
 流紗にも、それが判る。
 だから、もう少し、迷いながらも、この日々を生きてみようと思っている。

 月と星が、静かに海辺を、語らう人々を照らしている。
 昼の賑やかさは、今、愛情という名の穏やかなヴェールとなって、海岸を歩む皆を包み込んでいた。
 それらの幸せなひと時は、ここを訪れたすべての人々の胸に、仄かな熱となって残ったことだろう。










 ◆後日談……というか、付け足し。

 『オヤジ姫と愉快なオヤジたち』のメンバーとして、桑島平を肩車した槌谷悟郎は、筋肉痛腰痛その他諸々で翌日カレーショップ『GORO』を休業した。
 どうやら、相当な負担がかかったらしい。
 その結果、半端な情報から、「桑島さんとは真剣に愛を語り合う仲」「桑島さんと熱烈に将来を約束しあっていた」「桑島さんと合体したら腰痛になった」などという微妙極まりない噂がまことしやかに流れ、常連さんたちの彼を見る目つきに生温かい別の色が混ざったり混ざらなかったりで、彼は、誤解が解けるまでの期間、しばし煩悶することとなったという。

クリエイターコメント大変お待たせいたしました!
お届けが遅くなって申し訳ありません。

皆さんの、それぞれに素敵な夏の一時、楽しく書かせていただきました。どうもありがとうございました。

勝利されたチームはもちろんのこと、このお祭に参加してくださったすべての方々の心に、何かしらの思い出が残れば、幸いです。

それでは、また、次なるシナリオでお会い出来ることを祈って。
公開日時2008-10-03(金) 22:30
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